説明

エレベータ用ガイドレールおよびエレベータ用非常止め装置

【課題】ガイドレール部材および樹脂部材の温度が変化した場合であっても、ガイドレール部材から樹脂部材が剥がれてしまうことを抑制することができるエレベータ用ガイドレールを得る。
【解決手段】それぞれが一直線上に重ねられた断面T字形状をした複数のガイドレール部材4と、ガイドレール部材4に面接触された目板6と、ガイドレール部材4と目板6とを締め付けて固定する締結手段7と、それぞれのガイドレール部材4を被覆した樹脂部材5とを備え、ガイドレール部材4は、互いに対向した端面と、目板6と面接触した領域と、締結手段7と面接触した領域とを除いた全面が樹脂部材5に被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガイドレール部材と、このガイドレール部材を被覆した樹脂部材とを備えたエレベータ用ガイドレールおよびこのエレベータ用ガイドレールに圧接することでかごを停止させるエレベータ用非常止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昇降路の側壁に平行に固定された脚部、この脚部から直交して設けられ、かごに取り付けられたローラが転動するブレード部および脚部とブレード部とを繋いだ首部を有した断面T字形状のガイドレール部材と、このガイドレール部材のブレード部のみを被覆した樹脂部材とを備えたエレベータ用ガイドレールが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実開昭51−87868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このものの場合、ガイドレール部材と樹脂部材との熱膨張係数の違いから、ガイドレール部材および樹脂部材の温度が変化することで、首部側にある樹脂部材の端部とガイドレール部材との間に両者が互いに滑る方向の応力が働き、ガイドレール部材から樹脂部材が剥がれてしまうという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような問題点を解決することを課題とするものであって、その目的は、ガイドレール部材および樹脂部材の温度が変化したときに、ガイドレール部材から樹脂部材が剥がれてしまうことを抑制することができるエレベータ用ガイドレールを提供するものである。
また、このエレベータ用ガイドレールに圧接することで、かごを停止させるエレベータ用非常止め装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベータ用ガイドレールは、それぞれが一直線上に上下方向に重ねられた断面T字形状をした複数のガイドレール部材と、前記ガイドレール部材に面接触された被接触部材と、それぞれの前記ガイドレール部材の、互いに対向した端面と、前記被接触部材と面接触した領域とを除いた全面を被覆した樹脂部材とを備えている。
【0007】
また、この発明に係るエレベータ用非常止め装置は、エレベータ用ガイドレールに沿って設けられ、上側より下側が前記エレベータ用ガイドレールから離間した停止部と、前記エレベータ用ガイドレールと前記停止部との間に設けられ、上側より下側が肉厚な楔形に形成され、上方へ移動することで、前記エレベータ用ガイドレールの樹脂部材と前記停止部との間に食い込んで前記樹脂部材と面接触する可動片とを備え、前記可動片は、可動片本体と、前記エレベータ用ガイドレールに沿って前記可動片本体に一体に延設された、前記可動片本体とともに前記樹脂部材に面接触する延長部とを有している。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係るエレベータ用ガイドレールによれば、ガイドレール部材は、互いに対向した端面と、被接触部材と面接触した領域とを除いた全面が樹脂部材に被覆されているので、ガイドレール部材および樹脂部材の温度が変化したときに、ガイドレール部材から樹脂部材が剥がれてしまうことを抑制することができる。
【0009】
また、この発明に係るエレベータ用非常止め装置によれば、エレベータ用ガイドレールの樹脂部材に面接触する可動片を備え、この可動片は、可動片本体と、この可動片本体とともに樹脂部材に面接触する延長部とを有しているので、ガイドレール部材および樹脂部材の温度が変化したときに、ガイドレール部材から樹脂部材が剥がれてしまうことを抑制するとともに、可動片が樹脂部材に面接触したときに、ガイドレール部材から樹脂部材が剥がれることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の各実施の形態を図に基づいて説明するが、各図において、同一または相当の部材、部位については、同一符号を付して説明する。
実施の形態1.
図1はこの実施の形態に係るエレベータ用ガイドレール1が取り付けられたエレベータの要部を示す平断面図である。
この実施の形態に係るエレベータ用ガイドレール1は、昇降路2の側壁に沿って上下方向に立設されており、昇降路2内を昇降するかご3に取り付けられた一対のローラ3aがこのエレベータ用ガイドレール1に転動することで、かご3がエレベータ用ガイドレール1に案内される。
なお、かご3を案内するエレベータ用ガイドレール1に限らず、釣合い錘を案内するエレベータ用ガイドレールであってもよい。
また、ローラ3aが転動するエレベータ用ガイドレール1に限らず、かご3に取り付けられたガイドシューが摺動可能なエレベータ用ガイドレールであってもよい。
【0011】
図2は図1のエレベータ用ガイドレール1を示す平断面図、図3は図1のエレベータ用ガイドレール1を示す斜視図、図4(a)は図3のエレベータ用ガイドレール1を示す平面図、図4(b)は図3のエレベータ用ガイドレール1を示す正面図である。
エレベータ用ガイドレール1は、それぞれが一直線上に重ねられた断面T字形状をした複数のガイドレール部材4と、それぞれのガイドレール部材4にコーティングされることでガイドレール部材4を被覆した樹脂部材5とを備えている。
なお、樹脂部材5は、コーティングに限らず、真空圧着、または、接着されてもよい。
これにより、ガイドレール部材4の全体が錆びることを抑制することができる。
また、ガイドレール部材4の製造工程において、防錆油と着色材との塗り分けをする必要がないので、製造効率を向上させることができ、また、据付工程において、防錆油を除去する必要がないので、据付効率を向上させることができる。
ガイドレール部材4は、鋼鉄から構成されている。
樹脂部材5は、熱可塑性部材である高分子ポリエチレンから構成されている。
なお、ガイドレール部材4および樹脂部材5は、これらに限らず、その他の材料から構成されてもよい。
ガイドレール部材4は、昇降路2の側壁に平行の平板形状をした脚部4aと、この脚部4aの中央部から直交した方向に設けられた、ローラ3aが転動可能なブレード部4bと、ブレード部4bと脚部4aとを繋いだ首部4cとを有している。
ガイドレール部材4の上端面には、ブレード部4bの長手方向に沿ったレール結合用溝部4dが形成され、ガイドレール部材4の下端面には、レール結合用溝部4dに係合するレール結合用突出部4eが形成されている。
【0012】
また、このエレベータ用ガイドレール1は、隣接したガイドレール部材4のそれぞれの脚部4aの背面に渡って面接触した被接触部材である目板6と、ガイドレール部材4と目板6とに設けられ、ガイドレール部材4と目板6とを締め付けることで固定する被接触部材である締結手段7とを備えている。
それぞれのガイドレール部材4は、互いに対向した端面と、目板6に面接触した領域と、締結手段7に面接触した領域とを除いた全面が樹脂部材5に被覆されている。
樹脂部材5には、締結手段7が貫通するための貫通孔が形成されている。
なお、被接触部材は、目板6および締結手段7の両方に限らず、何れか一方であってもよく、さらには、目板6および締結手段7以外の部材であってもよい。
このものの場合、被接触部材に接触したガイドレール部材4の領域は、樹脂部材5に被覆されず、ガイドレール部材4と被接触部材とが面接触する。
【0013】
図5は図1のエレベータ用ガイドレール1と、このエレベータ用ガイドレール1を昇降路2に固定する固定手段8とを示す平面図である。
このエレベータ用ガイドレール1は、昇降路2に設けられた、ガイドレール部材4を昇降路2に固定する固定手段8を備えている。
固定手段8は、昇降路2に固定されたレールブラケット9と、このレールブラケット9に締結手段10を介して固定された、樹脂部材5を介してエレベータ用ガイドレール1の脚部4aを両側から把持した一対の押さえ板11とを有している。
【0014】
図6(a)は隣接したガイドレール部材4の中心が互いにずれた場合のエレベータ用ガイドレール1を示す縦断面図、図6(b)は図6(a)の樹脂部材5の一部を切削したエレベータ用ガイドレール1を示す縦断面図である。
ガイドレール部材4の製造誤差によって、隣接したガイドレール部材4の中心が左右方向に互いにずれた場合には、隣接した樹脂部材5の外周部間に段差が発生する。
この段差を軽減させるために、従来では、鋼鉄のガイドレール部材4を直接切削していたのに対して、このエレベータ用ガイドレール1では、ガイドレール部材4より柔らかい樹脂部材5を切削するので、隣接した樹脂部材5の外周部間の段差を簡単に低減させることができる。
段差を低減させることで、ローラ3aがエレベータ用ガイドレール1をスムーズに転動することができる。
【0015】
図7は隣接した樹脂部材5を加熱して一体に成形したエレベータ用ガイドレール1を示す縦断面図である。
目板6および締結手段7を用いて、隣接したガイドレール部材4の端面同士を接触させて固定した状態では、それぞれのガイドレール部材4の端部の外周面を被覆した樹脂部材5同士は、接触しているものの、接着していないので、隣接した樹脂部材5同士が離間して、ガイドレール部材4から樹脂部材5が剥がれてしまう恐れがある。
隣接した樹脂部材5のそれぞれを加熱して、互いに一体化させることで、隣接した樹脂部材5間が接着され、ガイドレール部材4から樹脂部材5が剥がれることを抑制することができる。
なお、図6に示したエレベータ用ガイドレール1のように、隣接した樹脂部材5の外周部間に段差がある場合には、切削してその段差を低減させた後に、それぞれの樹脂部材5を加熱して一体化させてもよい。
【0016】
以上説明したように、この実施の形態に係るエレベータ用ガイドレール1によれば、ガイドレール部材4は、互いに対向した端面と、目板6と面接触した領域と、締結手段7と面接触した領域とを除いた全面が樹脂部材5に被覆されているので、ガイドレール部材4および樹脂部材5の温度が変化した場合であっても、ガイドレール部材4から樹脂部材5が剥がれてしまうことを抑制することができる。
【0017】
また、目板6と面接触したガイドレール部材4の領域が、樹脂部材5に被覆されていないので、目板6とガイドレール部材4とを直接接触させることができ、隣接したガイドレール部材4間を強固に固定することができる。
【0018】
また、締結手段7と面接触したガイドレール部材4の領域が、樹脂部材5に被覆されていないので、目板6とガイドレール部材4とを締め付けて強固に固定することができる。
【0019】
また、ガイドレール部材の端部の外周面を被覆した樹脂部材5は、加熱されることで軟化して、隣接したガイドレール部材の端部の外周面を被覆した樹脂部材5と一体となる熱可塑性樹脂から構成されているので、隣接した樹脂部材5間を接着することができる。
【0020】
固定手段8は、樹脂部材5を介してガイドレール部材4を把持しているので、ローラ3aが隣接したガイドレール部材4間を転動する際に発生する衝撃を低減させることができ、居室騒音を低減させることができる。
【0021】
実施の形態2.
図8はこの実施の形態に係るエレベータ用非常止め装置を示す正面図である。
この実施の形態に係るエレベータ用非常止め装置は、実施の形態1に記載したエレベータ用ガイドレール1に圧接することでかご3を停止させるものであって、このエレベータ用ガイドレール1に沿ってかご3に固定された停止部であるくわえ金12と、エレベータ用ガイドレール1とくわえ金12との間に設けられた可動片であるレール当たり13とを備えている。
くわえ金12は、上側より下側がエレベータ用ガイドレール1から離間している。
レール当たり13は、樹脂部材5と密着しない高分子ポリエチレンから構成され、上側より下側が肉厚な楔形に形成されている。
なお、レール当たり13は、高分子ポリエチレンに限らず、その他の材料であってもよい。
かご3には、レール当たり13を上方へ移動可能に支持する支持手段(図示せず)が設けられており、レール当たり13が上方へ移動することで、エレベータ用ガイドレール1の樹脂部材5とくわえ金12との間にレール当たり13が食い込み樹脂部材5と面接触する。
【0022】
レール当たり13は、可動片本体であるレール当たり本体部13aと、エレベータ用ガイドレール1に沿ってレール当たり本体部13aの下側に一体に延設された延長部13bとを有している。
レール当たり13がくわえ金12と樹脂部材5との間に食い込んだ場合に、延長部13bは、レール当たり本体部13aとともに樹脂部材5に面接触することで、レール当たり13に面接触する樹脂部材5の接触面積が増大するので、樹脂部材5の接触面に働く圧力が低減する。
【0023】
図9は図8のレール当たり13を示す拡大図である。
レール当たり13は、樹脂部材5に面接触する下端部が、樹脂部材5の接触面から離間するように湾曲している。
【0024】
この実施の形態に係るエレベータ用非常止め装置によれば、エレベータ用ガイドレール1に面接触するレール当たり13を備え、このレール当たり13の延長部13bにより、レール当たり13に面接触する樹脂部材5の接触面に働く圧力が低減するので、ガイドレール部材4および樹脂部材5の温度が変化した場合であっても、ガイドレール部材4から樹脂部材5が剥がれてしまうことを抑制するとともに、レール当たり13が樹脂部材5に面接触することによりガイドレール部材4から樹脂部材5が剥がれることを抑制することができる。
【0025】
また、レール当たり13は、樹脂部材5に面接触する下端部が、樹脂部材5の接触面から離間するように湾曲しているので、レール当たり13がくわえ金12と樹脂部材5との間に食い込んだ場合に、レール当たり13の下端部が、樹脂部材5に食い込むことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ガイドレールが取り付けられたエレベータの要部を示す平断面図である。
【図2】図1のエレベータ用ガイドレールを示す平断面図である。
【図3】図1のエレベータ用ガイドレールを示す斜視図である。
【図4】図4(a)は図3のエレベータ用ガイドレールを示す平面図、図4(b)は図3のエレベータ用ガイドレールを示す正面図である。
【図5】図1のエレベータ用ガイドレールと、このエレベータ用ガイドレールを昇降路に固定する固定手段とを示す平面図である。
【図6】図6(a)は隣接したガイドレール部材の中心が互いにずれた場合のエレベータ用ガイドレールを示す縦断面図、図6(b)は図6(a)の樹脂部材の一部を切削したエレベータ用ガイドレールを示す縦断面図である。
【図7】隣接した樹脂部材を加熱して一体に成形したエレベータ用ガイドレールを示す縦断面図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係るエレベータ用非常止め装置を示す正面図である。
【図9】図8のレール当たりを示す拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1 エレベータ用ガイドレール、2 昇降路、3 かご、3a ローラ、4 ガイドレール部材、4a 脚部、4b ブレード部、4c 首部、4d レール結合用溝部、4e レール結合用突出部、5 樹脂部材、6 目板(被接触部材)、7 締結手段(被接触部材)、8 固定手段、9 レールブラケット、10 締結手段、11 押さえ板、12 くわえ金(停止部)、13 レール当たり(可動片)、13a レール当たり本体部、13b 延長部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが一直線上に上下方向に重ねられた断面T字形状をした複数のガイドレール部材と、
前記ガイドレール部材に面接触された被接触部材と、
それぞれの前記ガイドレール部材の、互いに対向した端面と、前記被接触部材と面接触した領域とを除いた全面を被覆した樹脂部材とを備えたことを特徴とするエレベータ用ガイドレール。
【請求項2】
前記被接触部材は、隣接した前記ガイドレール部材のそれぞれに渡って接触して設けられた目板であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ガイドレール。
【請求項3】
前記被接触部材は、隣接した前記ガイドレール部材のそれぞれに渡って設けられた目板とそれぞれの前記ガイドレール部材とを締め付けることで固定した締結手段であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ガイドレール。
【請求項4】
前記ガイドレール部材の端部の外周面を被覆した前記樹脂部材は、加熱されることで軟化して、隣接した前記ガイドレール部材の端部の外周面を被覆した前記樹脂部材と一体となる熱可塑性樹脂から構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のエレベータ用ガイドレール。
【請求項5】
前記樹脂部材を介して前記ガイドレール部材を把持して、前記ガイドレール部材を昇降路に固定する固定手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のエレベータ用ガイドレール。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載のエレベータ用ガイドレールに圧接することでかごを停止させるエレベータ用非常止め装置であって、
前記エレベータ用ガイドレールに沿って設けられ、上側より下側が前記エレベータ用ガイドレールから離間した停止部と、
前記エレベータ用ガイドレールと前記停止部との間に設けられ、上側より下側が肉厚な楔形に形成され、上方へ移動することで、前記エレベータ用ガイドレールの前記樹脂部材と前記停止部との間に食い込んで前記樹脂部材と面接触する可動片とを備え、
前記可動片は、可動片本体と、前記エレベータ用ガイドレールに沿って前記可動片本体に一体に延設された、前記可動片本体とともに前記樹脂部材に面接触する延長部とを有していることを特徴とするエレベータ用非常止め装置。
【請求項7】
前記可動片は、前記樹脂部材に面接触する下端部が、前記樹脂部材の接触面から離間するように湾曲していることを特徴とする請求項6に記載のエレベータ用非常止め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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