説明

エレベータ用ロープの保守点検方法

【課題】エレベータ用ロープの保守点検に要する時間を短縮することのできるエレベータ用ロープの保守点検方法を得ることを目的とする。
【解決手段】機械室に配設された駆動綱車10に巻き掛けられて、エレベータ制御盤5に回転が制御される駆動綱車10の回転に連動して走行し、かご3を昇降させるエレベータ用ロープ13の保守点検方法であって、かご3を最下階と最上階との間を一通り移動させて駆動綱車10に近接して配設したロープテスタにエレベータ用ロープの損傷を検出させ、各損傷検出時点でのかご3の高さ位置を損傷対応位置としてエレベータ制御盤5から取得する診断工程と、取得された損傷対応位置のそれぞれに順次かご3を停止させて、エレベータ用ロープの損傷検出箇所にマーキングを施すマーキング工程と、かご3上からマーキングを施したエレベータ用ロープ13の部位の状態を順次確認する実点検工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロープテスタを用いたエレベータ用ロープの保守点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープの部分破断の有無を点検するための装置として、従来のワイヤロープ損傷検出器が提案されている。
従来のワイヤロープの損傷検出器は、強磁性板上の両端部に磁極を反転させた一対の永久磁石が所定距離離間して配設された磁化器と、両側に立設されたポール部、ポール部上端側に橋絡して配設された先端部にガイド壁が形成されたガイド部、及びガイド壁内面に配設されたプローブコイルを有するプローブと、プローブコイルの検出電圧を信号処理する制御器と、を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、従来のワイヤロープの損傷検出器を用いてエレベータのワイヤロープの点検を実施するときには、ワイヤロープがガイド壁に摺接状態に通過するように従来のワイヤロープの損傷検出器を配置している。このとき、ワイヤロープが一対の永久磁石により磁化されるが、漏洩磁束がワイヤロープの損傷部位で発生する。そして、漏洩磁束がプローブコイルで検知されると制御器の出力値が変化するので、エレベータの保守者は制御器の出力値に基づいて、損傷が検出されたワイヤロープの部位を認識することが可能になっていた。
【0004】
【特許文献1】特開平7−198684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、機械室を備えるエレベータにおいて、従来のワイヤロープの損傷検出器を用いてワイヤロープの点検を行う場合、設置しやすく、ワイヤロープの大部分を点検範囲に含めることができることから、従来のワイヤロープの損傷検出器を機械室に配設するのが一般的である。そして、ワイヤロープの損傷が検出された場合、損傷が検出されたワイヤロープの部位の状態を全周にわたって確認する必要がある。しかしながら、ワイヤロープが駆動綱車とそらせ車に巻きかけられているためワイヤロープの位置をずらすことができず、また、複数のワイヤロープが巻上機及びそらせ車に巻きかけられている場合には、隣接するロープ間の間隔が大変せまい。従って、機械室内で損傷が検出されたワイヤロープの部位を全周にわたって確認することは困難となる。
【0006】
そこで、保守者は機械室において、ワイヤロープを走行させ、制御器の出力値に基づいてワイヤロープの損傷が検出されたことを確認すると、ワイヤロープの走行を停止し、次いで、ワイヤロープの損傷が検出された部位にマーキングを付す。保守者はこの作業をかごが最下階と最上階との間を一通り走行するまで繰り返す。そして、損傷が検出されたワイヤロープの部位の状態の全周にわたる確認は、かご上(昇降路)に移動した保守者が、ワイヤロープを走行させてマーキングを付したロープの部位を探しだすことにより行っていた。
【0007】
ここで、ワイヤロープを高速で走行させつつ従来のワイヤロープの損傷検出器にワイヤロープの損傷部位を検出させる場合、保守者がワイヤロープの損傷が検出されたことを確認してワイヤロープの走行を停止させたときには、ワイヤロープの損傷部位が既にロープテスタを通り過ぎており、ワイヤロープの損傷部位がどこにあるのかわからなくなってしまう。このため、ワイヤロープの損傷部位を特定するためには、ワイヤロープを低速で走行させなければならない。従って、ワイヤロープの点検時間が長時間に及んでしまうという問題がある。
【0008】
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、エレベータ用ロープの保守点検に要する時間を短縮することのできるエレベータ用ロープの保守点検方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、機械室に配設された駆動綱車に巻き掛けられて、エレベータ制御盤に回転が制御される駆動綱車の回転に連動して走行し、かごを昇降させるエレベータ用ロープの保守点検方法であって、かごを最下階と最上階との間を一通り移動させて駆動綱車に近接して配設したロープテスタにエレベータ用ロープの損傷を検出させ、各損傷検出時点でのかごの高さ位置を損傷対応位置としてエレベータ制御盤から取得する診断工程と、取得された損傷対応位置のそれぞれに順次かごを停止させて、エレベータ用ロープの損傷検出箇所にマーキングを施すマーキング工程と、かご上からマーキングを施したエレベータ用ロープの部位の状態を順次確認する実点検工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、最上階と最下階との間のかごの一通りの走行でエレベータ用ロープの損傷箇所の全てを検出し、マーキング工程で、順次、かごを損傷対応位置に戻して損傷検出箇所にマーキングを施すようにしたので、診断工程では、かごの走行速度を高速にしたまま、ロープテスタによるエレベータ用ロープの損傷箇所の検出を行うことが可能となる。従って、エレベータ用ロープの保守点検に要する時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法により点検されるロープを備えるエレベータ及び保守装置の模式図、図2はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法により点検されるロープを備えるエレベータ及び保守装置のシステム構成図、図3は図1のA部拡大図、図4はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法におけるかごの高さ位置とロープテスタの出力電圧との関係を示す図、図5はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程においてエレベータ制御盤による点検指令フラグのON/OFFの切り替えについて説明するフロー図、図6はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程においてメンテナンスコンピュータによる制御を説明するフロー図、図7はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程における損傷確認位置の演算方法を説明する図、図8はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程における点検結果のモニタへの表示例を示す図、図9はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法のマーキング工程のフロー図、図10はこの発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の実診断工程のフロー図である。
【0012】
エレベータ用ロープの保守点検方法では、保守装置15を用いてエレベータ用ロープ13(以下、単にロープ13とする)を点検する。
まず、エレベータ1及び保守装置15の構成について説明する。
図1及び図2において、エレベータ1は、昇降路2上部に設置される機械室4、及び機械室4に配設されたそらせ車8及び巻上機9の駆動綱車10に巻きかけられたロープ13、昇降路2内を走行可能にロープ13の一端に連結されたかご3、エレベータ制御盤5、及びかご3の高さ位置に関する情報をエレベータ制御盤5に出力するエンコーダ14などを備えている。
【0013】
エレベータ制御盤5は、演算制御手段としてのCPU6、CPU6が演算制御を行う際のワーキングエリアに用いられるRAM7、エレベータ1全体を制御するためのプログラムが格納されたROM8などを有している。
【0014】
また、前述の駆動綱車10と駆動綱車10に回転トルクを付与する電動機11とを有する巻上機9が機械室4に設置されている。
そして、詳細には図示しないが、複数のロープ13が駆動綱車10に掛け渡され、その一端側が昇降路2内に垂下され、その他端側がそらせ車8に掛け渡されて昇降路2内に垂下されている。このとき、複数のロープ13は、そらせ車8及び駆動綱車10のそれぞれの軸方向に、互いの間に所定の隙間をあけて配列されている。なお、ロープ13は、多数の素線(図示せず)を撚り合わせたストランド(図示せず)をさらに撚り合わせて構成されている。また、図示しないが、通信ポートが、かご3上及びかご3内のそれぞれにエレベータ制御盤5との通信用に配設されている。
【0015】
そして、駆動綱車10は、エレベータ制御盤5のCPU6により回転駆動が制御される電動機11のトルクにより回転する。そして、ロープ13は、駆動綱車10との間に働く摩擦力により、駆動綱車10の回転に連動して走行してかご3を昇降させている。
【0016】
また、エンコーダ14が電動機11に配設され、電動機11の回転角及び回転方向に応じた回転情報パルスを出力可能になっている。エンコーダ14はエレベータ制御盤5に接続され、エンコーダ14が出力した回転情報パルスは、エレベータ制御盤5に入力される。電動機11の回転数は、かご3の昇降移動距離に比例するので、CPU6は回転情報パルスからかご3の昇降路2内の高さ位置を演算することにより、かご3の高さ位置を認識している。さらに、CPU6は、単位時間当たりの回転情報パルスの数からかご3の速度も演算することができる。即ち、CPU6はかご3の走行速度を制御可能である。
【0017】
また、保守装置15は、ロープ13の素線破断などの損傷を検出するためのロープテスタ16、及びロープテスタ16からの出力やエレベータ制御盤5からのかご3の高さ位置情報をもとに所定の動作を行うメンテナンスコンピュータとしてのノートパソコン25(以下、ノートPC25とする)で構成されている。
そして、ロープ13の保守点検時、ロープテスタ16は、駆動綱車10に近接して走行するロープ13の所定部位に対応させて機械室4内に配設されている。また、ノートPC25は、後述するように、ロープテスタ16及びエレベータ制御盤5に接続した状態で機械室4内に配設したり、エレベータ制御盤5と通信可能にかご3に配設したりして用いられる。
【0018】
次いで、ロープテスタ16の構成について図3を参照しつつ説明する。
詳細には図示しないが、ロープテスタ16は、機械室4内を走行するロープ13のそれぞれに対し、ロープ13の長さ方向の同じ位置で嵌合されて連結される複数の筐体20を有している。以下、図3では、ロープ13の配列方向の最も一側に配置されたロープ13(以下、一側のロープ13とする)に対応する筐体20内の構造について説明する。
筐体20内には、ヨーク17、一対の永久磁石18a,18b、及びコイル19が内蔵されている。
ヨーク17は強磁性の柱状のものが用いられる。また、一対の永久磁石18a,18bは、その一方がヨーク17の一端に配設され、他方がヨーク17の他端に配設されて相反する磁極を有している。コイル19は、一対の永久磁石18a,18b間に発生する磁束21が鎖交するように一対の永久磁石18a,18bの間の中間部に配置されている。
【0019】
そして、筐体20は、一対の永久磁石18a,18bの離間方向がロープ13の長さ方向に一致するように配設されている。このとき、一対の永久磁石18a,18bは、ロープ13の直近に配置され、ロープ13が磁化される。そして、コイル19は、走行するロープ13の損傷箇所13aが通過するときに変化する磁束21の変化量を検出し、磁束21の変化量に応じた電圧を出力するように構成されている。
【0020】
例えば、ロープ13の損傷箇所13aが一対の永久磁石18a,18bの間を通過するとき、漏洩磁束21aがロープ13の損傷箇所13aで発生する。従って、ロープ13の損傷箇所13aがコイル19を通過するときには、コイル19を鎖交する磁束量が変化する。そして、コイル19は、漏洩磁束21aの大きさに応じた起電圧を出力する。つまり、ロープテスタ16は、ロープ13の損傷箇所13aで発生する漏洩磁束21aを検知することによってロープ13の素線破断などの損傷を検出している。なお、ロープテスタ16の筐体20と嵌合するロープ13の部位は、全周にわたって筐体20に囲繞されるものではなく、一部は筐体20から露出されている。
【0021】
また、図示しないが、一側のロープ13以外と嵌合する筐体20内の構造も、一側のロープ13と嵌合する筐体20内の構造と同様に構成され、ロープテスタ16は、一度に複数のロープ13の損傷を検出することが可能となっている。
【0022】
次いで、ノートPC25について説明する。
ノートPC25は、図2に示されるように、演算制御手段としてのCPU26、CPU26が演算制御を行う際のワーキングエリアに用いるためのRAM27、及びロープテスタ16からの出力やエレベータ制御盤5から受信するかご3の高さ位置情報をもとに所定の制御をCPU26に行わせるプログラムが格納されたROM28、ロープ13の点検結果を表示するためのモニタ29、モニタ29の表示領域の所定部位を選択する機能を有する周知のマウス(図示せず)などを有している。
【0023】
また、ノートPC25のROM28に格納されたプログラムには、かご3を所定の条件で移動させるための走行パターンが複数書き込まれている。そして、CPU26は、保守者によるモニタ29の表示領域の所定の選択操作に応じ、各走行パターンのいずれかを選択してエレベータ制御盤5に送信する。また、エレベータ制御盤5のCPU6は、受信した走行パターンに応じてかご3を移動させるようになっている。
【0024】
次いで、ロープ13の保守点検方法について説明する。
ロープ13の保守点検は、ロープ13の損傷がロープテスタ16で検出されたときのかご3の位置(損傷対応位置)を記憶したり、検出されたロープ13の損傷箇所13a(ロープ13の損傷検出箇所)の状態をかご3上で確認できるかご3の位置(損傷確認位置)などを損傷対応位置から演算して記憶したりする診断工程、ロープ13の損傷検出箇所にマーキングを機械室4内で施すマーキング工程、及び保守者がロープ13の損傷検出箇所の状態をかご3上で実際に確認する実点検工程を有している。
【0025】
以下、診断工程の説明に先立ち、ロープテスタ16のコイル19の出力電圧について図4を参照しつつ説明する。
図4は、かご3が、最下階から、最上階まで移動したときのかご3の高さ位置とコイル19の出力電圧との関係の一例を示したものであり、横軸をかご3の高さ位置とし、縦軸をコイル19の出力電圧としている。ここでは、一側のロープ13に対応して配置されたコイル19の出力電圧を示している。なお、かご3の高さ位置は、図1にも示されるように、最下階に着床したかご3のかご床の高さ位置を基準位置H1(=0)としている。そして、最上階をn階としたときに、かご3が2階からn階のそれぞれに着床したときのかご3の高さ位置のそれぞれをH2〜Hnとする。
【0026】
図4中、かご3の高さ位置がd1及びd2のいずれかにあるとき、大きなピーク値を有するコイル19の出力電圧が観測されている。つまり、かご3の高さ位置がd1及びd2のいずれかにあるとき、ロープ13の損傷箇所13aがコイル19を通過していることに相当する。
なお、ここでは、一側のロープ13に対応して配置されたコイル19の出力電圧を示したが、他のロープ13に対応して配置されたコイル19の出力電圧も、ロープ13の損傷箇所13aがコイル19を通過するときも同様に大きな値のピーク値が観測される。
【0027】
次いで、診断工程について図5及び図6を参照しつつ説明する。
なお、図5及び図6では、本文中のステップ101〜ステップ105及びステップ201〜ステップ212を、説明の便宜上S101〜S105及びS201〜S212と記載する。
【0028】
そして、診断工程においては、ノートPC25は、機械室4内で、ロープテスタ16のコイル19の出力が入力されるように、かつ、エレベータ制御盤5と通信可能なように配設する。
【0029】
まず、エレベータ制御盤5のCPU6により行われる点検フラグのON/OFFの切り替えについて図5を参照しつつ説明する。
ステップ101でCPU6は、ノートPC25から後述の点検走行指令を受信したか否かを判断する。
【0030】
ステップ101で、CPU6は点検走行指令を受信していないと判断すると、ステップ101を繰り返す。
ステップ101で、CPU6は点検走行指令を受信したと判断すると、高速モードで最下階までかご3を移動させてかご3を最下階に着床させる(ステップ102)。なお、高速モードとは、かご3が、移動し始めてから所定の移動量内にかご3の速度をエレベータ1の仕様、若しくはロープテスタ20の使用で許容される最高速度まで加速し、かご3の速度を目的階の手前の近傍の所定高さ位置で減速し、かご3を目的階に着床させるものである。ここでの目的階は最下階に設定されている。
【0031】
具体的には、エレベータ制御盤5のCPU6は、許容される最高速まで加速させたかご3に対し、エンコーダ14からの回転情報パルスを基に演算したかご3の高さ位置が、最下階の手前の所定の高さ位置となったと判断すると、かご3の速度を減速する。さらに、CPU6は、かご3の高さ位置が最下階の高さ位置H1となったと判断するとかご3の走行を停止するように制御している。
【0032】
ステップ103で、CPU6は、目的階を最上階とする高速モードで、最下階から最上階までかご3を一通り移動させる運転を開始するとともに、RAM7の領域に設けられた点検フラグをONにする(ステップ102)。
【0033】
ステップ104で、CPU6はかご3が最上階に着床したか否かを判断する。
ステップ104で、CPU6はかご3が最上階に着床していないと判断すると、ステップ104を繰り返す。
ステップ104で、CPU6はかご3が最上階に着床した判断すると、点検フラグをOFFにし(ステップ105)、ステップ101に戻る。
【0034】
次いで、診断工程におけるノートPC25の制御について図6を参照しつつ説明する。
ステップ201で、ノートPC25のCPU26は、エレベータ制御盤5に所定の走行パターンでかご3の移動をさせるための点検走行指令をエレベータ制御盤5に送信するための指示が下されたか否かを判断する。なお、点検走行指令を送信するための指示は、保守者がノートPC25に対して所定の操作を行うによってなされる。
【0035】
ステップ201で、CPU26は、点検走行指令を送信する指示が下されていないと判断すると、ステップ201を繰り返す。
ステップ201で、CPU26は、点検走行指令を送信する指示が下されたと判断すると、エレベータ制御盤5に点検走行指令を送信する(ステップ202)。
前述したように、エレベータ制御盤25は、点検走行指令を受信したときに、かご3を最下階まで高速モードで移動させ、次いで、高速モードで最上階にかご3を移動させるとともに点検フラグをONとし、さらに、かご3が最上階に着床したと判断すると点検フラグをOFFにする制御を行う。
【0036】
ステップ203で、CPU26は、点検フラグがONか否かを判断し、点検フラグがONでないと判断するとステップ203を繰り返し、点検フラグがONであると判断するとステップ204に進む。
ステップ204で、CPU26は、入力されたロープテスタ16のコイル19の出力電圧を閾値αと比較し、コイル19の出力電圧が閾値α以上であるか否かを判断する。
前述したとおり、ロープ13の損傷箇所13aがコイル19を通過するときにコイル19の出力は大きな値となる。ここで、コイル19の出力電圧は、図4にも示されるように有る程度周囲雑音の影響を受け変動する。そこで、閾値αは、コイル19の出力電圧が周囲雑音に起因して変動するときに到達する最高電圧値よりやや大きな値に設定する。これにより、CPU26は、コイル19の出力電圧が閾値αを超えたときに、ロープ13に損傷が発生していると判断することができる。
【0037】
ステップ204で、CPU26はコイル19の出力が閾値α以上でないと判断すると、ステップ211に進む。
ステップ204でCPU26はコイル19の出力が閾値α以上であると判断すると、現在のかご3の高さ位置を第1位置k1としてRAM27に記憶する(ステップ205)。
【0038】
ステップ206でCPU26は、コイル19の出力が閾値α以下になったか否かを判断する。
ステップ206でCPU26は、コイル19の出力が閾値α以下になっていないと判断すると、ステップ205を繰り返す。
ステップ206でCPU26は、コイル19の出力が閾値α以下になったと判断すると、現在のかご3の高さ位置を第2位置k2としてRAM27に記憶し(ステップ207)、ステップ208に進む。
【0039】
ステップ208で、CPU26は、(k1+k2)/2を損傷対応位置Hcとして演算し、RAM27に記憶する。
【0040】
ここで、上記のステップ204〜208の意味について説明する。
図4において、コイル19の出力電圧のピーク値の一つに注目する。かご3が移動したとき、コイル19の出力電圧が最初に閾値αとなったときのかご3の高さ位置が第1位置k1に相当し、第1位置からかご3がさらに移動し、コイル19の出力電圧がピークとなった後、再び閾値αとなったときのかご3の高さ位置が第2位置k2に相当する。そして、CPU26は、第2位置k2と第1位置k1の差に相当する長さの損傷がロープ13で検出されていると判断する。そこで、ロープ13の損傷は、その長さ中心で発生しているものとみなす。つまり、ロープ13の損傷箇所13aの長さ中心がコイル19を通過したときにロープ13の損傷を検出したものとし、損傷検出時点でのかご3の高さ位置を、損傷対応位置HcとしてCPU26に演算させている。なお、第1位置k1及び第2位置k2はともにCPU26がエレベータ制御盤5から取得するものであり、損傷位置Hcもエレベータ制御盤5から取得されたものとみなす。
【0041】
ステップ209で、CPU26は、以下に説明する損傷確認位置Hrを演算してRAM27に記憶し、ステップ210にすすむ。
【0042】
次いで、損傷確認位置Hrについて図7を参照しつつ説明する。
図7の(a)に示されるように、かご3が高さ位置Hnにあるときにかご3上でロープ13の状態を確認できるロープ13の部位をfとする。そして、部位fとコイル19と相対するロープ13の部位との間のロープ13の長さをpとする。
【0043】
なお、長さpは、以下のように求められている。まず、予め最上階に着床させたかご3上で状態を確認できるロープ13の部位にマーキングを施す。次いで、かご3を移動(ロープ13の走行)させ、マーキングを施したロープ13の部位がロープテスタ16のコイル19と相対する位置まで移動したところでかご3の移動を停止させる。このときのかご3の高さ位置をHo(図示せず)とすると、pは(Hn−Ho)により求めることができる。
【0044】
図7の(b)に示されるように、損傷対応位置Hcは、ロープ13の部位eで損傷が検出されたときのものとする。このとき、損傷確認位置Hrは、図7の(c)に示されるように、ロープ13の損傷検出箇所(部位e)の状態をかご3上で確認できるかご3の高さ位置として定義する。このとき、CPU26は、以下の式(1)により損傷確認位置Hrを演算することができる。
Hr=(Hn+Hc+p)/2・・・(1)
【0045】
ステップ210で、CPU26は、最寄り階を決定してRAM27に記憶し、ステップ211に進む。
CPU26による最寄り階の決定は以下のように行われる。
CPU26はまず、かご3の高さ位置H1〜Hnのそれぞれと損傷確認位置Hrとの差をとり、損傷確認位置Hrとの差の絶対値が最も小さい値となるかご3の高さ位置H1〜Hnのいずれかに対応する階床を最寄り階として決定する。
【0046】
ステップ211で、CPU26は、エレベータ制御盤5の点検フラグがOFFか否かを判断する。
【0047】
ステップ211で、CPU26は、点検フラグがOFFでないと判断すると、ステップ204に戻る。
ステップ211で、CPU26は、点検フラグがOFFであると判断すると、RAM27に記憶した各データを参照し、ロープ点検結果を図8に示されるような点検結果一覧表にしてモニタ29に表示し(ステップ212)、マーキング工程に移行する。
【0048】
点検結果一覧表は、損傷が検出されたロープ13のNo.損傷箇所13aのそれぞれに対応する損傷対応位置Hc、損傷確認位置Hr、及び最寄り階をリスト化したものである。ここでは、損傷が、No.1のロープ13に2箇所、No.2及びNo.3のロープ13にそれぞれ1箇所ずつロープテスタ16により検出されている。
【0049】
次いで、マーキング工程について図9及び図10を参照しつつ説明する。
なお、図9及び図10では、本文中のステップ301〜ステップ305及びステップ401〜ステップ410を、説明の便宜上S301〜S305及びS401〜S410と記載する。
ここで、診断工程終了時には、かご3は最上階に停止している。そして、マーキング工程では、ロープ13の損傷箇所13aを機械室4内のロープテスタ16の配置位置にロープ13を移動させて、言い換えれば損傷対応位置Hcまでかご3を移動させてマーキングを損傷箇所13aに施す作業を行う。保守者は、作業の効率化を図るため、マーキングを損傷箇所13aに施す作業を、損傷対応位置Hcのうち、最も高い損傷対応位置Hcから順にかご3を移動させて行う。そして、この順番で保守者がロープ13の損傷箇所13aにマーキングを施す作業をサポートする制御プログラムが、ROM28に格納されている。
【0050】
図9において、ステップ301で、保守者は、図8に示される点検結果一覧表に表示された損傷対応位置Hcのリストのうち、最も高い損傷対応位置Hcを選択する。
【0051】
ステップ302でCPU26は、損傷対応位置Hcが選択されたことを認識する。そして、CPU26は、選択された損傷対応位置Hcに対し、損傷対応位置Hcの手前で、損傷対応位置Hcから距離βだけ離れた所定の高さ位置までかご3を高速で移動させた後にかご3の速度を減速し、損傷対応位置Hcまでかご3を低速で移動させて停止させるためのマーキング走行パターンをエレベータ制御盤5に送信する。即ち、CPU26は、マーキング走行パターンに従って選択した損傷対応位置Hcにかご3を停止させる制御をエレベータ制御盤5に行わせる。
【0052】
ステップ303でCPU26は、選択された損傷対応位置Hcを点検結果一覧表の損傷対応位置Hcのリストから除外する。なお、リストから除外するとは、選択された損傷対応位置Hcの表示色を変更して選択済であることを保守者に認識させ、一度選択された損傷対応位置Hcが再度選択されても選択を無効にすることをいう。
【0053】
ステップ304で、保守者は、かご3の移動が停止したことを、言い換えればロープ13の走行が停止したことを確認し、ロープテスタ16の筐体20から露出されたロープ13の部位にペンキやシールなどでマーキングを施す。
【0054】
ステップ305で、保守者は、全てのロープ13の損傷箇所13aにマーキングを施したか否かを判断する。
ステップ305で、保守者は、全てのロープ13の損傷箇所13aにはマーキングを施していないと判断すると、ステップ301に戻る。
ステップ305で、保守者は、全てのロープ13の損傷箇所13aにマーキングを施したと判断するとマーキング工程を終了し、実点検工程に移行する。
【0055】
次いで、実点検工程について説明する。
また、マーキング工程終了時には、かご3は損傷対応位置Hcの中で、もっとも低い損傷対応位置Hcの場所に位置している。
実点検工程はロープ13の各損傷検出箇所の状態を確認する工程であるが、保守者は作業の効率化を図るために損傷確認位置Hrのうち、最も小さな値の損傷確認位置Hrから順に上方にかご3を移動させて損傷箇所13aの状態確認を行う。そして、保守者がこのようにロープ13の各損傷検出箇所の状態を確認するのをサポートする制御プログラムが、ROM28に格納されている。
【0056】
図10において、ステップ401では、保守者はノートPC25を操作し、点検結果一覧表の損傷対応位置Hcのリストの中から最も低い損傷対応位置Hcに対応する最寄り階を選択する。
ステップ402で、CPU26は、選択された最寄り階に対し、最寄り階の手前で、最寄り階から距離γだけ離れた所定の高さ位置までかご3を高速で移動し、その後最寄り階まで低速で移動させてかご3を着床させるための適合階停止走行パターンをエレベータ制御盤5に送信する。即ち、CPU26は、かご3を適合階停止走行パターンに従って最寄り階に停止させる制御をエレベータ制御盤5に行わせる。なお、距離γは高速で移動していたかご3を無理なく選択された最寄り階に停止することができる距離で、できるだけ短い距離とする。
【0057】
ステップ403で、保守者は、ノートPC25をロープテスタ16及びエレベータ制御盤5から切り離し、選択した最寄り階に着床したかご3までノートPCを持参する。そして、保守者は、かご3上に移動してノートPC25をかご3上の通信ポートに接続し、エレベータ制御盤5とノートPC25との間で通信可能なようにする。
【0058】
ステップ404で、保守者は、かご3上で、モニタ29の点検結果一覧表に表示された損傷確認位置Hrのリストのうち、最も低い損傷確認位置Hrを選択する。
【0059】
ステップ405で、CPU26は、選択された損傷確認位置Hrに対してかご3を低速で移動させて停止させる第1の確認用走行パターンをエレベータ制御盤5に送信する。即ち、CPU26は、かご3を第1の確認用走行パターンに従って選択された損傷確認位置Hrに停止させる制御をエレベータ制御盤5に行わせる。第1の確認用走行パターンにおける低速とは、かご3上の保守者の安全が確保される速度である。
【0060】
ステップ406で、CPU26は、選択された損傷確認位置Hrを損傷確認位置Hrのリストから除外する。なお、リストから除外するとは、選択された損傷確認位置Hrのモニタ29での表示色を変更するなどして選択済であることを保守者に認識させ、一度選択された損傷確認位置Hrが再度選択されても選択を無効にすることをいう。
【0061】
ステップ407で、保守者は、ロープ13の損傷箇所13aの状態確認を行う。
ステップ408で、保守者は、損傷箇所13aの状態に対して対処は可能かどうかを判断する。
ステップ408で、保守者は、損傷箇所13aの状態に対して対処は可能であると判断すると、損傷箇所13aの状態に応じた処置を行う(ステップ409)。
ここで、前述したように、ロープ13のそれぞれは、多数の素線を撚り合わせたストランドをさらに撚り合わせて構成されている。従って、素線が1,2本程度破断していただけでは、ロープ6の強度に問題はない。ステップ409の処置とは、ロープ13において破断した素線が少なければ、損傷箇所13aがほぐれてロープ13の外周面から突出したりしないようにするなどの作業である。
【0062】
ステップ408で、保守者は、損傷箇所13aの状態に対する対処できないと判断すると、実点検工程を終了する。
なお、損傷箇所13aの状態に対して対処できない例としては、ロープ13の損傷が、多数の素線が破断して発生しているものや、素線破断がロープ13の内部で発生しているものなどであり、この場合は別工程で、ロープ13自体の交換などが必要となる。
【0063】
ステップ410で、保守者は、点検結果一覧表の損傷確認位置Hrのリストに未選択のものがあるか否かを判断する。
ステップ410で、保守者は、点検結果一覧表の損傷確認位置Hrのリストに未選択のものがあると判断すると、ステップ404に戻る。
ステップ410で、保守者は、点検結果一覧表の損傷確認位置Hrかご損傷確認位置Hrのリストに未選択のものがないと判断すると、実点検工程を終了する。
【0064】
この実施の形態1によれば、診断工程では、かご3を最下階と最上階との間を一通り高速モードで移動させて駆動綱車10に近接して配設したロープテスタ16にロープ13の損傷を検出させて、ノートPC25が、各損傷検出時点でのかご3の高さ位置を損傷対応位置Hcとしてエレベータ制御盤5から取得している。また、マーキング工程では、取得された損傷対応位置Hcのそれぞれに順次かご3を停止させて、ロープ13の損傷検出箇所にマーキングを施し、さらに実点検工程では、損傷検出箇所のそれぞれに対して、かご3をかご3上から損傷検出箇所を確認できる位置まで移動、停止させ、かご3上から損傷検出箇所の状態を確認している。
【0065】
診断工程で、最上階と最下階との間のかご3の一通りの走行でロープ13の損傷箇所13aの全てを検出し、マーキング工程で、順次、かご3を損傷対応位置Hcに戻して損傷検出箇所にマーキングを施すようにしたので、診断工程では、かご3の走行速度を高速にしたまま、ロープテスタ16によるロープ13の損傷箇所13aの検出を行うことが可能となる。つまり、ロープ13の損傷箇所13aの検出に要する時間を短縮することができる。また、マーキング工程では、ロープ13へのマーキング位置は、ロープテスタ16に対応するロープ13の部位に自動的に決定されるので、保守者によるマーキング作業は、実際のロープ13の損傷箇所13aに対して精度よく短時間に施すことができる。
従って、ロープ13の保守点検に要する時間が短縮できる。
【0066】
また、マーキング工程では、損傷対応位置Hcのそれぞれに対し、損傷対応位置Hcの手前の所定の高さ位置まで高速でかご3を移動させた後にかご3の速度を減速して損傷対応位置Hcでかご3の移動を停止させ、マーキングをロープ13の損傷検出箇所に施している。従って、かご3の移動は、損傷対応位置Hcに停止させるまでおおよそ高速で行われるので、ロープ13の損傷検出箇所をロープテスタ16に対応する箇所まで戻す時間が短縮され、さらに、ロープ13の保守点検作業に要する時間を短縮できる。
【0067】
さらに、診断工程では、取得した損傷対応位置Hcのそれぞれから、ロープ13の各損傷検出箇所の状態をかご3上から確認できるかご3の高さ位置である損傷確認位置Hrのそれぞれを演算している。また、実点検工程は、損傷確認位置Hrのそれぞれに対し、損傷確認位置Hrの手前の所定の高さ位置までかご3を高速で移動させた後にかご3の速度を減速して損傷確認位置Hrに上記かご3を停止させている。そして、かご3上からロープ13の損傷検出箇所の状態を確認している。つまり、高速で損傷確認位置Hrの手前の所定の高さ位置までかご3を移動させているので、かご3を損傷確認位置Hrに移動させるのに要する時間が短縮される。さらに、前述したように、マーキングがロープ13の損傷検出箇所のそれぞれに対して正確に施されているので、かご3が損傷確認位置Hrに停止したときには、保守者は、ロープ13の損傷箇所13aがどこにあるのか迷うことなくロープ13の損傷箇所13aの状態を確認できる。よって、さらにロープ13の保守点検に要する時間を短縮することができる。
【0068】
なお、この実施の形態1では、診断工程において、エレベータ制御盤5は、点検走行指令を受信したときに、最下階にかご3を移動させた後、最上階を目的階として、高速モードで最下階から最上階までかご3を移動させるようにエレベータ制御盤5にかご3の移動を制御させるものであるものと説明した。しかし、診断工程において、エレベータ制御盤5が点検走行指令を受信したときのかご3の移動制御は、このものに限定されず、最上階にかご3を移動させた後、最下階を目的階として、高速モードで最上階から最下階までかご3を移動させるようにかご3の移動制御を行わせてもよい。
【0069】
この場合、マーキング工程では、最も低い損傷対応位置Hcに対応するロープ13の損傷検出箇所からマーキングを施せば、保守者は、効率よく全てのロープ13の損傷検出箇所にマーキングを施すことができる。さらに、実診断工程では、最も高い損傷確認位置に対応するロープ13のマーキングを施した部位の状態から確認すれば、効率よくすべての損傷検出箇所の状態を確認できる。
【0070】
また、損傷確認箇所Hrは、診断工程で演算されるものとして説明したが、診断工程の前に演算されるものに限定されず、損傷確認箇所Hrは、実点検で損傷検出箇所を確認するのに際し、かご3を移動させる前に演算されていればよい。
【0071】
また、ノートPC25の機能をエレベータ制御盤5に組みませて行うことも可能である。この場合、保守者2人でロープ点検作業を行うときには、実点検工程において、一人が機械室4でエレベータ制御盤5を操作し、もう一人がかご3上でロープ13の損傷検出箇所の状態を確認すれば、ノートPC25を移動してかご3に再配置するなどの作業が削除できる。従って、さらにロープ13の保守点検に要する時間を削減できる。
【0072】
実施の形態2.
図11はこの発明の実施の形態2に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程における点検結果のモニタへの表示例を示す図である。図12及び図13はこの発明の実施の形態2に係るエレベータ用ロープの保守点検方法のマーキング工程のフロー図である。
【0073】
エレベータ1及び保守装置15の構成は上記実施の形態1と同様に構成されている。
なお、マーキング工程の前に行われる診断工程のフローは、上記実施の形態1で図6を用いて説明したフローと同様であるが、この実施の形態2では、図11に示されるように、ステップ211における点検結果一覧表のモニタ29への表示に際し、後述の下方位置及び上方位置を選択するための表示窓29aが表示されるようになっている。
【0074】
以下、診断工程に引き続き行われるマーキング工程のフローについて、図12を参照しつつ参照しつつ説明する。
なお、図12中、ステップ501〜ステップ517を説明の便宜上S501〜S517と記す。
【0075】
ステップ501でCPU26は、表示窓29aの上方位置又は下方位置が選択されたか否かを判断する。なお、上方位置及び下方位置とは、後述するようにロープ13の損傷箇所13aにマーキングを施す際、ロープ13の損傷箇所13aを筐体20の配置箇所の上方及び下方のいずれかにずらしてロープ13の走行を停止させるのかを決定するものである。また、上方位置又は下方位置の選択は、保守者がノートPC25を操作して行うものである。
【0076】
ステップ501でCPU26は上方位置及び下方位置のいずれも選択されていないと判断するとステップ501を繰り返し、上方位置及び下方位置のいずれかが選択されたと判断すると、ステップ502に進む。
ステップ502でCPU26は上方位置及び下方位置のどちらが選択されたかをRAM27に記憶しステップ503に進む。
【0077】
ステップ503で、保守者は、図11に示される点検結果一覧表に表示された損傷対応位置Hcのリストのうち、最も高い損傷対応位置Hcを選択する。
ステップ504でCPU26は、選択された損傷対応位置Hcに対し、損傷対応位置Hcの手前で、損傷対応位置Hcから所定の距離δだけ離れた所定の高さ位置までかご3を高速で移動させた後にかご3の速度を減速して低速で走行させるための再点検走行パターンをエレベータ制御盤5に送信する。即ち、CPU26は再点検走行パターンに従ってかご3を選択された損傷対応位置Hcに向けて移動させる制御をエレベータ制御盤5に行わせる。
【0078】
ステップ505で、CPU26は、コイル19の出力が閾値α以上になったか否かを判断する。
ステップ505で、CPU26はコイル19の出力が閾値α以上でないと判断すると、ステップ505を繰り返す。
ステップ505でCPU26はコイル19の出力が閾値α以上になったと判断すると、現在のかご3の高さ位置を、現在の第1位置k1に上書きしてRAM27に記憶する(ステップ506)。
【0079】
ステップ507でCPU26は、コイル19の出力が閾値α以下になったか否かを判断する。
ステップ507でCPU26は、コイル19の出力が閾値α以下になっていないと判断すると、ステップ507を繰り返す。
ステップ507でCPU26は、コイル19の出力が閾値α以下になったと判断すると、現在のかご3の高さ位置を、現在の第2位置k2に上書きしてRAM27に記憶する(ステップ508)。
ステップ509で、CPU26は、(k1+k2)/2を新たな損傷対応位置Hcとして算出し、選択した損傷対応位置Hcの値に上書きしてRAM27に記憶する。
なお、第1位置及び第2位置はともにCPU26がエレベータ制御盤5から取得するものであり、新たな損傷位置Hcもエレベータ制御盤5から取得されたものとみなす。
即ち、ロープ13の損傷が再検出されたときに、CPU26が、エレベータ制御盤5から新たな損傷対応位置Hcを取得しているものと見なす。
【0080】
ステップ510で、CPU26は、新たな損傷対応位置Hcから損傷確認位置Hrを再演算し、選択した損傷対応位置Hcに対応する損傷確認位置Hrに新たな損傷確認位置Hrとして上書きしてRAM27記憶する。なお、モニタ29への表示も同時に更新される。
ステップ511で、CPU26は、再度、最寄り階を決定して選択した損傷対応位置Hcに対応する最寄り階に上書きしてRAM27に記憶する。
ステップ512で、CPU26は、上方位置が選択されているか否かを判断する。
ステップ512で、CPU26は、上方位置が選択されていると判断すると、ステップ
513に進み、上方位置が選択されていないと判断するとステップ514に進む。
【0081】
ステップ513で、CPU26は、新たな損傷対応位置Hcに対してかご3の高さ位置が所定距離上方に移動したところでかご3を停止させるための上方位置停止走行パターンをエレベータ制御盤5に送信する。
なお、ステップ513中の所定距離とは、例えば、ロープテスタ16の筐体20の長さの半分よりやや大きな値として設定する。このとき、かご3が新たな損傷対応位置Hcから所定距離上方にずれて停止したときに、ロープ13の損傷箇所13aが筐体20の上端のやや上方で停止する。
ステップ514で、CPU26は、新たな損傷対応位置Hcに対してかご3の高さ位置が所定距離下方に移動したところでかご3を停止させるための下方位置停止走行パターンをエレベータ制御盤5に送信する。このとき、かご3が新たな損傷対応位置Hcから所定距離下方にずれて停止したときに、ロープ13の損傷箇所13aが筐体20の下端のやや下方で停止する。
【0082】
ステップ515で、CPU26はステップ502で選択された損傷対応位置Hcに上書きされた新たな損傷対応位置Hcを点検結果一覧表の損傷対応位置Hcのリストから除外する。
ステップ516で、保守者はロープ13の損傷再検出箇所13aにペンキやシールなどを用いてマーキングを施す。
ステップ517で、保守者は全てのロープ13の損傷再検出箇所13aにマーキングを施したか否かを判断する。
ステップ517で、保守者は、全てのロープ13の損傷再検出箇所13aにはマーキングを施していないと判断すると、ステップ503に戻る。
ステップ517で、保守者は、全てのロープ13の損傷再検出箇所13aにマーキングを施したと判断するとマーキング工程を終了し、実点検工程に移行する。
なお、この発明の実施の形態2に係るエレベータ用ロープ13の保守点検方法の他の手順は上記実施の形態1と同様である。
【0083】
この実施の形態2では、マーキング工程において、診断工程で取得された損傷対応位置Hcのそれぞれに対し、損傷対応位置Hcの手前の所定の高さ位置にかご3を高速で移動させた後にかご3の速度を減速して、再度ロープテスタ16にロープ13の損傷を検出させている。そして、ロープ13の損傷が再検出された時点でのかご3の高さ位置を新たな損傷対応位置Hcとしてエレベータ制御盤5から取得し、新たな損傷対応位置Hcのそれぞれからかご3を上方または下方に所定距離移動させて停止して損傷再検出箇所にマーキングを施している。
【0084】
ここで、診断工程において、ロープテスタ16の出力電圧が閾値α以上になったときに、ノートPC25のCPU26がにエレベータ制御盤5からかご3の高さ位置情報を取得する際、ロープテスタ16の出力電圧が閾値α以上であると判断してから、エレベータ制御盤5から高さ位置情報を取得するまでの時間に若干のタイムラグがある。診断工程においては、かご3が高速モードで移動しているため、CPU26が演算した損傷対応位置Hcが、損傷箇所13aがロープテスタ16を通過するときのかご3の高さ位置に一致しない場合がある。
【0085】
そこで、マーキング工程では、損傷対応位置Hcの手前で、かつ、損傷対応位置Hcから距離δ離れた所定の高さ位置からかご3を低速で移動させ、損傷箇所13aがロープテスタ16により検出されたときのエレベータ制御盤5の高さ位置から再度損傷対応位置Hcを演算している。なお、距離δは、上記タイムラグにより想定されるCPU26が演算した損傷対応位置Hcと損傷箇所13aがロープテスタ16を通過するときのかご3の高さ位置との間の最大のずれよりやや大きな値として設定すればよい。
【0086】
上述したように、マーキング工程では、かご3を低速にした状態で再度、ロープ13の損傷箇所13aを検出し、再度ロープ13の損傷箇所13aが検出されたときのかご3の高さ位置を新たな損傷対応位置Hcとして、現在の損傷対応位置Hcに上書きしてRAM27に記憶している。これにより、診断工程において、算出した損傷対応位置Hcが、仮に、損傷箇所13aがロープテスタ16を通過したときのかご3の高さ位置からずれていた場合でも、マーキング工程において、再度取得した新たな損傷対応位置Hcは、ロープ13の損傷箇所13aがロープテスタ16を通過したときのかご3の高さ位置に精度よく一致する。即ち、保守者が、ロープ13の損傷箇所13aに対して実施の形態1よりさらに精度よくマーキングできる。
【0087】
そして、新たな損傷対応位置Hcをもとに、新たな損傷確認位置Hrを演算しているので、実点検工程において、かご3が損傷確認位置Hrに停止したときには、マーキングを施したロープ13の部位が、かご3上の保守者と相対する位置に、より的確に配置される。よって、保守者は、ロープ13の損傷箇所13aを探すことなくロープ13の損傷検出箇所の状態を確認できる。よって、さらにロープ13の保守点検に要する時間を短縮することができる。
なお、距離δは大きな値ではないので、かご3の速度を低速にした状態で移動させる距離は短く、ロープ13の保守点検の時間短縮効果が大きく損なわれることはない。
【0088】
さらに、損傷対応位置Hcに対して、かご3を所定距離ずらして停止させているので、マーキングを施す際にロープテスタ16が邪魔にならず、保守者は効率よくロープ13の損傷箇所13aにマーキングを施すことができる。
【0089】
また、新たな損傷対応位置Hcに基づいて演算される新たな損傷確認箇所Hrは、マーキング工程で行われるものとして説明したが、新たな損傷確認箇所Hrはマーキング工程で演算されるものに限定されず、新たな損傷確認箇所Hrは、実点検で損傷再検出箇所を確認するのに際し、かご3を移動させる前に演算されていればよい。
【0090】
実施の形態3.
図14はこの発明の実施の形態3に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の実点検工程のフロー図である。
図14中、本文中のステップ601〜ステップ611を説明の便宜上S601〜S611と記載する。
【0091】
なお、ステップ601及び602は前述のステップ401及びステップ402と同様であるのでその説明は省略する。
ステップ603で、保守者は、ノートPC25を持参してかご3内に移動し、ノートPC25をかご3内の通信ポートに接続する。
ステップ604で、保守者は、モニタ29の点検結果一覧表に表示された損傷確認位置Hrのリストのうち、最も低い損傷確認位置Hrを選択する。
【0092】
ステップ605で、CPU26は、選択された損傷確認位置Hrの手前で、損傷確認位置Hrから距離ηだけ離れた所定の高さ位置までは、かご3を高速で移動させ、その後損傷確認位置Hrまでかご3を低速で移動停止させるための第2の確認用走行パターンをエレベータ制御盤5に送信する。即ち、CPU26は、かご3を第2の確認用走行パターンに従って損傷確認位置Hrに停止させる制御をエレベータ制御盤5に行わせる
なお、距離ηは高速で移動していたかご3を無理なく損傷確認位置Hrに停止することができる距離で、できるだけ短い距離とする。
【0093】
ステップ606で、CPU26は、選択された損傷確認位置Hrを点検結果一覧表の損傷確認位置Hrのリストから除外する。
【0094】
ステップ607で、保守者は、かご3の移動停止確認後、かご3上に移動してロープ13の損傷箇所13aの状態確認を行う。
ステップ608で、保守者は、損傷箇所13aの状態に対して対処可能であるか否かを判断する。
ステップ608で、保守者は、ロープ13の状態に対して対処は可能であると判断すると、損傷箇所13aの状態に応じた処置を行い(ステップ609)、ステップ610に進む。
ステップ608で、保守者は、損傷箇所13aの状態に対する対処ができないと判断すると、工程を終了する。
【0095】
ステップ610で、保守者はかご3内に移動する。
ステップ611で、保守者は、点検結果一覧表の損傷確認位置Hrのリストに未選択のものがあるか否かを判断する。
ステップ611で、保守者は、点検結果一覧表の損傷確認位置Hrのリストに未選択のものがあると判断すると、ステップ601に戻る。
ステップ611で、保守者は、点検結果一覧表の損傷確認位置Hrのリストに未選択のものがないと判断すると、実点検工程を終了する。
なお、この発明の実施の形態3に係るエレベータ用ロープ13の保守点検方法の他の手順は上記実施の形態1と同様である。
【0096】
この実施の形態3では、実点検工程において、かご3内にノートPC25を配設し、保守者は、かご3を損傷確認位置Hrに移動させる際は、かご3内に待機している。これにより、損傷確認位置Hrのそれぞれに対し、損傷確認位置の手前の所定の高さ位置までかご3を高速で移動させた後にかご3の速度を減速して損傷確認位置Hrに上記かご3を停止させることが可能となる。そして、保守者は、かご3が損傷確認位置Hrに停止すると、かご3上に移動し、ロープ13の損傷検出箇所の状態を確認している。
【0097】
従って、例えば、損傷確認位置Hr間の距離が長く、保守者がかご3上とかご3内に出入する時間に、損傷確認位置Hr間を第2の確認用走行パターンでかご3を移動させるのに要する時間を足した値が、損傷確認位置Hr間をかご3を低速で移動させるのに要する時間より短い場合は、さらにロープ13の保守点検時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法により点検されるロープを備えるエレベータ及び保守装置の模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法により点検されるロープを備えるエレベータ及び保守装置のシステム構成図である。
【図3】図1のA部拡大図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法におけるかごの高さ位置とロープテスタの出力電圧との関係を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程においてエレベータ制御盤による点検指令フラグのON/OFFの切り替えについて説明するフロー図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程においてメンテナンスコンピュータによる制御を説明するフロー図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程における損傷確認位置の演算方法を説明する図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程における点検結果のモニタへの表示例を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法のマーキング工程のフロー図である。
【図10】この発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の実診断工程のフロー図である。
【図11】この発明の実施の形態2に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の診断工程における点検結果のモニタへの表示例を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態2に係るエレベータ用ロープの保守点検方法のマーキング工程のフロー図である。
【図13】この発明の実施の形態2に係るエレベータ用ロープの保守点検方法のマーキング工程のフロー図である。
【図14】この発明の実施の形態3に係るエレベータ用ロープの保守点検方法の実点検工程のフロー図である。
【符号の説明】
【0099】
3 かご、4 機械室、5 エレベータ制御盤、10 駆動綱車、13 エレベータ用ロープ、16 ロープテスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械室に配設された駆動綱車に巻き掛けられて、エレベータ制御盤に回転が制御される該駆動綱車の回転に連動して走行し、かごを昇降させるエレベータ用ロープの保守点検方法であって、
上記かごを最下階と最上階との間を一通り移動させて上記駆動綱車に近接して配設したロープテスタに上記エレベータ用ロープの損傷を検出させ、各損傷検出時点での上記かごの高さ位置を損傷対応位置として上記エレベータ制御盤から取得する診断工程と、
取得された上記損傷対応位置のそれぞれに順次上記かごを停止させて、上記エレベータ用ロープの損傷検出箇所にマーキングを施すマーキング工程と、
上記損傷検出箇所のそれぞれに対して、上記かごを該かご上から上記損傷検出箇所を確認できる位置まで移動、停止させ、該かご上から上記損傷検出箇所の状態を確認する実点検工程と、
を備えることを特徴とするエレベータ用ロープの保守点検方法。
【請求項2】
上記マーキング工程では、上記損傷対応位置のそれぞれに対し、該損傷対応位置の手前の所定の高さ位置まで上記かごを移動させた後に該かごの速度を減速して上記損傷対応位置で上記かごの移動を停止させて、上記エレベータ用ロープの損傷検出箇所に上記マーキングを施すことを特徴する請求項1記載のエレベータ用ロープの保守点検方法。
【請求項3】
上記実点検工程における上記かごを移動させるのに先立って、上記損傷対応位置に基づいて、上記損傷検出箇所を該かご上から確認できる該かごの高さ位置である損傷確認位置を演算する工程を有し、
上記実点検工程では、各上記損傷確認位置に対し、該損傷確認位置の手前の所定の高さ位置まで上記かごを移動させた後に該かごの速度を減速して該損傷確認位置に上記かごを停止させ、上記かご上から上記マーキングを施した上記エレベータ用ロープの部位の状態を確認することを特徴とする請求項1または請求項2記載のエレベータ用ロープの保守点検方法。
【請求項4】
機械室に配設された駆動綱車に巻き掛けられて、エレベータ制御盤に回転が制御される該駆動綱車の回転に連動して走行し、かごを昇降させるエレベータ用ロープの保守点検方法であって、
上記かごを最下階と最上階との間を一通り移動させて上記駆動綱車に近接して配設したロープテスタに上記エレベータ用ロープの損傷を検出させ、各損傷検出時点での上記かごの高さ位置を損傷対応位置として上記エレベータ制御盤から取得する診断工程と、
取得された上記損傷対応位置のそれぞれに対し、上記損傷対応位置の手前の所定の高さ位置に上記かごを移動させた後に上記かごの速度を減速して、再度上記ロープテスタに上記エレベータ用ロープの損傷を検出させて、損傷再検出時点での上記かごの高さ位置を新たな損傷対応位置として上記エレベータ制御盤から取得し、上記新たな損傷対応位置のそれぞれから上記かごを上方または下方に所定距離移動させて停止して、上記エレベータ用ロープの損傷再検出箇所にマーキングを施すマーキング工程と、
上記損傷再検出箇所のそれぞれに対して、上記かごを該かご上から上記損傷再検出箇所を確認できる位置まで移動、停止させ、該かご上から上記損傷再検出箇所の状態を確認する実点検工程と、
を備えることを特徴とするエレベータ用ロープの保守点検方法。
【請求項5】
上記実点検工程における上記かごを移動させるのに先立って、上記新たな損傷対応位置に基づいて、上記損傷再検出箇所を該かご上から確認できる該かごの高さ位置である損傷確認位置を演算する工程を有し、
上記実点検工程は、各上記損傷確認位置に対し、該損傷確認位置の手前の所定の高さ位置まで上記かごを移動させた後に該かごの速度を減速して上記損傷確認位置に上記かごを停止させ、上記かご上から上記損傷再検出箇所の状態を確認することを特徴とする請求項4記載のエレベータ用ロープの保守点検方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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