説明

エレベータ装置

この発明は、エレベータかご(4)又は釣合いおもり(10)に巻上機(11)が搭載されたエレベータ装置において、エレベータが故障した場合に、巻上機(11)のブレーキ装置(20)を機械的に開放させる第一のブレーキ開放機構(30)、及び第二のブレーキ開放機構(40)を備えたものである。このブレーキ装置(20)の開放は、それぞれのブレーキ開放機構に設けられた操作ロープ(33、43)を地上から操作することにより、それぞれのブレーキ開放レバー(31、41)を動作させて行われる。また、二組のブレーキ開放機構を有しているため、エレベータかご(4)内の乗車人数に左右されずに、その乗車状況に応じたブレーキ開放機構を選択して、より安定したブレーキ装置(20)の開放操作を容易かつ確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、エレベータかご又は釣合いおもりに巻上機が搭載されたエレベータ装置に関するものである。
【背景技術】
エレベータの昇降路内の所要スペースをできるだけ低減する目的で、エレベータかご又は釣合いおもりに巻上機を配置したエレベータ装置が既に提案されており、例えば、日本特開平9−124259号公報には、釣合いおもりに巻上機が搭載されたエレベータ装置が示されている。
しかし、巻上機をエレベータかご又は釣合いおもりに搭載する方式のエレベータは、省スペースという点でメリットが大きいが、エレベータの制御装置が故障し、乗客がエレベータかご内に閉じ込められた場合の救出が困難という問題があった。前述の日本特開平9−124259号公報には、手動巻取装置を用いた非常時の乗客救出手段が開示されている。しかしながら、この方式による救出は、釣合いおもりに搭載された巻上機のブレーキ装置の開閉の電気的な制御が可能な状態での故障に限定されるという問題があった。すなわち、ブレーキ装置の開閉が地上から行えないような故障においては、手動巻取装置でエレベータを駆動することは困難な場合が多く、この方式は依然として課題を抱えている。
一方、日本特開平5−147855号公報は、エレベータかご又は釣合いおもりのそれぞれに対応するガイドレールを挟持して、エレベータかご又は釣合いおもりを制動させるブレーキ装置を設置したもので、昇降路内の上部及び下部に設けられた一対のプーリ間に巻き掛けて環状に張り渡されたロープを用いて、レバーを動作させてガイドレールの挟持を解放させる方法が開示されている。しかし、この方式のブレーキ装置は、レバーと係合されたロープを下方にのみ引く方式であったため、例えば、エレベータかご側にこのブレーキ装置が設けられている場合では、かご内の乗車人数の状態によってエレベータかごが釣合いおもりより重いときには、レバーを動作させた途端にガイドレールの挟持の解放されたエレベータかごが下降を始める。つまり、レバーに力をかける方向にエレベータかごが動いてしまうことで、レバーによるブレーキ装置の制動解除が正常に行えないことがあった。言い換えれば、かご内の乗車人数の増減に左右されて、ブレーキ装置の制動解除をうまく行うことができない場合があった。
そこで、本発明では、エレベータかご又は釣合いおもりに巻上機とともにブレーキ装置が搭載されたエレベータにおいて、故障によりエレベータが乗場の階間に停止して、ブレーキ装置の開閉の電気的な制御が不可能となった場合でも、保守員が地上から機械的にブレーキ装置の制動を解除することを可能にし、その後にエレベータかごを最寄り階まで動かして乗客を救出できるようにすることを目的とする。
また、エレベータかご内の乗車人数に左右されずに、より安定した巻上機のブレーキ装置の制動解除を可能にすることを目的とする。
発明の概要
この発明のエレベータ装置は、昇降路内を昇降するエレベータかごと、昇降路内をエレベータかごと反対方向に昇降する釣合いおもりとを備え、エレベータかご又は釣合いおもりのいずれかに巻上機が搭載されたものである。巻上機の駆動シーブには、エレベータかご及び釣合いおもりを懸架する主索が巻き掛けられている。巻上機には、制動バネにより巻上機を制動させるとともに、励磁された電磁石により制動バネに抗して巻上機の制動を解除させるブレーキ装置が設けられている。
また、巻上機には、ブレーキ装置とは別に、機械的に制動バネに抗してブレーキ装置の制動を解除させるブレーキ開放機構が設けられている。このブレーキ開放機構は、制動バネを後退させてブレーキ装置の制動を解除させるためのブレーキ開放レバーと、エレベータかご又は釣合いおもりのいずれかの昇降区間より上方及び下方にそれぞれ配置された一対のプーリに巻き掛けられて、これらのプーリ間に環状に張り渡され、ブレーキ開放レバーを操作するための操作ロープとを備えており、ブレーキ開放レバーと操作ロープとは連結手段により連結されている。
また、ブレーキ開放機構は、以下の第一及び第二の二組のブレーキ開放機構から構成されている。すなわち、第一の一対のプーリと第一の操作ロープと第一のブレーキ開放レバーとを備え、操作ロープが上方に引き上げられてブレーキ装置の制動を解除させる第一のブレーキ開放機構と、第二の一対のプーリと第二の操作ロープと第二のブレーキ開放レバーとを備え、操作ロープが下方に引き下げられてブレーキ装置の制動を解除させる第二のブレーキ開放機構とから構成されている。
以上のような発明によれば、故障によりエレベータが乗場の階間に停止して、ブレーキ装置の開閉の電気的な制御が不可能となった場合でも、保守員が地上からブレーキ開放機構を用いて機械的にブレーキ装置の開放をし、エレベータかごを最寄り階まで動かして乗客を救出することができる。また、第一及び第二の二組のブレーキ開放機構を備えているため、エレベータかご内の乗車人数にかかわらず、その乗車状況に応じたブレーキ開放機構を選択して、より安定したブレーキ装置の開放操作を容易かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態1によるエレベータ装置の配置例を示す図である。
図2は、本発明の実施の形態1による釣合いおもりに搭載された巻上機のブレーキ装置、及びブレーキ開放機構の構成を説明するための図である。
図3は、本発明の実施の形態1によるブレーキ装置の開閉の動作を説明するための立面図である。
図4は、本発明の実施の形態1による第一のブレーキ開放機構の動作を説明するための立面図である。
図5は、本発明の実施の形態1による第二のブレーキ開放機構の動作を説明するための立面図である。
図6は、本発明の実施の形態2によるブレーキ装置のブレーキ開放機構の構成を説明するための立面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明をより詳細に説述するために、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化又は省略する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるエレベータ装置の配置例を示す図であり、(A)はエレベータ装置を水平方向から見た立面図、(B)はエレベータ装置を上方から見下ろした平面図である。
まず、図1を用いて本実施の形態1によるエレベータ装置の全体構成について説明する。昇降路1内には、一対のエレベータかご用ガイドレール2と他の一対の釣合いおもり用ガイドレール3がそれぞれ設置されている。エレベータかご4は、かご用ガイドレール2に案内されて昇降路1内を昇降し、釣合いおもり10は、釣合いおもり用ガイドレール3に案内されてかご4と反対方向に昇降路1内を昇降する。
エレベータかご4には、出入口ドア4aがかご4正面に設置されており、出入口ドア4aに対向して乗場側に乗場ドア5が設置されている。釣合いおもり10は、かご4背面と昇降路1の壁面との間に配置されている。
次に、巻上機11は、釣合いおもり10に搭載されている。巻上機11には、巻上機11の制動の開閉を行うブレーキ装置20が設けられている。また、エレベータかご4及び釣合いおもり10を懸架する主索6は、両端がともに昇降路1上部に固定されており、主索6の一端は、昇降路1上部を起点に、エレベータかご4の下方に設けられた一対のかご用吊り車7に順に巻き掛けられ、昇降路1上部に設置された方向転換プーリ8に至る。そして、方向転換プーリ8に巻き掛けられた後、釣合いおもり10に搭載された巻上機11の駆動シーブ12に巻き掛けられて、再び上昇して主索6の他端は昇降路1上部に固定されている。
次に、本実施の形態1で用いるブレーキ開放機構は、第一及び第二の二組のブレーキ開放機構から構成されている。第一のブレーキ開放機構30は、機械的にブレーキ装置20の制動を解除させる第一のブレーキ開放レバー31と、釣合いおもり10の昇降区間より上方及び下方にそれぞれ配置された一対の第一のプーリ32と、第一のプーリ32に巻き掛けられ、第一のプーリ32間に環状に張り渡された第一の操作ロープ33とを有する。同様に、第二のブレーキ開放機構40は、第二のブレーキ開放レバー41と第二のプーリ42と第二の操作ロープ43とを有する。
図2は、本発明の実施の形態1による釣合いおもりに搭載された巻上機のブレーキ装置、及びブレーキ開放機構の構成を説明するための図であり、(A)は、巻上機のブレーキ装置を水平方向から見た立面図、(B)は、ブレーキ装置のC−C線断面図である。
図2において、巻上機11を搭載する釣合いおもり10は、枠体14によって外形が構成されており、枠体14内の下部に釣合いおもり用おもり15が搭載されている。巻上機11は、主索6が巻き掛けられた駆動シーブ12と駆動シーブ12を回転駆動する電動機13とを有する。
次に、ブレーキ装置20は巻上機11の一部として構成されており、巻上機11の駆動シーブ12と同一回転軸上にブレーキドラム21が配置されている。ブレーキドラム21の円周面に対向して一対のブレーキシュー22が設けられており、ブレーキシュー22はそれぞれブレーキアーム23に固定されている。ブレーキアーム23は、釣合いおもり10の枠体14の側部との間に設けられた制動バネ24の力を受けて、ブレーキシュー22をブレーキドラム21に押し付けてブレーキドラム21の回転を制止する。なお、ブレーキアーム23の一端は、釣合いおもり10の枠体14にブレーキアームピン23aを介して取り付けられており、ブレーキアームピン23aを中心として回転する。ブレーキアーム23の他端側には、ボルト25が取り付けられており、このボルト25を介して、ブレーキレバー26と係合している。なお、ブレーキレバー26は、ブレーキレバーピン26aを中心として回転する。また、ブレーキ装置20を駆動する電磁石が、釣合いおもり10の枠体14の上部に設けられた電磁石の筐体27内に収納されている。ここで、本実施の形態1では、励磁された電磁石によって駆動される押動体としてプランジャ28が用いられている。なお、プランジャ28の先端部であるプランジャヘッド28aは、ブレーキレバー26と接している。
次に、第一のブレーキ開放機構30において、第一のブレーキ開放レバー31は、長手状に形成されており、一端には、貫通された第一の開放レバー穴35が設けられていて、この第一の開放レバー穴35にプランジャ28が挿通されている。ここで、プランジャヘッド28aは、プランジャ28の第一のブレーキ開放レバー31に挿通されている部位に比して大径化されている。そのため、プランジャヘッド28aと第一のブレーキ開放レバー31の一端とが係合可能となっている。本発明では、第一のブレーキ開放レバー31におけるこの係合部を第一の開放レバー係合部34と称する。また、第一のブレーキ開放レバー31は、第一の開放レバー係合部34に近接している電磁石の筐体27の一部を支点台29として用い、第一のブレーキ開放レバー31の支点が支点台29によって支持されている。第一のブレーキ開放レバー31の他端は、第一の操作ロープ33に連結手段を用いて連結されている。尚、この実施の形態1は、第一のブレーキ開放レバー31が第一の操作ロープ33に常時固定されている例を示す。
また、第二のブレーキ開放機構40において、第二のブレーキ開放レバー41は、長手状に形成、かつ中間部はプランジャヘッド28aを囲んで口状に形成されている。第二のブレーキ開放レバー41の一端は、第一のブレーキ開放レバー31と同様に、電磁石の筐体27の支点台29を支点として用いており、平常時においては、一端は支点台29に当接された状態となっている。第二のブレーキ開放レバー41の中間部は、プランジャヘッド28aとの間に第二の開放レバー係合部44を有し、プランジャヘッド28aに第二の開放レバーピン45を介して回動可能に結合されている。第二のブレーキ開放レバー41の他端は、第二の操作ロープ43に連結手段を用いて連結されている。尚、この実施の形態1では、第一のブレーキ開放レバー31と同様に、第二の操作ロープ43に常時固定されている例を示すものである。
また、釣合いおもり10の枠体14の側部には、第一のブレーキ開放レバー31、及び第二のブレーキ開放レバー41をそれぞれ通すための開放レバー用穴16が設けられている。そして、エレベータかご4の通常昇降時には、第一のブレーキ開放レバー31、及び第二のブレーキ開放レバー41は、ともに釣合いおもり10の枠体14の側部に固定紐17によって固定されており、非常時において、レバー31、41を動作させる場合には、レバー31、41に所定の力が加えられることによって固定紐17が切断され、釣合いおもり10との固定が解除されるように構成されている。
次に、以上のように構成された巻上機11のブレーキ装置20における動作について説明する。
図3は、本発明の実施の形態1によるブレーキ装置の開閉の動作を説明するための立面図である。
ブレーキ装置20が作動し、巻上機11が制動状態にある場合、つまり、電磁石の筐体27内にある電磁石が励磁されていない場合には、図2に示すように、ブレーキアーム23が制動バネ24の力を受けてブレーキシュー22をブレーキドラム21に押し付けてブレーキドラム21の回転を制止している。ここで、エレベータかご4の通常持の昇降は、以下に示すようにブレーキ装置20が開放されることにより行われる。図3より、電磁石の筐体27内にある電磁石が励磁されることによって、プランジャ28が下方向に押し下げられる。これによって、プランジャヘッド28aと接しているブレーキレバー26が、プランジャヘッド28aによって押されてブレーキレバーピン26aを中心として回転し、プランジャ28の力が増幅されて、ボルト25を介してブレーキアーム23に伝わる。ブレーキアーム23は、ブレーキアームピン23aを中心として制動バネ23に抗して回転し、ブレーキシュー22をブレーキドラム21から離隔してブレーキ装置20の制動を解除する。尚、エレベータかご4の通常昇降時には、第一のブレーキ開放レバー31、及び第二のブレーキ開放レバー41は、釣合いおもり10の昇降と同期して昇降している。そのため、レバー31、41に常時固定されている操作ロープ33、43とプーリ32、42は、レバー31、41の昇降と同期して移動している。
次に、ブレーキ装置20におけるブレーキ開放機構の動作について説明する。
図4は、本発明の実施の形態1による第一のブレーキ開放機構の動作を説明するための立面図である。
図4において、第一のブレーキ開放機構30では、第一の操作ロープ33における第一のブレーキ開放レバー31が固定されている側と反対側のロープ部を下方向に引くことにより、第一のブレーキ開放レバー31を動作させてブレーキ装置20を開放する。上記のように第一の操作ロープ33を引くことにより、図4の矢印の方向に第一のプーリ32が回転し、第一のブレーキ開放レバー31の第一の操作ロープ33との連結部を引き上げる。これにより、第一のブレーキ開放レバー31は、電磁石の筐体27の支点台29に支持された支点を中心として回転し、第一の開放レバー係合部34がプランジャヘッド28aを下方向に押し下げる。その後の動作については、通常のブレーキ装置20の制動解除の動作の場合と同様であり、プランジャ28の力がブレーキレバー26からブレーキアーム23へと伝わり、制動バネ24に抗してブレーキ装置20の制動の解除を行う。尚、この第一のブレーキ開放レバー31を動作する際に、第一の操作ロープ33を引くことによって、第一のブレーキ開放レバー31と釣合いおもり10とを固定している固定紐17が切断され、第一のブレーキ開放レバー31の動作が可能となる。
図5は、本発明の実施の形態1による第二のブレーキ開放機構の動作を説明するための立面図である。
図5において、第二のブレーキ開放機構40では、第二の操作ロープ43における第二のブレーキ開放レバー41が固定されている側のロープ部を下方向に引くことにより、第二のブレーキ開放レバー41を動作させてブレーキ装置20を開放する。上記のように第二の操作ロープ43を引くことにより、第二のブレーキ開放レバー41の第二の操作ロープ43との連結部を引き下げる。それに伴い、図5の矢印の方向に第二のプーリ42が回転する。これにより、第二のブレーキ開放レバー41は、電磁石の筐体27の支点台29に当接された第二のブレーキ開放レバー41の先端部を支点として回転し、第二の開放レバー係合部44がプランジャヘッド28aを下方向に押し下げる。その後の動作については、通常のブレーキ装置20、及び第一のブレーキ開放機構30による制動解除の動作の場合と同様であり、プランジャ28の力がブレーキレバー26からブレーキアーム23へと伝わり、制動バネ24に抗してブレーキ装置20の制動の解除を行う。尚、この第二のブレーキ開放レバー41を動作する際に、第二の操作ロープ43を引くことによって、第二のブレーキ開放レバー41と釣合いおもり10とを固定している固定紐17が切断され、第二のブレーキ開放レバー41の動作が可能となる。
次に、以上のように動作される第一のブレーキ開放機構30、及び第二のブレーキ開放機構40を、実際にどのような場合に使い分けるかを説明する。
ブレーキ装置20が搭載された釣合いおもり10がエレベータかご4より重い場合には、第一のブレーキ開放機構30を選択し、第一のブレーキ開放レバー31を用いてブレーキ装置20の制動解除を行う。また、逆に、釣合いおもり10がエレベータかご4より軽い場合には、第二のブレーキ開放機構40を選択し、第二のブレーキ開放レバー41を用いてブレーキ装置20の制動解除を行う。
通常、エレベータかご4内に乗り降りする乗客の人数が変化することによる釣合いおもり10とエレベータかご4との間での重量のアンバランスによって、釣合いおもり10がエレベータかご4より重い場合と、その逆に釣合いおもり10がエレベータかご4より軽い場合が生ずる。そのため、ブレーキ装置20の制動を解除したときに、乗車人数の状態によって釣合いおもり10が上方向に動く場合、又は下方向に動く場合がある。
第一のブレーキ開放レバー31を用いるのは、前述のように、釣合いおもり10がエレベータかご4より重い場合、つまりブレーキ装置20を開放したときに釣合いおもり10が下方向に動いてしまう場合である。ここで、第一のブレーキ開放レバー31を動作させると、レバー31の支点を支持する支点台29には、レバー31がプランジャヘッド28aを押す力に抗する上方向の力が加わる。そのため、釣合いおもり10がエレベータかご4より軽い場合、つまりブレーキ装置20を開放した際に釣合いおもり10が上方向に動いてしまう場合に、第一のブレーキ開放レバー31を用いると、釣合いおもり10が支点台29に加わった力と同じ上方向に動いてしまうので、第一のブレーキ開放レバー31によってプランジャヘッド28aを押す力が逃げることになってしまい、ブレーキ装置20の制動解除の操作が正常に行えない場合が生ずる。
また、第二のブレーキ開放レバー41を用いるのは、前述のように、釣合いおもり10がエレベータかご4より軽い場合、つまりブレーキ装置20を開放したときに釣合いおもり10が上方向に動いてしまう場合である。この場合とは逆に、ブレーキ装置20を開放したときに釣合いおもり10が下方向に動いてしまう場合に第二のブレーキ開放レバー41を用いると、レバー41は支点台29に当接されたレバー41の先端部を支点として、レバー41の中間部に係合されたプランジャヘッド28aを下方向に押し下げようとするが、このときに釣合いおもり10が下方向に下がってしまうと、レバー41がプランジャヘッド28aを押す力が逃げてしまい、ブレーキ装置20の制動解除の操作が正常に行えない場合が生ずる。
したがって、以上のようにエレベータかご4内の乗車人数の状態によって、第一及び第二のブレーキ開放機構のどちらを用いるかを選択する。
次に、本実施の形態1による巻上機10のブレーキ装置20のブレーキ開放機構で用いられる第一のプーリ32、及び第二のプーリ42は鉄製のものであるが、これをより軽量な合成樹脂製としても良い。また、第一の操作ロープ33、第二の操作ロープ43についても鉄製のものに替えて、より軽量な合成繊維製のものを用いても良い。プーリと操作ロープの慣性モーメントが大きいと、通常のエレベータの加減速時において、釣合いおもり10と同期して移動するブレーキ開放レバーに操作ロープから加わる力も大きくなってしまい、ブレーキ開放機構への外乱となる場合がある。そのため、合成樹脂製のプーリ及び合成繊維製の操作ロープとし、鉄製に比べ軽量化することで、ブレーキ開放機構の誤動作の可能性を少なくさせることができる。
以上の実施の形態1によれば、以下のような効果が得られる。
釣合いおもり10に巻上機11とともに搭載されたブレーキ装置20には、ブレーキ開放レバーと操作ロープと一対のプーリからなるブレーキ開放機構を有しているため、非常時にブレーキ装置20を開放する電気的な制御が行えなくなった場合でも、地上から機械的にブレーキ装置20の制動を解除することができるようになり、保守員が巻上機11を搭載した釣合いおもり10が停止した場所に行ってブレーキ装置20を開放する必要もなく、容易かつ確実にエレベータかご4を最寄り階まで動かして乗客の救出が可能となる。
また、ブレーキ開放機構は、第一及び第二の二組のブレーキ開放機構から構成されているので、釣合いおもり10が、エレベータかご4より重い場合、若しくはエレベータかご4より軽い場合の双方において、それぞれの場合に適したブレーキ開放機構を選択して用いることができ、釣合いおもり10とエレベータかご4との重量のアンバランスに左右されずに、安定したブレーキ装置20の制動解除ができるようになる。
また、第一のブレーキ開放レバー31、第二のブレーキ開放レバー41は、ともに電磁石の筐体27の一部を支点台29として用い、支点の役割を持たせているが、支点台29は、作用点となるプランジャヘッド28aに近く、位置的に支点として望ましい。さらに、電磁石の筐体27、及び釣合いおもり10の枠体14は、元々頑丈に構成されており、強度的にも優れているので支点として適している。
また、エレベータかご4の通常昇降時には、第一のブレーキ開放レバー31、及び第二のブレーキ開放レバー41は、それぞれ釣合いおもり10に固定紐17を用いて固定されているため、プーリと操作ロープの慣性モーメントに起因する外乱による影響を抑えることができる。
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2によるブレーキ装置のブレーキ開放機構の構成を説明するための立面図である。
図6に示すように、本実施の形態2では、第一のブレーキ開放レバー31と第一の操作ロープ33との連結部、及び第二のブレーキ開放レバー41と第二の操作ロープ43との連結部には、それぞれのレバー側に貫通穴(図示せず)が設けられている。そして、その貫通穴の中をそれぞれの操作ロープが通っており、レバーと操作ロープとは非接触状態であるため、実施の形態1とは異なり、エレベータかご4の通常昇降時に、操作ロープはブレーキ開放レバーとは同期して移動しない。したがって、実施の形態1では固定紐17によって釣合いおもり10とブレーキ開放レバーとを固定していたが、本実施の形態2では、固定紐17は用いられていない。
そして、ブレーキ開放機構を用いる場合のブレーキ開放レバーと操作ロープとの連結手段として、第一の操作ロープ33、及び第二の操作ロープ43のそれぞれに作動片18が取り付けられている。平常時には、第一の操作ロープ33側に取り付けられた作動片18は、昇降路1下部に設けられている第一のプーリ32付近に配置され、第二の操作ロープ43側に取り付けられた作動片18は、昇降路1上部に設けられている第二のプーリ42付近に配置されている。そして、ブレーキ開放機構を実際に作動させた場合に、それぞれの操作ロープをそれぞれのレバーを動作させる方向に操作して移動させることで、レバーと作動片18が係合し、レバーの動作が可能となる。その他の構成およびその動作は、実地の形態1と同様であるから、同一または相等部分に同一に符号を付してその説明を省略する。
以上の実施の形態2によれば、以下のような効果が得られる。
実施の形態2では、ブレーキ開放レバーと操作ロープが常時固定されていないので操作ロープに作動片18が必要になるが、エレベータかご4の通常昇降時において、ブレーキ開放レバーが操作ロープと非接触状態とされているので、プーリと操作ロープとからの慣性モーメントによる影響を受けないという利点がある。その他、実施の形態1で得られたのと同様の効果を奏する。
尚、以上の実施の形態において、巻上機11が釣合いおもり10に搭載された例を用いて本発明にかかるエレベータ装置について説明したが、巻上機11がエレベータかご4に搭載される場合にも同様に適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明にかかるエレベータ装置は、故障によりエレベータが乗場の階間に停止して、ブレーキ装置の開閉の電気的な制御が不可能となった場合でも、保守員が地上からブレーキ開放機構を用いて機械的にブレーキ装置の開放をし、エレベータかごを最寄り階まで動かして乗客を救出することができる。また、第一及び第二の二組のブレーキ開放機構を備えているため、エレベータかご内の乗車人数に左右されずに、その乗車状況に応じたブレーキ開放機構を選択して、より安定したブレーキ装置の開放操作を容易かつ確実に行うことができる。したがって、エレベータかご又は釣合いおもりに巻上機が搭載された省スペースを目的としたエレベータにおいて、本発明は非常時の安全性がより向上したエレベータとして有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内を昇降するエレベータかごと、
前記昇降路内を前記エレベータかごと反対方向に昇降する釣合いおもりと、
前記エレベータかご又は前記釣合いおもりのいずれかに搭載された巻上機と、
前記巻上機の駆動シーブに巻き掛けられ、前記エレベータかご及び前記釣合いおもりを懸架する主索と、
前記巻上機に設けられ、制動バネにより前記巻上機を制動させるとともに、励磁された電磁石により前記制動バネに抗して前記巻上機の制動を解除させるブレーキ装置と、
前記ブレーキ装置とは別に設けられ、機械的に前記制動バネに抗して前記ブレーキ装置の制動を解除させるブレーキ開放機構とを備えたことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
前記ブレーキ開放機構は、
前記制動バネを後退させて前記ブレーキ装置の制動を解除させるためのブレーキ開放レバーと、
前記エレベータかご又は前記釣合いおもりのいずれかの昇降区間より上方及び下方にそれぞれ配置された一対のプーリに巻き掛けられて、前記プーリ間に環状に張り渡され、前記ブレーキ開放レバーを操作するための操作ロープと、
前記ブレーキ開放レバーと前記操作ロープとを連結する連結手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ装置。
【請求項3】
前記ブレーキ開放レバーは、その支点が前記エレベータかご又は前記釣合いおもりの枠体に取り付けられた電磁石の筐体に支持されていることを特徴とする請求項2記載のエレベータ装置。
【請求項4】
前記ブレーキ開放機構は、第一及び第二の二組のブレーキ開放機構から構成され、
第一の一対のプーリと第一の操作ロープと第一のブレーキ開放レバーとを備え、前記第一の操作ロープが上方に引き上げられて前記ブレーキ装置の制動を解除させる第一のブレーキ開放機構と、
第二の一対のプーリと第二の操作ロープと第二のブレーキ開放レバーとを備え、前記第二の操作ロープが下方に引き下げられて前記ブレーキ装置の制動を解除させる第二のブレーキ開放機構とを備えたことを特徴とする請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項5】
前記第一及び第二のブレーキ開放レバーは、ともに前記電磁石の筐体を支点として用いており、
前記第一のブレーキ開放レバーは、その第一の開放レバー用支点が前記電磁石の筐体に支持されており、
前記第二のブレーキ開放レバーは、その第二の開放レバー用支点が前記電磁石の筐体に当接されていることを特徴とする請求項4に記載のエレベータ装置。
【請求項6】
前記ブレーキ装置は、励磁された電磁石が押動体を駆動することで、前記制動バネに抗して前記巻上機の制動を解除させるように構成されており、
前記第一及び第二のブレーキ開放レバーは、それぞれが前記押動体に係合する第一の開放レバー係合部及び第二の開放レバー係合部を有し、
前記第一の開放レバー係合部又は前記第二の開放レバー係合部が、それぞれ前記押動体を駆動することで、前記ブレーキ装置の制動を解除させるようにしたことを特徴とする請求項4又は5に記載のエレベータ装置。
【請求項7】
前記第一の開放レバー係合部は、前記第一のブレーキ開放レバーに設けられた貫通穴に前記押動体が挿通した状態で係合しており、
前記第二の開放レバー係合部は、前記押動体に回動可能に結合されていることを特徴とする請求項6に記載のエレベータ装置。
【請求項8】
前記プーリを合成樹脂製とし、前記操作ロープを合成繊維製としたことを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のエレベータ装置。
【請求項9】
前記エレベータかごの通常昇降時には、前記ブレーキ開放レバーを前記エレベータかご又は前記釣合いおもりの枠体に固定した状態に保持し、前記操作ロープにより前記ブレーキ開放レバーを動作させる場合には、前記操作ロープに所定の力が加えられることにより前記ブレーキ開放レバーの固定を解除する固定手段を備えたことを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載のエレベータ装置。

【国際公開番号】WO2004/067428
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567515(P2004−567515)
【国際出願番号】PCT/JP2003/000775
【国際出願日】平成15年1月28日(2003.1.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】