説明

エレベータ

【課題】エレベータの巻上機の振動が建物に伝わるのを極力防ぐ。
【解決手段】巻上機11を支持する支持部材12にアクティブ型の制振装置21を振動センサ20と共に設置しておき、振動センサ20によって検出される振動と逆位相の振動を支持部材12に与えて制振する。これにより、巻上機11の振動が支持部材12を介して建物に伝わるのを極力防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機の駆動により乗りかごを昇降動作させるエレベータに係り、特に巻上機の振動を低減するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の省スペース化に伴い、巻上機を小型化して昇降路内に設置したマシンルームレス型のエレベータが普及している。このマシンルームレス型のエレベータでは、昇降路内で巻上機が駆動され、その巻上機のシーブに巻き掛けられたロープを介して乗りかごがカウンタウェイトと共に昇降動作する。
【0003】
その際、巻上機の振動が梁などを介して建物側に伝わるといった問題がある。特に、ロープの細径化により、シーブの径も小さくなるため、そのシーブが高速回転することで、およそ50Hz以上の高周波の振動が発生する。このような高周波の振動は、建物側の住居の壁などに響いて騒音の原因となる。
【0004】
従来、エレベータの制振構造として、例えば巻上機の下に防振ゴムを取り付けたり、あるいは、特許文献1のように巻上機の支持部材(マシンベッド)に吸音効果のある樹脂を塗布し、さらに、その支持部材の表面を吸音材で覆うなどして、巻上機の振動を吸収するといった方法が知られている。
【特許文献1】特開平7−69569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、防振ゴムや吸音材などを用いて巻上機の振動を吸収する方法では、上述したような騒音の原因となる高周波の振動を取り除くことは難しく、建物側への影響を回避できないのが現状である。
【0006】
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、巻上機の振動が建物に伝わるのを極力低減することのできるエレベータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレベータは、巻上機と、この巻上機を支持する支持部材と、この支持部材に振動センサと共に設置され、上記振動センサによって検出される振動と逆位相の振動を上記支持部材に与えて制振するアクティブ型の制振装置とを具備して構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エレベータの巻上機から建物へ伝わる振動を極力低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係るマシンルームレス型のエレベータの構成を示す図である。
【0011】
このエレベータは、図示しない制御盤を含め、巻上機11などの機器類が小型化されて昇降路10内に配置されている。巻上機11は、昇降路10の上部に水平方向に架設された支持部材12に受台13を介して設置されている。なお、支持部材12は、例えば鉄製の強固な部材(建物の梁を利用することも可能)からなる。また、巻上機11の底部に取り付けられた受台13は、例えば防振ゴムなどの吸音部材からなる。
【0012】
巻上機11の回転軸11aにはメインシーブ14が回転自在に取り付けられ、そのメインシーブ14にはロープ15が巻き掛けられている。ロープ15の両端部は昇降路10の所定の箇所に設けられたヒッチ部に固定されており、乗りかご16はかご下シーブ17a,17bを介して図示せぬカウンタウェイトと共に2:1ローピング方式で支えられている。
【0013】
なお、図1の例では、ロープ15が1本しか図示していないが、実際には複数本のロープ15がメインシーブ14、かご下シーブ17a,17bなどに巻き掛けられている。
【0014】
乗りかご16は、一対のガイドレール18a,18bに摺動自在に支持され、巻上機11の駆動により、ロープ15を介してカウンタウェイトと共に昇降動作する。また、ガイドレール18a,18bは支持部材12に連結されており、その支持部材12の端部は建物の側壁19に固定されているものとする。
【0015】
このような構成において、巻上機11の駆動に伴って振動が発生し、それが巻上機11の周囲に伝わるといった問題がある。特に、ロープ15の強度向上により細径化が進むと、それに伴ってメインシーブ14の径も小さくなるため、高速回転により、およそ50Hz以上の高周波の振動が生じ易くなる。この高周波の振動は、支持部材12を介して建物の側壁19に伝わり、例えば住居の壁などに響いて騒音の原因となる。
【0016】
このような巻上機11の高周波振動を低減するため、支持部材12に対して振動センサ20とアクティブ型の制振装置21が設けられている。
【0017】
振動センサ20は、例えば加速度センサからなり、その設置箇所で生じている振動を検出する。制振装置21は、この振動センサ20によって検出された振動信号に基づいて重り22を所定方向に動かすことで、制振対象(この例では支持部材12)に制振のための振動を与える。なお、この制振装置21の具体的な構成については、後に図5を参照して説明する。
【0018】
本実施形態において、この制振装置21は、支持部材12の裏側(すなわち、巻上機11とは反対側の面)に振動センサ20と共に設けられている。巻上機11の駆動時に支持部材12に伝わる振動は、その支持部材12上に設けられた振動センサ20にて検出される。制振装置21は、この振動センサ20によって検出された振動信号に基づいて内部の重り22を動かして、支持部材12の振動とは逆位相の振動を発生させる。これにより、支持部材12に対して制振用の振動が与えられ、巻上機11からの振動が相殺される。その結果、巻上機11から支持部材12を介して建物の側壁19へ伝わる振動を防ぐことができる。
【0019】
なお、図1に示した構成では、振動センサ20と制振装置21を支持部材12の裏側に設けたが、図2または図3に示すように、支持部材12の表側に設置することでも良い。図2は振動センサ20と制振装置21を支持部材12の建物側に巻上機11と並べて設置した場合、図3は振動センサ20と制振装置21を支持部材12の建物とは反対側に巻上機11と並べて設置した場合を示している。
【0020】
支持部材12のどの面であっても、巻上機11の近傍に制振装置21を設置しておけば制振効果を期待できる。また、測定器等を用いて支持部材12上で振動が大きく表れる箇所を調べておき、そこに制振装置21を設置しておけば、より効果的である。
【0021】
また、図1では、巻上機11が支持部材12上に載置された構成を示したが、実際には、図4に示すようなマシンベッド31上に巻上機11を載置する構成が一般的である。このマシンベッド31は、エレベータの機器類を載せておくための台座であり、例えば建物の構造材である梁の延長部である支持部材12の上に受台32を介して設置される。また、マシンベッド31の底部に取り付けられた受台32は、例えば防振ゴムなどの吸音部材からなる。
【0022】
図4のようにマシンベッド31上に巻上機11が載置された構成では、そのマシンベッド31に対して制振装置21を振動センサ20と共に設置しておく。巻上機11からマシンベッド31に伝わる振動は振動センサ20によって検出される。この振動センサ20によって検出された振動信号に基づいて制振装置21が駆動されて、制振のための振動がマシンベッド31に与えられる。これにより、巻上機11からマシンベッド31を介して建物の側壁19に伝わる振動を低減して、その影響を防ぐことができる。
【0023】
次に、図5および図6を参照して、制振装置21の具体的な構成とその駆動制御の方法について説明する。
【0024】
図5に示すように、制振装置21は、ケーシング23内に鉄等の磁性体からなる重り22を有する。この重り22は、ケージング23内の中央部分に配設された支持板24を介して図中の矢印a,b方向に変位自在に支持されている。
【0025】
支持板24の両端部には弾性体25a,25bが設けられ、その弾性体25a,25bと固定器具26a,26bを介してケーシング23内に取り付けられている。また、このケーシング23内には、重り22を挟むようにして一対の電磁石27a,27bが設けられている。
【0026】
この電磁石27a,27bが励磁されると、そのときに発生する電磁力により磁性体である重り22が矢印方向に動き、その反力がケーシング23に作用する。したがって、このケーシング23の振動が制振対象への制振力となるように電磁石27a,27bを励磁制御すれば、巻上機11からの振動を相殺することができる。
【0027】
なお、このような重り22を駆動する制振装置21はAMD(Active Mass Damper)として一般的であるが、通常は、様々な振動周波数に対応させるために、リニア同期モータなどを用いて重り22を大きく動作させる必要がある。これに対し、本実施形態では、エレベータの巻上機11から発せられる所定周波数(約50Hz)以上の振動成分を除去すればよいので、重り22を大きく動作させる必要はない。これは、同じ制振力であれば、周波数が高いほど、重り22の変位は原理上小さて済むからである。したがって、大型の電磁石27a,27bを用いることなく、小型で簡易な構成の制振装置21を実現できる。
【0028】
図6に制振装置21を駆動制御するための構成を示す。
【0029】
制振装置21の近くに振動センサ20を設置しておく。この振動センサ20の信号を昇降路10内の所定の場所に設けられた制御装置40に取り込む。制御装置40は、汎用のコンピュータからなり、A/D変換器41、ハイパスフィルタ42、積分器43、ゲイン調整器44、電磁力分配演算器45、D/A変換器46,47を備える。
【0030】
上記振動センサ20の信号は、A/D変換器41を介してハイパスフィルタ42に与えられ、そこで所定周波数(約50Hz)以上の振動成分が抽出される。このハイパスフィルタ42によって抽出された高周波の振動成分を積分器43にて数値積分し、さらにゲイン調整器44にて所定のゲインを乗じることで制振信号を生成する。
【0031】
ここで、制振装置21に備えられた電磁石27a,27bは、それぞれ重り22を吸引する方向の電磁力しか発生できない。そこで、電磁力分配演算器45において、例えば重り22を上方向(矢印a方向)に振る瞬間は一方の電磁石27aの電磁力による吸引作用を大きくし、他方の電磁石27bの電磁力による吸引作用を小さくするといったように、重り22を振るタイミングに応じて電磁石27a,27bの電磁力を分配する。
【0032】
この電磁力分配演算器45から出力される制振信号は、D/A変換器46,47を介して出力され、必要に応じてアンプ48,49にて増幅された後、電磁石27a,27に与えられる。これにより、電磁石27a,27bが励磁駆動され、そのときに発生した電磁力によって重り22が動いて、その反動によりケーシング23自体が振動することになる。
【0033】
このように、エレベータの巻上機11を支持する部材(支持部材12またはマシンベッド31)に、制振装置21を振動センサ20と共に設置しておき、振動センサ20によって検出される振動信号に基づいて制振装置21を駆動することで、巻上機11から支持部材を介して建物の側壁19を伝わる振動を低減して、建物の隣室居室などへの影響を防ぐことができる。
【0034】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0035】
図7は本発明の第2の実施形態に係るマシンルームレス型のエレベータの構成を示す図である。上記第1の実施形態と異なる点は、制振装置21に代わって制振装置50が用いられていることである。
【0036】
この制振装置50は、電磁石51と磁性体52とから構成される。磁性体52は、例えば鉄板などであり、制振対象の特に振動の大きい箇所に固定される。図7の例では、巻上機11を支持しているマシンベッド31の裏側に磁性体52が固定されている。
【0037】
この磁性体52に対向させて電磁石51が所定の間隔を空けて配置される。図7の例では、マシンベッド31が弾性部材からなる受台32を介して支持部材12に支持されており、その支持部材12上の磁性体52と対向する位置に1つの電磁石51が設けられている。
【0038】
また、磁性体52の近傍に振動センサ20が設置されており、その振動センサ20によって検出される振動信号が制御装置53に取り込まれる。制御装置53は、汎用のコンピュータからなり、所定周波数(約50Hz)以上の振動成分を抽出し、その振動成分を低減するための制振信号を生成する機能を備える。なお、制御装置53は、図6に示した制御装置40から45〜47を除いた構成からなる。
【0039】
この制御装置53によって生成された制振信号は、必要に応じてアンプ54で増幅された後、制振装置50の電磁石51に与えられる。これにより、電磁石51が励磁駆動され、その電磁石51の電磁力の作用によって、マシンベッド31の制振箇所に取り付けられた磁性体52が振動することになる。したがって、マシンベッド31の振動と逆位相の振動をマシンベッド31に与えるように電磁石51を励磁制御すれば、巻上機11からマシンベッド31を介して建物の側壁19側に伝わることを防止できる。
【0040】
このように、制振装置50を用いてマシンベッド31に対して直接的に制振用の振動を与えるような構成であっても、上記第1の実施形態と同様の効果が得られる。さらに、この制振装置50では、重りなどの部品を必要としないため、非常に簡易な構成で実現できるといった利点がある。
【0041】
なお、図7の例は、巻上機11がマシンベッド31上に設置された場合であるが、図1のような支持部材12の上に巻上機11が設置された構成であっても適用可能である。この場合、支持部材12の制振箇所に振動センサ20と共に磁性体52を設け、その磁性体52に対向させるように電磁石51を配置すれば良い。
【0042】
また、上記各実施形態では、マシンルームレス型のエレベータを例にして説明したが、本発明はマシンルーム型のエレベータにも適用可能である。マシンルーム型のエレベータでは、建物の機械室内に巻上機11が設けられる。したがって、この機械室内において、巻上機11を支持している部材(例えばマシンベッド)に対し、上述した制振装置21または制振装置50を設置すれば良い。
【0043】
さらに、図8および図9に示すように、エレベータのガイドレール18aと建物の梁61とを連結するブラケット62の近傍に制振装置21,50を設置することでも良い。
【0044】
図8は上記第1の実施形態における制振装置21をブラケット62近傍に設けた場合の例を示す図である。建物の梁61に対して、制振装置21を振動センサ20と共に設置しておき、その振動センサ20の信号によって制振装置21の重り22も動かすことで建物の梁61に制振用の振動を与える。これにより、巻上機11の振動が支持部材12を介して最終的に建物側に伝わるブラケット62の近傍で制振できる。
【0045】
図9は上記第2の実施形態における制振装置50をブラケット62近傍に設けた場合の例を示す図である。建物の梁61に対して、制振装置50と共に振動センサ20を設置しておき、その振動センサ20の信号によって制振装置50電磁石51を励磁駆動して磁性体52に制振用の振動を与える。図9の例では、磁性体52がガイドレール18aに取り付けられている。したがって、ガイドレール18aで制振作用が働き、そこから建物側に伝わる振動を低減できる。
【0046】
その他、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態に係るマシンルームレス型のエレベータの構成を示す図である。
【図2】図2は同実施形態における振動センサと制振装置を支持部材の建物側に巻上機と並べて設置した場合の構成を示す図である。
【図3】図3は同実施形態における振動センサと制振装置を支持部材の建物とは反対側に巻上機と並べて設置した場合の構成を示す図である。
【図4】図4は同実施形態における巻上機をマシンベッド上に載置した場合の構成を示す図である。
【図5】図5は同実施形態における制振装置の具体的な構成を示す図である。
【図6】図6は同実施形態における制振装置を駆動制御する制御装置の構成を示す図である。
【図7】図7は本発明の第2の実施形態に係るマシンルームレス型のエレベータの構成を示す図である。
【図8】図8は上記第1の実施形態における制振装置をブラケット近傍に設けた場合の例を示す図である。
【図9】図9は上記第2の実施形態における制振装置をブラケット近傍に設けた場合の例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10…昇降路、11…巻上機、11a…回転軸、12…支持部材、13…受台、14…メインシーブ、15…ロープ、16…乗りかご、17a,17b…かご下シーブ、18a,18b…ガイドレール、19…建物の側壁、20…振動センサ、21…制振装置、22…重り、23…ケーシング、24…支持板、25a,25b…弾性体、26a,26b…固定器具、27a,27b…電磁石、31…マシンベッド、32…受台、40…制御装置、41…A/D変換器、42…ハイパスフィルタ、43…積分器、44…ゲイン調整器、45…電磁力分配演算器、46,47…D/A変換器、48,49…AMP、50…制振装置、51…電磁石、52…磁性体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機と、
この巻上機を支持する支持部材と、
この支持部材に振動センサと共に設置され、上記振動センサによって検出される振動と逆位相の振動を上記支持部材に与えて制振するアクティブ型の制振装置と
を具備したことを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
上記制振装置は、上記支持部材の上記巻上機の近傍に設置されることを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項3】
上記制振装置は、上記支持部材の最も振動が大きい箇所に設置されることを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項4】
上記制振装置は、上記支持部材に取り付けられるケーシングと、このケーシング内に所定の方向に変位自在に支持された磁性体と、上記ケーシング内に上記磁性体に対向させて配置された電磁石とを備え、上記電磁石の電磁力の作用により上記磁性体を上記所定の方向に動かすことで、上記ケーシングを介して上記支持部材に制振用の振動を与えるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項5】
上記制振装置は、上記支持部材上に取り付けられる磁性体と、この磁性体に対向させて配置された電磁石とを備え、上記電磁石の電磁力の作用により上記磁性体を上記所定の方向に動かすことで、上記支持部材に制振用の振動を与えるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項6】
上記振動センサから出力される振動信号から所定周波数以上の振動成分を抽出し、その振動成分を低減するように上記電磁石を励磁制御する制御装置を具備したことを特徴とする請求項4または5記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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