説明

エンコーダの信号処理回路

【課題】偏心誤差を除去するために回転軸の両側に2つの検出部を設けたエンコーダにおいて、それぞれの検出部の出力から計算される角度値の差が180°となるように検出部が取り付けられても平均化演算に支障が出ないようにすることによって、検出部の取り付けを容易にする。
【解決手段】電源ON後の初期処理において、それぞれの検出部14,16から出力される信号から計算される角度値θ1,θ2の差分Δθを初期値30として記憶する。この初期差分Δθによりθ1を補正して(32)、補正後のθ3とθ2の間で平均化処理34を行なって位置データθを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心誤差の除去のために回転軸の両側に配置された2つの検出部を有するエンコーダのための信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
エンコーダの検出誤差の1つに回転部の偏心に起因する誤差、すなわち偏心誤差がある。この偏心誤差は、例えば下記特許文献1の従来技術の項に記載されているように、回転軸の両側に2つの検出部を配置し、それぞれの出力信号から計算される角度値θ1とθ2の平均をとることによってキャンセルすることができる。
【0003】
この平均θ=(θ1+θ2)/2は、角度値の平均であるから、図1および図2に示すように、単なる値の平均ではなく平均化後の角度θがθ1とθ2の間に挟まれるようにθの値が選ばれる。
【0004】
しかしながら、例えば磁気式エンコーダのように、ステータまたはロータにあとから検出部を取り付けるタイプのエンコーダでは、検出部の取り付け方によっては、それぞれの検出部の出力信号から計算されるθ1とθ2の差が180°になる場合があり、この場合には、図3に示すようにθ′とθ″という2つの解が発生し、180°のずれを生じる恐れがある。
【0005】
したがって従来では、これを回避するためにθ1とθ2の差が180°にならないように検出部の位置関係に注意して検出部を取り付ける必要があり、検出部の取り付けに時間がかかるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特許第3195117号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、偏心誤差の除去のために回転軸の両側に2つの検出部を配置したエンコーダにおいて、検出部の取り付けが容易な信号処理回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、回転軸の両側に配置された第1および第2の検出部の出力信号を処理して位置データを算出するエンコーダの信号処理回路であって、該第1および第2の検出部の出力信号からそれぞれ第1および第2の角度値を算出する角度値算出手段と、該第1および第2の角度値の角度差の初期値を記憶する初期差分記憶手段と、該第1および第2の角度値のいずれか一方を該初期差分記憶手段が記憶する角度差の初期値により補正する補正手段と、該補正手段により補正された後の2つの角度値の平均をとることにより、位置データを算出する位置データ算出手段とを具備するエンコーダの信号処理回路が提供される。
【発明の効果】
【0009】
第1および第2の角度値のいずれか一方を両者の差の初期値で補正することにより、補正前の角度値に検出部の位置関係に応じた違いがあっても補正後においては両者は近い値となるので、検出部をどの様な位置関係で取り付けたとしても両者の差が180°となって2つの解が生じることを回避することができて、検出部の取り付けが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図4は本発明のエンコーダの信号処理回路の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0011】
アナログ部10においては、回転部12の近傍に取り付けられた検出部14から回転部12の回転に伴って90°の位相差を有する2つの正弦波信号A1,B1が出力される。回転部12をはさんで検出部14に対向して取り付けられた検出部16からも同様に、正弦波信号A2,B2が出力される。アナログ部10とディジタル部18との境界となるアナログ/ディジタル変換部20,22においては、アナログ値A1,B1,A2,B2がそれぞれディジタル値A1D,B1D,A2D,B2Dに変換される。内挿回路24においては、ディジタル値A1D,B1Dから周知の手法により角度値θ1が算出されて出力される。内挿回路26においても同様に、ディジタル値A2D,B2Dから角度値θ2が算出され出力される。
【0012】
Δθ演算部28においては、Δθ=θ2−θ1(またはθ1−θ2)が計算され、検出部14,16の取り付け後、かつ、エンコーダの運用開始前において、或いは電源ON後の初期処理において、Δθの値がメモリ30に記憶される。Δθの値を複数回測定してその平均値をΔθとして記憶するようにしても良い。補正部32においては、θ1(またはθ2)の値にメモリ30に記憶されているΔθの値が加算されてθ3=θ1+Δθにより補正が行なわれる。
【0013】
位置データ算出部34においては、補正後のθ3とθ2との間で平均化演算θ=(θ3+θ2)/2が行なわれ、その結果が位置データθとして出力される。
【0014】
このように、角度値θ1に初期差分Δθを加えて補正することにより、検出部14,16の位置関係に応じた初期の位相差はキャンセルされ、θ1とθ2の差が180°となる事態を回避することができる。すなわち、検出部14,16の取り付けの際に、それぞれの出力信号から計算される角度値の差が180°にならないように配慮する必要がなくなる。
【0015】
図5は本発明の第2の実施形態に示す。本実施形態においては図4の構成にさらにアラーム処理部36が追加される。アラーム処理部36は予め定めた値をθALMとして、180°−θALM<θ3−θ2<180°+θALMのとき、すなわち、補正後の角度値の差θ3−θ2が180°からθALM以内にあるときアラームを出力する。
【0016】
こうすることにより、電源ON後に検出部の取り付け位置がずれたり、壊れるなどして補正後の位相差が180°の近傍の値になり異常値が出力される恐れがあることを知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】角度値の平均を説明する図である。
【図2】角度値の平均を説明する図である。
【図3】角度差が180°のときの平均化の問題を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の両側に配置された第1および第2の検出部の出力信号を処理して位置データを算出するエンコーダの信号処理回路であって、
該第1および第2の検出部の出力信号からそれぞれ第1および第2の角度値を算出する角度値算出手段と、
該第1および第2の角度値の角度差の初期値を記憶する初期差分記憶手段と、
該第1および第2の角度値のいずれか一方を該初期差分記憶手段が記憶する角度差の初期値により補正する補正手段と、
該補正手段により補正された後の2つの角度値の平均をとることにより、位置データを算出する位置データ算出手段とを具備するエンコーダの信号処理回路。
【請求項2】
前記補正手段により補正された後の2つの角度値の差が所定の範囲内にあるときアラームを出力するアラーム出力手段をさらに具備する請求項1記載のエンコーダの信号処理回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−147488(P2007−147488A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343478(P2005−343478)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】