説明

エンジンのシール構造

【課題】 燃焼ガスの漏れを防止するシール構造の簡素化を図ることにより、エンジンの製造コストを引き下げる。
【解決手段】 シリンダブロック15にはシリンダボア42を囲うように環状の収容溝41が形成され、シリンダヘッド20には収容溝41に対向するように環状の収容溝44が形成されている。シリンダブロック15とシリンダヘッド20との収容溝41,44に収容されるシールリング46は、シリンダブロック15やシリンダヘッド20を形成するアルミ合金よりも線熱膨張係数の小さな鉄を用いて形成されるため、エンジンの温度上昇に伴ってシリンダブロック15やシリンダヘッド20に対してシールリング46を密着させることができ、簡単な構造を備える低コストのシールリング46によって燃焼ガスの漏れを防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室から燃焼ガスの漏れを防止するエンジンのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンを往復動自在に収容するシリンダブロックの上部には、動弁機構を備えるシリンダヘッドが組み付けられており、ピストン、シリンダブロック、シリンダヘッドによって燃焼室が区画されている。エンジンを駆動する際には、ピストンを下死点方向に移動させて燃焼室内に混合気を取り込んだ後に、ピストンを上死点方向に移動させて燃焼室内の混合気を圧縮する。そして、圧縮された混合気を燃焼させることにより、燃焼圧力によってピストンを押し下げるとともにクランク軸を回転させている。このように、燃焼室内に生じる高圧力の燃焼ガスによってエンジンが駆動されるため、エンジンを正常に駆動するためには燃焼ガスの吹き抜けを防止する必要があり、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間にはヘッドガスケットが挟み込まれるようになっている。
【0003】
このようなヘッドガスケットの基本構造としては、薄板の鉄板によって形成される芯材にグラファイト等のシート材料を貼り付けるようにしたスチールベストタイプや、グラファイト等のシート材料を薄板の鉄板によって挟み込むようにしたサンドイッチタイプがある。また、燃焼ガスの圧力上昇に伴って機械的強度を向上させるため、鉄板やステンレス板を単層状態あるいは積層状態で用いるようにしたメタルガスケットなどがある(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−182341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述したヘッドガスケットにあっては、ヘッドガスケットにかかる面圧を高い状態に保持するビードを形成したり、燃焼ガスの吹き抜けを防止するためシリンダボアを囲うようにグロメット部を形成したりする必要があるため、ヘッドガスケットの製造コストが増大する傾向にあり、エンジンの製造コストを引き上げる要因となっていた。また、前述したヘッドガスケットの多くは、エンジンを分解整備する際に再利用することができないため、ランニングコストを増大させてしまう要因にもなっていた。
【0005】
本発明の目的は、燃焼ガスの漏れを防止するシール構造の簡素化を図ることにより、エンジンの製造コストを引き下げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジンのシール構造は、ピストンを往復動自在に収容するシリンダ本体と、前記シリンダ本体の端面に組み付けられて燃焼室を区画するシリンダヘッドとを備えるエンジンのシール構造であって、前記ピストンを収容するシリンダボアを囲むように、前記シリンダ本体の端面に環状の第1収容溝を形成し、前記第1収容溝に対向するように、前記シリンダヘッドの端面に環状の第2収容溝を形成し、前記第1および第2収容溝によって形成される収容室に環状のシール部材を収容し、前記シリンダ本体および前記シリンダヘッドを形成する金属材料に対し、線熱膨張係数の異なる金属材料を用いて前記シール部材を形成することを特徴とする。
【0007】
本発明のエンジンのシール構造は、前記シリンダ本体および前記シリンダヘッドを形成する金属材料に比べて線熱膨張係数の小さな金属材料を用いて前記シール部材を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、それぞれに収容溝が形成されるシリンダ本体とシリンダヘッドとによって環状のシール部材を挟み込むとともに、シリンダ本体およびシリンダヘッドを形成する金属材料に対して、線熱膨張係数の異なる金属材料を用いてシール部材を形成するようにしたので、エンジンの温度上昇に伴って燃焼室の気密状態を確実に保持することができる。つまり、シリンダ本体およびシリンダヘッドの熱膨張量とシール部材の熱膨張量との差を利用することによって、シリンダ本体およびシリンダヘッドに対してシール部材を密着させることが可能となる。これにより、複雑な形状を備える従来のヘッドガスケットを用いることなく、極めて簡単な構造のシール部材によって燃焼ガスの漏れを防止することができるため、エンジンの製造コストを引き下げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態であるシール構造を備えた4サイクルエンジン10(以下、エンジンという)を示す断面図であり、図2はエンジン10の吸排気系を概略的に示す断面図である。なお、図示するエンジン10は、発電機や圧縮機の動力源として使用される汎用エンジン10となっている。
【0010】
まず、図1に示すように、エンジン10は、クランク軸11を回転自在に収容するクランクケース12と、ピストン13を往復動自在に収容するシリンダ14とを備えており、クランクケース12とシリンダ14とは一体になってシリンダ本体つまりシリンダブロック15を形成している。クランクケース12に回転自在に収容されるクランク軸11と、シリンダ14に往復動自在に収容されるピストン13とは、コネクティングロッド16を介して連結されており、ピストン13の往復運動によってクランク軸11が回転されるようになっている。なお、クランクケース12内には潤滑油Lが貯留されており、コネクティングロッド16に設けられるオイルディッパ17によって潤滑油Lが掻き上げられ、エンジン10内の各摺動部に潤滑油Lが供給されるようになっている。
【0011】
図2に示すように、シリンダブロック15の上端面には動弁装置を備えるシリンダヘッド20が組み付けられ、シリンダヘッド20、シリンダブロック15およびピストン13によって燃焼室21が区画されている。シリンダヘッド20には、燃焼室21に混合気を供給する吸気ポート22と、燃焼ガスを排出する排気ポート23とが形成されており、吸気ポート22を開閉する吸気バルブ24と、排気ポート23を開閉する排気バルブ25とが開閉自在に組み付けられている。また、吸気バルブ24と排気バルブ25とを開閉駆動するため、シリンダヘッド20にはカム26aを備えたカム軸26が回転自在に装着されている。なお、シリンダブロック15に対してシリンダヘッド20を組み付ける際には、図示しないヘッドボルトを介して締め付けられることになる。
【0012】
そして、カム軸26に平行となってシリンダヘッド20に装着されるロッカ軸27には、吸気バルブ24を開閉駆動する吸気側ロッカアーム28と、排気バルブ25を開閉駆動する排気側ロッカアーム29とが揺動自在に装着されている。さらに、クランク軸11に固定されるクランクスプロケット30と、カム軸26に固定されるカムスプロケット31との間には、クランク軸11の回転をカム軸26に伝達するタイミングチェーン32が掛け渡されており、吸気バルブ24と排気バルブ25とはクランク角に同期しながら適切なタイミングによって開閉動作を行うようになっている。
【0013】
また、図1に示すように、クランクケース12の側部にはエンジンカバー35が取り付けられ、このエンジンカバー35内にはクランク軸11に連結される冷却ファン36が収容されており、冷却ファン36によって生成される冷却風はエンジンカバー35に沿ってクランクケース12やシリンダ14等に吹き付けられる。さらに、冷却ファン36に隣接するようにリコイル機構37が設けられており、このリコイル機構37は図示しないクラッチ機構を介してクランク軸11に連結される。エンジン10を始動する際には、作業者がリコイル機構37のリコイルレバー38を引っ張ることにより、クランク軸11を始動回転させることが可能となっている。
【0014】
続いて、燃焼室21のシール構造について説明する。図3はシリンダブロック15とシリンダヘッド20との組み付け状態を示す分解斜視図である。なお、図3に示すシリンダヘッド20にあっては、その理解を容易にするため上下方向に反転させた状態で図示している。図3に示すように、シリンダブロック15の上端面40には環状の第1収容溝41が形成されており、ピストン13を収容するシリンダボア42が収容溝41によって囲まれるようになっている。また、シリンダブロック15の収容溝41に対向するように、シリンダヘッド20の下端面43には環状の第2収容溝44が形成されている。そして、シリンダブロック15やシリンダヘッド20に形成される収容溝41,44には、環状のシール部材であるシールリング46が収容されるようになっている。なお、シリンダブロック15やシリンダヘッド20はアルミ合金を用いて形成される一方、シールリング46はアルミ合金よりも線熱膨張係数の小さな鉄を用いて形成されている。
【0015】
図4(A)は図1の範囲Aで燃焼室21のシール構造を示す断面図であり、図4(B)はシリンダブロック15、シリンダヘッド20、シールリング46の膨張状態を示す説明図である。図4(A)に示すように、シールリング46は矩形の断面形状を有しており、一対の収容溝41,44によって形成される収容室45に密接するように収容されている。このようなシール構造を備えるエンジン10を始動すると、温度上昇に伴ってエンジン10を構成する各部材が膨張することになる。つまり、図4(B)に示すように、シリンダブロック15、シリンダヘッド20、シールリング46のそれぞれは、共に径方向外方に向かって膨張することになるが、アルミ合金を用いて形成されるシリンダブロック15やシリンダヘッド20の熱膨張量(矢印a)に対して、線熱膨張係数の小さな鉄を用いて形成されるシールリング46の熱膨張量(矢印b)は少ないため、シリンダブロック15やシリンダヘッド20はシールリング46を径方向外方に押し広げることになる。
【0016】
つまり、金属材料が備える線熱膨張係数の差を利用することにより、エンジン10の温度上昇に伴ってシールリング46の内周面46aにかかる面圧を高めることができ、シリンダブロック15やシリンダヘッド20に密着するシールリング46によって燃焼室21の気密状態を保つことができる。このように、複雑な形状を備える従来のヘッドガスケットを用いることなく、極めて簡単な構造のシールリング46によって燃焼ガスの漏れを防止することができるため、エンジン10の製造コストを引き下げることが可能となる。また、鉄製のシールリング46をヘッドガスケットとして用いることにより、ヘッドガスケットの機械的強度や耐へたり性を著しく向上させることができ、エンジン10を分解整備する際にもヘッドガスケットつまりシールリング46を再利用することが可能となる。しかも、シリンダブロック15にシリンダヘッド20を組み付ける際には、シリンダブロック15の上端面40から突出するシールリング46によってシリンダヘッド20の位置決めが可能になるため、シリンダブロック15とシリンダヘッド20との位置決めを行うノックピンを削減することも可能となる。
【0017】
続いて、図5(A)〜(C)は本発明の他の実施の形態であるシール構造を示す断面図である。なお、図5(A)〜(C)にあっては図4(A)に示す部位と同様の部位を示し、図4(A)の部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。まず、図5(A)に示すように、シールリング50の内周面50aに複数の溝50bを形成するようにしても良い。このような溝50bを形成することにより、シリンダブロック15やシリンダヘッド20に対するシールリング50の接触面積を減少させることができるため、シールリング50の内周面50aにかかる面圧を高めることができ、シール構造の気密性能を向上させることが可能となる。また、図5(B)に示すように、シールリング51の両端面51a,51bに環状のリップ部52a,52bを形成するようにすると、ヘッドボルトの締め付けによってシールリング51の両端面51a,51bにかかる面圧を高めることができ、シール構造の気密性能を向上させることが可能となる。さらに、図5(C)に示すように、第1,第2収容溝53,54の幅寸法を広げることによってシールリング46の外側にガス室55を形成して良い。このようなガス室55を形成することにより、エンジン始動直後の冷態時にシールリング46の内周面46aに沿って燃焼ガスが流れた場合であっても、流れた燃焼ガスをガス室55に貯留することが可能となる。
【0018】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、図示するエンジン10は、動弁機構を備える4サイクルエンジンであるが、これに限られることはなく、シリンダボアに吸気ポートや排気ポートを形成するようにした2サイクルエンジンであっても、本発明のシール構造を有効に適用することができる。
【0019】
また、シリンダブロック15やシリンダヘッド20をアルミ合金以外の金属材料を用いて形成しても良く、シールリング46を鉄以外の金属材料を用いて形成しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態であるシール構造を備えた4サイクルエンジンを示す断面図である。
【図2】エンジンの吸排気系を概略的に示す断面図である。
【図3】シリンダブロックとシリンダヘッドとの組み付け状態を示す分解斜視図である。
【図4】(A)は図1の範囲Aで燃焼室のシール構造を示す断面図であり、(B)はシリンダブロック、シリンダヘッド、シールリングの膨張状態を示す説明図である。
【図5】(A)〜(C)は本発明の他の実施の形態であるシール構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
10 エンジン
13 ピストン
15 シリンダブロック(シリンダ本体)
20 シリンダヘッド
21 燃焼室
40 上端面(端面)
41 収容溝(第1収容溝)
42 シリンダボア
43 下端面(端面)
44 収容溝(第2収容溝)
45 収容室
46 シールリング(シール部材)
50 シールリング(シール部材)
51 シールリング(シール部材)
53 収容溝(第1収容溝)
54 収容溝(第2収容溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを往復動自在に収容するシリンダ本体と、前記シリンダ本体の端面に組み付けられて燃焼室を区画するシリンダヘッドとを備えるエンジンのシール構造であって、
前記ピストンを収容するシリンダボアを囲むように、前記シリンダ本体の端面に環状の第1収容溝を形成し、
前記第1収容溝に対向するように、前記シリンダヘッドの端面に環状の第2収容溝を形成し、
前記第1および第2収容溝によって形成される収容室に環状のシール部材を収容し、
前記シリンダ本体および前記シリンダヘッドを形成する金属材料に対し、線熱膨張係数の異なる金属材料を用いて前記シール部材を形成することを特徴とするエンジンのシール構造。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンのシール構造において、前記シリンダ本体および前記シリンダヘッドを形成する金属材料に比べて線熱膨張係数の小さな金属材料を用いて前記シール部材を形成することを特徴とするエンジンのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−183520(P2006−183520A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376861(P2004−376861)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】