説明

エンジンの潤滑装置

【課題】潤滑油を簡単にすべり軸受に供給できるエンジンの潤滑装置を提供することを課題とする。
【解決手段】すべり軸受18とバランサ軸13の間の油路は、すべり軸受18の内周面63と、この内周面63で囲われるバランサ軸13の一端部の平面67との間に隙間64を設けることで、確保され、オイルポンプ30から潤滑油の一部が隙間64に供給されることにより、すべり軸受18の潤滑がなされる。
【効果】潤滑油を簡単にすべり軸受18に供給できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの内部に配置されたオイルポンプで、エンジンの各部へ潤滑油を供給するエンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの潤滑対象部に潤滑油を供給する装置として、オイルポンプで潤滑油を潤滑対象部へ圧送する圧送式の潤滑装置が知られている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図7は従来の技術の基本構成を説明する図であり、潤滑装置100では、クランク軸に間接的に連結されるバランサ軸101に、オイルポンプ102が直結されている。また、オイルポンプ102の吐出口103は、バランサ軸101の内部に軸方向に沿って形成された油路104に接続されている。さらに、油路104とすべり軸受105の内面は、供給通路106で接続され、油路104とすべり軸受107の内面は、供給通路108で接続されている。
【0004】
エンジンの運転が開始されると、クランク軸の回転と同時にバランサ軸101が回転し、オイルポンプ102が運転状態になるので、オイルポンプ102は、エンジン内のオイル溜まりから吸込んだ潤滑油を、加圧して吐出口103から吐き出す。吐出された潤滑油は、油路104及び供給通路106、108を通じて、すべり軸受105、107の内面に供給される。
【0005】
ところで、潤滑装置100では、バランサ軸101の内部に油路104及び供給通路106、108を形成させるので、加工に手間が掛かる。結果、加工費の高騰を招く。
【0006】
そこで、潤滑油を簡単にすべり軸受に供給できるエンジンの潤滑装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−200409公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、潤滑油を簡単にすべり軸受に供給できるエンジンの潤滑装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、エンジンの内部に、クランク軸又はバランサ軸に直結される形態でオイルポンプが配置され、このオイルポンプで前記エンジンの各部へ潤滑油を供給するエンジンの潤滑装置において、前記クランク軸又はバランサ軸は、軸受で回転自在にクランクケースに支持され、前記軸受のうち、前記オイルポンプに近い方がすべり軸受とされ、このすべり軸受に前記潤滑油を供給する油路は、前記すべり軸受の内周面と、この内周面で囲われる前記クランク軸又はバランサ軸の軸端の外周面との間に隙間を設けることで、確保され、前記オイルポンプから前記潤滑油の一部が前記隙間に供給されることにより、前記すべり軸受の潤滑がなされるようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、隙間は、クランク軸又はバランサ軸の軸端の一部を切除してD字断面とすることで、確保されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、油路は、すべり軸受の内周面と、この内周面で囲われるクランク軸又はバランサ軸の軸端の外周面との間に隙間を設けることで、確保され、オイルポンプから潤滑油の一部が隙間に供給されることにより、すべり軸受の潤滑がなされる。したがって、潤滑油を簡単にすべり軸受に供給することができる。請求項1によれば、潤滑油を簡単にすべり軸受に供給できるエンジンの潤滑装置を提供することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、隙間は、クランク軸又はバランサ軸の軸端の一部を切除してD字断面とすることで、確保されるので、簡単な加工で隙間を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るエンジンの要部断面図である。
【図2】オイルポンプの構造及び作用を説明する図である。
【図3】図1の3部拡大図である。
【図4】バランサ軸の軸端の斜視図である。
【図5】図3の5−5線断面図である。
【図6】すべり軸受の内側を流れる潤滑油の作用を説明する図である。
【図7】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、以下ではオイルポンプに直結される軸は、バランサ軸を例にして説明する。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、エンジン10のクランクケース11に、クランク軸12とバランサ軸13とが互いに平行となるようにして設けられている。なお、エンジン10は、OHV型の汎用エンジンである。
【0016】
クランク軸12は、クランクケース11を閉じるケースリッド14に設けられている玉軸受15と、クランクケース11に設けられているすべり軸受16とで、回転自在に両端支持されている。玉軸受は、ころがり軸受であればよく、ころ軸受であってもよい。
【0017】
また、バランサ軸13は、クランク軸12のアンバランス要素を相殺することができるように想像線で示すようなアンバランスな形状とされた回転部品であり、ケースリッド14に設けられている玉軸受17と、クランクケース11に設けられているすべり軸受18とで、回転自在に両端支持されている。ケースリッド14は、ボルト19を緩めることでクランクケース11から外すことができる。
【0018】
クランク軸12には、玉軸受15の近傍に、大径の第1駆動ギヤ21と小径の第2駆動ギヤ22とが一体形成されている。
また、バランサ軸13に第1従動ギヤ23が一体形成されており、この第1従動ギヤ23が第1駆動ギヤ21により駆動される。
【0019】
そして、クランクケース11の側壁24に、バランサ軸13の一端(ケースリッド14から遠い方の端)に直結されエンジン10の各部へ潤滑油を送るオイルポンプ30(詳細後述)を備える、潤滑装置50が設けられている。
【0020】
クランク軸12とクランクケース11はオイルシール71でシールされ、クランク軸12とケースリッド14はオイルシール72でシールされているため、潤滑油が外へ漏れる心配はない。
【0021】
クランク軸12の一端にフライホイール73が取付けられ、バランサ軸13と共にフライホイール73によりクランク軸12の円滑回転を図ることができる。次にオイルポンプ30の構造及び作用を詳細に説明する。
【0022】
図2(a)に示されるように、オイルポンプ30は、バランサ軸(図1の符号13)の一端に連結されるポンプ軸31と、このポンプ軸31に取付けられポンプ軸31で図反時計方向に回され複数(この例では4個)の歯32を有するインナーロータ33と、このインナーロータ33より多い複数(この例では5個)の内歯34を有し内歯34にインナーロータ33を収納させると共にインナーロータ33で回されるアウターロータ35と、このアウターロータ35を回転自在に収納しクランクケース(図1の符号11)の一部であるポンプハウジング部36とからなる、トロコイドポンプである。
【0023】
なお、ポンプ軸31は、クランク軸(図1の符号12)及びバランサ軸に連結されているので、エンジン(図1の符号10)運転時にはクランク軸、バランサ軸と同時にポンプ軸31及びインナーロータ33が回転する。
【0024】
さらに、インナーロータ33とアウターロータ35とで歯数が異なるため、(a)に斜線で示すようなポンプ空間37ができる。このポンプ空間37は(b)では、増大する。この容積増大により、吸引作用が起こり、油吸入部38(詳細後述)を介して潤滑油がポンプ空間37に導かれる。
【0025】
(c)でポンプ空間37が油吸入部38から油吐出部39(詳細後述)へ移り、(d)でポンプ空間37から潤滑油が油吐出部39へ吐出される。
すなわち、ポンプ空間37が容積変化し、容積が増大する過程では潤滑油が吸引され、容積が減少する過程では潤滑油が吐出される。潤滑装置(図1の符号50)の構造を次に説明する。
【0026】
図3に示されるように、潤滑装置50は、バランサ軸13の一端部51を支えるすべり軸受18に隣接して設けられているオイルポンプ30を備える。オイルポンプ30のポンプ軸31の他端41が、バランサ軸13の一端の穴52に強固に嵌合している。
【0027】
クランクケース11の側壁24には、エンジン運転時にオイル溜まり部(図1の符号74)から吸込まれた潤滑油が通る吸入油路53と、この吸入油路53とオイルポンプ30の吸入側を結ぶ油吸入部38と、オイルポンプ30の吐出側に接続される油吐出部39と、この油吐出部39に接続されオイルポンプ30から吐出された潤滑油が通る吐出油路54とが形成されている。
【0028】
すなわち、潤滑装置50では、オイルポンプ30で矢印(1)のように潤滑油を吸入し、吸入した潤滑油を加圧して、オイルポンプ30から矢印(2)のように潤滑油を吐出する。吐出された潤滑油は、すべり軸受(図1の符号16)に設けた環状溝(図1の符号75)及びコンロッド(図1の符号76)の大端部が連結されるクランク軸受(図1の符号77)に送られる。
【0029】
加えて、すべり軸受18のオイルポンプ30側の端面55に、オイルポンプ30の吐出側から潤滑油の一部が流れ込むように凹んだ油路である第1の隙間56が形成されている。また、すべり軸受18の内周面57に、第1の隙間56に続けて潤滑油が流れ込むように凹んだ油路である第2の隙間58が形成されている。さらに、すべり軸受18の内面59とバランサ軸13の一端面61との間に、第2の隙間58に続けて潤滑油が流れ込む油路である第3の隙間62が形成されている。
【0030】
そして、すべり軸受18の内周面63とバランサ軸13との間に、第3の隙間62に続けて潤滑油が流れ込む油路である第4の隙間64(詳細後述)が形成され、すべり軸受18のバランサ軸13側の端面65とバランサ軸13との間に、第4の隙間64に続けて潤滑油が流れ込む油路である第5の隙間66(詳細後述)が形成されている。次に、第4の隙間64及び第5の隙間66を構成するためのバランサ軸13の詳細構造を説明する。
【0031】
図4に示されるように、先ずバランサ軸13の一端部51を、軸方向に沿って平らに切除することにより、一端部51の外周面に平面67が形成される。この平面67とすべり軸受(図3の符号18)の内周面(図3の符号63)とで第4の隙間(図3の符号64)が構成される。
【0032】
次にバランサ軸13の一般面68に、平面67から続くように軸方向に凹んだ縦溝69を形成させる。この縦溝69とすべり軸受(図3の符号18)のバランサ軸13側の端面(図3の符号65)とで第5の隙間(図3の符号66)が構成される。次にすべり軸受とバランサ軸13と第4の隙間の関係を説明する。
【0033】
図5に示されるように、第4の隙間64は、すべり軸受18の内周面63と、バランサ軸13の一端部51に設けた平面67とで構成される隙間であると共に、すべり軸受18に潤滑油を供給する油路である。
【0034】
すなわち、すべり軸受18に潤滑油を供給する油路は、すべり軸受18の内周面63と、この内周面63で囲われるバランサ軸13の一端部51の平面67との間に第4の隙間64を設けることで、確保される。
【0035】
加えて、第4の隙間64は、バランサ軸13の一端部51の一部を切除してD字断面とすることで、確保される。したがって、簡単な加工で第4の隙間64を形成することができる。次にすべり軸受18の内側を流れる潤滑油の作用を説明する。
【0036】
図6は図3の6部拡大図に相当し、オイルポンプ30から吐出された潤滑油の一部は、矢印(3)のように第1の隙間56に流れ込み、矢印(4)のように第2の隙間58に流れ込み、矢印(5)のように第3の隙間62に流れ込み、矢印(6)のように第4の隙間64に流れ込み、矢印(7)のように第5の隙間66に流れ込む。
【0037】
したがって、オイルポンプ30から潤滑油の一部が隙間56、58、62、64、66に供給されることにより、すべり軸受18の潤滑がなされる。
【0038】
特に、すべり軸受18とバランサ軸13の間の油路は、すべり軸受18の内周面63と、この内周面63で囲われるバランサ軸13の一端部(図4の符号51)の平面67との間に第4の隙間64を設けることで、確保され、オイルポンプ30から潤滑油の一部が隙間64に供給されることにより、すべり軸受18の潤滑がなされる。したがって、潤滑油を簡単にすべり軸受18に供給することができるので、潤滑油を簡単にすべり軸受18に供給できるエンジン(図1の符号10)の潤滑装置(図4の符号50)を提供することができる。
【0039】
尚、本発明に係るオイルポンプは、実施の形態ではトロコイドポンプを適用したが、ギヤポンプやベーンポンプであってもよく、オイルポンプの形式は任意である。
また、本発明に係る潤滑装置は、エンジンに広く採用可能であるが、軽量化、小型化が厳しく求められる小型の汎用エンジンに好適である。
【0040】
加えて、本発明に係る隙間は、実施の形態ではバランサ軸の軸端をD字断面にして確保したが、すべり軸受の内周面の一部を切除して確保してもよい。また、隙間は、バランサ軸の軸端に横断面視にて、V字形の溝や凹状の溝を加工して確保してもよく、溝の断面形状は任意である。
【0041】
さらに、本発明に係るオイルポンプに直結される軸は、実施の形態ではバランサ軸を適用したが、クランク軸を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のエンジンの潤滑装置は、小型の汎用エンジンに好適である。
【符号の説明】
【0043】
10…エンジン、11…クランクケース、12…クランク軸、13…バランサ軸、18…すべり軸受、30…オイルポンプ、50…潤滑装置、63…内周面、64…第4の隙間(隙間)、67…平面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの内部に、クランク軸又はバランサ軸に直結される形態でオイルポンプが配置され、このオイルポンプで前記エンジンの各部へ潤滑油を供給するエンジンの潤滑装置において、
前記クランク軸又はバランサ軸は、軸受で回転自在にクランクケースに支持され、前記軸受のうち、前記オイルポンプに近い方がすべり軸受とされ、
このすべり軸受に前記潤滑油を供給する油路は、前記すべり軸受の内周面と、この内周面で囲われる前記クランク軸又はバランサ軸の軸端の外周面との間に隙間を設けることで、確保され、
前記オイルポンプから前記潤滑油の一部が前記隙間に供給されることにより、前記すべり軸受の潤滑がなされるようにしたことを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
前記隙間は、前記クランク軸又はバランサ軸の軸端の一部を切除してD字断面とすることで、確保されることを特徴とする請求項1記載のエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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