説明

エンジンマウントの車体への取付構造

【課題】搭載するエンジン重量の変更などによりエンジンマウントの分担加重が大きく変化した場合であっても、ラバーを変更することなく、アッパプレートとロアプレートとの間のクリアランスを適正に保つことができるエンジンマウントの取付構造を提供する。
【解決手段】エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成する一対の車体フレーム側に接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントの車体への取付構造において、前記エンジンマウントの分担加重に応じて、エンジンマウントとエンジン側との接続位置が、前記分担加重が大きいほど前記一対の車体フレームの内側に変位して、前記エンジンの支持時に前記アッパプレートとロアプレートが接触しない位置となるように、エンジンマウントを前記サイドフレームに取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成する一対の車体フレーム側に接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントの車体への取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラックなどの車両においては、エンジンを車両本体に固定する必要がある。エンジンを車両本体に固定するための技術として、エンジンフロントマウントとエンジンリヤマウントを利用することが知られている。
【0003】
図5は従来のエンジンフロントマウントの構成及び取付構造を説明する説明図である。図5の上図を用いて、従来のエンジンフロントマウントの概略構成について説明する。
エンジンフロントマウント4は、エンジン(不図示)を下方から支持するものであって、車両の左右両側部に前後方向に延在するサイドフレーム7に支持されている。また、それぞれコの字状に形成されたアッパプレート8と、ロアプレート9とが組合わされている。アッパプレート8には、ステー16を介して支持部材15が連結されている。支持部材15にエンジンを上側から連結することでエンジンを支持することができる。また、ロアプレート9は、ステー12を介して固定部材13に連結されており、該固定部材13は、サイドフレーム7に取り付けられている。
【0004】
また、アッパプレート8とロアプレート9との間には弾性変形可能なラバー(不図示)が設けられている。アッパプレート8とロアプレート9とは互いに直接には結合しておらず、前記ラバーを介して結合している。そして、エンジン3とフレーム7との間の振動が前記ラバーによって吸収される。
このようなエンジンフロントマウントは例えば特許文献1などに開示されている。
【0005】
このような構成のエンジンフロントマウント4においては、アッパプレート8とロアプレート9との間には、2箇所にクリアランスが生じる。ここで、該2箇所のクリアランスのうち、上側に生じるクリアランスを車両上側クリアランス21、下側に生じるクリアランスを車両下側クリアランス22とする。支持部材15にエンジンを連結したエンジン支持(搭載)時に、車両上側クリアランス21と、車両下側クリアランス22とが等しくなることが好ましい。該クリアランスが適正でないと、前記ラバーに設けた大変位抑制のためのロールストッパ(不図示)の当たり頻度の増大等によりキャブ振動悪化等の弊害が生じる可能性があるためである。
【0006】
そのため、エンジン搭載時に車両上側クリアランス21と、車両下側クリアランス22とを等しくするために、図5の上図に示したようにエンジン非搭載時には車両下側クリアランス22を0となり、エンジン搭載後に前記ラバーが弾性変形してアッパプレート8が変位し図5の中図に示したように車両上側クリアランス21と車両下側クリアランス22とが等しくなるような前記ラバーを選定する。
【0007】
しかしながら、搭載するエンジンを変更してエンジンフロントマウントの分担加重が大きく変わった場合、前記ラバーにかかる力が変わり、前述の選定したラバーではエンジン搭載後に車両上側クリアランスと車両下側クリアランスを等しく保つことができない。例えば、エンジンを変更してエンジンフロントマウントの分担加重が大きく増えた場合、前記ラバーにかかる力が大きくなって弾性変形が大きくなることで、アッパプレートが大きく変位し、図5の下図に示したように車両上側クリアランス21を確保することができず、キャブ振動悪化等の弊害が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平7−35826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、例えばエンジンフロントマウントの分担加重が大きく増えた場合には、前記ラバーとしてばね定数の高いものを選定することが考えられる。しかし、単純にラバーのばね定数の高くすると、それに連れてラバーの硬度も上がる。ラバーの硬度が上がるとエンジンの振動をラバーで吸収しきれず、キャブ振動等の弊害が生じる可能性がある。
【0010】
そのため、エンジンフロントマウントの分担加重が大きく変化する場合には、変化した分担荷重に対して前記車両上側クリアランス、車両下側クリアランスを適正化できるラバーを新たに開発する必要があった。
しかしながら、新たなラバーの開発には、多大な費用と時間を要するという問題がある。
【0011】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成する一対の車体フレーム側に接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントの車体への取付構造において、搭載するエンジン重量の変更などによりエンジンマウントの分担加重が大きく変化した場合であっても、前記ラバーを変更することなく、アッパプレートとロアプレートとの間のクリアランスを適正に保つことができるエンジンマウントの取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成する一対の車体フレーム側に接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントの車体への取付構造において、前記エンジンマウントの分担加重に応じて、エンジンマウントとエンジン側との接続位置が、前記分担加重が大きいほど前記一対の車体フレームの内側に変位して、前記エンジンの支持時に前記アッパプレートとロアプレートが接触しない位置となるように、エンジンマウントを前記サイドフレームに取り付けることを特徴とする。
【0013】
例えば、支持するエンジンの変更などによって前記エンジンマウントの1つであって車両の前後方向に延設されたサイドフレームに取り付けられるエンジンフロントマウントの分担加重が大きく増加する場合には、前記接続位置が前記分担加重に応じて前記増加前よりも車両内側方向となるように、サイドフレームにエンジンフロントマウントに取り付ける。これにより、エンジンフロントマウントの分担加重が大きく増加するときには、サイドフレームが開く方向のばね定数を利用して、前記クリアランスを最適化することができる。
従って、搭載するエンジンの変更などによってエンジンマウントの分担加重が変更されたときであっても、前記ラバーを変更することなく、前記接続位置の調整をするだけでアッパプレートとロアプレートとの間のクリアランスを適正に保つことができる。なお、前記クリアランスは、アッパプレートとロアプレートが接触しないように保っていればよいが、キャブ振動悪化等の弊害の発生防止の観点から、図5に示した車両上側クリアランスと車両下側クリアランスが等しくなるように保つことが好ましい。
【0014】
また、前記エンジンマウントとエンジン側とは、エンジンマウントに設けた棒状の支持部材を、エンジン側に設けた孔部に挿入して接続するものであって、前記支持部材の前記孔部に挿入する先端部と、前記孔部の支持部材挿入側とに、それぞれテーパ部を設けるとよい。前記テーパ部を設けることで、前記接続位置を変更するために、前記支持部材の位置を移動させてエンジンフロントマウントをサイドフレームに取り付けた場合であっても、スムースに前記孔部に前記支持部材を挿入することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上記載のごとく本発明によれば、エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成するサイドフレームに接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントの車体への取付構造において、搭載するエンジン重量の変更などによりエンジンマウントの分担加重が大きく変化した場合であっても、前記ラバーを変更することなく、アッパプレートとロアプレートとの間のクリアランスを適正に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例に係るエンジンマウントが適用されるトラックの前部を概略的に示す構成図である。
【図2】実施例に係るエンジンフロントマウント周辺を車両前方から見た正面図である。
【図3】実施例におけるエンジンフロントマウントの取付構造を説明する説明図である。
【図4】エンジンに取り付けられたステーと支持部材の近傍の拡大図である。
【図5】従来のエンジンフロントマウントの構成及び取付構造を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0018】
図1は、実施例に係るエンジンマウントが適用されるトラックの前部を概略的に示す構成図である。
図1に示したトラック(車両)1においては、キャブ2の下にエンジン3が配置されており、エンジン3は車両本体に固定されている。
【0019】
エンジン3を車両本体に固定するために、エンジンフロントマウント4と、エンジンリヤマウント5が用いられている。エンジンフロントマウント4は、エンジン3の前部両脇に配置されており、車両の左右両側部に前後方向に延びるサイドフレーム7に支持されるとともに、エンジン3を下方から支持している。また、エンジンリヤマウント5は、エンジン3の後部両脇に配置されており、サイドフレーム7に支持されるとともに、エンジン3を下方から支持している。なお、図1においては車体左側のみのエンジンフロントマウント4、エンジンリヤマウント5が示されている。
【0020】
図2は、実施例に係るエンジンフロントマウント周辺を車両前方から見た正面図である。
図2に示すように、エンジンフロントマウント4は、エンジン3と車両の左右両側部に延びるサイドフレーム7との間に設けられている。
エンジンフロントマウント4においては、それぞれコの字状に形成され、エンジン3側に位置するアッパプレート8と、サイドフレーム7側に位置するロアプレートが組み合わされている。
【0021】
アッパプレート8には、ステー16を介して上方を向いた棒状の支持部材15が設けられている。
また、ロアプレート9は、ステー12を介して固定部材13に連結されており、該固定部材13はサイドフレーム7に取り付けられている。
【0022】
また、アッパプレート8とロアプレート9との間には弾性変形可能なラバー14が設けられており、アッパプレート8とロアプレート9とは互いに直接結合せず、ラバー14を介して結合している。このような構成においては、アッパプレート8が前記ラバーの弾性変形により変位することができる。そして、エンジン3とフレーム7との間の振動がラバーによって吸収される。
【0023】
このような構成のエンジンフロントマウント4においては、支持部材15がエンジン3に取り付けられたステー11の開孔部(不図示)に挿入されるように、ステー11をステー16上に載置することで、エンジン3がエンジンフロントマウント4を介して車両本体側のサイドフレーム7に支持される。
【0024】
次に、図3を用いて、エンジンフロントマウント4の取付構造について説明する。
図3は、実施例におけるエンジンフロントマウントの取付構造を説明する説明図である。
【0025】
このような構成のエンジンフロントマウント4においては、アッパプレート8とロアプレート9との間には、車両上側クリアランス21と車両下側クリアランス22とが生じる。キャブ振動悪化等の弊害の発生防止の観点から、該車両上側クリアランス21と車両下側クリアランス22とがエンジン搭載時に等しくなることが好ましい。
ここで、エンジン搭載時には、エンジンの重量によりラバー14に力が加わり、該力によってラバー14が弾性変形してアッパプレート8が変位する。この弾性変形によるアッパプレート8の変位により、車両上側クリアランス21と車両下側クリアランス22とが等しくなるようなばね定数を有するラバー14を選定する。
【0026】
前述のようにラバーを選定すると、エンジン非搭載時には図3の上図に示したように車両下側クリアランス22が0となる。そして、エンジン搭載後にアッパプレート8がラバー14の弾性変形により変位して車両上側クリアランス21と下側クリアランス22とが等しい位置で停止する。
【0027】
このようなエンジンフロントマウント4において、搭載するエンジン3を変更してフロントマウント4の分担加重が大きく増加する場合の取付構造について説明する。この場合、図3の中図に示したように、エンジン非搭載時における支持部材15の位置を、エンジン変更前よりも車両内側になるように、エンジンフロントマウント4をサイドフレーム7に取り付ける。即ち、エンジン変更前のサイドフレーム7と固定部材13とのラップ部分(図3の上図におけるa)よりも、エンジン変更後のサイドフレーム7と固定部材とのラップ部分(図3の中図におけるb)が小さくなるように、サイドフレーム7に固定部材13を取り付ける。このとき、図3の中図に示すように、車両下側クリアランス22が0となっている。
【0028】
このとき、前述のフロントマウント4の分担加重が大きく増加するような変更したエンジンを搭載すると、大きく増加した分担加重によってサイドフレーム7が車両外側方向に開く。
サイドフレーム7が車両外側方向に開くことにより、支持部材15も車両外側方向にずれて、エンジン変更前の位置に移動する。そして、車両上部クリアランス21と車両下部クリアランス22が等しくなる。
【0029】
即ち、搭載するエンジンの変更などによってエンジンフロントマウント4の分担加重が大きく増加するときには、支持部材15がエンジンフロントマウント4の分担加重の増加前よりも車両内側方向に、前記分担加重に応じた位置に、サイドフレーム7にエンジンフロントマウント4(固定部材13)を取り付ける。これにより、エンジンフロントマウント4の分担加重が大きく増加するときには、サイドフレーム7が開く方向のばね定数を利用して、車両上側クリアランス21及び車両下側クリアランス22を最適化することができる。
【0030】
図4は、エンジン3に取り付けられたステー11と支持部材15の近傍の拡大図である。図4に示すように、ステー11の開孔部の支持部材15挿入側と、支持部材15の先端部それぞれをテーパ状にしておくと、前述のように支持部材の位置を移動させてエンジンフロントマウント4をサイドフレーム7に取り付けた場合であって、例えばそれぞれの中心がdだけずれた場合であっても、スムースにステー11の開孔部に支持部材15を挿入することができる。
【0031】
また、固定部材13とサイドフレーム7の取り付けを、固定部材13とサイドフレーム7それぞれに固定用の開孔を設けておき、双方の開孔を対向させてボルトなどを挿入して固定する場合、固定不在13とサイドフレーム7に設ける開孔の何れか一方又は両方を車両左右方向が長手方向となる長穴にしておくとよい。これにより、エンジンフロントマウント4(固定部材13)のサイドフレーム7への取付位置調整による支持部材15の位置調整が簡単になる。
従って、例えば車両毎などに前記取付位置調整を行えば、車両毎に車両上側クリアランス21及び車両下側クリアランス22の最適化を簡単に実施することができる。
【0032】
なお、本実施例においては、エンジンフロントマウント4について説明したが、エンジンリヤマウント5など、エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成する一対の車体フレーム側に接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントについても同様に本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成するサイドフレームに接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントの車体への取付構造において、搭載するエンジン重量の変更などによりエンジンマウントの分担加重が大きく変化した場合であっても、前記ラバーを変更することなく、アッパプレートとロアプレートとの間のクリアランスを適正に保つことができるエンジンマウントの取付構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
3 エンジン
4 エンジンフロントマウント
5 エンジンリヤマウント
7 サイドフレーム
8 アッパプレート
9 ロアプレート
11 ステー
13 ブラケット
14 ラバー
15 支持部材
21 車両上側クリアランス
22 車両下側クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側に接続されるアッパプレートと、車体を構成する一対の車体フレーム側に接続されるロアプレートと、前記アッパプレートとロアプレートとの間に介在する弾性変形可能なラバーとを有し、前記アッパプレートが前記ラバーの弾性変形により変位することが可能であって、エンジンを下側から支持するエンジンマウントの車体への取付構造において、
前記エンジンマウントの分担加重に応じて、エンジンマウントとエンジン側との接続位置が、前記分担加重が大きいほど前記一対の車体フレームの内側に変位して、前記エンジンの支持時に前記アッパプレートとロアプレートが接触しない位置となるように、エンジンマウントを前記サイドフレームに取り付けることを特徴とするエンジンマウントの車体への取付構造。
【請求項2】
前記エンジンマウントとエンジン側とは、
エンジンマウントに設けた棒状の支持部材を、エンジン側に設けた孔部に挿入して接続するものであって、
前記支持部材の前記孔部に挿入する先端部と、前記孔部の支持部材挿入側とに、それぞれテーパ部を設けたことを特徴とする請求項1記載のエンジンマウントの車体への取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131658(P2011−131658A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291511(P2009−291511)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】