説明

エンジンマウントアッセンブリ補修方法、エンジンマウント用リンクアッセンブリ補修方法、および航空機エンジン用エンジンマウント

【課題】特殊な寸法の軸受を必要とすることなく、航空機のエンジンマウントの軸受孔を補修する方法を提供する。
【解決手段】エンジンマウント構成要素36用の軸受孔38を、定期的に補修する必要がある。構成要素36が分解され、軸受が軸受孔38から取り外される。損傷を除去するように、軸受孔38の内面46が機械加工される。サイジングスリーブ40が、軸受孔38の機械加工された内面46にプレス嵌めされる外面と、軸受48の外面50にプレス嵌めされる内面と、を有するように選択される。軸受48が、サイジングスリーブ40にプレス嵌めされ、サイジングスリーブ40が、軸受孔38にプレス嵌めされる。サイジングスリーブ40の外面および軸受48の外面は、軸受48、サイジングスリーブ40およびエンジンマウント構成要素36間の相対的な変位を保持し、かつ阻止するようにスエージ加工される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、航空機のエンジンマウントを補修する方法に関し、さらに詳細には、スリーブを利用することによって、航空機のエンジンマウントに形成された軸受孔を補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は、エンジンの保持にエンジンマウントを用いる。通常、各エンジンには、複数のエンジンマウントが用いられている。数個の軸受が、各エンジンマウントに設けられ、該軸受は、それぞれ軸受孔にプレス嵌めされる。前方エンジンマウントおよび後方エンジンマウントは、航空機の翼とエンジンとの間に配置される。軸受は、エンジン推進力を航空機に伝達するように機能する。後方エンジンマウントは、航空機のハウジングとエンジンとの間に配置され、該エンジンマウント内の軸受は、翼へのエンジンの垂直運動を吸収するように機能する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
時間の経過と共に、軸受は軸受孔内で変位し、これにより、軸受孔に磨耗または損傷が生じてしまうことがある。航空機の耐用年数の間、定期的に、エンジンマウントが取り外されて、軸受孔が補修される。軸受孔の内径は、損傷を除去するため機械加工され、使用済みの軸受は、新しい軸受と交換される。軸受孔を機械加工することによって、軸受孔の内径が広がるため、通常、この機械加工された軸受孔に嵌合する特殊寸法の軸受が、在庫として保管されている。特殊寸法の軸受を入手し、かつ在庫として保管するのは、必要とされる軸受の寸法および型式の種類が多くなるため、コスト高になってしまう。
【0004】
従って、特殊な寸法の軸受を必要とすることなく、航空機のエンジンマウントの軸受孔を補修する方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、航空機のエンジンマウントに形成された軸受孔を補修する方法が提供される。
【0006】
複数のエンジンマウントは、航空機に対してエンジンを支持し、かつエンジンの運動を航空機に伝達するように機能する。各エンジンマウントは、エンジンをエンジンマウントに接続する軸受を備える。マウントの1つの形式として、リンクアッセンブリが挙げられる。リンクアッセンブリの各々は、ビームアッセンブリとリンクアッセンブリとの接続箇所に軸受を備えており、またエンジン取付けポイントに複数の軸受を備えていてもよい。時間の経過と共に、リンクアッセンブリに対して軸受が変位し、これにより、リンクアッセンブリに磨耗および損傷が生じる。このようなリンクアッセンブリは、エンジンマウントから取り外され、補修される。
【0007】
軸受を備えるリンクアームが、ビームアッセンブリから取り外される。このリンクアームの軸受孔から、軸受が取り外される。損傷を除去するため、軸受孔の内面が機械加工される。リンクアームの第1の側および第2の側において、軸受孔の内面にリンク面取部が形成される。
【0008】
軸受孔の内面にプレス嵌め(圧入)され得る直径を有するサイジングスリーブが選択される。サイジングスリーブは、新しい軸受の外面がプレス嵌めされる内側孔を有する。軸受がサイジングスリーブにプレス嵌めされ、サイジングスリーブが軸受孔にプレス嵌めされる。軸受およびサイジングスリーブをプレス嵌めすると、リンク面取部と、サイジングスリーブおよび軸受との間に空間が生じる。サイジングスリーブおよび軸受をリンクアームの外面が、リンク面取部に対してスエージ加工されて、サイジングスリーブおよび軸受がリンクアーム内に保持される。軸受およびサイジングスリーブをスエージ加工することによって、軸受、サイジングスリーブおよびリンクアーム間の相対的な変位を保持し、かつ阻止することができる。次いで、リンクアームは、リンクアッセンブリおよびエンジンマウントに組み付けられる。これと基本的に同一の補修方法が、他のエンジンマウントの軸受にも適用される。
【0009】
スエージ加工を容易にするため、軸受の半径方向中間位置に切込み部が設けられ、この切込み部は、サイジングスリーブと共に、外側にスエージ加工されて、軸受孔のリンク面取部にかしめられる半径方向外側部分となる。
【0010】
本発明の上記および他の特徴は、以下の詳細な説明ならびに添付の図面から、最もよく理解されるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、航空機用の例示的な前方エンジンマウント10の透視図である。前方エンジンマウント10は、翼に対してエンジンを支持するとともに、航空機へのエンジン推進力の伝達を補助する。前方エンジンマウント10は、ビームアッセンブリ12を備え、該アッセンブリ12は、前方エンジンマウント10を航空機の翼に接続する翼取付ポイント14を備える。ビームアッセンブリ12から、リンクアッセンブリ16が外側に延びている。リンクアッセンブリ16は、各々、エンジンを前方エンジンマウント10に接続するエンジン取付ポイントを備える。リンクアッセンブリ16の各々は、ビームアッセンブリ12とリンクアッセンブリ16との接続個所に軸受20を有する。さらに、エンジン取付けポイント18に軸受20が配置されてもよい。
【0012】
図2は、航空機用の例示的な後方エンジンマウント22の透視図である。後方エンジンマウント22は、エンジンを航空機ハウジング(特にタービン排気ケース)に対して支持するとともに、エンジンの重量による垂直運動の吸収を補助する。後方エンジンマウント22は、ビームアッセンブリ24を備え、該アッセンブリ24は、後方エンジンマウント22を航空機に接続する航空機取付ポイントを備える。ビームアッセンブリ24から、
リンクアッセンブリ28が外方に延びている。リンクアッセンブリ28は、各々、エンジンを後方エンジンマウント22に接続するエンジン取付ポイントを備える。リンクアッセンブリ28の各々は、ビームアッセンブリ24とリンクアッセンブリ28との接続箇所に軸受32を有する。さらに、エンジン取付ポイント30に軸受32が配置されてもよい。軸受132もリンクの一部であることに留意されたい。本発明は、上記個所の補修に及ぶものである。
【0013】
図3,4を参照すると、本発明の例示的な後方エンジンマウント22用のリンクアッセンブリ28が示されている。本発明は、前方エンジンマウント用のリンクアッセンブリおよび軸受132にも及ぶことを理解されたい。リンクアッセンブリ28は、リンクアーム36を備える。リンクアーム36に軸受孔38が形成され、この軸受孔38内にサイジングスリーブ40が配置される。サイジングスリーブ40は、外面42および内面44を画定する環状の形状を有する。サイジングスリーブ40は、軸受孔38内にプレス嵌め(圧入)される。すなわち、サイジングスリーブ40の外面42の直径は、軸受孔38の内面46の直径よりもわずかに大きい。
【0014】
サイジングスリーブ40内に軸受48が配置される。軸受48は、サイジングスリーブ40内にプレス嵌めされる。すなわち、軸受48の外面50の直径は、サイジングスリーブ40の内面44の直径よりもわずかに大きい。
【0015】
リンクアーム36における軸受孔38の内面46に機械加工が施される。リンクアーム36の第1の側60および第2の側62において、内面46にリンク面取部52が形成される。プレス嵌め後、リンク面取部52とサイジングスリーブ40との間にギャップ(空間)54が生じる(図5A参照)。
【0016】
以下、補修プロセスについて説明する。リンクアッセンブリ28が、前方エンジンマウント10または後方エンジンマウント22から取り外される。例示的なリンクアッセンブリ28は、既に備えられていた元の軸受48を有しており、該元の軸受48は、リンクアーム36から取り外される。元の軸受48により、通常、軸受孔38の内面46に磨耗および損傷が生じている。この損傷および磨耗を除去するために、軸受孔38の内面46が機械加工される。面取部52が内面46に形成される。この機械加工された内面46の直径は、加工前よりも大きくなっている。
【0017】
元の軸受と交換するため、元の軸受と同一または同様の寸法を有する軸受48が選択される。この軸受48は、容易に入手可能な標準の寸法または既製の寸法を有する。軸受孔38の内面および軸受48の外面50にプレス嵌めされ得るサイジングスリーブ40が選択される。サイジングスリーブ40に軸受48がプレス嵌めされる。次いで、サイジングスリーブ40および軸受48が、軸受孔38にプレス嵌めされる。実際には、このプレス嵌めは、まず、構成部品を液体窒素内で冷やすことによって収縮嵌めし、次いで、該構成部品を元に拡張させることによってなされる。
【0018】
図5Aおよび図5Bは、スエージ加工(スエージング)前と後のリンクアッセンブリ28を示している。スエージ加工の前に、サイジングスリーブ40および軸受48は、軸受孔38内にプレス嵌めされている。リンク面取部52とサイジングスリーブ40との間には、ギャップ54が生じている。図5Aから分かるように、軸受48は、半径方向外側部分108を画定する切込み部106を有し、この半径方向外側部分108は、軸受孔の面取部52に対してスエージ加工され、図5Bに示す部分110となる。軸受48およびサイジングスリーブ40をスエージ加工することによって、サイジングスリーブを軸受孔38内に保持し、かつ軸受48をサイジングスリーブ40内に保持することができる。図5Aにはスエージ加工具200が概略的に示されている。スエージ加工によって、軸受48、サイジングスリーブ40およびリンクアーム36間の相対的な移動を防ぐことができる。
【0019】
面取部は、スエージ加工された材料を受ける空間(ギャップ)を付与するものとして例示されているが、他の形状であってもよい。
【0020】
本発明の好ましい実施形態を開示したが、当業者であれば、いくつかの修正が本発明の範囲内でなされることを理解されるであろう。このため、本発明の真の範囲および内容を決定するために特許請求の範囲を検討されたい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】航空機用の例示的な前方エンジンマウントの透視図。
【図2】航空機用の例示的な後方エンジンマウントの透視図。
【図3】例示的なリンクアームアッセンブリの透視図。
【図4】例示的なリンクアームアッセンブリの分解図。
【図5A】スエージ加工前の例示的なリンクアッセンブリを示す図。
【図5B】スエージ加工後の例示的なリンクアッセンブリを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンマウントアッセンブリを補修する方法であって、
軸受孔の内面を機械加工し、該内面を拡大するステップと、
前記軸受孔にサイジングスリーブをプレス嵌めするステップと、
前記サイジングスリーブに軸受をプレス嵌めするステップと、
前記軸受孔内に前記サイジングスリーブおよび前記軸受を保持するために、前記軸受および前記サイジングスリーブを前記軸受孔の第1の側および第2の側に固定するステップと、
を含むエンジンマウントアッセンブリ補修方法。
【請求項2】
前記機械加工ステップが、前記内面を機械加工する前に、前記軸受孔から使用済みの軸受を取り外すことを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記機械加工ステップが、前記軸受孔の前記内面の損傷が除去されるまで、前記軸受孔を機械加工することを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記軸受孔にサイジングスリーブをプレス嵌めするステップが、前記軸受孔の拡大された内面の直径に対応する直径を有する外面と、前記軸受の外径に対応する直径を有する内面と、を有するサイジングスリーブを選択することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記固定ステップが、前記軸受孔の前記第1の側および前記第2の側において、前記サイジングスリーブとともに、前記軸受を前記軸受孔の空間に対してスエージ加工することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記軸受孔の前記空間に対してスエージ加工される部分を付与するように、前記軸受が半径方向の中間位置に切込み部を有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記サイジングスリーブに軸受をプレス嵌めするステップが、前記軸受孔に前記サイジングスリーブをプレス嵌めするステップの前になされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記軸受孔が、リンクアームに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
エンジンマウント用のリンクアッセンブリを補修する方法であって、
航空機からリンクアームを取り外し、該リンクアームに形成された軸受孔から使用済みの軸受を取り外すステップと、
前記軸受孔の内面を機械加工するステップと、
前記軸受孔にサイジングスリーブをプレス嵌めするステップと、
前記サイジングスリーブに軸受をプレス嵌めするステップと、
前記軸受孔内に前記軸受を保持するために、前記サイジングスリーブおよび前記軸受を前記リンクアームの第1の側および第2の側に固定するステップと、
前記航空機に前記リンクアームを組み付けるステップと、
を含むことを特徴とするエンジンマウント用リンクアッセンブリ補修方法。
【請求項10】
前記機械加工ステップが、損傷が除去されるまで前記軸受孔の前記内面を機械加工することを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記軸受孔にサイジングスリーブをプレス嵌めするステップが、機械加工された後の前記軸受孔の前記内面の直径に基づいて選択された直径を有する外面と、前記軸受の外径に対応する直径を有する内面と、を有するサイジングスリーブを選択することを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記固定ステップが、前記リンクアームの前記第1の側および前記第2の側において前記軸受をスエージ加工することを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記リンクアームの前記第1の側に隣接する個所において、前記軸受孔の前記内面に空間を形成し、前記リンクアームの前記第2の側に隣接する個所において、前記軸受孔の前記内面に空間を形成するステップを含み、
前記固定ステップにおいて、前記軸受および前記サイジングスリーブが、前記空間に対してスエージ加工されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記軸受孔の前記空間に対してスエージ加工される部分を付与するように、前記軸受が半径方向の中間位置に切込み部を有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
航空機エンジン用のエンジンマウントであって、
軸受孔を画定する内側孔を有するとともに、該内側孔の内径が、保守ステップにおいて、元の寸法よりも大きくなるように機械加工されるマウント部と、
前記内側孔にプレス嵌めされるとともに、前記内側孔の前記内径に基づいて選択された外径を有するサイジングスリーブと、
前記サイジングスリーブの内側孔にプレス嵌めされるとともに、前記サイジングスリーブの内側孔の内径よりもわずかに大きい外径を有する軸受と、
を備え、
前記軸受および前記サイジングスリーブが、前記軸受孔に固定されることを特徴とするエンジンマウント。
【請求項16】
前記軸受は、前記サイジングスリーブと共に、前記軸受孔の空間に対してスエージ加工される表面を有することを特徴とする請求項15に記載のエンジンマウント。
【請求項17】
前記軸受孔の前記空間に対してスエージ加工される部分を付与するように、前記軸受が半径方向の中間位置に切込み部を有することを特徴とする請求項16に記載のエンジンマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2008−105670(P2008−105670A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268483(P2007−268483)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION