説明

エンジン停止始動制御装置

【課題】スタータによるクランキングを適正に実施する。
【解決手段】ECU30は、所定の自動停止条件が成立した場合にエンジン20を自動停止し、その後所定の再始動条件が成立した場合にスタータ10によるクランキングを実施してエンジン20を再始動する。また、ECU30は、自動停止条件の成立後であって再始動条件の成立前にコイル16の通電制御によりリングギヤ22とピニオン15とを噛み合わせる噛み合い処理を実施するとともに、再始動条件の成立に伴いモータ11の通電制御によりピニオン15の回転を制御してクランキングを実施する。特に、ECU30は、上記噛み合い処理の実施後であって再始動条件の成立前にピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが解除されるピニオン抜けが発生したか否かを判定し、その判定結果に基づいてピニオン15の駆動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン停止始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばアクセル操作やブレーキ操作などといった停車又は発進のための動作等を検知してエンジンの自動停止及び自動再始動を行う、所謂アイドルストップ機能を備えるエンジン制御システムが知られている。このアイドルストップ制御により、エンジンの燃費低減等の効果を図っている。
【0003】
エンジン再始動では、基本的にはキー操作に伴うエンジン始動時と同様に、スタータによりエンジンの出力軸(クランク軸)に初期回転が付与される。すなわち、まず、スタータに設けられたピニオンを、ピニオン回転軸の軸線方向に押し出すことにより、クランク軸に連結されたリングギヤにピニオンを噛み合わせる。そして、スタータへの通電制御によりピニオンを回転させることでリングギヤを回転させる。これにより、クランキングが開始され、エンジンが再始動される。
【0004】
エンジン再始動時のスタータ駆動制御として、エンジンの自動停止後であってエンジン回転速度がゼロになる前に次回のエンジン再始動に備えて予めピニオンをリングギヤに噛み合わせておき、エンジン再始動要求があったときにピニオンとリングギヤとの噛み合い状態でピニオンの回転を行うことが提案されている(例えば特許文献1参照)。こうすることで、エンジン再始動を速やかに行うとともに、ピニオンがリングギヤに噛み合う際の噛み合い音が抑制されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−163818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジン自動停止後であってその再始動要求前にピニオンとリングギヤとを予め噛み合わせておく場合、その噛み合わせ後、エンジン再始動の前にピニオンとリングギヤとの噛み合いが外れてしまうことがあると考えられる。この噛み合い解除時において、噛み合い時と同様にエンジン再始動要求に伴いピニオンの回転を行った場合、ピニオンがリングギヤに噛み合っていないにもかかわらずピニオンが回転される。この場合、例えば、回転停止中のリングギヤに対し、回転状態のピニオンが噛み合わされることにより、ピニオンとリングギヤとの噛み合い音が過大になったり、あるいは両者の噛み合いがスムーズに実施できなかったりすることが懸念される。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、スタータによるクランキングを適正に実施することができるエンジン停止始動制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0009】
本発明は、所定の自動停止条件が成立した場合にエンジンを自動停止し、その後所定の再始動条件が成立した場合にスタータによるクランキングを実施して前記エンジンを再始動する自動停止始動機能を有し、前記自動停止条件の成立後であって前記再始動条件の成立前に噛み合い駆動手段の通電制御により前記エンジンの出力軸に連結されたリングギヤへ前記スタータのピニオンを噛み合わせる噛み合い処理を実施する噛み合い制御手段と、前記再始動条件の成立に伴い回転駆動手段の通電制御により前記ピニオンを回転させる回転制御手段と、を備えるエンジン停止始動制御装置に関するものである。特に、請求項1に記載の発明は、前記噛み合い制御手段による前記噛み合い処理の実施後であって前記再始動条件の成立前に前記ピニオンと前記リングギヤとの噛み合いが解除されるピニオン抜けが発生したことを判定する抜け判定手段と、前記抜け判定手段による前記ピニオン抜けの判定結果に基づいて前記ピニオンの駆動を制御する駆動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
要するに、アイドルストップ制御では、エンジン自動停止後であってエンジンの回転停止前に、次回のエンジン再始動に備えて予めピニオンをリングギヤに噛み合わせておくことがある。この場合、同噛み合わせ実施後であって次回のエンジン再始動までの期間において、例えばエンジンの出力軸が回転することにより、ピニオンとリングギヤとの噛み合いが解除されるピニオン抜けが発生することが考えられる。ここで、ピニオン抜けの発生時に、ピニオンとリングギヤとが噛み合っている(互いの歯部が噛み合ってピニオンからリングギヤへの動力伝達が行われる)ものとしてピニオンを回転させた場合、ピニオンとリングギヤとが噛み合っていないためリングギヤを適正に回転させることができず、その結果、エンジンのクランキングが適正に実施されないことが考えられる。
【0011】
その点に鑑み、本発明では、エンジン自動停止後にピニオンとリングギヤとの噛み合わせを実施した場合、その噛み合い処理の実施後であってエンジン再始動条件の成立前にピニオン抜けが発生したか否かを判定し、その判定結果に基づいてピニオンの駆動、例えばピニオンとリングギヤとの噛み合わせやピニオンの回転を制御する。これにより、エンジン自動停止後において、ピニオンとリングギヤとの噛み合い状態に応じてピニオンを駆動することができ、ひいてはスタータによるクランキングを適正に実施することができる。
【0012】
ピニオン抜けの判定結果に基づくピニオンの駆動制御として具体的には、請求項2に記載の発明のように、前記ピニオン抜けの発生なしと判定される場合に、前記再始動条件の成立に伴い前記回転制御手段により前記ピニオンの回転を開始し、前記ピニオン抜けの発生ありと判定される場合に、前記再始動条件が成立してから所定の遅延時間が経過した後に前記ピニオンの回転を開始する。
【0013】
すなわち、ピニオン抜けが発生していない場合には、ピニオンとリングギヤとが噛み合った状態が維持されているため、エンジン再始動条件の成立と同時にピニオンを回転させる。これにより、エンジン再始動を速やかに実施することができ、始動性を向上させることができる。これに対し、ピニオン抜けが発生している場合には、ピニオンとリングギヤとの噛み合いが解除されているため、エンジン再始動条件の成立に伴い直ちにピニオンを回転させるのではなく、同条件成立から所定時間経過後にピニオンの回転を開始する。この場合、仮にエンジン再始動条件の成立に伴いピニオンの噛み合い処理が再度実施されるときであっても、その噛み合いに要する時間を確保することができる。
【0014】
ピニオン抜けの判定結果に基づくピニオンの駆動制御として、請求項3に記載の発明のように、前記ピニオン抜けの発生有りと判定される場合に、同判定後であって前記再始動条件成立までの抜け発生後期間において前記噛み合い制御手段による前記噛み合い処理を実施してもよい。こうすれば、ピニオンとリングギヤとの噛み合いが解除された場合であっても、エンジン再始動条件の成立前にそれらを再度噛み合わせた状態にしておくことができる。その結果、エンジン再始動を速やかに実施することができる。
【0015】
一般に、ピニオンとリングギヤとの噛み合いは、それらの少なくとも一方の回転方向への動きを利用して行われる。したがって、ピニオン抜け発生後において噛み合い駆動手段を通電状態にしておけば、その通電期間に何等かの要因でピニオン又はリングギヤが回転方向に動いたときにその動きを利用して両者の噛み合わせを実施可能と考えられる。その点を考慮し、抜け発生後期間に噛み合い駆動手段の通電/非通電を複数回実施する構成(請求項4)や、抜け発生後期間に噛み合い駆動手段の通電を連続して実施する構成(請求項5)とする。これにより、ピニオン抜けの発生後において、次回のエンジン再始動条件の成立前にピニオンとリングギヤとを再度噛み合わせ状態にすることが可能となる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明のように、抜け発生後期間に噛み合い駆動手段の通電/非通電を複数回実施した場合には、電力消費の抑制を好適に図ることができる。すなわち、エンジン自動停止後では、基本的にはエンジンが回転停止状態にあるため、エンジンの回転停止直前に噛み合いを実施する場合に比べて、ピニオン及びリングギヤの互いの歯部が噛み合いにくいと考えられる。したがって、このような噛み合いにくい状況において噛み合い駆動手段の通電を断続的に行うことにより、電力消費の無駄を抑制することができる。
【0017】
ピニオン抜けの発生後にピニオンとリングギヤとの噛み合わせを再度実施する場合、請求項6に記載の発明のように、前記噛み合い駆動手段への電力供給を行うバッテリの電気残量を検出する手段を備え、前記抜け発生後期間において前記噛み合い処理を実施する際、前記バッテリの電気残量に基づいて前記噛み合い駆動手段の通電状態を変更してもよい。こうすることにより、バッテリ残量に応じてエンジン始動性を優先させるか又はバッテリの電力消費の抑制を優先させるかを適宜選択することができる。
【0018】
本発明は、請求項7に記載の発明のように、前記噛み合い処理の完了から所定期間が経過した後に前記噛み合い駆動手段の通電を停止し、この通電停止状態においてピニオンとリングギヤとの噛み合い状態を維持するといった構成を適用するのが望ましい。ピニオンとリングギヤとの噛み合い完了後にエンジンが回転停止した場合、エンジンの回転停止状態が保持されていれば、噛み合い駆動手段の通電を停止したとしても、例えばピニオンとリングギヤとの各歯部の摩擦力によりその噛み合い状態を維持可能と考えられる。したがって、上記構成とすることにより消費電力の節約等を効果的に図ることが可能となる。ところが、エンジン回転停止中であってピニオンがリングギヤに噛み合った状態のときに噛み合い駆動手段が非通電状態であると、例えば意図しないエンジンの揺れ等に起因してピニオンとリングギヤとの噛み合いが解除されやすいことが考えられる。したがって、上記構成を本発明に適用することにより、スタータによるリングギヤの回転を適正に実施するといった効果を好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】エンジン制御システムの全体概略構成図。
【図2】スタータ駆動制御の具体的態様を示すタイムチャート。
【図3】エンジン自動停止処理の処理手順を示すフローチャート。
【図4】ピニオン抜け判定処理の処理手順を示すフローチャート。
【図5】エンジン再始動処理の処理手順を示すフローチャート。
【図6】スタータ駆動制御の具体的態様を説明するためのタイムチャート。
【図7】位置検出信号及びコイル電流値の推移を示すタイムチャート。
【図8】電流変化量と噛み合い長さとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、エンジン制御システムのエンジン停止始動制御装置に具体化している。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射量の制御や点火時期の制御、アイドルストップ制御等を実施する。この制御システムの全体概略を示す構成図を図1に示す。
【0021】
図1において、スタータ10には、回転駆動手段としてのモータ11が設けられており、モータ11とバッテリ12との間において、モータ11の通電/非通電を切り替えるモータスイッチ部13が設けられている。モータスイッチ部13は、制御信号に基づいてそのオン/オフの状態が切り替えられる。
【0022】
モータ11には、該モータ11の通電により回転駆動されるピニオン軸14が接続されており、そのピニオン軸14の一端にピニオン15が支持されている。ピニオン15は、ピニオン軸14とピニオン15との間で動力の伝達を断続するワンウエイクラッチと一体になっている。モータ11の通電によりピニオン軸14が回転されると、そのピニオン軸14の回転に伴いピニオン15が回転される。
【0023】
また、スタータ10には、通電制御によりピニオン軸14をその軸線方向に往復動させるためのコイル16が設けられており、コイル16とバッテリ12との間において、コイル16の通電/非通電を切り替えるコイルスイッチ部17が設けられている。コイルスイッチ部17は、制御信号に基づいてコイル16の通電/非通電の状態が切り替えられる。
【0024】
詳しくは、コイル16の中空部には、鉄心18が、コイル16の軸線方向に往復動可能に挿入されている。コイル16の非通電時には、ピニオン15が、エンジン20のクランク軸21に連結されたリングギヤ22に対し非接触の状態になっている。この場合、ピニオン15からリングギヤ22への動力伝達は行われない。この状態においてコイル16が通電されると、鉄心18が、コイル16の軸線方向に沿って移動する。この鉄心18の動きに伴いレバー19が作動され、ピニオン軸14(ピニオン15)がリングギヤ22に向かって押し出される。これにより、ピニオン15の歯部とリングギヤ22の歯部とが噛み合い、ピニオン15からリングギヤ22への動力伝達が可能な状態になる。
【0025】
本システムにはIGスイッチ23が設けられており、このIGスイッチ23がオンされることにより、モータ11及びコイル16の通電が可能な状態に切り替わる。さらに、エンジン20の所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)矩形状のクランク角信号を出力するクランク角センサ24や、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温センサ、アクセルペダル25の操作量を検出するアクセルセンサ26、クラッチペダル27の操作量(クラッチストローク)を検出するクラッチセンサ28、車輪速を検出する車輪速センサ29などの各種センサが設けられている。
【0026】
ECU30は、周知のマイクロコンピュータ等を備えてなる電子制御装置であり、本システムに設けられている各種センサの検出結果等に基づいて、吸入空気量制御や燃料噴射量制御、アイドルストップ制御などの各種エンジン制御や、スタータ10の駆動制御等を実施する。スタータ10の駆動制御についてECU30は、モータスイッチ部13にオン/オフ信号を出力する出力ポートP1と、コイルスイッチ部17にオン/オフ信号を出力する出力ポートP2とを備えており、出力ポートP1,P2からの制御信号によりモータ11及びコイル16の通電状態をそれぞれ切り替える。
【0027】
上記のシステム構成において実施されるアイドルストップ制御について詳述する。アイドルストップ制御は、エンジン20のアイドル運転時に所定の自動停止条件が成立すると当該エンジン20を自動停止させるとともに、その後、所定の再始動条件が成立するとエンジン20を再始動させるものである。エンジン停止条件としては、例えば、アクセル操作量がゼロになったこと(アイドル状態になったこと)、ブレーキペダルの踏込み操作が行われたこと、車速が所定値以下まで低下したこと等の少なくともいずれかが含まれる。エンジン再始動条件としては、例えばアクセルの踏込み操作が行われたこと、ブレーキ操作量がゼロになったこと等の少なくともいずれかが含まれる。
【0028】
本システムにおいて、エンジン20の自動停止後における再始動では、エンジン再始動要求時のエンジン回転速度が第1回転速度NE1(例えば500rpm以下)よりも大きい場合には、エンジン20の燃焼制御の再開により(自立復帰により)エンジン20を再始動させる。これに対し、エンジン再始動要求時のエンジン回転速度が第1回転速度NE1以下である場合には、スタータ10によるクランキングを利用してエンジン20を再始動させる。
【0029】
エンジン再始動時のスタータ駆動制御について具体的には、ECU30は、エンジン再始動要求時(再始動条件成立時)のエンジン回転速度と第2回転速度NE2(例えば200rpm)との比較結果に基づいてその駆動態様を変更している。詳しくは、エンジン再始動要求時のエンジン回転速度が第2回転速度NE2よりも大きい場合には、まずモータ11の通電によりピニオン15をリングギヤ22の回転速度(エンジン回転速度)まで上昇させ、その後、コイル16の通電を行うことにより、回転同期状態でピニオン15をリングギヤ22に向かって押し出す。すなわち、エンジン20の自動停止後、エンジン回転速度が比較的高いうちにエンジン再始動要求があった場合には、エンジン回転中(エンジン自動停止後における惰性回転中)にピニオン15とリングギヤ22とを噛み合わせてクランキングを実施する。これにより、エンジン20の回転停止を待つことなく、エンジン20の再始動を迅速に行うようにしている。
【0030】
一方、エンジン再始動要求時のエンジン回転速度が第2回転速度NE2以下の場合には、まず所定タイミングでコイル16に通電してピニオン15をリングギヤ22に向かって押し出す。そしてその後、エンジン再始動条件の成立に伴いモータ11の通電を行うことによりピニオン15を回転させる。すなわち、エンジン20の自動停止後、その再始動要求がある前にエンジン20の回転がほぼ停止した状態になった場合には、エンジン20の回転停止直前であって再始動要求前にピニオン15とリングギヤ22との噛み合わせを実施する。そして、エンジン再始動要求があったときにピニオン15を回転させクランキングを行う。これにより、エンジン再始動要求と同時にモータ11によるクランキングを開始して、エンジン20が迅速に再始動されるようにしている。また、このエンジン再始動によれば、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いがエンジン停止直前に実施されるため、噛み合い音が大きくなるのが抑制される。
【0031】
図2は、再始動要求前にピニオン15とリングギヤ22との噛み合いを予め実施しておく場合のスタータ駆動制御の具体的態様を示すタイムチャートである。図2において、エンジン20が自動停止されることによりエンジン回転速度NEが低下した場合、未だエンジン再始動条件が成立していなければ、エンジン20の回転停止直前のタイミングt11でコイルスイッチ部17がオン状態にされてピニオン15がリングギヤ22に向かって押し出される。これにより、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが実施される。より具体的には、ピニオン15がリングギヤ22に向かって押し出されることによりピニオン15がリングギヤ22の側面に当接し、その当接後、エンジン回転の惰性によりリングギヤ22が回転方向へ動くことにより、ピニオン15及びリングギヤ22の互いの歯部が噛み合わされる。
【0032】
その後、エンジン20の回転が完全に停止した状態になると、そのタイミングt12でコイルスイッチ部17がオフ状態に切り替えられ、コイル16の通電が停止される。このとき、エンジン回転速度NEがゼロの状態、すなわちリングギヤ22の回転停止状態が保持されていれば、スタータ10に設けられた図示しないスプリングの付勢力及びピニオン15及びリングギヤ22の互いの歯部の摩擦力により、コイル16を通電状態から非通電状態への切り替え後においてその噛み合い状態が保持される。このように、本システムでは、エンジン20の回転が完全に停止した後にコイル16の通電を停止することにより、バッテリ12の電力消費の抑制や、コイル16の発熱の抑制を図るようにしている。
【0033】
ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い実施後、エンジン再始動条件が成立するまでは、その状態のまま待機する。そして、エンジン20の再始動条件の成立タイミングであるt13では、コイルスイッチ部17がオン状態にされるとともに、モータスイッチ部13がオン状態にされる。すなわち、再始動条件の成立と同時にモータ11が回転駆動され、ピニオン15によるクランキングが実施される。
【0034】
このとき、モータ11の回転駆動に伴いリングギヤ22が回転停止状態から回転状態になることにより、コイル16の非通電状態を維持した場合には、スタータ10のスプリングが作用してピニオン15がコイル側に(リングギヤ22から離間する方向に)変位し、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが解除されてしまう。そのため、タイミングt13では、コイルスイッチ部17をオン状態に切り替えることにより、エンジン20の回転開始によってピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが解除されるピニオン抜けが起きるのを抑制している。
【0035】
クランキングの開始後、エンジン20の燃焼制御によりエンジン回転速度NEが所定回転速度以上になると、そのタイミングt14でコイル16の通電が停止されるとともに、モータ11の通電が停止される。
【0036】
ところで、エンジン再始動要求前にピニオン15とリングギヤ22との噛み合いを予め実施しておく場合、その噛み合い実施後の待機中において(図2中のタイミングt12〜t13の期間において)、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが解除されるピニオン抜けが発生することが考えられる。
【0037】
より具体的には、タイミングt12〜t13の期間ではコイル16が非通電状態であり、この期間でリングギヤ22が何等かの理由(例えば、エンジン20の揺れや、車両の後退等によるクランク軸21の回転など)により回転方向に動いた場合、ピニオン15とリングギヤ22との各歯部の摩擦力が解除され、これによりスタータ10のスプリングが作用してピニオン15がリングギヤ22から離間する方向に変位することが考えられる。この場合、ピニオン抜けが発生する。かかる場合、エンジン再始動要求に伴いモータ11を駆動すると、実際にはピニオン15とリングギヤ22とが噛み合っていないにもかかわらずピニオン15が回転され、その結果、スタータ10によるクランキングに際し不都合が生じることが考えられる。
【0038】
この事象についてより詳細には、エンジン再始動要求のタイミングt13(図2参照)では、コイル16の通電が行われる。したがって、タイミングt13以前にピニオン抜けが発生した場合、その通電によりピニオン15がリングギヤ22に向かって押し出され、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが実施される。ところが、エンジン再始動要求と同時にモータ11が回転されるため、ピニオン抜けの発生時には、回転停止状態のリングギヤ22に対し、回転状態のピニオン15が噛み合わされることとなる。かかる場合、両者の噛み合いを迅速に実施できなかったり、噛み合い音が大きくなったりすることが懸念される。
【0039】
そこで、本実施形態では、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い処理の実施後であってエンジン再始動条件の成立前にピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが解除されるピニオン抜けが発生したことを判定し、その判定結果に基づいてピニオン15の駆動を制御する。より具体的には、ピニオン抜けの発生有りと判定した場合には、エンジン再始動要求に伴いコイル16の通電開始後、所定のディレイ時間が経過した後にモータ11を回転駆動する。
【0040】
図3〜図5は、本システムのエンジン自動停止処理及び再始動処理の処理手順を示すフローチャートである。以下、各処理について順に説明する。
【0041】
まず、前提となるエンジン自動停止処理について図3のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU30のマイコンにより所定周期毎に実行される。
【0042】
図3において、ステップS101では、エンジン20を自動停止させるための所定の自動停止条件の成立後であるか否かを判定し、エンジン自動停止条件の成立後であれば、ステップS102へ進み、点火及び燃料噴射を停止する。続くステップS103では、エンジン再始動条件の成立前であるか否かを判定し、再始動条件成立前であることを条件にステップS104以降へ進む。
【0043】
ステップS104では、コイル16の通電中か否かを判定する。このとき、コイル通電中でない場合にはステップS105へ進み、ピニオン15の押出しタイミングか否かを判定する。本実施形態では、エンジン20の回転停止直前をピニオン15の押出しタイミングとしており、具体的には、クランク角センサ24の出力値に基づき検出されるエンジン回転速度が所定の低回転速度(例えば100rpm)以下になったタイミングとしている。
【0044】
ピニオン15の押出しタイミングでない場合には、本ルーチンを一旦終了する。一方、ピニオン15の押出しタイミングの場合には、ステップS106へ進み、コイル16の通電を開始する。これにより、エンジン20の回転停止直前でピニオン15がリングギヤ22に向かって押し出され、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが実施される。
【0045】
続くステップS107では、エンジン20が回転停止状態であるか否かを判定する。ここでは、エンジン回転速度NEがゼロ近傍の所定回転速度(例えば数rpm)未満の状態が所定時間継続した場合に、エンジン20が回転停止状態になったと判定する。エンジン20が回転停止状態になった場合には、ステップS108へ進み、コイル16の通電を停止し、本ルーチンを終了する。
【0046】
次に、本システムにおけるピニオン抜けの判定処理について図4のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU30のマイコンにより所定周期毎に実行される。
【0047】
図4において、ステップS201では、エンジン20の自動停止中か否かを判定し、エンジン自動停止中であれば、ステップS202において、エンジン自動停止後であってエンジン20の回転停止直前にピニオン15とリングギヤ22との噛み合い処理を実施済みであるか否かを判定する。噛み合い処理を実施済みであれば、ステップS203へ進み、ピニオン抜けが発生しているか否かを判定する。
【0048】
ピニオン抜けの判定について本実施形態では、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い解除とみなすことができる要件、具体的には、
・クランク角センサ24の出力値に基づきエンジン20が正回転又は逆回転したことが検出されたこと
・エンジン20の逆回転方向へのトルクが検出されたこと
・車輪速センサ29の出力値に基づき車両が後退したことが検出されたこと
の少なくともいずれかの要件を満たす場合に、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが解除されたものとみなし、ピニオン抜けの発生有りと判定する。
【0049】
なお、車両の動きに伴う加速度を検出する加速度センサ等を用いて路面の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を備えるシステムであれば、その傾斜角検出手段により路面が所定傾斜角度以上の上り坂又は下り坂であることを検出した場合にピニオン抜けの発生有りと判定してもよい。あるいは、ナビゲーションシステムを搭載する車両であれば、そのナビゲーションシステムの地図情報に基づいて路面が所定傾斜角度以上の上り坂又は下り坂であることを検出した場合にピニオン抜けの発生有りと判定してもよい。
【0050】
ピニオン抜けの発生なしと判定される場合には、ステップS204へ進み、ピニオン抜け発生フラグFpを値0にセットし、ピニオン抜けの発生有りと判定される場合には、ステップS205へ進み、ピニオン抜け発生フラグFpに値1をセットして本ルーチンを終了する。
【0051】
次に、本システムのエンジン再始動処理の処理手順について図5のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU30のマイコンにより所定周期毎に実行される。
【0052】
図5において、ステップS301では、エンジン20の自動停止後におけるエンジン再始動条件の成立後である否かを判定する。エンジン再始動条件が成立した場合には、ステップS302へ進み、再始動条件成立時のエンジン回転速度NEが第1回転速度NE1(例えば500rpm)以下であるか否かを判定する。エンジン回転速度NEがNE1よりも大きい場合には、ステップS303へ進み、燃料噴射及び点火の再開によりエンジン20を再始動させる(自立復帰)。
【0053】
一方、エンジン回転速度NEがNE1以下の場合には、ステップS304へ進み、再始動条件成立時のエンジン回転速度NEが第2回転速度NE2(例えば200rpm)以下であるか否かを判定する。エンジン回転速度NEがNE2よりも大きい場合には、ステップS305へ進み、モータ11の通電によりピニオン15の回転速度をリングギヤ22の回転速度(エンジン回転速度)と同期させ、その後、ステップS306において、コイル16の通電によりその同期状態でピニオン15をリングギヤ22に向かって押し出す。
【0054】
さて、再始動条件成立時のエンジン回転速度NEがNE2以下の場合には、ステップS307へ進み、ピニオン抜け発生フラグFpに値1がセットされているか否かを判定する。このとき、ピニオン抜け発生フラグFpに値0がセットされている場合には、ステップS308へ進み、コイル16の通電を実施するとともにモータ11の通電を実施する。
【0055】
一方、ピニオン抜け発生フラグFpに値1がセットされている場合には、ステップS309へ進み、コイル16の通電を行う。このとき、モータ11の通電は実施しない。これにより、ピニオン15が回転停止状態においてリングギヤ22に向かって押し出される。また、ステップS310において、コイル16の通電開始から(エンジン再始動条件の成立時から)所定のディレイ時間TDが経過したか否かを判定する。ディレイ時間TDの経過前であれば、コイル16を通電状態とし、モータ11を非通電状態としてそのまま待機する。そして、ディレイ時間TDが経過した場合には、ステップS310で肯定判定されてステップS311へ進み、モータ11の通電を開始する。これにより、ピニオン15が回転され、エンジン20のクランキングが開始される。
【0056】
なお、ディレイ時間TDについて本実施形態では、コイル16の通電開始からピニオン15がリングギヤ22の位置に到達するまでの所要時間として定めてある。
【0057】
その後、ステップS312では、別ルーチンで実行されるエンジン20の燃料噴射及び点火の再開によりエンジン回転速度が所定回転速度に達したか(エンジン20が完爆したか)否かを判定し、エンジン20が完爆したと判定された場合には、ステップS313において、コイル16の通電を停止するとともにモータ11の通電を停止する。また、ピニオン抜け発生フラグFpを値0にリセットする。そして、本ルーチンを終了する。
【0058】
図6は、本システムにおけるスタータ駆動制御の具体的態様を説明するためのタイムチャートである。
【0059】
図6において、エンジン20の自動停止に伴いエンジン回転速度NEが低下していき、回転停止直前になると、そのタイミングt21でコイル16の通電が開始される。これにより、ピニオン15が押し出されてリングギヤ22と噛み合わされる。また、エンジン20の出力軸の回転が完全に停止した状態になると、そのタイミングt22でコイル16の通電が停止される。このとき、エンジン回転速度がゼロの状態が保持されている期間TAでは、スタータ10に設けられた図示しないスプリングの付勢力及びピニオン15及びリングギヤ22の各歯部の摩擦力により、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い状態が保持される。
【0060】
ところが、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いをコイル非通電の状態で維持しているときに例えばエンジン20の逆回転が発生すると、ピニオン抜けが起きたと判定され、そのタイミングt23でピニオン抜け発生フラグFpに値1がセットされる。その後、エンジン20の再始動条件が成立したときには、その成立タイミングt24でコイル16の通電が開始されることにより、ピニオン15がリングギヤ22に向かって押し出される。また、タイミングt24からディレイ時間TDが経過したタイミングt25でモータ11の通電が開始され、エンジン20のクランキングが開始される。
【0061】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0062】
ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い処理の実施後であってエンジン再始動条件の成立前にピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが解除されるピニオン抜けが発生したことを判定し、その判定結果に基づいてピニオン15の駆動を制御する構成としたため、エンジン自動停止後において、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い状態に応じてピニオン15を駆動することができる。その結果、スタータ10によるクランキングを適正に実施することができる。
【0063】
特に、ピニオン抜けの発生有りと判定された場合に、エンジン再始動要求に伴いコイル16の通電開始後、所定のディレイ時間が経過した後にモータ11を回転駆動する構成としたため、エンジン再始動条件の成立に伴いピニオン15の噛み合い処理が再度実施されるときであっても、その噛み合いに要する時間を確保することができる。これにより、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いを迅速に実施できなかったり、噛み合い音が大きくなったりするといった不都合が生じなくて済む。
【0064】
噛み合い処理の完了から所定期間が経過した後にコイル16の通電を停止した状態でピニオン15とリングギヤ22との噛み合い状態を維持する構成としたため、その通電停止中においてピニオン抜け発生のおそれが懸念されるところ、本実施形態によれば、ピニオン抜けの発生を考慮して、次回のエンジン再始動時のスタータ駆動制御を実施する構成としたため、スタータ10によるクランキングを適正に実施するといった効果を一層高めることができる。
【0065】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0066】
・上記実施形態では、ピニオン抜けの発生ありと判定した場合に、エンジン再始動要求に伴いコイル16に通電してピニオン15の押し出しを実施する構成としたが、これを変更し、ピニオン抜けの発生ありと判定した場合に、その判定後、直ちにコイル16に通電してピニオン15の押し出しを実施する構成とする。この構成によれば、エンジン再始動の要求前にピニオン15とリングギヤ22とを噛み合い状態にしておくことができ、その結果、エンジン再始動要求があったときにエンジン再始動を速やかに実施することができる。つまり、エンジン20の始動性を良好にすることができる。
【0067】
・ピニオン抜け有りの判定後直ちにピニオン15の押し出しを実施する場合に、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが再度実施されるまでコイル16の通電を継続して実施する、つまりコイル16を通電し放しにする構成とする。ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いは、基本的にはピニオン15又はリングギヤ22の回転方向への動きを利用して行われ、具体的には、コイル16の通電によりピニオン15がリングギヤ22に向かって押し出されてリングギヤ22の側面に当接した後、リングギヤ22の回転方向の動きによってピニオン15及びリングギヤ22の各歯部が噛み合わされる。したがって、ピニオン抜けの発生後、コイル16を通電し放しにすることにより、ピニオン抜けの発生後においてエンジン20の揺れ等があった場合に、その揺れ等に伴うクランク軸21の回転(リングギヤ22の回転)を利用してピニオン15とリングギヤ22とを噛み合わせることが可能となる。
【0068】
・ピニオン抜け有りの判定後直ちにピニオン15の押し出しを実施する場合に、コイル16の通電を断続して実施する、つまりコイル16の通電と非通電とを複数回実施する。この場合にも、ピニオン抜けの発生後においてエンジン20の揺れ等があった場合に、その揺れ等に伴うクランク軸21の回転を利用してピニオン15とリングギヤ22との噛み合わせを実施することができる。ただし、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いは例えばクランク軸21の回転を利用して行われるが、噛み合い処理の実施後エンジン再始動までの期間において、エンジン20の揺れ等が発生することが原則としてまれである場合には、同期間でコイル16の通電を継続したとしても、ピニオン15とリングギヤ22とを噛み合わせることができないことが考えられる。したがって、本構成とすることにより、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが実施される可能性が低い状況においてコイル16の通電を抑制し、電力消費の抑制を図ることが可能となる。
【0069】
・ピニオン抜けの発生ありと判定した後、直ちにピニオン15の押し出しを実施する場合に、コイル16の通電態様をバッテリ12の電気残量に応じて変更する構成とする。具体的には、例えば、バッテリ12の電気残量に余裕がある場合には、ピニオン抜け発生後、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが再度実施されるまでコイル16の通電を継続して実施する。これにより、エンジン20の始動性確保を優先する。逆に、そうでない場合には、ピニオン抜け発生後、コイル16の通電と非通電とを複数回実施する。これにより、バッテリ12の電力消費の抑制を優先する。こうすることにより、エンジン始動性確保とバッテリ12の電力消費抑制とのバランスを考慮しつつ、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いを実施することができる。
【0070】
・ピニオン抜け有りとの判定後、例えばクランク角センサ24の出力値に基づきエンジン20の動き(リングギヤ22の回転)があったことを検出した場合にコイル16の通電を行う構成とする。このときのコイル16の通電態様については特に限定しないが、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが再度実施されるまで、コイル16の通電を継続して実施するのが望ましい。特に、エンジン20の動きが検出される状況であれば、例えば車両が坂道にいる等であり、エンジン20の揺れが再度発生する可能性が高いと言える。したがって、上記構成とすることにより、エンジン再始動要求前にピニオン15とリングギヤ22とを噛み合わせるのに好適である。
【0071】
・上記実施形態では、ピニオン15の抜け判定を、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い解除とみなすことができる要件の成否によって実施したが、これを変更し、リングギヤ22に対するピニオン15の位置を検出する位置検出手段を設け、その位置検出手段に基づいてピニオン15の抜け判定を実施する。例えば、ピニオン15又はリングギヤ22の近傍に、光学式や磁気式などの各種位置センサを配置し、同センサにより両者の噛み合い完了を検知してもよい。あるいは、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合い時に両者のギヤ間で通電可能に構成し、同通電があった場合にピニオン15とリングギヤ22との噛み合い処理が完了したと判定してもよい。
【0072】
本構成では、例えば、エンジン自動停止後におけるピニオン15とリングギヤ22との噛み合い実施後、ピニオン15の駆動電流に所定の位置検出信号を乗せ、その位置検出信号により生じる電流に基づいてピニオン15の抜け判定を実施する。
【0073】
図7及び図8は、位置検出信号によるピニオン15の抜け判定についての説明図である。このうち、図7は、位置検出信号及びその信号に対応して流れるコイル16の電流波形の推移を示すタイムチャートである。また、図8は、電流変化量Areとピニオン15及びリングギヤ22の噛み合い状態(噛み合い長さ)との関係を示す図である。
【0074】
図7に示すように、本構成では、エンジン20の自動停止後においてピニオン15の押し出し及び噛み合わせのためのコイル通電を終了したタイミングt31後であって、エンジン再始動要求前の期間において、所定の位置検出信号を所定周期で繰り返し出力する。そして、その位置検出信号に対応するコイル16の電流変化量Areに基づいてピニオン15の抜け判定を実施する。
【0075】
詳しくは、本システムでは、ピニオン15の軸方向における位置(コイル16中における鉄心18の入り込み量)に応じてコイル16のインダクタンスが変化する構成としており、コイルインダクタンスによってピニオン15とリングギヤ22との噛み合い状態を検出することとしている。具体的には、本システムでは、ピニオン15とリングギヤ22とが噛み合った状態の場合(噛み合い長さが大きい場合)には、ピニオン15がスタータ10からより突出した位置に変位する(コイル16中への鉄心18の入り込み量が大きくなる)ことによりコイルインダクタンスが大きくなり、その結果、コイル16に流れる電流が小さくなる。一方、ピニオン15とリングギヤ22との噛み合いが外れた場合(噛み合い長さが小さい場合)には、ピニオン15がスタータ10に引き戻された位置に変位する(コイル16中への鉄心18の入り込み量が小さくなる)ことによりコイルインダクタンスが小さくなり、その結果、コイル16に流れる電流が大きくなるという関係にある。この関係を示したのが図8である。したがって、図7のタイムチャートに示すように、タイミングt32でコイル16とリングギヤ22との噛み合いが解除された場合には、その解除前に比べて位置検出信号に対応するコイル16の電流変化量Areが大きくなる。これに鑑み、本構成では、電流変化量Areが判定値Athよりも大きい場合に、ピニオン15の抜け有りと判定する。
【0076】
なお、図7では、コイル16に正電流と負電流とが流れるよう位置検出信号を設定したが、位置検出信号はこれに限定せず、コイル16に正電流か負電流が流れるよう位置検出信号を設定してもよい。
【0077】
・位置検出手段によりピニオン15の抜け判定を実施する場合、逆に、位置検出手段の検出結果に基づいてピニオン15とリングギヤ22とが噛み合ったことも判定可能と考えられる。そこで、ピニオン抜けの発生後において、位置検出手段によりピニオン15とリングギヤ22とが噛み合っていることを判定し、その判定結果に基づいてコイル16の通電制御を実施する。
【0078】
具体的には、エンジン自動停止後においてピニオン抜け有りと判定された場合に、その判定後、直ちにコイル16に通電してピニオン15の押し出しを実施する。また、そのコイル通電中において、位置検出手段によりピニオン15の噛み合い判定を実施する。そして、ピニオン15の噛み合い完了と判定された場合に、その判定から所定時間経過後にコイル16の通電を停止する。こうすることにより、噛み合い完了後における電力消費の無駄を抑制することができる。
【符号の説明】
【0079】
10…スタータ、11…モータ(回転駆動手段)、13…モータスイッチ部、14…ピニオン軸、15…ピニオン、16…コイル、17…コイルスイッチ部、18…鉄心、20…エンジン、21…クランク軸、22…リングギヤ、30…ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の自動停止条件が成立した場合にエンジンを自動停止し、その後所定の再始動条件が成立した場合にスタータによるクランキングを実施して前記エンジンを再始動する自動停止始動機能を有し、前記自動停止条件の成立後であって前記再始動条件の成立前に噛み合い駆動手段の通電制御により前記エンジンの出力軸に連結されたリングギヤへ前記スタータのピニオンを噛み合わせる噛み合い処理を実施する噛み合い制御手段と、前記再始動条件の成立に伴い回転駆動手段の通電制御により前記ピニオンを回転させる回転制御手段と、を備えるエンジン停止始動制御装置において、
前記噛み合い制御手段による前記噛み合い処理の実施後であって前記再始動条件の成立前に前記ピニオンと前記リングギヤとの噛み合いが解除されるピニオン抜けが発生したことを判定する抜け判定手段と、
前記抜け判定手段による前記ピニオン抜けの判定結果に基づいて前記ピニオンの駆動を制御する駆動制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジン停止始動制御装置。
【請求項2】
前記駆動制御手段は、前記ピニオン抜けの発生なしと判定される場合に、前記再始動条件の成立に伴い前記回転制御手段により前記ピニオンの回転を開始し、前記ピニオン抜けの発生ありと判定される場合に、前記再始動条件が成立してから所定の遅延時間が経過した後に前記ピニオンの回転を開始する請求項1に記載のエンジン停止始動制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段は、前記ピニオン抜けの発生有りと判定される場合に、同判定後であって前記再始動条件成立までの抜け発生後期間において前記噛み合い制御手段による前記噛み合い処理を実施する請求項1又は2に記載のエンジン停止始動制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御手段は、前記抜け発生後期間において前記噛み合い駆動手段の通電及び非通電を複数回実施する請求項3に記載のエンジン停止始動制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御手段は、前記抜け発生後期間において、前記噛み合い駆動手段の通電開始後、その通電を連続して実施する請求項3に記載のエンジン停止始動制御装置。
【請求項6】
前記噛み合い駆動手段への電力供給を行うバッテリの電気残量を検出する手段を備え、
前記駆動制御手段は、前記抜け発生後期間において前記噛み合い処理を実施する際、前記バッテリの電気残量に基づいて前記噛み合い駆動手段の通電状態を変更する請求項3乃至5のいずれか一項に記載のエンジン停止始動制御装置。
【請求項7】
前記噛み合い制御手段は、前記噛み合い処理の完了から所定期間が経過した後に前記噛み合い駆動手段の通電を停止する請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエンジン停止始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144752(P2011−144752A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6071(P2010−6071)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】