説明

エンジン制御実験装置

【課題】エンジンの吸入空気流量やエンジン回転数に応じて燃料噴射量を制御可能にするとともに、エンジンシステムを構成する各エンジン制御部品の性能についてあらゆる運転状態における動作の確認試験を容易に実施できるようにし、併せて電子制御ユニット(ECU)のチェックも行え、制御ロジックもそのまま実際のエンジンやエンジンか搭載される実車に適応することができて開発期間を大幅に短縮することができる優れたエンジン制御実験装置を提供する。
【解決手段】実際にエンジンに取り付けられるエンジン制御に必要な各種のエンジン制御部品が、実際のエンジンに装着したと同様に電送ならびに燃料供給可能な状態に構築されており、前記エンジン制御部品を構成する電子制御ユニットに書き込んだ実際のエンジンの実験データを基にして実際のエンジンと同じ条件でモデルベース制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御システムを構成する各種の制御部品について、エンジン装着時の様々な運転状態における性能を試験することができるエンジン制御実験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電子式エンジンの空燃費を制御する場合に、マップやフィードバック制御に代わって例えば特開平10−27008号公報に提示されているように、モデルベース制御が行われている。
【0003】
ところで、エンジン制御搭載用として新しく開発する例えばアクチュエータなどのエンジン制御部品は、開発のタイミングが必ずしも互いに一致しないことから、各部品をエンジンシステム全体に取り付けた条件で実験を行い、性能を確認することが容易ではないことから性能試験は、各々の部品単体で実施されているのが一般的である。
【0004】
このように、従来は、単体で行われた各エンジン制御部品の機能・性能については実際のエンジンシステムで実験を行った際に、他のエンジン制御部品との相互作用や種々の要因による性能のバラツキなどの問題が生じて各性能試験の実施に時間を要してしまい、その部品の設計見直しを繰り返すことになるため開発期間遷延の大きな原因の一つとなっていた。特に、エンジンの負荷変動や過渡応答時における応答性等の確認は極めて困難であった。
【0005】
この問題に対し、車両搭載用のエンジンシステムを構成する各種のエンジン制御部品の性能を、ほぼ実機に搭載したのと同様な条件を再現するシミュレーションツールを用いて試験するものとした自動車部品の試験装置が特開2002−206991号公報に提案されている。
【0006】
このシミュレーションツールを用いる試験装置を使用することにより、各部品の性能についてエンジンシステムに搭載したのと近似した条件で試験できるようになった。しかし、この試験装置を用いた場合でも、エンジンのあらゆる運転状態における各部品の性能を試験することは実際上困難であり、特に、シミュレーションツールはエンジン制御部品を実機に取り付けた実機と異なり単に実機に搭載したのと同様な条件を机上で再現できるようにしたものであることから様々な運転状態における電子制御ユニットの応答性等の制御性能を含むハード面及びソフト面をチェックすることは容易ではない。
【特許文献1】特開平10−27008号公報
【特許文献2】特開2002−206991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、エンジンの吸入空気流量やエンジン回転数に応じて燃料噴射量を制御可能にするとともに、エンジンシステムを構成する各エンジン制御部品の性能についてあらゆる運転状態における動作の確認試験を容易に実施できるようにし、併せて電子制御ユニット(ECU)のチェックも行え、制御ロジックもそのまま実際のエンジンやエンジンか搭載される実車に適応することができて開発期間を大幅に短縮することができる優れたエンジン制御実験装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明であるエンジン制御実験装置は、実際にエンジンに取り付けられるエンジン制御に必要な各種のエンジン制御部品が、実際のエンジンに装着したと同様に電送ならびに燃料供給可能な状態に構築されており、前記エンジン制御部品を構成する電子制御ユニットに書き込んだ実際のエンジンの実験データを基にして実際のエンジンと同じ条件でモデルベース制御を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、実際のエンジンにおける実験データを書き込んだ電子制御ユニットがエンジン制御部品の試験に際しその数式モデルを用いて実際にエンジンに装着した同様に構築されたエンジン制御実験装置において、モデルベース制御を行うことにより測定しない運転状態についての各種データを推定して実際の制御部品を用いたこれらのデータに基づき制御指令を行うものとして、エンジン部品の性能に関し実施していない運転状態についても試験結果を得る、ことを特徴とする。
【0010】
このように予め実験により各種データ間の関係を表す数式モデルを作成してシステムを制御する電子制御ユニットに記憶させることにより、所定の搭載部品についてエンジンのあらゆる運転状態における性能試験を実施したのと同様に気炎結果をうることができ、且つ、その制御結果から電子制御ユニットについてもチェックすることができる。
【0011】
また、前記エンジン制御部品として、イグニッションスイッチ、スロットル角度センサ、アクセルペダルセンサ、クランク角センサ、カムセンサ、燃料噴射圧力センサ、電子制御ユニット、スロットル、燃料ポンプ、点火装置、インジェクタ、ポンプ駆動モータ、燃料タンク、フィルタを有することにより各エンジン制御部品について実際のエンジンと同じ条件でモデルベース制御を行うことができる。
【0012】
更に、前記モデルエンジンが透明で且つ少なくとも底部が液密に形成された容器状であり、前記点火装置による点火の状態、インジェクタからの噴射の状態が側壁を通して視認可能である構成とすることにより実際のエンジンにおいて行われているのと同様な状態で点火の状態や燃料噴射の状態を視認することができ、また、前記モデルエンジンの底部に貯領したインジェクタからの噴射された燃料が底部に配置した戻り管を介して前記燃料タンクへ戻る構成とすることにより燃料を循環して使用することができ、連続して実験をすることができる。
【0013】
更にまた、前記電子制御ユニットが、少なくとも燃料噴射制御、エンジン回転数制御、空燃比制御を実行するものであり、前記数式モデルを使用した場合を含む制御結果を所定の手順で確認することにより、前記電子制御ユニットのハード面及びソフト面のチェックも併せて行うことができる。
【0014】
このように予め実験により各種データ間の関係を表す数式モデルを作成してシステムを制御する電子制御ユニットに記憶させることにより、所定の搭載部品についてエンジンのあらゆる運転状態における性能試験を実施したのと同様に気炎結果をうることができ、且つ、その制御結果から電子制御ユニットについてもチェックすることができる。
【発明の効果】
【0015】
各種のエンジン制御部品についての実機を実際にエンジンに装着した状態で、電子制御ユニッに書き込んだ予め設定した実機による実験データを基にして形成された数式モデルを用いて実際に各エンジン制御部品についての実機について総合的に運転状態の各種データを推定するものとした本発明によると、各エンジン制御部品を装着した実際のエンジンと同じ条件で実験をすることが可能であり、あらゆる運転状態において容易に点火の状態や燃料噴射の状態をみながら実験できることに加え、電子制御ユニットのハード及びソフトについても併せてチェックすることができ、開発期間が大幅に短縮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明のエンジン制御部品の実験装置の配置図を示すものであり、モデルエンジン1には各種のエンジン制御部品の実機が実機のエンジンに装置役される場合とほぼ同様に電送ならびに燃料供給が可能な状態に構築されている。具体的には、複数の点火栓を有する点火装置7、複数のインジェクタ6、そのインジェクタ6には燃料タンク2から延設され途中に燃料ポンプ4を配設した燃料配管が接続されている。また、燃料噴射制御装置である電子制御ユニット10は、そのインジェクタ6及び燃料ポンプ4のモータ5を駆動制御するとともに電子スロットル装置8を駆動制御するようになっている。
【0018】
特に、本実施の形態では、前記モデルエンジン1はガラスや硬質の合成樹脂により少なくとも前面の側壁部分が透明に形成された容器状で実際のエンジンと同様に液密或いは機密に形成されることが好ましく、点火装置7におけるプラグの点火状態やインジェクタ6からの噴射の様子が側壁を通して視認可能であり、また、モデルエンジン1の底部に貯溜したインジェクタ6から噴射された燃料が底部に配置した戻り管17を介して燃料タンク2へ戻す構成とすることにより燃料を循環して使用することができ、連続して実験をすることができる。
【0019】
また、本実施のけいたいにおける電子制御ユニット10には、イグニッションスイッチ11、電子スロットル装置8に付設したスロットル角度センサ12、アクセルペダルセンサ13、エンジン点火系3に配設されたエンジンの回転数を測定するためのクランク角センサ14、カムセンサ15、及び燃料噴射圧センサ16が接続されており、各出力信号が入力されるようになっている。
【0020】
そして、前記電子制御ユニット10は、燃料噴射制御装置であると同時にエンジン回転数制御装置、空燃比制御装置を兼ねているが、これに加えて以下に詳述するエンジン部品の試験方法を実施する試験装置の中核部分を構成しており、その記憶部に、予め実エンジンの実験データから導出した数式モデルを用いて様々な運転状態について実際に運転することを要さずにエンジン制御部品の性能を試験することを可能とするエンジン制御部品試験用のモデル制御プログラムが記憶されている。
【0021】
本実施の形態を用いて実験を行うには、まず、イグニッションスイッチ11をON操作し、このとき(即ち、エンジン始動時)のスロットル角度センサ12、アクセルペダルセンサ13、クランク角センサ14、カムセンサ15、燃料噴射圧センサ16からのセンサ信号が電子制御ユニット10に入力される。
【0022】
そして、前記電子制御ユニット10では、前記入力された各種のセンサ信号を前述の予め電子制御ユニット10に書き込んである実機による実験データを基にして形成された数式モデルを用いて計算を行う。このとき、例えばエンジン回転数、エンジン水温、車速、スロットル角度、エンジンに必要な空気流量などのエンジン制御に必要な情報を目標信号として算出し、これを電子制御ユニット10において、前記モデルから算出された情報により噴射時間を決定し、クランク角センサ14、カムセンサ15からなるエンジン回転数測定機器、電子スロットル装置8、燃料ポンプ4、点火装置7、インジェクタ6などのエンジン制御部品が与えられた目標値に収束するように実際の場合と同様に制御する。
【0023】
このように、本実施の形態によれば、エンジンの如何なる運転条件においても実際のエンジン回転数、スロットル角度、燃料噴射圧力および他の状態を含めて常に指定された目標値に収束していることが確認でき、本発明がきわめて有効であることが実証された。
【0024】
以下に、本発明における実施の形態についての電子制御ユニット10におけるプログラムによるモデルベース制御の内容及びその数式について詳細に説明する。
【0025】
(1)吸気系の数式モデル:
(a)スロットルシステムの数式モデル
電子制御スロットルシステムについての数式モデルを次のようなものとする。先ず、電子スロットル装置8のスロットル駆動部分であるDCモータの電気的な特性を検討すると、電機子回路について電機子における電流と電圧の関係はキルヒホッフの法則により、以下の式(1)で表される。
【数1】

【0026】
次に、スロットルの機械的特性を検討すると、モータの発生トルクをT=NKtia
とすれば、ニュートンの法則により最終的に電子制御スロットルシステムの運動方程式は次のように求められる。
【数2】

【0027】
モータ電流が遅れなく制御できる(電機子のインダクタンス成分Lは無視できる)と仮定し、式(1)を式(2)に代入すると次式を得る。
【数3】

【0028】

【数4】

【0029】
(b)吸気マニホルドの数式モデル
スロットルを通過して吸気マニホルドへ導かれる空気の質量流量は、スロットル開度のみからなる関数と、大気圧力とマニホルド圧力からなる二つの関数により次のように求められる。
【数5】

【0030】
一方、マニホルドからシリンダへの空気質量流量は、エンジン回転数とマニホルド圧力により次式のように求められる。
【数6】

【0031】
従って、吸気系のモデルは式(6)と式(9)を用い、マニホルド圧力に対する微分方程式により次のように求められる。
【数7】

【0032】
(2)エンジン回転系の数式モデル
エンジン回転系の運動方程式は次式で表される。
【数8】

【0033】
(3)燃料系の数式モデル
(a)ポンプ駆動モータの数式モデル
燃料ポンプ4の駆動部分である直流モータ5の数式モデルは、従来からよく知られているように次式のように与えられる。
【数9】

【0034】
(b)ポンプ吐出圧力と燃料噴射量の数式モデル
ポンプ吐出圧力及び燃料噴射量は次の式によって実験的に求められる。
【数10】

【0035】

【数11】

【0036】
上述のような数式モデルを含む制御ロジックを実行する電子制御ユニット10は、この数式モデルを使用することによりエンジンの燃料噴射制御に加え、エンジン回転数制御、吸入空気流量制御、空燃比制御を的確に実行できるようになっている。このことから、本実施の形態のエンジン部品の試験装置は、その制御結果を確認することにより、エンジンシステムを構成する各部品の性能確認を実施することだけでなく、電子制御ユニット10のハード、ソフト及び総てのエンジン制御ロジックも同時にチェックすることができる。
【0037】
次に、本実施の形態のエンジン部品の制御装置の動作及び作用を具体的に説明する。本発明のエンジン部品の試験装置の目的は、エンジン1の吸入空気流量やエンジン回転数に応じて燃料噴射量を制御するとともに、総ての運転条件において、エンジン1に取り付けられた部品、センサ、アクチュエータ、電子制御ユニット10(ハードとソフト)及びその制御ロジックの動作を同時に確認することにある。
【0038】
エンジン始動時、即ちイグニッションスイッチ11のON時、スロットル角度センサ12、アクセルペダルセンサ13、クランク角センサ14、カムセンサ15、燃料噴射圧センサ16からの出力信号が電子制御ユニット10に入力される。入力されたセンサ信号を、さらに実験等によりモデル化された上述のエンジンの数式モデルに適用し、CPUで各々算出する。
【0039】
即ち、これらの数式モデルを使用してエンジン回転数、エンジン水温、車速、スロットル角度、及びエンジンに必要な空気流量等の計算を行う。計算されたエンジン回転数、スロットル角度等を目標信号として通常の制御手順に引き渡し、このようにモデル計算された情報から噴射時間を決定し、エンジン回転系3、電子スロットル装置8、燃料ポンプ4、点火装置7、インジェクタ6などが目標値に収束するように制御を行う。
【0040】
本実施の形態のエンジン部品の試験装置を用いて実際に試験を行った結果、エンジン1のどんな運転条件であっても実エンジン回転数、スロットル角度、燃料噴射圧力、及び他の検出値が常に指定された目標値に収束し、各部品、アクチュエータ、電子制御ユニット10のハード及びソフト等が正しく動作していることが確認できた。従って、本発明が極めて有効であることが分かった。
【0041】
以上、述べたように、エンジンシステムを構成する各部品の性能について、本発明により、あらゆる運転状態における試験を容易に実施可能となり、併せて電子制御ユニットのチェックも容易に行えるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態を示す配置図。
【符号の説明】
【0043】
1 エンジン、2 燃料タンク、3 エンジン回転系、4 燃料ポンプ、5 DCモータ、6 インジェクタ、7 点火装置、8 電子スロットル装置、10 電子制御ユニット、11 イグニッションスイッチ、12 スロットル角度センサ、13 アクセルペダルセンサ、14 クランク角センサ、15 カムセンサ、16 燃料噴射圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際にエンジンに取り付けられるエンジン制御に必要な各種のエンジン制御部品が、実際のエンジンに装着したと同様に電送ならびに燃料供給可能な状態でモデルエンジンに構築されており、前記エンジン制御部品を構成する電子制御ユニットに書き込んだ実際のエンジンの実験データを基にして実際のエンジンと同じ条件でモデルベース制御を行うことを特徴とするエンジン制御実験装置。
【請求項2】
前記エンジン制御部品として、イグニッションスイッチ、スロットル角度センサ、アクセルペダルセンサ、クランク角センサ、カムセンサ、燃料噴射圧力センサ、電子制御ユニット、エンジン回転数測定器、スロットル、燃料ポンプ、点火装置、インジェクタ、ポンプ駆動モータ、燃料タンク、フィルタを有することを特徴とする請求項1記載のエンジン制御実験装置。
【請求項3】
前記モデルエンジンが透明で且つ少なくとも底部が液密に形成された容器状であり、前記点火装置による点火の状態、インジェクタからの噴射の状態が側壁を通して視認可能であるとともに、前記底部に貯領したインジェクタからの噴射された燃料が底部に配置した戻り管を介して前記燃料タンクへ戻り、循環することを特徴とする請求項1または2記載のエンジン制御実験装置。
【請求項4】
前記電子制御ユニットは、少なくとも燃料噴射制御、エンジン回転数制御、空燃比制御を実行するものであり、前記数式モデルを使用した場合を含む制御結果を所定の手順で確認することにより、前記電子制御ユニットのハード面及びソフト面のチェックも併せて行うことを特徴とする請求項1,2または3に記載のエンジン部品の試験方法。


【図1】
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