説明

エンジン始動装置およびエンジン始動方法

【課題】エンジンの自動停止および自動始動時におけるギアの磨耗を抑制し、無駄な電力の消費を抑制することができるエンジン始動装置およびエンジン始動方法を得る。
【解決手段】ピニオン部のピニオンギア5をリングギア6と噛み合う位置に移動させる第1ソレノイド41の動作を制御する制御部は、エンジンの停止要求後、エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、ピニオンギア5の押し出しを行わず、エンジン回転数が許容逆回転数以上になる場合には、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせ、エンジンの回転が停止する前に、所定の条件でピニオンギア5を引き抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のアイドルストップにおけるエンジン始動装置およびエンジン始動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃費改善や環境負荷低減等を目的として、所定の条件が満たされると自動でアイドルストップを行う自動アイドルストップシステムが開発されてきた。その中でも、スタータによる自動アイドルストップシステムは、車両のシステム変更が少なく、低コストである。しかしながら、その反面、エンジンが完全に停止するまでギア(ギアの歯どうし)を噛み合わせることができないという課題があった。
【0003】
この課題に対し、エンジンの停止直前または停止後に、電磁駆動機構によりピニオンギアをリングギアに噛み合わせ、電磁駆動機構への通電を停止した後も、ヘリカルスプライン係合部によりギアの噛み合いを維持するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、エンジンの自動停止によるリングギアの惰性回転中に、電磁ソレノイドに通電してピニオンギアとリングギアとを噛み合わせ、エンジンの回転が停止した後に、電磁ソレノイドへの通電を停止するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−163818号公報
【特許文献2】特開2010−242555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1においては、エンジンの停止直前または停止後に、電磁駆動機構によりピニオンギアとリングギアとの噛み合わせを行っている。ここで、噛み合い完了の判定は、噛み合いセンサにより行っている。そのため、構成が複雑になるとともに、コストが高くなるという問題がある。また、ギアが噛み合うことが前提の制御なので、ギアを噛み合わせる回数が多くなるとともに、ギアが噛み合っている時間が長くなり、ギアの磨耗が大きくなるという問題がある。
【0007】
また、特許文献2においては、エンジンの回転が停止した後に、電磁ソレノイドへの通電を停止している。ここで、特許文献2では、噛み合いセンサを用いていないので、再始動条件の成立時まで確実にギアが噛み合っているとは言えず、再始動時に、再度電磁駆動機構に通電しなければならない。しかしながら、再度通電するので、その時点でのギアの噛み合いを維持しておく必要性はなく、エンジンが停止するまで電磁駆動機構に通電し続けることにより、無駄な電力を消費するおそれがあるという問題もある。
【0008】
このように、従来技術において、ギアの噛み合いの機会を増加させているのは、エンジンが減速時に逆回転するので、その逆回転領域においても遅れず再始動できるように、事前にギアの噛み合いを実施しているからである。しかしながら、ギアの噛み合いの制御に関して、ギアを噛み合わせる回数をいかに低減し、ギアが噛み合っている時間をいかに短縮して、ギアの磨耗や噛み合い動作に要するエネルギーを低減するかといった対策は、なされていなかった。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エンジンの自動停止および自動始動時におけるギアの磨耗を抑制するとともに、無駄な電力の消費を抑制することができるエンジン始動装置およびエンジン始動方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るエンジン始動装置は、自動停止条件の成立によりエンジンを自動停止させ、再始動条件の成立によりエンジンを再始動させるエンジン始動装置において、スタータモータと、スタータモータの出力軸側にスプライン結合されて軸方向に摺動するピニオン部と、ピニオン部のピニオンギアをリングギアと噛み合う位置に移動させる押し出し機構と、押し出し機構の動作を制御する制御部と、を備え、ピニオンギアとリングギアとを噛み合わせてスタータモータの動力を伝達することで、エンジンを始動するエンジン始動装置であって、制御部は、エンジンの停止要求後、エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、ピニオンギアの押し出しを行わず、エンジン回転数が許容逆回転数以上になる場合には、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギアを押し出してリングギアと噛み合わせ、エンジンの回転が停止する前に、所定の条件でピニオンギアを引き抜くものである。
【0011】
また、この発明に係るエンジン始動方法は、自動停止条件の成立によりエンジンを自動停止させ、再始動条件の成立によりエンジンを再始動させるエンジン始動方法において、スタータモータの出力軸側にスプライン結合されて軸方向に摺動するピニオン部のピニオンギアを、リングギアと噛み合わせてスタータモータの動力を伝達することで、エンジンを始動するエンジン始動方法であって、エンジンの停止要求後、エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、ピニオンギアの押し出しを行わず、エンジン回転数が許容逆回転数以上になる場合には、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギアを押し出してリングギアと噛み合わせ、エンジンの回転が停止する前に、所定の条件でピニオンギアを引き抜く制御ステップを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係るエンジン始動装置およびエンジン始動方法によれば、制御部(制御ステップ)は、エンジンの停止要求後、エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、ピニオンギアの押し出しを行わず、エンジン回転数が許容逆回転数以上になる場合には、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギアを押し出してリングギアと噛み合わせ、エンジンの回転が停止する前に、所定の条件でピニオンギアを引き抜く。
これにより、再始動要求が発生した場合に、即座にピニオンギアをリングギアと噛み合わせて再始動することができ、再始動性が確保されるとともに、ギアを噛み合わせる回数が低減され、ギアが噛み合っている時間が短縮される。
そのため、エンジンの自動停止および自動始動時におけるギアの磨耗を抑制するとともに、無駄な電力の消費を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置を示す概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置において、エンジン停止制御後にエンジン回転数が減少していく様子を示した説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置において、エンジン停止制御後に制御部がピニオンギアとリングギアとの噛み合わせを行った場合のエンジン回転数の様子を示した図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置の別の動作を示すフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2に係るエンジン始動装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態3に係るエンジン始動装置を示す概略構成図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係るエンジン始動装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明に係るエンジン始動装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。なお、エンジン始動装置は、自動停止条件の成立によりエンジンを自動停止させ、再始動条件の成立により前記エンジンを再始動させるものである。
【0015】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置を示す概略構成図である。図1において、エンジン始動装置は、スタータモータ1、バッテリ2、始動スイッチ3、ソレノイドスイッチ4およびピニオンギア5を備えている。始動スイッチ3は、第1スイッチ31および第2スイッチ32を有している。ソレノイドスイッチ4は、第1ソレノイド41および第2ソレノイド42を有している。
【0016】
第1ソレノイド41は、コイル41a、コイル鉄心41bおよびレバー41cを含んでいる。また、第2ソレノイド42は、コイル42a、コイル鉄心42bおよび接点部42cを含んでいる。ピニオンギア5は、スタータモータ1の出力軸側にスプライン結合されて軸方向に摺動するピニオン部に含まれ、レバー41cに取り付けられている。ここで、第1ソレノイド41は、ピニオン部のピニオンギア5をリングギア6と噛み合う位置に移動させる押し出し機構を構成している。
【0017】
押し出し機構を構成する第1ソレノイド41を含むソレノイドスイッチ4および始動スイッチ3の動作は、制御部(図示せず)によって制御されている。このエンジン始動装置は、ピニオンギア5とリングギア6とを噛み合わせてスタータモータ1の動力を伝達することで、エンジンを始動する。
【0018】
次に、それぞれの構成要素について説明する。
スタータモータ1は、エンジンの始動を行う。バッテリ2は、スタータモータ1に電力を供給する電源である。第1スイッチ31は、第1ソレノイド41を動作させるために、バッテリ2に接続されたスイッチである。また、第2スイッチ32は、第2ソレノイド42を動作させるために、バッテリ2に接続されたスイッチである。
【0019】
第1ソレノイド41のコイル41aは、スタータモータ1の接地端子と第1スイッチ31との間に接続されている。また、コイル鉄心41bは、一端がレバー41cに接続され、コイル41aの励磁によって図の上方に移動する。ここで、第1スイッチ31がオン状態になってコイル41aが励磁されると、コイル鉄心41bが移動してレバー41cが回転し、ピニオンギア5がリングギア6と噛み合う位置に押し出される。
【0020】
第2ソレノイド42のコイル42aは、スタータモータ1の入力端子と第2スイッチ32との間に接続されている。また、コイル鉄心42bは、コイル42aの励磁によって図の上方に移動し、接点部42cを接続する。ここで、第2スイッチ32がオン状態になってコイル42aが励磁されると、コイル鉄心42bが移動して接点部42cが接続され、スタータモータ1に電力が供給される。
【0021】
このような構成により、ピニオンギア5が軸方向に押し出されてエンジンのリングギア6と噛み合い、ピニオンギア5とリングギア6とが噛み合った状態で、スタータモータ1の動力が伝達可能となる。また、このようなソレノイドスイッチ4の構成によれば、ピニオンギア5のリングギア6との噛み合いと、スタータモータ1の回転とを独立して制御することができる。
【0022】
したがって、再始動要求が発生した場合には、自動停止条件が成立してリングギア6がエンジン停止制御後の惰性回転中であったとしても、第2スイッチ32をオン状態にしてスタータモータ1を回転させたまま、ピニオンギア5とリングギア6との回転数が同期した時点で、第1スイッチ31をオン状態にしてピニオンギア5とリングギア6とを噛み合わせ、エンジンを再始動させることができる。
【0023】
図2は、この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置において、エンジン停止制御後にエンジン回転数(リングギア回転数)が減少していく様子を示した説明図である。図2において、エンジン停止制御後の惰性回転中は、エンジンへの燃料供給が停止され、エンジンのピストンにおける圧縮・膨張サイクルによりトルク変動が発生し、エンジン回転数が脈動を起こしながら低下していく。
【0024】
その結果、エンジン回転数の0rpm付近において、圧縮行程にあるピストンからの反力によるエンジンの逆回転と、膨張行程にあるピストンからの反力によるエンジンの正転とが繰り返される。その後、ピストンからの反力よりも摩擦力の方が大きくなった時点で、エンジンが静止する。
【0025】
このとき、エンジンの逆回転数によっては、ピニオンギア5をリングギア6と噛み合わせる際に、大きな衝撃が発生する。また、エンジン回転数が、ピニオンギア5の許容逆回転数を上回る過大逆転領域になると、ピニオンギア5およびスタータモータ1の内部構造が破損する可能性がある。したがって、エンジンの逆回転中には、ピニオンギア5をリングギア6と噛み合わせないことも考えられるが、その場合には、エンジンの再始動が遅くなるという問題がある。
【0026】
そこで、エンジン回転数の0rpm付近で、第1スイッチ31をオン状態にすることにより、事前にピニオンギア5とリングギア6とを噛み合わせておけば、再始動要求が発生した場合に、第2スイッチ32をオン状態にすることで、スタータモータ1を駆動させてエンジンを再始動させることができる。
【0027】
しかしながら、この場合には、ほとんどの状況で再始動要求が発生しないにもかかわらず、エンジン回転数の0rpm付近でピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせ、エンジンの回転が停止するまでスタータモータ1への通電を続けることになる。そのため、無駄な電力の消費が発生するとともに、ピニオンギア5とリングギア6との噛み合いによる磨耗が発生する。
【0028】
そこで、制御部は、エンジンの停止要求後、エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、ピニオンギア5の押し出しを行わず、エンジン回転数が許容逆回転数以上になる場合には、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせ、エンジンの回転が停止する前に、所定の条件でピニオンギア5を引き抜く。
【0029】
以下、図1、2とともに、図3のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態1に係るエンジン始動装置の動作について説明する。なお、制御部は、正転時または逆回転時のエンジン回転数および回転方向を、1行程毎の運動エネルギーの変化から、次回上死点の運動エネルギー予測値および運動エネルギー予測値の正負に基づいて予測する。
【0030】
まず、自動停止条件が成立しているか否かが判定される(ステップS1)。
ステップS1において、自動停止条件が成立していない(すなわち、No)と判定された場合には、図3の処理を終了する。一方、ステップS1において、自動停止条件が成立している(すなわち、Yes)と判定された場合には、エンジン停止制御が行われる(ステップS2)。
【0031】
続いて、制御部は、エンジン回転数が事前噛み合い条件回転数(例えば、50rpm)以下であるか否かを判定する(ステップS3)。
ステップS3において、エンジン回転数が事前噛み合い条件回転数以下でない(すなわち、No)と判定された場合には、制御部は、再始動要求が発生しているか否かを判定する(ステップS4)。
【0032】
ステップS4において、再始動要求が発生している(すなわち、Yes)と判定された場合には、制御部は、始動スイッチ3およびソレノイドスイッチ4の動作を制御し、エンジンを再始動させて(ステップS5)、図3の処理を終了する。一方、ステップS4において、再始動要求が発生していない(すなわち、No)と判定された場合には、ステップS3に移行する。
【0033】
一方、ステップS3において、エンジン回転数が事前噛み合い条件回転数以下である(すなわち、Yes)と判定された場合には、制御部は、エンジンの逆回転数を予測して、許容逆回転数(例えば、−100rpm(逆回転))よりも大きいか否かを判定する(ステップS6)。
【0034】
ステップS6において、予測したエンジンの逆回転数が許容逆回転数よりも大きい(すなわち、Yes)と判定された場合には、制御部は、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、第1スイッチ31をオン状態にし、ピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせる(ステップS7)。
【0035】
ここで、ピニオンギア5をリングギア6と噛み合わせた場合には、ピニオンギア5と結合されたスタータモータ1の慣性により、図4に示されるように、エンジンの逆回転が抑制される。
【0036】
次に、制御部は、ピニオンギア5を押し出した後、エンジン回転数が0rpmになるまでの予測時間が、エンジン回転数の脈動周期の1/4周期時間以内であるか否かを判定する(ステップS8)。
【0037】
ステップS8において、エンジン回転数が0rpmになるまでの予測時間が、エンジン回転数の脈動周期の1/4周期時間以内である(すなわち、Yes)と判定された場合には、エンジン回転数が脈動により低下しているときであると判断される。このとき、制御部は、ピニオンギア5を押し出した後、エンジン回転数が0rpmになるまでの予測時間とエンジン回転数の脈動半周期時間とを加算した時間が経過した後に、第1スイッチ31をオフ状態にしてピニオンギア5を引き抜く(ステップS9)。
【0038】
ここで、少なくともエンジン回転数が0rpmになるまでの予測時間とエンジン回転数の脈動半周期時間とを加算した時間だけ、ピニオンギア5とリングギア6とを噛み合わせておけば、図4に示されるように、逆回転領域が小さくなる。そのため、ピニオンギア5を引き抜いたとしても、再始動要求が発生した場合に、許容逆回転数の範囲内でピニオンギア5とリングギア6とを噛み合わせ、エンジンを再始動することができる。
【0039】
一方、ステップS8において、エンジン回転数が0rpmになるまでの予測時間が、エンジン回転数の脈動周期の1/4周期時間以内でない(すなわち、No)と判定された場合には、エンジン回転数が脈動により上昇しているときであると判断される。このとき、制御部は、ピニオンギア5を押し出した後、エンジン回転数の1脈動周期時間が経過した後に、第1スイッチ31をオフ状態にしてピニオンギア5を引き抜く(ステップS10)。
【0040】
ステップS9またはステップS10の後、また、ステップS6において、予測したエンジンの逆回転数が許容逆回転数以下である(すなわち、No)と判定された場合には、制御部は、再始動要求が発生しているか否かを判定する(ステップS11)。すなわち、予測したエンジンの逆回転数が許容逆回転数以下である場合には、再始動要求が発生するまで待機すればよい。
【0041】
ステップS11において、再始動要求が発生している(すなわち、Yes)と判定された場合には、制御部は、始動スイッチ3およびソレノイドスイッチ4の動作を制御し、エンジンを再始動させて(ステップS5)、図3の処理を終了する。一方、ステップS11において、再始動要求が発生していない(すなわち、No)と判定された場合には、ステップS11の処理を繰り返す。
【0042】
このように、エンジンの逆回転を予測して、ピニオンギア5を押し出すか否かを判断し、ピニオンギア5をできるだけ早く引き抜くことにより、エンジンの逆回転に対する対応として、ピニオンギア5をブレーキとして使用することができる。許容逆回転数を超える箇所をなくすことにより、再始動要求が発生した場合でも、常に時間のロスを生じることなくエンジンを再始動させることができる。
【0043】
したがって、許容逆回転数付近でこのような制御を行うことにより、ピニオンギア5の許容逆回転レベルの負荷を低減することができ、ギアの磨耗を抑制することができる。また、明らかにエンジンが逆回転しない場合には、ピニオンギア5を押し出さないことで、無駄な動作によるエネルギーの消費を抑制することができる。この制御は、特に、エンジンの逆回転数が、許容逆回転数を超えることが少ないエンジンに対して有効である。
【0044】
以上のように、実施の形態1によれば、制御部は、エンジンの停止要求後、エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、ピニオンギアの押し出しを行わず、エンジン回転数が許容逆回転数以上になる場合には、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギアを押し出してリングギアと噛み合わせ、エンジンの回転が停止する前に、所定の条件でピニオンギアを引き抜く。
これにより、再始動要求があった場合に、即座にピニオンギアをリングギアと噛み合わせて再始動することができ、再始動性が確保されるとともに、ギアを噛み合わせる回数が低減され、ギアが噛み合っている時間が短縮される。
そのため、エンジンの自動停止および自動始動時におけるギアの磨耗を抑制するとともに、無駄な電力の消費を抑制することができる。
【0045】
なお、上記実施の形態1において、許容逆回転数の判定に誤差が大きい場合、制御部は、許容逆回転数を小さめに設定して、ピニオンギア5を押し出した後、一定条件(例えば、エンジン回転数の1脈動周期時間が経過後)で、第1スイッチ31をオフ状態にしてピニオンギア5を引き抜いてもよい。
【0046】
この場合におけるエンジン始動装置の動作を、図5のフローチャートを参照しながら説明する。なお、図5において、ステップS1〜ステップS7までの動作、およびステップS11以降の動作は、上述した図3のものと同様なので、説明を省略する。
【0047】
ステップS7において、ピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせた後、制御部は、再始動要求が発生しているか否かを判定する(ステップS21)。
ステップS21において、再始動要求が発生している(すなわち、Yes)と判定された場合には、制御部は、始動スイッチ3およびソレノイドスイッチ4の動作を制御し、エンジンを再始動させて(ステップS5)、図5の処理を終了する。
【0048】
一方、ステップS21において、再始動要求が発生していない(すなわち、No)と判定された場合には、制御部は、ピニオンギア5を押し出した後、一定条件(例えば、エンジン回転数の1脈動周期時間が経過後)で、第1スイッチ31をオフ状態にしてピニオンギア5を引き抜く(ステップS22)。
【0049】
ステップS22の後、また、ステップS6において、予測したエンジンの逆回転数が許容逆回転数以下である(すなわち、No)と判定された場合には、制御部は、再始動要求が発生しているか否かを判定する(ステップS11)。
【0050】
このように、許容逆回転数を小さめに設定し、単純化した場合であっても、上記実施の形態1と同等の効果を得ることができる。
【0051】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、図3に示したステップS3において、エンジン回転数が事前噛み合い条件回転数以下である(すなわち、Yes)と判定された場合に、制御部が、エンジンの逆回転数が許容逆回転数よりも大きいか否かを判定する(ステップS6)と説明した。
【0052】
しかしながら、エンジン回転数の脈動が大きく、ほとんどの場合でエンジンの逆回転数が許容逆回転数の範囲を超えるのであれば、許容逆回転数の判定を行う必要はない。そのため、このような場合、制御部は、エンジン回転数が事前噛み合い条件回転数以下であると判定された場合に、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせてもよい。
【0053】
ここで、この発明の実施の形態2に係るエンジン始動装置の構成は、上述した実施の形態1のものと同様なので、説明を省略する。以下、図1、2とともに、図6のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態2に係るエンジン始動装置の動作について説明する。なお、図6において、ステップS1〜ステップS5までの動作、およびステップS7以降の動作は、上述した図3のものと同様なので、説明を省略する。
【0054】
ステップS3において、エンジン回転数が事前噛み合い条件回転数(例えば、50rpm)以下である(すなわち、Yes)と判定された場合には、制御部は、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、第1スイッチ31をオン状態にし、ピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせる(ステップS7)。
【0055】
以上のように、実施の形態2によれば、制御部は、エンジン回転数が事前噛み合い条件回転数以下であると判定された場合に、エンジンの逆回転数が許容逆回転数よりも大きいか否かを判定せず、エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、ピニオンギア5を押し出してリングギア6と噛み合わせる。
この場合も、上記実施の形態1と同等の効果を得ることができる。
【0056】
実施の形態3.
図7は、この発明の実施の形態3に係るエンジン始動装置を示す概略構成図である。図7において、エンジン始動装置は、スタータモータ1、バッテリ2、始動スイッチ3A、ソレノイドスイッチ4Aおよびピニオンギア5を備えている。ソレノイドスイッチ4Aは、コイル43a、コイル鉄心43b、レバー43cおよび接点部43dを含んでいる。ピニオンギア5は、レバー43cに取り付けられている。
【0057】
コイル43aは、スタータモータ1の接地端子と始動スイッチ3Aとの間に接続されている。また、コイル鉄心43bは、一端がレバー43cに接続され、コイル43aの励磁によって図の上方に移動し、接点部42cを接続する。ここで、始動スイッチ3Aがオン状態になってコイル43aが励磁されると、コイル鉄心43bが移動してレバー43cが回転し、ピニオンギア5がリングギア6と噛み合う位置に押し出されるとともに、コイル鉄心43bが引ききったときに接点部43dが接続され、スタータモータ1に電力が供給される。
【0058】
なお、その他の構成は、上述した実施の形態1のものと同様なので、説明を省略する。すなわち、このエンジン始動装置は、押し出し機構の動作とスタータモータ1への通電電流をオンオフするスイッチとを、1つのプランジャーコイルで構成することにより、ピニオンギア5を押し出した後に、プランジャーが先に引き込まれることでモータ通電スイッチを動作させる一体型スイッチ(シングルスイッチ構成)を有している。
【0059】
このような構成のエンジン始動装置においても、同様に、スタータモータ1の回転数が所定の回転数まで上昇する前に、ピニオンギア5を引き抜くことにより、対応は同じとなる。このとき、制御部は、ピニオンギア5を押し出した後、スタータモータ1の回転数が一定回転数(例えば、100rpm)になったとき(なる前)に、始動スイッチ3Aをオフ状態にしてピニオンギア5を引き抜く。
【0060】
すなわち、一定回転数(例えば、100rpm)の問題にならない回転数レベルに到達するまでに、ピニオンギア5を引き抜けるような設定、スイッチ動作ストロークを有する構成にすればよい。
【0061】
以下、図7とともに、図8のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態3に係るエンジン始動装置の動作について説明する。なお、図8において、ステップS1〜ステップS9までの動作、およびステップS11以降の動作は、上述した図3のものと同様なので、説明を省略する。
【0062】
ステップS8において、エンジン回転数が0rpmになるまでの予測時間が、エンジン回転数の脈動周期の1/4周期時間以内でない(すなわち、No)と判定された場合には、エンジン回転数がスタータモータ1の回転により上昇しているときであると判断される。このとき、制御部は、ピニオンギア5を押し出した後、スタータモータ1の回転数が一定回転数(例えば、100rpm)になったとき(なる前)に、始動スイッチ3Aをオフ状態にしてピニオンギア5を引き抜く(ステップS31)。
【0063】
ステップS9またはステップS31の後、また、ステップS6において、予測したエンジンの逆回転数が許容逆回転数以下である(すなわち、No)と判定された場合には、制御部は、再始動要求が発生しているか否かを判定する(ステップS11)。
【0064】
以上のように、実施の形態3によれば、シングルスイッチ構成を有するエンジン始動装置において、制御部は、ピニオンギア5を押し出した後、スタータモータ1の回転数が一定回転数になったとき(なる前)に、始動スイッチ3Aをオフ状態にしてピニオンギア5を引き抜く。
そのため、シングルスイッチ構成を有するエンジン始動装置においても、上記実施の形態1と同等の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 スタータモータ、2 バッテリ、3、3A 始動スイッチ、4、4A ソレノイドスイッチ、5 ピニオンギア、6 リングギア、31 第1スイッチ、32 第2スイッチ、41 第1ソレノイド、41a コイル、41b コイル鉄心、41c レバー、42 第2ソレノイド、42a コイル、42b コイル鉄心、42c 接点部、43a コイル、43b コイル鉄心、43c レバー、43d 接点部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動停止条件の成立によりエンジンを自動停止させ、再始動条件の成立により前記エンジンを再始動させるエンジン始動装置において、
スタータモータと、
前記スタータモータの出力軸側にスプライン結合されて軸方向に摺動するピニオン部と、
前記ピニオン部のピニオンギアをリングギアと噛み合う位置に移動させる押し出し機構と、
前記押し出し機構の動作を制御する制御部と、を備え、
前記ピニオンギアと前記リングギアとを噛み合わせて前記スタータモータの動力を伝達することで、前記エンジンを始動するエンジン始動装置であって、
前記制御部は、前記エンジンの停止要求後、前記エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、前記ピニオンギアの押し出しを行わず、前記エンジン回転数が前記許容逆回転数以上になる場合には、前記エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、前記ピニオンギアを押し出して前記リングギアと噛み合わせ、前記エンジンの回転が停止する前に、所定の条件で前記ピニオンギアを引き抜く
ことを特徴とするエンジン始動装置。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記ピニオンギアを押し出した後、前記エンジン回転数の1脈動周期時間が経過したことであることを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記ピニオンギアを押し出した後、前記エンジン回転数が0rpmになるまでの予測時間と前記エンジン回転数の脈動半周期時間とを加算した時間が経過したことであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンジン始動装置。
【請求項4】
前記押し出し機構の動作と前記スタータモータへの通電電流をオンオフするスイッチとを、1つのプランジャーコイルで構成することにより、前記ピニオンギアを押し出した後に、プランジャーが先に引き込まれることでモータスイッチを動作させる一体型スイッチを有し、
前記所定の条件は、前記スタータモータの回転数が所定の回転数に達したことであることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載のエンジン始動装置。
【請求項5】
自動停止条件の成立によりエンジンを自動停止させ、再始動条件の成立により前記エンジンを再始動させるエンジン始動方法において、スタータモータの出力軸側にスプライン結合されて軸方向に摺動するピニオン部のピニオンギアを、リングギアと噛み合う位置に押し出して噛み合わせ、前記スタータモータの動力を伝達することで、前記エンジンを始動するエンジン始動方法であって、
前記エンジンの停止要求後、前記エンジン回転数が許容逆回転数以下になる場合には、前記ピニオンギアの押し出しを行わず、前記エンジン回転数が前記許容逆回転数以上になる場合には、前記エンジン回転数が0rpmになる前に、再始動要求の有無にかかわらず、前記ピニオンギアを押し出して前記リングギアと噛み合わせ、前記エンジンの回転が停止する前に、所定の条件で前記ピニオンギアを引き抜く制御ステップ
を備えたことを特徴とするエンジン始動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72431(P2013−72431A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214693(P2011−214693)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】