説明

エンボスシートの製造方法、およびエンボスシートの製造装置

【課題】 エンボスシートの新規な製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】 加熱されたシート状原反を、所定の賦形用凹凸模様が施されたエンボスロールと加圧ロールとの間に挿入、加圧することにより、前記シート状原反に凹凸模様を賦形してエンボスシートを製造する方法において、前記加圧ロールの表面温度を、前記エンボスロールの表面温度よりも30℃以上低い温度に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスシートの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シート状原反の表面にエンボス加工を施すことで、意匠性に優れたエンボスシートを作製することが広く行われている。
【0003】
このエンボスシートの製造方法や装置としては、一般的に、合成樹脂シート等のシート状原反を加熱し、これをエンボスロールと加圧ロールとの間に挿入して、連続的に加圧する方法や装置が知られている。
【0004】
また、このようなエンボスロールと加圧ロールとを用いる方法や装置にあっては、これら2つのロールの表面温度がシート状原反からの熱によって上昇することに鑑み、エンボスロールや加圧ロールを何らかの方法で冷却することが行われている。
【0005】
具体的には、例えば特許文献1には、高精度、高効率でエンボスシートを製造することを目的として、エンボスロールと加圧ロールは共にその内部に冷却水用の空間が形成されており、当該空間に冷却水を注入することでこれらの表面の温度上昇を防止すること、および加圧ロールの表面に圧設するようにクーリングロールを設け、前記ロール内部からの冷却とは別に、加圧ロールの表面を冷却すること、が開示されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、前記特許文献と目的を同じにして、エンボスロールと加圧ロールとをともに冷水にドブ漬けすることが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、エンボスロールと加圧ロールとの表面温度差が大きくなることが問題として挙げられており(特許文献1の(0005)段落参照)、これを解決するための手段として、つまり、エンボスロールと加圧ロールとの表面温度差を小さくするために加圧ロールの表面をクーリングロールで冷却することが開示されている。
【0008】
また、特許文献2においても明記はされてないまでも、エンボスロールと加圧ロールとを同一の冷却パンにドブ漬けしていることから判断すると、前記特許文献1と同様、エンボスロールと加圧ロールの表面温度差を小さくすることを目的としていると考えられる。
【特許文献1】特開平8−118469号公報
【特許文献2】特開平11−207913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況においてなされたものであり、前記特許文献1、2とは全く異なる発想をもって、従来に比べてエンボスの精度が高く、それでいて高速度で製造することができるエンボスシートの製造方法および製造装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための、第1の本願発明は、加熱されたシート状原反を、所定の賦形用凹凸模様が施されたエンボスロールと加圧ロールとの間に挿入、加圧することにより、前記シート状原反に凹凸模様を賦形してエンボスシートを製造する方法であって、前記加圧ロールの表面温度を、前記エンボスロールの表面温度よりも30℃以上低い温度に保持することを特徴とするエンボスシートの製造方法に関する。
【0011】
上記発明にあっては、前記加圧ロールの表面の硬度を、JIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に規定されているH法で測定した値で85度以上とすることが好ましい。
【0012】
また、上記発明にあっては、使用するシート状原反の厚さを400μm以上とすることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するための、第2の本願発明は、所定の賦形用凹凸模様が施されたエンボスロールと、前記エンボスロールに対して略平行に配置された圧胴ロールと、を具備し、前記加圧ロールには、その表面温度を前記エンボスロールの表面温度よりも30℃以上低い温度に保持するための冷却手段が設けられていることを特徴とするエンボスシートの製造装置に関する。
【0014】
上記発明にあっては、前記加圧ロールの表面の硬度を、JIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に規定されているH法で測定した値が85度以上としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記本願発明は、従来のエンボスシートの製造方法・製造装置とは全く異なった視点からなされたものであり、具体的には、エンボスロールの表面温度よりも加圧ロールの表面温度が30℃以上低温となるように、加圧ロールの表面温度が保持されているので、エンボスロールと加圧ロールとの間に挿入され加圧されたシート原反は、賦形された後に、加圧ロールに引っ張られることなく、直ぐに加圧ロール表面から剥離されるので、シート原反が引っ張られることにより生じる、いわゆる「エンボスもどり(一度賦形された形が元に戻ってしまうこと)」を防止することができ、その結果、従来よりも高精度でエンボスシートを製造することができる。
【0016】
また、前記加圧ロールの表面の硬度を、JIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に規定されているH法で測定した値で85度以上とすることにより、例えばインサート成型法により形成される自動車の内装部品に用いられる厚さ400μm以上のエンボスシートを製造する場合であっても、本願発明を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本願発明のエンボスシートの製造装置について図面を用いて詳細に説明しつつ、併せて本願発明の方法についても説明する。
【0018】
図1は本願発明のエンボスシートの製造装置の構成図である。
【0019】
なお、図中の符号1はエンボスシート、2はクリア原反、3は印刷済原反、4はシート状原反、5はエンボス凹部、10はエンボス製造装置、11、12は予熱ロール、13は貼合せニップロール、14は加熱ドラム、15は加熱ロール、16は加熱ヒーター、17はエンボスロール、18は加圧ロールをそれぞれ表している。そして、図中の符号19は加圧ロール18の表面温度をエンボスロール17の表面温度よりも30℃以上低く保持するための冷却手段を表しており、20は冷却ロール、21はバックアップロールをそれぞれ表している。
【0020】
図1に示すように、本願発明の装置は、クリア原反2を加熱する予熱ロール11と、印刷済原反3が加熱される予熱ロール12とが配設され、この予熱ロール11、12の下流側に加熱ドラム14及び貼合せニップロール13とバックアップロール21が配設されている。この加熱ドラム14及び貼合せニップロール13の間に、互いに加熱され積層されたクリア原反2と印刷済原反3とを進入させることにより、両原反が加熱圧着され、シート状原反4を形成するものである。
【0021】
加熱ドラム14の下流側には、シート状原反4を加熱する加熱ロール15が順次配設され、加熱ロール15とその下流に配設されたエンボスロール17との間にはシート状原反4を両面から加熱する加熱ヒーター16が配設されている。また加熱ロール15の下流側にはシート状原反4に所定のエンボス加工を施すための、賦型用凹凸模様が施されたエンボスロール17が配設され、このエンボスロール17に対して略平行に加圧ロール18が配設されている。なお、エンボスロール17、加圧ロール18の内部には、従来の装置と同様に冷却水用の空間が形成されおり、当該空間に冷却水が注入されていてもよい。これはエンボスロール17および加圧ロール18の表面温度が想定される温度を超えて高温となることを防止するためである。
【0022】
シート状原反4は加熱ドラム14、加熱ロール15によって加熱されると共に、両面から加熱ヒーター16によって加熱される。シート状原反4は、エンボスロール17と加圧ロール18との間に挿入され、エンボスロール17と加圧ロール18との間で押圧されて、シート状原反4の表面にエンボス加工が施される。
【0023】
ここで、本願発明の装置にあっては、加圧ロール18に隣接して、加圧ロール18の表面温度をエンボスロール17の表面温度よりも30℃以上低い温度に保持するための冷却手段19が設けられていることに特徴を有している。
【0024】
この冷却手段19については、上記の作用を果たすことができる手段であればよく、本願発明は特に限定することはない。例えば、図1に示すように、エンボスロール17の表面温度を測定するためのエンボスロール用温度計19aと、加圧ロール18の表面温度を測定するための加圧ロール用温度計19bと、実際に加圧ロール18の表面温度を下げるための冷却水で満たされた冷却水タンク19cと、前記2つの温度計により測定された温度からそれぞれの表面温度の温度差を算出し、前記冷却水タンク19cの加圧ロール18に対する位置関係を制御するパーソナルコンピュータ19dと、前記冷却水タンクを移動させる移動装置19eと、から冷却手段19を構成してもよい。当該冷却手段19によれば、前記2つの温度計19a、19bとパーソナルコンピュータ19dとにより、それぞれのロールの表面温度、およびそれらの温度差をほぼリアルタイムで把握することができ、当該温度差が30℃以下となりそうな場合(つまり、加圧ロール18の表面温度が上昇して、エンボスロール17の表面温度に接近した場合)には、パーソナルコンピュータ19dに接続された移動手段19eが作動し、冷却水タンク19cを加圧ロール18へ接近させて、当該加圧ロール18と冷却水との接触面積を大きくすることで当該加圧ロール18の表面温度を下げることができる。これにより、エンボスロール17と加圧ロール18の表面温度の差を常に30℃以上に保持することができる(図2参照)。
【0025】
なお、図1に示す前記冷却手段19は例示であり、要は、加圧ロールの温度上昇を抑え、常にエンボスロールの表面温度よりも30℃以上低い温度に保持することできればよく、例えば、冷却水タンク19cの代わりに冷風を加圧ロール18表面に噴射する冷風装置を用いてもよい。
【0026】
このように、加圧ロール18の表面温度をエンボスロール17のそれよりも30℃以上低温とすることにより、エンボスが施されたシート状原反(エンボスシート1)は、加圧ロール18より滑らかに剥がされ、続いて下流側の冷却ロール20へ導かれ、ここで冷却されることによりエンボス加工が完了する。
【0027】
ここで、本願発明の方法および装置において用いられる加圧ロール17としては、従来公知のそれを適宜用いればよく、特に限定されることはないが、その表面の硬度が、JIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に規定されているH法で測定した値で85度以上、特に90度以上であることが好ましい。後述するように、本願発明の方法および装置は、400μm以上の厚さを有するシート状原反4に好適に用いることができるが、このような厚手のシート状原反4にエンボスを形成する場合には、この程度の表面硬度を有する加圧ロールが好適だからである。
【0028】
また、本願発明の方法および装置においてエンボス加工されるシート状原反4については、特に限定することはない。例えば、前記図1に示したクリア原反2及び印刷済原反3の着色原反31としては、塩化ビニル、ビニロン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、アクリル系樹脂等が用いられる。また、シートの厚みについても限定することはないが、本願発明の方法および装置にあっては、特に400μm以上の厚さを有するシート状原反4を好適に用いることができ、その用途については、インサート成型法により形成される自動車の内装部品として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本願発明のエンボスシートの製造装置の構成図である。
【図2】図1に示す装置の冷却手段を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
1 … エンボスシート
2 … クリア原反
3 … 印刷済原反
4 … シート状原反
10 … エンボス製造装置
11、12 … 予熱ロール
13 … 貼合せニップロール
14 … 加熱ドラム
15 … 加熱ロール
16 … 加熱ヒーター
17 … エンボスロール
18 … 加圧ロール
19 … 冷却手段
20 … 冷却ロール
21 … バックアップロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたシート状原反を、所定の賦形用凹凸模様が施されたエンボスロールと加圧ロールとの間に挿入、加圧することにより、前記シート状原反に凹凸模様を賦形してエンボスシートを製造する方法であって、
前記加圧ロールの表面温度を、前記エンボスロールの表面温度よりも30℃以上低い温度に保持することを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項2】
前記加圧ロールの表面の硬度が、JIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に規定されているH法で測定した値で85度以上であることを特徴とする請求項1に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項3】
前記シート状原反の厚さが400μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項4】
所定の賦形用凹凸模様が施されたエンボスロールと、
前記エンボスロールに対して略平行に配置された加圧ロールと、を具備し、
前記加圧ロールには、その表面温度を前記エンボスロールの表面温度よりも30℃以上低い温度に保持するための冷却手段が設けられていることを特徴とするエンボスシートの製造装置。
【請求項5】
前記加圧ロールの表面の硬度が、JIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に規定されているH法で測定した値で85度以上であることを特徴とする請求項4に記載のエンボスシートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−272918(P2006−272918A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99839(P2005−99839)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】