説明

エンリッチドエアー製造装置

【課題】所望の酸素濃度のエンリッチドエアーを小さな充填施設においても製造できるエンリッチドエアー製造装置を提供すること
【解決手段】容器2a内に窒素分離膜2bを内蔵し、圧縮空気が導入される圧縮空気導入部2cと、酸素を多く含むエンリッチドエアーが流出するエンリッチドエアー流出部2dと、窒素を多く含む高濃度窒素空気が流出する高濃度窒素空気流出部2eとを有する窒素分離膜モジュール2を備えたエンリッチドエアー製造装置において、高濃度窒素空気流出部2eに流量調節バルブ3aを設けると共に、窒素分離膜モジュール2に設定圧力を調節可能なリリーフバルブ4を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクーバダイビングに使用される、酸素を多く含むエンリッチドエアー(酸素富化空気)の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクーバダイビングにおいては、約30m以深で起きる「窒素酔い」の予防や「減圧時間の短縮化」のために、浅海ダイビング(0〜約40m)呼吸用のガスとして、酸素を多く含むエンリッチドエアーが多用されている。
【0003】
エンリッチドエアーとしては、窒素と酸素との混合ガスである「ナイトロックス」が知られており、このナイトロックスは従来一般的に、純窒素と純酸素とを混合することによって製造されていた(特許文献1)。
【0004】
ところが、上記製造において純酸素は危険物として取り扱う必要があり、専門の資格が必要である。また、2種の異なる気体を混合させるには、長い時間とその間タンクを回転させておくという手間、及びコストがかかる。そのため、小さな充填施設では大量生産は不可能であった。
【0005】
一方、エンリッチドエアーは、特許文献2に開示されているような窒素分離膜を使用することによっても製造可能である。しかし、スクーバダイビングにおいては、ダイビングの深さや時間に応じて21〜40%の範囲で所望の酸素濃度のエンリッチドエアーが求められるところ、単に窒素分離膜を使用するだけでは、エンリッチドエアーの酸素濃度は、窒素分離膜の性能、原料となる圧縮空気の流量及び圧力等によって決定され、一つの装置で酸素濃度の異なるエンリッチドエアーを製造することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−144283号公報
【特許文献2】特開2004−189561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようする課題は、所望の酸素濃度のエンリッチドエアーを小さな充填施設においても製造できるエンリッチドエアー製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、容器内に窒素分離膜を内蔵し、圧縮空気が導入される圧縮空気導入部と、酸素を多く含むエンリッチドエアーが流出するエンリッチドエアー流出部と、窒素を多く含む高濃度窒素空気が流出する高濃度窒素空気流出部とを有する窒素分離膜モジュールを備えたエンリッチドエアー製造装置において、前記高濃度窒素空気流出部に流量調節バルブを設けると共に、前記窒素分離膜モジュールに設定圧力を調節可能なリリーフバルブを設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエンリッチドエアー製造装置では、高濃度窒素空気流出部に設けた流量調節バルブにより高濃度窒素空気の流出量を調節することで、エンリッチドエアーの酸素濃度を調節でき、所望の酸素濃度のエンリッチドエアーを製造できる。具体的には、流量調節バルブを全閉としたときにエンリッチドエアーの酸素濃度が21%となり、全開としたときにエンリッチドエアーの酸素濃度が40%となるように設定しておけば、流量調節バルブの開度を変化させることにより、21〜40%の範囲で所望の酸素濃度のエンリッチドエアーを製造できる。
【0010】
また、エンリッチドエアー流出部にも流量調節バルブを設けることで、窒素分離膜に圧縮空気を供給する低圧圧縮機の供給能力が、窒素分離膜の処理能力に対して低い場合においても、窒素分離膜の膜圧を調整し、高い酸素濃度のエンリッチドエアーを安定して得ることができる。
【0011】
また、これらの流量調節バルブの開度を絞ると、窒素分離膜モジュールの容器内の圧力、すなわち窒素分離膜の膜圧が上昇するが、本発明では容器にリリーフバルブを設けているので窒素分離膜の膜圧を安定させることができ、その結果、得られるエンリッチドエアーの酸素濃度のばらつきを実質的になくすことができる。
【0012】
さらに、本発明では純酸素を使用しないため特別な資格は必要なく、また2種の異なる気体を混合させる必要もないので、小さな充填施設においてもエンリッチドエアーを製造できる。
【0013】
加えて、原料が空気(大気)であるので実質的に原料費がかからず、また圧縮空気の供給には既存の圧縮機を使用できるため新たな設備投資の必要もなく、低コストでエンリッチドエアーを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のエンリッチドエアー製造装置の装置構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に示す実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明のエンリッチドエアー製造装置の装置構成例を示す。
【0017】
本発明では、原料として空気(大気)を使用し、これを低圧圧縮機1で圧縮し、その圧縮空気を窒素分離膜モジュール2に導入することでエンリッチドエアーを製造する。
【0018】
窒素分離膜モジュール2は、その容器2a内に窒素分離膜2bを内蔵しており、圧縮空気が導入される圧縮空気導入部2cと、酸素を多く含むエンリッチドエアーが流出するエンリッチドエアー流出部2dと、窒素を多く含む高濃度窒素空気が流出する高濃度窒素空気流出部2eとを有する。高濃度窒素空気流出部2eには、流量調節バルブ3aが設けられている。また、窒素分離膜モジュール2には、容器2a内の圧力が設定圧力以上になると自動的に開き、かつその設定圧力を調節可能なリリーフバルブ4と、容器2a内の圧力を計測して表示する圧力計5が設けられている。
【0019】
窒素分離膜モジュール2のエンリッチドエアー流出部2dから流出したエンリッチドエアーは、チャンバータンク6に貯留される。チャンバータンク6には、チャンバータンク6内の圧力が設定圧力以上になると自動的に開く排気用安全弁7と、チャンバータンク6内の圧力が設定圧力以下になると自動的に開く吸気用安全弁8が設けられている。排気用安全弁7及び吸気用安全弁8の設定圧力は調節可能である。なお、排気用安全弁7及び吸気用安全弁8を個別に設ける代わりに、排気と吸気の機能を兼ね備えた安全弁を設けてもよい。
【0020】
チャンバータンク6には高圧圧縮機9が接続されており、この高圧圧縮機9により、エンリッチドエアーが所定圧力にてボンベ10に充填される。チャンバータンク6と高圧圧縮機9とを接続する配管には、エンリッチドエアーの酸素濃度を計測して表示する酸素濃度計11が設けられている。なお、酸素濃度計11の設置位置は図1の位置に限定されず、窒素分離膜モジュール2のエンリッチドエアー流出部2dの下流側であればどこに設けてもよい。例えば、エンリッチドエアー流出部2dとチャンバータンク6とを接続する配管、あるいはチャンバータンク6に酸素濃度計11を設けることができる。
【0021】
以下、図1のエンリッチドエアー製造装置の動作を説明する。
【0022】
原料である空気(大気)は低圧圧縮機1によって0.4〜1.2MPa程度に圧縮され、その圧縮空気が窒素分離膜モジュール2の圧縮空気導入部2cから窒素分離膜2bの一端側に導入される。その圧縮空気が窒素分離膜2bを通過することにより、酸素を多く含むエンリッチドエアーが外側に分離され、エンリッチドエアー流出部2dから流出する。また、窒素を多く含む高濃度窒素空気が窒素分離膜2bの他端側に位置する高濃度窒素空気流出部2eから流出する。なお、エンリッチドエアー流出部2dから流出するエンリッチドエアーの圧力は通常0.98MPa程度である。
【0023】
このとき、高濃度窒素空気流出部2eに設けた流量調節バルブ3aの開度を調節することにより、エンリッチドエアー流出部2dから流出するエンリッチドエアーの酸素濃度を調節できる。すなわち、流量調節バルブ3aの開度を絞ると、高濃度窒素空気流出部2eからの高濃度窒素空気の流出量が減少するので、結果としてエンリッチドエアー流出部2dから流出するエンリッチドエアーの酸素濃度が低下する。一方、流量調節バルブ3aの開度を大きくすると、高濃度窒素空気流出部2eからの高濃度窒素空気の流出量が増加するので、エンリッチドエアー流出部2dから流出するエンリッチドエアーの酸素濃度が増加する。図1の例では、流量調節バルブ3aを全閉としたときにエンリッチドエアーの酸素濃度が21%となり、全開としたときにエンリッチドエアーの酸素濃度が40%となるように設定しているので、流量調節バルブ3aの開度を変化させることにより、21〜40%の範囲で所望の酸素濃度のエンリッチドエアーを製造できる。実際には、エンリッチドエアーの酸素濃度は酸素濃度計11によって確認することができるので、その酸素濃度を確認しながら所望の酸素濃度となるように、流量調節バルブ3aの開度を調節する
【0024】
ここで、流量調節バルブ3aの開度を絞ると、窒素分離膜モジュール2の容器2a内の圧力、すなわち窒素分離膜2bの膜圧が上昇し、低圧圧縮機1への負荷が増大する。通常の低圧圧縮機1は、負荷(圧力)が設定値以上になると自動的に停止し、その後負荷(圧力)が設定値以下になると自動的に運転を再開するので、流量調節バルブ3aの開度を絞って窒素分離膜2bの膜圧が上昇すると、低圧圧縮機1は運転停止と運転再開を繰り返すこととなる。そうすると、窒素分離膜2bの膜圧の変動が大きくなり、得られるエンリッチドエアーの酸素濃度のばらつきが大きくなる。
【0025】
これに対して本発明では、窒素分離膜モジュール2の容器2aにリリーフバルブ4を設けており、容器2a内の圧力(窒素分離膜2bの膜圧)が設定圧力以上になるとリリーフバルブ4が自動的に開くので、低圧圧縮機1は停止することなく連続運転し、窒素分離膜2bの膜圧も安定する。その結果、得られるエンリッチドエアーの酸素濃度のばらつきを実質的になくすことができる。なお、容器2a内の圧力(窒素分離膜2bの膜圧)は圧力計5によって確認することができ、その圧力が適正な範囲となるように、リリーフバルブ4の設定圧力を調節することができる。
【0026】
ところで、万が一、窒素分離膜モジュール2の容器2a内の圧力(窒素分離膜2bの膜圧)が異常上昇した場合、エンリッチドエアー流出部2dから流出するエンリッチドエアーの圧力も上昇してチャンバータンク6内の圧力が上昇する。この状態で高圧圧縮機9の運転を継続すると高圧圧縮機9の故障の原因となる。また、低圧圧縮機1あるいは窒素分離膜モジュール2にトラブルが生じると、チャンバータンク6へのエンリッチドエアーの供給が停止又は供給量が減少し、チャンバータンク6内の圧力が減少する。この状態で高圧圧縮機9の運転を継続した場合も高圧圧縮機9の故障の原因となる。そこで、図1の例では、チャンバータンク6内の圧力が設定圧力以上になると自動的に開く排気用安全弁7と、チャンバータンク6内の圧力が設定圧力以下になると自動的に開く吸気用安全弁8を設けることで、チャンバータンク6内の圧力を一定の範囲内に維持できるようにして、高圧圧縮機9を保護するようにしている。
【0027】
また図1の例では、エンリッチドエアー流出部2fに流量調節バルブ3bを設けている。この流量調節バルブ3bを設けることで、低圧圧縮機1の供給能力が窒素分離膜2bの処理能力に対して低い場合においても、窒素分離膜2bの膜圧を調整し、高い酸素濃度のエンリッチドエアーを安定して得ることができる。すなわち、低圧圧縮機1の供給能力が窒素分離膜2bの処理能力に対して低いと、窒素分離膜2bの膜圧が十分に上がりきれず、高濃度窒素空気流出部2eの流量調節バルブ3aを全開としてもエンリッチドエアーの酸素濃度が40%に満たないことがある。このようなときに、エンリッチドエアー流出部2fの流量調節バルブ3bを絞ることで、窒素分離膜2bの膜圧を上げることができ、酸素濃度が40%のエンリッチドエアーを得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 低圧圧縮機
2 窒素分離膜モジュール
2a 容器
2b 窒素分離膜
2c 圧縮空気導入部
2d エンリッチドエアー流出部
2e 高濃度窒素空気流出部
3a,3b 流量調節バルブ
4 リリーフバルブ
5 圧力計
6 チャンバータンク
7 排気用安全弁
8 吸気用安全弁
9 高圧圧縮機
10 ボンベ
11 酸素濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に窒素分離膜を内蔵し、圧縮空気が導入される圧縮空気導入部と、酸素を多く含むエンリッチドエアーが流出するエンリッチドエアー流出部と、窒素を多く含む高濃度窒素空気が流出する高濃度窒素空気流出部とを有する窒素分離膜モジュールを備えたエンリッチドエアー製造装置において、前記高濃度窒素空気流出部に流量調節バルブを設けると共に、前記窒素分離膜モジュールに設定圧力を調節可能なリリーフバルブを設けたことを特徴とするエンリッチドエアー製造装置。
【請求項2】
前記エンリッチドエアー流出部に流量調節バルブを設けた請求項1に記載のエンリッチドエアー製造装置。
【請求項3】
前記容器内の圧力を計測して表示する圧力計をさらに備えた請求項1又は2に記載のエンリッチドエアー製造装置。
【請求項4】
前記エンリッチドエアー流出部から流出するエンリッチドエアーを貯留するチャンバータンクと、前記チャンバータンクに接続され、前記チャンバータンクから供給されるエンリッチドエアーを圧縮してボンベに充填する圧縮機とをさらに備え、前記チャンバータンクに排気用と吸気用の安全弁を設けた請求項1〜3のいずれかに記載のエンリッチドエアー製造装置。
【請求項5】
エンリッチドエアー流出部の下流側に、エンリッチドエアーの酸素濃度を計測して表示する酸素濃度計を設けた請求項1〜4のいずれかに記載のエンリッチドエアー製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−6825(P2012−6825A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106482(P2011−106482)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(510145451)
【Fターム(参考)】