説明

オイルシール構造

【課題】外部からの泥水等に曝されやすい部分の軸周等を密封するオイルシール1において、サイドリップ15で防ぎきれなかった泥水が対油シールリップ13の摺動部へ到達するのを極力防止し得る構造とする。
【解決手段】非回転のハウジング2の開口端部2a内周面に取り付けられるオイルシール本体10と、前記ハウジング2に挿通された回転体3に前記オイルシール本体10の軸方向外側に位置して取り付けられるスリンガ20とを備え、前記オイルシール本体10には、前記回転体3の外周面に摺動可能に密接される対油シールリップ13及び前記スリンガ20と摺動可能に密接されるサイドリップ15が形成されたオイルシール1において、前記サイドリップ15を通過した外部泥水が前記対油シールリップ13へ到達しにくくするための泥水遮断部30,31が、前記サイドリップ15と前記対油シールリップ13との間の部位に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランスファー装置や車輪軸受装置等、外部からの泥水等に曝されやすい部分の軸周等を密封するオイルシールであって、特に、対油シールリップの摺動部へ泥水等が浸入するのを防止した構造を備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のトランスファー装置や車輪軸受装置等に用いられるオイルシールは、外部から泥水等が飛来しやすいため、対油シールリップの摺動部へ泥水等が浸入するのを極力抑制して、対油シールリップにおける密封性の低下を可及的に防止する必要がある。図6は、従来技術によるこの種のオイルシールの一例の半断面図である。
【0003】
すなわち図6において、ハウジングの一部を構成するスリーブ50内周面と回転体部を構成するコンパニオンフランジ51外周面との間に介装されるオイルシール52は、その内周側に、対油シールリップ52a,ダストリップ52bがコンパニオンフランジ51外周面に摺接されている。
【0004】
又、オイルシール52のサイドリップ52cに摺接する略筒状のダストカバー53が設けられている。前記オイルシール52には、その外周面からダストカバー53周面近傍位置まで延びる延設部54が一体成形されており、該延設部54とスリーブ50の外周面との間に泥水の堰き止め部55が形成される。
【0005】
かかる構成によると、ダストカバー53とスリーブ50外周面との間隙に浸入した泥水は、該スリーブ50外周面を伝わって流れるが、スリーブ50先端位置に堰き止め部55が形成されているため、ここで堰き止められ、オイルシール52の延設部54端面に沿って流れ落ちる。このため、オイルシール52まで浸入する泥水を極力少なくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5−54871号公報
【0007】
しかしながら、図6(特許文献1)のようなオイルシール52によれば、サイドリップ52cまで浸入してしまった泥水は、サイドリップ52cによって一定程度浸入が防止されるものの、サイドリップ52cで防ぎきれなかった泥水については、対油シールリップ52aの摺動部への到達が避けられなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、外部からの泥水等に曝されやすい部分の軸周等を密封するオイルシールにおいて、サイドリップで防ぎきれなかった泥水が対油シールリップの摺動部へ到達するのを極力防止し得る構造とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るオイルシールは、非回転のハウジングの開口端部内周面に取り付けられるオイルシール本体と、前記ハウジングに挿通された回転体に前記オイルシール本体の軸方向外側に位置して取り付けられるスリンガとを備え、前記オイルシール本体には、前記回転体の外周面に摺動可能に密接される対油シールリップ及び前記スリンガと摺動可能に密接されるサイドリップが形成されたオイルシールにおいて、前記サイドリップを通過した外部泥水が前記対油シールリップへ到達しにくくするための泥水遮断部が、前記サイドリップと前記対油シールリップとの間の部位に設けられたものである。
【0010】
また、請求項2の発明に係るオイルシールは、請求項1記載のオイルシールにおいて、
前記泥水遮断部は、前記サイドリップの内周面に設けられ、環状の段差面よりなるものである。
【0011】
また、請求項3の発明に係るオイルシールは、請求項1記載のオイルシールにおいて、
前記泥水遮断部は、前記スリンガの内径筒部に設けられ、環状の段差面よりなるものである。
【0012】
また、請求項4の発明に係るオイルシールは、請求項1記載のオイルシールにおいて、
前記泥水遮断部は、前記サイドリップの内周面及び前記スリンガの内径筒部に設けられ、前記サイドリップの内周面に設けられた泥水遮断部よりも前記スリンガの内径筒部に設けられた泥水遮断部が、対油シールリップ側に設けられているものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係るオイルシールによれば、サイドリップを通過した外部泥水が対油シールリップへ到達しにくくするための泥水遮断部が、前記サイドリップと前記対油シールリップとの間の部位に設けられているので、サイドリップを通過した泥水が、この泥水遮断部によって堰き止められる。したがって、泥水が対油シールリップへ到達しにくくなり、優れた対泥水シール性が得られる。
【0014】
また、請求項2の発明に係るオイルシールによれば、サイドリップを通過した外部泥水が対油シールリップへ到達しにくくするための泥水遮断部が、前記サイドリップの内周面に設けられ、環状の段差面よりなるので、サイドリップを通過した泥水は、サイドリップ内周面を伝って流れようとしても、段差面によって堰き止められ、段差面を伝って円周方向へ流れる。したがって、泥水が対油シールリップへ到達しにくくなり、優れた対泥水シール性が得られる。
【0015】
また、請求項3の発明に係るオイルシールによれば、サイドリップを通過した外部泥水が対油シールリップへ到達しにくくするための泥水遮断部が、前記スリンガの内径筒部に設けられ、環状の段差面よりなるので、サイドリップを通過した外部泥水は、スリンガ内面を伝って流れようとしても、段差面によって堰き止められ、段差面を伝って円周方向へ流れる。したがって、泥水が対油シールリップへ到達しにくくなり、優れた対泥水シール性が得られる。
【0016】
さらに、請求項4の発明に係るオイルシールによれば、サイドリップを通過した外部泥水が対油シールリップへ到達しにくくするための泥水遮断部が、サイドリップの内周面及びスリンガの内径筒部に設けられているので、サイドリップを通過した泥水は、サイドリップ内周面又はスリンガ内面を伝って流れようとしても、泥水遮断部によって堰き止められる。また、サイドリップ内周面に設けられた泥水遮断部よりもスリンガ内径筒部に設けられた泥水遮断部のほうが対油シールリップ側に設けられているので、サイドリップ内周面に設けられた泥水遮断部によって堰き止められた泥水が鉛直方向に流れ落ちることがあっても、この泥水は、スリンガ内径筒部に設けられた泥水遮断部で受け止められて、対油シールリップ側へ流れることがない。したがって、より優れた対泥水シール性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一実施例に係るオイルシールの要部断面図である。
【図2】本発明の第二実施例に係るオイルシールの要部断面図である。
【図3】同オイルシールにおける泥水遮断部の他の例を示す要部断面図である。
【図4】本発明の第三実施例に係るオイルシールの要部断面図である。
【図5】同オイルシールにおける泥水遮断部の他の例を示す要部断面図である。
【図6】従来例に係るオイルシールの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
つぎに、発明を実施するための形態を図面にしたがって説明する。
【0019】
第一実施形態・・・図1は、本発明のオイルシールの一例を示している。図1のオイルシール1は、車両のトランスファー装置における非回転のハウジング2と前記ハウジング2に挿通された回転体3との間に装着されるものであって、ハウジング2の開口端部2aの内周面に取り付けられたオイルシール本体10と、回転体3の外周面に前記オイルシール本体10の軸方向外側に位置して取り付けられたスリンガ20とを備える。
【0020】
オイルシール本体10は、例えば金属板を打ち抜きプレス成形することにより製作された金属環11にゴム状弾性材料を一体に成形したものであって、ハウジング2の開口端部2aの内周面に圧入嵌着される外周シール部12と、前記金属環11のフランジ部から密封流体側へ延び、先端近傍の内周部が回転体3の外周面に摺動可能に密接される対油シールリップ13と、前記金属環11のフランジ部から対油シールリップ13と反対側へ延び、先端内周が回転体3の外周面に近接対向又は摺動可能に密接されるダストリップ14と、このダストリップ14の根元の外周側から対油シールリップ13と反対側へ先端が大径となるような円錐筒状をなして延びるサイドリップ15とを備える。対油シールリップ13にはその緊迫力を補うガータスプリング16が嵌着されている。
【0021】
スリンガ20は金属板を打ち抜きプレス成形することにより製作されたものであって、回転体3の外周面に圧入嵌着される内径筒部21と、この内径筒部21から外径方向へ円盤状に展開して内側面(オイルシール本体10側を向いた面)がオイルシール本体10のサイドリップ15の先端部と摺動可能に密接されるシールフランジ部22と、このシールフランジ部22の外径部からハウジング2の開口端部2aの先端外周位置へ向けて円筒状に延びる外径筒部23とからなる。
【0022】
以上のように構成された本発明のオイルシール1において、オイルシール本体10は、金属環11が埋設された外周シール部12をハウジング2の開口端部2aの内周面に圧入する。一方、スリンガ20は、内径筒部21を回転体3の外周面に圧入嵌着する。
【0023】
オイルシール本体10の対油シールリップ13は、回転体3の外周面との摺動部Sにおいて、密封流体側の潤滑油が回転体3の外周から大気側へ漏洩するのを防止するものである。また、オイルシール本体10のサイドリップ15は、回転するスリンガ20のシールフランジ部22との摺動部Sにおいて、このシールフランジ部22との密接摺動及び遠心力によるシールフランジ部22の振り切り作用によって、内周側への泥水等の浸入を阻止するものであり、オイルシール本体10のダストリップ14は、サイドリップ15の内周側で、回転体3の外周面に近接対向又は摺動可能に密接されることによって、対油シールリップ13側への泥水等の浸入を阻止するものである。
【0024】
サイドリップ15には、サイドリップ15を通過した外部泥水が対油シールリップ13へ到達しにくくするための泥水遮断部30が、サイドリップ15の内周面に設けられ、この泥水遮断部30には、内向き突起が設けられて、環状の段差面よりなる。このような泥水遮断部30が設けられていることにより、サイドリップ15を通過した外部泥水のうち、サイドリップ15を伝って浸入しようとする泥水については、泥水遮断部30が環状の段差面よりなるので、泥水の一部は段差面を伝って円周方向へ流れ、段差面を伝った泥水が円周方向下方へ来たとき、サイドリップ15の摺動部Sから外部へ流出し、優れた対泥水シール性を有する。
【0025】
第二実施形態・・・図2に示すように、当該実施形態に係るオイルシール1は、第一実施形態では、サイドリップ15に設けられていた泥水遮断部が、サイドリップ15ではなく、スリンガ20の内径筒部21に設けられている。その他の構成は、第一実施形態と同様である。
【0026】
泥水遮断部31は、内径筒部21の対油シールリップ側先端部に、外向き突起が設けられて、環状の段差面よりなる。このような泥水遮断部31が設けられていることにより、サイドリップ15を通過した外部泥水のうち、スリンガ20を伝って浸入しようとする泥水については、泥水遮断部31が環状の段差面よりなるので、泥水の一部は段差面を伝って円周方向へ流れ、段差面を伝った泥水が円周方向下方へ来たとき、サイドリップ15の摺動部Sから外部へ流出し、優れた対泥水シール性を有する。
【0027】
図3に示すように、泥水遮断部31は、スリンガ20とは別部品で構成されていてもよい。
【0028】
第三実施形態・・・図4に示すように、当該実施形態に係るオイルシール1は、第一泥水遮断部30が、サイドリップ15の内周面に設けられ、第二泥水遮断部31が、スリンガ20の内径筒部21に設けられている。その他の構成は、第一実施形態及び第二実施形態と同様である。
【0029】
第一泥水遮断部30が設けられていることにより、サイドリップ15を通過した外部泥水のうち、サイドリップ15を伝って浸入しようとする泥水については、第一泥水遮断部30が環状の段差面よりなるので、泥水の一部は段差面を伝って円周方向へ流れ、段差面を伝った泥水が円周方向下方へ来たとき、サイドリップ15の摺動部Sから再び外部へ流出し、優れた対泥水シール性を有する。
【0030】
第二泥水遮断部31が設けられていることにより、サイドリップ15を通過した外部泥水のうち、スリンガ20を伝って浸入しようとする泥水については、第二泥水遮断部31が環状の段差面よりなるので、泥水の一部は段差面を伝って円周方向へ流れ、段差面を伝った泥水が円周方向下方へ来たとき、サイドリップ15の摺動部Sから再び外部へ流出し、優れた対泥水シール性を有する。
【0031】
さらに、第一泥水遮断部30と第二泥水遮断部31の両方が備わっており、第一泥水遮断部30よりも第二泥水遮断部31が、対油シールリップ13側に設けられているので、第一泥水遮断部30を伝って行って、段差面から鉛直方向に流れ落ちる泥水は、第二泥水遮断部31により受け止められ、より優れた対泥水シール性を有する。
【0032】
図5に示すように、第二泥水遮断部31は、スリンガ20とは別部品で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 オイルシール
2 ハウジング
2a 開口端部
3 回転体
10 オイルシール本体
11 金属環
12 外周シール部
13 対油シールリップ
14 ダストリップ
15 サイドリップ
16 ガータスプリング
20 スリンガ
21 内径筒部
22 シールフランジ部
23 外径筒部
30,31 泥水遮断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転のハウジングの開口端部内周面に取り付けられるオイルシール本体と、前記ハウジングに挿通された回転体に前記オイルシール本体の軸方向外側に位置して取り付けられるスリンガとを備え、前記オイルシール本体には、前記回転体の外周面に摺動可能に密接される対油シールリップ及び前記スリンガと摺動可能に密接されるサイドリップが形成されたオイルシールにおいて、
前記サイドリップを通過した外部泥水が前記対油シールリップへ到達しにくくするための泥水遮断部が、前記サイドリップと前記対油シールリップとの間の部位に設けられたことを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
請求項1記載のオイルシールにおいて、
前記泥水遮断部は、前記サイドリップの内周面に設けられ、環状の段差面よりなることを特徴とするオイルシール。
【請求項3】
請求項1記載のオイルシールにおいて、
前記泥水遮断部は、前記スリンガの内径筒部に設けられ、環状の段差面よりなることを特徴とするオイルシール。
【請求項4】
請求項1記載のオイルシールにおいて、
前記泥水遮断部は、前記サイドリップの内周面及び前記スリンガの内径筒部に設けられ、
前記サイドリップの内周面に設けられた泥水遮断部よりも前記スリンガの内径筒部に設けられた泥水遮断部が、対油シールリップ側に設けられていることを特徴とするオイルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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