説明

オイルシール

【課題】オイルシール自体に位置ずれを防止する機能を持たせ、単品で該オイルシールの位置ずれを効果的に防止することができる。
【解決手段】機械装置104の内部空間160に封入された潤滑剤129の漏出を阻止する主リップ134A、134Bを有する主シール体134と、主リップ134A、134Bよりも内部空間160側に配置された補助リップ136Aを有する補助シール体136と、を有し、機械装置104の内部空間160と外部空間162を仕切るオイルシール130、132において、補助シール体136は、軸方向における内部空間160側に壁面136Bを有しており、内部空間160に生じた圧力P1を、壁面136B以外の部位にも分散させる圧力分散手段140を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、図8に示されるようなオイルシールが示されている。
【0003】
オイルシール1は、主リップ2を有する主シール体3と、主リップ2よりも機械装置の内部空間6側に配置された補助リップ4を有する補助シール体5と、を有し、機械装置の内部空間6と外部空間7を仕切っている。これにより、補助シール体5が、補助リップ4により主シール体3側への異物(鉄粉等)の侵入を阻止するとともに、主シール体3が、主リップ2によりオイルシール1の外部空間7側へ機械装置の内部空間6に封入されたオイルが漏出することを阻止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−110946(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械装置内部の温度が上昇した等の理由により、該機械装置内部の圧力が上昇した場合、該圧力が、機械装置の内部空間側に配置されている補助シール体の軸方向の一面にのみ直接的に掛かり、オイルシール全体が機械装置の外部空間側へ位置ずれすることがあるという問題があった。位置ずれを防止する構成としては、止め輪等の位置決め手段を追加するものが考えられるが、別途の部材を必要とし、組付け工数も増大する。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するために、オイルシール自体に位置ずれを防止する機能を持たせ、単品で該オイルシールの位置ずれを効果的に防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、機械装置の内部空間に封入された潤滑剤の漏出を阻止する主リップを有する主シール体と、前記主リップよりも前記内部空間側に配置された補助リップを有する補助シール体と、を有し、前記機械装置の内部空間と外部空間を仕切るオイルシールにおいて、前記補助シール体は、軸方向における前記内部空間側に壁面を有しており、該内部空間に生じた圧力を、該壁面以外の部位にも分散させる圧力分散手段を備えた構成とすることにより、上記課題を解決した。
【0008】
温度上昇等によって機械装置の内部空間に圧力が生じると、この生じた圧力は、従来は、補助シール体の軸方向における機械装置の内部空間側の壁面のみに掛かり、オイルシールを機械装置の外部空間側へ抜ける方向に作用していた。本発明ではこの内部空間に生じた圧力を分散させ、補助シール体の該壁面以外にも掛けるようにしている。これにより、例えば、オイルシールの機械装置の半径方向への装着力を増大させ、オイルシールを所定の軸方向位置に留まらせようとする半径方向の圧力成分を発生させることができる。この圧力の分散作用により、オイルシールは、単品でオイルシールの位置ずれを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、オイルシール自体に位置ずれを防止する機能を持たせ、単品で該オイルシールの位置ずれを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の一例にかかるオイルシールが適用された減速装置の概略断面図
【図2】図1の矢視II部の拡大図
【図3】図2の矢視IIIから見た側面図
【図4】前記オイルシールの挿入時の概略断面図
【図5】本発明の他の実施形態の一例にかかるオイルシールの正断面図
【図6】図5の矢視VIから見た側面図
【図7】本発明の更に他の実施形態の一例にかかるオイルシールの正断面図
【図8】従来のオイルシールの概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態例の一例にかかるオイルシール130、132が適用された減速装置100の概略断面図である。
【0013】
まず、減速装置100の概略構成から説明する。
【0014】
減速装置100は、モータ102と、減速機(機械装置)104と、から構成されている。
【0015】
モータ102のモータ軸106は、減速機104の入力軸を兼用しており、その先端には、第1歯車(ハイポイドピニオン)108が形成されている。当該第1歯車108は、減速機104の中間軸110にキー111により連結されている第2歯車(ハイポイドギヤ)112と噛合している。中間軸110の軸方向における他方側(第2歯車112が連結されている側の反対側)には、第3歯車114が一体に形成されている。第3歯車114は、減速機104の出力軸(ホローシャフト)120にキー127により固定されている第4歯車122と噛合している。出力軸120は、軸受124、126により回転自在に支持されている。軸受124は、出力軸120と第1ケーシング121の間、軸受126は、出力軸120と第2ケーシング123の間に組み込まれている。
【0016】
減速機104の内部空間160には、第1〜第4歯車108、112、114、122をより円滑に回転させるために、潤滑剤(グリース)129が封入されている。該潤滑剤129の漏れを防止するため、オイルシール130、132がそれぞれ軸受124、126の(軸方向における)外部空間162側に備えられている。
【0017】
ここで、オイルシール130、132の構成について説明する。
【0018】
オイルシール130、132は、構造、機能ともに同一であるため、以下でオイルシール130についてのみ代表的に説明する。
【0019】
図2は、オイルシール130周辺の拡大図(図1の矢視II部を90度右回転した拡大図)、図3は、図2の矢視III方向から見た側面図である。
【0020】
オイルシール130は、主シール体134と、補助シール体136と、から主に構成されている。オイルシール130は、該主シール体134と補助シール体136により挟まれたシール内空間138を有すると共に、減速機104の内部空間160と外部空間162を仕切っている。
【0021】
主シール体134は、減速機104の内部空間160に封入された潤滑剤129の漏出を阻止する第1主リップ134Aと、大気側からのダストの侵入を防止する第2主リップ134Bを有している。
【0022】
補助シール体136は、主シール体134よりも減速機104の内部空間160側に位置しており、内部空間160側から主シール体134へ異物(鉄粉等)が侵入することを阻止する補助リップ136Aを有している。
【0023】
オイルシール130は、減速機104の内部空間160と外部空間162を仕切り、密封空間を構成するため、例えば、減速装置100を長時間の運転すると、該内部空間160の温度が上昇することがある。この結果、減速機104の内部空間160に圧力P1が生じ、基本的にこの補助シール体136の軸方向における内部空間160側の壁面136Bに掛かる。
【0024】
圧力分散手段140は、該内部空間160の圧力P1を該壁面136B以外の部位にも分散させる。本実施形態における圧力分散手段140は、圧力P1をシール内空間138に分散させるための貫通路142を備えている。貫通路142は、減速機104の内部空間160側からシール内空間138に向けて補助シール体136を軸方向に貫通形成した貫通孔143により構成されている。
【0025】
圧力分散手段140は、該貫通孔143を介して、該圧力P1をシール内空間138に分散させている。これにより、圧力分散手段140は、オイルシール130のシール内空間138を半径方向に膨らませようとする半径方向の圧力成分P2、P3(圧力成分P2、P3はともに圧力P1と同じ大きさの圧力成分)を発生させる。
【0026】
貫通孔143は、出力軸120に接触している補助リップ136Aから半径方向に離れた位置に形成されているため、主に出力軸120の表面を伝ってくる異物が、該貫通孔143を通過して、主シール体134側へ侵入しにくくなっている。
【0027】
次に、オイルシール130の作用について説明する。
【0028】
圧力分散手段140は、貫通孔143を介して、減速機104の内部空間160に生じた圧力P1を補助シール体136の壁面136B以外にも掛け、該圧力P1をシール内空間138(具体的には、シール内空間138の全方向)に分散させる。
【0029】
圧力P1を分散させた成分の内、半径方向の圧力成分P2、P3は、オイルシール130のシール内空間138を半径方向に膨らませて半径方向の装着力を増大させ、オイルシール130を留まらせるように作用する。該作用は、圧力分散手段140によって圧力P1を分散させることにより得られるものであり、オイルシール130が減速機104の外部空間162側へ位置ずれすることを(特に止め輪等を配置することなく)防止している。
【0030】
このように、オイルシール130、132の位置ずれを効果的に防止できることにより、オイルシール130、132の位置ずれ分を考慮して、出力軸120や第1、第2ケーシング121、123の軸方向長さを長くする必要がなくなるため、減速機104は、出力軸120の軸方向における長さをコンパクトに設計することができる。
【0031】
また、圧力P1が補助シール体136の壁面136Bのみに集中しなくなり、該補助リップ136Aは、該壁面136Bの裏面側から同じ圧力P1を受けることができるため、本来の緊迫力を安定して保持することができる。このため、オイルシール130の(特に、補助シール体136の)寿命を延長させることができ、減速装置100は長期間にわたる連続運転を実現することができる。
【0032】
また、図4の(A)(B)に示すように、オイルシール130を減速機104に挿入(組付け)する場合においても、貫通孔143が、オイルシール130と軸受124の間の空間160Aと、シール内空間138を導通させ、組み付け時に発生する圧縮圧力をより広い空間で受けることになるため、結果として、補助シール体136の壁面136Bに掛かる圧縮圧力を低減させることができる。つまり、補助シール体136の壁面136Bが、該圧縮圧力を集中的に直接受けることがなくなるため、オイルシール130の組付け時の作業性をより向上させることができる。
【0033】
次に、他の実施形態の一例にかかるオイルシール230ついて説明する。
【0034】
図5は、本発明の他の実施形態の一例にかかるオイルシール230の正断面図であり、図6は、図5の矢視VI方向から見た側面図である。
【0035】
本実施形態において、圧力分散手段240は、補助シール体236の半径方向外壁面236Cと、該補助シール体236の半径方向外壁面(外周面)236Cと対向している主シール体234の内壁面(内周面)234Cとの間に形成した貫通路243により構成されている。
【0036】
減速機204の内部空間260の圧力が徐々に上昇し、(オイルシール230を外部空間262側へ移動させるほどの)圧力P4になったとしても、圧力分散手段240は、該貫通路243を介して、該内部空間260の圧力P4をシール内空間238に分散させる。これによって、半径方向の圧力成分P5、P6(圧力成分P5、P6はともに圧力P4と同じ大きさの圧力成分)を発生させることができる。
【0037】
貫通路243は、先の貫通孔(143)よりも更に補助シール体236の半径方向の外側に配置されているため、出力軸220の表面を伝ってくる異物が、貫通路243を介して、より入り難くなっている。このため、貫通路243は、上記実施形態の貫通孔(143)よりも開口面積が大きくなっている。貫通路243の開口面積が大きいため、貫通路243は、上記実施形態よりもシール内空間238へ圧力P4を分散し易くなっている。この結果、圧力分散手段240は、圧力P4を分散させる作用をより促進させることができ、半径方向の圧力成分P5、P6をより発生させ易くすることができる。
【0038】
その他の構成については、図2に示すオイルシール130の構造と基本的に同一であるため、オイルシール130と対応する部分(機能的に同様の部分)に、下2桁が同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0039】
以降に示す実施形態についても、図2に示すオイルシール130と機能的に同様の部分については、下2桁に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0040】
次に、さらに他の実施形態の一例にかかるオイルシール330について説明する。
【0041】
図7は、本発明の更に他の実施形態の一例にかかるオイルシール330の正断面図である。
【0042】
本実施形態において、圧力分散手段340は、突起部350を備えている。突起部350は、主シール体336から減速機304の内部空間360側に向かって延在されている。
【0043】
該突起部350は、補助シール体336の壁面336Bに対して垂直な受圧面350Aを有している。減速装置300内部の圧力が徐々に上昇し、(オイルシール330を外部空間362側へ移動させるほどの)圧力P7になったとしても、受圧面350Aは、内部空間360の圧力P7の半径方向外側に向かう圧力成分P8(圧力成分P8は圧力P7と同じ大きさの圧力成分)を受けることができる。
【0044】
また、突起部350が第1ケーシング321側のみに設けられているため、突起部350の受圧面350Aが、(半径方向の圧力成分の内)半径方向外側に向かう圧力成分P8のみを受けることができる。このため、オイルシール330の出力軸320に対する緊迫力(摺動抵抗)を増大させることなく、オイルシール330の第1ケーシング321に対する装着力のみを増大させることができ、オイルシール330の位置ずれを効果的に防止することができる。
【0045】
なお、本実施形態において、突起部は、主シール体から延在されているが、主シール体または補助シール体のどちらか一方、あるいは両方から延在されるようにしてもよい。
【0046】
また、圧力分散手段は、突起部のみでも導入路のみでもよく、突起部を備えると共に、貫通路を備えていてもよい。貫通路としては、内部空間側からシール内空間に向けて補助シール体を軸方向に貫通形成した貫通孔でもよいし、または補助シール体の半径方向外周面と、該外周面と対向している主シール体の内周面との間に形成した貫通路でもよい。貫通孔と貫通路の双方を形成してもよい。なお、導入路の大きさについては、特に制限はない。
【符号の説明】
【0047】
100…減速装置
104…減速機(機械装置)
129…潤滑剤
130、132…オイルシール
134…主シール体
134A、134B…第1、第2主リップ(主リップ)
136…補助シール体
136A…補助リップ
140…圧力分散手段
160…内部空間
162…外部空間
P1…圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械装置の内部空間に封入された潤滑剤の漏出を阻止する主リップを有する主シール体と、前記主リップよりも前記内部空間側に配置された補助リップを有する補助シール体と、を有し、前記機械装置の内部空間と外部空間を仕切るオイルシールにおいて、
前記補助シール体は、軸方向における前記内部空間側に壁面を有しており、
該内部空間に生じた圧力を、該壁面以外の部位にも分散させる圧力分散手段を備えた
ことを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
請求項1において、
前記圧力分散手段が、前記内部空間に生じた圧力を前記主シール体と補助シール体とで挟まれたシール内空間に分散する貫通路を備えている
ことを特徴とするオイルシール。
【請求項3】
請求項2において、
前記貫通路が、前記内部空間側から前記シール内空間に向けて、前記補助シール体を軸方向に貫通形成した貫通孔により構成される
ことを特徴とするオイルシール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記圧力分散手段が、前記補助シール体の半径方向外周面と、該補助シール体の半径方向外周面と対向している前記主シール体の内周面との間に形成した貫通路により構成されている
ことを特徴とするオイルシール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記圧力分散手段は、前記主シール体または前記補助シール体から前記内部空間側に向かって延在される突起部を備え、前記内部空間に生じた圧力を、前記壁面のほか、該突起部によっても分散して受ける
ことを特徴とするオイルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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