説明

オイルジェット

【課題】 エンジン内にあって、バルブ機能を内蔵するボディとエンジンオイルを噴出するノズルから構成されるピストン冷却用オイルジェットは、ボディ横穴にノズルをロウ付けし、かつバルブ機能を安定化させるためのボールストッパをボディ下部開口端でかしめて組み付けされている。
そのため、従来製品は、構成部品数が多く、組付け工数もかかり、かつエンジン毎に製品形状の変更が必要となっており、燃費向上を実現するための有用製品として直ちに採用するには難点がある。
【解決手段】 ボール受け座面とバネ受け座面を設けることでバルブ機能を安定化させたスプリングホルダ部とオイル供給管、及びオイル噴出口を一体成形したノズルを考案し、更にスプリングホルダ部をボディに圧入可能な形状にした。
これにより、ボールストッパが不要となり、またロウ付け加工を廃止できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等のエンジンに使用されるピストン冷却用オイルジェットに係り、特にオイル供給管を有するオイルジェットにおいて、部品構成を簡略化するとともにバルブ機能を省スペースで実現し、ピストン冷却を常時行う効果を通して燃費向上に大きく関与する機能部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンにおける燃費向上の必要性は、地球温暖化防止や排ガス規制等の環境行政からの要請だけでなく、自然環境との調和を目指す自動車業界全体の技術的使命でもある。効率よく燃費向上をはかるには、燃焼ガス温度をより高温にすることが有効であるが、そのためには燃焼室を取り巻く各部材の耐熱性を確保することが技術的な課題になっている。(図1)
特に、シリンダ10とピストン12の隙間をシールするピストンリング8等の耐熱性に関して、ピストン12をエンジンオイルで常時、効果的に冷却することが大きな効果を導くことが知られており、この目的でピストン冷却用オイルジェットが採用されている。
【0003】
オイルジェット製品の構成は、以下の通りである。(図2)
まずバルブ機能に係わるバネ3とボール4を内蔵するボディ1の上部に、開口部1bとそれにつながるシート面1aを形成し、チェックバルブの機能を組み立てる。
次に、バネ3の倒れこみを防ぎ、かつ開弁時のシート面1aからのボール離れを制限するために、ボールストッパ5をボディ下部の開口端でかしめて固定する。
さらに、ボディ側面に開けた横穴に、オイル噴出口2bを有するオイル供給管2aを差込み、ロウ付けして一体化する。
最後に、オイルジェットをエンジン内部に固定するために、ブラケット6をボディ外周部にロウ付けしている。このような構成で、エンジンオイルは一定の開弁圧以上で、ボディ上部のシート面1aの開口部1bから流入し、ボディ内部でバルブ機能を果たすために配置されているボール4とバネ3の側面を通過して、横穴からオイル供給管2aに送り込まれ、オイル噴出口2bからピストンに向けて噴出される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイル供給管2aを通してピストンリング8等を冷却するオイルジェットの本体であるボディ1は、通常、シリンダ穴11の下部にあるエンジンルーム15の天井部に、ボディ1にロウ付けしたブラケット6で固定される。
また、シリンダ穴11とオイルジェットの取り付け位置の関係を保つために、ボディ1とブラケット6は六角穴で位置合わせされると同時に、ボディ外周面の所定角度位置に横穴を形成してオイル供給管2aをロウ付け固定している。
このため、オイルジェットの取り付け対象となるエンジン毎に、オイルジェット製品の寸法形状を変更することが必要となっている。
【0005】
このように、現行のオイルジェット製品は、部品点数が多く、かつ組付け工程が複雑であるため、製造コストが高額となり、その結果、環境対策を進める上で、燃費向上を促進するためのオイルジェット製品の採用はあまり進展していない。
【0006】
上記のような製品状況において、高コストであるロウ付けを廃止するとともに、部品統合による構成の簡略化と、部品製作及び部品組付け工程の簡素化をはかることにより、省スペースで種々のエンジンでの共通使用が可能な新構成のオイルジェット製品の発明を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を可能にする発明要素として、以下の項目を挙げることができる。(図3および図4)
第1に、ノズル2について、スプリングホルダ部2e、オイル供給管2a、及びオイル噴出口2bを合せて単一素材からの一体成形構造にした。
第2に、上記ノズル2の絞り加工工程で、オイル噴出口2bとオイル供給管2aを成形すると共に、バルブ機能を安定化させるボール受け座面2cとバネ受け座面2dを形成し、その後、オイル供給管2aを所定の形状に曲げ加工することとした。
第3に、ボディ1の胴部にノズル2のスプリングホルダ部2eを圧入する際に、その断面形状を保持できる構造とした。第4に、ブラケット6のボディ1への固定方法として、ロウ付けに替えてかしめ加工を採用し、組付けを簡単にした。
【0008】
ノズル2のスプリングホルダ部2eをボディ1の胴部へ圧入するに際しては、3項目の要件を満足することが必要となる。
すなわち、圧入後のボディ1からの抜け荷重が十分大きくなること、シート面1aから一定の距離にボール受け座面(ボールストッパ機能)2cを配置すること、最後にバネ3の倒れこみを防ぐためにバネ収納空間およびバネ受け座面2dをつくることである。
本発明では、このような要件を満たす成形可能な形状として、スプリングホルダ部2eの開口端に花びら状の圧入形状を付与することを考案した。
【発明の効果】
【0009】
本発明のオイルジェットは、スプリングホルダ部2e、オイル供給管2a、及びオイル噴出口2bを有するノズル2をボディ1の胴部に圧入することによって一体化させた。
その結果、ボールストッパがなくなるとともに、ボールストッパのかしめ工程、およびオイル供給管2aのロウ付け工程が不要となり、圧入工程に置き換わった。さらに、ボディ1の外周部へのブラケット6のロウ付けを廃止し、代わりにかしめることで生産性を向上させることができた。
ブラケット6及びノズル2とボディ1との組付けの角度位置関係は、かしめ及び圧入の加工時点で変更できるため、シリンダ穴11とオイルジェットの取り付け部(エンジンオイル供給部)の位置関係が異なるエンジンであっても、オイルジェットを共通に使用できる。
また、オイル供給管2aの曲げ形状の変更のみで共用化をはかることも可能である。(現行のオイルジェットでは、横穴位置の関係でオイル供給管2aとボディ1は一対一の関係を余儀なくされている。)
【0010】
ノズル2の成形は、パイプ素材の絞り、曲げなどの塑性加工のプロセスで行うことができる。(図5)
このプロセスを経ることにより、ボディ1に圧入するスプリングホルダ部2eの形状、バネ変形を安定化させるためのバネ受け座面2d、ボールストッパの役割を果たすボール受け座面2c、オイルをピストン冷却ポイントに導くオイル供給管2aの曲がり形状、供給管先端部のオイル噴出口2b等、オイルジェットの機能要件を満足する部品形状が付与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
エンジン内にあって、バルブ機能を内蔵し、かつピストンを冷却するためにエンジンオイルを供給するオイルジェットにおいて、開口部につながるシート面を有するボディと、スプリングホルダ部、オイル供給管、及びオイル噴出口を一体成形したノズル等から構成され、ノズルのスプリングホルダ部をボディ胴部に圧入することにより、オイルの噴出供給が可能となるバルブ機能を実現することを特徴とするピストン冷却用オイルジェットの提供を目的としている。
具体的な発明の態様を以下に記す。
【0012】
図3に示すオイルジェットは、ボディ1、ノズル2、ブラケット6から構成される。
ボディ1の外周面のブラケット保持部には、多数の歯形が形成されており、ブラケット6をかしめる際に、ブラケットのかしめ部が変形流動して上記の歯形に食い込み、ボディの回転や脱落を防止する。
【0013】
ノズル2のスプリングホルダ部2eの開口端は花びら状に成形され、花びらの外接円直径はバネ受け座面2dの断面の外周直径にほぼ等しい。
かしめ加工後の抜け荷重を確保するために、ボディ1の内周面はスプリングホルダ部2eの外周面形状に対応する断面形状に成形されることが望ましい。
この場合、両者の接触面全体が、スプリングホルダ部2eをボディ1の胴部へ圧入する際の対抗力を発生させる部位となる。
しかし、圧入後の抜け荷重が十分確保できる場合は、ボディ1の内周面を単純な円筒状に成形し、ノズル2のバネ受け座面2dの外周面で保持することができる。
また、抜け荷重の不足が懸念される場合は、圧入工程の中でボディ1の下部開口端をかしめることにより、要求される抜け荷重以上で組み付けを行うことが可能である。
【0014】
ボディ1へのブラケット6のかしめ加工、及びノズル2の圧入加工の角度位置関係は、それぞれ独立に設定することが可能であり、エンジン内のシリンダ穴11とエンジンオイル供給部との角度位置関係を異にするエンジン相互で、オイルジェット製品の共通化をはかることが可能となる。
【0015】
図6は、本発明の他の実施例におけるノズル2のスプリングホルダ部2eの形状を示している。
この実施例では、花びら状のスプリングホルダ部2eは必ずしも等方対称でなくても良い例を呈示している。
すなわち、スプリングホルダ部2eの開口端に形成するボール受け座面2cの内接円は、バルブ機能に必要なボール4の直径よりも小さければよく、ボール4がシート面1aから離れる際に安定したボールストッパの役割を果たすことが保証されれば良い。
また同時に、ボール4の側面からノズル2のスプリングホルダ部2eの内部に所定のオイル流量が流れ込むに十分な開口面積が確保される必要がある。
本図は、このような要件を満たす最もシンプルなスプリングホルダ部2eの形状の一つである。
【0016】
さらに図7は流量確保のためスプリングホルダ部2eに切り欠き成形とバネ受け座面2dの成形方法を工夫したタイプであり、図8はバネ3を外径側で保持することが特徴のタイプである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】オイルジェットの配置を表わすエンジンの一部断面図である。
【図2】従来のオイルジェットの構成図である。
【図3】本発明のオイルジェットの構成図である。
【図4】本発明の一実施形態であるスプリングホルダ部の形状を示す図である。
【図5】本発明のオイルジェットの工程図である。
【図6】本発明の他の実施例におけるスプリングホルダ部の形状を示す図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ボディ
1a シート部
1b 開口部
2 ノズル
2a オイル供給管
2b オイル噴出口
2c ボール受け座面
2e スプリングホルダ部
2d バネ受け座面
3 バネ
4 ボール
5 ボールストッパ
6 ブラケット
8 ピストンリング
10 シリンダ
11 シリンダ穴
12 ピストン
13 コンロッド
14 クランク軸
15 エンジンルーム





【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン内にあって、バルブ機能を内蔵し、かつピストンを冷却するためにエンジンオイルを供給するオイルジェットにおいて、開口部につながるシート面を有するボディと、スプリングホルダ部、オイル供給管、及びオイル噴出口を一体成形したノズル等から構成され、ノズルのスプリングホルダ部をボディ胴部に圧入することにより、オイルの噴出供給が可能となるバルブ機能を実現することを特徴とするピストン冷却用オイルジェット。






























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−291899(P2006−291899A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115824(P2005−115824)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(593146017)光精工株式会社 (9)
【Fターム(参考)】