説明

オイルセパレータ

【課題】粒径が比較的小さいオイルに対する捕集能力及び粒径が比較的大きいオイルに対する捕集能力が共に高く得られるオイルセパレータを提供する。
【解決手段】シリンダブロックの側面に配設されるオイルセパレータ8に対し、2つのブローバイガス導入開口81d,81eを設ける。ブローバイガスの流れ方向の上流側のブローバイガス導入開口81dに対向して偏向プレート82eを配設することで、このブローバイガスを横渦Aとして流す。この横渦Aを、ブローバイガスの流れ方向の下流側のブローバイガス導入開口81eから流入したブローバイガスの縦渦Bに衝突させ、オイル同士の衝突によるオイル捕集を行う。合流後のブローバイガスの流れを反転流路形成部82dで反転させた後、このブローバイガスをサイクロン式オイルセパレータ部85に流し、粒径が比較的小径のオイルを遠心分離により捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に搭載されるエンジン(内燃機関)のブローバイガス中に含まれるオイルを捕集してブローバイガスから分離するためのオイルセパレータに係る。特に、オイル捕集能力の向上を図るための対策に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用エンジンには、シリンダとピストンとの隙間からクランクケース内に吹き抜けたブローバイガスを吸気系に導くためのPCV(Positive Crankcase Ventilation)装置が備えられている。つまり、このPCV装置によって、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等を含むブローバイガスをエンジンの吸気系を経て燃焼室に送り込み、このブローバイガスの大気中への放出を防止している。
【0003】
また、下記の特許文献1や特許文献2にも開示されているように、このPCV装置はオイルセパレータを備えている。このオイルセパレータによって、ブローバイガス中に含まれているオイルミストが捕集され、このオイルがオイルパン等のオイル溜まり部へ送られる一方、オイルミストが分離除去された後のブローバイガスがエンジンの吸気系に還流されるようになっている。
【0004】
尚、上記オイルセパレータの内部には、オイルミストを捕集するためのオイル捕集手段が収容されている。例えば、各特許文献には、オイルを遠心分離するサイクロン式のオイル捕集手段を備えたオイルセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−42444号公報
【特許文献2】特開2009−68429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したサイクロン式のオイルセパレータは、粒径が比較的小さいオイルを捕集する能力は優れているものの、粒径が比較的大きなオイル(例えば粒径が数10μm〜数100μm程度のオイル;以下、「大粒径オイル」と呼ぶ)に対する捕集能力が低いといった課題がある。
【0007】
オイルセパレータの配設箇所としてはシリンダヘッドの内部やシリンダブロックの側部等が知られているが、シリンダヘッドの内部空間は比較的狭いためオイルセパレータの配設スペースを確保できない場合がある。この場合にはシリンダブロックの側部にオイルセパレータを配設することになるが、この場合、オイルセパレータの内部には大粒径オイルが流れ込みやすくなる。これは、クランクケース内で回転するクランクシャフト等の回転体によって攪拌されて飛散した大粒径オイルがブローバイガスの流れに沿ってオイルセパレータ内部に入り込んでしまうためである。
【0008】
そして、このシリンダブロックの側部に配設するオイルセパレータとして上記サイクロン式のものを採用した場合、上述した如くサイクロン式のオイルセパレータは、大粒径オイルに対する捕集能力が低いため、この大粒径オイルがエンジンの吸気系に流れ込んでしまい、オイル消費量が多くなったり、混合気の空燃比が適正値から大きくずれてしまう等といった不具合を招くことになる。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、粒径が比較的小さいオイルに対する捕集能力及び粒径が比較的大きいオイルに対する捕集能力が共に高く得られるオイルセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、粒径が比較的小さいオイルを捕集する能力に優れたサイクロン式オイルセパレータ部の上流側に、粒径が比較的大きなオイルを捕集可能とするプリセパレータ部を配設することで、何れの粒径のオイルに対しても高い捕集能力が得られるようにしている。
【0011】
−解決手段−
具体的に、本発明は、ブローバイガス中に含まれるオイルを分離するためのオイルセパレータを前提とする。このオイルセパレータに対し、上記ブローバイガスからオイルミストを分離するサイクロン式オイルセパレータ部と、このサイクロン式オイルセパレータ部よりもブローバイガス流れ方向の上流側に配設され、上記サイクロン式オイルセパレータ部で捕集可能な粒径のオイルよりも大きな粒径のオイルを捕集するプリセパレータ部とを備えさせた構成としている。
【0012】
この特定事項により、オイルセパレータ内部に流入したブローバイガス中に含まれているオイルのうち、粒径が比較的大きなオイルはプリセパレータ部によって捕集される。このため、サイクロン式オイルセパレータ部に流れ込むブローバイガス中に含まれるオイルの大部分は粒径が比較的小さなものとなる。そして、サイクロン式オイルセパレータ部は粒径が比較的小さいオイルを捕集する能力に優れたものであるため、このブローバイガス中に残っている粒径が比較的小さいオイルはサイクロン式オイルセパレータ部によって効果的に捕集されることになる。このため、オイルセパレータから流出されるブローバイガス中には殆どオイルが存在しない状態を得ることが可能になる。
【0013】
上記プリセパレータ部の具体構成としては以下のものが挙げられる。つまり、このプリセパレータ部に、ブローバイガス流れ方向の上流側から下流側に亘って複数のブローバイガス導入開口を設け、ブローバイガス流れ方向の上流側に位置するブローバイガス導入開口から導入されたブローバイガスがオイルセパレータ内部空間において上記ブローバイガス流れ方向に沿う横渦を形成するようにする一方、ブローバイガス流れ方向の下流側に位置するブローバイガス導入開口から導入されたブローバイガスがオイルセパレータ内部空間において上記ブローバイガス流れ方向に対して略直交する方向に流れる縦渦を形成するようにして、上記横渦で流れるブローバイガスが、上記縦渦で流れるブローバイガスに衝突する構成としている。
【0014】
このように互いに流れ方向が異なる2種類のブローバイガス同士を衝突させるようにしたことで、各ブローバイガス中に含まれているオイル同士が効果的に衝突し、それに伴ってオイルの粒径が大きくなり、容易に落下させて捕集することが可能となる。
【0015】
より具体的な構成として、上記ブローバイガス流れ方向の上流側に位置するブローバイガス導入開口に対面して偏向部材を設け、このブローバイガス導入開口からオイルセパレータ内部空間に流入したブローバイガスの流れ方向を上記偏向部材によって偏向されることで、上記縦渦で流れるブローバイガスに向かって流れる横渦を形成するようにしている。
【0016】
この場合、ブローバイガスが偏向部材に衝突することによる慣性衝突作用によってもオイルを捕捉することが可能となり、この慣性衝突作用と上記ブローバイガス同士の衝突作用とによって効果的にオイルを捕集することが可能となる。
【0017】
また、上記横渦が縦渦に向かって流れる流路の面積を、縦渦が流れている流路の流路面積よりも小さくした場合には、この横渦の流速を縦渦の流速よりも高く設定することができる。このため、この流速差により、各ブローバイガス中に含まれているオイル同士が効果的に衝突し、それに伴ってオイルの粒径が大きくなり、容易に落下させて捕集することが可能となる。
【0018】
また、上記オイルセパレータ内部空間を、ブローバイガスの流れ方向に対して略直交する方向で2つのブローバイガス流路に区画する。そして、一方のブローバイガス流路を、上記プリセパレータ部における上記横渦のブローバイガスが流れる空間として構成する一方、他方のブローバイガス流路を、上記サイクロン式オイルセパレータ部として構成する。そして、上記一方のブローバイガス流路におけるブローバイガス流れ方向の下流側と、上記他方のブローバイガス流路におけるブローバイガス流れ方向の上流側とを、ブローバイガスの流れ方向を反転させる反転流路形成部を介して互いに連通させた構成としている。
【0019】
この構成によれば、ブローバイガスの流れ方向におけるオイルセパレータの長さを短縮化することができる。また、上記反転流路形成部でのブローバイガス流れの反転に伴ってオイルに遠心力が作用し、この遠心力によりオイルをブローバイガスから分離させることが可能となり、よりいっそうオイルセパレータのオイル捕集能力を高めることができる。
【0020】
また、この反転流路形成部の配設位置としては、上記横渦で流れるブローバイガスが、上記縦渦で流れるブローバイガスに衝突する領域よりもブローバイガス流れ方向の下流側に設けることが挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、粒径が比較的小さいオイルを捕集する能力に優れたサイクロン式オイルセパレータ部の上流側に、粒径が比較的大きなオイルを捕集可能とするプリセパレータ部を配設している。これにより、何れの粒径のオイルに対しても高い捕集能力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係るエンジンをクランクシャフトの軸心に沿った方向から見たエンジン内部及び吸気系の概略構成を示す図である。
【図2】エンジンの側面図である。
【図3】オイルセパレータの平面図である。
【図4】図3におけるIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図3におけるV−V線に沿った断面図である。
【図6】図3におけるVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図3におけるVII−VII線に沿った断面図である。
【図8】オイルセパレータのサイクロン式オイルセパレータ部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、本発明に係るオイルセパレータを、自動車用直列多気筒(例えば4気筒)エンジン(内燃機関)に搭載されたPCV装置(ブローバイガス還元装置)に適用した場合について説明する。
【0024】
−エンジンの全体構成の説明−
図1は、本実施形態に係るエンジンEをクランクシャフトCの軸心に沿った方向から見たエンジン内部及び吸気系の概略構成を示す図である。このエンジンEは、例えばエンジンルーム内に横置き配置されており、図中の右方向が車体前方である。エンジンEの配置状態はこれに限るものではなく縦置き配置されたものであってもよい。
【0025】
この図1に示すように、エンジンEは、シリンダブロック1の上端部に設置されたシリンダヘッド2と、このシリンダヘッド2の上端に取り付けられたヘッドカバー3とを備えている。
【0026】
上記シリンダブロック1には複数(例えば4個)のシリンダ4が配設されており、これらシリンダ4の内部にピストン41が往復移動可能に収容されている。また、各ピストン41はコネクティングロッド42を介してクランクシャフトCに動力伝達可能に連結されている。更に、シリンダブロック1の下側にはクランクケース5が取り付けられており、上記シリンダブロック1内の下部からクランクケース5の内部に亘る空間がクランク室51となっている。また、このクランクケース5の更に下側にはオイル溜まり部となる図示しないオイルパンが設けられている。
【0027】
上記シリンダヘッド2には吸気ポート21を開閉するための吸気バルブ22及び排気ポート23を開閉するための排気バルブ24がそれぞれ組み付けられており、シリンダヘッド2とヘッドカバー3との間に形成されているカム室(シリンダヘッド内部空間)2Aに配置されたカムシャフト25,26の回転によって各バルブ22,24の開閉動作が行われるようになっている。
【0028】
一方、シリンダヘッド2に形成されている吸気ポート21には吸気マニホールド6が接続されている。この吸気マニホールド6の上流側は、サージタンク61及びスロットルバルブ62を備えた吸気管63に連通されており、この吸気管63の上流側にはエアクリーナ64が設けられている。これにより、上記エアクリーナ64から吸気管63内に導入された空気は、サージタンク61を通じて吸気マニホールド6に導入される。
【0029】
また、このエンジンEには筒内直噴タイプのインジェクタ(燃料噴射弁)27が設けられており、吸気バルブ22の開弁に伴って吸気ポート21から燃焼室28内に導入された空気は、このインジェクタ27から噴射された燃料と混合されて燃焼室28内で混合気となる。
【0030】
また、この燃焼室28の頂部には点火プラグ29が配設されている。上記燃焼室28において、点火プラグ29の点火に伴う混合気の燃焼によりピストン41が往復運動する。このピストン41の往復運動は上記コネクティングロッド42を介してクランクシャフトCに伝達され、ここで回転運動に変換されて、エンジンEの出力として取り出される。
【0031】
この混合気の燃焼により生じた燃焼ガスは、排気バルブ24の開弁に伴い排気ガスとして、排気ポート23を経た後、図示しない排気マニホールドに排出され、排気管を通過して外部に排出されるようになっている。尚、排気管には、図示しない触媒コンバータが設けられており、排気ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、及び酸化窒素成分(NOx)が浄化されるようになっている。
【0032】
−PCV装置の説明−
次に、PCV装置7について説明する。このPCV装置7は、シリンダ4の内面とピストン41の外面との隙間からクランク室51内に吹き抜けたブローバイガスをエンジンEの吸気系に導くと共に、このクランク室51内に新気を導入して換気するためのものである。以下、具体的に説明する。
【0033】
上記PCV装置7は、クランク室51内に吹き抜けたブローバイガスからオイルミストを分離するためのオイルセパレータ8、このオイルセパレータ8のブローバイガス出口部分に配設されたPCVバルブ71、このPCVバルブ71を通過したブローバイガスを吸気系に導くためのブローバイガス供給配管72、ヘッドカバー3の内部空間及びクランク室51に向けて新気を導入する機能を有する新気導入配管73を備えている。
【0034】
上記オイルセパレータ8は、シリンダブロック1の側面に取り付けられている。このオイルセパレータ8の内部空間はクランク室51に連通しており、このクランク室51内に吹き抜けたブローバイガスがオイルセパレータ8の内部空間に導入されるようになっている。そして、このオイルセパレータ8の内部空間では、後述するオイル捕集機能が発揮され、ブローバイガスから分離されたオイルがクランク室51内に排出されるようになっている。尚、このオイルを捕集するためのオイルセパレータ8の具体構成については後述する。
【0035】
上記PCVバルブ71は、オイルセパレータ8の上部に取り付けられており、オイルセパレータ8の内部空間の圧力と上記ブローバイガス供給配管72を介して作用する吸気系の吸入負圧とに応じて開閉動作を行う。このPCVバルブ71の開弁時には、オイルセパレータ8によってオイルが分離除去された後のブローバイガスが、このPCVバルブ71及びブローバイガス供給配管72を経てエンジンEの吸気系(スロットルバルブ62の下流側)に導入されることになる。尚、このPCVバルブ71は開閉自在な電磁弁により構成されていてもよい。
【0036】
上記ブローバイガス供給配管72は、上記オイルセパレータ8の内部においてオイルが分離除去された後のブローバイガスを吸気系に導くための配管であって、上流端が上記PCVバルブ71に、下流端が上記吸気管63におけるスロットルバルブ62の直下流側に接続されている。
【0037】
上記新気導入配管73は、一端が上記吸気管63におけるスロットルバルブ62の直上流側に接続され、他端がヘッドカバー3に接続されている。また、ヘッドカバー3の内部空間とクランク室51とは図示しない換気通路によって連通されている。このため、吸気系から新気導入配管73を経てヘッドカバー3内やクランク室51内に外気(新気)が導入されることで、これら空間の換気が可能となっている。また、この新気導入配管73にもオイルセパレータを配設するようにしてもよい。
【0038】
−PCV装置7の動作説明−
次に、上記PCV装置7の動作について説明する。
【0039】
(エンジンEの定常運転時)
エンジンEの駆動に伴い、吸気管63を流れる吸気(新気)の一部は、新気導入配管73を経てヘッドカバー3の内部空間及びクランク室51内に導入され、これらヘッドカバー3の内部空間及びクランク室51内を換気する。
【0040】
一方、エンジンEの圧縮行程や膨張行程においてシリンダ4とピストン41との隙間からクランク室51内に吹き抜けたブローバイガスは、クランク室51からオイルセパレータ8の内部空間に流入する。このオイルセパレータ8の内部空間に流入したブローバイガスは、後述するオイル捕集動作によってオイルミストが捕集される。これにより、ブローバイガスとオイルミストとが分離される。
【0041】
そして、オイルミストが分離除去されたブローバイガスは、PCVバルブ71を通過し、ブローバイガス供給配管72を経て吸気管63に導入される。これにより、オイルが殆ど存在しないブローバイガスが吸気系に導かれることになる。
【0042】
一方、上記オイルセパレータ8によるオイル捕集動作によってブローバイガスから分離されたオイルは、このオイルセパレータ8の内部空間からクランク室51に向けて排出され、オイルパンに回収される。
【0043】
(エンジンEの高回転・高負荷時)
次に、エンジンEの高回転・高負荷時におけるブローバイガス、オイルの流通状態について説明する。
【0044】
この高回転・高負荷時はブローバイガス発生量が増大する状況にある。この場合、クランク室51内に吹き抜けたブローバイガスの一部は、オイルセパレータ8の内部空間に流入する。このブローバイガスは、上述と同様のオイルセパレータ8によるオイル捕集動作により、オイルが殆ど存在しない状態となってエンジンEの吸気管63へ戻される。
【0045】
また、クランク室51に流れ込んだ他のブローバイガスは、ヘッドカバー3の内部空間を経て上記新気導入配管73を通過した後、エンジンEの吸気管63へ戻される。この新気導入配管73にオイルセパレータを配設した場合には、このオイルセパレータによってもオイルが捕集され、オイルが殆ど存在しない状態となったブローバイガスがエンジンEの吸気管63へ戻されることになる。
【0046】
−オイルセパレータ8の構成−
次に、本実施形態の特徴であるオイルセパレータ8の構成について説明する。
【0047】
図2はオイルセパレータ8が取り付けられているエンジン側面を示す図である。図3はオイルセパレータ8の平面図である(シリンダブロック1を仮想線で示している)。図4は図3におけるIV−IV線に沿った断面図である。図5は図3におけるV−V線に沿った断面図である。図6は図3におけるVI−VI線に沿った断面図である。図7は図3におけるVII−VII線に沿った断面図である。図8はオイルセパレータ8におけるサイクロン式オイルセパレータ部85の平面図(後述する第2部材82の平面図)である。
【0048】
以下の説明では、エンジンEの気筒列方向(図2における左右方向)をX方向と呼び、図2における左側を「エンジン前側」または「X方向前側」と呼び、図2における右側を「エンジン後側」または「X方向後側」と呼ぶこととする。また、エンジンEの上下方向(図2における上下方向)をY方向と呼び、図2における上側を「Y方向上側」または単に「上側」と呼び、図2における下側を「Y方向下側」または単に「下側」と呼ぶこととする。また、エンジンEの幅方向(図2における紙面奥行き方向)をZ方向と呼び、図2における紙面奥側(オイルセパレータ8から見てエンジンE側)を「Z方向奥側」または「エンジン側」と呼び、図2における紙面手前(オイルセパレータ8から見てエンジンEよりも手前側)を「Z方向手前側」または「エンジン手前側」と呼ぶこととする。
【0049】
上記各図に示すように、オイルセパレータ8は、合成樹脂製であって、内部にブローバイガス流通空間を有する箱形に構成されている。また、このオイルセパレータ8は、4つの部材81〜84が一体的に接合(溶着)されて構成されている。具体的には、最も下側(Y方向下側)に位置する第1部材81、この第1部材81の上側(Y方向上側)に接合された第2部材82、この第2部材82の上側に接合された第3部材83、この第3部材83の上側に接合された第4部材84を備えている。以下、各部材81〜84の具体構成、及び、これら部材81〜84によって形成されるオイルセパレータ8の内部空間の形状について説明する。
【0050】
(第1部材81)
上記第1部材81は、オイルセパレータ8の下部をシリンダブロック1に固定するための機能、及び、オイルセパレータ8の内部空間にブローバイガスを導入する機能を備えている。具体的に、この第1部材81は、図4に示すように、エンジン前側(X方向前側)に向かうに従って下側(Y方向下側)に傾斜する底面81aを有している。この底面81aにおけるX方向の両側には、下側に向かって膨出するブローバイガス導入部81b,81cが形成されている。
【0051】
以下では、各ブローバイガス導入部81b,81cのうちエンジン前側(X方向前側)に位置するブローバイガス導入部81bを第1ブローバイガス導入部81bと呼び、エンジン後側(X方向後側)に位置するブローバイガス導入部81cを第2ブローバイガス導入部81cと呼ぶ。
【0052】
各ブローバイガス導入部81b,81cにおけるZ方向奥側(エンジン側)にはブローバイガス導入開口81d,81eがそれぞれ形成されている。また、エンジンEのシリンダブロック1には、上記ブローバイガス導入開口81d,81eに対向する位置に図示しない開口が形成されている。このシリンダブロック1に形成された開口は、クランク室51に連通しており、図2の如くオイルセパレータ8がシリンダブロック1に取り付けられた状態では、このオイルセパレータ8の各ブローバイガス導入開口81d,81eがシリンダブロック1の開口にそれぞれ連通し、クランク室51とオイルセパレータ8の内部空間(第1部材81の内部空間)とが2つの連通空間を介して互いに連通した状態となっている。つまり、クランク室51内のブローバイガスが各ブローバイガス導入開口81d,81eを通過して第1部材81の内部に流入する構成となっている。
【0053】
以下では、各ブローバイガス導入開口81d,81eのうちエンジン前側(X方向前側)に位置する(ブローバイガス流れ方向の上流側に位置する)ブローバイガス導入開口81dを第1ブローバイガス導入開口81dと呼び、エンジン後側(X方向後側)に位置する(ブローバイガス流れ方向の下流側に位置する)ブローバイガス導入開口81eを第2ブローバイガス導入開口81eと呼ぶ。
【0054】
尚、上記第1ブローバイガス導入開口81dが連通するシリンダブロック1の開口は、4つの気筒のうち第2番気筒(エンジンEの前側から2番目の気筒)と第3番気筒(エンジンEの前側から3番目の気筒)との間に形成されている。また、上記第2ブローバイガス導入開口81eが連通するシリンダブロック1の開口は、4つの気筒のうち第3番気筒(エンジンEの前側から3番目の気筒)と第4番気筒(エンジンEの前側から4番目の気筒)との間に形成されている。これら開口位置はこれに限定されるものではないが、各気筒間に形成することにより、オイルセパレータ8内に向けて飛散されるオイルの量を少なくし、粒径が比較的大きなオイルのオイルセパレータ8内部への流れ込みを抑制することが好ましい。
【0055】
また、図6及び図7に示すように、各ブローバイガス導入部81b,81c内部の底面81f,81gは、Z方向奥側(エンジンE側)に向かって下側(Y方向下側)に傾斜している。つまり、オイルセパレータ8の内部空間でのオイル捕集動作によってブローバイガスから分離されたオイルが、この底面(傾斜面)81f,81gに沿って流下し、各ブローバイガス導入開口81d,81eからクランク室51内に向けて排出される構成となっている(図6に破線で示す矢印a及び図7に破線で示す矢印bを参照)。また、図4に示すように、各ブローバイガス導入部81b,81c同士の間に位置する上記底面81aは、上述した如く上記エンジン前側(X方向前側)に向かうに従って下側(Y方向下側)に傾斜していることにより、オイルを第1ブローバイガス導入開口81dに向けて流下させる機能を有している(図4に破線で示す矢印cを参照)。
【0056】
また、図4に示すように、上記各ブローバイガス導入部81b,81cそれぞれにおけるX方向両側には、X方向及びY方向に沿って延びる(シリンダブロック1の外面に沿って延びる)平板状の取付プレート81h,81iが一体形成されている。これら取付プレート81h,81iには、その板厚方向に貫通する開口81j,81j,…が形成されている。また、エンジンEのシリンダブロック1には、上記各開口81j,81j,…に対向して図示しないボルト孔が形成されており、各開口81j,81j,…がそれぞれボルト孔に位置合わせされた状態で、これら開口81j及びボルト孔に亘ってボルトB1(図3参照)が挿通され、このボルトB1がシリンダブロック1のボルト孔にねじ込まれることにより、オイルセパレータ8の下部がシリンダブロック1に固定される。
【0057】
更に、この第1部材81に形成されている上記第2ブローバイガス導入部81cの上方に位置する底面81a’は、Z方向手前側に向かうに従って下側(Y方向下側)に傾斜している。つまり、オイルセパレータ8の内部空間でのオイル捕集動作によりブローバイガスから分離されたオイルが、この底面(傾斜面)81a’に沿って流下し、第2ブローバイガス導入開口81eからクランク室51内に向けて排出される構成となっている(図4及び図7に破線で示す矢印dを参照)。
【0058】
(第2部材82)
上記第2部材82は、上記第1部材81との間でブローバイガスの流通空間を形成している。具体的に、この第2部材82は、上記第1ブローバイガス導入部81bの上方に位置する流れ方向偏向部82aと、上記第1部材81の底面81aの上方に位置する中間部82bと、上記第2ブローバイガス導入部81cの上方に位置する縦渦形成部82cと、この縦渦形成部82cからエンジン後側(X方向後側)に延びる反転流路形成部82dとを備えている。以下、それぞれについて説明する。
【0059】
上記流れ方向偏向部82aは、上記第1ブローバイガス導入部81bの直上方において水平方向に延びる偏向プレート(偏向部材)82eを備えている。この偏向プレート82eのX方向におけるエンジン後側(X方向後側)の端縁位置(図4に一点鎖線αで示す位置)は、上記第1ブローバイガス導入開口81d及び第1ブローバイガス導入部81b内のブローバイガス流入路の中心線(図4における一点鎖線βを参照)よりもエンジン後側(X方向後側)に位置しており、この第1ブローバイガス導入開口81dから導入されたブローバイガスにおいて最も流れの速い部分(第1ブローバイガス導入開口81dの中心線及び第1ブローバイガス導入部81b内のブローバイガス流入路の中心線付近を流れるブローバイガス)が偏向プレート82eに衝突することで、その流れを大きくエンジン後側(X方向後側)に偏向するよう構成されている。つまり、第1ブローバイガス導入開口81dから上向きに(Y方向上側に向かって)第1部材81の内部空間に流入したブローバイガスの流れ方向が、この偏向プレート82eによってエンジン後側(X方向後側)に偏向され、その結果、上記中間部82b及び縦渦形成部82cの内部空間において横渦(ブローバイガス流れ方向(図4における左右方向)に沿う渦流である横渦)として形成されるようになっている(図4における矢印Aを参照)。このようなブローバイガスの流れにより、このブローバイガスが偏向プレート82eに衝突した際の慣性衝突作用によりオイルが捕捉されると共に、横渦Aによってブローバイガス中のオイルに作用する遠心力によりオイルがブローバイガスから分離されるようになっている。
【0060】
上記中間部82bでは、Z方向手前側とZ方向奥側とで個別の空間が区画形成されている。具体的には、この中間部82bは、Z方向手前側とZ方向奥側とを仕切る仕切板82fが設けられており、この仕切板82fの手前側空間82gが上記第1ブローバイガス導入開口81dに直接連通し且つ上記横渦Aを形成するブローバイガスが流れ込む空間として形成されている。一方、仕切板82fの奥側の空間にはサイクロン式オイルセパレータ部85(図4の破線及び図5を参照)が設けられている。
【0061】
また、上記仕切板82fの下端縁は上記第1部材81の底面81aよりも僅かに上方に位置しており、この仕切板82fと底面81aとの間に僅かな空間S1が形成されている。これにより、サイクロン式オイルセパレータ部85で捕集されたオイルが、この空間S1を通過して第1部材81の内部空間に流れ込み(例えば上記底面81a上に流れ込み)、第1ブローバイガス導入開口81dからクランク室51内に向けて排出される構成となっている(図4に破線で示す矢印cを参照)。
【0062】
このように、中間部82bは、仕切板82fによってZ方向手前側とZ方向奥側とに区画されているため、特に、仕切板82fの手前側空間82gはZ方向の幅寸法が比較的小さくなっており(オイルセパレータ8全体のZ方向の寸法の1/2程度の寸法になっており)、この手前側空間82gにあっては、流路面積が小さくなっていることからブローバイガスの流速(上記横渦Aの流速)が高くなる。
【0063】
ここで、上記仕切板82fに対してZ方向奥側に配設されている上記サイクロン式オイルセパレータ部85について簡単に説明する。このサイクロン式オイルセパレータ部85は、図5にも示すように、複数(本実施形態では3個)のサイクロン部85a,85a,85aがX方向に並設されている。各サイクロン部85aは、下側に向かって先細りとなる空間を有していると共に、後述する第3部材83から延びる円筒部83aが、サイクロン部85aの内部空間に挿入されている。
【0064】
また、図8に示すように各サイクロン部85a,85a,85aには、その内部空間にブローバイガスを流入させるためのスリット85b,85b,85bがそれぞれ形成されている。尚、このスリット85b,85b,85bへは、上記縦渦形成部82cから反転流路形成部82dを経たブローバイガスが流入することになる。このスリット85bの延長線はサイクロン部85aの中心から偏心した位置を通過しており、その結果、スリット85bからサイクロン部85aに流入したブローバイガスは、このサイクロン部85aの内部空間において旋回流となる(図5及び図8における矢印Dを参照)。この旋回流Dによる遠心力により、オイルミストが凝集されてブローバイガスから分離されるようになっている。分離されたオイルはサイクロン部85aの内周壁に付着した後、サイクロン部85aから落下して捕集され、第1部材81の底面81a上に落下する(図5に破線で示す矢印eを参照)。そして、このオイルは、底面81aに沿って流下し、第1ブローバイガス導入開口81dからクランク室51内に向けて排出されることになる(図4に破線で示す矢印cを参照)。一方、オイルが分離された後のブローバイガスは、上記第3部材83の円筒部83aの内側空間を上方に向かって流れ、後述する第4部材84の内部空間に向けて導出されることになる(図5における矢印Eを参照)。
【0065】
上記縦渦形成部82cは、図7に示すように、上記第2ブローバイガス導入部81cの直上方に位置しており、この第2ブローバイガス導入部81cの第2ブローバイガス導入開口81eから流入したブローバイガスの流れを縦渦(ブローバイガス流れ方向(図4における左右方向)に対して略直交する方向に流れる渦流である縦渦)Bとして形成するようになっている。具体的に、この縦渦形成部82cのZ方向の寸法は、オイルセパレータ8全体のZ方向の寸法に略一致しており、上記中間部82bにおける仕切板82fの手前側空間82gのZ方向の寸法よりも大きくなっており、縦渦Bを形成するための空間が十分に確保されている。また、この縦渦形成部82cにあっては、この第2ブローバイガス導入開口81eから流入したブローバイガスの縦渦Bに対して、上記中間部82bの手前側空間82gを通過した比較的流速の高いブローバイガスの横渦Aが流れ込み、これら渦流A,B同士が衝突することで、縦渦B中に存在するオイルと横渦A中に存在するオイルとが衝突しやすくなっている。これらオイル同士の衝突によって、オイル同士が合体し、大きな粒径のオイルとなり、第1部材81の底面81aや第2ブローバイガス導入部81cに向けて落下しやすい状態となる。
【0066】
上記反転流路形成部82dは、上記縦渦形成部82cにおいて合流した上記横渦Aのブローバイガスと上記縦渦Bのブローバイガスとが流れ込み、その流れ方向を上記X方向後側からX方向前側に反転させる機能を有している。
【0067】
具体的には、図4及び図5に示すように、この反転流路形成部82dは、X方向後側に向かって延びる底板82hと、この底板82hのX方向後方端からY方向上方に向かって延びる縦板82iと、この縦板82iのY方向上側端からX方向前方に向かって延びる上板82jとを備えており、これら底板82h、縦板82i、上板82jによって、上記縦渦形成部82cから流れ込むブローバイガスを上記サイクロン式オイルセパレータ部85に向けて流すための空間を形成している。また、上記上板82jの下側には水平方向に延びる反転流路形成プレート82kが配設されている。この反転流路形成プレート82kは、X方向前側端がサイクロン式オイルセパレータ部85に接続されている一方、X方向後側端が上記縦板82iから後退(X方向前側に後退)した位置にあり、この縦板82iとの間で鉛直方向に延びるブローバイガス流路を形成している。このため、図5に矢印Cで示すように、上記反転流路形成プレート82kの下側空間を流れたブローバイガスが、この反転流路形成プレート82kと縦板82iとの間のブローバイガス流路を流れた後、反転流路形成プレート82kの上側空間に流れ込むことで、その流れが反転されるようになっている。この反転後のブローバイガスは、上述したサイクロン式オイルセパレータ部85の各サイクロン部85a,85a,85aに形成されているスリット85b,85b,85bに流れ込むことになる。
【0068】
上述した反転流路形成部82dにおけるブローバイガス流れの反転に伴ってブローバイガス中のオイルには遠心力が作用する。この遠心力により、オイルはブローバイガスから分離され、例えば上記縦板82iに付着したオイルが、底板82hに向けて流下するようになっている(図4及び図5に破線で示す矢印fを参照)。
【0069】
また、上記反転流路形成プレート82kは、X方向後側に向かうに従って下側(Y方向下側)に傾斜している。このため、この反転流路形成プレート82k上に落下したオイルは、この反転流路形成プレート82kの上面を流れた後、底板82hに向けて落下するようになっている(図5に破線で示す矢印gを参照)。
【0070】
以上のように第1部材81と第2部材82との間でブローバイガス流路が形成されている。このブローバイガス流路のうち、上記サイクロン式オイルセパレータ部85よりも上流側(ブローバイガス流れ方向の上流側)において本発明でいうプリセパレータ部86が構成されている。このプリセパレータ部86は、粒径が比較的大きなオイルに対する捕集能力が高められたブローバイガス流路を構成している。
【0071】
(第3部材83)
上記第3部材83は、上述した如く、サイクロン式オイルセパレータ部85の上部に配設され、上記サイクロン部85aの内部空間に挿入される円筒部83aを有している。この円筒部83aの内側の空間が、サイクロン式オイルセパレータ部85においてオイルが分離除去された後のブローバイガスの導出空間となる。
【0072】
(第4部材84)
上記第4部材84は、上記サイクロン式オイルセパレータ部85から導出されたブローバイガスを上記PCVバルブ71(図5における仮想線を参照)に向けて流すための空間を形成している。つまり、下側が開放された箱形に構成され、この下側の開放空間がサイクロン式オイルセパレータ部85に臨んでいる。また、この第4部材84におけるX方向後側端にはPCVバルブ71を装着するためのバルブ装着部84aが一体形成されている。また、この第4部材84におけるバルブ装着部84aの上側には、オイルセパレータ8の上部をシリンダブロック1に取り付けるための取付フランジ84bが一体形成されている。この取付フランジ84bには、その板厚方向に貫通する開口84cが形成されている。また、エンジンEのシリンダブロック1には、上記開口84cに対向して図示しないボルト孔が形成されており、開口84cがボルト孔に位置合わせされた状態で、これら開口84c及びボルト孔に亘ってボルトB2(図3参照)が挿通され、このボルトがシリンダブロック1のボルト孔にねじ込まれることにより、オイルセパレータ8の上部がシリンダブロック1に固定される。
【0073】
−オイルセパレータ8のオイル捕集動作−
次に、上述の如く構成されたオイルセパレータ8のオイル捕集動作について説明する。
【0074】
クランク室51内に吹き抜けたブローバイガスは、オイルセパレータ8の内部空間に作用している吸気系の吸入負圧により、クランク室51内から上記第1部材81の各ブローバイガス導入開口81d,81eを経てオイルセパレータ8の内部空間に流れ込む。
【0075】
第1ブローバイガス導入開口81dから流れ込んだブローバイガスは、その流れ方向が上記流れ方向偏向部82aの偏向プレート82eによってエンジン後側(X方向後側)に偏向される。この際、ブローバイガスが偏向プレート82eに衝突することによる慣性衝突作用によりオイルが捕捉される。
【0076】
また、流れがエンジン後側(X方向後側)に偏向されたブローバイガスは、上記中間部82bの手前側空間82g及び縦渦形成部82cの内部空間において横渦Aとなり、また、上記手前側空間82gのZ方向の幅寸法は比較的小さくなっているため、この横渦Aの流速が上昇することになる。このため、横渦Aによってブローバイガス中のオイルに作用する遠心力により、このオイルがブローバイガスから分離されることになる。
【0077】
このような慣性衝突作用により捕捉されたオイルや横渦Aの遠心力によりブローバイガスから分離されたオイルは、第1ブローバイガス導入開口81dからクランク室51内に向けて排出される(図4に破線で示す矢印c及び図6における矢印aを参照)。
【0078】
一方、第2ブローバイガス導入開口81eからオイルセパレータ8の内部空間に流れ込んだブローバイガスは、縦渦形成部82cにおいて縦渦Bとなって流れる(実際には、上記吸入負圧により、反転流路形成部82d側に向かっても流れている)。この縦渦Bによってブローバイガス中のオイルに作用する遠心力により、このオイルがブローバイガスから分離されることになる。また、この縦渦形成部82cにあっては、この第2ブローバイガス導入開口81eから流入したブローバイガスの縦渦Bに対して、上記中間部82bの手前側空間82gを通過した比較的流速の高いブローバイガスの横渦Aが流れ込み、この縦渦B中に存在するオイルと横渦A中に存在するオイルとが衝突する。特に、各ブローバイガスの流れ方向が異なっている(横渦Aと縦渦Bとで流れ方向が異なっている)こと、及び、各ブローバイガスの流速が異なっている(縦渦Bに比べて横渦Aの流速が高くなっている)ことにより、各ブローバイガス中に含まれているオイル同士は効果的に衝突し、粒径の大きなオイル粒となって下方に落下することになる。
【0079】
このような縦渦Bの遠心力によりブローバイガスから分離されたオイルや、縦渦B中に存在するオイルと横渦A中に存在するオイルとが衝突することで粒径が大きくなり下方に落下したオイルは、第2ブローバイガス導入開口81eからクランク室51内に向けて排出される(図4に破線で示す矢印d及び図7における矢印b,dを参照)。
【0080】
このようにしてオイルが分離されたブローバイガスは、縦渦形成部82cから反転流路形成部82dに流れ込む。この反転流路形成部82dでは、図5に矢印Cで示すように、上記反転流路形成プレート82kの下側空間を流れたブローバイガスが、この反転流路形成プレート82kと縦板82iとの間のブローバイガス流路を上方に向かって流れた後、反転流路形成プレート82kの上側空間に流れ込むことで、その流れが反転する。この流れの反転に伴ってブローバイガス中のオイルに作用する遠心力により、このオイルがブローバイガスから分離され、例えば上記縦板82iに付着したオイルが、底板82hに向けて流下する(図5に破線で示す矢印fを参照)。
【0081】
更に、上記反転流路形成プレート82kの上側を流れるブローバイガスに含まれているオイルが反転流路形成プレート82kの上面で捕捉された場合には、このオイルは、傾斜している反転流路形成プレート82kの上面を流れた後、底板82hに向けて落下することになる(図5に破線で示す矢印gを参照)。そして、この底板82hに落下したオイルは、第2ブローバイガス導入開口81eからクランク室51内に向けて排出される(図4に破線で示す矢印d及び図7における矢印b,dを参照)。
【0082】
以上の動作により、ブローバイガス中に含まれているオイルのうち粒径が比較的大きなオイル(例えば粒径が数10μm〜数100μm程度のオイル)の大部分が捕集されてクランク室51内に排出されることになり、サイクロン式オイルセパレータ部85に流れ込むブローバイガス中には、粒径が比較的小さなオイル(オイルミスト)のみが存在する状態となる。
【0083】
上記反転流路形成部82dを通過した後のブローバイガスは、サイクロン式オイルセパレータ部85に流れ込む。つまり、各サイクロン部85a,85a,85aに形成されているスリット85b,85b,85bからサイクロン部85a,85a,85aの内部空間に向けてブローバイガスが流れ込む。サイクロン部85aに流れ込んだブローバイガスは、このサイクロン部85aの内部空間において旋回流となる(図5及び図8における矢印Dを参照)。そして、この旋回流Dによる遠心力により、オイルミストが凝集されてブローバイガスから分離され、この分離されたオイルはサイクロン部85aの内周壁に付着した後、サイクロン部85aから落下して捕集され、第1部材81の底面81a上に落下する(図5に破線で示す矢印eを参照)。特に、サイクロン式オイルセパレータ部85は、粒径が比較的小さいオイルを捕集する能力が高いため、ブローバイガス中に残っていた粒径が比較的小さなオイルは、サイクロン式オイルセパレータ部85によってその大部分が捕集されることになり、ブローバイガス中には殆どオイルが存在しない状態となる。
【0084】
そして、この捕集されたオイルは、底面81aに沿って流下し、第1ブローバイガス導入開口81dからクランク室51内に向けて排出される(図4に破線で示す矢印cを参照)。一方、オイルが分離された後のブローバイガスは、上記第3部材83の円筒部83aの内側空間を上方に向かって流れ、第4部材84の内部空間を流れた後(図5における矢印Eを参照)、PCVバルブ71を経てブローバイガス供給配管72によりエンジンEの吸気系(スロットルバルブ62の下流側)に還流される。
【0085】
以上のようなオイル捕集動作が連続して行われることになる。
【0086】
このように、本実施形態では、クランク室51からオイルセパレータ8に導入されたブローバイガスは、サイクロン式オイルセパレータ部85に流れ込む前段階で、プリセパレータ部86における、上記慣性衝突作用、遠心力の作用、横渦Aと縦渦Bとの衝突作用等によってオイルが捕集される。つまり、これら作用によって粒径が比較的大きなオイルが捕集されてクランク室51内へ戻されている。このため、サイクロン式オイルセパレータ部85に流れ込むブローバイガス中に含まれているオイルは粒径が比較的小さなものが大部分となる。そして、このサイクロン式オイルセパレータ部85は、粒径が比較的小さなオイルの捕集能力が特に優れたものであるため、ブローバイガスが、このサイクロン式オイルセパレータ部85を通過する際には、この粒径が比較的小さなオイルの大部分が捕集されることになる。その結果、オイルセパレータ8から流出されるブローバイガス中には殆どオイルは存在していない状態となる。
【0087】
このように、本実施形態に係るオイルセパレータ8では、ブローバイガスの流れ方向の上流側では粒径が比較的大きなオイルの捕集能力が高められており、ブローバイガスの流れ方向の下流側では粒径が比較的小さなオイルの捕集能力が高められている。このため、大粒径オイルがエンジンの吸気系に流れ込んでしまってオイル消費量が多くなったり、混合気の空燃比が適正値から大きくずれてしまう等といった不具合を解消することが可能になる。
【0088】
本発明の効果を確認するために行った実験によれば、従来例においてシリンダブロックの側面に配設される一般的なオイルセパレータを使用した場合に比べて、オイルの消費量(吸気系へのオイルの流れ込み量)は半減程度まで削減することが確認されている。
【0089】
また、本実施形態のオイルセパレータ8では、上記中間部82bにおいてZ方向手前側とZ方向奥側とで個別の空間が区画形成され、それぞれに個別のブローバイガス流路を形成している。また、上記反転流路形成部82dにおいて、X方向後側に向かう流れをX方向前側に向かう流れに反転させるようにしている。このため、オイルセパレータ8全体としてX方向の長さ寸法を短く抑えながらも上述したオイル捕集動作を実行することが可能となっている。
【0090】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、本発明を自動車に搭載された筒内直噴式4気筒ガソリンエンジンに適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(ポート噴射型、直列型やV型や水平対向型等の別)についても特に限定されるものではない。
【0091】
また、上記実施形態では、ブローバイガス導入開口81d,81eは2箇所に設けていた。本発明はこれに限らず、ブローバイガス導入開口を3箇所以上に設けるようにしてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、オイルセパレータ8をシリンダブロック1の側面に配設していた。本発明は、オイルセパレータ8の配設位置としては特に限定されるものではなく、シリンダヘッド2の側面やヘッドカバー3の内部に配設してもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、プリセパレータ部86において、慣性衝突作用、遠心力の作用、横渦Aと縦渦Bとの衝突作用によりオイルを捕集するようにしていた。本発明はこれに限らず、これら作用のうちの1つまたは2つを利用して粒径が比較的大きなオイルを捕集する構成としてもよい。
【0094】
また、サイクロン式オイルセパレータ部85におけるサイクロン部85aの下端に逆止弁(サイクロン部85aの下端からのブローバイガスの流入を阻止するための逆止弁)を設けた「逆止弁付きサイクロン部」を備えたオイルセパレータ8に対しても本発明は適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、シリンダブロックの側面に配設され、比較的粒径の大きなオイルに対する捕集能力及び比較的粒径の小さなオイルに対する捕集能力を共に高く得ることが可能なオイルセパレータに適用可能である。
【符号の説明】
【0096】
8 オイルセパレータ
81b 第1ブローバイガス導入部
81c 第2ブローバイガス導入部
81d 第1ブローバイガス導入開口
81e 第2ブローバイガス導入開口
82a 流れ方向偏向部
82b 中間部
82c 縦渦形成部
82d 反転流路形成部
82e 偏向プレート(偏向部材)
82f 仕切板
82g 手前側空間
85 サイクロン式オイルセパレータ部
85a サイクロン部
86 プリセパレータ部
A ブローバイガス横渦
B ブローバイガス縦渦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブローバイガス中に含まれるオイルを分離するためのオイルセパレータにおいて、
上記ブローバイガスからオイルミストを分離するサイクロン式オイルセパレータ部と、
このサイクロン式オイルセパレータ部よりもブローバイガス流れ方向の上流側に配設され、上記サイクロン式オイルセパレータ部で捕集可能な粒径のオイルよりも大きな粒径のオイルを捕集するプリセパレータ部とを備えていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項2】
請求項1記載のオイルセパレータにおいて、
上記プリセパレータ部には、ブローバイガス流れ方向の上流側から下流側に亘って複数のブローバイガス導入開口が設けられており、ブローバイガス流れ方向の上流側に位置するブローバイガス導入開口から導入されたブローバイガスがオイルセパレータ内部空間において上記ブローバイガス流れ方向に沿う横渦を形成し、ブローバイガス流れ方向の下流側に位置するブローバイガス導入開口から導入されたブローバイガスがオイルセパレータ内部空間において上記ブローバイガス流れ方向に対して略直交する方向に流れる縦渦を形成するようになっており、上記横渦で流れるブローバイガスが、上記縦渦で流れるブローバイガスに衝突するよう構成されていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項3】
請求項2記載のオイルセパレータにおいて、
上記ブローバイガス流れ方向の上流側に位置するブローバイガス導入開口に対面して偏向部材が設けられており、このブローバイガス導入開口からオイルセパレータ内部空間に流入したブローバイガスが上記偏向部材によって流れ方向が偏向されることで、上記縦渦で流れるブローバイガスに向かって流れる横渦が形成される構成となっていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項4】
請求項2または3記載のオイルセパレータにおいて、
上記横渦が縦渦に向かって流れる流路の面積は、縦渦が流れている流路の流路面積よりも小さくなっていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項5】
請求項2記載のオイルセパレータにおいて、
上記オイルセパレータ内部空間は、ブローバイガスの流れ方向に対して略直交する方向で2つのブローバイガス流路に区画されており、一方のブローバイガス流路は上記プリセパレータ部における上記横渦のブローバイガスが流れる空間として構成されている一方、他方のブローバイガス流路は上記サイクロン式オイルセパレータ部として構成されていて、
上記一方のブローバイガス流路におけるブローバイガス流れ方向の下流側と、上記他方のブローバイガス流路におけるブローバイガス流れ方向の上流側とは、ブローバイガスの流れ方向を反転させる反転流路形成部を介して互いに連通されていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項6】
請求項2、3または4記載のオイルセパレータにおいて、
上記プリセパレータ部には、ブローバイガスの流れ方向を反転させる反転流路形成部が備えられており、この反転流路形成部は、上記横渦で流れるブローバイガスが、上記縦渦で流れるブローバイガスに衝突する領域よりもブローバイガス流れ方向の下流側に設けられていることを特徴とするオイルセパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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