説明

オイル塗布装置

【課題】円筒状内周面に、簡略な機構で適量のオイルを均一に塗布する。
【解決手段】複数の分岐流路32にオイルを供給し、各分岐流路32にオイルを貯留した後、主流路31を介して複数の分岐流路にエアを供給することにより、各分岐流路32に貯留したオイルを噴射口から押し出して円筒状内周面に塗布する。これにより、各分岐流路32内に均等に分配した状態で貯留したオイルを噴射口から噴射することができ、円筒状内周面にオイルを均一に塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダボア等の円筒状内周面にオイルを塗布するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジンのシリンダブロックのサブアッシ工程では、シリンダブロックに形成されたシリンダボアの円筒状内周面にオイルを塗布した後、このシリンダボアの内周にピストンが組み付けられる。この場合、シリンダボアの円筒状内周面には、塗布ムラや塗り残しを生じることなく、均一にオイルを塗布する必要がある。
【0003】
このように円筒状内周面にオイルを塗布する装置として、例えば特許文献1には、ノズルに、シリンダボアの内周面へ向けて開口する複数の墳口を形成し、この複数の墳口からオイルを噴射して円筒状内周面にオイルを塗布するものが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−92729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなオイル塗布装置では、各墳口から噴射されるオイルの量を均一にすることは難しいため、墳口によってオイルの吐出量が異なり、オイルの塗布ムラや塗り残しが生じる場合がある。
【0006】
この場合、オイルの供給量を増やせば、墳口ごとのオイルの吐出量が多少ばらついても、円筒状内周面全体にオイルを塗布することができるが、多量のオイルがワークの下方に流れ落ち、不経済であるばかりでなく、ワークの周辺をオイルで汚染することとなる。また、流れ落ちたオイルがワークの円筒状内周面以外の部分に付着すると、不具合が生じることがある。例えば、シリンダブロックには液体ガスケット(FIPG)を介してオイルパンが固定されるが、シリンダブロックのオイルパンとの固定面にオイルが付着すると、液体ガスケットの付着性が低下して、組付作業に支障を来たす恐れがある。また、オイルを拭き取ったとしても、付着したオイルを完全に除去することは難しく、最悪の場合オイル滲みやオイル洩れが生じる恐れがある。
【0007】
あるいは、墳口を有するノズルを回転させることにより円筒状内周面にオイルを均一に塗布することも考えられるが、ノズルを回転させるための駆動手段が必要となり、装置の大型化及びコストアップを招く。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、円筒状内周面に、簡略な機構で適量のオイルを均一に塗布することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、円筒状内周面にオイルを塗布するための装置であって、オイル供給部と、オイル供給部と連通した主流路、該主流路から放射状に分岐した複数の分岐流路、及び該分岐流路と連通し、円筒状内周面に向けて開口した噴射口を有する本体部と、オイル供給部から供給されたオイルを各分岐流路内に均等に分配した状態で貯留するオイル貯留手段と、分岐流路内に貯留したオイルを噴射口から噴射する噴射手段とを備えたオイル塗布装置を提供する。
【0010】
このように、本発明のオイル塗布装置は、オイル供給部から供給されたオイルをそのまま噴射口から噴射するのではなく、オイル貯留手段により複数の分岐流路に均等に分配した状態で一旦貯留することができる。こうして各分岐流路に貯留したオイルを噴射口から噴射することにより、放射状に分岐した各分岐流路から等量ずつのオイルが噴射されるため、多量のオイルを供給したり本体部を回転させたりすることなく、円筒状内周面にオイルを均一に塗布することができる。
【0011】
前記噴射手段は、例えば前記主流路に連通したエア供給部で構成することができる。この場合、前記オイル貯留手段により各分岐流路内にオイルを均等に分配した状態で貯留した後、エア供給部から主流路を介して各分岐流路にエアを供給すれば、分岐流路に貯留されたオイルをエアで押し出して噴射口から噴射することができる。
【0012】
上記のようなオイル塗布装置では、例えば、中心軸を鉛直方向とした円筒状内周面の内周に本体部を配した状態で、各分岐流路の主流路側端部を噴射口よりも下方に配することにより、前記オイル貯留手段を構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のオイル塗布装置によれば、簡略な機構で適量のオイルを円筒状内周面に均一に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】オイル塗布装置をワークに設置した状態を示す断面図である。
【図2】(a)はオイル塗布装置の断面図、(b)は同平面図である。
【図3】(a)は本体部の内部にオイルを貯留した状態を示す断面図、(b)は同平面図である。
【図4】(a)は本体部からオイルを噴射する様子を示す断面図、(b)は同平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
本発明の一実施形態に係るオイル塗布装置1は、図1に示すように、ワークWの孔(例えばエンジンのシリンダボア)の円筒状内周面W1に挿入される本体部10と、本体部10と配管21を介して接続された操作部20とを有する。操作部20の内部にはオイル供給部22及びエア供給部23(噴射手段)が設けられ、それぞれから延びた配管21が合流して操作部20の下方に突出して延び、その下端部に本体10が接続される。操作部20には、図示しないオイル供給スイッチとエア供給スイッチとが設けられ、作業者がこれらのスイッチを押すことで、オイル供給部22あるいはエア供給部23から、配管21を介して本体部10にオイルあるいはエアが供給される。本実施形態のオイル塗布装置1は、作業者が手で持ち上げることができるものであり、手作業でオイル塗布装置1を移動させながら、組付ラインを移送されてくるワークに順次オイルを塗布するものである。尚、本発明のオイル塗布装置は、このように手作業で移動させるものに限らず、自動で移動させるものにも適用可能である。また、本実施形態では、ワークWの孔の円筒状内周面W1の中心軸が鉛直方向であり、孔の上方から本体部10を挿入する場合を示す。
【0017】
本体部10は、図2に示すように、略円柱形状を成し、内部に流体(オイルあるいはエア)が流通するための流体流路30が形成される。流体流路30の一端部は、本体部10の上端面に開口し、配管21を介してオイル供給部22及びエア供給部23と連通する。流体流路30の他端部は、本体部10の外周面に開口して噴射口11を構成する。噴射口11は、本体部10をワークWの孔の内周に配置した状態で、円筒状内周面W1へ向けて開口している。
【0018】
流体流路30は、主流路31、分岐流路32、及び全周スリット33とで構成される。主流路31は、本体部10の軸心で鉛直方向に延び、上端部が本体部10の上端面に開口して配管21の内部と連通する。
【0019】
分岐流路32は、主流路31の下端部から本体部10の外周面に向けて放射状に分岐して設けられ、図示例では円周方向等間隔の8方向に分岐している。各分岐流路32は、本体部10の半径方向の途中(図示例では半径方向の中央部あたり)まで延び、その先端(外径端)が全周スリット33に開口している。各分岐流路32の主流路31側端部(中心側端部)は、噴射口11よりも下方に設けられている。本実施形態では、各分岐流路32が、主流路31の下端部から斜め上方に向けて直線状に延び、全周スリット33を介して本体部10の外周面に開口した噴射口11に連通している。各分岐流路32は、水平方向に対して等しい角度で傾斜している。
【0020】
全周スリット33は、分岐流路32の外周側に設けられ、中心部をくり抜いた円すい状の空間で構成されている。全周スリット33の内周端部は複数の分岐流路32の外周側端部と連通し、全周スリット33の外周端部は本体部10の外周面に開口し、全周に亘る噴射口11を形成する。
【0021】
このオイル塗布装置1には、各分岐流路32の内部にオイルを均等に分配した状態で貯留するオイル貯留手段が設けられる。本実施形態では、図示のように、分岐流路32の主流路31側端部(中心側端部)を噴射口11よりも下方に配することで、オイル貯留手段が構成される。具体的には、各分岐流路32のうち、噴射口11よりも下方に位置する部分がオイル溜まりPとして機能し、これによりオイル貯留手段が構成される(図3参照)。
【0022】
次に、上記の構成からなるオイル塗布装置1によるオイル塗布方法を説明する。
【0023】
まず、作業者がオイル供給スイッチを押して、オイル供給部22から配管21を介して本体部10の流体流路30にオイルを供給する(図3参照)。オイルは、主流路31を介して各分岐流路32に供給され、オイル溜まりPに貯留される(オイルを図3に散点で示す)。各分岐流路32は水平方向に対して等角度で傾斜しているため、オイル溜まりPに貯留されたオイルは、各分岐流路32に等量ずつ分配される(図3(b)参照)。尚、図示例では、分岐流路32の外周端よりも内径側にオイルが貯留されているが、分岐流路32よりも外周側まで、すなわち全周スリット33に達するまでオイルを貯留してもよい。
【0024】
こうしてオイル溜まりPにオイルを貯留した本体部10を、ワークWの孔の内周に配する(図4参照)。この状態で、エア供給部23から配管21を介して本体部10の流体流路30にエアを供給することにより、各分岐流路32に貯留されたオイルがエアの圧力により押し出され、全周スリット33を介して噴射口11からオイルが噴射される(噴射されるオイルを散点矢印で示す)。このように、各分岐流路32に均等に分配貯留したオイルをエアの圧力で一気に押し出すことで、円周方向等角度で放射状に配された各分岐流路32から等量ずつのオイルを噴射することができるため、円筒状内周面W1に均一にオイルを塗布することができる。さらに本実施形態では、分岐流路32に外周に全周スリット33を設けることで、分岐流路32から噴射されたオイルが全周スリット33の内部で円周方向に拡散し、本体部10の外周面の全周に亘って開口した噴射口11からオイルが噴射されるため、円筒状内周面W1により均一にオイルを塗布することができる。
【0025】
このように、本発明に係るオイル塗布装置1によれば、本体部10を回転させることなく円筒状内周面W1に均一にオイルを塗布することができるため、本体部10を回転させるための駆動装置を設ける必要がない。特に、本実施形態のように手作業で移動させるオイル塗布装置1の場合には、駆動装置を省略してオイル塗布装置1の軽量化を図ることが有効である。
【0026】
また、上記のオイル塗布方法は、(1)分岐流路32内へのオイルの供給及び貯留、(2)本体部10をワークWの孔の内周に配置、(3)エアの供給によるオイル噴射、を順に経て行われる。すなわち、オイル塗布装置1をワークWに装着する前に、オイル供給部22からオイルを供給して、オイル溜まりPにオイルを貯留する。これにより、オイル塗布装置1をあるワークから次のワークへ移送する間の時間を利用して、分岐流路32内へのオイルの供給・貯留を行うことができるため、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0027】
本発明は上記の実施形態に限られない。上記の実施形態では、分岐流路32の外周側を高くすることでオイル貯留手段を構成しているが、これに限らず、各分岐流路内にオイルを等量ずつ分配した状態で貯留できる構成であればよい。例えば、分岐流路の外周端に開閉可能なバルブ(図示省略)を設けることにより、オイル貯留手段を構成してもよい。この場合、バルブを閉じた状態で流体流路にオイルを供給して各分岐流路内にオイルを貯留し、その後、流体流路にエアを供給すると共にバルブを開くことにより、各分岐流路内に貯留したオイルが押し出されて噴射口から噴射される。
【0028】
また、上記の実施形態では、噴射手段としてエア供給部が例示されているが、これに限らず、分岐流路内に貯留したオイルを噴射口から噴射することができる構成であればよい。例えば、主流路あるいは分岐流路内に出没可能な押し出し部材(図示省略)を設け、この押し出し部材をシリンダ等で押し出すことにより、オイルを物理的に圧送して噴射口から噴射する噴射手段を設けてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 オイル塗布装置
10 本体部
11 噴射口
20 操作部
21 配管
22 オイル供給部
23 エア供給部
30 流体流路
31 主流路
32 分岐流路
33 全周スリット
W ワーク
W1 円筒状内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状内周面にオイルを塗布するための装置であって、
オイル供給部と、オイル供給部と連通した主流路、該主流路から放射状に分岐した複数の分岐流路、及び該分岐流路と連通し、円筒状内周面に向けて開口した噴射口を有する本体部と、オイル供給部から供給されたオイルを各分岐流路内に均等に分配した状態で貯留するオイル貯留手段と、分岐流路内に貯留したオイルを噴射口から噴射する噴射手段とを備えたオイル塗布装置。
【請求項2】
前記噴射手段が、前記主流路に連通したエア供給部であり、前記オイル貯留手段により各分岐流路内にオイルを均等に分配した状態で貯留し、エア供給部から主流路を介して各分岐流路にエアを供給することにより、各分岐流路に貯留したオイルを噴射口から噴射する請求項1に記載のオイル塗布装置。
【請求項3】
中心軸を鉛直方向とした円筒状内周面の内周に本体部を配した状態で、各分岐流路の主流路側端部を噴射口よりも下方に配することにより、前記オイル貯留手段を構成した請求項1又は2に記載のオイル塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274200(P2010−274200A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129364(P2009−129364)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】