説明

オキサフォスフィナン誘導体とその付加塩及びS1P受容体調節剤

【課題】
優れたスフィンゴシン−1−リン酸(S1P)受容体調節作用を有するオキサフォスフィナン誘導体を提供すること。
【解決手段】
スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)受容体調節作用を有する化合物として
一般式(1)
【化1】


で表されるオキサフォスフィナン誘導体(具体例:5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド)を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフィンゴシン−1−リン酸(以下S1Pと略記)受容体調節剤として有用なオキサフォスフィナン誘導体とその付加塩並びにその水和物に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)は、スフィンゴシン代謝における中間代謝物にすぎないとみなされていたが、細胞増殖促進作用や細胞運動機能の制御作用を有することが報告されるに至り、アポトーシス作用、細胞形態調節作用、血管収縮などの多彩な生理作用を発揮する新しい脂質メディエーターであることが明らかとなってきている(非特許文献1、非特許文献2)。この脂質は細胞内セカンドメッセンジャーとしての作用と、細胞間メディエーターとしての二つの作用を併せ持つが、特に細胞間メディエーターとして作用に関する研究が活発に行なわれており、細胞膜表面上に存在する複数のG蛋白質共役型受容体(Endothelial Differentiation Gene,
EDG)を介して情報伝達がなされていることが報告されている(非特許文献1、非特許文献3)。現在S1P受容体にはEdg-1、Edg-3、Edg-5、Edg-6及びEdg-8の5つのサブタイプが知られており、各々S1P1、S1P3、S1P2、S1P4、S1P5とも呼ばれている。
【0003】
これらS1P受容体に対する様々な研究から、この受容体へのアゴニスト活性あるいはアンタゴニスト活性を示す、いわゆるS1P受容体調節剤が多岐にわたる疾患に対し有効性を発揮する報告がなされるようになった。例えばEdg-5(S1P2)に作用する化合物が動脈硬化症、腎線維症、肺線維症、肝線維症に有効であることが(特許文献1)に開示されている。又、Edg-1(S1P1)、Edg-3(S1P3)又はEdg-5へ作用する化合物が、慢性気管支喘息、びまん性過誤腫性肺脈管筋腫症、成人呼吸促迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、特発性間質性肺炎、肺癌、過敏性肺臓炎などの呼吸器疾患の治療及び予防剤として有効であることが(特許文献2)に開示されている。さらにEdg-1アゴニスト作用を有する化合物が閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎、バージャー病、糖尿病性ニュロパチーの末梢動脈疾患、敗血症、血管炎、腎炎、肺炎、脳梗塞、心筋梗塞症、浮腫性疾患、動脈硬化症、痔核、裂肛、痔ろうなどの静脈瘤、解離性大動脈瘤、狭心症、DIC、胸膜炎、うっ血性心不全、多臓器不全、とこずれ、火傷、潰瘍性大腸炎、クローン病、心移植、腎移植、皮膚移植、肝移植、骨髄移植、骨粗しょう、慢性肝炎、肝硬変、慢性腎不全、腎糸球体硬化症の治療及び予防剤として有効であることが(特許文献3)に開示されている。
【0004】
さらに、S1P受容体アゴニスト活性を有する化合物が白血球の遊走を調節することが(非特許文献4、非特許文献5)に報告され、又前述の非特許文献に紹介された一連の誘導体が各種臓器移植、GVHDに対する有効性以外に関節リウマチ、ループス腎炎、全身性エリテマトーデス、橋本病、多発性硬化症、重症筋無力症、I及びII型糖尿病、クローン病などの自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性接触皮膚炎などのアレルギー性疾患、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患に有効であることが(特許文献4、特許文献5)に開示されている。又、上記(特許文献4)ならびに(特許文献5)に類似したリン酸誘導体がS1P受容体拮抗薬として(特許文献6)にも開示されている。最近では、アミノアルコール誘導体、リン酸エステル誘導体、カルボン酸誘導体など様々な化合物が(特許文献7〜37)S1P受容体調節剤として開示されている。
【0005】
また、S1P受容体調節剤とは明言されていないが免疫抑制作用を有する化合物として本特許化合物とは構造を異にするリン酸エステル誘導体が(特許文献38〜44)に開示されている。
【0006】
本発明者らは従来の鎖状構造をしたリン酸エステル化合物とは構造を異にするアミノ環状リン酸誘導体に着目し、新しいタイプのS1P受容体調節剤の探索を行った。また、従来のリン酸エステルはフォスファターゼによる分解を受けやすいなどの問題があったが、この問題を回避するためにフォスファターゼによる分解に安定な構造としてオキサフォスフィナン骨格に着目した。なお、最近、本出願化合物と構造が類似したアミノ環状リン酸誘導体がS1P受容体アゴニストとして(特許文献29)に開示されているが、本願の化合物とは構造的にも下記のように異なる。
【0007】
【化1】

【0008】
【特許文献1】WO0198301号パンフレット
【特許文献2】WO03020313号パンフレット
【特許文献3】WO02092068号パンフレット
【特許文献4】WO0218395号パンフレット
【特許文献5】WO02076995号パンフレット
【特許文献6】特開平2003−137894号公報
【特許文献7】WO03040097号パンフレット
【特許文献8】WO02064616号パンフレット
【特許文献9】WO02062389号パンフレット
【特許文献10】WO03051876号パンフレット
【特許文献11】WO03061567号パンフレット
【特許文献12】WO03062248号パンフレット
【特許文献13】WO03062252号パンフレット
【特許文献14】WO03073986号パンフレット
【特許文献15】WO03074008号パンフレット
【特許文献16】WO03105771号パンフレット
【特許文献17】WO04010949号パンフレット
【特許文献18】WO04024673号パンフレット
【特許文献19】WO04058149号パンフレット
【特許文献20】WO04071442号パンフレット
【特許文献21】WO04096752号パンフレット
【特許文献22】WO04096757号パンフレット
【特許文献23】WO04103279号パンフレット
【特許文献24】WO04103306号パンフレット
【特許文献25】WO04103309号パンフレット
【特許文献26】WO04110979号パンフレット
【特許文献27】WO04113330号パンフレット
【特許文献28】WO04074297号パンフレット
【特許文献29】WO05014603号パンフレット
【特許文献30】WO05020882号パンフレット
【特許文献31】WO04002531号パンフレット
【特許文献32】WO05032465号パンフレット
【特許文献33】WO05041899号パンフレット
【特許文献34】WO05058848号パンフレット
【特許文献35】WO05070886号パンフレット
【特許文献36】WO05082089号パンフレット
【特許文献37】WO05082841号パンフレット
【特許文献38】特開平2004−137208号公報
【特許文献39】特開平2005−41867号公報
【特許文献40】特開平2005−47899号公報
【特許文献41】WO05014525号パンフレット
【特許文献42】WO05040091号パンフレット
【特許文献43】WO05063671号パンフレット
【特許文献44】WO05079788号パンフレット
【非特許文献1】Y.Takuma et al.,Mol. Cell. Endocrinol., 177, 3(2001)
【非特許文献2】Y. Igarashi, Ann, N.Y.Acad. Sci., 845, 19(1998)
【非特許文献3】H. Okazaki et al., Biochem. Biophs. Res.Commun., 190, 1104(1993)
【非特許文献4】S. Mandala et al.,Science, 296, 346(2002)
【非特許文献5】V. Brinkmann etal., J. Biol. Chem., 277, 21453(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、S1P受容体に対し優れた調節作用を有し、かつ副作用の少ないオキサフォスフィナン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、S1P受容体調節作用を有し、かつ安全性の高い化合物を創製すべく鋭意研究を重ねた結果、これまでに知られているS1P受容体調節剤とは構造を異にした新規なオキサフォスフィナン誘導体が強力なS1P受容体調節作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は
1) 一般式(1)
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、ヒドロキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いアラアルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、置換基を有しても良いフェノキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、置換基を有しても良いアラルキルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基、シンナミルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基、炭素数1〜4の低級アルキルチオ基、炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基、炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基、ベンジルチオ基または炭素数1〜4の低級アルカノイル基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、置換基を有しても良いアラルキル基または置換基を有しても良いアラルキルオキシ基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、フェニル基またはアラルキル基を、
XはO、S、SOまたはSOを、
mは2〜4の整数を示す]
で表されることを特徴とするオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物、
【0014】
2)前記一般式(1)で表される化合物が、一般式(1a)
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、R、X及びmは前記定義に同じ]
で表される化合物であることを特徴とする上記1)に記載のオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物、
【0017】
3)前記一般式(1a)においてRが塩素原子であることを特徴とする上記2)に記載のオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物、
【0018】
4) 前記一般式(1)で示される化合物が、
5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド、
5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシドまたは
5−アミノ−5−[4−(4−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシドである上記1)に記載のオキサフォスフィナン誘導体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物、
【0019】
5) 一般式(1)
【0020】
【化4】

【0021】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、ヒドロキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いアラアルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、置換基を有しても良いフェノキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、置換基を有しても良いアラルキルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基、シンナミルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基、炭素数1〜4の低級アルキルチオ基、炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基、炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基、ベンジルチオ基または炭素数1〜4の低級アルカノイル基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、置換基を有しても良いアラルキル基または置換基を有しても良いアラルキルオキシ基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、フェニル基またはアラルキル基を、
XはO、S、SOまたはSOを、
mは2〜4の整数を示す]
で表されることを特徴とするオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物の少なくとも一種類以上を有効成分とするS1P受容体調節剤、
【0022】
6)前記一般式(1)で示される化合物が、一般式(1a)
【0023】
【化5】

【0024】
[式中、X、Y、R、R及びmは前記定義に同じ]
で表される化合物であることを特徴とする上記5)に記載のオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物の少なくとも一種類以上を有効成分とするS1P受容体調節剤、
【0025】
7)上記1)〜6)のいずれか1項に記載されたオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物の少なくとも一種類以上を有効成分として含有する医薬、
に関するものである。
【発明の効果】
【0026】
上述のように、本発明は、新規なオキサフォスフィナン誘導体とその付加塩が優れたS1P受容体調節作用を有することを見出したものである。このようなS1P受容体調節作用を有する化合物は、動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎、腎線維症、肝線症、慢性気管支喘息、びまん性過誤腫性肺脈管筋腫症、成人呼吸促迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、特発性間質性肺炎、肺癌、過敏性肺臓炎、バージャー病、糖尿病性ニューロパチーの末梢動脈疾患、敗血症、血管炎、腎炎、肺炎、脳梗塞、心筋梗塞症、浮腫性疾患、静脈瘤、解離性大動脈瘤、狭心症、DIC、胸膜炎、うっ血性心不全、多臓器不全、とこずれ、火傷、潰瘍性大腸炎、クローン病などの治療及び予防薬として、又、心移植、腎移植、皮膚移植、肝移植、骨髄移植などの拒絶反応の予防又は治療薬、関節リウマチ、ループス腎炎、全身性エリトマトーデス、橋本病、多発性硬化症、重症筋無力症、糖尿病、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性接触皮膚炎等の予防又は治療薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明における上記一般式(1)及び一般式(1a)は新規化合物である。
【0028】
本発明における一般式(1)で表される化合物の薬理学的に許容される塩には、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩のような酸付加塩が挙げられる。また、一般式(1)で表される化合物のアルカリ付加塩には、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩のようなアルカリ付加塩が挙げられる。
【0029】
また、本発明の一般式(1)において、「ハロゲン原子」とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、「炭素数1〜4の低級アルキル基」、「炭素数1〜4の低級アルコキシ基」、「炭素数1〜4の低級アルキルチオ基」、「炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基」、「炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基」などの「低級アルキル基」とは、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチルなどの直鎖もしくは分岐した炭素数1〜4の炭化水素が挙げられる。「アラルキル基」及び「アラルキルオキシ基」の「アラルキル基」とはベンジル基、ジフェニルメチル基、フェネチル基、フェニルプロピル基が挙げられる。又、ここでいう「置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基」、「置換基を有しても良いフェニル基」、「置換基を有しても良いアラアルキル基」、「置換基を有しても良いフェノキシ基」、「置換基を有しても良いアラルキルオキシ基」などの「置換基」とはハロゲン原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、ヒドロキシ基が挙げられ、これら「置換基」がフェニル基、フェノキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基の場合はベンゼン環の任意の位置にその他の場合は炭素上の任意の位置に存在することを意味する。
【0030】
本発明によれば、上記一般式(1)で表される化合物は、以下に示すような経路により製造することができる。
【0031】
<合成経路1>
【0032】
【化6】

【0033】
合成経路1で一般式(3)
【0034】
【化7】

【0035】
[式中、Rはメトキシメチル基、t−ブチルジメシルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、アセチル基、Bocはt−ブトキシカルボニル基を示し、R、R、R、X及びmは前述の通り]
で表される化合物は、一般式(2)
【0036】
【化8】

【0037】
[式中、R、R、R、X、Boc及びmは前述の通り]
で表される化合物を各種アルコール保護基導入化反応に付すことによって製造することができる(工程A)。
【0038】
メトキシメチル基、アセチル基の導入においては、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、エーテル、アセトニトリルなどを反応溶媒として用い、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、水素化ナトリウムなどの塩基の存在下、0℃〜常温下にてメトキシメチルクロリド、メトキシメチルブロミド、アセチルクロリド、アセチルブロミド、無水酢酸を作用させることが望ましい。またt−ブチルジメシルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基の場合、アセトニトリル、塩化メチレン、好ましくはN,N―ジメチルホルムアミド(DMF)を反応溶媒として用い、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基を用い、対応するシリルクロリドを0℃〜常温下にて反応させることが好ましい。
【0039】
合成経路1で一般式(4)
【0040】
【化9】

【0041】
[式中、R、R、R、R、X、Boc及びmは前述の通り]
で表される化合物は、上記一般式(3)で表される化合物を酸化することによって製造することができる(工程B)。
【0042】
反応は一般に用いられるアルコールのアルデヒドへの酸化手法を用いることができ、例えばクロロクロム酸ピリジニウム、二クロム酸ピリジニウムなどの酸化クロム−ピリジン錯体や酸化クロム、炭酸銀、二酸化マンガン等の金属酸化剤や、塩化オキザリル、無水トリフルオロ酢酸、無水酢酸、DCC、三酸化硫黄−ピリジン錯体等の各種DMSO(ジメチルスルホキシド)活性化剤を用いたDMSO酸化が挙げられる。
【0043】
合成経路1で一般式(5)
【0044】
【化10】

【0045】
[式中、Rは炭素数1〜4の低級アルキル基を示し、R、R、R、R、X、Boc及びmは前述の通り]
で表される化合物は、上記一般式(4)で表される化合物と一般式(8)
【0046】
【化11】

[式中、Rは前述の通り]
で表される化合物を塩基の存在下作用させることによって製造することができる(工程C)。
【0047】
反応はTHF、DMSO、1,4−ジオキサンを溶媒として用い、一般式(8)で表される化合物を水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどの塩基を、0℃〜常温下に作用させた後、一般式(4)で表される化合物と反応させることが望ましい。
【0048】
合成経路1で一般式(6)
【0049】
【化12】

【0050】
[式中、R、R、R、R、R、X、Boc及びmは前述の通り]
で表される化合物は、上記一般式(5)で表される化合物を還元することによって製造することができる(工程D)。
【0051】
反応は、接触還元触媒であるパラジウム炭素、白金炭素、酸化白金、ロジウム炭素、ルテニウム炭素等の存在下、好ましくはエチレンジアミンに被毒させた5%パラジウム炭素を用い、エタノール、メタノール、THF、DMF、酢酸エチル等の溶媒中、常圧〜加圧下の水素圧下に常温〜100℃にて行うことができる。また、エタノール中、水素化ホウ素ナトリウムを加え0℃〜常温下にて行うこともできる。さらにはピリジンを溶媒に用い、ジアゾジカルボン酸ジカリウム塩と酢酸を加え0℃〜常温下に反応させることもできる。
【0052】
合成経路1で一般式(7)
【0053】
【化13】

【0054】
[式中、R、R、R、R、X及びmは前述の通り]
で表される化合物は、上記一般式(6)で表される化合物を脱保護することによって製造することができる(工程E)。
【0055】
反応は上記一般式(6)のRがシリル保護基の場合、THFを溶媒として用い、テトラブチルアンモニウムフルオリド、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどを0℃〜常温下に作用させた後に酸分解することによってBoc基を脱保護することができる。また、Rがアセチル基の場合は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液を用い、エタノール、メタノール、THF、DMSO、DMF、1,4−ジオキサンなどを溶媒として0℃〜常温下に作用させ、加水分解した後に脱Boc化を行うことができる。またRがメトキシメチル基の場合、Boc基との脱保護を一挙に行うことが可能で、酢酸、塩酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの無機酸又は有機酸中、あるいはメタノール、エタノール、THF、1,4−ジオキサン、酢酸エチルなどの有機溶媒との混合溶液中に作用させ、反応温度は0℃〜常温下に行うことができる。
【0056】
合成経路1で一般式(1)で表される化合物は、上記一般式(7)で表される化合物を塩基処理することによって製造することができる(工程F)。
【0057】
反応はTHF、1,4−ジオキサン、好ましくはDMFを反応溶媒として用い、水素化カリウム、好ましくは水素化ナトリウムを塩基として加え、場合によっては少量の水を加え、0℃〜常温下に行うことが好ましい。
【0058】
また、合成経路1で一般式(7)で表される化合物は、下記合成経路2によっても合成することができる。
【0059】
<合成経路2>
【0060】
【化14】

【0061】
合成経路2で一般式(9)
【0062】
【化15】

【0063】
[式中、R、R、R、X及びmは前述の通り]
で表される化合物は、前記一般式(2)で表される化合物を閉環させることよって製造することができる(工程G)。
【0064】
反応は、水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムブトキシドなどの無機塩基の存在下、THF、DMF、1,4−ジオキサン、ベンゼン、トルエンを反応溶媒として用い、0℃〜加熱還流下、好ましくは常温下に行うことができる。また、ピリジン溶媒中、パラトルエンスルホニルクロリドと加熱還流下、好ましくは80℃〜100℃にて行うこともできる。
【0065】
合成経路2で一般式(10)
【0066】
【化16】

【0067】
[式中、R、R、R、X及びmは前述の通り]
で表される化合物は、上記一般式(9)で表される化合物を酸化することによって製造することができる(工程H)。
【0068】
反応は一般に用いられるアルコールのアルデヒドへの酸化手法を用いることができ、例えばクロロクロム酸ピリジニウム、二クロム酸ピリジニウムなどの酸化クロム−ピリジン錯体や酸化クロム、炭酸銀、二酸化マンガン等の金属酸化剤や、塩化オキザリル、無水トリフルオロ酢酸、無水酢酸、DCC、三酸化硫黄−ピリジン錯体等の各種DMSO活性化剤を用いたDMSO酸化が挙げられる。
【0069】
合成経路2で一般式(11)
【0070】
【化17】

【0071】
[式中、R、R、R、R、X及びmは前述の通り]
で表される化合物は、上記一般式(4)で表される化合物と前記一般式(8)
で表される化合物を塩基の存在下作用させることによって製造することができる(工程I)。
【0072】
反応はTHF、DMSO、1,4−ジオキサンを溶媒として用い、一般式(8)で表される化合物を水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどの塩基を、0℃〜常温下に作用させた後、一般式(10)で表される化合物と反応させることが望ましい。
【0073】
合成経路2で一般式(12)
【0074】
【化18】

【0075】
[式中、R、R、R、R、X及びmは前述の通り]
で表される化合物は、上記一般式(5)で表される化合物を還元することによって製造することができる(工程J)。
【0076】
反応は、接触還元触媒であるパラジウム炭素、白金炭素、酸化白金、ロジウム炭素、ルテニウム炭素等の存在下、好ましくはエチレンジアミンに被毒させた5%パラジム炭素を用い、エタノール、メタノール、THF、DMF、酢酸エチル等の溶媒中、常圧〜加圧下の水素圧下に常温〜100℃にて行うことができる。また、エタノール中、水素化ホウ素ナトリウムを加え0℃〜常温下にて行うこともできる。さらにはピリジンを溶媒に用い、ジアゾジカルボン酸ジカリウム塩と酢酸を加え0℃〜常温下に反応させることもできる。
【0077】
合成経路2で前記一般式(7)で表される化合物は、上記一般式(12)で表される化合物を開環することによって製造することができる(工程E)。
【0078】
反応は水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などの塩基の存在下、エタノール、メタノール、DMSO、1,4−ジオキサンなどを溶媒として加熱還流下に行うことが望ましい。
【0079】
なお前述した一般式(2)で表される出発原料や各合成経路中に示した中間体の合成法の一部については、WO03029184、WO03029205、WO04074297に記載されている。
【実施例】
【0080】
次に本発明を具体例によって説明するが、これらの例によって本発明が限定されるものではない。また前述した一般式(2)で表される出発原料や合成経路中に示した一部中間体の合成法については、WO03029184、WO03029205、WO04074297に記載された方法によって製造することができる。
【0081】
<実施例1>
5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−2−t−ブチルジフェニルシロキシメチルペンタン−1−オール
【0082】
【化19】

【0083】
2−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−1,3−プロパンジオール(1.03g)のDMF(12.6mL)溶液に、氷冷下トリエチルアミン(677μL)及びt-ブチルジメチルクロロシラン(400mg)を順次加え、室温で2時間攪拌した。氷水を加え、酢酸エチルで抽出後、水及び飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン : 酢酸エチル = 4 : 1)にて精製し、目的物(734mg)を無色油状物として得た。
MS(FAB+): 672([M+H])
1H-NMR(400MHz, CDCl3)
δ 0.06(6H, s), 0.88(9H, s), 1.38-1.85(4H, m),
1.42(9H, s), 2.67-2.70(2H, m), 3.51(1H, d, J=9.8Hz), 3.58-3.67(2H, m), 3.80(1H,
d, J=9.8Hz), 4.07-4.16(1H, m), 5.02(2H, s), 5.07(1H, brs), 6.86-6.94(3H, m),
7.11-7.16(2H, m), 7.22(1H, t, J=7.6Hz), 7.29-7.41(6H, m)
【0084】
<実施例2>
5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−2−t−ブチルジフェニルシロキシメチルペンタナール
【0085】
【化20】

【0086】
オキサリルクロリド(288μL)の塩化メチレン(16.5mL)溶液に、アルゴン雰囲気下-78℃でジメチルスルホキシド(316μL)の塩化メチレン(1.2ml)溶液を滴下し、同温で10分撹拌した。続いて上記実施例1の化合物(1.11g)の塩化メチレン(5.5mL)溶液を滴下し、-78℃で1時間、-50から-40℃で30分撹拌後、トリエチルアミン(1.68mL)を滴下し、氷冷下にて30分撹拌した。塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン : 酢酸エチル = 9 : 1)にて精製し、目的物(962mg)を無色油状物として得た。
MS(FAB+): 670([M+H])
1H-NMR(400MHz, CDCl3)
δ -0.02(6H, s,), 0.83(9H, s), 1.41-1.78(3H, m),
1.41(9H, s), 2.02-2.08(1H, m),
2.60-2.71(2H, m), 3.84(1H, d, J=10.1Hz), 4.00(1H, d, J=10.1Hz), 5.01(2H,
s), 5.30(1H, brs), 6.85-6.94(3H, m), 7.06(1H, d, J=7.9Hz), 7.11(1H, dd, J=7.9,
1.8Hz), 7.21(1H, t, J=7.9Hz), 7.28-7.37(6H, m), 9.36(1H, s).
【0087】
<実施例3>
6−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]−3−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−t−ブチルジフェニルシロキシメチル−1−ヘキセニルホスホン酸ジメチルエステル
【0088】
【化21】

【0089】
メチレンビスホスホン酸メチル(433mg)のTHF(12mL)溶液に、アルゴン雰囲気下-78℃で1.56mol/L n-ブチルリチウム ヘキサン溶液を滴下し、同温で30分撹拌した。-78℃で上記実施例2の化合物(962mg)のTHF(3mL)溶液を滴下し、同温で1時間撹拌後、室温で30分撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出後、水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン : 酢酸エチル = 1 : 1)にて精製し、目的物(993mg)を無色油状物として得た。
MS(FAB+): 776([M+H])
1H-NMR(400MHz, CDCl3)
δ 0.02(3H, s,), 0.03(3H, s,), 0.87(9H, s), 1.41(9H,
s), 1.54-1.93(4H, m), 2.68(2H, t, J=7.6Hz), 3.58-3.76(2H, m), 3.69(3H, s),
3.71(3H, s), 4.76(1H, brs), 5.03(2H, s), 5.65(1H, t, J=17.1Hz), 6.71(1H, dd,
J=22.9, 17.1Hz), 6.88-6.96(3H, m), 7.09(1H, d, J=7.9Hz), 7.14(1H, dd, J=7.9,
1.8Hz), 7.25(1H, t, J=7.9Hz), 7.30-7.41(6H, m).
【0090】
<実施例4>
6−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]−3−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−t−ブチルジフェニルシロキシメチルヘキシルホスホン酸ジメチルエステル
【0091】
【化22】

【0092】
実施例3の化合物(993mg)のピリジン(26mL)溶液に、ジアゾジカルボン酸ジカリウム塩(1.74g)及び酢酸(769μL)を少しずつ加え、常温で4日間撹拌した。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン : 酢酸エチル = 2 : 3)にて精製し、目的物(741mg)を無色油状物として得た。
MS(FAB+): 778([M+H])
1H-NMR(400MHz, CDCl3)
δ 0.03(6H, s,), 0.87(9H, s), 1.41(9H, s),
1.57-2.05(8H, m), 2.67(2H, t, J=7.3Hz), 3.44-3.58(2H, m), 3.71(3H, s), 3.73(3H,
s), 4.46(1H, brs), 5.03(2H, s), 6.87-6.96(3H, m), 7.10-7.16(2H, m), 7.23(1H, t,
J=7.9Hz), 7.31-7.39(6H, m).
【0093】
<実施例5>
6−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]−3−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−ヒドロキシメチルヘキシルホスホン酸ジメチルエステル
【0094】
【化23】

【0095】
実施例4の化合物(415mg)のTHF(9.5mL)溶液に、1mol/L テトラブチル-n-ブチルアンモニウムフルオリド THF溶液(1.14mL)を加え、常温で1.5時間撹拌した。水を加え、酢酸エチルで抽出後、水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル : メタノール= 9 : 1)にて精製し、目的物(584mg)を無色油状物として得た。
MS(FAB+): 664([M+H])
1H-NMR(400MHz, CDCl3)
δ 1.41(9H, s), 1.57-1.99(8H, m), 2.69(2H, t,
J=7.3Hz), 3.54-3.65(2H, m), 3.72(3H, s), 3.75(3H, s), 4.00(1H, brs), 4.61(1H,
brs), 5.02(2H, s), 6.86-6.96(3H, m), 7.12(1H, d, J=7.9Hz), 7.15(1H, dd, J=7.9,
1.8Hz), 7.23(1H, t, J=7.9Hz), 7.30-7.41(6H, m).
【0096】
<実施例6>
5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド
【0097】
【化24】

【0098】
実施例5の化合物(133mg)を、飽和塩酸−メタノール溶液(1.5mL)に溶解し、一夜静置した。溶媒を留去後、残渣を酢酸エチルに溶解し、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、溶媒を留去した。残渣のジメチルホルムアミド(1.8mL)溶液に、60%水素化ナトリウム(24mg)を加え、室温で1時間撹拌した。少量の水を加え、溶媒を留去後、50%アセトニトリル水溶液に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(逆相シリカ、 水
: アセトニトリル = 100 : 0 → 3 : 1 → 1 : 1)で精製後、凍結乾燥により、目的物(51.2mg)を白色固体として得た。
MS(FAB+): 518([M+H])
HRMS: C26H30ClNO4PS、calcd 518.1322、found 518.1329(+0.7mmu)
1H-NMR(400MHz,
DMSO-d6)
δ 1.10-1.60(8H, m),
2.63(2H, t, J=7.6Hz), 3.30-3.60(2H, m), 5.08(2H, s), 6.90-7.40(12H, m).
【0099】
<実施例7>
5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド ナトリウム塩
【0100】
【化25】

【0101】
2−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−1,3−プロパンジオールを出発原料として、実施例1〜6と同様の反応を行い、目的物(188mg)を白色固体として得た。
MS(FAB+): 526([M+H])
HRMS:
C25H27ClNNaO4PS、calcd 526.0985、found
526.0947(-1.1mmu)
1H-NMR(400MHz,
DMSO-d6)
δ 1.20-1.70(6H, m), 2.60-2.70(2H, m), 3.50-3.60(2H,
m), 5.08(2H, s), 6.90-7.40(12H, m).
【0102】
<実施例8>
5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド 塩酸塩
【0103】
【化26】

【0104】
実施例7の化合物(41.4mg)を水(0.4mL)に溶解し、氷冷下3mol/L塩酸にてpH1とした。析出した固体を粉砕後、ろ取し、水洗後、減圧乾燥させ、目的物(34.7mg)を白色固体として得た。
MS(FAB+): 504([M+H])
HRMS: C25H28ClNO4PS、calcd 504.1165、found 504.1208(+4.3mmu)
1H-NMR(400MHz,
DMSO-d6)
δ 1.20-2.20(6H, m), 2.60-2.80(2H, m), 3.80-4.00(2H,
m), 5.07(2H, s), 6.90-7.40(12H, m).
【0105】
<実施例9>
5−アミノ−5−[4−(4−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド ナトリウム塩
【0106】
【化27】

【0107】
2−[4−(4−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−t−ブトキシカルボニルアミノ−1,3−プロパンジオールを出発原料として、実施例1〜6と同様の反応を行い、目的物(64.6mg)を白色固体として得た。
MS(FAB+): 540([M+H])
HRMS:
C26H29ClNNaO4PS、calcd 540.1141、found
540.1106(-3.5mmu)
1H-NMR(400MHz,
DMSO-d6)
δ 1.10-1.60(8H, m), 2.58(2H, t, J=7.6Hz),
3.30-3.60(2H, m), 5.13(2H, s), 7.00-7.50(12H, m).
【0108】
次に本発明化合物について、有用性を裏付ける成績を実験例によって示す。
【0109】
<実験例> ヒトS1P(スフィンゴシン-1-リン酸)受容体発現細胞に対する被験化合物の細胞内カルシウム動員誘導試験
10%のウシ胎児血清、及び200μg/mLのGeneticinを含むHam’s F-12培地で継代培養したヒトS1P受容体発現CHO細胞(hS1P1受容体発現CHO細胞、あるいはhS1P3受容体発現CHO細胞)を4×104 cells/wellで96穴黒色クリアボトム培養プレート(コースター)に播種し、37℃、5%CO2条件下で一晩培養した。さらにCa2+結合性蛍光指示薬としてCalcium Screening Kit試薬(同仁化学)を添加し、37℃、5%CO2条件下で60分間培養した。培養後、マイクロプレート蛍光分光光度計(FLEX Station、モレキュラーデバイス)を用いて、励起波長485nm、検出波長525nmにおける蛍光強度を測定した。最終濃度の10倍の濃度になるよう培地で調製したS1P、あるいは被験化合物(最終DMSO濃度0.1%)を蛍光測定開始18秒後に添加し、1.5秒毎で添加後100秒まで蛍光強度を連続測定した。測定データより最大蛍光強度から最小蛍光強度を引いた値(蛍光増加量)を算出し、溶媒を添加したときの蛍光増加量とS1Pを10-6Mで作用させたときの蛍光増加量の差を100%として、被験化合物の蛍光増加率(%)を算出した。これを被験化合物の細胞内カルシウム動員誘導作用として、PRISMソフトウェア(GraphPad)を用いてEC50値を求めた。EC50値≧1μmol/Lについては−、1μmol/L>EC50値≧0.01μmol/Lについては+、0.01μmol/L>EC50値については++と表記し、表1に示した。
【0110】
【表1】

【0111】
以上の結果から本発明化合物はヒトS1P受容体に作用することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、新規なオキサフォスフィナン誘導体とその付加塩が優れたスフィンゴシン−1−リン酸(S1P)受容体調節作用を有することを見出したものである。このようなS1P受容体調節作用を有する化合物は、動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎、腎線維症、肝線維症、慢性気管支喘息、びまん性過誤腫性肺脈管筋腫症、成人呼吸促迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺炎、特発性間質性肺炎、肺癌、過敏性肺臓炎、バージャー病、糖尿病性ニューロパチーの末梢動脈疾患、敗血症、血管炎、腎炎、肺炎、脳梗塞、心筋梗塞症、浮腫性疾患、静脈瘤、解離性大動脈瘤、狭心症、DIC、胸膜炎、うっ血性心不全、多臓器不全、とこずれ、火傷、潰瘍性大腸炎、クローン病などの治療及び予防薬として、又、心移植、腎移植、皮膚移植、肝移植、骨髄移植などの拒絶反応の予防又は治療薬、関節リウマチ、ループス腎炎、全身性エリトマトーデス、橋本病、多発性硬化症、重症筋無力症、糖尿病、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性接触皮膚炎等の予防又は治療薬として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、ヒドロキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いアラアルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、置換基を有しても良いフェノキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、置換基を有しても良いアラルキルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基、シンナミルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基、炭素数1〜4の低級アルキルチオ基、炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基、炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基、ベンジルチオ基または炭素数1〜4の低級アルカノイル基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、置換基を有しても良いアラルキル基または置換基を有しても良いアラルキルオキシ基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、フェニル基またはアラルキル基を、
XはO、S、SOまたはSOを、
mは2〜4の整数を示す]
で表されることを特徴とするオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、一般式(1a)
【化2】

[式中、R、X、及びmは前記定義に同じ]
で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載のオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物。
【請求項3】
前記一般式(1a)においてRが塩素原子であることを特徴とする請求項2に記載のオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物。
【請求項4】
前記一般式(1)で示される化合物が、
1)5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド、
2)5−アミノ−5−[4−(3−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]エチル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシド、
3)5−アミノ−5−[4−(4−ベンジルオキシフェニルチオ)−2−クロロフェニル]プロピル−2−ヒドロキシ−1,2−オキサフォスフィナン−1−オキシドである請求項1記載のオキサフォスフィナン誘導体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物。
【請求項5】
一般式(1)
【化3】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、ヒドロキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いアラアルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、置換基を有しても良いフェノキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、置換基を有しても良いアラルキルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基、シンナミルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基、炭素数1〜4の低級アルキルチオ基、炭素数1〜4の低級アルキルスルフィニル基、炭素数1〜4の低級アルキルスルホニル基、ベンジルチオ基または炭素数1〜4の低級アルカノイル基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、置換基を有しても良いアラルキル基または置換基を有しても良いアラルキルオキシ基を、
は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、フェニル基またはアラルキル基を、
XはO、S、SOまたはSOを、
mは2〜4の整数を示す]
で表されることを特徴とするオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物の少なくとも一種類以上を有効成分とするS1P受容体調節剤。
【請求項6】
前記一般式(1)で示される化合物が、一般式(1a)
【化4】

[式中、R、X、及びmは前記定義に同じ]
で表される化合物であることを特徴とする請求項5に記載のオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物の少なくとも一種類以上を有効成分とするS1P受容体調節剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載されたオキサフォスフィナン誘導体、その光学異性体及び薬理学的に許容しうる塩並びにその水和物の少なくとも一種類以上を有効成分として含有する医薬。

【公開番号】特開2007−169196(P2007−169196A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367391(P2005−367391)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】