説明

オゾン分解剤

【課題】オゾンを初めとする人体に有害なガスの除去性能が高く、長寿命で、安価であるオゾン分解剤を提供する。
【解決手段】鉄化合物がFe2O3、FeO(OH)、Fe(OH)3の少なくとも一種の酸化物を含み、スピネル構造の鉄化合物がMnFe2O4、ZnFe2O4、NiFe2O4、CuFe2O4、CoFe2O4の少なくとも一種の酸化物を含む、安価で、オゾンの除去性能が高いオゾン分解触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に存在するオゾン(O)を分解除去するオゾン分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナ放電による帯電方式を採用した電気集塵式空気清浄機や電子写真複写機などにおいては、コロナ放電が機内の空気中で行われるために、機内に多量のオゾンが発生する。そしてこのオゾンは、非常に臭いが強く、酸化性の高い気体であり、例えば空気中に0.1ppmの濃度が存在するだけで、息切れやめまい、吐き気、頭痛などの生理作用を生じさせるものであるため、各機器からこのようなオゾンを機外に漏洩させることは回避しなければならない。
【0003】
このような問題を克服するために、オゾンを分解するフィルタが各種提案されている。形態も様々であるが、オゾン分解剤に着眼すると次のようになる。
【0004】
まず、活性炭の細孔容積を制御したオゾン分解剤が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、活性炭の細孔容積を制御しても、炭素の消失反応であるため、経時的に劣化率が大きくなり、長期間に渡って、高効率を維持することができないという問題がある。
【0006】
更に、活性炭の表面にα−FeOOHと5Fe23・H2Oとを担持されたオゾン分解剤が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、かかる手法は、活性炭依存の分解反応であり、活性炭単体よりは高効率を維持する事が可能であるが、やはり経時的に劣化率が大きくなり、長期間に渡って、高効率を維持することができないという問題がある。
【0008】
一方、鉄、銅複合酸化物から各種オゾン分解剤も開示されている(例えば特許文献3、特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、鉄酸化物、銅酸化物の複合化合物では、オゾン分解性能が不十分であるため、貴金属を併用することによりオゾン分解性能を向上させるもので、極めて高価な触媒となり、産業上広く利用するには困難なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭56−168824号公報
【特許文献2】特開2002−233718号公報
【特許文献3】特開昭62−201648号公報
【特許文献4】特開平02−187148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の課題を背景になされたものであり、本発明の目的は、オゾンを初めとする人体に有害なガスの除去性能が高く、長寿命で、安価であるオゾン分解剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。すなわち本発明は、鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物を含有するオゾン分解剤である。
【0013】
前記鉄化合物がFe23、FeO(OH)、Fe(OH)3の少なくとも一種の酸化物を含み、前記スピネル構造の鉄化合物がMnFe24、ZnFe24、NiFe24、CuFe24、CoFe24の少なくとも一種の酸化物を含むオゾン分解剤が上記目的に適する。
【発明の効果】
【0014】
鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物を含有するオゾン分解剤により、低価格で、長期にわたって満足すべきオゾン除去性能を発現することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物の両者を含むオゾン分解剤であることが好ましい。鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物両者を含むことにより、優れたオゾン分解性能が得られるからである。かかる組み合わせにより優れたオゾン分解性能が得られる原因については定かではないが、両者を含むことをオゾンの酸素原子の取込、及び放出がスムーズを行われるためと推測する。
【0016】
本発明にかかる鉄化合物は、Fe23、FeO(OH)、Fe(OH)3の少なくとも一種の酸化物を含むことが好ましい。これらの鉄化合物を採用することにより、スピネル構造の鉄化合物の存在と相まって、より優れたオゾン分解性能を発揮するからである。鉄化合物の製法は、水溶性鉄塩を炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等で中和後に高温で焼成する方法や、水溶性鉄塩を炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等で中和し、その後、ペルオキソ二硫酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素水等の酸化剤で水中酸化する方法や、水溶性鉄塩を炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等で中和し、その後、液中に空気を通気して、溶存酸素で水中酸化する方法や、水溶性鉄塩を高温で焼成する方法などにより作製することが可能である。
【0017】
一方、スピネル構造の鉄化合物は、MnFe24、ZnFe24、NiFe24、CuFe24、CoFe24の少なくとも一種の酸化物を含むことが好ましい。スピネル構造の鉄化合物の製法は、各金属の酸化物、炭酸塩の粉末を混合し、800℃以上の高温で加熱合成する方法や、Fe、Ni、Co、Mnは各金属をシュウ酸塩として共沈して、600〜800℃で加熱する方法や、水溶性金属塩を炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等で中和後、反応液に窒素ガスを通気しながら40〜80℃まで加熱し、一定温度に保持した後、窒素ガスを空気に変えて、撹拌しながら溶存酸素で酸化する方法などにより作製することが可能である。
【0018】
前記の方法により、鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物を個別に作製して混合する方法が挙げられる。しかし、合理的に鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物を作製するには、鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物を共沈法で作製する方法が好ましい。
【0019】
より具体的には、水溶性金属塩を炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等で中和後、窒素を通気しないで反応液に空気を通気しながら40〜80℃まで加熱し、一定温度に保持し、撹拌しながら溶存酸素で酸化する方法である。更に、200〜400℃で焼成することでFeOOH、Fe(OH)3等の酸化を進行させることも可能である。この方法で行うことにより、40℃以下の低温側で鉄化合物を生成し、40℃以上の温度でスピネル構造の鉄化合物が生成していると考えられる。
【0020】
オゾン分解触媒に含有するマンガン、亜鉛、ニッケル、銅、コバルトは、マンガン、亜鉛、ニッケル、銅、コバルトの含有率は、オゾン分解触媒の鉄元素に対して3〜50モル%で配合することが好ましく、10〜30モル%がより好ましい。3モル%未満の場合は、スピネル構造の生成率が低くなり、オゾン分解性能が低くなる。一方、50モル%を超える場合は、マンガン、亜鉛、ニッケル、銅、コバルト由来の化合物の生成が多くなり、オゾン分解性能が低くなる。
【0021】
鉄化合物、スピネル構造の鉄化合物の構造は、X線回折により確認することができる。一方、オゾン分解触媒に含有する鉄、マンガン、亜鉛、ニッケル、銅、コバルトは、マンガン、亜鉛、ニッケル、銅、コバルトの金属元素の含有率は、蛍光X線により確認することができる。
【0022】
前記の鉄化合物とスピネル構造の鉄化合物を含有するオゾン分解触媒を粉末またはペレット状に成形して単独で充填層などに使用するだけでなく、他の脱臭剤や分解剤と混合したり併用したりして使用することができる。また、不織布、織物、シート基材に添着してプリーツ形状、ハニカム形状に成形加工して使用することができる。さらに、シート、アルミ箔からなるハニカム基材、ウレタンに添着して使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明の作用効果をより具体的に示す。下記実施例は本発明方法を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に沿って設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0024】
まず、本実施例で用いたオゾン分解剤の試験方法を以下に示す。
【0025】
(スピネル構造)
鉄化合物、スピネル構造の鉄化合物は、X線回折による格子面間隔(d値)を測定することにより確認することができる。測定条件は、CuKα線源、電圧40KV、電流37.5mA、走査範囲15〜75°、走査速度0.124°/minで実施した。測定結果をJCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standarts)カードと比較し、格子面間隔から確認できる。例えば、MnFe24のd値は、相対強度が高い順に、2.56、1.50、3.01、1.64等である。
【0026】
(オゾン除去率)
オゾン分解剤を0.1g計量して内径12.5mmのガラス製カラムに充填した。温度25℃、相対湿度50%RHに調整した8ppmのオゾンを含む空気を、風量2L/minでカラムに供給した。カラムの入口、出口のオゾン濃度を測定し、除去率を次式から算出した。オゾン濃度は紫外線吸収法オゾン濃度測定器で測定した。
【0027】
(数式1)
除去率(%)=[1−(オゾン出口濃度)/(オゾン入口濃度)×100]
【0028】
(実施例1)
硫酸鉄[FeSO4・7H2O]5.5g、硫酸マンガン[MnSO4・5H2O]1.2gを500ml、20℃のイオン交換水に溶解させてA液を得た。一方、炭酸ナトリウム[Na2CO3]8gを500ml、20℃のイオン交換水に溶解させてB液を得た。A液にB液をゆっくり添加して鉄化合物が含むC液を得た。このC液中に空気を通気しながら1時間撹拌した。その後、50℃まで昇温して6時間撹拌した。C液を濾別し、イオン交換水で濾液が中性になるまで水洗した後、100℃の空気中で10時間乾燥した。得られた触媒は、Fe23、FeO(OH)の鉄化合物とMnFe24のスピネル構造の鉄化合物を含有しており、Mn元素比率は20モル%であった。
【0029】
(実施例2)
硫酸鉄[FeSO4・7H2O]5.5g、硫酸銅[CuSO4・5H2O]1.2gを500ml、20℃のイオン交換水に溶解させてA液を得た。一方、炭酸ナトリウム[Na2CO3]8gを500ml、20℃のイオン交換水に溶解させてB液を得た。A液にB液をゆっくり添加して鉄化合物が含むC液を得た。このC液中に空気を通気しながら1時間撹拌した。その後、50℃まで昇温して6時間撹拌した。C液を濾別し、イオン交換水で濾液が中性になるまで水洗した後、100℃の空気中10時間乾燥した。得られた触媒は、Fe23、FeO(OH)の鉄化合物とCuFe24のスピネル構造の鉄化合物を含有しており、Cu元素比率は20モル%であった。
【0030】
(実施例3)
実施例1の触媒を250℃の空気中で3時間空気酸化した。得られた触媒は、Fe23の鉄化合物とMnFe24のスピネル構造の鉄化合物を含有しており、Cu元素比率は20モル%であった。
【0031】
(実施例4)
実施例2の触媒を250℃の空気中で3時間空気酸化した。得られた触媒は、Fe23の鉄化合物とCuFe24のスピネル構造の鉄化合物を含有しており、Cu元素比率は20モル%であった。
【0032】
(比較例1)
硫酸鉄[FeSO4・7H2O]5.5gを500ml、20℃のイオン交換水に溶解させてA液を得た。一方、炭酸ナトリウム[Na2CO3]8gを500ml、20℃のイオン交換水に溶解させてB液を得た。A液にB液をゆっくり添加して鉄化合物が含むC液を得た。このC液中に空気を通気しながら1時間撹拌した。その後、50℃まで昇温して6時間撹拌した。C液を濾別し、イオン交換水で濾液が中性になるまで水洗した後、100℃の空気中で10時間乾燥した。得られた触媒は、Fe23、FeO(OH)の鉄化合物であった。
【0033】
(比較例2)
比較例1の触媒を250℃の空気中で3時間空気酸化した。得られた触媒は、Fe23の鉄化合物であった。
【0034】
実施例1〜3に関して、初期のオゾン除去率、60時間後のオゾン除去率が高く、経時的な劣化が小さいことが分かる。一方、比較例1〜2に関して、初期のオゾン除去率から低性能であることが分かる。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本願発明にかかるオゾン分解剤は、初期から長期に渡って、高効率を維持することが可能であり、幅広いオゾン分解除去分野に利用することができ、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、FeO(OH)、Fe(OH)の少なくとも一種を含む鉄化合物と、MnFe、ZnFe、NiFe、CuFe、CoFeの少なくとも一種の酸化物を含むスピネル構造の鉄化合物を含有し、マンガン、亜鉛、ニッケル、銅、コバルトの鉄元素に対する含有率が3〜50モル%で配合されていることを特徴とするオゾン分解剤。

【公開番号】特開2010−42413(P2010−42413A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232232(P2009−232232)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【分割の表示】特願2005−135889(P2005−135889)の分割
【原出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】