説明

オゾン分解除去用触媒、その製造方法、およびそれを用いたオゾン分解除去方法

【課題】低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能な触媒を提供すること
【解決手段】支持体と、Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の第一の金属、該第一の金属の合金ならびに該第一の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に無電解メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の第二の金属、該第二の金属の合金ならびに該第二の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面および内部に無電解メッキにより担持された第二の触媒成分とを備えることを特徴とするオゾン分解除去用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン分解除去用触媒、その製造方法、およびそれを用いたオゾン分解除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光化学オキシダント濃度の1時間値の最大値が年々高くなる傾向にあり、特に東京や名古屋などの都市部においては、光化学オキシダント濃度が環境基準値(1時間値が0.06ppm以下)を満たしていない。
【0003】
前記光化学オキシダントは、工場や自動車から排出される窒素酸化物と炭化水素類とが太陽の紫外線照射の下で反応して生成するオゾンを主成分とする酸化力の強い汚染物質である。オゾンは物質の酸化劣化を引き起こすだけでなく、人体に対しても悪影響を及ぼすものであり、熱分解法や活性炭法、触媒法など、従来から様々なオゾン分解除去方法が提案されている。
【0004】
前記触媒法に用いられるオゾン分解用触媒としては、MnO、Co、NiO、Fe、AgO、Cr、CeO、V、CuO、MoOなどが知られており、これらのうち、MnOが最も高い活性を示すことが知られている〔Applied Catalysis B,Environmental、1997年、第11巻、129−166頁(非特許文献1)〕。また、オゾンから酸素を生成させる反応における触媒としてクリプトメレン(cryptomelane)形態のα−MnOが好ましいことが知られている〔特表2003−527951号公報(特許文献1)〕。
【0005】
しかしながら、オゾン分解用触媒としてオゾン分解除去性能が最も優れているMnOを使用した場合であっても、実用上、必ずしも十分な性能を発現できてはいなかった。例えば、自動車のラジエータなどの熱交換器にオゾン分解除去性能を付与するために熱交換器表面にMnOを担持させた場合、十分なオゾン分解除去性能を発現させるためには、MnOの担持量を多くする必要があり、熱交換器の熱交換性能が低下するという問題があった。
【0006】
このため、特表2000−515063号公報(特許文献2)には、熱交換性能(放熱性能)の低下を防止するために、自動車のラジエータなどの熱交換器の熱交換外面の一部を、卑金属(具体的には酸化物の形態)、貴金属、それらの化合物、またはそれらの組み合わせからなる触媒組成物で被覆した熱交換装置が提案されている。そして、前記触媒組成物には、単位体積当たりの触媒量を増加させるために、高い表面積の耐火性酸化物支持体を含有させている。
【0007】
このように、MnOなどの金属酸化物を含むオゾン分解用触媒を熱交換器の表面にコーティングする場合には、熱交換性能を維持するためにコーティング面積が制約され、オゾン分解除去性能を向上させるには限界があった。
【0008】
一方、特開2009−208018号公報(特許文献3)には、支持体の表面に、Co、Cu、Niなどの金属触媒成分が無電解メッキによりコーティングされたオゾン分解除去用触媒が開示されている。この触媒は、従来の金属酸化物を含むオゾン分解用触媒に比べて効率よくオゾンを分解除去することができるものの、オゾン濃度が低く且つ水蒸気が存在する環境下においては、オゾン分解除去性能は十分なものではなく、未だ改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−527951号公報
【特許文献2】特表2000−515063号公報
【特許文献3】特開2009−208018号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Dhandapatiら、Applied Catalysis B,Environmental、1997年、第11巻、129−166頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能な触媒、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、Cuなどの第一の金属の塩と、Agなどの第二の金属の塩と、前記第二の金属の塩に対して前記第一の金属の塩を選択的に還元する還元剤とを含有する無電解メッキ浴中で無電解メッキを行うことによって、Cuなどの第一の触媒成分と、この第一の触媒成分の表面および内部に担持されたAgなどの第二の触媒成分とを備える触媒を得ることができること、ならびに、このような触媒が低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても優れたオゾン分解除去性能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒は、支持体と、Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の第一の金属、該第一の金属の合金ならびに該第一の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に無電解メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の第二の金属、該第二の金属の合金ならびに該第二の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面および内部に無電解メッキにより担持された第二の触媒成分とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のオゾン分解除去用触媒において、前記第二の触媒成分の含有量は、前記第一の触媒成分に対して、金属原子比(第二の金属/第一の金属)で0.001〜0.2であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の第一の金属の塩と、Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の第二の金属の塩と、前記第二の金属の塩に対して前記第一の金属の塩を選択的に還元する還元剤とを含有する無電解メッキ浴中で、支持体に無電解メッキを施すことを特徴とする方法である。
【0016】
このようなオゾン分解除去用触媒の製造方法において、前記無電解メッキ浴中の前記第一の金属の塩と前記第二の金属の塩との濃度比は、金属原子の濃度比(第二の金属/第一の金属)で0.001〜0.4であることが好ましい。また、前記第一の金属がCuであり、前記第二の金属がAgである場合、前記還元剤としては次亜リン酸塩が好ましい。
【0017】
さらに、本発明のオゾン分解除去方法は、オゾンを含む気体を本発明のオゾン分解除去用触媒に接触せしめて前記オゾンを分解除去することを特徴とする方法である。
【0018】
なお、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法によって、第一の触媒成分と、この第一の触媒成分の表面および内部に担持された第二の触媒成分とを備えるオゾン分解除去用触媒が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法において、無電解メッキ浴中で支持体に無電解メッキ処理を施すと、第二の金属の塩に対して第一の金属の塩が還元剤によって選択的に還元されるため、支持体表面には、先ず、第一の触媒成分が析出する。一方、第二の金属の塩については、前記還元剤により還元されにくいため、無電解メッキ処理の初期段階においては、第二の触媒成分は析出しにくい。しかしながら、第一の触媒成分の析出により支持体表面に第一の触媒成分からなるコーティング膜が形成され始めると、第二の金属の標準電極電位が第一の触媒成分の標準電極電位に比べて高いため、これらの標準電極電位の差によりコーティング膜表面の第一の触媒成分の一部が第二の触媒成分に置換される。そして、置換された第二の触媒成分上には、前記還元剤により還元された第一の触媒成分が析出し、前記第二の触媒成分を覆うように第一の触媒成分からなるコーティング膜が形成される。その結果、前記第二の触媒成分は前記第一の触媒成分からなるコーティング膜の内部に担持された状態となると推察される。一方、第一の触媒成分の表面に担持された第二の触媒成分は、無電解メッキ処理の終了などにより、置換された第二の触媒成分上に第一の触媒成分が析出せず、第一の触媒成分からなるコーティング膜によって覆われなかった場合に形成されると推察される。
【0019】
また、本発明のオゾン分解除去用触媒によって低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することできる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒は、第一の触媒成分と第二の触媒成分がともに無電解メッキによりコーティングおよび担持されているため、バルクの金属触媒に比べて触媒活性(オゾン分解除去性能)が極めて高くなったと推察される。更に、本発明のオゾン分解除去用触媒は、図1に示すような触媒構造を形成していると考えられ、これによって高いオゾン分解除去性能が発現されると推察される。
【0020】
以下、図1を参照しながら本発明にかかるオゾン分解メカニズムについて詳細に説明するが、本発明にかかるオゾン分解メカニズムは図1に限定されるものではない。本発明のオゾン分解除去用触媒の表面には、通常、空気中の水分が付着して水膜1が形成される。このとき、第二の触媒成分3(Ag)の近傍では、この水膜1を介して局部電池が形成される。すなわち、第一の触媒成分2(Cu)が溶解して金属イオン(Cu2+)と電子(e)が生成する。第二の触媒成分3は第一の触媒成分2に比べて標準電極電位が高いため、生成した電子は第二の触媒成分3中に移動する。第二の触媒成分3中に移動した電子は第二の触媒成分3の表面でオゾンの還元反応(分解反応)に利用される。このオゾンの分解反応においてはオゾンと水が反応して酸素と水酸化物イオンが生成する。この水酸化物イオンは、前記金属イオン(Cu2+)と反応して金属水酸化物(Cu(OH))を形成する。このような分解メカニズムにおいては、第一の触媒成分2が溶解して生成した電子がオゾンの還元反応を格段に促進するため、極めて高いオゾン分解除去性能を示すと推察される。
【0021】
また、本発明のオゾン分解除去用触媒においては、第一の触媒成分2の内部にも第二の触媒成分3が担持されている。この内部の第二の触媒成分3は、触媒層が多孔質の場合には、活性点として作用し、また、触媒が長期間にわたって使用されたことにより表面が摩耗した場合でも、新品時と同様の新生面が露出することにより触媒として作用するため、第一の触媒成分2の表面のみに第二の触媒成分3が担持されている場合に比べて、オゾン分解除去性能が高くなり、且つ除去性能が長期間にわたって安定して持続すると推察される。
【0022】
一方、単一の触媒成分を備えるオゾン分解除去用触媒においては、上記のような局部電池が形成されないため、オゾンの還元反応が促進されず、高いオゾン分解除去性能が得られなかったと推察される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オゾンを分解除去する際に人体や環境により安全であり、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能なオゾン分解除去用触媒を、簡便且つ低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のオゾン分解除去方法において推定されるオゾン分解メカニズムの一例を示す模式図である。
【図2】実施例および比較例で使用したオゾン分解除去性能評価装置を示す模式図である。
【図3】実施例および比較例で得られた触媒層付きラジエータテストピースのオゾン分解除去性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
<オゾン分解除去用触媒>
先ず、本発明のオゾン分解除去用触媒について説明する。本発明のオゾン分解除去用触媒は、支持体と、Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の第一の金属、該第一の金属の合金ならびに該第一の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に無電解メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の第二の金属、該第二の金属の合金ならびに該第二の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面および内部に無電解メッキにより担持された第二の触媒成分とを備えるものである。
【0027】
本発明のオゾン分解除去用触媒においては、前記第一の触媒成分と前記第二の触媒成分とを含有する層がオゾン分解除去性能を示す触媒層として作用する。また、このような触媒層は、オゾン分解に対する触媒作用に優れているため、その含有量を従来の金属酸化物触媒に比べて少なくすることができ、さらに、高いオゾン分解除去性能を示すとともに、その性能も長期間にわたって安定して持続する傾向にある。
【0028】
(第一の触媒成分)
本発明にかかる第一の触媒成分を構成する第一の金属は、Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属であり、金属イオンと還元剤を含む溶液から析出したメタル状のものである。これらの第一の金属においては、無電解メッキ処理において、還元剤により金属イオンを還元する際に水素の発生反応が少なくとも第一の触媒成分の析出より優位に起こることがなく、還元剤の酸化還元電位と第一の金属の還元電位との差により効率的に第一の触媒成分を析出させることができる。また、希少金属の使用を控えることが可能となるという観点から、第一の金属としてはCuが好ましい。また、第一の金属として安価なCuを使用することによって、オゾン分解除去用触媒の製造コストを低減することも可能となる。
【0029】
本発明において、第一の金属は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上の前記第一の金属を組み合わせる場合、前記第一の金属2種以上の合金を形成してもよいし、金属間の電位差を利用して前記第一の金属からなる膜を積層した多層膜を形成してもよい。また、前記第一の金属は他の金属と組み合わせて使用することもできる。この場合、前記第一の金属と他の金属との合金を形成してもよいし、金属間の電位差を利用して前記第一の金属からなる膜と他の金属からなる膜を積層した多層膜を形成してもよい。他の金属としてはPb、Cd、W、Moなどが挙げられる。さらに、触媒活性をより高めるために、これらの金属に熱処理を施してもよい。
【0030】
本発明のオゾン分解除去用触媒は、このような第一の触媒成分が支持体の表面に無電解メッキによりコーティングされたものである。
【0031】
(第二の触媒成分)
本発明にかかる第二の触媒成分を構成する第二の金属は、Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の金属である。このような金属は、第一の触媒成分に比べて標準電極電位が高い(第一の触媒成分との標準電極電位の差が0.3V以上)貴なものである。このような第二の金属は、無電解メッキ処理において、後述する還元剤により還元されにくいものであるが、第一の触媒成分との標準電極電位の差によって第一の触媒成分の一部と置換されて第二の触媒成分を形成する。また、第一の触媒成分との標準電極電位の差によって、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能となる。したがって、第一の触媒成分との標準電極電位の差がより大きい(0.4V以上)という観点から、Ag、PtおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の金属が好ましい。
【0032】
本発明において、第二の金属は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上の前記第二の金属を組み合わせる場合、前記第二の金属2種以上の合金を形成してもよいし、金属間の電位差を利用して前記第二の金属からなる膜を積層した多層膜を形成してもよい。また、前記第二の金属は他の金属と組み合わせて使用することもできる。この場合、前記第二の金属と他の金属との合金を形成してもよいし、金属間の電位差を利用して前記第二の金属からなる膜と他の金属からなる膜を積層した多層膜を形成してもよい。他の金属としては、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差(「他の金属」−「第一の触媒成分」)が0.3V以上(より好ましくは0.4V以上)貴な金属が好ましい。これにより、第二の金属と他の金属との合金を第一の触媒成分の一部と置換させて第二の触媒成分を形成したり、第二の金属からなる膜と他の金属からなる膜を備える多層膜を形成することが可能となる。このような他の金属としては、Co、Ni、Fe、Sn、Pd、Cd、W、Moなどが挙げられ、中でも、Co、Ni、Fe、Snが好ましい。
【0033】
本発明のオゾン分解除去用触媒は、このような第二の触媒成分が前記第一の触媒成分の表面および内部に担持された触媒層を備えるものであり、前記第二の触媒成分は、前記第一の触媒成分の表面および内部に分散した状態で担持されていることが好ましく、第一の触媒成分と第二の触媒成分を含有する触媒層の厚さ方向について第二の触媒成分の濃度分布が均一であることがより好ましい。このような状態のオゾン分解除去用触媒を用いることによって、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下において更に効率よくオゾンを分解除去することが可能となる。
【0034】
また、第二の触媒成分が第一の触媒成分の表面および内部に分散した状態としては特に制限はないが、触媒活性が格段に高くなるという観点から、第二の触媒成分の微粒子が第一の触媒成分の表面および内部に分散した状態が好ましい。第二の触媒成分の微粒子の平均粒子径としては特に制限はないが、10〜100nmが好ましく、20〜50nmがより好ましい。第二の触媒成分の微粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、微粒子が凝集しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると触媒活性が低下する傾向にある。
【0035】
本発明のオゾン分解除去用触媒において、第二の触媒成分の含有量としては、第一の触媒成分に対して、金属原子比(第二の金属/第一の金属)で0.001〜0.2が好ましく、0.005〜0.1がより好ましく、0.005〜0.02が特に好ましい。第二の触媒成分の含有量が前記下限未満になると、十分な触媒活性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第二の触媒成分の凝集や膜形成が起こり、第二の触媒成分が有効に利用されなくなる傾向にある。
【0036】
(支持体)
本発明に用いられる支持体は有機材料および/または無機材料からなる担体であり、その形状は特に制限されないが、フォーム状、モノリス状、ハニカム状またはコルゲート状などの通気性を有する形状であることが好ましい。前記有機材料および無機材料からなる担体は特に限定されず、従来公知のオゾン分解触媒に用いられる担体が挙げられ、より具体的には、ウレタンフォーム、セラミックフォーム、セラミックハニカム担体などが挙げられる。また、本発明においては、支持体として自動車のラジエータ、エバポレータ、ヒータコアなどのアルミニウム製熱交換器を用いることも可能である。
【0037】
また、本発明においては、支持体として、前記担体や熱交換器の表面に貴金属コロイド粒子を付着させて活性化したもの、前記担体や熱交換器の表面を亜鉛で置換したもの、アルミニウム製熱交換器の表面を熱水または熱水蒸気中でベーマイト処理したものや電解浴中でアルマイト処理したものなど、支持体に各種表面処理を施したものを用いることが好ましい。
【0038】
例えば、表面に貴金属コロイド粒子を付着させた支持体を用いることによって、無電解メッキ処理において、先ず、前記付着した貴金属コロイド粒子を核にして第一の触媒成分が速やかに析出し、その後、第一の触媒成分の一部が第二の触媒成分に置換され、第一の触媒成分と第二の触媒成分とを含有する触媒層が支持体の表面に形成される。このようにして形成された触媒層は支持体表面との密着性に優れている。前記貴金属コロイド粒子としては、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag、Au、Osなどの貴金属のコロイド粒子が挙げられる。また、表面を亜鉛で置換した支持体を用いることによって、支持体表面と第一の触媒成分との電位差が大きくなり、より効率的に第一の触媒成分を析出させることが可能となる。さらに、アルミニウム製熱交換器にベーマイト処理やアルマイト処理を施すことによって、熱交換器の表面積を増大させることができ、前記触媒層の密着性の向上とコーティング量の増加を図ることが可能となる。
【0039】
<オゾン分解除去用触媒の製造方法>
次に、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法について説明する。本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の第一の金属の塩と、Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の第二の金属の塩と、前記第二の金属の塩に対して前記第一の金属の塩を選択的に還元する還元剤とを含有する無電解メッキ浴中で、支持体に無電解メッキを施す方法である。これにより、前記第一の触媒成分と、この第一の触媒成分の表面および内部に担持された前記第二の触媒成分とを含有する触媒層を備えるオゾン分解除去用触媒を得ることができる。
【0040】
本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法においては、必要に応じて、支持体の表面に貴金属コロイド粒子を付着させて活性化したり、支持体の表面を亜鉛で置換したり、アルミニウム製熱交換器の表面にベーマイト処理やアルマイト処理を施したりするなど、各種表面処理を支持体に施すことが好ましい。そこで、先ず、支持体の表面処理方法について説明する。
【0041】
(支持体の表面処理)
貴金属コロイド粒子を付着させて支持体の表面を活性化させる方法としては、例えば、界面活性剤で被覆されて安定化した貴金属コロイド粒子を含むコロイド溶液に支持体を浸漬し、必要に応じて洗浄および乾燥してこの貴金属コロイド粒子を吸着させる方法や、前記貴金属コロイド粒子を含むコロイド溶液を支持体に噴霧し、必要に応じて洗浄および乾燥してこの貴金属コロイド粒子を吸着させる方法などが挙げられる。
【0042】
このようにして支持体の表面に付着させた貴金属コロイド粒子は、後述する無電解メッキ処理において、第一の触媒成分を析出させる触媒(トリガー)として作用する。このような観点から、上述した貴金属コロイド粒子のうち、Pt、Ru、Rh、Pd、Auのコロイド粒子が好ましい。また、このような貴金属コロイド粒子の平均粒子径は50nm以下であることが好ましい。このような平均粒子径の貴金属コロイド粒子は比表面積が大きく、トリガーとして十分に作用する傾向にある。
【0043】
前記界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩などの公知のアニオン系界面活性剤、アルキルアンモニウム塩などの公知のカチオン系界面活性剤、およびポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの公知のノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0044】
前記コロイド溶液の調製方法は特に限定されないが、例えば、前記貴金属の塩を溶媒に溶解して貴金属溶液を調製し、これに前記界面活性剤と還元剤を添加して、界面活性剤で被覆された貴金属コロイド粒子を析出させることによりコロイド溶液を調製することができる。前記溶媒としては、前記貴金属の塩を溶解するものであれば特に限定されないが、貴金属塩の溶解度が大きく、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒も使用することができる。
【0045】
また、前記貴金属の塩の種類は特に限定されないが、前記溶媒への溶解性が高く、安価であるという観点から硫酸塩、硝酸塩、塩化物などが好ましい。還元剤も特に限定されないが、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化合物、次亜リン酸化合物等のリン化合物、硫化ナトリウム等のイオウ化合物、水和ヒドラジン等のヒドラジン誘導体、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類といった従来公知の還元剤を使用することができる。
【0046】
前記貴金属溶液中の貴金属塩の濃度は0.01〜2g/Lであることが好ましく、界面活性剤の濃度は0.05〜1g/Lであることが好ましく、還元剤の濃度は0.01〜1g/Lであることが好ましい。
【0047】
また、本発明においては、支持体を、例えば、塩化スズ水溶液に浸漬し、水洗した後、塩化パラジウム水溶液に浸漬することにより、前記支持体にPdコロイド粒子を付着させることも可能である。
【0048】
貴金属コロイド粒子の付着量は、コロイド溶液中の貴金属塩の濃度などを調整することにより適宜調整することができるが、過剰量の貴金属コロイド粒子が付着すると無電解メッキ処理において過剰なメッキ反応が起こり、先に支持体の外面が無電解メッキされるため、支持体の凹凸部の内部まで無電解メッキされず、支持体と前記触媒層との密着性が低下する傾向にある。なお、貴金属コロイドの付着量は、重量変化を測定できない程度の極微量である。
【0049】
また、支持体の表面を亜鉛で置換する方法としては、例えば、アルミニウム製の支持体をジンケートイオン(ZnO2−)を含むジンケート浴中に浸漬し、置換反応により亜鉛膜を形成させる方法などが挙げられる。
【0050】
このようにして支持体の表面に置換された亜鉛は、本発明にかかる第一の金属に比べて電位が低いため、亜鉛置換によって支持体表面と第一の触媒成分との電位差を大きくすることができ、より効率的に第一の触媒成分を析出させることが可能となる。
【0051】
また、支持体としてアルミニウム製熱交換器を使用する場合には、公知のベーマイト処理やアルマイト処理を施すことによって、アルミニウム製熱交換器の表面積を増大させることができ、前記触媒層の密着性の向上とコーティング量の増加を図ることが可能となる。
【0052】
(無電解メッキ処理)
本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、前記支持体(好ましくは表面処理されたもの)の表面に、無電解メッキにおより、前記第一の触媒成分をコーティングし、同時に前記第一の触媒成分の表面および内部に前記第二の触媒成分を担持させる方法である。具体的には、前記第一の金属の塩と、前記第二の金属の塩と、前記第二の金属の塩に対して前記第一の金属の塩を選択的に還元する還元剤と、必要に応じて他の金属の塩とを含有する無電解メッキ溶液に前記支持体を浸漬し、必要に応じて洗浄および乾燥する方法である。
【0053】
前記無電解メッキ溶液に用いられる溶媒としては、第一の金属の塩および第二の金属の塩を溶解するものであれば特に限定されないが、これらの金属塩の溶解度が大きく、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を使用することもできる。
【0054】
前記第一の金属の塩および前記第二の金属の塩の種類としては特に限定されないが、前記溶媒への溶解性が高く、安価であるという観点から、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などが好ましいが、市販の金属塩または貴金属塩の水溶液またはコロイド溶液を使用することもできる。
【0055】
無電解メッキ溶液中における第一の金属の塩の濃度としては、5〜150g/Lが好ましく、また、第二の金属の塩の濃度としては、0.1〜10g/Lが好ましい。さらに、無電解メッキ溶液中における第一の金属の塩に対する第二の金属の塩の割合としては、金属原子比(第二の金属/第一の金属)で0.001〜0.4が好ましく、0.005〜0.1がより好ましく、0.005〜0.02が特に好ましい。第二の金属の塩の割合が前記下限未満になると、十分な量の第二の触媒成分を担持させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、過剰な量の第二の触媒成分が担持されたり、第二の触媒成分の分散性が低下するため、触媒活性が低下する傾向にある。
【0056】
本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法においては、水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化合物、次亜リン酸塩、亜リン酸塩などのリン化合物、硫化ナトリウムなどのイオウ化合物、水和ヒドラジンなどのヒドラジン誘導体、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類といった従来公知の還元剤の中から、第二の金属の塩に対して第一の金属の塩を選択的に還元することができるものを適宜選択して使用する。第一の金属、第二の金属および還元剤の好ましい組み合わせとしては表1に示す組み合わせが挙げられる。
【0057】
【表1】

【0058】
このような還元剤の濃度としては、1〜100g/Lが好ましく、5〜50g/Lがより好ましい。還元剤の濃度が前記下限未満になると、第一の金属の塩が十分に還元されず、第一の触媒成分のコーティング量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるオゾン分解除去用触媒の表面に還元剤が残存し、オゾン分解除去性能が低下する傾向にあり、これを防ぐために、洗浄操作を繰り返す必要がある。
【0059】
また、本発明に用いられる無電解メッキ溶液には、必要に応じて、pH調整剤、緩衝剤、錯化剤、促進剤、安定剤、改良剤などの各種添加剤をさらに配合することも可能である。これらの添加剤の配合量は特に制限されないが、一般的に50g/L以下であることが好ましい。さらに、第二の触媒成分への置換が促進され、また、第一の触媒成分の表面がエッチングされて表面積が増大するという観点から、酸を添加することが好ましい。
【0060】
本発明にかかる無電解メッキ処理において、第一の金属としてCuをメッキする場合、支持体が耐アルカリ性のものの場合には、還元剤としてホルマリンを使用してアルカリ性領域で無電解メッキを行うことができるが、自動車用ラジエータなどの熱交換器に使用されるアルミニウム製支持体を使用する場合には、アルカリによる支持体の腐食を防止するため、中性領域で無電解メッキを行うことが好ましい。この場合に使用する還元剤としては、中性領域で還元力を発現する次亜リン酸ナトリウムなどの次亜リン酸塩が好ましいが、無電解メッキ処理の初期段階で次亜リン酸塩によりCuイオンが還元されて支持体表面にCuが析出しても、Cu上では次亜リン酸塩の酸化反応が起こらず、次亜リン酸塩が電子を放出することができないため、その後、継続してCuイオンを還元することが困難であり、十分な量のCuがコーティングされない。
【0061】
そこで、第一の金属としてCuの塩を含有する無電解メッキ溶液には、微量のトリガー剤(Au、Pd、Ni、Coなどの金属の塩)を添加する。この場合、無電解メッキ処理の初期段階においては、前記トリガー剤が次亜リン酸塩により還元されてAu、Pd、Ni、Coなどの金属が支持体上に析出する。次に、これらの金属上で次亜リン酸塩が酸化されて電子が放出され、この電子がCuイオンを還元して支持体表面にCuが析出する。Au、Pd、Ni、Coなどの金属上では、前記次亜リン酸塩の酸化反応は継続的に起こり、Cuイオンの還元とCuの析出も継続的に起こるため、十分な量のCuがコーティングされる。
【0062】
前記無電解メッキ溶液中のトリガー剤の濃度としては、0.05〜2.5g/Lが好ましく、0.1〜1g/Lがより好ましい。トリガー剤の濃度が前記下限未満になると、トリガー剤としての機能が十分に発現せず、十分な量のCuをコーティングできない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、トリガー剤の還元がCuイオンの還元を阻害するため、十分な量のCuがコーティングされない傾向にある。
【0063】
本発明にかかる無電解メッキ処理の条件としては、浸漬温度が常温(20℃)〜100℃であることが好ましい。浸漬温度が上記下限未満になるとメッキ反応の制御が困難となり、膜厚の制御が困難となる傾向にあり、他方、上記上限を超えるとメッキ反応が速くなり過ぎる傾向にある。ただし、メッキ反応が速くなり過ぎた場合には浸漬温度を低下させてメッキ反応を停止させることにより対応することが可能である。また、浸漬時間は5分間〜6時間が好ましく、10分間〜3時間がより好ましく、15分間〜60分間が特に好ましいが、第一の触媒成分および第二の触媒成分の種類に応じて適宜調整することができる。この浸漬時間を調整することにより第一の触媒成分のコーティング量や第二の触媒成分の担持量を調整することが可能となる。特に、浸漬時間が前記下限未満になると、十分な量の第二の触媒成分が担持されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第二の触媒成分の担持量が多くなりすぎ、第二の触媒成分を第一の触媒成分の表面および内部に分散した状態で担持させることが困難となる傾向にある。
【0064】
このようにしてコーティングされた第一の触媒成分の量としては、支持体1L当たり0.1〜50gが好ましい。第一の触媒成分のコーティング量が上記下限未満になると、第一の触媒成分の効果が十分に発揮されない、すなわち、オゾン分解除去性能が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第一の触媒成分が粒成長してオゾン分解除去性能が低下する傾向にある。
【0065】
また、第一の触媒成分の表面および内部に担持された第二の触媒成分の量としては、支持体1L当たり0.05〜5gが好ましい。第二の触媒成分の担持量が上記下限未満になると、第二の触媒成分の効果が十分に発揮されない、すなわち、オゾン分解除去性能が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第二の触媒成分の分散性が低下するため、オゾン分解除去性能がそれ以上向上しない傾向にあるとともに、製造コストが高くなる傾向にある。
【0066】
本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法においては、得られたオゾン分解除去用触媒に洗浄処理を施して、前記触媒層の表面に残留した第一の金属の塩、第二の金属の塩および前記還元剤などの不純物を除去することが好ましい。この洗浄処理の方法は特に限定されないが、例えば、オゾン分解除去用触媒を、前記不純物を溶解可能な溶媒中に分散させた後、20℃から溶媒の常圧沸点の間の温度で0.1〜3時間程度撹拌する方法が好ましい。このような洗浄用の溶媒としては、前記第一の金属の塩、前記第二の金属の塩および前記還元剤などを溶解するものであれば特に制限されないが、第一の金属の塩および第二の金属の塩の溶解度が大きく、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を使用することもできる。さらに、溶媒の温度が高いほど、第一の金属の塩、第二の金属の塩および還元剤などの化学物質の溶媒に対する溶解度が大きくなるため、洗浄する際の溶媒の温度は上記範囲内で高い方が好ましい。用いる攪拌機は特に制限されないが、マグネットスターラー、プロペラ攪拌機、超音波洗浄機などが挙げられる。
【0067】
このようにして製造された本発明のオゾン分解除去用触媒においては、第一の触媒成分と第二の触媒成分を含有する触媒層が、無電解メッキにより形成されているため、ナノオーダーのアンカー効果またはファスナー効果や、金属結合により支持体表面に固着されており、支持体に対する密着性に優れている。また、本発明においては、無機系または有機系バインダーを用いずに支持体表面に前記触媒層を固着しているため、耐水性に優れたオゾン分解除去用触媒を得ることができる。さらに、前記触媒層は、熱伝導率の高い金属により形成され且つ無電解メッキにより形成されたものであるため、その厚みが数μmと非常に薄いことから、熱交換性能(例えば、放熱性能)に優れたオゾン分解除去用触媒を得ることができる。
【0068】
<オゾン分解除去方法>
次に、本発明のオゾン分解除去方法について説明する。本発明のオゾン分解除去方法は、前記本発明のオゾン分解除去用触媒にオゾンを含む気体を接触せしめてオゾンを分解除去する方法である。前記気体としては、オゾンを含む空気などが挙げられるが、本発明のオゾン分解除去用触媒は、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下におけるオゾン分解除去性能に優れており、本発明のオゾン分解除去方法によれば、例えば、オゾン濃度が体積基準で0.01〜10ppm、露点が−17〜50℃である低オゾン濃度の湿潤空気のオゾン浄化を実施することが可能となる。
【0069】
前記オゾン分解除去用触媒とオゾンを含む気体との接触方法としてはバッチ式や、オゾン分解除去用触媒の固定床にオゾンを含む気体を流通させて接触させる方法などが挙げられる。また、操作条件は適宜設定することができるが、接触温度としては、オゾンを効率よく分解除去できる観点から、室温〜200℃が好ましく、50〜200℃が好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
金属塩として塩化パラジウム(II)162mgをイオン交換水1Lに溶解した。この水溶液に、強く撹拌しながら1質量%のステアリルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液10mlを加え、さらに0.15質量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液50mlを加えて、パラジウムコロイド溶液を調製した。このパラジウムコロイド溶液1Lに、支持体としてアルミニウム製ラジエータから切り出した直径30mm×厚さ16mmのテストピースを1時間浸漬した後、引き上げ、水洗および乾燥を施して、パラジウムコロイド粒子を表面に吸着させることにより活性化させたアルミニウム製ラジエータテストピースを得た。
【0072】
次に、水1Lに硫酸銅(II)五水和物7.5g、硫酸ニッケル(II)六水和物0.6g、硫酸銀0.9g、次亜リン酸ナトリウム一水和物25.4g、クエン酸ナトリウム三水和物14.7gおよびホウ酸30.9gを加えて溶解した。この溶液に3.3モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH9に調整したAg−Cu化学メッキ液を調製した。このAg−Cu化学メッキ液に、パラジウムコロイドで活性化した前記アルミニウム製ラジエータテストピースを70℃で60分間浸漬して無電解メッキを行なった後、引き上げ、イオン交換水で十分に水洗した。その後、105℃で1時間乾燥し、第一の触媒成分Cuからなる被膜と、この被膜中に分散した第二の触媒成分AgとによりメッキされたAg−Cu触媒層付きラジエータテストピースを得た。
【0073】
このAg−Cu触媒層付きラジエータテストピースにおけるAgメッキ量およびCuメッキ量を誘導結合プラズマ発光分析(ICP)により測定したところ、アルミニウム製ラジエータテストピース1L当たり、Ag量が0.40g、Cu量が24.3gであった(原子比(Ag/Cu)=0.010)。
【0074】
(比較例1)
本発明の出願人により出願された特願2010−15737の明細書に記載の製造方法に従って、オゾン分解除去用触媒を作製した。すなわち、先ず、硫酸銀を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてpH9のCu化学メッキ液を調製した。Ag−Cu化学メッキ液の代わりに、このCu化学メッキ液を用いた以外は、実施例1と同様にして、パラジウムコロイドで活性化したアルミニウム製ラジエータテストピースに無電解メッキを施し、Cuでメッキされたラジエータテストピースを得た。
【0075】
次に、水20mlに硝酸銀0.023gを加えて溶解し、pH6のAg化学メッキ液を調製した。このAg化学メッキ液に、Cuでメッキされた前記ラジエータテストピースを室温(27℃)で1時間浸漬して置換メッキを行なった後、引き上げ、イオン交換水で十分に水洗した。その後、105℃で1時間乾燥して、第一の触媒成分Cuでメッキされた層と第二の触媒成分Agでメッキされた層の二層構造の触媒層を備えるラジエータテストピースを得た。
【0076】
この二層構造の触媒層付きラジエータテストピースにおけるAgメッキ量およびCuメッキ量を誘導結合プラズマ発光分析(ICP)により測定したところ、アルミニウム製ラジエータテストピース1L当たり、Ag量が0.35g、Cu量が36.5gであった。
【0077】
(比較例2)
硫酸銀を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてpH9のCu化学メッキ液を調製した。Ag−Cu化学メッキ液の代わりに、このCu化学メッキ液を用いた以外は、実施例1と同様にして、パラジウムコロイドで活性化したアルミニウム製ラジエータテストピースに無電解メッキを施し、CuのみでメッキされたCu触媒層付きラジエータテストピースを得た。
【0078】
このCu触媒層付きラジエータテストピースにおけるCuメッキ量を重量法により測定したところ、アルミニウム製ラジエータテストピース1L当たり、Cu量が41.4gであった。
【0079】
(比較例3)
水1Lに硝酸銀4.8g、ヒドラジン一水和物2.4g、1,2−ビス(2−ヒドロキシエチルチオ)エタン29.5gを加えて溶解した。この溶液に0.1N硝酸を滴下してpH10に調整したAg化学メッキ液を調製した。Ag−Cu化学メッキ液の代わりに、このAg化学メッキ液を用い、浴温を45℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、パラジウムコロイドで活性化したアルミニウム製ラジエータテストピースに無電解メッキを施し、AgのみでメッキされたAg触媒層付きラジエータテストピースを得た。
【0080】
このAg触媒層付きラジエータテストピースにおけるAgメッキ量を重量法により測定したところ、アルミニウム製ラジエータテストピース1L当たり、Ag量が1.5gであった。
【0081】
(比較例4)
アルミニウム製ラジエータから、触媒成分が担持されていない未処理のテストピース(直径30mm×厚さ16mm)を切り出した。
【0082】
<オゾン分解除去性能の評価>
実施例1および比較例1〜3で得られた触媒層付きラジエータテストピースのオゾン分解除去用触媒としての性能を以下のように評価した。なお、比較例4で得られた未処理のラジエータテストピースについてもオゾン分解除去性能を評価した。
【0083】
先ず、図2に示すオゾン分解除去性能評価装置の触媒床5(内径30mm)に触媒層付きまたは未処理の前記ラジエータテストピース(直径30mm×厚さ16mm)を設置した。この触媒床5に体積基準で1ppmのオゾンを含む湿潤空気(露点:21.0℃)を30〜100℃の入りガス温度、LV値=1m/sおよびSV値=2.3×10−1の流速で供給し、触媒床通過前後の湿潤空気中のオゾン濃度を測定してオゾン分解除去率を算出した。その結果を図3に示す。
【0084】
図3に示した結果から明らかなように、実施例1で得られたAg−Cu触媒層付きラジエータテストピースは、比較例1〜3で得られた触媒層付きラジエータテストピースのオゾン分解除去用触媒に比べて高いオゾン浄化率を示し、オゾン分解除去用触媒として有用であることが確認された。
【0085】
特に、ラジエータの常用温度である75℃においてオゾン浄化率を比較すると、CuとCuの表面および内部に担持されたAgとを備えるAg−Cu触媒層付きラジエータテストピース(実施例1)は、Cu層とAg層の2層構造の触媒層付きラジエータテストピース(比較例1)、Cu層のみの触媒層付きラジエータテストピース(比較例2)、Ag層のみの触媒層付きラジエータテストピース(比較例3)、および触媒層を有しない未処理のラジエータテストピース(比較例4)に比べてオゾン分解除去性能が非常に優れていることがわかった。
【0086】
また、実施例1で得られたAg−Cu触媒層付きラジエータテストピースは、無電解メッキの回数が1回であるのに対して、比較例1で得られた2層構造の触媒層付きラジエータテストピースは、無電解メッキの回数が2回である。この結果から、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、オゾン分解除去性能に優れた触媒を得ることができるという点のみならず、製造コストの面においても非常に優れた方法であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明によれば、オゾンを分解除去する際に人体や環境により安全であり、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能なオゾン分解除去用触媒を、1回の無電解メッキにより簡便且つ低コストで得ることができる。
【0088】
したがって、本発明にかかる支持体として自動車のラジエータやエバポレータ、ヒータコアなどの熱交換器を用いた場合、この熱交換器は、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下において優れた触媒活性(オゾン分解除去性能)を示すオゾン分解除去用触媒としても有用である。また、その製造方法も、オゾン分解除去性能を有する熱交換器の低コスト化という点において有用である。
【符号の説明】
【0089】
1:水膜、2:第一の触媒成分、3:第二の触媒成分、4:支持体、5:触媒床、6:石英管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の第一の金属、該第一の金属の合金ならびに該第一の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に無電解メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、
Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の第二の金属、該第二の金属の合金ならびに該第二の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面および内部に無電解メッキにより担持された第二の触媒成分と、
を備えることを特徴とするオゾン分解除去用触媒。
【請求項2】
前記第二の触媒成分の含有量が、前記第一の触媒成分に対して、金属原子比(第二の金属/第一の金属)で0.001〜0.2であることを特徴とする請求項1に記載のオゾン分解除去用触媒。
【請求項3】
Cu、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の第一の金属の塩と、Ag、Pd、Ir、Pt、Rh、Ru、OsおよびAuからなる群から選択される少なくとも1種の第二の金属の塩と、前記第二の金属の塩に対して前記第一の金属の塩を選択的に還元する還元剤とを含有する無電解メッキ浴中で、支持体に無電解メッキを施すことを特徴とするオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記無電解メッキ浴中の前記第一の金属の塩と前記第二の金属の塩との濃度比が、金属原子の濃度比(第二の金属/第一の金属)で0.001〜0.4であることを特徴とする請求項3に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記第一の金属がCuであり、前記第二の金属がAgであり、前記還元剤が次亜リン酸塩であることを特徴とする請求項3または4に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項6】
オゾンを含む気体を請求項1または2に記載のオゾン分解除去用触媒に接触せしめて前記オゾンを分解除去することを特徴とするオゾン分解除去方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−196654(P2012−196654A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63985(P2011−63985)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】