説明

オプトエレクトロニクスデバイス

【課題】デバイスの効率を向上させる。
【解決手段】アノード電極10と、カソード電極11と、前記アノード電極10と前記カソード電極11との間に介在された光電気的に活性な領域12とを備えるオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記カソード電極11は、1族、2族または遷移金属の化合物を含有する第1層15と、仕事関数が3.5eV以下の材料を含有する第2層16と、光電気的に活性な前記領域から前記第1層および前記第2層の分だけ離間してかつ仕事関数が3.5eV以上の第3層17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オプトエレクトロニクスデバイスに関し、例えば、光を発光または検出するデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
オプトエレクトロニクスデバイスの具体例として、光を発光させるため、または光を検出するために有機材料を使用するものが挙げられる。発光性有機材料については、国際公開公報第WO90/13148号および米国特許第4,539,507号に開示されており、両者の内容を参照して本明細書の一部とする。この種のデバイスの基本的な構造は、発光性有機層、例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン)(「PPV」)からなる膜が2つの電極間に介在されていることにある。一方の電極(カソード)からは負の電荷担体(電子)が注入され、他方の電極(アノード)からは正の電荷担体(正孔)が注入される。電子および正孔は、有機層内で結合してフォトンを生成する。国際公開公報第WO90/13148号においては、有機発光材料として高分子が用いられている。米国特許第4,539,507号においては、有機発光材料は、(8−ヒドロキシキノリノ)アルミニウム(「Alq3」)のような低分子材料として知られている種類のものである。実際のデバイスでは、通常、一方の電極が透明であり、このため、フォトンがデバイスから離脱することが可能となる。
【0003】
図1に、典型的な有機発光デバイス(「OLED」)の断面構造を示す。この場合、OLEDは、ガラスまたはプラスチックの基板1上に製造されている。この基板1は、アノード2を形成するインジウム−スズ酸化物(「ITO」)のような透明な材料で被覆されている。このような被覆済の基板は、市販品として入手可能である。ITOで被覆された基板は、少なくとも、エレクトロルミネセント有機材料3の薄膜と、通常は金属または合金からなるカソード層4とで被覆されている。
【0004】
この種のデバイスは、携帯用コンピュータや携帯電話等をはじめとするバッテリによって駆動される機器用のディスプレイとしての実用化が期待されている。したがって、このような機器のバッテリ寿命を長期化させるため、発光デバイスの効率を向上させることが特に重要な課題となっている。効率を向上させる方法の一つは、発光材料自体の選定および設計に細心の注意を支払うことである。他の方法は、ディスプレイの物理的な配置構成を最適化することである。第3の方法は、発光層内への電荷の注入条件や発光層内での電荷の再結合条件を向上させることである。
【0005】
発光層内への電荷の注入条件や発光層内での電荷の再結合条件を向上させるために、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(「PEDOT−PSS」)等の有機材料で形成された電荷輸送層を電極の一方または両方と発光層との間に介在させることが知られている。適切な電荷輸送層を選定することによって、発光層への電荷の注入特性を高めることができるとともに電荷担体が逆流することを防止することができ、しかも、電荷の再結合が活発化する。例えば、カルシウムやリチウムなどの仕事関数の低い材料がカソード材料として適している。国際公開公報第WO97/08919号には、マグネシウムとリチウムの合金で形成されたカソードが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上気した技術に関連してなされたもので、効率が向上したデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によれば、アノード電極と、カソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極との間に介在された光電気的に活性な領域とを備えるオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、
前記カソード電極は、
1族、2族または遷移金属の化合物を含有する第1層と、
仕事関数が3.5eV以下の材料を含有する第2層と、
光電気的に活性な前記領域から前記第1層および前記第2層の分だけ離間してかつ仕事関数が3.5eV以上の第3層と、
を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイスが提供される。
【0008】
本発明の第2の側面によれば、アノード電極を成膜する工程と、
前記アノード電極上に光電気的に活性な材料の領域を成膜する工程と、
光電気的に活性な前記材料の領域上に、1族、2族または遷移金属の化合物を含有する層と、仕事関数が3.5eV以下の材料を含有する層とを成膜する工程と、
これらの層上に、仕事関数が3.5eV以上の材料を成膜して第3のカソード層を形成する工程と、
を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイスの製造方法が提供される。
【0009】
この化合物は、1族または2族に属する金属の化合物、特に、リチウム等の1族に属する金属の化合物であることが好ましい。この化合物は、例えば、ハロゲン化合物(例えば、フッ化物)、酸化物、炭化物または窒化物であってもよい。これらの化合物は、電気的に伝導性を有しているものであってもよく、電気的に絶縁性を有しているものであってもよい。化合物は、1族、2族または遷移金属の錯体、特に有機物錯体であってもよい。
【0010】
第1層が光電気的に活性な領域から第2層の分だけ離間していてもよいし、第2層が光電気的に活性な領域から第1層の分だけ離間していてもよい。第1層と第2層のうち、光電気的に活性な領域に近い方の層は、該光電気的に活性な領域に隣接していることが好ましいが、第1層と光電気的に活性な領域との間に他の層(好ましくは導電性を有する層)が一つ以上介在していてもよい。光電気的に活性な領域は、層の形態であることが適切であり、光電気的に活性な材料からなる層であることが好ましい。光電気的に活性な領域は、発光する機能を有するものであってもよく、または、入射光に反応して電場を発生させる機能を有するものであってもよい。デバイスの好適な例としては、エレクトロルミネッセントデバイスが挙げられる。
【0011】
第2層は、Li、Ba、Mg、Ca、Ce、Cs、Eu、Rb、K、Y、Sm、Na、Sm、Sr、TbおよびYbからなる群より選択された金属、またはこれらの金属のうちの二つ以上を含む合金を含有することが好ましい。さらに、これらの金属のうちの一つ以上と、Al、Zn、Si、Sb、Sn、Zn、Mn、Ti、Cu、Co、W、Pb、InまたはAg等の他の金属を含む合金であってもよい。
【0012】
第1層の適切な厚さは、10〜150Åである。第2層の適切な厚さは1000Å未満であり、500Å未満であることが好ましい。第2層の厚さは、40Åまたは100Åを超えていることが適切であるが、150Åまたは200Åを超えていてもよい。第2層の好適な厚さは、40Å〜500Åの範囲内である。
【0013】
第1層における前記化合物の組成割合は、80%を超えることが好ましく、90%または95%を超えることがより好ましく、99%を超えることが最も好ましい。第1層は、実質的に前記化合物からなるものであることが好ましい。デバイスにおける前記化合物の実効的な仕事関数は、3.5eV未満である。
【0014】
前記第2層の前記材料の仕事関数は、3.5eV未満であることが好ましく、3.4eV未満、3.3eV未満、3.2eV未満、3.1eV未満または3.0eV未満であることがより好ましい。第2層(the second first)における前記材料の組成割合は、80%を超えることが好ましく、90%または95%を超えることがより好ましく、99%を超えることが最も好ましい。第2層は、実質的に前記化合物からなるものであることが好ましい。
【0015】
カソードにおいて、光電気的に活性な領域に接触する層の材料は、活性領域の材料に接触させた際に該活性領域の材料をあまり劣化させないものであることが好ましい。カソードにおいて、光電気的に活性な領域に接触しない層の材料は、活性領域の材料に接触させた際に該活性領域の材料を劣化させるようなものであってもよい。第1層の前記化合物は、活性領域の材料に接触させた場合、活性領域の材料の状態と第2層の材料の状態との間の中間状態を形成するものであってもよい。
【0016】
カソードの第3層は、第1層および第2層の材料よりも高い仕事関数を有する材料(高仕事関数材料)を含有する。高仕事関数材料の仕事関数は、3.5eVを超えることが好ましく、4.0eVを超えることがより好ましい。適切な高仕事関数材料は金属である。高仕事関数材料や第3層は、それ自体で10(Ω・cm)−1を超える導電率を有するものであることが好ましい。高仕事関数材料の好適な例としては、Al、Cu、Ag、AuまたはPtが挙げられる。また、これらの金属のうちの二つ以上を含有する合金であってもよく、これらの金属の一つ以上と他の金属とを含有する合金であってもよい。さらに、高仕事関数材料は、スズ酸化物またはインジウム−スズ酸化物であってもよい。第3層の厚さは、1000Å〜10000Åの範囲であることが好ましく、2000Å〜6000Åの範囲であることがより好ましく、約4000Åであることが最も好ましい。
【0017】
第2層は、第1層に隣接していることが好ましい。また、第3層は、第2層に隣接していることが好ましい。カソードの第1層、第2層、さらに、第3層の間に付加的な層を介在させるようにしてもよい。カソードの好適な材料は無機物質であり、最も好適な材料は金属である。
【0018】
電極の一方は、透光性を有することが好ましく、透明であることが最も好ましい。この電極は、アノード電極であることが好ましいが、必ずしもアノード電極である必要はない。なお、透光性を有する電極をアノード電極とする場合、スズ酸化物(TO)、インジウム−スズ酸化物(ITO)または金で該アノード電極を形成することができる。
【0019】
光電気的に活性な領域は、(適切な電場が印加された際に適切に発光する)発光性を有するものであってもよく、(入射光に反応して適切な電場を発生させる)感光性のものであってもよい。光電気的に活性な領域は、発光性材料または感光性材料を含有しているとよい。そのような発光性材料として適切なものは有機材料であり、その中でも高分子材料が好適である。特に好適な発光性材料は、半導体高分子材料および/または共役高分子材料である。また、発光性材料は、例えば、昇華性低分子薄膜または無機発光材料のような別の種類のものであってもよい。さらに、有機発光材料は、一種類または複数種類の別個の有機材料からなるものであってもよい。有機発光材料は、高分子材料であるとよいが、完全にまたは部分的に共役した高分子であることが好ましい。好適な材料としては、以下に挙げる材料を1以上組み合せることによって得られるものが含まれる。ポリ(p−フェニレンビニレン)(「PPV」)、ポリ(2−メトキシ−5(2’−エチル)ヘキシロキシフェニレンビニレン)(「MEH−PPV」)、1以上のPPV誘導体(例えば、ジアルコキシまたはジアルキル誘導体)、ポリフルオレンおよび/またはポリフルオレン部分を有する共重合体、PPVsおよび関連する共重合体、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン−((4−secブチルフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン))(「TFB」)、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン((4−メチルフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン−((4−メチルフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン))(「PFM」)、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン((4−メトキシフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン−((4−メトキシフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン))(「PFMO」)、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)(「F8」)、または(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−3,6−ベンゾチアジアゾール)(「F8BT」)。代替的な材料には、Alq3のような低分子材料が含まれる。
【0020】
デバイスには、一つ以上の層を追加して設けるようにしてもよい。また、活性領域と両電極あるいは一方の電極との間に電荷輸送層を一つ以上介在させるようにしてもよい。この電荷輸送層は、好ましくは一種以上の(more or more)有機材料を用いて形成される。各電荷輸送層は、適切には一種以上の高分子、例えば、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(「PEDOT−PSS」)、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン−(4−イミノ(安息香酸))−1,4−フェニレン−(4−イミノ(安息香酸))−1,4−フェニレン))(「BFA」)、ポリアニリン、およびPPVから構成することができる。
【0021】
本発明の第2の側面によれば、アノード電極を成膜する工程と、
前記アノード電極の上に光電気的に活性な材料の領域を成膜する工程と、
光電気的に活性な前記材料の領域上に、仕事関数が3.5eV以下の材料で第1カソード層を成膜する工程と、
前記第1カソード層上に、前記第1カソード層とは組成が異なりかつ仕事関数が3.5eV以下の別の材料で第2カソード層を成膜する工程と、
を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイスの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】典型的な有機発光デバイス(OLED)の断面構造である。
【図2】有機発光デバイスの断面構造である。図2に示された各層の厚さは、実際の寸法に合致するものではない。
【図3】幾つかの発光デバイスの性能に関するデータである。
【図4】幾つかの発光デバイスの性能に関するデータである。
【図5A】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図5B】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図5C】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図5D】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図5E】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図6A】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図6B】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図6C】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図6D】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図6E】異なる組成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図7】異なる構成のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図8】異なる厚さの層のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【図9】異なる厚さの層のカソードを有する各デバイスに関する実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付の図面を参照し、本発明を例示的に説明する。
【0024】
図2に示すデバイスは、アノード電極10とカソード電極11とを有する。両電極層の間には、発光材料で形成された活性層12が介在されている。また、アノード電極10と発光層12との間には、PEDOTとPSSを含有する電荷輸送層13が介在されている。このデバイスは、ガラス基板14上に形成されている。
【0025】
金属製のカソード11は、3層構造になっている。すなわち、発光層12に隣接してカルシウムからなる第1層15が形成されている。この第1層15上にはリチウムからなる第2層16が形成されており、該第2層上にアルミニウムからなる第3層17が形成されている。後述するように、このような構造とすることによってデバイス効率が大幅に向上することが明らかになった。
【0026】
ここで、図2に示すデバイスの製造方法につき説明する。まず、ガラスシート14上にITOの透明な層を成膜し、アノード電極10を形成する。ガラスシートとしては、例えば、1mmの厚みを有するソーダライムガラスまたはホウケイ酸ガラスのシートを用いることができる。ITO被覆層の厚みは、約100〜約150nmとすることが好適であり、ITOのシート抵抗は、10〜30Ω/スクエアとすることが好適である。このようなITOで被覆されたガラス基板は、市販されている。ガラスを用いる代わりに、パースペックス(Perspex)で形成されたシート14を用いるようにしてもよい。また、ITOを用いる代わりに、金またはTOをアノードとして用いてもよい。
【0027】
次に、ITOアノード上に正孔輸送層または注入層13を成膜する。正孔輸送層は、PEDOTとPSSを含有する溶液から成膜される。この場合、PEDOTとPSSの比はおよそ1:5.5である。好ましい正孔輸送層の厚みは、約500Åである。正孔輸送層は、典型的には、溶液がスピンコートされた後、窒素雰囲気中において約200℃、1時間の熱処理が施されることによって形成される。
【0028】
次に、エレクトロルミネッセント層15を成膜する。この例においては、エレクトロルミネッセント層は、5BTF8中に20%のTFBを含む材料からなる。ここで、5BTF8とは、5%のポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−3,6−ベンゾチアジアゾール)(「F8BT」)がドープされたポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)(「F8」)を意味する。また、TFBは、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン−((4−secブチルフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン))を表す。
【0029】
この混合物は、正孔輸送層上にスピンコートすることによって成膜され、通常は、750Åの厚みを有する。発光層には、PPV等のような他の材料を用いてもよい。また、発光層は、ブレードコーティングやメニスカスコーティング等の他の方法によって成膜してもよく、必要であれば、前駆体の形態で成膜してもよい。
【0030】
次に、カソードを成膜する。カソードを構成する三つの異なる層を、基準圧力が10−8ミリバール未満に減圧された状態で、連続的に行われる各熱蒸着工程において成膜する。なお、連続的に行われる各工程に渡って減圧状態を維持することが好ましい。これにより、各層の界面が汚染されることを防止することができるからである。熱蒸着法を用いない場合、代替的な方法としてはスパッタリングが挙げられるが、この方法は、発光層12上に層15を成膜する場合は好ましいものではない。発光層12が損傷する可能性があるからである。第1の熱蒸着工程において、層15を成膜する。層15はカルシウムからなり、その厚さは約5〜25Å、好ましくは約15Åである。第2の熱蒸着工程において、層16を成膜する。層16は、厚さ約100〜500Åのリチウム層である。第3の熱蒸着工程において、層17を成膜する。層17は、厚さ約4000Åのアルミニウム層である。
【0031】
最後に、層10と層17との間に接点を設ける。アルミニウム層16が保護膜としての機能をある程度果たすが、周囲を補強するために、デバイスをエポキシ樹脂の中に封入することが好ましい。
【0032】
使用の際には、アノードとカソードの間に適切な電圧を印加することに伴って発光層を活性化させることにより、この発光層を発光させる。この光は、透明なアノードおよびガラスカバーシートを通過して視聴者に到達する。
【0033】
本出願人は、このように構成されたデバイスを用いた場合、効率が大幅に向上することを見いだした。図3および図4に、図2に示すデバイスと同様のデバイス(デバイスE〜H)と、比較対象として用いられるデバイス(デバイスA〜DおよびデバイスJ〜P)の性能に関するデータを示す。
【0034】
これらのデバイスに共通する構造は、以下の通りである。
【0035】
・基板:ガラス
・アノード:ITO
・電荷輸送層:PEDOTとPSSの組成比=1:5.5、厚さ500Å
・発光層:5BTF8とTFBの組成比=4:1、厚さ750Å
各デバイスにおけるカソードの構造を以下に示す。
【0036】
デバイスA〜D:
・発光層に隣接する厚さ500Åのカルシウム層と、
・厚さ4000Åのアルミニウムのキャッピング層
デバイスE〜H:
・光層に隣接する厚さ500Åのリチウム層と、
・厚さ1000Åのカルシウム層と、
・厚さ4000Åのアルミニウムのキャッピング層
デバイスJ〜P:
・発光層に隣接する厚さ25Åのリチウム層と、
・厚さ4000Åのアルミニウムのキャッピング層
図3に、各デバイスについて測定された効率のピーク値を単位Lm/WおよびCd/Aで示す。
【0037】
また、図4に、輝度0.01、100、および1000Cd/mでの各デバイスの駆動電圧を示す。図3から、デバイスE〜Hの効率のピーク値が他のデバイスと比較して著しく向上していることが明らかである。一方、図4からは、デバイスE〜Hの駆動電圧が大幅に上昇することはなく、むしろ、デバイスJ〜Pと比較して大幅に低くなっていることが分かる。
【0038】
図5〜図9に、同様のデバイスに関する更なるデータを示す。まず、図5に、ITOのアノードと、PEDOTとPSSを含有する厚さ80nmの層と、厚さ63nmの青色発光材料層(グローブボックス中でスピンコートしたもの)と、カソードとを有するデバイスの実験データを示す。前記カソード層は、発光材料層に隣接した第1層と、Caからなる厚さ10nmの第2層と、Alからなる最上層とを有する。なお、第1層の組成は、各プロットに示されている。次に、図6に、ITOのアノードと、PEDOTとPSSを含有する厚さ80nmの層と、厚さ70nmの緑色発光材料層(F8、TF8およびF8BTを含有し、グローブボックス中でスピンコートしたもの)と、カソードとを有するデバイスの実験データを示す。この場合、カソード層は、発光材料層に隣接した第1層と、Caからなる厚さ10nmの第2層と、Alからなる最上層とを有する。第1層の組成は、各プロットに示されている。実験データは、エレクトロルミネッセンススペクトル(ELスペクトル)と、電圧に対する発光効率と、電圧に対する電流密度と、電圧に対する輝度と、時間に対する輝度である。効率に関するデータを併せて以下に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
青色発光体のELスペクトルが、使用されたカソード材料に依存することはあまりなく、高電流密度時では、通常の会合体の特徴(aggregate feature)を示した。緑色スペクトルは、使用されたカソード材料には比較的依存していなかった。デバイス性能は、第1カソード層の金属成分に主に依存しているようである。Mg基のデバイスは、両発光性高分子において最も性能が低く、比較的に低い効率や電流の値を示した。Cs基のデバイスの性能は、中間的であった。LiFを用いたデバイスは、最も高い性能を示した。他のLiハロゲン化合物を用いたデバイスは、青色の発光性能が比較的低く、緑色については、様々な効率の値を示した。
【0041】
図7に、同様のデバイスの効率に関するデータを示す。これらのデバイスは、ITOのアノードと、PEDOTとPSSを含有する層と、青色、緑色または赤色の光を発光する発光層(各プロットに示す)と、以下の電極(a)〜(c)を有する。
【0042】
電極(a)は、発光体に隣接するCa層と、上側Al層とからなる。
【0043】
電極(b)は、発光体に隣接する厚さ6nmのLiF層と、厚さ10nmのCa層と、上側Al層とからなる。
【0044】
電極(c)は、発光体に隣接する厚さ5nmのCa層と、厚さ6nmのLiF層と、上側Al層とからなる。
【0045】
図8に、Ca層/LiF層/Al層の構成を有し、青色、緑色および赤色の光を発光する同様のデバイスにおいて、LiF層の厚さを変更した場合の効率に関するデータを最大値Lm/Wのプロットとして示す。また、図9に、LiF層/Ca層/Al層の構成を有するデバイスにおいて、LiF層の厚さを変更した場合の効率に関するデータを最大値Lm/Wのプロットとして示す。
【0046】
さらに、本出願人は、このようなデバイスにおいて、Ca層の代わりにYbまたはBaを含有する同様な層を用いることによっても有益な結果が得られることを見いだした。Sm、YおよびMg等の他の材料を用いても、同様の結果が得られると予測される。
【0047】
上述したデバイスの大半は、1族または2族に属する金属のハロゲン化合物、例えば、LiF等をカソードに含有する。本出願人は、1族や2族に属する金属の他の化合物や錯体、例えば、LiO等についても調査し、この場合においても有益な結果が得られることを見いだした。YF(上記参照)等の遷移金属ハロゲン化合物、錯体についても、有益な結果が同様に得られるであろう。1族、2族に属する金属または遷移金属の有機錯体についても、有益な結果が同様に得られるであろう。これらの材料には、バリア効果を与えることで機能する可能性のある材料(例えばLiO)、または、この状況下での実効的に低い仕事関数に起因する別の効果によって機能する可能性のある材料(例えばLiF)が含まれる。
【0048】
発光層12に隣接するカソード層15の厚さが充分に薄ければ、カソードから発光層への電荷の注入に対しては、上側のカソード層16の特性が影響を与えるものと考えられる。層15および層16の材料は、これらの材料の特性の組み合わせによりデバイス性能が向上するように選定することができる。この性能向上の機構として、以下の(a)および(b)が考えられるであろう。
【0049】
(a)デバイスの有機層(例えば層15)と層16の材料との間の望ましくない相互作用を層15によって回避する一方で、層16の材料の注入特性を少なくともある程度維持する機構。
【0050】
(b)層16からの電子注入を(例えば、層15のような有機層とともに)促進させるような中間状態を層15によって形成する機構。
【0051】
層15は、効果を生み出すために充分に薄い必要があるが、再現性を伴うように均一に(過度の欠陥が生じないように)成膜しなければならない。機構(a)を機能させるために、層16を、層15よりも反応性が高くかつ仕事関数が低い材料で形成させることができる。図7および図8のCa/LiF/Alの構成のデバイスのように、適切な材料(例えばLiF)の層を発光材料から若干離間させて設けた場合、性能を大幅に向上させることができる。一般的には、機構として、表面に双極子が形成される機構、仕事関数が改善される機構、化学的に安定な化合物の電荷輸送が発生する機構、さらに、カソードの化合物層の解離によってドープされた注入層が形成される機構が考えられる。
【0052】
着目すべきは、上述したようなデバイスを実験によって評価する際に、カソード(例えばAl)の上側層が重要な保護効果を生み出すことである。Alを用いる代わりに、AgまたはITO等を好適な材料として用いることもできる。これらの材料を用いた場合、層が透明になるので、カソード全体としても、透明になるかまたは少なくとも半透明になるという利点がある。したがって、カソードを通して光を発光させるように意図されたデバイスに適している。
【0053】
上述したようなデバイスによって、複数の画素を有するディスプレイデバイスの単一の画素を形成してもよい。
【0054】
上述したデバイスに対し、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の改変を施すことができる。例えば、キャッピング層17を省略してもよいし、このキャッピング層17を他の材料で形成してもよい。また、カソードまたはデバイスの他の部分に追加の層を設けるようにしてもよい。さらに、電荷輸送層を発光層と(一方または両方の)電極との間に一つ以上追加して介在させるようにしてもよい。この場合、各電極と発光層との間の電荷輸送が促進され、また、逆方向への電荷輸送が抑制されるので好適である。そして、発光材料には、「有機エレクトロルミネッセントダイオード(Organic Electroluminescent Diodes)」C.W. Tang and S.A. VanSlyke, Appl. Phys. Lett. 51, 913-915 (1987)に開示されたような昇華性分子膜を用いてもよい。電極の配置を逆にして、カソードをディスプレイの表側(視聴者に近い側)に配置し、アノードを裏面に配置するようにしてもよい。
【0055】
同じ原理を、光を発生させるデバイスだけでなく、光を検出するためのデバイスに適用することもできる。必要であれば、光に反応して電場を発生させる材料を発光材料に代替して用いることによって、上述したように各電極の各特性を向上させることができ、結局、電圧検出性能や効率を向上させることができる。
【0056】
本発明は、特許請求の範囲の記載に制限されることなく、本明細書中に暗示的または明示的に開示された発明の特徴(特徴の組み合わせ)、さらに、本開示内容を一般化したものを包含するものである。上述した開示内容に照らし、当業者であれば、本発明の範囲内で種々の改変が可能なことは明らかであろう。
【符号の説明】
【0057】
10…アノード電極 11…カソード電極
12…発光層 14…ガラス基板
15…第1層 16…第2層
17…第3層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極と、カソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極との間に介在された光電気的に活性な領域とを備えるオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、
前記カソード電極は、
1族、2族または遷移金属の化合物を含有する第1層と、
仕事関数が3.5eV以下の材料を含有する第2層と、
光電気的に活性な前記領域から前記第1層および前記第2層の分だけ離間してかつ仕事関数が3.5eV以上の第3層と、
を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項2】
請求項1記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記化合物が1族または2族に属する金属の化合物であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項3】
請求項1記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記化合物が1族に属する金属の化合物であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記化合物がリチウムの化合物であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記化合物がハロゲン化合物であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記化合物がフッ化物であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第1層が光電気的に活性な前記領域から前記第2層の分だけ離間していることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第2層が光電気的に活性な前記領域から前記第1層の分だけ離間していることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第1層および前記第2層のいずれか一方が光電気的に活性な前記層に隣接していることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第2層がLi、Ba、Mg、Ca、Ce、Cs、Eu、Rb、K、Y、Sm、Na、Sm、Sr、Tb、およびYbからなる群より選択された金属、またはこれらの金属のうちの二つ以上を含む合金を含有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第2層が前記第1層よりも厚いことを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第1層の厚さが10〜150Åであることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第1層は、仕事関数が3.5eV以下の材料を含有し、当該材料は、前記第2層の仕事関数が3.5eV以下の材料と比較して高い仕事関数を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項14】
請求項1〜13記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記第3層の厚さが1000Åを超えることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、仕事関数が3.5eV以上の前記材料が10(Ω・cm)−1を超える導電率を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、仕事関数が3.5eV以上の前記材料がアルミニウム、金またはインジウムスズ酸化物であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記カソードが透明であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、光電気的に活性な前記領域が発光性を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、光電気的に活性な前記領域が発光性有機材料を含有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項20】
請求項19記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記発光性有機材料が高分子材料であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項21】
請求項20記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記発光性有機材料が共役高分子材料であることを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれか1項に記載のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、前記発光性有機材料と前記アノード電極または前記カソード電極の一方との間に電荷輸送層を介在したことを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項23】
アノード電極を成膜する工程と、
前記アノード電極上に光電気的に活性な材料の領域を成膜する工程と、
光電気的に活性な前記材料の領域上に、1族、2族または遷移金属の化合物を含有する層と、仕事関数が3.5eV以下の材料を含有する層とを成膜する工程と、
これらの層上に、仕事関数が3.5eV以上の材料を成膜して第3のカソード層を形成する工程と、
を有することを特徴とするオプトエレクトロニクスデバイスの製造方法。
【請求項24】
添付の図面のうち図2〜図9を参照して実質的に本明細書中に開示されたオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項25】
添付の図面のうち図2〜図9を参照して実質的に本明細書中に開示されたオプトエレクトロニクスデバイスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図5D】
image rotate

【図5E】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図6E】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−59709(P2012−59709A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248887(P2011−248887)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【分割の表示】特願2005−109187(P2005−109187)の分割
【原出願日】平成12年2月14日(2000.2.14)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】