説明

オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上での直接RT−PCR

【課題】逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の全プロセスを、ポリプロピレンなどで作ったオリゴヌクレオチド固定化マイクロプレートを用いて簡略化する。
【解決手段】マイクロプレートにはオリゴヌクレオチドが確実に固定化され、それをPCRの熱サイクルに供することができる。RT-PCRは好ましくは固相で行う。mRNAの捕捉およびRT-PCRを同一プレートで行うことができる。マイクロプレート上に捕捉されたmRNAから合成されたcDNAは2回以上使用することができる。さらに、マイクロプレートと組み合わせて、細胞溶解物の調製のためにフィルタープレートを用いて、標的細胞をこのフィルタープレート上に位置させ、溶解用緩衝液をフィルター上の細胞層を通過させて、細胞溶解物をウェルとウェルとの連通により直接にマイクロプレートに移すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチドを固定化したPCRマイクロプレート上での直接RT−PCRに関する。
【背景技術】
【0002】
mRNAからのcDNA合成とそれに続くポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とからなる(逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応、RT-PCR)は、従来のノーザンプロットと比較しての優れた感度および簡単な処理操作から、細胞および組織中の特異的mRNAの遺伝子発現を分析するための一般的技術となっている(非特許文献1参照)。さらに、最近利用可能になった組み換えTth熱安定性ポリメラーゼは逆転写酵素およびDNAポリメラーゼの両方の活性を有することから、両方のステップを単一の試験管中で緩衝液系を変えることなく同時に行うことができる(非特許文献2参照)。しかし、この場合も細胞および組織からの全RNAまたはmRNAの精製がやはり必要であることから、時間のかかる困難な処理操作ステップがさらに要求される。
【0003】
mRNAを、オリゴ(dT)固定化ポリスチレン(PS)マイクロプレート(GENEPLATE(登録商標)、日立化成工業(株)およびAGCT、Irvine, CA) (非特許文献3−5参照)によって捕捉して、次いでプレート上での一本鎖および二本鎖cDNA合成を行うこと(非特許文献6参照)に成功したことが報告された。二本鎖cDNAがGENEPLATE(登録商標)のPSマイクロプレート上に形成されると、センス鎖cDNAを除去して、複数のPCR実験のための鋳型として用いることができる (非特許文献7参照)。残念なことに、PCRサイクル中の変性ステップにおける熱不安定性のために、PCRはこのPSマイクロプレート上で行うことができない。 熱安定性ポリプロピレン(PP)の管およびマイクロプレートがPCRのための本来の容器であるが、その表面が化学的に極めて安定であるために、PP表面にオリゴヌクレオチドを固定化することは難しい。しかしオリゴ(dT)-固定化ポリプロピレンプレートが最近入手可能になった。
【0004】
上記したように、RT-PCRは、診断的分子病理学を含む種々の分野で極めて有用な技術である(非特許文献8参照)。しかし、RT-PCRの分析には、細胞収集、RNA/mRNAの精製、cDNA合成、PCRおよびPCR産物の定量などの多くのステップが関与する。とくに、完全なRNA分子の精製はRT-PCRの成功を決定する第一のステップであり、これには細胞および組織中の内因性または外来性リボヌクレアーゼ(RNase)を排除または不活性化するための作業集約的な多数の操作が要求される。最近のPCR技術によって、研究者は、増幅されたPCR産物のインラインまたはオフラインの種々の確認法を用いてPCR産物の量を連続的にモニターすることができる(非特許文献9、10参照)が、簡便なRNA調製システムの欠如がRT-PCRの完全自動化を妨げている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kawasaki ES, Wang AM, "Detection of gene expression: Erlich, EA. PCR technology", New York: Stockton, 1989; p.89-97
【非特許文献2】Myers TW, Gelfand DH, "Reverse transcription and DNA amplification by a Thermus thermophilus DNA polymerase", Biochemistry 1991:30:p.7661-666
【非特許文献3】Mitsuhashi M, et al., "Gene manipulation on plastic plates", Nature 1992:357:p.519-520
【非特許文献4】Miura Y, et al., "Fluorometric determination of total mRNA with oligo(dT) immobilized on microtiter plates", Clin Chem 1996:42:p.1758-1764
【非特許文献5】Miura Y, et al., "Rapid cytocidal and cytostatic chemosensitivity test by measuring total amount of mRNA", Cancer Lett 1997:116:p.139-144
【非特許文献6】Tominaga K, et al., "Colorimetric ELISA measurement of specific mRNA on immobilized-oligonucleotide-coated microtiter plates by reverse transcription with biotinylated mononucleotides", Clin Chem 1996:42:p.1750-1757
【非特許文献7】Ishikawa T, et al., "Construction of cDNA bank from biopsy specimens for multiple gene analysis of cancer", Clin Chem 1997:43:p.764-770
【非特許文献8】Bortolin S, et al., "Quantitative RT-PCR combined with time-resolved fluorometry for determination of BCR-ABL mRNA", Clin Chem 1996:42:p.1924-1929
【非特許文献9】Morris T, et al., "Rapid reverse transcription-PCR detection of hepatitis C virus RNA in serum by using the TaqMan fluorogenic detection system", J Clin Microbiol 1996:34:p2933-2936
【非特許文献10】Wittwer CT, et al., "The LightCycler: A microvolume multisample fluorimeter with rapid temperature control", BioTechniques 1997:22:p.171-181
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
遺伝子発現分析の全プロセスを簡略化するために、オリゴヌクレオチドを確実に固定化してPCRの熱サイクルに供することができるオリゴヌクレオチド固定化マイクロプレート(PCRマイクロプレート)を用いることによって、mRNAの捕捉と逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を同一プレート上で行うことができる。従来、マイクロプレートは不十分な熱安定性のためにPCRに使用されたことはなく、したがって、RT-PCRプロセスには長時間と集約的処理作業が要求された。ポリプロピレン、ポリオレフィンまたはポリカーボネートなどで作られたPCRマイクロプレートに使用においては、それらの蛍光特性のために、固定化したオリゴヌクレオチド、ハイブリダイズしたmRNAおよび合成したcDNAは、核酸染色を用いる蛍光測定によって、または蛍光または化学ルミネセンスを発生させることによって酵素的に定量される。PCRマイクロプレートはまた、RNAまたはmRNAを精製することなく粗細胞溶解物からmRNAを捕捉することができる。
【0007】
ハイブリダイズしたmRNAは、rTthポリメラーゼを用いるワンステップRT-PCRまたは逆転写とそれに続くPCRを用いるツーステップRT-PCRに有効に用いることができるが、ツーステップRT-PCRはワンステップRT-PCRよりも驚異的に高い感度を示す。これは、ワンステップRT-PCRが、最初にPCRマイクロプレートからmRNAを解離させることによってより効率的な液相反応において行われるのに対して、ツーステップRT-PCRは非効率的な固相逆転写反応を要求することから、驚くべきことである。
【0008】
加えて、PCRマイクロプレート上の固定化オリゴヌクレオチドによって捕捉されたmRNAから合成されたcDNAは2回以上用いることができることから、適切なプライマーを使用することによってcDNAの異なるまたは同一の部分が複数回増幅できる。複数のPCRをPCRマイクロプレート上のcDNAから合成するこのマルチプル-PCRシステムは、将来の自動化への適用の可能性とともに、基礎研究、診断、および薬物スクリーニングにおいて有用である。
【0009】
さらに、従来、細胞溶解物は激しい均質化プロセスによって調製されるが、これは長時間および集約的処理作業を要求するだけでなく、回収mRNA量を変動させる。本発明において、PCRマイクロプレートと組み合わせて、標的細胞をフィルター面にむらなく配してから細胞を乱すことなく溶解用緩衝液をフィルター上の細胞層を通過させることによって、細胞溶解物の調製を抜本的に簡略化し、回収サイトゾル(cytosolic)RNAの収量を有意に安定化することが可能である。マイクロプレートとフィルタープレートが直接RT-PCR用のキットとして供給できれば、極めて便利である。上記において、溶解用緩衝液、洗浄用緩衝液、RT-PCR/PCRのための試薬、およびPBSは市販されているか、容易に調製することができるので、キットに必ずしも含める必要はない。しかし、便宜のために、フィルタープレート上の細胞層を通した時に、細胞に存在するサイトゾルmRNAを放出させるための溶解用緩衝液はキットに含ませてもよい。上記において、溶解用緩衝液は、細胞膜を破壊するが核を無傷に維持するマイルド(mild)な界面活性剤、および、RNase活性を阻害するかRNase活性を不活化する試薬からなり、ハイブリダイゼーションのためのpHおよび塩濃度を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記の特徴によって、PCRマイクロプレートおよびフィルタープレートは、細胞溶解物の調製から高い信頼度での特異的PCR産物の測定まで、RT-PCRのプロセス全体を抜本的にかつ驚異的に簡略化することができる。このように、この技術は、将来の自動化への適用の可能性とともに、基礎研究、診断、および薬物スクリーニングを含む種々の分子分析において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】オリゴヌクレオチド固定化ポリスチレン/ポリオレフィンマイクロプレート上に固定化されたオリゴ(dT)の量を示すグラフであって、使用したオリゴヌクレオチド(10ピコモル)の約69%がマイクロプレートの表面に固定化されたことを示す。
【図2】Aは、PCRマイクロプレートのmRNA特異性を示すグラフであって、YOYO-1蛍光強度は、mRNA(●)に対しての特異性がDNA(■)、rRNA(△)およびtRNA(▽)を上回って高いことを示す。Bは、PCRマイクロプレートのmRNA特異性を示すグラフであって、アルカリホスファターゼ基質(ATTOPHOSTM)は、mRNA(●)に対しての特異性がDNA(■)、rRNA(△)およびtRNA(▽)に対するものを上回って高いことを示す。
【図3】PCRマイクロプレート上のmRNAの可逆的ハイブリダイゼーションを示すグラフであって、YOYO-1蛍光強度は、mRNAハイブリダイゼーションの充分な可逆性を示す。
【図4】Aは、粗細胞溶解物における捕捉mRNAからの推定サイズ168塩基対のRT-PCR産物を示す、アガロースゲル電気泳動の結果を示す。Bは、プレートに混入したゲノムDNAからの有意でない偽PCRを示すアガロースゲル電気泳動の結果を示し、バンドは沸騰DEPC (ピロ炭酸ジエチル)水で洗浄した後で消失したが、55℃のDEPC水で洗浄した後では消失しなかった。Cは、逆転写を伴ってまたは伴わずに行ったPCRを示す、アガロースゲル電気泳動の結果を示す。
【図5】Aは、細胞懸濁物の異なる稀釈度においてYOYO-1によって測定されたハイブリダイズされたmRNAを示すグラフである。上挿入図は、rTthポリメラーゼを用いるワンステップRT-PCRによって測定したハイブリダイズされたmRNAを示すアガロースゲル電気泳動の結果を示す。下挿入図は、rTthポリメラーゼを用いるツーステップRT-PCRによって測定したハイブリダイズされたmRNAを示すアガロースゲル電気泳動の結果を示す。Bは、細胞懸濁物の異なる稀釈度においてATTOPHOSTM蛍光によって測定されたハイブリダイズされたmRNAを示すグラフである。
【図6】Aは、YOYO-1蛍光によって測定された、固定化オリゴヌクレオチドおよびハイブリダイズされたウサギグロビンmRNAの量のウェル間の変動を示すグラフである。Bは、ATTOPHOSTM蛍光によって測定された、捕捉されたウサギグロビンmRNAからの合成cDNAの量のウェル間の変動を示すグラフである。
【図7】PCR産物の量のウェル間の変動、内分析および間分析(上および下挿入図)を示すグラフである。
【図8】PCRマイクロプレートの保存安定性を示すグラフであって、cDNA合成の量は、ATTOPHOSTM蛍光によって測定された。
【図9】mRNAの測定値、および種々の培養細胞からのβアクチンのPCR増幅のアガロースゲル電気泳動の結果を示すグラフであって、培養細胞はオリゴ(dT)固定化ポリプロピレンマイクロプレート上でmRNAを捕捉するためにグラスファイバーフィルター上での溶解に供した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
PCRマイクロプレート
本発明においては、オリゴヌクレオチドを確実に固定してPCRの熱サイクルに供することができるオリゴヌクレオチド固定化マイクロプレート(PCRマイクロプレート)を用い、mRNAの捕捉と逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を同一プレート上で行うことができる。PCRマイクロプレートはまた、RNAまたはmRNAを精製することなくmRNAを粗細胞溶解物から捕捉することができる。マイクロプレートを用いるPCRを可能にしたものは、その上にオリゴヌクレオチドを確実に固定化できてPCR熱サイクルに供することができるPCRマイクロプレートの使用である。例えば、GENEPLATE(登録商標)(AGCT、Irvine, CA)のような従来のオリゴヌクレオチド固定化ポリスチレンマイクロプレートは、ポリスチレンの熱安定性が低いためにPCRに使用できない。本発明において使用可能なPCRマイクロプレートには、ポリプロピレン、ポリオレフィン、またはポリカーボネートなどで作られたオリゴヌクレオチド固定化マイクロプレート、およびPCRの熱サイクルにおいて用い得る熱耐性ポリマーまたは樹脂で作られた他のマイクロプレートが含まれるが、これらに限定はされない。上記のうち、ポリオレフィンマイクロプレートは、オリゴヌクレオチドの確実な固定化を可能にする表面特性のために、好ましいと考えられる。マイクロプレート上に固定化されるオリゴヌクレオチドには、オリゴ(dT)およびmRNAまたは標的RNAに特異的な他のオリゴヌクレオチドが含まれるが、これらに限定はされない。適切な配列は、HYBsimulatorTMソフトウェア(AGCT、Irvine, CA)を用いて、GenBank霊長類データベースに対するハイブリダイゼーションシミュレーションを用いて同定することができる(Mitsuhashi M, et al., "Oligonucleotide probe design - a new approach", Nature 1994:367:759-61, Hyndman D, et al., "Software to determine optimal oligonucleotide sequences based on hybridization simulation data", BioTechniques 1996:20:1090-7)。また、米国特許第5,556,749号(1996年9月17日、Mitsuhashi M, et al.)の「オリゴプローブ・デザインステーション:最適DNAプローブのデザインのためのコンピュータ化した方法(Oigo probe designstation: a computerized method for designing optimal DNA probes)」を参照されたい。固定化オリゴヌクレオチドの量を、ウェル当たり10〜100ピコモルまでに高くすることができる(通常10〜30ピコモル)。
【0013】
ポリプロピレンの安定な表面特性のために、オリゴヌクレオチドはその上に容易に固定化することができない。しかし、最近、いくつかの製造業者が分子生物学的適用のためのPCRマイクロプレートを生産し、これによって研究者は高処理量(high throughput)PCRを行うことができるようになった。加えて、ヒタチ・ケミカル・リサーチ・センター(Hitachi Chemical Research Center、Irvine, CA)のような会社は、任意の市販のPCRプレートを、オリゴヌクレオチドをその上に固定化できるように前処理することができる。したがって、このオリゴヌクレオチド固定化ポリプロピレン(またはポリオレフィンまたはポリカーボネート)プレートは、最近入手可能になっている (AGCT、Irvine, CA)。
【0014】
PCRにおける94℃の熱変性ステップに適さないPSプレートまたは管と比較して、PCRマイクロプレートはPCRに有利に使用することができる。分子生物学的実験において広く使用されるPCRマイクロチューブのように、PCRマイクロプレートは、タンパク質およびDNA/RNAの非特異的吸収容量が低く、有機化学物質(すなわち、フェノール/クロロホルム)に対する耐性を有する。これらの特徴は、オリゴヌクレオチドがその上に固定化されても維持され得る。
【0015】
オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの他の利点は、その特異性がrRNA、tRNAまたはDNAになくmRNAに厳しく限定されることであり、この特異性によって、セルロースやビーズが検出可能量のrRNA、tRNAおよびDNAをしばしば含むのに対して、混入したゲノムDNAからの偽PCR増幅の潜在的問題が排除される。さらに、ウェル間およびプレート間の変動が少なく、安定性に優れ、種々の品質管理プロトコールが利用できることは、この技術を極めて卓越したものにしている。
【0016】
オリゴヌクレオチド固定化ポリスチレンマイクロプレートは、多様に適用できることが示されてきたが、これには全mRNAおよび特異的mRNAの捕捉、ss-cDNAおよびds-cDNA合成、特異的mRNAの定量、およびセンスおよびアンチセンスmRNA合成が含まれる。オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートはまた、PSマイクロプレートと同じ目的のためにも使用できる。米国特許第5,656,462号(1997年8月12日発行、Keller C, et al.)の「ポリヌクレオチド固定化サポートの合成法(Method for synthesizing polynucleotide immobilized support)」を参照されたい。
【0017】
PCRマイクロプレートの興味ある性質は、その蛍光特性である。PSプレートと比較してPCRプレートは曇っていて完全には透明ではないが、YOYOTM-1 または同等の染料の蛍光測定はPSマイクロプレートよりもPCRマイクロプレートにおける方が良い結果を示した(Ogura M, Mitsuhashi M, "Screening method for a large quantity of polymerase chain reaction products by measuring YOYO-1 fluorescence on 96-well polypropylene plates", Anal Biochem 1994:218:458-9)。さらに、ここに参考文献として添付した米国特許第5,545,528号(1996年8月13日発行、Mitsuhashi M, et al.)の「ポリプロピレンプレートにおける遺伝子増幅産物の迅速スクリーニング法(Rapid screening method of gene amplification products in polypropylene plates)」も参照されたい。これによって、種々の分析が極めて容易に行うことができる。例えば、双方の固定化オリゴヌクレオチド、すなわち捕捉されたmRNAおよび合成されたcDNAの量を、放射性物質を使用せずに蛍光測定によって測定することができる。
【0018】
蛍光の検出
ポリプロピレン、ポリオレフィンまたはポリカーボネートプレートの蛍光特性のために、固定化オリゴヌクレオチド、ハイブリダイズされたmRNA、合成されたcDNAおよびPCR産物が、核酸染色を用いて蛍光測定によってまたはATTOPHOSTMまたはLUMIPHOSTMなどの蛍光または化学ルミネセンスを発生させることによって酵素的に定量される。核酸染料には、1,1'−(4,4,7,7−テトラメチル−4,7−ジアザウンデカメチレン)−ビス−4−[3−メチル−2,3−ジヒドロ−(ベンゾ−1,3−オキサゾル)−2−メチリデン]−キノリウメトライオダイド(YOYOTM-1)、1,1'−(4,4,7,7−テトラメチル−4,7−ジアザウンデカメチレン)−ビス−4−[3−メチル−2,3−ジヒドロ−(ベンゾ−1,3−チアゾル)−2−メチリデン]−キノリウメトライオダイド (TOTOTM-1)、1,1'−(4,4,7,7−テトラメチル−4,7−ジアザウンデカメチレン)−ビス−4−[3−メチル−2,3−ジヒドロ−(ベンゾ−1,3−チアゾール)−2−プロペニリデン]−キノリウメトライオダイド (TOTOTM-3)、SYBR(登録商標)-Green I、 IIおよび PicoGreen(登録商標)からなる群から選択される蛍光染料が含まれるが、これらには限定されない。さらに、上記の米国特許第5,545,528号を参照されたい。
【0019】
このように、このオリゴヌクレオチド固定化ポリプロピレン、ポリオレフィンまたはポリカーボネートプレートは最近入手可能となっている。
【0020】
以下の実験において、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートとして、オリゴ (dT)-固定化ポリプロピレン/ポリオレフィンマイクロプレートのGENEPLATE(登録商標)-PP(ヒタチ・ケミカル・リサーチ・センター(Hitachi Chemical Research Center)、Irvine, CA) を用いた。しかし、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートは上記には限定されず、オリゴヌクレオチドが確実に固定化され、かつPCRの熱サイクルに供することができるオリゴヌクレオチド固定化マイクロプレートであればいかなるものでもよい。
【0021】
ツーステップRT-PCRまたは固相RT-PCR
RT-PCRを行うには大きく分けて二つの方法がある。すなわち、ワンステップ RT-PCRとツーステップRT-PCRである。ワンステップ RT-PCRにおいては、rTthポリメラーゼ、または逆転写酵素とDNAポリメラーゼとの最適組み合わせ(TitanTM、ワンチューブRT-PCRキット、Boehringer Mannheim, Indianapolis, IN) を用いて、RT-PCRをオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上で緩衝液を交換することなく行うことができる。他のワンステップRT-PCRとしては、mRNAと固定化したオリゴ(dT)とのハイブリダイゼーションによってmRNAを捕捉した後、mRNAをRT-PCR緩衝液に移して、RT-PCRを行うことができる。これに対して、ツーステップ RT-PCRにおいては、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上のハイブリダイゼーションの後、捕捉されたmRNAを同一マイクロプレート上でcDNAに逆転写して、反応物を吸引によって除去してから、熱安定性のDNAポリメラーゼ、例えばrTthやTaqポリメラーゼを適当な緩衝液とともに用いることによってPCRを行うことができる。上記において、PCRは、サーマルサイクラー中で、ハイブリダイゼーションで用いたのと同一のオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートを用いて、例えば、変性(94℃、1分間)、アニーリング(60℃、1分間)、続いて伸長(72℃、1分間)を60サイクル繰り返して行った。 PCR効率の点から見るとワンステップすなわち液相RT-PCRがツーステップRT-PCRよりも優れていることが当業者には予期されると考えられる。しかし、驚いたことに、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上で合成されたcDNAからPCR(ツーステップRT-PCR)を行うと、RT-PCRは従来のワンステップRT-PCRよりも感度が約10,000倍向上し、100個の細胞しか含まない細胞溶解物からも転写を検出することができる。ワンステップRT-PCRがmRNAをオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートから最初に解離させることによってより効率的な液相反応において行われるのに対して、ツーステップRT-PCRは非効率的な固相逆転写反応を要求することから、これは極めて意外である。一つの説明として次のようなことがある。すなわち、逆転写中にプライマーがダイマー形成のために使用されると考えられる。ワンステップPCRではツーステップRT-PCRよりもより多くのプライマーダイマーが形成される。ツーステップRT-PCRではワンステップRT-PCRよりもハイブリダイゼーション効率は低いが、最初の逆転写相中に形成されたプライマーダイマーはツーステップRT-PCRにおけるPCR全体に存在し、これによってRT-PCR感度が著しく高まる。
【0022】
固定化されたcDNAによる再増幅 (マルチプルPCRシステム)
オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上の固定化オリゴヌクレオチドによって捕捉されたmRNAから合成されるcDNAは、2回以上使用することができる。すなわち、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上のcDNAは極めて安定である。この興味ある性質は、適切なプライマーを用いることによって、係るcDNAの異なるまたは同一部分を多数回増幅するために同じ固定化cDNAによる再増幅を可能にする。オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上のcDNAから複数のPCRを合成するこのマルチプルPCRシステムは、将来の自動化への適用の可能性とともに、基礎研究、診断、および薬物スクリーニングにおいて有用である。
【0023】
高処理量RT-PCRシステム
従来、細胞溶解物は、溶解用緩衝液を用いて細胞を破壊してサイトゾルmRNAを放出させてから、遠心分離することによって調製される。上清をハイブリダイゼーションに用いる。この激しい均質化プロセスは、長時間と集約的作業処理を要求するばかりではなく、回収mRNA量を変動させる。細胞を機械的に均質化することなく、細胞をフィルター膜にむらなく配してから溶解用緩衝液をフィルター膜上の細胞層を通過させることによって、細胞溶解物の調製を抜本的に簡略化し、かつ回収サイトゾルRNAの収量を有意に安定化することが可能である。
【0024】
すなわち、本発明においては、培養プレート上の細胞から出発するRT-PCRプロセス全体を簡略化するために、細胞をフィルタープレートに移して、減圧吸引、陽圧または遠心分離によってその膜に捕捉する。次いで、フィルタープレートを多数のウェルを有するオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの上部に設置して、各ウェルに溶解用緩衝液を加えて、細胞膜をゆるやかに破壊する。これらツープレートサンドイッチを遠心分離した後、サイトゾルmRNAを含む細胞溶解物をオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートにハイブリダイゼーションのために移す。室温で1時間ハイブリダイゼーションした後、例えば、RT-PCRを自動化器械中で行う。上記において、フィルタープレートのフィルターまたは膜には、膜から細胞が漏れることなく標的細胞が捕捉されるがサイトゾルmRNAは通過できるような孔サイズを有する、グラスファイバー、ポリプロピレンまたはポリオレフィンメッシュ、ウール、および他の膜が含まれるが、これらには限定されない。例えばグラスファイバー (グレード934AH、Cambridge Technology、Inc. Watertown, MA) または Whatman GF/Fグレードグラスファイバー膜を用いて、ほとんどの培養細胞および血液白血球を捕捉することができる。上記において、グラスファイバープレートが好ましい。さらに、フィルタープレートをオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの上部に設置することから、フィルタープレートの構造は、例えば、ウェル数に関して、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの構造に対応する必要があり、そこではフィルタープレートのウェルは遠心分離にかける時にオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの各ウェルと連通している。ウェル当たりの細胞の最大容量は通常、104〜107個である。
【0025】
上記において、細胞溶解物は、遠心、減圧または陽圧によって生じる力を利用してフィルタープレートの膜を通過させることができる。細胞溶解物を膜を通して通過させるのに必要な力は、簡単な実験によって容易に決定することができる。
【0026】
上記において、溶解用緩衝液は、細胞膜破壊のための界面活性剤、RNase活性を阻害するかまたはRNaseを失活させるかもしくは破壊するRNase阻害剤、ならびにハイブリダイゼーションのためのpH調整剤および塩を含む。上記において、RNaseは、溶解用緩衝液中で活性でなくてはならない。さらに、核の混入を防ぐように細胞膜を穏やかに破壊するために、マイルドな界面活性剤の使用が好ましい(例えば、NP-40またはTRITONTM-X)。上記した溶解用緩衝液は有用であり、フィルタープレートを使用することなくオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートのために使用することができる。
【0027】
このシステムのプロトコルには以下のステップが含まれるが、これに限定はされない。
【0028】
ステップ1:細胞を培養プレートからフィルタープレートに移す。
1.フィルタープレートを減圧マニホルド上に置く。
2.例えば、マルチチャネルピペットを用いて、細胞を培養プレートからフィルタープレートに移す。
3.フィルタープレートを減圧吸引して、細胞を膜上に捕捉する。
4.各ウェルを、例えば、各50μlのPBSを用いて、1または2回洗浄する(任意)。
【0029】
ステップ2:細胞溶解物をフィルタープレートからハイブリダイゼーションのためのオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに移す。
1.フィルタープレートを減圧マニホルドから取り出して、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの上部に設置する。
2.例えば、50μlの溶解用緩衝液(例えば、10 mMトリス、pH 8.0、1mM EDTA、0.5 M NaCl、0.5% NP-40、20 mMバナジルリボヌクレオシド複合体;RNaseを含まない)を加えて、例えば、1,500×gで10分間遠心分離する。
3.固定化されたオリゴ(dT)と細胞のサイトゾル分画に存在するmRNAのポリ(A)テールとのハイブリダイゼーションのために、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートを室温で1時間インキュベートする。
【0030】
ステップ3:RT-PCRおよびPCR後分析
1.各ウェルを50μlの溶解用緩衝液(例えば、10 mMトリス、pH 8.0、1mM EDTA、0.3 M NaCl;RNaseを含まない)を用いて、1または2回洗浄する。
2.RT-PCRを開始して、自動化PCR装置におけるPCR産物の量をモニターする。
【0031】
本発明によれば、細胞から出発するRT-PCRプロセス全体のための迅速で廉価な高処理量の容易に自動化される方法が提供できる。
【0032】
慢性骨髄性白血病(CML)においてしばしば見出されるフィラデルフィア染色体(Ph1)は、9番染色体からのABL原腫瘍形成遺伝子の22番染色体のBCR遺伝子領域への相互転座[t(9;22)(q34;q11)]によって生じたものである(Wehnert MS, et al., "A rapid scanning strip for tri and dinucleotide short tandem repeats", Nucleic Acids Res 1994:22:1701-4)。末梢血細胞または骨髄細胞からのBCR-ABL mRNAの特異的RT-PCR増幅は、残余白血病細胞の検出のための高感度で定量的な方法を提供する。残余白血病細胞の検出は、CNE治療のための重要な指標の一つであることから、BCR-ABL mRNAのRT-PCR試験は多くの機関で広く利用される。しかし、多くの場合、全RNAまたはmRNAが最初に細胞懸濁液から精製される。本システムを用いた場合、細胞溶解物をハイブリダイゼーションのためにオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートにいったん適用すれば、ここに記述した直接RT-PCRのみならず、mRNA全量のYOYOTM-1定量(Miura Y, et al., Clin Chem 1996:42:1758-64)をも行うことができ、これによって試験材料の標準化および品質管理の追加手段が提供され得る。その平易さおよび蛍光的特徴のために、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートは、将来の自動化への適用可能性とともに、とくにフィルタープレートと組み合わせて、基礎研究、診断および薬物スクリーニングを含む種々の分子分析の基盤として受け入れられ得る。
【実施例】
【0033】
本発明は以下に示す実施例によってさらに説明されよう。実施例に用いられる材料および方法は以下の通りである。
【0034】
材料:
オリゴ(dT)固定化したオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート(GENEPLATE(登録商標)-PP、Hitachi Chemical Research Center、Irvine, CA)、YOYOTM-1(1,1'−(4,4,7,7−テトラメチル−4,7−ジアザウンデカメチレン)−ビス−4−[3−メチル−2,3−ジヒドロ−(ベンゾ−1,3−オキサゾール)−2−メチリデン]−キノリウメトライオダイド、Molecular Probes、Eugene, OR)、PCR用試薬(Taqポリメラーゼ、EZ rTth RNA-PCRキット)(Perkin Elmar、Foster City, CA)、K562細胞系(American Type Culture Collection、Rockville, MD)、100 bp DNAラダー、燐酸塩緩衝生理食塩水(PBS)、バナジルリボヌクレオシド複合体(VRC)、ウサギグロビンmRNA、細胞培養培地および適切な抗生物質、緩衝液-飽和フェノール(Gibco-BRL、Geithersburg, MD)、胎児ウシ血清(FBS、HyClone、Logan, UT)、ビオチン−dUTP(Clontech、Palo Alto, CA)、ATTOPHOSTM(アルカリホスファターゼ基質、JBL Scientific、San Luis Obispo, CA)、cd4465 DNA (Genome Systems、St. Louis, MO)を表示した供給者から購入した。MAGEXTRACTORTM用のRNA調製試薬は、東洋紡(大阪)からの好意で提供された。他の化学物質は全て、シグマ社(St. Louis, MO)から購入した。
【0035】
細胞培養:
K562細胞を10%FBS、500ユニット/ml ペニシリン、500μg/ml ストレプトマイシンを含むRPMI 1640中で増殖させて、約1:10の比で週に2回継代培養した。細胞生存率をトリパンブルー排除試験で評価したが、常に95%以上であった。
【0036】
細胞溶解物および全RNAの調製:
細胞をPBSで2回洗浄して、溶解用緩衝液(10 mmol/Lトリス、pH 7.6、1mmol/L EDTA、0.1%NP-40および20 mmol/L VRC)中に氷上で5分間懸濁させて、サイトゾルmRNAを上記したようにして放出させる(Miura Y, et al., Clin Chem 1996:42:1758-64)。次いで、試料を15,000×gで4℃で5分間遠心分離して、上清をハイブリダイゼーションのためにGENEPLATE(登録商標)-PPに適用した。実験によっては、細胞をVRCを含まない溶解用緩衝液に懸濁して、ただちに等量のフェノール/クロロホルムで2回処理して、タンパク質およびヌクレアーゼを吸収した。次いで、脱タンパクした溶液をハイブリダイゼーションに供した。
【0037】
マイクロプレートの上部に位置できるようにした96ウェルのグラスファイバープレートをRNAの回収に用いた場合、上記の激しい均質化プロセスは完全に省略された。培養細胞を、マルチチャネルピペットを用いてグラスファイバープレートに移した(後述)。
【0038】
全RNAを自動化機(MAGEXTRACTORTM MFX-2000、東洋紡、大阪)によって調製した。簡略に説明すれば、キットに含まれたカオトロピック剤に細胞ペレットを懸濁してから、MAGEXTRACTOR中に置いて、そこでRNAをシリカフェライト粒子の表面に吸着させて、続いて磁気分離した。次いで、RNAを自動的に40μlの低塩緩衝液に溶出して、使用時まで−80℃で冷凍庫保存した。最終RNAをアガロースゲル電気泳動によって分析して、18sおよび28s rRNAバンドを確認した。
【0039】
プライマーのデザインおよび合成: cd4465用プライマー(センス:5'-agtttcggagcggatgaatgc-3'、アンチセンス:5'-ggggcatcagaattttggttga-3')、ウサギグロビンmRNA用プライマー(センス:5'-cgtggagaggatgttcttgg-3'、アンチセンス:5'-aacgatatttggaggtcagcac-3')およびbcr-abl用プライマー(センス:5'-gaccaactcgtgtgtgaaactcca-3'、アンチセンス:5'-aaagtcagatgctactggccgct-3')をHYBシミュレーターTMソフトウェア(AGCT, Irvine, CA)により、GenBank霊長類データベース(Mitsuhashi M, et al., Nature 1994:367:759-61, Hyndman D, et al., BioTechniques 1996:20:1090-7)に対するハイブリダイゼーションシュミレーションを用いてデザインした。bcr-ablの場合、センスプライマーはbcrエクソン2に位置し、アンチセンスプライマーはablエクソン2に位置した。プライマーは、製造者のプロトコルに従ってDNA合成機(380B、Applied Biosystem, Foster City)によって合成した。
【0040】
ワンステップRT-PCR:
鋳型DNA/RNA、各300μmol/LのdATP、dGTP、dCTPおよびdTTP、1×EZ緩衝液、2 mmol/Lの Mn(OAc)2、各0.5μmol/Lのプライマーおよび0.1μlのrTthポリメラーゼを混合して最終容量5〜50μlにして、ヌクレアーゼを含まないミネラル油(シグマ社)1滴とともに積層した。PCRをサーマルサイクラー(MJ Research、Watertown, MA)中で、逆転写(60℃、30分間)および変性(94℃、1分間)の1サイクルに続いて、アニーリング/伸長(60℃、1分間)および変性(94℃、1分間)を40サイクル繰り返して行った。PCR完了後、電気泳動チャンバー中で0.5μg/ml臭化エチジウムを用いる2.0%アガロースゲル電気泳動を行ってPCR産物を分析した。写真映像をポラロイドフィルム(667、Cambridge, MA)上に記録した。
【0041】
ツーステップRT-PCR:
ハイブリダイゼーションの後、ビオチン-dUTPを10mmol/LdTTPで置換することによって、捕捉したmRNAをcDNAに逆転写した。反応物を吸引によって除去して、rTthまたはTaqポリメラーゼのいずれかを用いてPCRを行った。Taqポリメラーゼを用いたPCRでは、緩衝液は、1×緩衝液、1.25 mmol/LMgCl2、各300μmol/LのdATP、dGTP、dCTPおよびdTTP、各0.5μmol/Lのプライマーならびに0.5μlTaqポリメラーゼを最終容量10〜50μl中に含んだ。PCRはサーマルサイクラー(MJ Research)中で、60サイクルの変性(94℃、1分間)、アニーリング(60℃、1分間)に続いての伸長(72℃、1分間)によって行った。
【0042】
実験例1:固定化されたオリゴヌクレオチドの定量
ヒタチ・ケミカル・リサーチ・センター(Irvine, CA)で処理したGENUNCTM PPマイクロプレート(Nunc、Naparville, IL)をAGCT(Irvine, CA)から入手して、それにオリゴヌクレオチドを固定化した。固定化前後のオリゴヌクレオチド濃度を、1.0 OD260ユニット=30μg/mlとして測定して、測定値の差から固定化されたオリゴヌクレオチド量を算出した。別の実験で、YOYO-1をTE(10 mmol/Lトリス、pH 8.0、1mmol/L EDTA)で最終稀釈率が1:1000になるように稀釈して、GENEPLATE(登録商標)-PPマイクロプレートに適用した。蛍光をCYTOFLUORTM 2300(Millipore、Bedford, MA)によってそれぞれ485 nm(バンド幅20 nm)および530 nm(バンド幅25 nm)の励起および放射波長で既述のようにして測定した(Miura Y, et al., Clin Chem 1996:42:1758-64, Miura Y, et al., Cancer Lett 1997:116:139-44)。
【0043】
図1は、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに固定化されたオリゴ(dT)の量を示すグラフである。固定化前後のオリゴヌクレオチド濃度を1.0 OD260として測定して、その測定値の差から固定化されたオリゴヌクレオチド量を算出した(○)。平行実験で、1:1000 稀釈したYOYO-1を各ウェルに加えて、その蛍光を測定した(●)。棒グラフは適用したオリゴ(dT)20からの固定化割合(%)を示す。各データの点は3重測定値の平均をとった。オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートは従来のPSプレートと較べると不透明で透過性を欠くが、図1(●)に示すように、10 pmol以上のオリゴヌクレオチドを適用した場合は、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの蛍光は有意に増加して平坦に達した。オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上に固定化されたオリゴヌクレオチドの実際量のさらなる定量において、図1(○)に示すように、100 pmolのオリゴヌクレオチドを各ウェルに適用した後、21.1 pmolのオリゴヌクレオチドが固定化された。10 pmol以上のオリゴヌクレオチドが適用された場合、固定化されたオリゴヌクレオチドの量は10〜20 pmolまでに飽和された。適用されたオリゴヌクレオチド(10 pmol)の約69%がマイクロプレートの表面に固定化された(図1、棒グラフ)。
【0044】
実験例2:オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートのmRNA特異性
次の一連の実験はmRNA特異性を示すために行われた。図2Aは、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートのmRNA特異性を示すグラフで、YOYO-1蛍光強度は、 mRNA (●)に対しての特異性がDNA (■)、rRNA (△) およびtRNA (▽)を上回って高いことを示している。図2Bはオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートのmRNA特異性を示すグラフで、基質ATTOPHOSTMは、mRNA (●)に対しての特異性がDNA (■)、rRNA (△) およびtRNA(▽)を上回って高いことを示している。
【0045】
図において、種々の濃度のウサギグロビンmRNA(●)、DNA(■)、rRNA(△)およびtRNA(▽)を50μlのハイブリダイゼーション用緩衝液(10 mmol/Lトリス、pH 8.0、1mmol/L EDTA、0.5 M NaCl)に懸濁して、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートのウェルに適用した。室温で1時間ハイブリダイゼーションした後、各ウェルをハイブリダイゼーション用緩衝液で1回洗浄した。図2AにおいてYOYOTM-1を TE(10 mmol/Lトリス、pH 8.0、1mmol/L EDTA)に最終稀釈率1:1000になるように稀釈して、各ウェルに適用して、蛍光をCYTOFLUORTM 2300で測定した。図2Bにおいて、各ウェルを50μlのcDNA合成用緩衝液(50 mmol/Lトリス、pH 8.3; 75 mmol/L KCl、3mmol/L MgCl2、10 mmol/L DTT、各10 mmol/LのdATP、dGTP、dCTP、250μmol/Lビオチン-dUTP、および400ユニットのMMLV 逆転写酵素を含む)中に再懸濁して、37℃で1時間インキュベートした。
各ウェルを洗浄用緩衝液(10 mmol/Lトリス、pH 7.6;300 mmol/L NaClおよび10 mmol/L Tween 20を含む)で3回洗浄した後、1:1000稀釈したストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ結合体を含む洗浄用緩衝液50μlを加えて、室温で30分間インキュベートした。各ウェルを洗浄用緩衝液で3回洗浄した後、50μlの基質(ATTOPHOSTM)を加えて、室温で20分間インキュベートした。等量(50μl)の100 mmol/L EDTAを添加して反応を終止させてから、蛍光をCYTOFLUORTM 2300によって測定した。各データの点は、3重測定の平均±標準偏差で示した。
【0046】
図2Aに示されるように、有意なYOYOTM-1蛍光は100 ng以上のmRNAが適用されたウェルから得られたが、YOYOTM-1蛍光はrRNA、tRNAおよびDNAのウェルからは10μgのような多量が適用された場合でも得られなかった。オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上の定量的cDNA合成の特異性もまた、上記のようにして試験した。図2Bに示すように、有意のATTOPHOSTM蛍光が0.1 ng/ウェル以上のmRNAを適用したウェルから得られたが、rRNA、tRNAおよびDNAのウェルからは10μgのような多量が適用された場合でも増加しなかった。
【0047】
実験例3:ハイブリダイゼーションの定量
図3は、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上のmRNAの可逆ハイブリダイゼーションを示すグラフである。1μgのウサギグロビンmRNAまたは20μgの全肝臓RNAを50μlのハイブリダイゼーション用緩衝液に懸濁して、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートのウェルに適用した。室温で1時間のハイブリダイゼーションの後、ウェルをDEPC水を用いて異なる温度(25℃、55℃または沸騰温度)で3回洗浄した。次いで、YOYOTM-1を各ウェルに適用して、蛍光をCYTOFLUORTM 2300によって上記したようにして測定した(Miura Y, et al., Clin Chem 1996:42:1758-64)。各データの点は3重測定の平均±標準偏差で示した。図3に示すように、YOYOTM-1蛍光は、沸騰DEPC水を加えることによって基底レベルまで低下した。
【0048】
実験例4:ハイブリダイゼーションの容量
さらに、ハイブリダイゼーションの容量を評価するために、種々の量のグロビンmRNA、全肝臓RNAまたは細胞溶解物をハイブリダイゼーション用オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに適用した。次いで、ハイブリダイズしたmRNAを沸騰水を加えることによってプレートから回収して、2回目のハイブリダイゼーションのために緩衝液(濃度を調整した)を新鮮なオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに適用した。平行実験で、既知濃度のグロビンmRNAもまた対照として適用した。次いで、定量的cDNA合成を下記のように行って、溶液中のmRNA量を標準グロビンmRNAの値に基づいて測定した。cDNA合成量を、Tominagaら(Clin Chem 1996:42:1750-7)によって公表されたプロトコルを一部修飾した方法に従って定量した。簡単に説明すれば、mRNA-ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートを50μlのcDNA合成用緩衝液(50 mmol/Lトリス、pH8.3; 75 mmol/L KCl、3mmol/L MgCl2、10 mmol/L DTT、各10 mmol/LのdATP、dGTP、dCTP、250μmol/Lのビオチン-dUTPおよび400ユニットのMMLV 逆転写酵素を含む)中に再懸濁して37℃で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄用緩衝液(10 mmol/Lトリス、pH 7.6;300 mmol/L NaClおよび10 mmol/L Tween 20を含む)で3回洗浄した後、1:1000稀釈したストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ結合体を含む洗浄用緩衝液50μlを加えて、室温で30分間インキュベートした。各ウェルを洗浄用緩衝液で3回洗浄した後、50μlの基質(ATTOPHOSTM、1×濃度)を加えて、室温で20分間インキュベートした。等量(50μl)の100 mmol/L EDTAを添加して反応を終止させてから、蛍光をCYTOFLUORTM 2300(Millipore)によってそれぞれ485 nm(バンド幅20 nm)および560 nm(バンド幅25 nm)の励起および放射波長を用いて測定した。
【0049】
表1に示されるように、適用したグロビンmRNAの約50〜65%がプレートにハイブリダイズされた。適用したグロビンmRNAは500 ngが用いられた場合でさえもプレートを飽和しなかった。500 ngのグロビンmRNAは21pmolの固定化オリゴヌクレオチドと比較して約1〜2pmolに等しい。さらに、mRNA濃度が低い場合は約34〜48%の全RNAまたは細胞溶解物がプレートによって捕捉されたが、高濃度では捕捉効率が下がった。これは、おそらく高粘度によるハイブリダイゼーション効率の低下によると思われる。
【0050】
【表1】

【0051】
上に示したように、500 ngの多量のmRNAが適用された場合でもプレートは飽和されなかったが、これはまた、96ウェルプレートの小表面領域当たり約500μgの全RNAまたは107個の細胞を意味する。これは、大部分の実験には充分以上の量である。
【0052】
実験例5:オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートにおけるRT-PCR
Ph1転座からb3a2転写物を発現するヒトK562白血病細胞を溶解用緩衝液を用いて溶解した後、遠心分離して細胞破片および核DNAを除去した。次いで、サイトゾルmRNAを含む上清をハイブリダイゼーションのためにオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに適用した。室温で1時間ハイブリダイゼーションした後に、結合しなかった材料をハイブリダイゼーション用緩衝液で2回洗浄することによって除去し、RT-PCRを同じウェル中で開始した。
【0053】
すなわち、図4Aにおいて、106個のK562を溶解用緩衝液(10 mmol/LトリスpH 7.6、1mmol/L EDTA、0.1% NP-40および20 mmol/L VRC)中に氷上で5分間懸濁して、サイトゾルmRNAを放出させた。次いで、試料を15,000×gで4℃で5分間遠心分離して、上清をハイブリダイゼーションのためにオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに供した(レーン1)。レーン2では、細胞をVRCを含まない溶解用緩衝液に懸濁して、ただちに等量のフェノール/クロロホルムで2回処理して、タンパク質/ヌクレアーゼを吸収した。次いで、脱タンパク質した溶液をハイブリダイゼーションに供した。レーン3では、全RNAを方法の項で記述したようにして自動化機を用いて調製した。ハイブリダイゼーションの後、RT-PCRを方法の項で記述したようにして、サーマルサイクラー中で、逆転写(60℃、30分間)および変性(94℃、1分間)の1サイクルに続いて、アニーリング/伸長(60℃、1分間)および変性(94℃、1分間)を40サイクル繰り返して行った。レーン4は対照のcd4465 DNAであった。
【0054】
図4A(レーン1)に示すように、BCR-ABL転写は、粗細胞溶解物中の捕捉されたmRNAからうまく増幅され、168塩基対の期待されたサイズを有した。PCR産物のサイズは、同じ細胞における精製全RNAからのPCR産物のサイズと一致した(図4A、レーン3)。フェノール/クロロホルム処理細胞溶解物は、 VRC含有細胞溶解物よりも密なPCR産物を示した(図4A、レーン2)。
【0055】
プレートに混入したゲノムDNAからの偽PCRを分析するために、mRNAを55℃または沸騰DEPC水によって除去して、ワンステップRT-PCRを行った。すなわち、図4Bにおいて、全RNAをハイブリダイズさせた後、ウェルを55℃のDEPC水または沸騰DEPC水で3回洗浄して、ワンステップRT-PCRを行った。図4Bに示すように、 BCR-ABL転写のPCR産物は、ウェルを沸騰水で洗浄した場合は消失したが、55℃の水で洗浄した場合は消失しなかった。これらの結果は、図3の結果に匹敵した。
【0056】
別の実験で、PCRを逆転写の有り無しの双方で行った。すなわち、図4Cにおいて、全RNAをハイブリダイズさせた後、cDNAを一つの管(+)で合成して、一つの管(−)は逆転写をせずに残した。 次いで、Taqポリメラーゼを用いて1.25 mM MgCl2の存在下で、60サイクルの変性(94℃、1分間)、アニーリング(60℃、1分間)に続いての伸長(72℃、1分間)によってPCRを行った。PCR産物を2.0%アガロースゲル電気泳動で分離した後、臭化エチジウムで染色した。Mkは100 bpのラダーを示す。図4Cに示すように、BCR-ABL転写のPCR産物は、高Mg濃度による低ストリンジェント(stringent)条件下でさえも負の逆転写のウェルからは増幅されなかったが、正の逆転写のウェルからは有意量のPCR産物が得られた。
【0057】
以上のことから、セルロースまたはビーズがしばしば検出され得る量のrRNA、tRNAおよびDNAを含むのに対して、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの利点は特異性がmRNAに限定されていて、rRNA、tRNAまたはDNAに対してないことで(図2A、2B、4A、4B、4C)、混入ゲノムDNAからの偽PCR増幅の問題の可能性を除去することができることである。
【0058】
実験例6:ツーステップRT-PCR
直接RT-PCR実験を細胞懸濁液の異なる稀釈で行った。種々の数のK562細胞をハイブリダイゼーション用のオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに適用した。得られたハイブリダイズしたmRNAをYOYO-1の測定またはrTthポリメラーゼを用いるRT-PCRに用いた。すなわち、図5Aおよび図5Bにおいて、種々の数(0〜6×106)のK562細胞を溶解用緩衝液に懸濁して、ハイブリダイゼーションのためにオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに適用した。図5Aにおいて、ハイブリダイズしたmRNA量をYOYOTM-1蛍光によって上記のように測定した。平行実験で、捕捉したmRNAを直ちにrTthポリメラーゼを用いるワンステップRT-PCRに上記のように供した(挿入図上)。図5Bにおいて、別の一連の実験で、上記のようにして、ビオチン-dUTPの存在下でMMLV逆転写酵素およびプライマーとして固定化オリゴ(dT)を用いて、捕捉したmRNAからcDNAを合成した後、cDNA合成を定量した。平行実験で、ビオチン-dUTPを無標識dTTPで置換することによってcDNAをオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上で合成して、上記したようにしてrTthポリメラーゼを用いてPCRを行った(挿入図下)。PCR産物を2.0%アガロースゲル電気泳動によって分離した後、臭化エチジウムで染色した。Mは100 bpラダーを表す。各データの点は、3重測定の平均±標準偏差を示した。
【0059】
図5Bに示すように、104個のような少ない細胞からさえも有意のATTOPHOSTMシグナルが得られ、これはYOYOTM-1よりも100倍感度が高いことを示唆した。より有利には、合成したcDNAからPCRをオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上で行った場合、PCRバンドは10個のような少ない細胞からでも検出された(図5A挿入図下)。
【0060】
以上のことから、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上で合成されたcDNAからのRT-PCR(ツーステップRT-PCR、図5A挿入図下)は、従来のワンステップRT-PCRよりも約100,000倍感度が高く、bcr-abl転写は10個の細胞しか含まない細胞溶解物から検出された(図5A挿入図上)。ワンステップRT-PCRが先ずmRNAをオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートから解離させることによってより効率のよい液相反応で行われるのに対して、ツーステップRT-PCRは低効率の固体相逆転写反応を要求することから、これは驚きである。rTthが両実験で用いられたことから、この違いは酵素によるものではなかった。ツーステップPCRに比べてワンステップRT-PCRにおいてより多くのプライマーダイマーが形成されたことから(図5A上および下挿入図;上挿入図の各レーンの明瞭なバンドはプライマーダイマーを示す)、プライマーは逆転写中のダイマー形成に用いられると考えられる。ツーステップRT-PCRにおいては、最初の逆転写相で形成されたプライマーダイマーがPCRを通して存在するのに対して、これらプライマーダイマーは反応混合物がcDNA合成からPCRに切り替わったときに除去することができる。
【0061】
実験例7:オリゴヌクレオチド固定化、ハイブリダイゼーションおよびcDNA合成の内(intra)-および間(inter)-分析
オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上での定量的分析を行うために、ウェルとウェルとの間の変動は重要な問題である。100 pmolオリゴヌクレオチドをオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに固定化のために適用して、続いて上記したようにして蛍光プレートリーダー中でYOYOTM-1蛍光を測定した(図6A、●)。100 ngのウサギグロビンmRNAをハイブリダイゼーションのために各ウェルに適用して、続いて上記したようにして蛍光プレートリーダー中でYOYOTM-1蛍光を測定した(図6A、■)。100 ngのウサギグロビンmRNAをハイブリダイゼーションのために各ウェルに適用して、続いてビオチン-dUTPの存在下でcDNAを合成した。次いで、上記したようにして蛍光プレートリーダーでATTOPHOSTM蛍光を測定した(図6B、△)。各データの点は、10回(内分析)〜3回(間分析)の別々の測定からの平均±標準偏差を示した。
【0062】
図6Aおよび6Bに示すように、固定化オリゴヌクレオチド(図6A、●)、ハイブリダイズしたウサギグロビンmRNA(図6A、■)、および捕捉したウサギグロビンmRNAからの合成cDNA(図6B、△)の量の変動は、単一のマイクロプレート内(内分析)またはマイクロプレートの複数箇所内(間分析)で全て10〜15%以下であった。より重要なことに、これら内分析および間分析におけるPCR産物の量の変動もまた10%以下であった(図7)。図7において、100 ngのウサギグロビンmRNAをハイブリダイゼーションのために各ウェルに適用して、続いて無標識dTTPの存在下でcDNAを合成した。次いで、ウサギグロビン特異性プライマーおよびTaqポリメラーゼを用いて、方法の項で記述したようにしてPCRを行った。PCR産物を2.0%アガロースゲル電気泳動によって分離した後、臭化エチジウムで染色した。右レーンは、100 bpラダーを表す。PCR産物の量をOD260を測定することによって測定した(●)。 各データの点は、10回(内分析)〜3回(間分析)の別々の測定からの平均±標準偏差を示した。
【0063】
以上のことから、ウェル間およびプレート間のより少ない変動、優れた安定性および利用できる種々の品質管理プロトコール(例えば、図6A、6Bおよび7)は、この技術をきわめて競争に強いものにする。
【0064】
実験例8:オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの安定性
オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートを室温(●)、55℃(■)または72℃(△)で2、8または15日間保存した。次いで、100 ngのウサギグロビンmRNAをハイブリダイゼーションのために各ウェルに適用して、続いてビオチン-dUTPの存在下でcDNAを合成した。次いで、上記したようにして蛍光プレートリーダーでATTOPHOSTM蛍光を測定した。各データの点は、3重測定の平均±標準偏差を示した。
【0065】
図8に示すように、cDNA合成の量は、72℃で15日間保存した後でも、有意の減少を示さなかった。
【0066】
実験例9:オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上で合成されたcDNAからのマルチプルPCR
K562細胞(104〜106個)を溶解用緩衝液に懸濁して、ハイブリダイゼーションのためにオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートに適用した。上記のようにして、捕捉したmRNAをMMLV逆転写酵素を用いてcDNAに変換した。対照として、いくつかのウェルを同様に、ただしMMLV逆転写酵素を除いて、処理した。次いで、上記のようにして、bcr-abl転写物をTaqポリメラーゼを用いてPCRによって増幅した(第1bcr-abl)。PCRの後、各ウェルを沸騰DEPC水を用いて5回洗浄して、PCRを同じプライマーセットを用いて繰り返した(第2bcr-abl)。次いで、PCRをG3PDHのプライマー対を用いて3度目を繰り返した(第3G3PDH)。PCR産物を2.0%アガロースゲル電気泳動を用いて分離した後、臭化エチジウムで染色した。その結果、アガロースゲル電気泳動は、bcr-ablおよびG3PDH転写物のPCR産物は、負の逆転写のウェルからは増幅されなかったことを示すが、これはプレート中の混入ゲノムcDNAからの「偽」PCR産物がないことを示す。より興味深いことに、アガロースゲル電気泳動は、bcr-ablおよびG3PDH転写物はウェルの固定化cDNAから複数回再増幅されたことを確認する。
【0067】
実験例10:グラスファイバーフィルターによる種々の細胞からのサイトゾルmRNA画分のオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートへの収集
種々のヒト培養細胞系、すなわち、K562V白血病細胞、U937白血病細胞、CaRI 結腸癌細胞、HepGII肝癌細胞、KatoIII胃癌細胞およびCRL 5800肺腺癌細胞(American Type Culture Collection、Rockville, MD)をこの実験に用いた。細胞を捕捉するための単層の96ウェルフィルタープレートはグラスファイバー製(Cambride Technologyグレード934AH、Brandel、Gaithersburg, MD)を用いた。予備実験において、96ウェルフィルタープレートの各ウェル中のグラスファイバーフィルター膜の単層上に捕捉される細胞の最大量を決定した。種々の数の細胞(102〜5×106個) を通常の96ウェルマイクロプレートの上部にアセンブルしたフィルタープレートに適用して、500×gで10分間遠心分離した。下方プレートのウェルに集まった通過画分中の細胞数を、血球計を用いて測定した。その結果、ウェル当たりの細胞の最大量は、K562、U937、CaRI、HepGII、KatoIIIおよびCRL 5800細胞に関して、それぞれ 約 2×106、2×106、106、5×105、5×105および3×105で、グラスファイバー膜からの細胞の漏れはなかった。
【0068】
次の一連の実験において、105個の細胞をフィルタープレートに適用して、減圧吸引によって細胞を膜上に捕捉した。膜をPBSで2回洗浄して、オリゴ(dT)固定化ポリプロピレン/ポリオレフィンマイクロプレート(GENEPLATE(登録商標)-PP、AGCT)の上に載せて、これを次にオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートとして用いた。50μlの溶解用緩衝液(10 mMトリス、pH 8.0、1 mM EDTA、0.5 M NaCl、0.5% NP-40界面活性剤および20 mMバナジル-リボヌクレオシド複合体(VRC、Gibco-BRL、Geithersburg, MD))を各ウェルに加えて、直ちに500×gで10分間遠心分離して、サイトゾルRNA画分をオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート中に回収した。溶解用緩衝液によって、RNaseインヒビターVRCの存在下でオリゴ(dT)とmRNAのポリ(A)配列とをハイブリダイズさせた。室温で1時間のハイブリダイゼーションの後、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートを洗浄用緩衝液(10 mM トリス、pH 8.0、1 mM EDTAおよび0.5 M NaCl)で2回洗浄した。この段階で、全mRNAが分析のためのオリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートの各ウェル中に捕捉された。オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートが熱安定性であるために、mRNAをPCR容器に移すことなく、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレートを直接にPCRに供した。
【0069】
実験例11:mRNAの測定および種々の培養細胞からのβ-アクチンのPCR増幅
実験例10に続いて、最初の分析は、捕捉したmRNAからのハウスキーピング遺伝子の増幅であった。cDNAをRT-緩衝液(50 mMトリス、pH 8.3; 75 mM KCl、3mM MgCl2、および10mM DTT、各10 mMのdNTPおよび100ユニットのMMLV逆転写酵素(Gibco-BRL)を含む)を加えて合成して、37℃で1時間インキュベートした。
次いで、PCRを同じプレート上でRT-緩衝液をPCR-緩衝液(10×PCR-緩衝液、1.5 mM MgCl2、各100μM のdNTP、1.5ユニットのTaq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer、Fostercity, CA)、各0.5μMのヒトβアクチンの上流センスプライマーおよび下流アンチセンスプライマー(Clontech、Palo Alto, CA)に置き換えて 最終容量20μlで行った。PCRは、サーマルサイクラー(MJ Research、PTC-100、Watertown, MA)中で、94℃で45秒間、60℃で45秒間および72℃で2分間を35サイクルして行った。PCR産物を1.0%アガロースゲル電気泳動中で0.5μg/mlの臭化エチジウムを用いて分析した。図9(左挿入図、レーンM、100 bp DNAラダー;レーン1、K562;レーン2、U937;レーン3、CaRI;レーン4、HepGII;レーン5、KatoIII;レーン6、CRL5800)に示すように、種々の培養細胞からのβ-アクチン遺伝子の増幅に成功した。イントロン配列はセンスプライマーとアンチセンスプライマーとの間に存在することから、β-アクチンPCR産物の大きさはイントロンを含まないmRNAと同じであった。さらに、cDNA合成なしでPCRを始めた場合はβ-アクチン遺伝子は増幅されず、これはPCRがmRNAに特異的であって、混入したDNAに由来しないことを示唆した。
【0070】
平行実験において、オリゴヌクレオチド固定化PCRマイクロプレート上で捕捉されたmRNAの量を我々の研究室から以前に発表された方法(Tominaga K, et al., "Colorimetric ELISA measurement of specific mRNA on immobilized-oligonucleotide-coated microtiter plates by reverse transcription with biotinylated mononucleotides", Clin Chem 1996:1750-1757, 1996)を一部改変した方法によって定量した。簡単に述べると、10 mMのdTTPの代わりに250μMのビオチン-dUTPを含むRT-緩衝液を加えてマイクロプレート上で第一鎖cDNAを合成して、37℃で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄用緩衝液で3回洗浄して、1:1000稀釈のストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ結合体(Clontech、Palo Alto, CA)を含む洗浄用緩衝液50μlを各ウェルに加えた。各ウェルを室温で30分間インキュベートして、次いで洗浄用緩衝液で3回洗浄した。最後に、100μlのAttoPhos(JBL Scientific、San Luis Obispo, CA)を各ウェルに加えて、室温で15分間インキュベートした。蛍光をCytoFluor 2300(Millipore、Bedford, MA)中で430 nm励起および560 nm放射で測定した。蛍光強度からmRNAの量を定量するために、ウサギグロビンmRNAを上記したように対照として用いた(Tominaga K, et al.、Clin Chem 1996:1750-1757、1996)。図9に示すように104個の細胞から捕捉したmRNAは、五つの異なる細胞系から約5ngであった。
【0071】
ハイブリダイゼーション中のmRNAの分解の可能性をさらに分析するために、サイトゾル画分をハイブリダイゼーション後に収集して、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール抽出処理を2回繰り返してから、エタノール沈澱させた。次いで、RNAをアガロースゲル電気泳動によって分析した。図9(右挿入図、 レーンM、λHind III; レーン1、K562; レーン2、U937; レーン3、CaRI;レーン4、HepGII;レーン5、KatoIII;レーン6、CRL5800)に示すように、18sおよび28s rRNAバンドが室温で1時間のインキュベーション後でさえも全細胞で明らかに存在し、これはVRCの存在下での単純ななサイトゾル画分が実質的にRNase活性を有しないことを示唆した。
【0072】
結論として、出発細胞懸濁液からの完全RT-PCRを、二つのプレート、すなわちグラスファイバープレートおよびオリゴ(dT)固定化ポリプロピレン/ポリオレフィンプレートだけの使用で行うことができる。さらに96ウェル構成によって、研究者は高処理量の全自動化の可能なRT-PCRを行うことができる。この実験例において、PCR産物はアガロースゲル電気泳動で分析されるが、PCR産物はTaqManシステム(Morris T, et al., J Clin Microbiol 34:p2933-6, 1996)によって連続して定量してもよい。この実験例は、このシステムが大量処理量RT-PCRのための有用なツールであることを証明した。
【0073】
本発明の精神に反することなく多数の種々の変更が可能であることは当業者に理解されよう。したがって、本発明の態様は、もっぱら説明のためであって、本発明の範囲を制約するものではないことを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法であって、 標的細胞の細胞溶解物を調製し;
細胞溶解物を、細胞溶解物に存在する目的mRNAに特異的に相補的な核酸配列を有するオリゴヌクレオチドが確実に固定化されたウェルを有し、PCRの熱サイクルに対して熱安定性を有するオリゴヌクレオチド固定化マイクロプレートに移し;
mRNAをマイクロプレートのオリゴヌクレオチドによって捕捉し;
適切な緩衝液を用いてRT-PCRを同じマイクロプレート上で行い;そして 目的PCR産物を検出するステップを含むRT-PCR法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−189368(P2009−189368A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97473(P2009−97473)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【分割の表示】特願2005−278646(P2005−278646)の分割
【原出願日】平成10年12月22日(1998.12.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】