説明

オリゴハロゲンシランの製造方法

本発明の対象は、一般式(1)及び(2)
Sin2n+2 (1)
Sim2m (2)
[式中、Xは、Cl、Br及びIから選択され、nは、2〜10の整数を意味し、かつmは、3〜10の整数を意味する]のオリゴハロゲンシランから選択されるオリゴハロゲンシランの製造方法であって、ケイ素と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Mo、W、Fe、Co、Ni、Cu、Cd、In、Sn、P、Sb、Bi、S、Se、Te及びPb及びそれらの混合物から選択される金属のハロゲン化物とを含有する混合物を、−125℃〜1100℃の温度で反応させ、そして形成されたオリゴハロゲンシランを、N2、希ガス、CH3Cl、HCl、CO2、CO、H2及びSiCl4から選択されるキャリヤーガスで除去する、前記製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン及び金属のハロゲン化物からなる混合物からオリゴハロゲンシランを製造する方法に関する。
【0002】
オリゴハロゲンシラン、特にSi2Cl6及びSi3Cl8は、エレクトロニクス分野/光電池分野のための有用な前駆物質である。
【0003】
ヘキサクロロジシランは、より多量に通常はケイ化物から製造される。JP2006169012号A2に記載されるような挙げられる方法の殆どの場合の欠点は、該方法が多数の副生成物を有する強く汚染された粗生成物がもたらし、その必要とされる分離/後処理はたいていは費用がかかり困難と見なされ、これは相当のエネルギーを消費してのみ、とりわけ抽出により及び/又は蒸留により実行できるにすぎないことである。ヘキサクロロジシランの蒸留による精製のための方法は、DE102007000841号A1に記載されている。
【0004】
I)高級クロロシランのための出発物源/原料としては、例えば多結晶シリコンの製造のためのシーメンス法で生ずるプロセスガス流が該当する。それは、例えばJP2007284280号A2に記載されている。シーメンス法は、細いシリコン棒を用い、その棒はトリクロロシラン及び水素からなるガス雰囲気中で加熱される。トリクロロシランから、次いで次第にシリコンが前記棒の上に堆積し、このようにしてより太いポリシリコン製のカラムへと成長する。
【0005】
II)シリコン又はシリコン合金の塩素化で生ずる生成物流も、後処理によって高級クロロシランのための源として調達できる:それは、例えばJP59232910号Aに記載されている。
【0006】
水銀シリル化合物及びクロロシランからのオリゴクロロシランの製造は、J.R.Joinerによる学位論文"Systematic Preparation of Chloropolysilanes and Chlorosilylgermanes",Tufts大学,1972年に記載されている。
【0007】
本発明の対象は、一般式(1)及び(2)
Sin2n+2 (1)
Sim2m (2)
[式中、
Xは、Cl、Br及びIから選択され、
nは、2〜10の整数を意味し、かつ
mは、3〜10の整数を意味する]のオリゴハロゲンシランから選択されるオリゴハロゲンシランの製造方法であって、シリコンと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Mo、W、Fe、Co、Ni、Cu、Cd、In、Sn、P、Sb、Bi、S、Se、Te及びPb及びそれらの混合物から選択される金属のハロゲン化物とを含有する混合物を、−125℃〜1100℃の温度で反応させ、そして形成されたオリゴハロゲンシランを、N2、希ガス、CH3Cl、HCl、CO2、CO、H2及びSiCl4から選択されるキャリヤーガスで除去する、前記製造方法である。
【0008】
本方法は、オリゴクロロシランを簡単に得ることを可能にする。コスト的に好ましい出発材料を使用することができる。副生成物として、十分に高純度のハロゲンシランが生じ、それは大きい沸点差に基づき簡単に蒸留により後処理することができ、かつ前記シランは多くの化学的プロセスで使用することができる。
【0009】
本方法で使用されるシリコンは、好ましくは多くても5質量%の、特に好ましくは多くても2質量%の、特に多くても1質量%の他の元素を不純物として含有するだけである。少なくとも0.01質量%になる不純物は、好ましくは、Fe、Ni、Al、Ca、Cu、Zn、Sn、C、V、Mn、Ti、Cr、B、P、Oから選択される元素である。好ましくは、例えばDE4303766号A1に記載されているロショー(Rochow)法での使用に適したシリコンが使用される。前記文献は明確に引き合いに出される。
【0010】
金属ハロゲン化物は、好ましくは少なくとも−125℃で、特に少なくとも50℃で、かつ好ましくは高くても1050℃で、特に好ましくは高くても800℃で、特に高くても600℃で、特に有利には高くても400℃で溶融する。
【0011】
ハロゲンXとしては塩素が好ましい。
【0012】
金属Fe、V、Mo、Ni、Cu、Cd、Sn、P、Sb、Bi、Pb、特にCu、Sn、P、Fe、V、Mo、Cdのハロゲン化合物の使用が好ましい。
【0013】
プロセス温度で溶融しない金属ハロゲン化物が使用される場合に、別の金属ハロゲン化物の付加的な存在が好ましく、特にTi、Zr、Hf、V、Nb、Mo、W、Fe、Co、Ni、Cu、Cd、In、Sn、P、Sb、Bi、S、Se、Te及びPbの金属ハロゲン化物との共晶溶融物の形成を促進する別の金属ハロゲン化物の付加的な存在が好ましい。
【0014】
好ましい別の金属ハロゲン化物は、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Zn、Al、Gaのハロゲン化物、特に塩化物である。特に好ましい別の金属ハロゲン化物は、第1主族及び第2主族の並びにZn、Al、Ga、特にZn、Al、Ga、Mg、Ca、Sr、Csの塩化物である。
【0015】
好ましくは、プロセス温度は、少なくとも150℃、特に少なくとも250℃であり、かつ好ましくは高くても800℃、特に有利には高くても600℃、特に高くても450℃である。
【0016】
純粋なキャリヤーガスを使用してよく、またキャリヤーガスの混合物も使用してよい。キャリヤーガスとして希ガスが使用される場合に、ヘリウムとアルゴンが好ましい。好ましくは、キャリヤーガスは、シリコンと金属のハロゲン化物とを含有する混合物中に導かれるか、又はキャリヤーガスを有する混合物が流過される。好ましくは、キャリヤーガスをプロセス温度まで温めてから、オリゴハロゲンシランを、シリコンと金属のハロゲン化物とを含有する混合物から取り除く。
【0017】
キャリヤーガスがN2、希ガス、CO2、CO及びSiCl4から選択される場合に、副生成物としてケイ素ハロゲン化物、特にSiX4及びHSiX3が生成する。キャリヤーガスがHCl及びH2から選択される場合に、副生成物として、部分的に水素を含むケイ素ハロゲン化物が生成する。キャリヤーガスがCH3Clである場合に、副生成物としてメチルクロロシランが生成する。
【0018】
通常は、キャリヤーガスで取り除かれた生成物の少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、特に少なくとも5質量%、かつ好ましくは高くても50質量%、特に好ましくは高くても30質量%、特に高くても15質量%は、式(1)と(2)のオリゴハロゲンシランであり、残りは副生成物である。
【0019】
一般式(1)及び(2)のオリゴハロゲンシランは、直鎖状もしくは分枝鎖状であってよい。一般式(2)のオリゴハロゲンシランは、環を含む。好ましくは、nが2〜6の値、特に2、3及び4の値を有し、かつmが4、5又は6の値、特に2、3及び4の値を有するオリゴハロゲンシランが形成される。
【0020】
100質量部のシリコンに対して、好ましくは少なくとも0.1質量部の、有利には少なくとも0.5質量部の、特に少なくとも1質量部の、かつ好ましくは高くても50質量部の、特に好ましくは高くても15質量部の、特に高くても6質量部の金属ハロゲン化物が使用される。
【0021】
本方法は、混合作用を有し、キャリヤーガスを流過するか又は加えることができ、かつ必要な温度水準に至るあらゆる加熱可能な装置において実施できる。該装置の装填及び排出は、好ましくはキャリヤーガス下で行われる。
【0022】
オリゴハロゲンシラン及び副生成物で負荷されたキャリヤーガス流は、好ましくは凝縮段階を介して冷却され、このようにしてオリゴハロゲンシランが得られる。オリゴハロゲンシランと副生成物とからなる混合物は、好ましくは蒸留により、それらの異なるフラクションへと分けられる。
【0023】
装置としては、例えば回転管炉、スクリュー型熱交換器、コーンミキサー、鉛直ミキサー及び水平ミキサー並びに流動層乾燥機が適している。プロセスの設計は、連続的にも、回分式にも実施することができる。
【0024】
前記式の全ての存在する記号は、それらの意味をそれぞれ互いに独立して有する。全ての式中でケイ素原子は四価である。
【0025】
以下の実施例においては、それぞれ特記しない限りは、全ての量及びパーセントの表記は質量に対するものであり、全ての圧力は0.10MPa(絶対圧)であり、かつ全ての温度は20℃である。
【0026】
例1
2で不活性化された回転管炉(毎分5回転)において、粗製シリコン(ロショーによるメチルクロロシラン製造のための品質)99.45質量%とCuCl、ZnCl2及び塩化スズからなる金属ハロゲン化物混合物0.55質量%とからなる機械的混合物500gを、適度なN2流(150ml/分)下で280〜320℃の温度範囲にもたらし、20〜60分の期間にわたり熱処理した。Cu金属対Znの質量比は、10対1であり、全金属含有率に対するSnの割合は、100ppmである。この条件下で、金属塩化物とシリコンとを反応させて、気体状のクロロシラン生成物が形成され、それを連続的に回転管炉からN2キャリヤーガスによって取り除き、そして後接続された冷却ユニット(冷却温度−70℃)によって凝縮させた。反応の完了後に(冷却器中で凝縮物が生じなくなった後に)、反応を中断し、そして生じた凝縮物(反応混合物)の組成を、GC分析、MS分析及びNMR分析によって測定する。オリゴクロロシランの収率(全金属塩化物含有率に対する)を第1表に示す。凝縮物の主成分(SiCl4、SiHCl3及びSi2Cl6)は、第2表に列挙されている。大きい沸騰温度差に基づき、トリクロロシラン成分及びテトラクロロシラン成分は容易に蒸留により分離でき、そのためオリゴクロロシランは純粋な形で得ることができる。
【0027】
例2
例1で記載される手順を繰り返したが、機械的混合物が、98.35質量%のシリコンと、1.65質量%のCuCl/ZnCl2/塩化スズからなる点で異なる。Cu金属対ZnもしくはSnの質量比は、例1で示したものと同じである。オリゴクロロシランの収率は、第1表に示され、凝縮物の最重要成分は、第2表に列挙されている。
【0028】
例3
例1で記載される手順を繰り返したが、機械的混合物が、96.7質量%のシリコンと、3.3質量%のCuCl/ZnCl2/塩化スズからなる点で異なる。
【0029】
Cu金属対ZnもしくはSnの質量比は、例1で示したものと同じである。オリゴクロロシランの収率は、第1表に示され、凝縮物の最重要成分は、第2表に列挙されている。
【0030】
例4
例1に記載される手順を繰り返したが、934gのシリコンと、66gのCuCl/ZnCl2/塩化スズを使用し、かつそれらを連続的に回転管炉に供給する点で異なる。反応した混合物を回転管から排出することは、同様に連続的に行われる。添加もしくは取り出しは、1時間あたり500gの質量である。すなわち2時間後には、試験は完了し、回転管炉は完全に空になる。Cu金属対ZnもしくはSnの質量比は、例1で示したものと同じである。オリゴクロロシランの得られる収率は、第1表に示され、凝縮物の最重要成分は、第2表に列挙されている。
【0031】
例5
例1で記載される手順を繰り返したが、機械的混合物が、86.8質量%のシリコンと、13.2質量%のCuCl/ZnCl2/塩化スズからなる点で異なる。
【0032】
Cu金属対ZnもしくはSnの質量比は、例1で示したものと同じである。オリゴクロロシランの収率は、第1表に示され、凝縮物の最重要成分は、第2表に列挙されている。
【0033】
例6
例1で記載される手順を繰り返したが、使用される混合物が、73.6質量%のシリコンと、26.4質量%のCuCl/ZnCl2/塩化スズからなる点で異なる。Cu金属対ZnもしくはSnの質量比は、例1で示したものと同じである。オリゴクロロシランの収率は、第1表に示され、凝縮物の最重要成分は、第2表に列挙されている。
【0034】
第1表
第1表中の質量%での金属塩化物濃度についての表記は、シリコンと金属塩化物混合物からなる反応混合物に対するものである。オリゴクロロシランの質量%での収率の表記は、反応混合物中の使用される金属塩化物混合物に対するものである。
【0035】
【表1】

【0036】
第2表: 得られた縮合物の質量%での主成分
【表2】

【0037】
例7
例1で記載される手順を繰り返したが、使用される混合物が、94質量%のシリコンと、6質量%のCuClからなる点で異なる。オリゴクロロシランの収率は、この実施例においては、使用されるCuClに対して22.3質量%である。
【0038】
例8
例1で記載される手順を繰り返したが、シリコン98.5質量%及び8対2の比率の(NH42[SnCl6]とZnCl2とからなる金属塩化物混合物1.5質量%からなる機械的混合物を、280℃で20分の期間にわたり熱処理する点で異なる。その後に、塩化物混合物とシリコンとの反応が終わる。このことは、冷却器中でもはや凝縮物が形成されないことをもって認識できる。分析によって、使用される金属ハロゲン化物混合物の量に対して22.3質量%のオリゴクロロシランの収率がもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)及び(2)
Sin2n+2 (1)
Sim2m (2)
[式中、
Xは、Cl、Br及びIから選択され、
nは、2〜10の整数を意味し、かつ
mは、3〜10の整数を意味する]のオリゴハロゲンシランから選択されるオリゴハロゲンシランの製造方法であって、シリコンと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Mo、W、Fe、Co、Ni、Cu、Cd、In、Sn、P、Sb、Bi、S、Se、Te及びPb及びそれらの混合物から選択される金属のハロゲン化物とを含有する混合物を、−125℃〜1100℃の温度で反応させ、そして形成されたオリゴハロゲンシランを、N2、希ガス、CH3Cl、HCl、CO2、CO、H2及びSiCl4から選択されるキャリヤーガスで除去する、前記製造方法。
【請求項2】
使用されるシリコンが、不純物として多くても2質量%の別の元素を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
別の元素が、Fe、Ni、Al、Ca、Cu、Zn、Sn、C、V、Mn、Ti、Cr、B、P、Oから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
使用される金属ハロゲン化物が、高くても600℃で溶融する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ハロゲンXが塩素である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
Fe、V、Mo、Ni、Cu、Cd、Sn、P、Sb、Bi、Pbから選択される金属のハロゲン化合物が使用される、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
プロセス温度が少なくとも150℃〜600℃である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
nが2、3又は4の値を有し、かつmが4、5又は6の値を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
シリコン100質量部に対して、0.5〜15質量部の金属ハロゲン化物が使用される、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−530668(P2012−530668A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516646(P2012−516646)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058426
【国際公開番号】WO2010/149545
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】