説明

オリゴマー状のビスホスフェート難燃剤およびこれを含有する組成物

一般式(I)(式中、R、R、RおよびRは各々独立にアリールもしくはアルカリールであり、nは約1.0〜約2.0の平均値を有する)を有するオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物、ならびにこれを含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴマー状のビスホスフェート難燃剤に関し、より具体的にはオリゴマー状のヒドロキノンビスホスフェート難燃剤およびこれを含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート(PC)/スチレン含有アロイなどの樹脂組成物における難燃剤として有用であるオリゴマー状のビスホスフェートは、通常、粘性のある液体の形態にあり、特に寒冷気候の場所では加工の際に取り扱うために特別の設備を必要とする。この粘性の液体であるホスフェートは、熱可塑性ポリマー(すなわち、樹脂)が熱および機械的なせん断によって溶融されたのちに、配合押出機へとポンプ輸送されることが多い。特別の設備としては、押し出しプロセスを妨害しないようにオリゴマー状のビスホスフェートの流体を保持するように設計された全体が熱で覆われた(heat−traced)供給ラインを備えた、加熱されたタンクを挙げることができる。特別の設備を使用したとしても、この問題および他の問題を回避するために、加工の際にさらなるステップを採用することが必要とされる。
【0003】
あるいは、トリフェニルホスフェートなどの固体ホスフェートエステル難燃剤を使用することができる。このトリフェニルホスフェートは、通常、フレーク状の形態で入手可能である。しかしながら、これらの固体ホスフェートエステル難燃剤は、押出機の供給域で時期尚早に溶融する傾向があり、これによってこの複合材予備混合物が「橋架け」することが引き起こされ、これにより混合操作を妨害される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの問題に鑑み、改善された物理的特徴を有しかつ上記の加工の問題を回避する、樹脂組成物において使用するための難燃剤が必要とされている。従って、本願明細書に記載する本発明は、樹脂と配合されたときに、これまで提供された難燃性樹脂組成物と比べて優れた難燃性および改善された物理的特性を有する組成物を提供する望ましい物理的特性および特徴を有するオリゴマー状のビスホスフェート難燃剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一般式I:
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は各々独立にアリールもしくはアルカリールであり、nは約1.0〜約2.0の平均値を有する)を有する難燃性のオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートのブレンド、ならびにこれを含有する樹脂組成物に関する。
【0006】
本発明の一態様では、nが約1.0〜約1.1の平均値を有する一般式Iの範囲内にあるオリゴマー状のホスフェートが流動性粉末の形態にあることが驚きをもって見出された。式Iのオリゴマー状のホスフェートに対して用いる場合、通常(しかし、これに限定されない)、「流動性粉末(free−flowing powder)」は約10μm〜約80μmの平均粒径を有する。これらの流動性粉末は、樹脂と混合されたときに、上述した取扱いの問題を回避し、かつ、これまで提供されたオリゴマー状のホスフェート含有難燃性樹脂組成物と比べて、改善された物理的特性(UV安定性、より高い加水分解安定性およびより高い熱変形温度(HDT)など)を樹脂組成物に付与する。
【0007】
本発明の別の態様では、nが約1.1より大きい平均値を有する一般式Iの範囲内にあるオリゴマー状のホスフェートはワックス様固体として特徴付けられるが、このようなオリゴマー状のホスフェートは、さらに予想外なことに、これまで用いられたオリゴマー状のホスフェート難燃剤を含有する樹脂組成物と比べて、改善されたUV安定性、加水分解安定性およびより高いHDT値を、そのオリゴマー状のホスフェートを含有する樹脂組成物に付与する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、オリゴマー状のホスフェート難燃剤およびこれを含有する樹脂組成物に関する。特に、本発明は、好ましくはR1、R2、R3およびR4の各々が独立に一般式II:
【化2】

(式中、各Rは独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキルであり、各Xは独立に塩素または臭素であり、pは0〜3であり、かつqは0〜5であり、pとqとの和は0〜5であり、nは約1.0〜約2.0、好ましくは約1.0〜約1.2以下、より好ましくは約1.0〜約1.1の平均値を有する)のフェニル基である、上記の式(I)の構造を有するオリゴマー状のヒドロキノンビスホスフェート難燃剤に関する。上記の式Iの範囲内の特に好ましいオリゴマー状のビスホスフェートは、ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、すなわちR1、R2、R3およびR4が各々フェニルのものである。
【0009】
概して、本発明のオリゴマー状のヒドロキノンビスホスフェートは、触媒の存在下でジアリールハロホスフェートをヒドロキノンと反応させることにより調製される。本発明の好ましい実施形態では、ジフェニルクロロホスフェート(DPCP)は、MgCl2の存在下でヒドロキノンとの反応に供され、ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)が生成される。本発明によれば、このプロセスによって調製される一般式Iの範囲内にあるヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)は、以下の実施例1で調製されたもののように、約1.1以下の平均n値を有する。
【0010】
別の実施形態では、本発明のヒドロキノンビスホスフェートオリゴマーは、触媒(MgCl2など)の存在下でヒドロキノンを、ジアリールハロホスフェート(ジフェニルクロロホスフェートなど)およびモノアリールジハロホスフェート(モノフェニルジクロロホスフェート(MPCP)など)を含む反応混合物と反応させることにより調製される。このようなプロセスは、米国特許第5,457,221号に記載されている。この米国特許の内容全体を、参照によって本願明細書に援用する。本発明によれば、このプロセスによって調製される一般式Iの範囲内にあるヒドロキノンビスホスフェートオリゴマーは約1.1〜約2.0の平均n値を有し、それらは一般に、以下の実施例2で調製されたもののように、ワックス様の固体である。
【0011】
本発明の1つの好ましい実施形態では、高純度(99%)のジフェニルクロロホスフェート(DPCP)がヒドロキノンとの反応に供され、以下の実施例1によって実証されるように、本質的に純粋な二量体(すなわち約1.02の平均n値)が得られる。この比較的純粋な二量体は、それほど純粋でないDPCPから調製されるオリゴマーよりも高い融点を有し、流動性粉末の生成物を提供する。
【0012】
通常、式Iのnの値は、高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)測定によって生成物中のオリゴマー状のホスフェート種(オリゴホスフェート)の割合をまず測定することによって算出される。次いで重量平均(n)値が、オリゴホスフェートの割合から公知の方法で決定(算出)される。nの値を算出する際には、モノホスフェート種、例えばトリフェニルホスフェートは、その算出に含まれていてもいなくてもよい。本発明のオリゴマー状のビスホスフェートに帰属されるn値は、計算の際このモノホスフェート種を除外して算出された。しかしながら、計算でこのモノホスフェート種が考慮される(使用される)場合には、存在するモノホスフェート種の量に応じてより小さいn値が得られる可能性がある。
【0013】
本発明は、難燃性に有効な量の式Iのオリゴマー状の難燃剤と、少なくとも1つの樹脂とを含有する樹脂組成物に関する。本発明の組成物において使用される樹脂としては、スチレンポリマーおよびスチレンコポリマー、ポリフェニレンオキシド(PPO)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。使用される具体的な樹脂としては、PC/ABS混合物、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)およびPPO/HIPSが挙げられる。これらの種類の樹脂またはポリマー混合物は、例えば米国特許第Re.36,188号、米国特許第6,727,301号および同第6,753,366号に記載されている。これらの特許文献の内容全体を参照によって本願明細書に援用する。本発明の難燃性樹脂組成物は、典型的には、例えば、屋内電気器具、電気装置用ケーシング(casting)、寝具類、家具および自動車部品の製造において有用である。
【0014】
本発明の樹脂組成物で通常使用されるオリゴマー状のホスフェート難燃剤の量は、一般に、その組成物の総重量の約2重量%〜約20重量%、好ましくはその組成物の総重量の約7重量%〜約15重量%の範囲にあり、残りは樹脂である。本発明の難燃性樹脂組成物は、酸化防止剤、安定剤、充填剤および他の難燃剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の好ましい難燃性樹脂組成物は、有効難燃性量の、nの平均値が約1.02であるヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)と、ポリカーボネートと、スチレン含有樹脂コポリマーとを含む。本発明の組成物で使用することができる代表的なポリカーボネートは、General Electric Companyから市販されているLexanである。
【0016】
以下の実施例は、本発明を例証するために使用される。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
以下の表は、本発明に係る難燃性のオリゴマー状のヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)の調製に使用した反応混合物を特定するものである。
【0018】
【表1】

【0019】
(装置)
ガラス反応器、凝縮器のための冷却機、および苛性スクラバー(caustic scrubber)システムを備えた反応熱量計。
【0020】
(手順)
ジフェニルクロロホスフェート、ヒドロキノンおよびMgCl2をN2雰囲気下で反応器に入れた。1時間かけてTR(反応温度)をゆっくり140℃に上昇させた。
【0021】
およそ104℃で、ヒドロキノンはほぼ完全に溶解し、HClガスの発生が始まり、目に見えるようになった。
【0022】
反応温度が設定温度(140℃)に近づくにつれて、HClガスの発生は非常に急速になった。温度を140℃で約10時間保持した。反応は完結し、1以下の終点酸価滴定値に到達した後、これを室温まで冷却した。
【0023】
この粗反応混合物の温度を30分間かけてゆっくりと約107℃まで上昇させ、この粗反応混合物にトルエンを加えてこの材料の洗浄を容易にした。粗反応混合物の洗浄を、85−90℃でおよそ1000gの0.4% シュウ酸水溶液、次いで脱イオン水、次いで1000gの3.5% 水酸化ナトリウム水溶液を用いて行い、脱イオン水で仕上げた。最終洗浄液のpHは約7であった。
【0024】
トルエン/水混合物を、真空下でのロータリーエバポレータによって約95℃〜約99℃の温度で洗浄した生成物から除去し、次いでオーブン中で110℃で一晩乾燥し、全体的に溶融した状態にした。翌日、この溶融した生成物をステンレス鋼製の蒸発皿に注ぎ込み、結晶化を容易にした。
【0025】
82%収率の微細な白色の流動性粉末の生成物を得て、これを約1.02の平均n値を有するヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)であると同定した。
【0026】
この生成物を、フェノール、トルエン、トリフェニルホスフェート(TPP)およびオリゴマーの含有量について高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)を使用して分析した。結果を規格化した面積%(規格化A%)および重量%(wt%)として以下の表に報告する。P2〜P6は、オリゴマー中のリン原子の数を指す。
【0027】
【表2】

【0028】
上記のデータから分かるように、最終生成物はヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)のほぼ98%純粋な二量体であった。得られた生成物は、HPLCによって得た個々の構成要素であるオリゴホスフェートの割合から公知の方法で決定した約1.02の平均n値を有する流動性粉末であった。
【0029】
(実施例2)
実施例1に記載したのと同じ手順を使用して、本発明のオリゴマー状のヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)(HDP)を調製した。このプロセスでは、モノフェニルジクロロホスフェート(MPCP)の添加を利用して、HPLCによって得た個々の構成要素であるオリゴホスフェートの割合を用いて公知の方法で決定した約1.15の平均n値を有するオリゴマー状の生成物(HDP)を生成させた。
【0030】
【表3】

*反応混合物は少量の反応性がないトリフェニルホスフェートを含有していた。これは、米国特許第5,457,221号に記載されているとおりのジフェニルクロロホスフェートおよびモノフェニルジクロロホスフェートの製造における副生成物として存在している。
【0031】
87%収率の生成物を得た。得られた白色固体は、ワックス様の質感を持っているようであり、流動性はなかった。得られた材料のワックス様の質感は、おそらくは、上記の二量体に加えて他のオリゴマー状のリン種が存在することに起因するものである。
【0032】
HPLCを使用してこの生成物を分析し、結果を以下の表に提示した。この実施例では、実施例1とは対照的に、多量の他のオリゴマー状のホスフェート種が存在している。得られたヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)オリゴマーブレンドは、HPLCによって得た個々のオリゴホスフェートの割合を用いて公知の方法で決定した約1.15の平均n値を有するワックス様の固体であった。
【0033】
【表4】

【0034】
実施例1で得たヒドロキノン−ビス(ジフェニルホスフェート)(HDP)(平均n値=1.02)の流動性粉末を含有するPC/ABS樹脂組成物を、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(Fyrolflex RDP)(平均n値=1.28)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(Fyrolflex BDP)(平均n値=1.14)(これらはともにSuprestaから入手できる)、およびビスキシレニルホスフェートPX200(RXP)(大八化学工業株式会社から入手できる)を含有するPC/ABS樹脂と比較した。UV安定性、加水分解安定性およびHDT(熱たわみ温度)値を得て、比較した。結果を以下の実施例3−実施例5に示す。樹脂組成物の各々は、樹脂組成物の総重量の0.30重量%のPTFE(テフロン(登録商標))も、防滴剤(anti−dripping agent)として含有していた。
【0035】
(実施例3)
UV安定性
難燃剤としてそれぞれFyrolflex RDP(n=1.28)、Fyrolflex BDP(n=1.14)、PX200(RXP)(n値は適用不可)および本発明の(実施例1で調製した)HDP(n=1.02)を含有するPC/ABS複合材を、同程度の可燃性(UL−94/V0、1.6mm 可燃性等級)を有する組成物へと配合した。これら複合材を押出し配合し、さらに射出成形プロセスで分散させた。これらの成形品で試験棒を調製し、促進UV曝露のためのQ−UVパネル試験に置いた。4つの複合材を、試験装置(Q−UVパネル試験機)中で約500時間(UV光のみ)、等しくUV照射に曝露した。曝露させた試料を、各試料の退色の程度について5人の人間によって目で見て判断し、最少の着色を伴う複合材に対する1(最良)および最も高い色変化を伴うコンパウンドに対する5(最悪)のポイント値を与えた。結果を以下の表に報告する。
【0036】
【表5】

【0037】
上記のPC/ABS複合材のUV安定性を以下のように判断した(最良から最悪へ);ニートのPC/ABS;BDPおよびHDP;RDP;PX200(RXP)。換言すれば、本発明のHDPを含有するPC/ABS複合材の退色の程度は、PC/ABS Fyrolflex RDPおよびPX200の退色の程度よりも驚くほど良好で、Fyrolflex BDPを含有するPC/ABS複合材と実質的に同じであった。
【0038】
(実施例4)
加水分解安定性
ポリカーボネートは、特に酸性条件下で高熱および高湿度に曝されたとき、加水分解を受けやすい。従って、より良好な加水分解安定性を有する難燃剤は、ポリマー複合材を不安定化する効果がより小さい。ホスフェートエステルは、高熱および高湿度に敏感であり、酸種へと加水分解を受けてこれらの複合材の安定性に影響を及ぼす可能性がある。
【0039】
加水分解安定性に関して、実施例1で調製したとおりの約1.02の平均n値を有するHDPを含有するPC/ABS樹脂は、試験した他の難燃性PC/ABS樹脂複合材に対して予想外の改善を示した。試験した複合材を、UL94/V0可燃性仕様へとFR−PC/ABSに配合した。上で特定した同じFyrolflex RDP、Fyrolflex BDPおよびPX200(RXP)ならびに実施例1で調製したヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)(HDP)を用いて複合材のペレットを各々調製し、グラスウールで隔離した脱イオン水とともに密封したチューブの中に置いた。ブレンドした難燃剤に対するこれらの複合材のPC部分の安定性を、促進環境への曝露後に測定した。試験した材料の各々についてのセットを、107℃の温度に前もって設定したオーブンの中に種々の時間間隔で置いた。
【0040】
90時間では、本発明のHDPを含有するPC/ABS樹脂複合材の加水分解安定性がFyrolflex RDPおよびFyrolflex BDPを含有する樹脂複合材よりも良好であり、PX200(RXP)を含有する樹脂複合材と同程度であることが判明した。特に、本発明のHDPを含有する樹脂の加水分解安定性は、Fyrolflex RDPおよびFyrolflex BDPを含有する樹脂よりも良好であった。PX200(RXP)含有複合材は、曝露の初期段階ではHDP含有複合材よりも安定であったが、90時間の促進曝露後では同程度のレベルの安定性を示した。以下の表中に示した値は、気相クロマトグラフィ(GPC)を使用して測定した、試験した複合材のポリカーボネートの平均分子量である。
【0041】
【表6】

【0042】
(実施例5)
熱変形温度
あらゆる工学的樹脂についての重要な特性の1つがその熱変形温度(HDT)値である。電子機器の動作で、標準的な家庭用電流または遠隔的にバッテリから電力供給を受ける電化製品で熱が生成される。複合材が所与の用途に対してあまりに低いHDT値を有する場合、プラスチック部は軟化して機器として役立たないものになるかも知れない。従って、より高いHDTを有するホスフェート組成物は、より低いHDT値を有するホスフェート複合材よりも好ましい。なぜなら、それは適切な材料を選択する際の重要なパラメータであることが多いためである。
【0043】
このパラメータを試験するための標準規格は、ASTM−D−648である。同程度の荷重(264psi(約1.82MPa))で試験し、難燃剤として、Fyrolflex RDP(上記と同じ)、Fyrolflex BDP(上記と同じ)、PX200(RXP)(上記と同じ)および実施例1で調製したヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)を含有する樹脂組成物に対してHDT値を測定した。それらの組成物の各々を、同等のFR性能レベルを有する組成物を提供するのに十分な難燃剤を用いて調製した。結果を以下の表に報告する。
【0044】
【表7】

【0045】
上記のデータから分かるように、本発明のHDPを含有するPC/ABS樹脂複合材が、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)およびビスフェノールAビスホスフェート(BDP)類似体の両方よりも有意に良好であることを見出した。レゾルシノールビスキシレニルホスフェート(PX200)類似体は、同じ指針(ASTM−D648)を使用して試験した場合には、わずかに高かった。
【0046】
実施例3−実施例5で試験した4つの樹脂複合材の全体的な性能を等級付けし、結果を以下の表に提示した。難燃剤としてそれぞれFyrolflex RDP、Fyrolflex BDP、PX200(RXP)および実施例1で調製したヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)を含有する各樹脂複合材を、各実施例で測定したとおりの最良のUV安定性(実施例3)、加水分解安定性(実施例4)およびHDT(実施例5)を有する樹脂組成物を表す1というポイント値を使用して等級付けした。この比較では、数字が高いほど、同じ実施例における他の樹脂複合材と比べて、樹脂複合材の性能は低い。これらの値を一緒に合算して単一の性能数(performance number)を与えた。最も小さい数が、UV安定性、加水分解安定性およびHDTについて最良の全体的な複合性能を有する樹脂複合材であることを示す。
【0047】
【表8】

*所与の試験指針では同一または同程度の性能。
【0048】
上記のデータから分かるように、本発明のHDPを含有する樹脂複合材は、試験したすべての樹脂複合材のうちで最良の全体的な性能を示した。換言すれば、本発明のHDPを含有する樹脂複合材は、試験した試料のうちで最良の複合的なUV安定性、加水分解安定性およびHDTの物理的特性を有する。
【0049】
(実施例6)
FR−ポリカーボネート複合材の可燃性結果
【0050】
【表9】

PC/MF11 = Lexan 141、GE Plastics
PC/MF23 − Calibre 200、Dow
AFT=平均フレーム時間
【0051】
いくつかのポリカーボネート樹脂は、おそらくポリマー分枝および/または比較的高い溶融流れ粘度に起因して、(UL94指針によって試験した場合)非常に難燃化しにくい。これらの樹脂に対しては、トリフェニルホスフェートなどの気相FR添加剤を単にドーピングするだけでこれらの可燃性の問題が解決できることが見出された。この目的のために有用な他の気相FR添加剤としては、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、t−ブチル化フェニルジフェニルホスフェート、クレゾールホスフェートなどのモノホスフェートエステルが挙げられる。さらなる気相FR添加剤としては、臭素化ポリカーボネートオリゴマー、臭素化ポリスチレン、ジフェニルスルホンスルホン酸カリウム(KSS)、ホスフィン酸塩、ポリリン酸アンモニウム、シアヌル酸メラミン、ピロリン酸メラミンが挙げられる。
【0052】
FR−ポリカーボネート複合材の物理的特性
【0053】
【表10】

PC/MF11 = Lexan 141、GE Plastics
PC/MF23 − Calibre 200、Dow
【0054】
トリフェニルホスフェートはより大きい「可塑化効率」を有するため、このドーピングの正味の効果は、熱変形温度(わずかに低下)および衝撃強度(わずかに改善)などの他の物理的特性にわずかの影響しか示さない。他の試験した特性の結果は実験の範囲であると考えられる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態を例示して詳細に説明してきたが、例えば構成要素、材料、パラメータの種々の修正が当業者には明らかとなるであろう。すべてのかかる修正および変更は、本発明の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは各々独立に、アリールもしくはアルカリールであり、nは約1.0〜約2.0の平均値を有する)を有するオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物。
【請求項2】
nが約1.0〜1.2未満、または約1.0〜約1.2の平均値を有する、請求項1に記載のオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物。
【請求項3】
、R、RおよびRが各々独立に、一般式II:
【化2】

(式中、各Rは独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキルであり、各Xは独立に塩素もしくは臭素であり、pは0〜3であり、かつqは0〜5であり、pとqとの和は0〜5である)を有するフェニル基である、請求項1に記載のオリゴマー状のホスフェート。
【請求項4】
nが約1.0〜約1.1の平均値を有し、かつ前記オリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物が流動性粉末の形態にある、請求項1に記載のオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物。
【請求項5】
式IのR、R、RおよびRが各々フェニルであり、nが1.02の平均値を有する、請求項1に記載のオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物。
【請求項6】
樹脂組成物であって、
(i)難燃性に有効な量の、以下の一般式I:
【化3】

(式中、R、R、RおよびRは各々独立にアリールもしくはアルカリールであり、nは約1.0〜約2.0の平均値を有する)を有するオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物と、
(ii)樹脂と
を含む、樹脂組成物。
【請求項7】
、R、RおよびRが各々独立に、以下の一般式II:
【化4】

(式中、各Rは独立に1〜4個の炭素原子を有するアルキルであり、各Xは独立に塩素または臭素であり、pは0〜3であり、かつqは0〜5であり、pとqとの和は0〜5である)を有するフェニル基である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂が、スチレンポリマーおよびスチレンコポリマー、ポリフェニレンオキシド(PPO)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項6または請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂がPC/ABSまたはPPO/HIPSである、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
式Iのnが約1.0〜1.2未満または約1.0〜約1.2の平均値を有する、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
式Iのnが約1.0〜約1.1の平均値を有する、請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
全組成物の約2重量%〜約20重量%の式Iのオリゴマー状のホスフェートまたはオリゴマー状のホスフェートの混合物難燃剤を含有する、請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記式Iのオリゴマー状の難燃剤がヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)である、請求項6から請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)が約1.02の平均n値を有する、請求項13に記載の樹脂組成物。

【公表番号】特表2010−502625(P2010−502625A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526738(P2009−526738)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/019172
【国際公開番号】WO2008/027536
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(505408963)スプレスタ エルエルシー (11)
【Fターム(参考)】