説明

オレフィン系グラフト重合体の精製方法

【課題】遷移金属錯体含有触媒を重合触媒とするビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して製造される、ポリオレフィンセグメントとラジカル重合体セグメントが結合した構造のオレフィン系グラフト重合体を含有する溶液から、触媒残査、未反応モノマー成分、溶媒成分等を効率的に取り除く精製方法を提供すること。
【解決手段】遷移金属錯体を含む触媒を重合触媒とするビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して製造されるポリオレフィンセグメントとラジカル重合体セグメントが結合した構造のオレフィン系グラフト重合体を含有する溶液から、以下の工程(工程1〜工程3)を経ることを特徴とするオレフィン系グラフト重合体を精製する方法。(工程1)ポリマーの良分散液化工程。(工程2)未反応モノマー・溶媒・触媒残査分離工程。(工程3)乾燥工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体を含む重合触媒を用いてビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して製造される、ポリオレフィンセグメントとラジカル重合体セグメントが結合した構造のオレフィン系グラフト重合体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリオレフィンは、成形性、耐熱性、機械的特性、衛生適合性、耐水蒸気透過性などに優れ、成型品の外観が良好であるなどの特徴を有することから、押出成型品、中空成型品、射出成型品などに広く使用されている。
【0003】
しかし、ポリオレフィンは分子中に極性基を含まないため、金属、ガラス、紙、または、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアクリレートなどの極性樹脂との相容性、極性樹脂や接着性が乏しく、これらの材料とブレンドして利用したり、積層して利用したりすることが困難であるという問題があった。このような問題を解決するために、従来ポリオレフィンに極性基含有モノマーをグラフトして、極性樹脂との親和性を向上させる方法が広く行われている。例えば、過酸化物存在下、ポリオレフィンに無水マレイン酸や(メタ)アクリル酸エステル類などの極性基含有モノマーをグラフとさせる方法などが一般に広く用いられている。中でもマレイン酸グラフトポリオレフィンは、ポリオレフィンと金属、紙、極性熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などとの接着剤、相容化剤として広く用途展開されている。
【0004】
このような変性ポリオレフィンは、過酸化物に代表されるラジカル発生剤の添加によるグラフト化反応を経由している。ラジカル発生剤を用いる変性方法ではポリオレフィン主鎖の切断や架橋が起きるため、目的の物性を有するポリマーを得るためには反応条件に制限が加えられることや、極性基含有モノマーの種類やグラフト量に制限があることが問題となっていた。また、ポリオレフィンに官能基を有するビニル単量体とラジカル発生剤を混合し、高温で混練することによって得られる変性ポリオレフィンが工業化されている。しかしながら、本手法でも、上記と同様、ポリオレフィン鎖の切断や架橋が製造面や物性面で障害となる場合があった。さらに、このようにして得られる組成物中には、ビニル単量体あるいはその重合体がグラフト化されたグラフト化ポリオレフィンが存在するものの、ビニル単量体の大半は架橋されないフリーラジカル重合体としてポリマー組成物中に存在するため、接着剤、相容化剤や各種添加剤などとして用いる場合、十分な性能を発現しないという欠点があった。その欠点を補った技術として、本出願人らによる特開2004-131620号公報、WO2006/088197号公報で示される如く、極性ホモ重合体などの単一ポリマー成分が極めて少ない、ポリオレフィン−極性重合体グラフト重合体を製造する技術が開示されている。当該技術においては、ハロゲン原子を導入したポリオレフィンを原子移動ラジカル重合の高分子開始剤として利用し、非オレフィン系ビニルモノマーをラジカル重合させる手法が取られている。原子移動ラジカル重合法は、遷移金属錯体を触媒とする制御ラジカル重合法であることから、上述の如き非グラフト性極性ホモ重合体の生成が極力抑制され、高純度のグラフトポリマーを得ることが可能となる。
【0005】
しかしながら、当該技術を適用し目的のオレフィン系グラフト重合体を製造するに際しては、重合後に如何にグラフトポリマーを効率的に純度よく得るかが問題であった。すなわち工業的に十分に満足できる精製方法がなかった。触媒として用いられた遷移金属錯体触媒残査が製品ポリマー中に残存すると、ポリマーの着色、物性面への影響および環境及び衛生面への安全性などの問題がある。また未反応のモノマーや溶媒等が残存しても衛生面に問題を引き起こす可能性がある。そのため、触媒残渣、溶媒やモノマー成分の効果的な除去・精製工程が必要とされるが、本質的に低極性のポリオレフィンと極性ラジカルセグメントが結合する本願発明に係わるポリマーにおいては、公知のポリマー精製・単離法をそのまま採用することができなかったのである。
【特許文献1】特開2004-131620号公報
【特許文献2】WO2006/088197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる実状において本発明者らが解決しようとする課題は、遷移金属錯体含有触媒を重合触媒とするビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して製造される、ポリオレフィンセグメントとラジカル重合体セグメントが結合した構造のオレフィン系グラフト重合体を含有する溶液から、触媒残査、未反応モノマー成分、溶媒成分等を効率的に取り除く精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
遷移金属錯体を含む触媒を重合触媒とするビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して製造される、ポリオレフィンセグメントとラジカル重合体セグメントが結合した構造のオレフィン系グラフト重合体を含有する溶液から、以下の工程(工程1〜工程3)を経る精製方法を適用することによって、ポリオレフィン系グラフト重合体に残存する遷移金属触媒残査、未反応モノマー成分、溶媒成分が効率的に低減されることを見出し、本発明に到達した。
(工程1)ポリマーの良分散液化工程
(工程2)未反応モノマー・溶媒・触媒残査分離工程
(工程3)乾燥工程
【発明の効果】
【0008】
ポリマーの着色が少なく、ポリマー性状が良く、環境及び衛生面における安全性が高いオレフィン系グラフト共重合体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、遷移金属錯体を含む触媒を重合触媒とするビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して製造されるポリオレフィンセグメントとラジカル重合体セグメントが結合した構造のオレフィン系グラフト重合体を含有する溶液から、以下の工程(工程1〜工程3)を経ることを特徴とするオレフィン系グラフト重合体の精製方法を具体的に説明する。
(工程1)ポリマーの良分散液化工程
(工程2)未反応モノマー・溶媒・触媒残査分離工程
(工程3)乾燥工程
【0010】
まず、本発明の精製方法が適用されるオレフィン系グラフト重合体について説明する。該オレフィン系グラフト重合体は、例えば、特開2004-131620号公報や、WO2006/088197号公報に開示される方法に代表される如く、臭素原子含有ポリオレフィン(P―Br)をマクロ開始剤として、遷移金属錯体を触媒残査としてビニルモノマーを重合させることにより得られる、ポリオレフィンセグメントとラジカル重合セグメントからなるグラフト共重合体である。
【0011】
本発明の精製法が適用されるオレフィン系グラフト重合体のポリオレフィンセグメント(P)は、以下の(P−1)〜(P−3)に示すセグメント、すなわちα-オレフィン(本発明では、用語「α−オレフィン」はエチレンも包含した意味で用いられる)を主モノマーとするホモ重合体あるいは共重合体を示す。
(P−1)炭素数が2〜20の直鎖状、または分岐状のα−オレフィンの単独重合体または共重合体。
(P−2)エチレン−ビニルエステル系共重合体。
(P−3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体。
【0012】
先ずは(P−1)を詳細に説明する。炭素数が2〜20の直鎖状、または分岐状のα−オレフィンの単独重合体または共重合体として、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ノルボルネン、テトラシクロドデセンなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体が挙げられる。これらの例示オレフィン類の中では、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、テトラシクロドデセンから選ばれる少なくても1種以上の重合体であることが好ましい。
【0013】
次に(P−2)は、エチレンとビニルエステルの共重合体である。ビニルエステルとして具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ネオ酸ビニル、およびその加水分解物などが挙げられる。
【0014】
次に(P−3)を詳細に説明する。(P-3)は、高圧法により得られるエチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのメタクリル酸エステルであって炭素数4〜8の不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらのコモノマーは一種又は二種以上用いることができる。
【0015】
(P)として、特に好ましい重合体として、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン系エラストマ−、プロピレン系エラストマー、イソタクチックポリポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、高圧法低密度ポリエチレン及びそのアクリル酸、アクリル酸エステル、酢酸ビニルとのコポリマー、ポリオレフィン系アイオノマー、4−メチルペンテン−1重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体などが挙げられる。
【0016】
また(P)は、上述した(P−1)〜(P−3)からなる群から選ばれる一種のみならず、2種以上から構成されていても良い。また、(P)が有機化酸化物による変性法により無水マレイン酸やアクリル酸エステルなどでグラフト化されていたり、イオン性化合物や金属類でイオン架橋されていても良い。
【0017】
本発明の精製法が適用されるオレフィン系グラフト重合体のラジカル重合セグメント(R)は、ビニルモノマーのラジカル重合体であり、先に述べた、ポリオレフィンセグメント(P)の臭素化によって誘導された、臭素原子含有ポリオレフィン(P―Br)をマクロ開始剤として、後述する原始移動ラジカル重合が可能なビニルモノマーの重合体である。
【0018】
好ましいビニルモノマーのモノマーの具体例として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸-n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸-n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル系モノマー、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン系モノマー、ブタジエン、イソプレン等のジエン系モノマー、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等、更には、末端にアクロイル基、メタクロイル基やスチリル基などの炭素-炭素不飽和結合を有し、分子量が100〜100,000のマクロモノマー等が挙げられる。
【0019】
原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)とは、すなわち、Science,(1996),272,866、Chem. Rev., 101, 2921 (2001)、WO96/30421号公報、WO97/18247号公報、WO98/01480号公報、WO98/40415号公報、WO00/156795号公報、あるいは澤本ら、Chem. Rev., 101, 3689 (2001)、特開平8-41117号公報、特開平9-208616号公報、特開2000-264914号公報、特開2001-316410号公報、特開2002-80523号公報、特開2004-307872号公報で開示されているような、有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、遷移金属を中心金属とする金属錯体を触媒としてラジカル重合性単量体をラジカル重合する方法である。特開2004-131620号公報、WO2006/088197号公報に示される如く、本発明の精製に適用されるオレフィン系グラフト共重合体は上記原子移動ラジカル重合方法で製造されたものが対象となる。
【0020】
ここに用いられる遷移金属錯体含有触媒またはその残査成分が上述したオレフィン系グラフト重合体中に残存すると、着色の問題や環境及び衛生面への問題が生じる為、除去する必要がある。
【0021】
次に、本発明に係る上記オレフィン系グラフト共重合体の精製方法について各工程毎に説明する。
【0022】
(工程1)ポリマーの良分散液化工程
本工程は、原子移動ラジカル重合後における前述のオレフィン系グラフト重合体を、性状の優れたスラリー状ポリマー分散液とする工程である。通常、重合後のポリマー溶液は、前述したポリオレフィンセグメントとラジカル重合セグメントの両方、又は一方が、使用する溶媒/モノマー中に溶解状態にあり(以後、この状態をポリマー溶液と呼ぶ)、未反応モノマー・溶媒・触媒残査分離工程(工程2)にそのまま適用することが難しい。そのため、ポリマー粒子を良分散液化させる必要がある。
【0023】
本工程は、最終的な精製後ポリマー中の不純物量とポリマーモルフォロジーを制御する上で最も重要な役割を果たす。
【0024】
ポリマー粒子を良分散液化する方法としては、下記に示す条件で実施される降温法あるいは、貧溶媒添加法が用いられる。
【0025】
降温法は、重合後のポリマー溶液をゆっくりと降温させポリマーまたはポリマーを構成するセグメントを析出させると同時にポリマー粒子を良分散液化させる方法である。本操作において、ポリマー濃度、攪拌速度および降温速度をコントロールすることで性状の優れたスラリー状ポリマー分散液を得ることができる。
【0026】
この時の、オレフィン系グラフト重合体のポリマー濃度は、通常10g/L〜500g/Lであり、好ましくは、10g/L〜100g/Lである。
【0027】
重合後のポリマー濃度が上記範囲より高い場合は、重合に用いた溶媒あるいは類似の性質を有す溶媒にて希釈した後に降温操作を行う。
【0028】
降温速度は、重合後のポリマー溶液の温度から、通常5℃/hr〜100℃/hrの速度で降温し、ポリマー析出温度の前後5℃の範囲においては、5℃/hr〜50℃/hrで降温する。降温速度が遅いほど、性状が良好なポリマー分散液を得ることが可能となる。
【0029】
一方、貧溶媒法は、重合後のポリマー溶液に、貧溶媒を加えポリマーを析出させる手法である。貧溶媒法は、重合後のポリマー溶液においてポリオレフィンセグメントが既に非溶解または半溶解のスラリー状であるが、ラジカル重合セグメントが溶解状態のために高粘度状態にある場合に好ましく用いられる。
【0030】
この場合、貧溶媒として用いられる溶媒は、ラジカル重合セグメントを析出させる溶媒(つまり、ラジカル重合セグメントに対して非溶解性を示す溶媒)であれば特に限定されるものではなく用いることができる。しかし、用いた遷移金属錯体含有触媒またはその残査成分を溶解させる性質を持ち、触媒残渣をポリマー粒子から引き抜く性能を併せ持つ溶媒であることが好ましく、従って、水、水酸基含有溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒が好ましく用いられる。水酸基含有溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコールが好ましく例示され、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましく例示され、ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエチルケトン等が例示され、エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸部ブチル、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート等が例示される。触媒残査が、有機溶媒に不溶解性の場合、水を用いることもできる。この場合、中性水を用いる場合もあるが、酸性水溶液あるいは塩基水溶液も好ましく用いられる。
【0031】
重合後のポリマー溶液におけるポリオレフィンセグメントが完全溶解状態である場合、上記の貧溶媒の添加をゆっくり行う。一度に大量の貧溶媒を加えた場合、ポリマーが不均質に析出する、すなわち、粒系が最大5mm以上のポリマー粒子が生成してしまい、後工程(工程2、工程3)において、十分に触媒残渣を除くことが困難となる。
【0032】
貧溶媒の添加速度は、添加時の温度、オレフィン系グラフト重合体のセグメント種、ポリマー濃度、重合に用いられた溶媒種により異なるが、貧溶媒添加後に析出したポリマー粒子の平均粒系が、通常5mm未満、好ましくは、1mm未満に調製されるような速度で添加する。
【0033】
本工程において、上記降温法および貧溶媒添加法は、単独で用いられても良いが、両者を組み合わせることで、性状の優れたスラリー状ポリマー分散液を得ることが可能である。
【0034】
(工程2)未反応モノマー・溶媒・触媒残査分離工程
工程1で得られた、性状の優れたオレフィン系グラフト重合体からなるスラリー状ポリマー分散液(以後、ポリマー分散体と呼ぶ)は、本工程2において、オレフィン系グラフト重合体と未反応モノマー・重合溶媒・触媒残査に分離される。
【0035】
本工程は、通常、既存技術の濾過、遠心分離、沈降分離等の方法と、洗浄溶媒による洗浄を繰り返すことで実施される。
【0036】
洗浄溶媒による洗浄は、ポリマーを固定層として洗浄溶媒を流通させる方法や洗浄溶媒中にポリマーを投入して攪拌または超音波を伴う固液洗浄法が適用される。
【0037】
洗浄溶媒としては、ポリマーを実質的に溶解させず、未反応モノマー及び触媒成分を溶解させるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、水、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸部ブチル、トルエン、キシレン等が例示される。
【0038】
固液洗浄による方法の場合、たとえば、水と有機系洗浄溶媒の組み合わせによる2相での洗浄も好ましく用いられる。この時、水層は、中性でも良いが触媒残査成分の抽出性の優れる酸性あるいは、塩基性の水溶液とすることも可能である。また、水層と有機層を良好に分離させるため、水層に塩化ナトリウム等の金属塩を加えてもよい。
一方、本工程において、触媒残渣を除く手段として吸着剤を用いることもできる。
【0039】
吸着剤とポリマー分散体の固液接触には様々な実施態様が可能であるが、通常吸着剤を容器に充填しポリマー分散体を含む液相を通液する固定層方式等が利用される。
【0040】
一方、ポリマー分散体を加熱操作等により再溶解させた状態で、吸着剤と接触させることもできる。この場合、ポリマーが均質溶解状態であるから、撹拌混合と固液分離を回分操作で行う回分式のほか、吸着剤を容器に充填し重合体溶液を通液する固定層方式、吸着剤の移動層に液を通じる移動層式、吸着剤を液で流動化して吸着を行う流動層式等も利用できる。
【0041】
重合体溶液を吸着剤に接触させた後、ポリマーが析出しない条件で、濾過、遠心分離、沈降分離等の方法で吸着剤を除去する。
【0042】
吸着剤の種類は特に限定されないが、例えば、活性炭、二酸化ケイ素、固体酸、酸性白土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート、等が挙げられる。これらのうち、活性炭、活性アルミナ、二酸化ケイ素、アルミニウムシリケートが好ましく、活性炭、アルミニウムシリケートがより好ましい。
【0043】
吸着剤処理の温度や圧力については特に制限はないが、一般に常圧で0℃〜200℃、好ましくは室温〜150℃で行うのがよい。最終的に吸着剤を除去することによって精製されたオレフィン系グラフト重合体が得られる。また、吸着剤の使用量は、ポリマー100重量部に対して0.1〜500重量部の範囲であるが、経済性と操作面から更に好適には5〜200重量部の範囲である。
【0044】
また、通常、吸着剤による触媒残査の吸着除去は本工程において行われるが、場合によっては、工程1を行う前、すなわちポリマーの良分散液化工程の前に実施することもできる。
【0045】
工程2を経たポリマーは、通常20〜80重量部の溶媒を含む固体として得られる。特に、ポリマー平均粒系が5mm未満であり、溶媒を含んだウエットケーキ状の形態であることが好ましい。
【0046】
(工程3)乾燥工程
本工程は、工程2で得られたオレフィン系グラフト重合体からなるポリマーを単離する最終工程である。
【0047】
乾燥温度は、ポリマーが乾燥機内で溶融しない温度で実施され、通常、0℃〜200℃で行われる。
【0048】
乾燥中に、窒素ガスや乾燥空気を流通させることや、減圧条件で乾燥を行うこと、あるいは、乾燥槽を回転させることによって効率よく短時間で乾燥を行うことができる。
【0049】
乾燥後のポリマー中に含まれる総溶媒量(重合および精製に用いるすべての溶剤および未反応モノマー)は、全重量に対して通常1.0wt%未満、好ましくは、0.5wt%未満である。
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
特開2004-131620号公報に記載される方法に準拠して、ハロゲン基含有ポリプロピレンを原料として、臭化銅/N,N,N‘,N“,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)触媒、トルエン溶媒中で、メタクリル酸メチル(MMA)の重合を行った。重合終了時の温度は80℃、ポリマー(PP-g-PMMAグラフト重合体)濃度は、120g/L、触媒残査分は銅濃度として 1.8mmol/L であった。
【0052】
(工程1)
上記重合後のスラリー溶液を50℃まで冷却させ、全溶液量に対し、20重量部のメタノールを加えた。このことにより系の粘度が低下し、性状の良いスラリー状ポリマー分散液が得られた。
【0053】
(工程2)
工程1により得られたスラリー状ポリマー分散液を、遠心分離器で処理し、溶媒を含んだウエットケーキ状ポリマーを得た。その後、ポリマーを、メタノール溶媒を満たした洗浄槽に入れ、400rpmの攪拌速度で30分間固液洗浄を行った。このときのポリマー濃度は、120g/Lであった。洗浄後のスラリー液を、再度遠心分離器で処理し60重量部のメタノールを含むウエットケーキ状ポリマーを得た。
【0054】
(工程3)
工程2で得られたポリマーウエットケーキを槽型乾燥機に入れ、80℃の乾燥窒素を流通させながら1時間乾燥させた。
【0055】
上記工程を経て得られたオレフィン系グラフト重合体(PP-g-PMMA)は、白色パウダー状であり、その嵩密度は、0.24g/mlであり、5mmを超える不定形のパウダー粒子は観察されなかった。また、ICP発光分析装置(VISTA−PRO[SEIKO電子工業製])で測定された残存銅濃度は、11ppmであった。また、残存する揮発成分(残存溶媒や残存モノマーの総量)は、0.03wt%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属錯体を含む触媒を重合触媒とするビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して製造されるポリオレフィンセグメントとラジカル重合体セグメントが結合した構造のオレフィン系グラフト重合体を含有する溶液から、以下の工程(工程1〜工程3)を経ることを特徴とするオレフィン系グラフト重合体を精製する方法。
(工程1)ポリマーの良分散液化工程
(工程2)未反応モノマー・溶媒・触媒残査分離工程
(工程3)乾燥工程

【公開番号】特開2008−106094(P2008−106094A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288169(P2006−288169)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】