説明

オレフィン系重合体の製造方法

【課題】本発明の課題は、助触媒フリーのオレフィン系重合体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】中性配位子、8〜10族の遷移金属、水素又は炭化水素基、及びハロゲンからなる錯体と、アニオン性界面活性剤と、水と、オレフィン系モノマーとを混合し、所定の温度で撹拌することにより、オレフィン系重合体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系重合用触媒として、後周期遷移金属錯体系の触媒が注目されている。このうち、パラジウム系触媒は水中でも比較的安定であって、中でもα−ジイミン型の配位子を有するパラジウム系触媒(Brookhart触媒)は、水系でも比較的高いオレフィン重合活性を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】「ケミカル・レビューズ(Chemical Reviews)」、2000年、第100巻、1169頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の触媒を用いた場合、活性種(カチオン種)を得るためには、錯体からハロゲンを引き抜くための助触媒が必須となる。しかし、助触媒は一般的に高価であり、また、活性種を生成させるプロセスも必要となる。従って、助触媒フリーの反応系が望まれている。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、助触媒フリーのオレフィン系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、中性配位子、8〜10族の遷移金属、水素又は炭化水素基、及びハロゲンからなる錯体と、アニオン性界面活性剤と、水と、オレフィン系モノマーとを混合し、所定の温度で撹拌することを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法に関する。
【0007】
好ましい実施態様としては、8〜10族の遷移金属が、2価のパラジウムであることを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法に関する。
【0008】
好ましい実施態様としては、中性配位子が、α−ジイミン型の配位子であることを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法に関する。
【0009】
好ましい実施態様としては、中性配位子、8〜10族の遷移金属、水素又は炭化水素基、及びハロゲンからなる錯体が、下記一般式(1)または一般式(2)で表されることを特徴とする記載のオレフィン系重合体の製造方法に関する。
【0010】
【化3】

(式中、R1,R4はそれぞれ独立したものであって、炭素数1〜4の炭化水素基である。R2,R3はそれぞれ独立したものであって、水素原子又はメチル基である。R5は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基である。Xはハロゲン原子である。Mは8〜10族の遷移金属である。)
【0011】
【化4】

(式中、R1,R4はそれぞれ独立したものであって、炭素数1〜4の炭化水素基である。R5は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。Xはハロゲン原子である。Mは8〜10族の遷移金属である。)
好ましい実施態様としては、アニオン性界面活性剤が、硫酸塩またはスルホン酸塩であることを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法に関する。
【0012】
好ましい実施態様としては、前記所定温度が、0〜100℃であることを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様としては、オレフィン系モノマーが、炭素数10以下のα−オレフィンであることを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るオレフィン系重合体の製造方法では、ハロゲンを引き抜くための助触媒も、そのためのプロセスも必要としない。このため、重合体を安価に製造することが可能になる。また、重合体の生産性を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明を詳細に説明する。
本発明者は、中性配位子、8〜10族の遷移金属、水素又は炭化水素基、及びハロゲンからなるオレフィン系重合用錯体を、アニオン性界面活性剤、水、及びオレフィン系モノマーと混合するのみにより、助触媒等を用いずとも、容易に錯体を活性化させ、オレフィン重合反応を進行させることが可能であることを見出した。
【0016】
本発明において、オレフィン系重合用錯体は、水共存下でオレフィン重合活性をもつものであれば、いずれのものでも使用可能である。中心金属としては、8〜10族のいわゆる後周期金属が好ましく、この中でも、パラジウムが水中で安定的であることから好ましく、特に2価のパラジウムが好ましい。
【0017】
本発明のオレフィン系重合用錯体の配位子としては、窒素、酸素、リン、硫黄を含有する配位子が挙げられるが、特に制限はなく、例えば、Chem.Rev.2000年,100巻,1169頁、有機合成化学協会誌,2000年,第58巻,293頁、Angew.Chem.Int.Ed.2002年,第41巻,544頁、Chem.Rev.2003年,第103巻,283頁等の総説中に記載されている配位子を用いることができる。その中でも中性配位子が好ましく、合成が簡便という点で2つのイミン窒素を有する配位子が、活性が高いという点で特にα−ジイミン型の配位子が好ましい。
【0018】
本発明のオレフィン系重合用錯体は、下記一般式(1)、または一般式(2)で示されることが好ましい。
【0019】
【化5】

(式中、R1,R4は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R2,R3は各々独立して水素原子、またはメチル基である。R5は水素原子、または炭素数1〜20の炭化水素基である。Xはハロゲン原子である。Mは8〜10族の遷移金属である。)。
【0020】
【化6】

(式中、R1,R4は各々独立しており、炭素数1〜4の炭化水素基である。R5は水素原子、または炭素数1〜20の炭化水素基である。Xはハロゲン原子である。Mは8〜10族の遷移金属である。)。
【0021】
配位子としては、両方のイミン窒素に芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子、具体的には、ArN=C(R2)C(R3)=NArで表される化合物が、合成が簡便で、活性が高いことから好ましい。ここで、R2、R3は水素原子、炭化水素基であることが好ましく、特に、水素原子、メチル基、および一般式(2)で示されるアセナフテン骨格としたものが、合成が簡便で活性が高いことから好ましい。さらに、両方のイミン窒素に、置換芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子を用いることが、立体因子的に有効で、ポリマーの分子量が高くなる傾向にあることから好ましい。従って、Arは、置換基を有する芳香族基であることが好ましく、このようなものとして、例えば、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルなどが挙げられる。即ちR1,R4としては、メチル基、イソプロピル基が好ましい。R5は、メチル基であることが、Xは塩素原子、臭素原子であることが、合成が簡便であることから好ましい。
【0022】
本発明の界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなど高級脂肪酸のアルカリ金属塩類(セッケン)、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩などの高級アルコール硫酸エステルナトリウム塩類(硫酸塩)、ラウリルアルコール、エチレンオキサイド付加物硫酸エステル塩などの高級アルキルエーテル硫酸エステル塩類(硫酸塩)、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化脂肪酸類、硫酸化オレフィン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩類、アルキルアリールスルホン酸塩、ホルマリン縮合ナフタレンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩類、オレイル(N−メチル)タウライドなどアルキル(N−メチル)タウライド類、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルエステルナトリウムなどスルホコハク酸ジエステル型界面活性剤、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルモノナトリウム塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0023】
オレフィン系モノマーは、特に制限はないが、炭素数2〜20のオレフィンであることが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン等が挙げられる。
【0024】
この中でも炭素数10以下のα−オレフィンが重合活性の高さから好ましく、このようなオレフィンとして、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのオレフィン系モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0025】
また、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、1,9−デカジエン、1,13−テトラデカジエン、ノルボルナジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ジメタノオクタヒドロナフタリン、ジシクロペンタジエン等のジエンを少量併用してもよい。
【0026】
さらに、CH2=CH(CH2nGの式で表される化合物を少量併用してもよい。ここで、nは2〜20であって、Gは水酸基、水酸基含有炭化水素基、エーテル基、フッ素化炭化水素基、エステル基、カルボン酸基、アルコキシシリル基、シラノール基を表す。このような化合物を併用することで、オレフィン系重合体に官能基を導入することが可能になる。
【0027】
重合の際は、まず、上記の重合用錯体と、アニオン性界面活性剤と、水と、オレフィン系モノマーとを混合する。混合の順序は特に問うものではない。
【0028】
重合用錯体、アニオン界面活性剤および水の使用量は特に問うものではないが、(重合用錯体)/(アニオン界面活性剤)が、重量比で、1/1〜10000であることが好ましく、1/10〜1000であることがより好ましい。また、(重合用錯体)/(水)が、重量比で、1/10〜100000であることが好ましく、1/100〜10000であることがより好ましい。
【0029】
オレフィン系モノマーの使用量は特に問うものではなく、所望のポリマー分子量や収率を考慮して適宜決定するが、(オレフィン系モノマー)/(重合用錯体)が、モル比で10〜109であることが好ましく、さらには100〜107が好ましく、とくには1000〜105が好ましい。当該モル比が小さすぎると、分子量の小さい重合体しか得られなくなり、大きすぎると、モノマーに対するポリマーの収率が低くなる傾向が生ずる。
【0030】
オレフィン系重合に際しては、溶媒を用いてもよい。溶媒としては特に制限はないが、脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘプタン、エチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。また、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、エタノール、メタノール、エチレングリコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、水等の極性溶媒であってもよい。
【0031】
これらの溶媒は、単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。従って、気相重合、バルク重合だけでなく、溶液重合、懸濁重合、分散重合、乳化重合、乳化分散重合等を採用してもよい。
【0032】
重合反応は、0〜100℃で行い、好ましくは0〜70℃、特に好ましくは室温で行う。これは、重合温度が低すぎると系が固化し、重合温度が高すぎると活性種が失活するためである。重合時間は特に制限はなく、通常10分〜100時間、オレフィンの重合量が所定量になったところで重合を停止させればよい。
【0033】
反応圧力は特に制限はなく、常圧〜10MPaで行うのが好ましい。なお、反応圧力は低いほど好ましいが、低すぎると重合速度が低くなる可能性がある。また、圧力が高すぎると特殊な圧力容器が必要になり、経済的に不利である。
【0034】
なお、重合は不活性雰囲気下で行うのが好ましいが、場合により微量の酸素が存在していてもよい。不活性雰囲気としては、アルゴン、窒素等が挙げられる。
【0035】
重合はバッチ(不連続)、半連続、連続、いずれの方法で行ってもよい。
【0036】
本発明における重合方法は、単独重合、ランダム共重合だけでなく、異なる種類のモノマーを段階的に加えることにより、ブロック共重合、グラフト共重合等の共重合にも適用することができる。従って、本発明に係る方法によれば、単独重合体、共重合体(ランダム、ブロック、グラフト等)のいずれも得ることが可能である。
【0037】
なお、上記においては、中性配位子、8〜10族の遷移金属、水素又は炭化水素基、及びハロゲンからなるオレフィン系重合用錯体、アニオン性界面活性剤、水、及びオレフィン系モノマーを混合し、そのままオレフィンを重合させる場合について述べたが、オレフィン系重合用錯体、アニオン性界面活性剤、水、及び少量のオレフィン系モノマーをあらかじめ混合することにより、触媒を活性化させた後、更にモノマーを添加して、重合反応を行ってもよい。更に、あらかじめ混合しておくオレフィン系モノマーとしては、通常は、重合させるモノマーと同種のものを用いるが、異種のモノマーを用いることも可能である。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0039】
(合成例1)
(オレフィン系重合錯体の合成)
下記化学式(3)
【化7】

の構造を持つオレフィン系重合錯体(以下[N^N]PdMeClという)をJ.Am.Chem.Soc.1995年,第117巻,6414頁等の文献に記載されている公知の方法によって合成した(THF溶液:濃度40mmol/L)。
【0040】
(実施例1)
(活性種の調製と1−ヘキセンの重合)
アルゴン雰囲気下、20mlのシュレンクフラスコに、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製)144mgと[N^N]PdMeCl/THF溶液(濃いオレンジ色)を0.125ml(5μmol)入れ、減圧乾燥した。系は淡いオレンジ色であった。蒸留水(和光純薬製)2.5mlを加え、室温で10分攪拌したが、系は薄いオレンジ色のままであった。そこで1−ヘキセン(和光純薬製)を0.25ml(2.0mmol)加えたところ、すぐに系は淡い緑褐色を呈し、約10分で濃い灰色になった。淡い緑褐色はカチオン種の発生とオレフィンの重合が進行していることを示唆している。
【0041】
3時間後、メタノールを20ml添加し、析出物を乾燥により得た(22.4mg)。1H−NMRにより生成物がポリヘキセンであることを確認した。
【0042】
以上のように、本発明に係る方法によれば、助触媒なしでポリヘキセンが得られることがわかった。
【0043】
なお、本実施例においては、単一のモノマー成分を用いて重合体を得たが、二以上のモノマー成分を用いることにより、ランダム共重合体や、ブロック共重合体、グラフト共重合体等を得ることも可能であることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性配位子、8〜10族の遷移金属、水素又は炭化水素基、及びハロゲンからなる錯体と、アニオン性界面活性剤と、水と、オレフィン系モノマーとを混合し、所定の温度で撹拌することを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項2】
8〜10族の遷移金属が、2価のパラジウムであることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項3】
中性配位子が、α−ジイミン型の配位子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項4】
中性配位子、8〜10族の遷移金属、水素又は炭化水素基、及びハロゲンからなる錯体が、下記一般式(1)または一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【化1】

(式中、R1,R4はそれぞれ独立したものであって、炭素数1〜4の炭化水素基である。R2,R3はそれぞれ独立したものであって、水素原子又はメチル基である。R5は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基である。Xはハロゲン原子である。Mは8〜10族の遷移金属である。)
【化2】

(式中、R1,R4はそれぞれ独立したものであって、炭素数1〜4の炭化水素基である。R5は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。Xはハロゲン原子である。Mは8〜10族の遷移金属である。)
【請求項5】
アニオン性界面活性剤が、硫酸塩またはスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記所定温度が、0〜100℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項7】
オレフィン系モノマーが、炭素数10以下のα−オレフィンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のオレフィン系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2006−111825(P2006−111825A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303378(P2004−303378)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】