説明

オンコスタチンM受容体シグナリング制御によるメタボリック症候群の治療

【課題】 メタボリック症候群に関連するインスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防のための医薬、及び該医薬のスクリーニング方法の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、従来報告されていたオンコスタチンMの生物学的活性とは、全く異なる新規な活性を見出したことに基づき、オンコスタチンM受容体アゴニストを有効成分とすることを特徴とする医薬、及び該受容体に対する結合及び/又は活性作用を指標とすることを特徴とするスクリーニング方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリック症候群に関連するインスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防のための医薬、及び該医薬のスクリーニング方法に関する。より詳細には、オンコスタチン受容体アゴニストを有効成分とすることを特徴とする医薬、及び該受容体に対する結合及び/又は活性作用を指標とすることを特徴とするスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、メタボリック症候群の患者数の増加は著しく、その予防及び治療のために必要とされる社会的、経済的コストは莫大な金額に上り、医療分野における重大問題として、早期解決が望まれている。
【0003】
メタボリック症候群は、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高血糖・高血圧・高脂血症のうち2つ以上を合併した状態として定義され、以前よりシンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、マルチプルリスクファクター症候群、内臓脂肪症候群、等と呼称されてきた病態を統合整理した概念である。「肥満」、「高血糖」、「高血圧」、「高脂血症」は動脈硬化の危険因子であり、これらを発症している患者は心筋梗塞や脳梗塞を併発し易い。該症候群の主要な機序は、インスリン抵抗性(非特許文献1及び2)、腹部肥満(非特許文献3及び4)、炎症(非特許文献5及び6)等によると考えられている。よって、機序として想定されるこれらの症状を緩和することが、メタボリック症候群の治療及び予防に重要であると考えられている。
【0004】
インスリン抵抗性とは、血糖値を低下させる働きを有するホルモンであるインスリンの自己分泌は十分であるにもかかわらず、インスリンが十分効果を発揮せず、血糖値が下がりづらい特性のことである。インスリン抵抗性の原因は、相対的なエネルギー過剰状態であるため、治療方法は低カロリー食と運動が中心である。インスリン抵抗性改善薬にはPPAR−γ(ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ)作働薬等があるが、該改善薬には、心疾患のリスク亢進、浮腫の誘発等の副作用が知られており、治療薬として必ずしも十分ではない。
【0005】
一般にメタボリック症候群の基盤病態として,全身の軽度の炎症反応が指摘されている(非特許文献7)。すなわち、肥満とインスリン抵抗性の間にTNFαによって誘発される炎症が介在し、脂肪組織の炎症及びインスリン抵抗性を介して糖尿病や心臓血管病といったメタボリック症候群に至ることが提唱されている(非特許文献8)。また、肥満の早期よりTリンパ球が内臓脂肪の炎症を調節し、該炎症を抑制すると、全身の代謝異常も改善することが知られており(非特許文献9)、このことから、脂肪組織の炎症抑制がメタボリック症候群の新しい治療薬の開発につながることが期待されているが、今のところ、このような機序を持つメタボリック症候群治療薬は存在しない。
【0006】
以上より、インスリン抵抗性の抑制及び/又は脂肪組織の炎症抑制といった新たな作用機序を有するメタボリック症候群改善薬の開発が強く望まれている。
【0007】
ところで、オンコスタチンMは、分子量26kDaのサイトカイン(227アミノ酸)であり、インターロイキン6,インターロイキン11,白血球抑制因子、毛様体神経栄養因子等からなるインターロイキン6のサブファミリーに属し、特に、構造的、機能的及び遺伝的に白血病抑制因子に類似している。機能としては、増殖制御、分化、遺伝子発現、細胞生存といった様々な現象に関与することが知られており、例えば、A375メラノーマ等の細胞の成長に抑制的に働くが、正常繊維芽細胞、AIDSに関連するカポシ肉腫細胞では成長を増大させる。該サイトカインは、炎症反応、造血、組織の再形成、発生等にも関与しており、特に炎症反応については、急性炎症反応の特徴である肝臓からのacute phase protein(APP)の産生を誘導し、内皮細胞でのインターロイキン6産生を刺激する。インターロイキン6は、炎症反応を強く促進し、該サイトカイン欠損マウスではAPP産生の減少や、傷害を加えた肝臓の回復遅延等が認められたことより、オンコスタチンMはインターロイキン6の産生を介して炎症反応に関与している可能性も考えられる。これに加えて、オンコスタチンMは、RAS/ERK及びSTAT5シグナル伝達系を介して脂肪形成を阻害することも報告されている(非特許文献10)。このようにオンコスタチンMは、メタボリック症候群発症の機序の可能性の1つとして考えられている脂肪組織や炎症への関係が示唆されているものの、具体的な関与を示す知見は何ら得られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Reaven Diabetes 37: 1595−1607 1988
【非特許文献2】DeFronzo等 Diabetes Care 14: 173−194 1991
【非特許文献3】Kaplan Arch Intern Med 149: 1514−1520 1989
【非特許文献4】Lemieux等 Circulation 102: 179−184 2000
【非特許文献5】Ridker等 Circulation 109: 2818−2825 2004
【非特許文献6】Dandona等 Circulation 111: 1448−1454 2005
【非特許文献7】Dandona等 Trends Immunol: 25: 4−7 2004
【非特許文献8】Hotamisligil等 Science: 259:87−91 1993
【非特許文献9】Nishimura等 Nature Medicine: 15: 914−920 2009
【非特許文献10】Miyaoka等 Journal of Biological Chemistry: 281: 37913−37920 2006
【非特許文献11】Tanaka等 Blood: 102: 3154−3162 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み、オンコスタチンMとメタボリック症候群に関係する諸症状(肥満及びインスリン抵抗性)との関連について、肥満モデル動物等を用いて鋭意研究を行った結果、オンコスタチンMが肥満における脂肪組織の炎症及びインスリン抵抗性を改善することを見出し、該改善効果が、オンコスタチンM受容体を介した作用であることを明らかにした。
よって、本発明は、インスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防のための医薬、及び該医薬のスクリーニング方法の提供を目的とする。
さらに、上記医薬を用いたインスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)に関する。
(1)オンコスタチンM受容体に対するアゴニストを含んでなる、インスリン抵抗性の改善薬。
(2)オンコスタチンM受容体に対するアゴニストを含んでなる、脂肪組織の抗炎症薬。
(3)前記オンコスタチンM受容体アゴニストが、以下の(a)又は(b)に示されるポリペプチドである(1)乃至(2)のいずれかに記載の医薬。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、かつ、オンコスタチンM受容体への活性作用を有するポリペプチド
(4)前記オンコスタチンM受容体アゴニストが、以下の(a)又は(b)に示されるポリペプチドを有効成分とする(1)乃至(2)のいずれかに記載の医薬。
(a)配列番号4から7のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号4から7のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、かつ、オンコスタチンM受容体への活性作用を有するポリペプチド
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の医薬のスクリーニング方法であって、オンコスタチンM受容体への結合を指標とすることを特徴とするスクリーニング方法。
(6)(1)乃至(4)のいずれかに記載の医薬のスクリーニング方法であって、オンコスタチンM受容体に対する活性作用を指標とすることを特徴とするスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る医薬を用いることにより、インスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防が可能となる。
また、本発明に係るスクリーニング方法を用いることにより、インスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防のための医薬の開発を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】肥満モデルマウスの脂肪組織におけるオンコスタチンM(OSM)の発現。Aは、肥満モデルマウスの脂肪組織に存在するOSMのウエスタンブロッティングによる解析結果である。B−Dは、各々、脂肪組織(B)、アディポサイト画分(C)及びSVF(間質血管細胞画分;stromal vascular fraction)(D)におけるタンパク質発現の定量分析の結果である。OSMのバンド強度は、チューブリンに対し標準化し、コントロール(白バー)に対する%で示した。データは、平均値±SEM。P<0.05、スチューデント tテスト。E−Lは、肥満モデルマウスの脂肪組織を、OSM、F4/80及びcaveolin−1で三重染色した図である。 通常食マウス及び正常マウスに比べ、高脂肪食マウス及び遺伝的肥満マウスob/obの脂肪組織において、OSMタンパクの有意な増加が確認された。
【図2】肥満モデルマウスの脂肪組織におけるOSM受容体サブユニット(OSMRβ)の発現。Aは、肥満モデルマウスの脂肪組織に存在するOSMRβのウエスタンブロッティングによる解析結果である。B及びCは、各々、脂肪組織(B)及びSVF(間質血管細胞画分;stromal vascular fraction)(C)におけるタンパク質発現の定量分析の結果である。OSMRβのバンド強度は、チューブリンに対し標準化し、コントロール(白バー)に対する%で示した。データは、平均値±SEM、P<0.05。スチューデント tテスト。D−Kは、肥満モデルマウスの脂肪組織を、OSMRβ、F4/80及びcaveolin−1で三重染色した図である。 通常食マウス及び正常マウスに比べ、高脂肪食マウス及び遺伝的肥満マウスob/obの脂肪組織において、OSMRβの有意な増加が確認された。また、OSMRβは主に脂肪組織マクロファージで発現していた。
【図3】肥満モデルマウスへのOSM投与による食餌量及び体重、脂肪組織重量および肝重量に対する効果。Aは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの体重変化。Bは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの食餌量変化。Cは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの代表的な体内図。Dは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの組織重量変化。E−Hは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの脂肪組織(E及びF)及び肝臓組織(G及びH)切片の組織学的分析結果。 遺伝的肥満マウスob/obの腹腔内へのOSM投与により、該肥満マウスの食餌量は減少したが、体重、脂肪組織重量及び肝重量に変化は生じなかった。
【図4】肥満モデルマウスへのOSM投与による高血糖及び高インスリン血症に対する効果。Aは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの血中のグルコースレベル。Bは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの血清中のインスリンレベル。Cは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの腹腔内ブドウ糖負荷試験(ipGTT)。Dは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスのインスリン負荷試験(ITT)。データは、平均値±SEM。P<0.05、スチューデント tテスト(A及びB)。分散分析及び、多重比較検定(ボンフェローニテスト)(C及びD)。 遺伝的肥満マウスob/obの腹腔内へのOSM投与により、該肥満マウスでの高血糖及び高インスリン血症が改善した。
【図5】肥満モデルマウスへのOSM投与による脂肪組織炎症に対する効果。Aは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの脂肪組織中のマクロファージの表現型のマーカーをウエスタンブロッティングで解析した結果である。Bは、iNOS、CD206及びCD163タンパク質発現の定量的解析結果である。各タンパク質のバンド強度は、チューブリンに対し標準化し、PBSを投与したコントロール(白バー)に対する%で示した。C及びDは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの脂肪組織中におけるTNF−α及びIL−6の発現量を調べた結果である。TNF−α及びIL−6の濃度はELISAにより測定した。Eは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスの脂肪組織中におけるIL−10 mRNAの発現量を定量的リアルタイムPCRで定量した結果である。Fは、PBS又はOSMを投与したob/obマウスのアディポネクチンの血清レベルを測定した結果である。測定はELISAにより行った。データは、平均値±SEM。P<0.05、スチューデント tテスト。遺伝的肥満マウスob/obの腹腔内へのOSM投与により、該肥満マウスでの脂肪組織炎症が改善した。
【図6】OSM受容体のサブユニット(OSMRβ)を欠損させたノックアウトマウスの通常食摂取後におけるインスリン抵抗性の評価。Aは、OSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスにND(通常食)を与えた場合の体重変化。Bは、OSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの食餌量。Cは、OSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスにNDを与えた場合の組織重量の変化。D−Gは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのグルコース代謝を示す結果である。Dは、血中グルコースレベル、Eは、血清インスリンレベルを示す。また、FはipGTTを、GはITTの変動を示す。データは、平均値±SEM、P<0.05、スチューデント tテスト(B及びC)。分散分析及び、多重比較検定(ボンフェローニテスト)(A及びD−G)。 正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではインスリン抵抗性が生じていた。
【図7】OSMRβを欠損させたノックアウトマウスの通常食摂取後における脂肪組織マクロファージのタイプ評価。 Aは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの脂肪組織中のマクロファージ表現型マーカー(iNOS、CD206及びCD163)についてウエスタンブロッティングにより解析した結果である。Bは、iNOS、CD206及びCD163の発現量を定量的に分析した結果である。各タンパク質のバンド強度は、チューブリンに対し標準化し、OSMRβ−/−マウス(白バー)に対する%で示した。C及びDは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの脂肪組織について、F4/80及びcaveolin−1で二重染色した結果である。Eは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのSVFにおけるF4/80陽性細胞の全細胞に対する比率を示す。Fは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの精巣上体脂肪体中のF4/80陽性細胞の総数を示す。Gは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのF4/80陽性細胞中のCD11c陽性細胞の比率を示す。Hは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのF4/80陽性細胞中のCD206陽性細胞の比率を示す。Iは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのF4/80陽性細胞中のCD206陽性細胞に対するCD11c陽性細胞の割合を示す。データは、平均値±SEM。P<0.05、スチューデント tテスト。 正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではM1マクロファージ数/M2マクロファージ数が増加していた。
【図8】OSMRβを欠損させたノックアウトマウスの通常食摂取後における脂肪組織内TNF−α及びIL−10含量の評価。A及びBは、各々、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウス脂肪組織中のTNF−α(A)及びIL−6(B)の発現量を示す。Cは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの脂肪組織中のIL−10 mRNA発現量を示す。Dは、NDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのアディポネクチンの血清レベルを示す。データは、平均値±SEM。P<0.05、スチューデント tテスト。 正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではTNF−α含量が増加し、IL−10が減少していた。
【図9】マウスの腹腔浸出マクロファージ(PEM)及びマウスマクロファージ由来の細胞株(RAW264.7細胞)へのOSM処理による反応。Aは、PEM中のpCREB及びpERKのウエスタンブロッティングによる解析結果である。Bは、PEM中において、OSM及びIL−4により誘導されたIL−10 mRNA量を定量的リアルタイムPCRで定量した結果である。Cは、全細胞抽出液に対し、抗iNOS抗体、抗アルギナーゼI抗体及び抗CD206抗体によりウエスタンブロッティングを行った結果である。Dは、アルギナーゼI及びCD206のタンパク発現を定量的に解析した結果である。各タンパク質のバンド強度は、チューブリンに対し標準化し、コントロール(白バー)に対する%で示した。データは、平均値±SEM、P<0.05、分散分析及び、多重比較検定(ボンフェローニテスト)(B)スチューデント tテスト(D)。 OSM処理を施すことにより、IL−10、アルギナーゼI及びCD206含量が増加した。
【図10】OSMRβを欠損させたノックアウトマウスの高脂肪食摂取後におけるインスリン抵抗性の評価。 HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの血中グルコースレベル(A)、血清インスリンレベル(B)、ipGTT(C)及びITT(D)を調べた。データは、平均値±SEM。P<0.05、分散分析及び、多重比較検定(ボンフェローニテスト)。 正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではインスリン抵抗性が生じていた。
【図11】OSMRβを欠損させたノックアウトマウスの高脂肪食摂取後における脂肪組織マクロファージのタイプ評価。 Aは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの脂肪組織中のマクロファージ表現型マーカー(iNOS、CD206及びCD163)についてウエスタンブロッティングにより解析した結果である。Bは、iNOS、CD206及びCD163の発現量を定量的に分析した結果である。各タンパク質のバンド強度は、チューブリンに対し標準化し、OSMRβ−/−マウス(白バー)に対する%で示した。C及びDは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの脂肪組織について、F4/80及びcaveolin−1で二重染色した結果である。Eは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのSVFにおけるF4/80陽性細胞の全細胞に対する比率を示す。Fは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスの精巣上体脂肪体中のF4/80陽性細胞の総数を示す。Gは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのF4/80陽性細胞中のCD206陽性細胞の比率を示す。Hは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのF4/80陽性細胞中のCD11c陽性細胞の比率を示す。Iは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのF4/80陽性細胞中のCD206陽性細胞に対するCD11c陽性細胞の割合を示す。データは、平均値±SEM。P<0.05、スチューデント tテスト。 正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではM1マクロファージ数/M2マクロファージ数が増加していた。
【図12】OSMRβを欠損させたノックアウトマウスの高脂肪食摂取後における脂肪組織内TNF−α及びIL−10含量の評価。A及びBは、各々、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウス脂肪組織中のTNF−α(A)及びIL−6(B)の発現量を示す。Cは、HFDを与えたOSMRβ+/+及びOSMRβ−/−マウスのアディポネクチンの血清レベルを示す。データは、平均値±SEM。P<0.05、スチューデント tテスト。正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではTNF−α含量が増加していた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、オンコスタチンM(OSM)とメタボリック症候群との関連性を検討するべく、肥満モデル動物の脂肪組織におけるオンコスタチンMの発現を調べたところ、有意に増加しており、該ペプチドは脂肪細胞に局在していることを見出した(図1参照)。
さらに肥満モデル動物の腹腔内にOSMを投与したところ、脂肪組織及び肝臓組織の重量及び体重には変化はなかったものの、モデル動物の高血糖及びインスリン抵抗性は顕著に改善した(図3,4参照)。
以上の点から、OSMはインスリン抵抗性を改善する効果を有し、インスリン抵抗性に起因する疾患の治療又は予防のための医薬となりうることが示唆された。
【0014】
本発明の第1の態様は、オンコスタチンM受容体に対するアゴニストを含んでなるインスリン抵抗性改善薬、又は、脂肪組織の炎症抑制薬である。
ここで、本発明のOSMは、いかなる動物由来のものであってもよく、例えば、ほ乳類由来のものをさし、好ましくは、ヒト、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、イヌ、ネコなど由来をさし、更に好ましくは、配列番号3、4、5、6、7でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるヒト、マウス、ラット、ウシ、イヌ由来をさし、最も好ましくは、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるヒトOSMをさす。
【0015】
また、本発明におけるOSMポリペプチドは、配列番号3から7のいずれかで表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチド」とは、配列番号3から7のいずれかで表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつOSM受容体に対する結合及び/又は活性作用を指標とすることを特徴とするポリペプチドである。
【0016】
あるいは、「配列番号3から7のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、かつ、オンコスタチンM受容体への活性作用を有するポリペプチド」とは、配列番号3から7のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、更に好ましくは1〜5個程度のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、かつ、オンコスタチンM受容体への活性作用を有するポリペプチドである。
上記アミノ酸の欠失、付加及び置換は、単離した天然ポリペプチドに存在していてもよく、また、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって新たに導入したものでもよい。例えば、特定のアミノ酸残基の置換は、市販のキット等を使用し、Guppedduplex法やKunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法により塩基の置換を行なうことによって達成することができる。
【0017】
また、OSMのC末端は、通常カルボキシル基(−COOH)又はカルボキシレート(−COO−)であるが、当該カルボキシル基は、アミド(−CONH)やエステル(−COOR)等に化学修飾されていてもよい。ここで、エステル中のRとしては、C1−6アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル)、C3−8シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル)、C1−6アリール基(例えば、フェニル、α−ナフチル)、フェニル−C1−2アルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル)、α−ナフチル−C1−2アルキル基(例えば、α−ナフチルメチル)等が挙げられる。その他、経口用エステルとして汎用されているピバロイルオキシメチルエステルとすることも可能である。該ポリペプチドがC末端以外にもそのポリペプチド鎖中にカルボキシル基を有する場合には、当該カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものもOSMに含まれる。この場合のエステルとしては上記の各エステルが挙げられる。同様に、OSMのN末端は、通常アミノ基(−NH)であるが、当該アミノ基は、ホルミル基、アセチル基等のC1−6アシル基等で化学修飾されていてもよい。その他、N端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したものや、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な官能基(例えば、ホルミル基、アセチル等)で化学修飾されているものや糖鎖の結合しているものもOSMに含まれる。
【0018】
発明者らは、更にOSMによるインスリン抵抗性の改善効果を解明するために、肥満モデル動物の脂肪組織におけるOSM受容体のサブユニットの発現を調べたところ、有意に増加しており、該サブユニットは脂肪組織マクロファージに局在していることを見出した(図2参照)。また、OSM受容体のサブユニット(OSMRβ)を欠損させたノックアウトマウスを作成し、通常食又は高脂肪食を摂取させた後に、インスリン抵抗性を評価したところ、通常食、高脂肪食とも正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではインスリン抵抗性を有することを確認した(図6,10参照)。
このことより、OSM投与によるインスリン抵抗性の改善効果は、OSM受容体を介して発揮されることが示唆された。
【0019】
ここで、OSM受容体は、いかなる動物由来のものであってもよく、例えば、ほ乳類由来のものを指し、好ましくは、ヒト、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、イヌ、ネコ等由来のものを指し、更に好ましくは、ヒト、マウス、ラット、ウシ、イヌ、ネコ由来のものを指し、最も好ましくは、ヒトOSM受容体を指す。ヒトOSM受容体には2種類のタイプが存在している。すなわち、gp130及びLIFRβからなる高親和性LIF受容体と同一のもの(タイプI)とgp130及びOSM特異的なサブユニット(OSMRβ)からなるOSM特異的なもの(タイプII)である。ヒトOSM受容体としては、いずれのものであってもよく、好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるgp130と、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるOSMRβから構成されるヒトOSM受容体(タイプII)を指す。
【0020】
OSM受容体のサブユニットにリガンドが結合すると、該サブユニットは他のサブユニットと会合し、以下の経路で細胞内へシグナルを伝える;
JAK−STAT経路
OSMがOSM受容体に結合するとサブユニットの1つであるgp130のチロシン残基に結合しているJAKが活性化し、gp130のチロシンリン酸化を行う。このgp130のリン酸化チロシン残基がSTATのSH2ドメインとの結合部位となる。転写因子であるSTATはSH2ドメインを介したホモあるいはヘテロの二量体を形成して活性化し、核内へ移行した後にDNA上の配列に結合することにより転写活性化を引き起こす。
MAPキナーゼ経路
gp130のチロシン残基にShp2が結合するとアダプタータンパク質であるGrb2を介してSos1を活性化させる。Sos1はGDP/GTP交換反応により細胞膜と結合している低分子Gタンパク質であるRasを活性体に変換する。さらにRasはRaf−1を活性化し、Raf−1はMEKを、MEKはERKをというように、MAPキナーゼ経路に次々とシグナルを伝えていく。MAPキナーゼ経路の下流には転写因子であるCREBが存在し、CREBはリン酸化されることで活性化され、DNA上の特定配列に結合することにより遺伝子発現調節を行う。
【0021】
「OSM受容体アゴニスト」としては、前記OSM受容体のいずれかの作用を活性化させる働きを有する物質が該当する。ここで、本明細書中における「アゴニスト」には、内在性のOSMポリペプチドの生物学的活性(リガンドの結合により、上記JAK−STAT経路及び/又はMAPキナーゼ経路を介した活性) を誘導する分子のいずれもが含まれる。
【0022】
発明者らはマウスの腹腔浸出マクロファージ及びマウスマクロファージ由来の細胞株(RAW264.7細胞)にOSM処理することにより、ERK及びCREBが活性化することを確認している(図9)。
【0023】
インスリン抵抗性とは、上記した通り、血糖値を低下させる働きを有するホルモンであるインスリンの自己分泌が十分であるにもかかわらず、インスリンが十分効果を発揮せず、血糖値が下がりづらい特性のことである。そして、インスリン抵抗性が関連する疾患としては、メタボリック症候群、脂肪代謝異常、肥満症、高血糖、高インスリン血症、高中性脂肪血症、高尿酸血症、糖尿病、高血圧症、非アルコール性肝炎、痛風、尿路結石、骨粗鬆症、多嚢胞性卵巣症候群、又は脳梗塞、脳出血、脳血栓症、くも膜下出血、狭心症、心筋梗塞、深部静脈血栓症、閉塞性動脈硬化症等の動脈硬化性疾患等であり、好ましくは、メタボリック症候群、インスリン非依存性糖尿病、肥満症、更に好ましくは、インスリン非依存性糖尿病が該当する。
【0024】
脂肪組織の炎症とは、脂肪組織にかけて,リンパ球やマクロファージ、好中球等の浸潤や細静脈における血管壁への白血球のローリング及び接着等の病理知見が認められる症状である。該症状においては、免疫を活性化するM1マクロファージの増加及び免疫抑制性のM2マクロファージの減少、それに伴い、tumor necrosis factor α(TNFα)やインターロイキン6(IL−6)に代表される炎症性アディポサイトカインの産生亢進及びインターロイキン10(IL−10),アディポネクチンのような抗炎症性アディポサイトカインの産生減少が知られている。脂肪組織の炎症が関連する疾患としては、メタボリック症候群、糖尿病、動脈硬化性疾患、脂肪代謝異常、肥満症、インスリン抵抗性、蜂窩織炎、又は結節性紅班、硬結性紅班、皮下脂肪肉芽腫症、深在 性エリテマトーデス、ウェーバー・クリスチャン病、ステロイド後脂肪織炎、寒冷脂肪織炎、外傷性脂肪織炎、注射後脂肪織炎等の脂肪組織炎等であり、好ましくは、メタボリック症候群、インスリン非依存性糖尿病、肥満症、更に好ましくは、肥満症が該当する。
【0025】
発明者らは、OSMによる脂肪組織の炎症の改善効果を解明するために、肥満モデル動物の腹腔内にOSMを投与したところ、該モデル動物脂肪組織中のM1マクロファージ数の減少及びM2マクロファージ数の増加とTNFα含量の減少及びIL−10含量の増加が認められ、脂肪組織の炎症が顕著に改善した(図5参照)。
以上の点から、OSMは脂肪組織の炎症を改善する効果を有し、該症状に起因する疾患の治療又は予防のための医薬となりうることが示唆された。
さらに、OSMRβを欠損させたノックアウトマウスに通常食又は高脂肪食を摂取させた後に、脂肪組織の炎症を示す指標を評価したところ、通常食、高脂肪食とも正常マウスに比べ、該サブユニットノックアウトマウスではより高いM1マクロファージ数/M2マクロファージ数の比率を示し(図7,11参照)、TNFα含量の増加を確認した(図12参照)。
このことより、OSM投与による脂肪組織の炎症の改善効果は、OSM受容体を介して発揮されることが示唆された。
【0026】
そこで、本発明の第2の態様は、オンコスタチンM受容体に対するアゴニストを含んでなる、インスリン抵抗性に起因する疾患の治療又は予防のための医薬、あるいは、脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防のための医薬である。
【0027】
「治療」とは、疾患に罹患するおそれがあるか又は罹患したほ乳動物において、該疾患の病態の進行を阻止又は緩和することを意味し、治療的処置のみならず予防的処置をも含む広い意味として使用される。また、「疾患」には、インスリン抵抗性又は脂肪組織の炎症によって引き起こされる病態の全てが含まれ、例えば、メタボリック症候群、非インシュリン抵抗性糖尿病、肥満症などが含まれる。また、「予防」とは、疾患の発症を予め阻止することである。
ここで、治療又は予防の対象となるのはヒトのみならず「ほ乳動物」全般である。「ほ乳動物」とは、ほ乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「ほ乳動物」は、ヒトである。
【0028】
本発明の医薬は、インスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防のための医薬であり、OSM受容体アゴニストを有効成分として含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
ここで、前記OSM受容体アゴニストとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のOSM受容体アゴニスト(OSM)を使用してもよいし、後述する本発明のスクリーニング方法により、OSM受容体に対する結合能力及び/又は該受容体に対する活性作用を有すると評価された物質を使用してもよい。
【0029】
前記医薬中の前記OSM受容体アゴニストの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、また、前記医薬は前記OSM受容体アゴニストそのものであってもよい。
【0030】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、医薬的に許容され得る担体などが挙げられる。前記担体としても、特に制限はなく、例えば、後述する前記医薬の剤型等に応じて適宜選択することができる。また、前記医薬中の前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
前記医薬の剤型としては、特に制限はなく、例えば、所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、坐剤、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤などが挙げられる。
【0032】
前記経口固形剤としては、例えば、前記OSM受容体アゴニストに、賦形剤、更には必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0033】
前記経口液剤としては、例えば、前記OSM受容体アゴニストに、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0034】
前記注射剤としては、例えば、前記OSM受容体アゴニストに、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0035】
前記坐剤としては、例えば、前記OSM受容体アゴニストに、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセリド等の公知の坐剤製剤用担体と、必要に応じてツイーン(TWEEN:登録商標)等の界面活性剤などを加えた後、常法により製造することができる。
【0036】
前記軟膏剤としては、例えば、前記OSM受容体アゴニストに、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等を配合し、常法により混合し、製造することができる。
前記基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどが挙げられる。前記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが挙げられる。
【0037】
前記貼付剤としては、例えば、公知の支持体に前記軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤等を、常法により塗布し、製造することができる。前記支持体としては、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルム、発泡体シートなどが挙げられる。
【0038】
前記医薬の投与方法としては、特に制限はなく、前記医薬の剤型等に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与、注射による投与などが挙げられる。
また、前記医薬の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、性別、症状等に応じて適宜選択することができるが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
【0039】
さらに、前記医薬の投与時期についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、対象疾患の発症前に予防的に投与されてもよいし、該疾患の発症後に治療的に投与されてもよい。前記医薬は、発症前の投与、及び発症後の投与のいずれにおいても、前記対象疾患に対して優れた効果を奏することができる。
【0040】
前記医薬における医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保障すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な一回の投与量を含み、薬剤的に受容可能な担体と共に製剤化された一単位のことである。前記医薬の単位投与量を決定する場合には、製剤化される化合物の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該化合物に特有な製剤化における留意事項等により影響を受ける。
【0041】
さらに、本発明には、前記医薬における医薬組成物又は製剤を治療対象に投与することにより、インスリン抵抗性に起因する疾患、あるいは、脂肪組織の炎症に起因する疾患に罹患した、又は罹患する危険性のある哺乳動物の該疾患を予防又は治療する方法が含まれる。
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、マウス、ラットなどの実験動物、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【0042】
本発明のスクリーニング方法は、本発明の前記医薬をスクリーニングするための方法であり、例えば、OSM受容体への結合を指標とする方法(第1のスクリーニング方法)、及び、OSM受容体に対する活性作用を指標とする方法(第2のスクリーニング方法)が挙げられる。
【0043】
<第1のスクリーニング方法(結合を指標)>
前記第1のスクリーニング方法としては、前記OSM受容体への結合を指標とする方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(a)被験物質のOSM受容体への結合能力を評価する工程、及び、(b)前記工程(a)で前記OSM受容体への結合能力を有すると評価された前記被験物質を選択する工程、を含む方法などが挙げられる。
なお、前記被験物質としては、特に制限はなく、例えば、前記医薬の候補物質の中から、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
−(a)評価工程−
前記評価工程における、前記被験物質の前記OSM受容体への結合能力の評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、OSM受容体タンパク質を発現させた細胞株と前記被験物質との結合アッセイによる方法などが挙げられる。
なお、例えば、OSM受容体の発現に関してのみ相違のある2種類の細胞株への前記被験物質の結合の程度に差があるという結果が得られた場合、前記被験物質は、前記OSM受容体に対して結合能力を有していると評価することができる。
−(b)選択工程−
前記選択工程では、前記工程(a)で前記OSM受容体への結合能力を有すると評価された前記被験物質を選択する。
【0045】
<第2のスクリーニング方法(活性作用を指標)>
前記第2のスクリーニング方法としては、前記OSM受容体に対する活性作用を指標とする方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(a’)被験物質のOSM受容体に対する活性作用を評価する工程、及び(b’)前記工程(a’)で前記OSM受容体に対する活性作用を有すると評価された前記被験物質を選択する工程、を含む方法などが挙げられる。
【0046】
−(a’)評価工程−
前記評価工程における、前記被験物質の前記OSM受容体に対する活性作用を評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記被験物質存在下での、細胞内ERK活性化量、細胞内CREB活性化量等の変化を調べる方法などが挙げられる。前記各種変化は、例えば、従来公知の手法を用いて調べることができる。
なお、例えば、前記被験物質存在下では、前記被験物質非存在下と比較して、細胞内ERK活性化量が増加し、及び/又は細胞内CREB活性化量が増加するという結果が得られた場合、前記被験物質は、前記OSM受容体に対する活性作用を有していると評価することができる。
−(b’)選択工程−
前記選択工程では、前記工程(a’)で前記OSM受容体に対する活性作用を有すると評価された前記被験物質を選択する。
【0047】
前記スクリーニング方法としては、前記第1のスクリーニング及び前記第2のスクリーニングのいずれかのみを行ってもよいし、両者を行ってもよいが、効率的に前記医薬を選択することができる点で、両者を行うことが好ましい。この場合、前記第1のスクリーニング及び前記第2のスクリーニングをこの順に行うことにより、より効率的に前記医薬を選択することができる。
【0048】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
1.材料及び方法について
1−1.動物
オスのC57BL/6Jマウス(8週齢)は、NihonSLCから購入した。オスのC57BL/6Jバックグラウンドのlean(正常)及びob/obマウス(8週齢)を準備した。ノックアウトマウス等については、既報に従って準備した(非特許文献11)。
1−2.高脂肪食(HFD)
C57BL/6Jマウス、OSMRβ+/+マウス、及びOSMRβ−/−マウスは、脂肪由来のカロリーを56.7%含むHFD(High Fat Diet 32; CLEA Japan, Tokyo, Japan)で飼育した。
【0050】
1−3.SVF(stromal vascular fraction)の調製
マウス由来の脂肪組織の切片をタイプ2コラゲナーゼ(2%FCSを含むPBS中)中にて、37℃、20分間高速で混合し、処理を行った。処理後のサンプルは、100μmのメッシュを通過させ、室温にて、5分間遠心(1200rpm)を行い分画した。アディポサイト画分として浮遊細胞を回収し、沈殿はSVFとして回収した。
1−4.PEMs(peritoneal exudate macrophages)の調製
PEMsの調製は、既報に従って行った。調製したPEMsは、OSM及びIL−4処理に先立ち、0.75%BSAを含むDMEM中において、16時間飢餓状態においた。その後、PEMをPBS、25ng/ml IL−4、又は、100ng/ml 組換えマウスOSMで処理し、適当な時間維持した。
【0051】
2.結果
2−1.肥満マウスの脂肪組織中のOSMの発現
肥満モデルマウスの脂肪組織中のOSMの発現量を調べるために、HFDを与えた肥満マウスと遺伝的な肥満マウスであるob/obマウス(ob遺伝子を欠損しているマウス)の2種類のモデルマウスを使用した。OSMタンパク質に対応する23kDaのバンドは、NDを与えたマウス及び野生型のob遺伝子を有するlean(正常)マウスのいずれの脂肪組織中においても検出された(図1A)。NDを与えたマウス及びlean(正常)マウスに比べて、HFDを与えたマウス及びob/obマウスの脂肪組織中において、OSMタンパク質の顕著な増加が認められた(図1B)。脂肪組織中のOSMの局在を調べるため、脂肪組織をアディポサイト画分とSVF(stromal vascular fraction)画分に分けて検討したところ、NDを与えたマウスとlean(正常)マウスでは、いずれの画分においても、若干量の存在が認められた(図1A、C及びD)。これに対し、HFDを与えたマウスとob/obマウスのアディポサイト画分ではOSMの顕著な増加が認められ(図1C)、また、SVF画分では中程度の増加が認められた(図1D)。HFDを与えたマウスとob/obマウスでは、免疫蛍光染色の結果から、caveolin−1とF4/80がOSMと局在を一にすることが明かとなった(図1E−L)。
【0052】
2−2.肥満マウスの脂肪組織中のOSMRβの発現
肥満マウスの脂肪組織中におけるOSMRβの発現を調べた。OSMRβタンパク質に対応する180kDaのバンドがND及びlean(正常)マウスの脂肪組織中に認められた(図2A)。脂肪組織中におけるOSMRβの発現は、NDを与えたマウス及びlean(正常)マウスに比べてHFDを与えたマウス及びob/obマウスの方が増大していた(図2B)。また、HFDを与えたマウス及びob/obマウスのSVFにOSMRβの局在が認められたが(図2C)、アディポサイト画分には認められなかった(図2A)。HFDを与えたマウス及びob/obマウスにおける、OSMRβの脂肪組織における局在は、F4/80と一致しており(図2D−K)、OSMRβは主として肥満マウスのATMs(adipose tissue macrophages)において発現していることが示された。
【0053】
2−3.ob/obマウスのメタボリックパラメーターに対するOSMの影響
肥満マウスの代謝系疾患に対するOSMの影響を検討するために、1日に2回、一週間ob/obマウスの腹腔内にOSMを投与した。PBSを投与したコントロールのob/obマウスに比較して、OSMを投与したob/obマウスにおいては、摂食量が減少したが(図3B)、体重及び組織重量の差は無かった(図3A及びD)。PBSを投与したob/obマウスとOSMを投与したob/obマウスに間で、アディポサイトのサイズ及び数の差は生じていなかった(図3E及びF)。これに対し、PBSを投与したob/obマウスにおいてみられた重度の脂肪肝は、OSMを投与したob/obマウスにおいては改善していた(図3C、G及びH)。さらに、PBSを投与したob/obマウスにおいてみられる高血糖と高インスリン血症は、OSMを投与したob/obマウスにおいては顕著に改善していた(図4A及びB)。
【0054】
2−4.ob/obマウスの脂肪組織炎症に対するOSMの影響
ATMsの表現型に対するOSMの影響を検討するために、M1マーカーとしてiNOSを、また、M2マーカーとしてCD206及びCD163を使用した。iNOSの発現は、PBSを投与したob/obマウスに比較して、OSMを投与したob/obマウスの脂肪組織において減少していた(図5A及びB)。これに対し、CD206及びCD163の発現は、OSMを投与したob/obマウスの脂肪組織中において増加していた(図5A及びB)。これらの結果から、OSMがマクロファージのM2型への分化傾向を促進していることが示唆された。
M1マクロファージは、TNF−α及びIL−6を含む炎症性サイトカインを産生することが知られている。TNF−αの発現は、PBSを投与したob/obマウスの脂肪組織と比較して、OSMを投与したob/obマウスの脂肪組織において減少していた(図5C)。しかしながら、IL−6の発現量は、PBSを投与したob/obマウスとOSMを投与したob/obマウスの間で有意差は認められなかった(図5D)。M1マクロファージとは異なり、M2マクロファージは抗炎症性サイトカインであるIL−10を産生するが、IL−10の発現は、ob/obマウスの脂肪組織において、OSMにより増強された(図5E)。血清中のアディポネクチンのレベルは、PBS投与ob/obマウスとOSM投与ob/obマウスとの間で差は認められなかった(図5F)。
【0055】
2−5.NDを与えたOSMRβ−/−マウスの解析
OSMとメタボリック症候群との関連性をさらに検討するために、NDを与えたOSMRβ−/−マウスを用いて解析を行った。NDを与えたOSMRβ+/+マウスとOSMRβ−/−マウスとの間において、16週齢に至るまでの間、体重及び組織重量における有意差は認められなかった(図6A及びC)また、摂食量の差も認められなかった(図6B)。
【0056】
2−6.NDを与えたOSMRβ−/−マウスにおけるグルコース代謝
NDを与えたOSMRβ+/+マウスとOSMRβ−/−マウスのグルコース代謝を調べるために、8週間にわたり週に1度血中グルコースと血清中のインスリンレベルを測定した。OSMRβ+/+マウスとOSMRβ−/−マウスにおいて、血中グルコースレベルに有意差は認められなかったが(図6D)、血清中のインスリンレベルは、OSMRβ−/−マウスの方が高かった(図6E)。次に、グルコース耐性とインスリン抵抗性について、調べた。グルコースを腹腔内に投与した後、OSMRβ−/−マウスの血中グルコースレベルは、OSMRβ+/+マウスよりも高かった(図6F)。さらに、NDを与えた状態において、インスリンを腹腔内に投与すると、OSMRβ−/−マウスの血中グルコースレベルは、OSMRβ+/+マウスよりも高かった(図6G)。これらの結果より、OSMRβ−/−マウスは、NDを与えた状態では、インスリン抵抗性を示すことが示唆された。
【0057】
2−7.NDを与えたOSMRβ−/−マウスの脂肪組織炎症
OSMRβ−/−マウスの脂肪組織中のマクロファージの表現型を検討するために、M1及びM2マクロファージの発現型マーカーをウエスタンブロッティングで調べた。OSMRβ−/−マウスの脂肪組織中のiNOSの発現量は、OSMRβ+/+マウスの発現量より増加していた(図7A及びB)。これに対し、CD206及びCD63は、OSMRβ−/−マウスにおいて減少していた(図7A及びB)。次に、OSMRβ−/−マウスのATMsの表現型についてフローサイトメトリを用いて解析した。F4/80陽性マクロファージの数は、OSMRβ+/+マウスと比較して、NDを与えたOSMRβ−/−マウスの脂肪組織において増加していた(図7C−F)。NDを与えたOSMRβ−/−マウスの全ATMs中のCD11c陽性M1マクロファージの割合は、OSMRβ+/+マウスよりも高かったが(図7G)、CD206陽性M2マクロファージの割合は、OSMRβ+/+マウスよりも低かった(図7H)。これらの変動により、NDを与えたOSMRβ−/−マウスにおいては、M2ATMsに対するM1の割合は、OSMRβ+/+マウスに比べて増大した(図7I)。
OSMRβ−/−マウスの脂肪組織の炎症について検討するために、炎症性サイトカインであるTNF−α及びIL−6の発現量について調べた。TNF−αの発現は、OSMRβ+/+マウスと比較すると、NDを与えたOSMRβ−/−マウスの脂肪組織において増大していた(図8A)。これに対し、IL−6の発現量は、OSMRβ+/+マウスとOSMRβ−/−マウスとの間で差は認められなかった(図8B)。抗炎症性サイトカインであるIL−10については、NDを与えた状態において、OSMRβ−/−マウスの脂肪組織中での発現が低かった(図8C)。血清中のアディポネクチンのレベルは、OSMRβ+/+マウスとOSMRβ−/−マウスとの間で差は認められなかった(図8D)。
【0058】
2−8.マクロファージにおけるOSMの役割
OSMのマクロファージに対する直接的な影響を検討するために、マウスの腹腔内滲出マクロファージ(PEMs;peritoneal exudate macrophages)及びRAW264.7細胞を使用した。図9Aに示すように、OSMはcAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)とSTAT3を活性化した。また、OSMRβ+/+マウス由来のPEMsにおいてIL−4がIL−10の発現を誘導した(図9B)。しかしながら、OSMRβ−/−マウス由来のPEMsにおけるIL−4によるIL−10の発現の増加は、OSMRβ+/+マウス由来のPEMsと比べると、弱くなっていた(図9B)。IL−4の効果と同様に、OSMRβ+/+マウス由来のPEMsにおいては、IL−10の発現は、OSM処理1時間後から認められ、2時間後にピークを迎え、4時間後まで高いレベルが維持されていた(図9B)。他方、OSMRβ−/−マウス由来のPEMs中のIL−10の発現については、OSMの効果は認められなかった(図9B)。これらの結果は、OSMは、PEMs中のIL−10の発現を直接誘導することを示す。さらに、OSMは、OSMRβ+/+マウス由来のPEMs中で、M2マーカー(アルギナーゼ1及びCD206)の発現を誘導するが、IL−4と同様に、OSMRβ−/−マウス由来のPEMs中では誘導しなかった(図9C及びD)。iNOSの発現は、OSM及びIL−4いずれの処理によっても観察されなかった(図9C)。
【0059】
2−9.HFDを与えたOSMRβ−/−マウスにおけるグルコース代謝
図10Aは、OSMRβ−/−マウスの血中グルコースレベルがHFDを与えてから6週間後に増加し始めたことを示す。OSMRβ−/−マウスの血清インスリンレベルは、HFDを与えてから1週間後に増加し始め、8週間増加し続けた(図10B)。腹腔内へのグルコースの投与の後、HFDを与えたOSMRβ−/−マウスの血中グルコースレベルは、OSMRβ+/+マウスのレベルよりも非常に高かった(図10C)。さらに、HFDを与えた状態で腹腔内へインスリンを投与した後、OSMRβ−/−マウスの血中グルコースレベルは、OSMRβ+/+マウスのレベルよりも高かった(図10D)。これらの結果は、OSMRβ−/−マウスは、HFDを与えた状態において、重篤なインスリン抵抗性を示すことを示唆する。
【0060】
2−10.HFDを与えたOSMRβ−/−マウスの脂肪組織炎症
HFDを与えた場合、iNOSの発現は、OSMRβ+/+マウスと比較して、OSMRβ−/−マウスの脂肪組織中において増加していた(図11A及びB)。これに対し、CD206及びCD163は、OSMRβ−/−マウスにおいて減少していた(図11A及びB)。F4/80陽性マクロファージの数は、HFDを与えた状態において、OSMRβ+/+マウスと比較して、OSMRβ−/−マウスの脂肪組織中において増加していた(図11C−F)。さらに、OSMRβ−/−マウスのCD11c陽性M1マクロファージ及びCD206陽性M2マクロファージの%は、HFDを与えた状態において、OSMRβ+/+マウスの割合よりも高かった(図11G及びH)。さらに、M2ATMsに対するM1ATMsの割合は、OSMRβ+/+マウスよりもHFDを与えたOSMRβ−/−マウスにおいて増大していた(図11I)
TNF−αの発現は、OSMRβ+/+マウスと比較して、OSMRβ−/−マウスの脂肪組織中において増加した(図12A)。これに対し、IL−6の発現量は、OSMRβ+/+マウスとHFDを与えたOSMRβ−/−マウスとの間で有意な差は認められなかった(図12B)。OSMRβ+/+マウスとOSMRβ−/−マウスとの間で、血清アディポネクチンレベルも有意な差は認められなかった(図12C)。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、インスリン抵抗性及び/又は脂肪組織の炎症に起因する疾患の治療又は予防の用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オンコスタチンM受容体に対するアゴニストを含んでなる、インスリン抵抗性の改善薬。
【請求項2】
オンコスタチンM受容体に対するアゴニストを含んでなる、脂肪組織の抗炎症薬。
【請求項3】
前記オンコスタチンM受容体アゴニストが、以下の(a)又は(b)に示されるポリペプチドである請求項1乃至2のいずれかに記載の医薬。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、かつ、オンコスタチンM受容体への活性作用を有するポリペプチド
【請求項4】
前記オンコスタチンM受容体アゴニストが、以下の(a)又は(b)に示されるポリペプチドを有効成分とする請求項1乃至2のいずれかに記載の医薬。
(a)配列番号4から7のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号4から7のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、かつ、オンコスタチンM受容体への活性作用を有するポリペプチド
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の医薬のスクリーニング方法であって、オンコスタチンM受容体への結合を指標とすることを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の医薬のスクリーニング方法であって、オンコスタチンM受容体に対する活性作用を指標とすることを特徴とするスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−67593(P2013−67593A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208354(P2011−208354)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(308038613)公立大学法人和歌山県立医科大学 (4)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】