説明

オーステナイトダクタイル鋳鉄

【課題】オーステナイトダクタイル鋳鉄合金組成物を用いて製造されるターボチャージャーハウジングのような物品を提供する。
【解決手段】約2.2重量%〜約2.4重量%の炭素;約3.5重量%〜約4.0重量%のケイ素;約28重量%〜約29重量%のニッケル;約2.5重量%〜約3.0重量%のクロム;約0.9重量%〜約1.1重量%のモリブデン;及び、約50%より多い鉄;を含み、パーセントは組成物の全重量を基準とするものであるオーステナイトダクタイル鋳鉄合金組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性が求められる用途において用いるための物品の製造において有用な合金組成物に関する。本合金組成物は、特に鉄ベースの合金である。
【背景技術】
【0002】
オーステナイトダクタイル鉄は周知であり、特定の化学的、機械的、及び物理的特性を有する材料が求められる広範囲の用途において、長年の間用いられている。ダクタイル鋳鉄は、好適な溶融金属処理によって製造される実質的に球状の粒子の形態の黒鉛を含む鋳鉄である。球状黒鉛は多結晶質の放射状構造を有する。文献において定義された複数の異なるオーステナイトダクタイル鉄のタイプが存在する。オーステナイトダクタイル鉄のタイプは、部分的に、種々の量の鉄、ニッケル、ケイ素、及び炭素、並びに幾つかの鉄のタイプにおいては、マンガン、リン、クロム、及びモリブデンのような更なる元素を含むそれらの化学的構成に基づいて定義される。これらの後者の元素は、意図的に加えることができ、或いは不可避の不純物として存在する可能性がある。オーステナイトダクタイル鉄のタイプは、更に、それらの変動するレベルの機械的特性(則ち、引張強さ、降伏応力、伸び、及びブリネル硬度)に基づいて定義される。一般に、オーステナイトダクタイル鉄は、通常は、良好な耐腐食性、耐浸食性、及び耐摩耗性;良好な高温における強度、延性、及び耐酸化性;靱性及び低温安定性;制御された熱膨張性;制御された磁気及び電気特性;並びに良好な可鋳性及び機械加工性;を示す。しかしながら、これらの品質はオーステナイトダクタイル鉄のタイプによって変動し、したがって特定の用途においては、特定のタイプが他のものよりも有用である。
【0003】
オーステナイトダクタイル鉄は、排気マニホールド、タービンハウジングのようなエンジン部品、及び高い熱応力下で運転しなければならない他の構造部品において通常的に用いられている。燃料効率性の向上及び自動車エンジンからの排気ガスの減少の要求は、エンジン出力及び燃焼温度を上昇させることによって満たされている。これらの上昇は、それらを通して通過させなければならない排気ガスの上昇した温度のためにエンジンの構造部品に対してより大きな歪みを与える。具体的には、エンジン部品を構築するのに用いられる材料は、高い耐温度性、良好な耐温度変動性、高い耐スケール性、及び低い温度膨張係数を有していなければならない。
【0004】
エンジン部品を運転しなければならない上昇した温度によって、かかるエンジン部品を構築するのに用いることができる材料の範囲がより限定される。エンジンの構造部品を鋳造するために最も通常的に用いられているオーステナイトダクタイル鉄は、D−5Sオーステナイトダクタイル鉄である。特に、D−5S鉄は、高い温度及び厳しい熱サイクルが起こるエンジンマニホールド、タービンハウジング、及びターボチャージャー部品において通常的に用いられている。広く受け入れられている標準規格(ASTM−A439)によれば、D−5Sは、2.3%の炭素、1%のマンガン、4.9〜5.5%のケイ素、1.75〜2.25%のクロム、34〜37%のニッケル、0.08%のリン、及び残余量の鉄を含む。この合金は、室温において良好な伸び及び降伏強さ、良好な可鋳性、及び約900℃以下の排気ガス温度において比較的良好な高温降伏強さを示す。
【0005】
D−5Sは、通常は約36%のニッケルを含む高合金である。ニッケルは高価な原材料であり、価格が大きく変動し、段々と乱高下し始めている。ニッケルの高いコストは、最終製品のコストに直接影響する。ターボチャージャーハウジング、及び特にターボチャージャーのタービンハウジングは最も大きな重量を含むので、これはまたターボチャージャー全体の最も大きなコストを構成する。したがって、ニッケルの高いコストが原因で最終製品のコストがどうしても劇的に上昇してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、ニッケルの量を最小にしてコストを低く且つより予測可能に保持しながら、現在のエンジンに求められる高温に耐えることができるような構造部品において用いるための代替の合金を製造することが有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高い性能特性、特に高い強度及び耐熱性を有する物品を製造するのに有用な合金組成物を提供する。本発明の合金は、現在知られているオーステナイトダクタイル鋳鉄よりも低コストの材料を用いて製造することができる点で特に有用である。ここで開示する本発明の合金は、特に、注目される好ましい特性を保持するが、低い製造コストを有するようにデザインされた特定の元素構成を含むオーステナイトダクタイル鋳鉄の鉄ベースの合金である。
【0008】
本発明による合金は、任意の金属物品の製造において用いることができるが、特に強度及び耐熱性に関して高性能の仕様を有する材料の製造において特に有用である。本発明の合金が特に有益である1つの分野は、タービンハウジング、排気マニホールド、及びターボチャージャーハウジングと一体鋳造された排気マニホールドのようなエンジン部品の製造における使用である。
【0009】
一形態においては、本発明は鋳鉄合金組成物、好ましくは鉄ベースの組成物に関する。本発明の特定の態様においては、合金組成物をここで記載する有用な物理特性を有する物品の製造において有用にするために、合金組成物の僅かな特定の元素のみを特定の量で存在させることしか必要ではない。例えば、一態様においては、本発明のよる合金組成物は、約2.2重量%〜約2.4重量%の炭素;約3.5重量%〜約4.0重量%のケイ素;約28重量%〜約29重量%のニッケル;約2.5重量%〜約3.0重量%のクロム;約0.9重量%〜約1.1重量%のモリブデン;及び、約50%より多い鉄;を含み、合金はスズ及びアンチモンを実質的に含まず、上記の重量%は合金組成物の全重量を基準とする。
【0010】
更なる態様によれば、本発明の合金には1種類以上の更なる元素を含ませることができる。具体的には、本発明による合金には、上記の元素に加えて、約0.035%〜約0.090%のマグネシウムを含ませることができる。更なる態様においては、合金には、全て組成物の全重量を基準として、約0.10%以下のマンガン、約0.08%以下のリン、及び/又は約0.03%以下のイオウなど(しかしながらこれらに限定されない)の1種類以上の随意の微量元素を含ませることができる。更なる態様においては、本発明の合金には、組成物の全重量を基準として、それぞれが約0.03重量%以下の量で存在し、微量元素の合計量が約0.5重量%以下、より好ましくは約0.25重量%以下、より好ましくは約0.15重量%以下である、1種類以上の他の微量元素を更に含ませることができる。
【0011】
本発明の他の態様においては、本発明の合金組成物は特定の規定された組成を有することが有益である。例えば、1つの特定の態様においては、本発明は、約2.2重量%〜約2.4重量%の炭素;約3.5重量%〜約4.0重量%のケイ素;約28重量%〜約29重量%のニッケル;約2.5重量%〜約3.0重量%のクロム;約0.9重量%〜約1.1重量%のモリブデン;約0.035重量%〜約0.090重量%のマグネシウム;から構成され、残りは鉄及び不可避の不純物を含む鋳鉄合金組成物に関する。
【0012】
好ましい態様においては、合金の炭素当量は約4%〜約5%の範囲、好ましくは約4.5%〜約4.9%の範囲であり、ここで炭素当量は式:
=C+0.33×Si+0.047×Ni−0.0055(Ni+Si)
(式中、Cは炭素当量を表し;Cは合金中の炭素の重量%を表し;Siは合金中のケイ素の重量%を表し;Niは合金中のニッケルの重量%を表し;パーセントは組成物の全重量を基準とするものである)
によって求められる。
【0013】
幾つかの態様においては、本発明の鋳鉄合金は、実質的に球状であり、約80%以上のレベル、又は約85%以上のレベルのASTM−A247による形態I及びIIの黒鉛の合計量を有するオーステナイト構造を有する。好ましい態様においては、形態I及びIIの黒鉛の合計量の少なくとも約80%、又は少なくとも約85%は形態Iを含む。
【0014】
本発明の他の形態によれば、ここで記載する合金組成物は種々の物品の製造において用いることができる。本合金組成物は、オーステナイトダクタイル鉄合金から通常製造される任意の物品の製造において用いることができる。本発明の合金は、高い熱機械負荷に耐える能力が求められる用途において用いるための物品を製造するために特に有用である。幾つかの態様においては、本発明は、本発明の合金から製造される自動車エンジン用の排気装置部材に関する。1つの特定の態様においては、本発明は上記に記載した合金組成物から形成されるタービンハウジングに関する。
【0015】
上述したように、タービンハウジングのような高い熱機械負荷に耐えなければならない物品は、幾つかの特定の物理的及び機械的要求を満たすことができなければならない。本発明による物品は、厳しい物理的及び機械的要求を満たすことができる点で特に有益である。好ましくは、本発明の合金を用いて製造される物品は、約950℃以下のガス温度の温度において高い機械的品質を示す。一態様においては、本発明は特定の試験手順にしたがって測定して特定の強度を有する物品を提供する。好ましくは、本発明の合金を用いて製造される物品は、少なくとも約300MPaの室温における極限引張強さ、少なくとも約200MPaの室温における0.2%耐力、及び室温において0.05%/秒の一定の歪み速度で連続軸方向負荷にかけた際に少なくとも5%の伸び率を有する。
【0016】
本発明の幾つかの態様の理解を促進するために、ここで貼付の図面(これは必ずしも一定縮尺ではない)を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1はターボチャージャーの図であり、20は本発明の一態様によるタービンハウジングである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、本発明の特定の態様、特にここに与える種々の図面を参照して、以下において本発明をより完全に記載する。実際には、本発明は多くの異なる形態で具現化することができ、ここに示す態様に限定されるものと解釈すべきではない。むしろ、これらの態様は、本開示が適用される法的必要条件を満足するように与えるものである。明細書及び特許請求の範囲において用いる単数形「a」、「an」、及び「the」は、記載が他に明確に示さない限りにおいて複数の指示物を含む。
【0019】
本発明はオーステナイトダクタイル鉄ベースの合金に関する。それ自体としては、合金組成物は主要合金化元素(又は合金成分)として鉄を含む。一般に、主要合金化元素として、鉄は合金中に存在する全ての他の単一の元素よりも多い量で存在する。好ましくは、鉄は残りの合金化元素の合計よりも多い量で存在する(則ち、組成物の全合計重量を基準として合金組成物の50重量%超を構成する)。特定の態様においては、鉄は本発明の合金組成物の約50重量%〜約65重量%を構成する。他の態様においては、鉄は本発明の合金組成物の約60〜約65重量%を構成する。
【0020】
本発明の更なる態様によれば、合金組成物は特定量の特定の合金化元素の群から構成されるという観点で記載することができる。かかる態様においては、合金中に存在する鉄の量は、合金の残りを形成する鉄及び不可避の不純物の観点で示すことができる。かかる観点で記載する場合には、残りが鉄であるということは、存在する鉄の実際の濃度(合金の全重量を基準とする重量%)は、存在する他の元素の濃度の合計値を得て、この合計値を100から減じることによって求めることができ、残りの値が合金中に存在する鉄の濃度を表す(則ち残余量)ことを示すことが理解される。
【0021】
本発明の合金組成物は、ここで与えられる合金組成物が、高応力・高熱の用途のために必要な機械的及び物理的要求を満足するか又はこれを超える物品の製造において用いることができ、更に合金組成物の元素構成が、公知のオーステナイトダクタイル鉄と比較して減少したコストで合金を製造することができるようなものであることを特に特徴とする。幾つかの態様においては、本発明の合金組成物によって、合金がかかる高応力・高熱の用途のために通常的に用いられるD−5Sオーステナイトダクタイル鉄と比較して減少した量のニッケルを含むという特徴が達成される。ニッケルは高価であり、また価格の大きな変動を受ける戦略的な材料でもあるので、D−5Sのものと比較して本発明の合金中のニッケルの減少した量によって合金の製造コストが減少する。好ましい態様においては、この減少したニッケル含量は、D−5Sと比較して合金の物理的特性に悪影響を与えることなく達成することができる。
【0022】
特定の態様においては、合金組成物は、合金組成物の全重量を基準として約10重量%〜約40重量%の量のニッケルを含む。更なる態様においては、合金組成物は約25%〜約35%の量のニッケルを含む。好ましい態様においては、合金組成物は約28%〜約30%の量のニッケルを含む。特に好ましい態様においては、本発明の合金のニッケル含量は約28重量%〜約29重量%である。ニッケルはマトリクス構造をオーステナイト化するのを助ける。Niの含量が約10%未満である場合には、オーステナイトが十分に安定化されない。Niの含量が40%を超える場合には、更なるオーステナイト化効果は生じず、有利な特性を対応して得ることなしに材料コストの増加のみが導かれる。
【0023】
ニッケル及び鉄に加えて、本発明の合金組成物に、合金組成物に有益な特性を与えるために有用である可能性がある1種類以上の更なる合金化元素を含ませることができる。幾つかの好ましい態様において有用な元素をここに記載する。しかしながら、幾つかの元素を含ませ、幾つかの更なる元素を排除することは、本発明の範囲を限定することを意図しない。むしろ、ここで記載する更なる元素は好ましいものに過ぎず、有益であるとみなされる更なる元素は、本発明から逸脱することなく合金中に含ませることができる。更なる元素を含ませる量は、全組成物の重量を基準とするものである。
【0024】
特定の態様においては、合金組成物は、合金組成物の全重量を基準として約1重量%〜約3重量%の量の炭素を含む。更なる態様においては、合金組成物は約1.5重量%〜約2.5重量%の量の炭素を含む。好ましい態様においては、炭素は約2.2重量%〜約2.4重量%の量で存在する。炭素を添加することによって、黒鉛結晶を形成させることができ、溶融形態での材料の流動性を向上させることができる。炭素含量が約1%未満である場合には、球状黒鉛を結晶化させることができず、溶融体の流動性が材料を有効に鋳造するために十分ではない。炭素含量が約3.5%を超える場合には、粗い黒鉛粒子が形成され、劣った室温伸びを有する球状黒鉛鋳鉄が得られ、鋳造中に収縮巣が形成される可能性がある。
【0025】
特定の態様においては、合金組成物は、合金組成物の全重量を基準として約3重量%以下の量のクロムを含む。幾つかの態様においては、クロムは約1重量%〜約3重量%の量で存在する。好ましい態様においては、クロムは約2.5%〜約3%の量で存在する。クロムは、鋳鉄マトリクス中にカーバイドが析出するのを促進し、それによりマトリクスの析出強化によって球状黒鉛鋳鉄の高温降伏強さを向上させることができる。またこれにより、表面付近に酸化クロムの密な不動態膜を形成させて、それによって耐酸化性を向上させることもできる。クロム含量が3%を超える場合には、材料の加工性が低下する可能性があり、黒鉛の球状化が悪影響を受ける可能性がある。幾つかの態様においては、本発明の合金は、合金が高い耐酸化性を示すことを確保するために、標準的なオーステナイト鋳鉄(例えばD−5S)におけるものよりも多い量のクロムを含む。特定の態様においては、本発明の合金はD−5Sよりも良好な耐酸化性を示すことができる。好ましい態様においては、合金は他の材料特性に有害な影響を与えることなくD−5Sよりも良好な耐酸化性を示す。
【0026】
特定の態様においては、合金組成物は、合金組成物の全重量を基準として約0.5重量%〜約4.5重量%の量のモリブデンを含む。幾つかの態様においては、合金は約0.5重量%〜約2重量%の量のモリブデンを含む。更なる態様においては、合金のモリブデン含量は約1重量%である。好ましくは、モリブデン含量は約0.9重量%〜約1.1重量%の間である。モリブデンは、鋳鉄マトリクス中にカーバイドが析出するのを促進することができ、それにより合金を用いることができる温度の全範囲にわたって析出を強めることによって球状黒鉛鋳鉄マトリクスの高温降伏強さを増加させることができる。モリブデン含量が1重量%より低い場合には、鋳鉄のマトリクスはカーバイドの形成による十分な析出強化を起こすことができない。モリブデン含量が4.5重量%を超える場合には、室温伸び及び機械加工性が低下する可能性がある。更に、モリブデンは高価である可能性があり、したがって用いるモリブデンの量を制限することが望ましい可能性がある。
【0027】
特定の態様においては、合金組成物は約1重量%〜約6.5重量%の量のケイ素を含む。幾つかの態様においては、合金は約3.5重量%〜約6重量%の量のケイ素を含む。好ましくは、合金は約4.5重量%〜約6.0重量%のケイ素を含む。ケイ素は黒鉛の結晶化に寄与する。1重量%以上のケイ素を合金に含ませることによって、表面付近に酸化ケイ素の不動態膜を形成させて、向上した材料の耐酸化性を得ることができる。しかしながら、ケイ素含量が6.5を超える場合には、硬質マトリクスが形成され、これによって合金から製造される物品の劣った機械加工性が導かれる。
【0028】
幾つかの態様においては、合金の炭素当量値を特定することができる。好ましい態様においては、炭素当量値は次式:
=C+0.33×Si+0.047×Ni−0.0055(Ni+Si)
(式中、Cは炭素当量を表し;Cは合金中の炭素の重量%を表し;Siは合金中のケイ素の重量%を表し;Niは合金中のニッケルの重量%を表し;これらは合金組成物の全重量を基準とする)
に基づいて計算される。
【0029】
幾つかの態様においては、合金の炭素当量値は、合金組成物の全重量を基準として約4%〜約5%の間である。好ましい態様においては、炭素当量値は約4.5%〜約4.8%の間である。炭素当量値は、合金の固化温度範囲を定め、合金の基本的な特徴及びその特性に関係する。例えば、幾つかの態様においては、炭素、並びにニッケル及びケイ素のような他の元素の合金中での濃度をより高くすると、それから製造される物品の増加した硬度を導くことができる。これらの元素のそれぞれは合金の特性に多少異なる程度に影響を与えて、異なる合金化方法で製造される2つの合金の間の硬度の差を判断するために比較方法が必要になる可能性がある。種々の量のケイ素、ニッケル、及び炭素が同じ炭素当量値を与える可能性があり、同じ炭素当量値を有する合金が必ずしも同一か又は同様の特性を有しないことを注意されたい。したがって、合金を規定するために炭素当量値を用いることは、合金の特性を予測するのに役立つ可能性があるが、これは若干限定される。
【0030】
更なる態様によれば、本発明の合金組成物にはマグネシウムを含ませることができ、これは合金組成物の全重量を基準として約0.02重量%〜約0.1重量%の範囲の量で存在させることができる。好ましくは、マグネシウムは約0.035%〜約0.090%の量で存在する。幾つかの態様においては、マグネシウムは接種材として合金溶融体に加えることができ、これによって黒鉛の成核を促進し、及び/又は合金内の鉄の過冷却に影響を与えることができる。接種によって、向上した機械加工性、増加した強度及び延性、減少した硬度及び断面感受性、並びに冷却した合金及びそれから製造される物品中のより均一な微細構造を導くことができる。
【0031】
上記の元素に加えて、幾つかの態様においては、本発明の合金には微量で存在する1種類以上の元素を含ませることができ、かかる元素は微量元素と呼ぶことができる。ここで用いる「微量元素」という用語は、それに関する最小含量が求められていない本発明の合金組成物中に存在する任意の元素を意味する。したがって、微量元素は合金組成物中に全く存在していなくてもよい。微量元素は合金の製造において用いるプロセスの直接的な結果として合金中に存在させることができ、或いは他の元素を合金組成物中に少量ではあるが意図的に含ませることができる。1種類以上の微量元素が合金組成物中に含まれる場合には、それは好ましくは最大量以下で存在する。
【0032】
例えば、特定の態様においては、本発明の合金に、マンガン、リン、イオウ、及び銅の1以上を含ませることができる。一態様においては、本発明の合金にマンガンを含ませることができる。マンガンは、合金組成物の全重量を基準として約0.50重量%以下の量で存在させることができる。他の態様においては、本発明の合金にリンを含ませることができる。リンは、合金組成物の全重量を基準として約0.08重量%以下の量で存在させることができる。例えば、更なる態様においては、本発明の合金にイオウを含ませることができる。イオウは、合金組成物の全重量を基準として約0.3重量%以下の量で存在させることができる。他の態様においては、本発明の合金に銅を含ませることができる。銅は、合金組成物の全重量を基準として約0.50重量%以下の量で存在させることができる。
【0033】
更なる態様においては、本発明の合金に他の元素を含ませることができる。一態様においては、個々の微量元素を約1重量%以下の量で存在させることができる。より好ましくは、微量元素は約0.1重量%以下の量で存在する。微量元素は、好ましくは本発明の全合金組成物の小割合しか構成しない。幾つかの態様においては、存在する全ての微量元素の合計は、本発明の全合金組成物の全重量の約2%以下を構成してよい。好ましくは、全ての微量元素の合計は、合金の約1.5重量%以下、より好ましくは合金の約1重量%以下を構成する。
【0034】
幾つかの態様においては、微量元素は不純物であってよい。合金プロセスに通常的なように、特に合金の製造においてより低コストの材料を用いる場合には、種々の不純物が合金組成物中に導入されることが通常的である。したがって、合金化元素として必ずしも求められていない合金組成物中に存在する任意の元素を不純物とみなすことができる。更に、リン、窒素、及び酸素のような非金属材料が不純物として存在していてもよい。勿論、他の非金属材料が不純物として含まれていてもよい。
【0035】
特に本発明の合金組成物中に微量で存在していてよい元素としては、カルシウム及びナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。単一の不純物の量は、好ましくは約0.1%以下である。好ましい態様においては、全ての不純物の合計量は、約1重量%より少なく、好ましくは約0.5重量%より少なく、約0.4重量%より少なく、或いは約0.3重量%より少ない。
【0036】
幾つかの態様においては、本発明の合金はスズ及び/又はアンチモンを実質的に含まない。実質的に含まないとは、いずれの元素も約0.001重量%未満、より頻繁には約0.0001重量%未満、最も頻繁には約0.00001重量%未満であることを意味する。幾つかの態様においては、スズ及びアンチモンは全合金組成物全体の実質的に0重量%を構成する(則ち、合金はスズ及びアンチモンを含まない)。
【0037】
特に合金の総コストを減少させながら合金に関係する全体的な強度を保持することに関連する本発明の合金の有利性は、幾つかの態様においては、特定量のこれらの元素を用いることによって達成することができる。特定の態様においては、合金組成物は、約2.2%〜約2.4%の範囲の量の炭素;約3.5%〜約4%の量のケイ素;約28%〜約29%の量のニッケル;約2.5%〜約3%の量のクロム;約0.9%〜約1.1%の量のモリブデン;を含み、全ての重量パーセントは全合金組成物の全重量を基準とするものである。本発明の他の態様においては、本発明の合金組成物が具体的に規定された組成を有することが有益である。例えば、1つの特定の態様においては、本発明は、約2.2重量%〜約2.4重量%の炭素;約3.5重量%〜約4.0重量%のケイ素;約28重量%〜約29重量%のニッケル;約2.5重量%〜約3.0重量%のクロム;約0.9重量%〜約1.1重量%のモリブデン;約0.035重量%〜約0.090重量%のマグネシウム;から構成され、残りは鉄及び不可避の不純物を含む鋳鉄合金組成物に関する。
【0038】
本発明の合金組成物は、当該技術において一般的に知られている任意の方法による種々の物品の製造において用いるのに好適である。本合金組成物は、オーステナイトダクタイル鉄合金から通常製造される任意の物品の製造において用いることができる。本発明の合金は、高い熱機械負荷に耐える能力が求められる用途において用いるための物品を製造するために特に有用である。幾つかの態様においては、本発明は、本発明の合金から製造される自動車エンジン用の排気装置部材に関する。1つの特定の態様においては、本発明はここで記載する合金組成物から形成されるターボチャージャーハウジングに関する。本発明のターボチャージャーハウジングの一態様を図1に示す。特に図1は、タービンホイール30を収容するタービンハウジング20、及びコンプレッサーインペラー50を収容するコンプレッサーハウジング40、及びベアリングの組を収容するベアリングハウジング60を含むターボチャージャー10を示す。ベアリングの組70は、タービンホイール30をコンプレッサーインペラー50に接続する回転シャフト80を支持する。特定の態様においては、ターボチャージャー10、タービンハウジング20、ベアリングハウジング60、及びコンプレッサーハウジング40の1以上に、ここで記載する合金を含ませることができる。
【0039】
合金それ自体は、任意の種々の伝統的な金属製造及び形成法を用いて製造することができる。伝統的な鋳造はこれらの合金のインゴットを形成するための最も通常的な方法であるが、他の方法を用いることができる。他の合金を形成するための当該技術において通常的な熱及び熱機械処理法は、本発明の合金の製造及び強化において用いるのに好適である。合金を製造しそれから物品を製造する代表的な方法は、次の米国特許(これらはその全部を参照として本明細書中に包含する):「タービンディスクの製造方法」と題されたMillerらの米国特許4,608,094;「部品の鋳造」と題されたMillsらの米国特許4,532,974;及び「動力駆動ユニット」と題されたFlippoの米国特許4,191,094;において与えられている。
【0040】
1つの特定の態様においては、本発明による合金組成物を砂型鋳造法において用いて、ターボチャージャーハウジングのような物品を製造することができる。砂型鋳造は、低コストで且つその後の機械加工を限られた量しか必要としないで良好な表面仕上げを有する鋳造物を与えるプロセスである。鋳型は、通常は耐熱性の砂又は高温合金のような合金のものよりも高い融点を有する材料で形成される。鋳型は、注入する特定の合金、製造する鋳造物の数、鋳造物の寸法要求、及び鋳造物の特性要求によって、数多くの方法の1つで製造することができる。合金を構成する金属を溶融させ、溶融炉から取鍋中に取り、鋳型空間中に注入する。その中において、鋳型及び中子によって画定される空間内で金属を固化させる。鋳型内の湯口によって液体金属が固有鋳型空間内に流入することが確保され、押湯によって適切な固化の制御が促進される。鋳造物が固化した後にそれを鋳型から振り落として、押湯及び湯口を取り除く。必要な場合には、鋳造物を熱処理することができる。次に、鋳造物を清浄化及び仕上げ処理し、品質検査を行う。勿論、かかる方法を修正して鋳造方法を最適化することができる。
【0041】
幾つかの態様においては、鋳鉄を、溶融した後で且つ鋳型中に注入する前に処理して黒鉛を球状化させる。球状化は、それによって鋳鉄の微細構造及び機械的特性を向上させることができるプロセスである。球状化プロセスは、黒鉛球状体の成長を確保することによって材料の微細構造に特異的に影響を与える。ダクタイル鉄においては球状化処理によって接種効率が影響を受け、したがって正しい処理プロセス及びマグネシウム含有材料を選択することが重要である。幾つかの態様においては、マグネシウム処理中に多数の小さな微細封入物が形成されることが有利である可能性がある。球状化中においては、数多くの封入物が硫化物のコア内に形成され、外側のシェルはコンプレックスケイ酸マグネシウムを含む。しかしながら、ケイ酸マグネシウムの結晶格子構造は黒鉛の格子構造に良く整合しないので、かかる微細封入物は黒鉛の有効な成核を与えない。したがって、幾つかの態様においては、ケイ酸マグネシウム粒子の表面に、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、アルミニウム、及び/又は希土類元素を含むフェロシリコン合金を接種することができる。かかる態様においては、接種によってケイ酸マグネシウム粒子の表面を変性することができ、他のコンプレックスカルシウム、バリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、アルミニウム、及び/又は希土類元素ケイ酸塩層を形成することができる。かかるケイ酸塩は黒鉛と同じ六方晶結晶格子構造を有することができ、非常に良好な格子整合のために、固化中にそれから黒鉛球状体を成長させることができる有効な成核部位として機能させることができる。
【0042】
幾つかの態様においては、鋳鉄が溶融した後で且つ鋳型中に注入する前に鋳鉄に接種する。接種は、それによって鋳鉄の微細構造及び機械的特性を向上させて、所望の機械的特性を有する最終製品を与えるプロセスである。接種によって、向上した機械加工性、強度、及び延性、減少したハーネス及び肉厚感度、並びにより均一な微細構造を有する鋳造物を与えることができる。また、それによって固化収縮の傾向を減少させることもできる。接種プロセスは、黒鉛成核部位を提供し(それによって溶融炭素を炭化鉄ではなく黒鉛として析出させ)、鉄の共融過冷却を制御することによって、材料の微細構造に特異的に影響を与える。種々の接種物を用いることができ、一態様においては、少量のカルシウム、バリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、アルミニウム、及び/又は希土類元素を有するフェロシリコンベースの合金を用いる。接種物は溶融金属に直接加えることができ、プロセス中の種々の時点で加えることができる。例えば、幾つかの態様においては、接種物は、単純な取鍋接種、注入流中への注入、及び/又は鋳型内ペレットによって導入することができる。幾つかの好ましい態様においては、接種は注入流又は鋳型内に加えることによって行う。好ましくは、接種物を鋳型に加える場合には、鋳型内垢取り中子を用いて、スラグ/酸化物膜及び封入物の存在を最小にすることができる。接種物の添加速度は、それをどこで及びいつ導入するかによって定まる。例えば、接種物をプロセスの初期において加える(例えば搬送取鍋に加える)場合には、より高い接種物添加速度(例えば約1重量%以上の高さ)が必要な可能性があり、一方、プロセスの後期において加える(例えば金属流に加える)場合には、より低い接種物添加速度(例えば僅か約0.1重量%以下)が必要な可能性がある。
【0043】
上記に示したように、好ましい態様においては、鋳鉄合金はオーステナイト構造を有する。オーステナイト構造とは、黒鉛が実質的に球状であることを意味する。球状とは、延性マトリクス中に小さく丸い粒子の形態の黒鉛粒子が存在することを指す。具体的には、好ましい態様においては、本発明の鋳鉄合金はオーステナイトのマトリクス中に球状黒鉛を含む微細構造を有する。幾つかの態様においては、微細構造は、標準的な金相学的方法によって試料を調製し、エッチング処理することによって評価する。黒鉛特性の形態及び粒数の測定は、PI−5993による画像分析システムか、或いは例えば顕微鏡検査結果をASTM−A247チャートと比較することのいずれかを用いて行うことができる。
【0044】
形態I(完全に球状)から形態III及びIV(圧縮されているか/バーミキュラで先端の尖った黒鉛)迄の範囲のASTM標準規格にしたがって規定することができる一定範囲の形態の黒鉛形態が存在する。微細構造は物品全体にわたって均一でなくてもよく、物品の異なる部分内では変動していてもよい。
【0045】
幾つかの態様においては、本発明の鋳鉄合金は、実質的に球状の黒鉛を有するオーステナイト構造を有する。好ましい態様においては、合金は、全黒鉛重量を基準として少なくとも約80%又はそれ以上のレベルのASTM−A247による形態I及びIIの黒鉛の合計量を有する。特に好ましい態様においては、形態Iが優勢である。特定の態様においては、形態I及びIIの黒鉛の合計量の少なくとも約80%は形態Iを含んでいてよく、好ましい態様においては、形態I及びIIの黒鉛の合計量の少なくとも約87%は形態Iを含んでいてよい。形態I及びIIの黒鉛の割合が少なくとも80%であり、形態I及びIIの黒鉛の少なくとも約80%又は87%が形態Iの黒鉛である態様は、ここで開示する合金組成物から製造される物品の軽量部分(例えば、収容バンド、渦巻き壁、及びマニホールド管内)のために特に好ましい可能性がある。幾つかの態様においては、全黒鉛の約20%以下を構成する残りの黒鉛は、形態III及びIVの黒鉛を含んでいてよい。好ましい態様においては、この形態III及びIVの黒鉛内では形態IIIが優勢である。特に好ましい態様においては、合金は形態V及びVIの黒鉛を含まない。
【0046】
他の態様においては、本発明の鋳鉄合金は、実質的に球状の黒鉛を有し、全黒鉛重量を基準として少なくとも約70%又はそれ以上のレベルのASTM−A247による形態I及びIIの黒鉛の合計量を有するオーステナイト構造を有する。特に好ましい態様においては、形態Iが優勢である。特定の態様においては、形態I及びIIの黒鉛の合計量の少なくとも約70%は形態Iを含んでいてよい。形態I及びIIの黒鉛の割合が少なくとも約70%であり、形態I及びIIの黒鉛の少なくとも約50%が形態Iの黒鉛であるこれらの態様は、ここで開示する合金組成物から製造される物品のより重質の部分(例えば、フランジ、凸縁領域、ウェストゲートハウジングの輪郭、及びVNTハウジングの「U」表面の下側内)のために特に好ましい可能性がある。幾つかの態様においては、全黒鉛の約30%以下を構成する残りの黒鉛は、形態III及びIVの黒鉛を含んでいてよい。好ましい態様においては、この形態III及びIVの黒鉛内では形態IIIが優勢である。特に好ましい態様においては、合金は形態V及びVIの黒鉛を含まない。
【0047】
本発明の幾つかの態様においては、合金は、形態VII(鱗片状/層状)の黒鉛又は擬片状黒鉛(形態IV)を更に含んでいてよい。好ましい態様においては、合金が形態VII及び/又はIVの黒鉛を含む場合には、これは鋳造物表面又は表面反応区域に存在する。好ましくは、存在する場合には形態VII及び/又はIVの黒鉛は、薄壁においては約0.2mm、厚壁においては約0.4mmの最大深さまで存在する。「薄壁」とは厚さが約5mm以下の壁を意味し、「厚壁」とは厚さが約5mmより大きい壁を意味する。
【0048】
本発明の幾つかの態様においては、黒鉛粒数が特定される。例えば、幾つかの態様においては、材料は約100〜約500mmの粒数を示すことができる。幾つかの態様においては、材料は鋳造物の薄壁において約200〜約500mmの粒数を示すことができる。幾つかの態様においては、材料は鋳造物の厚壁において約150〜約450mmの粒数を示すことができる。黒鉛粒数の計数は、例えば比較計数法又は好適な画像分析装置を用いて行うことができる。好ましい態様においては、約10μm未満の直径を有する全ての黒鉛体は、この計数においては考慮しない。好ましい態様においては、計数は100倍の倍率の画像について行う。
【0049】
本発明の幾つかの態様においては、黒鉛球状体の平均径が特定される。例えば、幾つかの態様においては、材料は、約10μm〜約50μmの範囲、好ましくは約10μm〜約40μmの範囲の平均径を有する黒鉛球状体を含む。
【0050】
本発明の幾つかの態様においては、合金のマトリクス構造が特定される。例えば、幾つかの態様においては、Nital 5%(約100mLのエタノール中に希釈された約5mLの塩酸を含む)のような試薬でエッチング処理した後の完全にアニールした鋳造物のマトリクス構造は、実質的にフェライトであってよい。幾つかの態様においては、マトリクスは元のオーステナイト粒界に約25%以下の混合カーバイド及びパーライトを含んでいてよい。好ましい態様においては、マトリクスは連続カーバイドのネットワークを含まない。特に好ましい態様においては、混合カーバイドが存在する場合には、粗粒カーバイドの含量は混合カーバイド含量の約5%未満に限定される。
【0051】
本発明の幾つかの態様においては、巣の程度及び形態を特定することができる。巣は、均一に分散しているか、又は樹枝状成長と直線状の方向性を示すクラスター化形態で存在していてよい。巣は、切取り、摩滅、又は研磨によって検出することができる。好ましい態様においては、巣は最小化される。
【0052】
ここで記載する幾つかの態様の本発明の合金組成物を用いて製造される物品は、高温用途において用いるための増加した性能要求を満足するか又はこれを超えることが特に期待される。実施例において示すように、幾つかの態様の本発明の合金組成物は、昇温下での優れた性能の例である機械的特性(例えば極限引張強さ、降伏強さ、及び伸び)を有する物品を提供する。
【0053】
幾つかの態様においては、本発明の合金は、約800℃以下、約850℃以下、約900℃以下、約950℃以下、又は約1000℃以下の温度(ここで、温度は物品が曝されるガス温度を指す)において高い機械的特性を示すことができる。好ましくは、本発明の合金は約950℃以下の温度(ここで、温度は物品が曝されるガス温度を指す)において高い機械的特性を示す。したがって、幾つかの態様の本発明の合金組成物を用いて製造される物品は、高温用途における有益な使用を見出し、向上した性能だけでなく、高温条件下での物品の長い寿命も与えることが期待される。
【0054】
一態様においては、本発明の合金を用いて製造される物品は、特に、特定の物理的又は機械的特性に関する種々の標準規格を満足するか又はこれを超えることができる。幾つかの態様においては、機械的特性は、ASTM−E8か又は試験用棒状試料に関する他の同等の国家規格にしたがって測定される。好ましくは、試験のために鋳造試料から引張試料を取り出す。ASTM−E8に記載されている最も小さい試験試料の寸法であってもこれが可能でない場合には、試験用の試験片を、それらが相当することを意図する部品と同じ製造プロセスにしたがってキールブロック又はY−ブロックから機械加工することができる。理想的には、鋳造後のブロックの冷却条件は鋳造物のものと同等であり、ブロックの壁厚は鋳造物の最も厚い部分に相当するものでなければならない。キールブロック又はY−ブロックを試験のために用いる幾つかの態様においては、最小の3つの引張試験を行う。
【0055】
例えば、一態様においては、物品は、室温において、少なくとも約340MPa、少なくとも約360MPa、少なくとも約380MPa、少なくとも約400MPa、又は少なくとも約420MPaの引張強さを示す。好ましい態様においては、物品は少なくとも約380MPaの引張強さを示す。幾つかの態様においては、物品は、少なくとも約190MPa、少なくとも約200MPa、少なくとも約210MPa、少なくとも約220MPa、又は少なくとも約230MPaの0.2%耐力を示す。好ましい態様においては、物品は少なくとも約210MPaの0.2%耐力を示す。幾つかの態様においては、物品は、少なくとも約5%、少なくとも約8%、少なくとも約10%、少なくとも約12%、又は少なくとも約15%の伸びを示す。好ましい態様においては、物品は少なくとも約10%の伸びを示す。
【0056】
幾つかの態様においては、本発明の合金は、ASTM−E8Mによって試験して、25℃において約200MPa〜約250MPaの範囲の降伏強さを示すことができる。幾つかの態様においては、降伏強さは25℃において少なくとも約220又は約230MPaである。幾つかの態様においては、本発明の合金は、ASTM−E8Mによって試験して、1000℃において約60MPa〜約100MPaの範囲の降伏強さを示すことができる。幾つかの態様においては、降伏強さは、1000℃において少なくとも約70、少なくとも約80、又は少なくとも約90MPaである。幾つかの態様においては、本発明の合金の降伏強さは、室温及び昇温(約1000℃以下及び/又は超)の1以上において、D−5Sのものよりも大きい。幾つかの態様においては、本発明の合金は、ASTM−E8Mによって試験して、25℃において約350MPa〜約450MPaの範囲の極限引張強さを示すことができる。幾つかの態様においては、本発明の合金は、ASTM−E8Mによって試験して、1000℃において約60MPa〜約100MPaの範囲の極限引張強さ示すことができる。幾つかの態様においては、極限引張強さは、1000℃において少なくとも約70、少なくとも約80、又は少なくとも約90MPaである。幾つかの態様においては、本発明の合金の極限引張強さは、特に約600℃より高い温度においてD−5Sのものよりも大きい。幾つかの態様においては、本発明の合金は、25℃において約100GPa〜約150GPaの範囲のヤング率を示すことができる。幾つかの態様においては、本発明の合金は、1000℃において約50GPa〜約70GPaの範囲のヤング率を示すことができる。
【0057】
幾つかの態様においては、本発明の合金は、0.5%の全歪みを用いて500℃において約10,000〜約11,000の範囲、0.5%の全歪みを用いて600℃において約15,000〜約16,000の範囲、及び0.5%の全歪みを用いて700℃において約8,000〜約9,000の範囲の全サイクル数後の疲労/破壊を示すことができる。幾つかの態様においては、合金は、0.5%の全歪みを用いて500℃において約7,500超、約10,000超、又は約10,500超のサイクル後、0.5%の全歪みを用いて600℃において約10,000超、約12,500超、又は約15,000超のサイクル後、及び/又は0.5%の全歪みを用いて700℃において約7,000超、約7,500超、又は約8,000超のサイクル後の破壊を示すことができる。幾つかの態様においては、本発明の合金は、D−5Sよりも多いサイクル数後の破壊を示す。
【0058】
一態様においては、本発明の合金を用いて製造される物品は、試験法EN−ISO−6506−1(機械加工した表面について、或いは鋳造物表面の軽研磨(ほぼ0.5mm)の後に行う)にしたがって評価した場合などにおいて、室温において約300 HBW 5/750より低い比硬度を有する。
【0059】
幾つかの態様においては、例えば顕微鏡の検査結果をASTM−A247チャートと比較することによって、黒鉛特性(形態及び粒数)の測定を行う。
【実施例】
【0060】
以下の実施例によって本発明をより完全に示す。これらは本発明を例示するために示すものであり、限定するものとは解釈されない。
鋳造物の化学分析のために、発光分光法、誘導結合プラズマグロー放電発光、及び湿式化学法のような種々の方法を利用することができる。製造プロセス中において、プロセス制御の目的で炉又は取鍋から採取した試料は、発光分光法による非常に迅速な分析に好適な特別な冷硬試料と思われる。鉄が冷硬(白色)又は黒鉛(完成鋳造物などの場合)である場合には、特定の分析法に応じて変動がある可能性がある。幾つかの態様においては、分析法の正確性はケイ素に関して特に重要であり、ケイ素分析は通常は湿式/重量測定法を用いて完成鋳造物について行うが、他の利用できる技術を用いることができる。
【0061】
異なる温度範囲に関してガススタンド及びエンジンについて試験して、EN−13835によって本発明の合金とD−5Sとの間の素早い比較を可能にすることによって研究を行った。試験した代表的な合金及び試験したD−5S合金を表1に示す。これらの試験は、耐用期間中のタービンハウジング材料の挙動をシミュレートした。異なるタービンハウジングを、適当な熱サイクルの適用及びウェストゲート運転に200時間かけた。950℃の最高温度を用いて試験を行った。タービン段部品を、ターボチャージャーが耐えることを期待される実際の雰囲気条件をシミュレートした加速運転条件にかけた。
【0062】
試験時間中において周期的に、タービン段を目視検査し、材料の亀裂及び欠陥を調べた。試験の後、部品の金相学的検査を行った。この部品の事後試験分析によると、本発明は、このような用途のために現在用いられているオーステナイトダクタイル鉄D−5Sと互換的に用いることができると結論された。
【0063】
実施例:合金の配合:
【0064】
【表1】

【0065】
実施例2:ASTM−E8M−2004(2004年5月発行)によって1%/秒の高い歪み速度において行った代表的な引張試験:
【0066】
【表2】

【0067】
実施例3:ASTM−E606−1992(1993年3月発行)によって行った代表的な疲労試験:
【0068】
【表3】

【0069】
上表中において、それぞれの温度の下の欄は2つの異なる全歪み速度を示すことに注意されたい。例えば、5,700の値を有する1番目の欄:500/0.5/D5Sは、0.5%の全歪みを用いて500℃において行った低サイクル疲労試験(−1のR比において0.25%の最大歪みに関するものであるので、最小歪みは−0.25%である)によって5,700サイクル後の破壊が得られたことを示す。
【0070】
ここで示す本発明の多くの修正及び他の態様は、上記の記載において示されている教示の助けを借りれば、これらの発明が関係する技術の当業者が想到するであろう。したがって、本発明は開示された特定の態様に限定されるものではなく、修正及び他の態様は特許請求の範囲に含まれると意図されることを理解すべきである。ここでは特定の用語を用いているが、これらは一般的且つ説明的な意味のみで用いられ、限定の目的のためには用いられない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約2.2重量%〜約2.4重量%の炭素;
約3.5重量%〜約4.0重量%のケイ素;
約28重量%〜約29重量%のニッケル;
約2.5重量%〜約3.0重量%のクロム;
約0.9重量%〜約1.1重量%のモリブデン;及び
約50%より多い鉄;
を含み、パーセントは組成物の全重量を基準とするものであり、合金はスズ及びアンチモンを実質的に含まないオーステナイトダクタイル鋳鉄合金組成物。
【請求項2】
組成物の全重量を基準として約0.035重量%〜約0.090重量%のマグネシウムを更に含む、請求項1に記載の鋳鉄合金。
【請求項3】
1種類以上の微量元素を更に含む、請求項1に記載の合金組成物。
【請求項4】
1種類以上の微量元素が、以下:
組成物の全重量を基準として
約0.10%以下のマンガン;
約0.08%以下のリン;及び
約0.03%以下のイオウ;
の1以上を含む、請求項3に記載の合金組成物。
【請求項5】
1種類以上の微量元素が、それぞれ組成物の全重量を基準として約0.1重量%以下の量で存在する、請求項3に記載の合金組成物。
【請求項6】
1種類以上の微量元素が、組成物の全重量を基準として約0.15重量%以下の合計量で存在する、請求項3に記載の合金組成物。
【請求項7】
鋳鉄が、実質的に球状であり、約70%以上のレベルのASTM−A247による形態I及びIIの黒鉛の合計量を有する黒鉛を有するオーステナイト構造を有する、請求項1に記載の鋳鉄合金。
【請求項8】
ASTM−A247による形態I及びIIの黒鉛の合計量の少なくとも約87%が形態Iを含む、請求項7に記載の鋳鉄合金。
【請求項9】
請求項1に記載の合金組成物から形成されるタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項10】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、ASTM−E8にしたがって測定して少なくとも約380MPaの室温における極限引張強さを有する、請求項9に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項11】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、ASTM−E8にしたがって測定して少なくとも約210MPaの室温における0.2%耐力を有する、請求項9に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項12】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、ASTM−E8にしたがって測定して少なくとも約10%の室温における破断点伸び率を示す、請求項9に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項13】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、EN−ISO−6506−1にしたがって測定して約300 HBW 5/750未満の室温における硬度を有する、請求項9に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項14】
約2.2重量%〜約2.4重量%の炭素;
約3.5重量%〜約4.0重量%のケイ素;
約28重量%〜約29重量%のニッケル;
約2.5重量%〜約3.0重量%のクロム;
約0.9重量%〜約1.1重量%のモリブデン;
約0.035重量%〜約0.090重量%のマグネシウム;及び
残余量の鉄及び不可避の不純物;
から構成され、パーセントは組成物の全重量を基準とするものであるオーステナイトダクタイル鋳鉄合金組成物。
【請求項15】
鋳鉄が、実質的に球状であり、約70%以上のレベルのASTM−A247による形態I及びIIの合計レベルを有する黒鉛を有するオーステナイト構造を有する、請求項14に記載の鋳鉄合金。
【請求項16】
ASTM−A247による形態I及びIIの黒鉛が少なくとも約70%の形態Iを有する黒鉛を含む、請求項15に記載の鋳鉄合金。
【請求項17】
請求項14に記載の合金組成物から形成されるタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項18】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、ASTM−E8にしたがって測定して少なくとも約380MPaの室温における極限引張強さを有する、請求項17に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項19】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、ASTM−E8にしたがって測定して少なくとも約210MPaの室温における0.2%耐力を有する、請求項17に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項20】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、ASTM−E8にしたがって測定して少なくとも約10%の室温における破断点伸び率を示す、請求項17に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。
【請求項21】
タービンハウジング又はタービンマニホールドが、EN−ISO−6506−1にしたがって測定して約300 HBW 5/750未満の室温における硬度を有する、請求項17に記載のタービンハウジング又はタービンマニホールド。

【図1】
image rotate