説明

オーディオ信号再生装置及びオーディオ再生方法

【課題】マルチチャンネルオーディオを再生する場合の音場のシミュレーションが、より良好に行えるようにする。
【解決手段】左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号,左リアチャンネル信号,右リアチャンネル信号の少なくとも4チャンネル信号で構成されるオーディオ信号を信号処理し、信号処理された2チャンネル信号を、左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカ36L,36Rから放音させる場合に、4チャンネルのオーディオ信号について残響信号を生成し、生成された残響信号に対して仮想音像信号を生成し、生成された仮想音像信号を左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号に合成させ、生成された仮想左チャンネル信号,右チャンネル信号をそれぞれ左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカから出力させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4チャンネル以上のいわゆるマルチチャンネルオーディオ信号を処理するオーディオ信号処理装置及びオーディオ再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オーディオ信号源である再生装置などを接続すると共に、その再生装置側から供給されるオーディオ信号に増幅などの処理を施して、処理されたオーディオ信号を接続されたスピーカ装置に供給して放音させるアンプ装置として、AVアンプ装置(オーディオ・ビジュアル・センター・アンプリファイア装置を略したもの)と称されるものがある。AVアンプ装置は、例えば映像に同期したオーディオ信号(映像とは無関係のオーディオ信号が入力する場合もある)の高度な処理などが行える多機能化されたオーディオ機器であり、音場や音質などを任意の状態に設定できるようにしてある。
【0003】
このAVアンプ装置は、入力されるオーディオ信号として、通常の2チャンネルのステレオオーディオ信号の他に、マルチチャンネルオーディオ信号と称される5チャンネル程度のオーディオ信号が入力される場合もある。例えば、DVD(デジタルビデオディスク又はデジタルバーサティルディスク)と称されるディスク状の記録媒体などから再生したオーディオ信号として、フロントの左チャンネルと、フロントの右チャンネルと、センターチャンネルと、リアの左チャンネルと、リアの右チャンネルと、低域専用チャンネルの合計6チャンネルのマルチチャンネルオーディオ信号が入力される場合がある。
【0004】
なお、このようなチャンネル構成の場合には、低域専用チャンネルを0.1チャンネルと見なして、残りの5チャンネルと合わせて5.1チャンネルと称する場合がある。低域専用チャンネルは、例えば120Hz程度よりも低域のオーディオ信号だけが得られるチャンネルで、スーパーウーファと称される低域音だけを再生するスピーカ装置に供給して放音させる。低域専用チャンネル以外の他のチャンネルは、それぞれのチャンネル用の配置されたスピーカ装置に供給して、例えば聴取者の周囲に配置された複数のスピーカ装置で立体的な音響空間を形成させる。
【0005】
ここで、従来のAVアンプ装置、或いはAVアンプ装置と同様の機能を備えた処理装置(システムステレオ装置など)を使用して、マルチチャンネルオーディオ信号を再生する場合の再生状態の概要を図11に示すと、入力端子としてセンターチャンネル用端子1Cと、フロントの左チャンネル用端子1Lと、フロントの右チャンネル用端子1Rと、リアの左チャンネル用端子1SLと、リアの右チャンネル用端子1SRとを備える。なお、ここでは低域専用チャンネルの処理については省略してある。また、以下の説明では、フロントの左チャンネル及び右チャンネルについては、単に左チャンネル及び右チャンネルと称する。
【0006】
そして、DVD再生装置,デジタル放送受信装置などのオーディオ信号源(図示せず)から供給される5チャンネルのオーディオ信号を、各チャンネル用の入力端子1C,1L,1R,1SL,1SRを介して残響処理部2に供給する。この残響処理部2では、各チャンネルのオーディオ信号に対して、予め設定された残響付加状態に基づいて残響信号を生成させて、その残響信号を付加する。そして、残響信号が付加された各チャンネルのオーディオ信号を、アンプ部3に供給して、増幅などの出力用の処理を行い、この装置に設けられたスピーカ端子(図示せず)を介して、所定のリスニングルーム4に配置されたセンターチャンネル用スピーカ5C,左チャンネル用スピーカ5L,右チャンネル用スピーカ5R,左リアチャンネル用スピーカ5SL,右リアチャンネル用スピーカ5SRに各チャンネル用のオーディオ信号を供給して、放音させる。
【0007】
ここで、残響処理部2で生成して付加される残響信号としては、オーディオ信号が再生される任意の空間での再生状態を再現するものであり、例えば残響の大きいコンサートホールでの再生状態等の任意の場所での再生状態を再現させることが可能である。具体的には、再現させる空間での間接音の再生状態に基づいた初期反射音と主残響音とを(或いは初期反射音だけを)遅延処理などで生成させて、残響信号として元のオーディオ信号に付加するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような従来の残響信号を付加する処理では、基本的に音が出力される位置はスピーカが物理的に設置された位置だけであるので、残響によりある程度、任意の空間を再現することはできるが、それぞれのチャンネルの音が出力される位置が、物理的にスピーカが設置された位置に限られるので、立体的な音響の再生状態として、各スピーカ間の音のつながり状態が不自然なものになってしまう傾向がある。特に、映画館でマルチチャンネルオーディオの映画を視聴する場合のような、映画館の空間の広さがもたらす音の量感が、家庭内での比較的狭い部屋の中で再生させた場合には抜け落ちてしまい、再生音場の完全なシミュレーションにはなってない問題がある。
【0009】
本発明の目的は、マルチチャンネルオーディオを再生する場合の音場のシミュレーションが、より良好に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号,左リアチャンネル信号,右リアチャンネル信号の少なくとも4チャンネル信号で構成されるオーディオ信号を信号処理し、信号処理された2チャンネル信号を、左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカから放音させる場合に、上記4チャンネルのオーディオ信号について残響信号を生成し、生成された残響信号に対して仮想音像信号を生成し、生成された仮想音像信号を上記左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号に合成させ、生成された仮想左チャンネル信号,右チャンネル信号をそれぞれ上記左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカからそれぞれ出力させるようにしたものである。
【0011】
本発明によると、フロントの左右2チャンネルの各スピーカから、残響信号が付加された各チャンネル用のオーディオ信号が放音されると共に、残響信号が付加されたリアチャンネルのオーディオ信号に基づいて生成された所定位置に音像がある仮想音像信号が、このフロントの左右2チャンネルのスピーカから放音され、フロントの2チャンネルのスピーカを使用して、原音と残響音の再生と、仮想スピーカ位置からのリアチャンネルの原音と残響音の再生とが行われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、フロントの左右2チャンネルの各スピーカから、残響信号が付加された各チャンネル用のオーディオ信号が放音されると共に、残響信号が付加されたリアチャンネルのオーディオ信号に基づいて生成された所定位置に音像がある仮想音像信号が、このフロントの左右2チャンネルのスピーカから放音され、フロントの2チャンネルのスピーカを使用して、原音と残響音の再生と、仮想スピーカ位置からのリアチャンネルの原音と残響音の再生とが行われ、フロントの2チャンネルのスピーカだけを使用した最小限のシステム構成で、残響のシミュレーションと仮想音源配置との双方の効果により、極めてリアルに任意の音場を再現できるようになる。
【0013】
この場合、仮想音像信号の生成は、仮想音源の位置からオーディオ信号を放音した場合の聴取者の耳元での音響伝達関数を使用して生成させ、仮想音源の位置として、左リアチャンネル及び右リアチャンネルのスピーカが本来配置される位置を含む複数の位置に設定したことで、フロントの2チャンネルのスピーカだけを使用して、聴取者を囲む良好な音場再現ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1の実施の形態を、図1〜図3を参照して説明する。
【0015】
本実施の形態においては、AVアンプ装置と称される映像に同期したオーディオ信号(又は映像とは無関係のオーディオ信号)の高度な処理が行えるアンプ装置に適用したものである。まず、図1を参照して全体構成について説明すると、ここではDVD再生装置などの音声信号源(図示せず)から、5.1チャンネル(6チャンネル)のマルチチャンネルのオーディオ信号が供給される。即ち、左チャンネルのオーディオ信号が入力端子11Lに、右チャンネルのオーディオ信号が入力端子11Rに、センターチャンネルのオーディオ信号が入力端子11Cに、リア左チャンネルのオーディオ信号が入力端子11SLに、リア右チャンネルのオーディオ信号が入力端子11SRに供給される。また、低域専用チャンネルのオーディオ信号が図示しない入力端子に供給される。ここでは低域専用チャンネルのオーディオ信号の処理については省略してある。
【0016】
各チャンネルの入力端子に得られるオーディオ信号は、残響処理部12に供給して、残響信号を付加する処理を行う。ここでの残響信号付加処理としては、元のオーディオ信号に対して、初期反射音と主残響音とを(或いは初期反射音だけを)遅延処理などで生成させて、この生成された信号を、残響信号として元のオーディオ信号に付加する処理を行う。この残響信号を構成する初期反射音と主残響音との生成処理については、予めこの装置に設定された残響付加状態に基づいて行われる。
【0017】
また本例においては、入力端子11SLに得られるリア左チャンネルのオーディオ信号と、入力端子11SRに得られるリア右チャンネルのオーディオ信号とを、仮想音像処理部13に供給する。この仮想音像処理部13では、リアの両チャンネルの信号に基づいて、リアの左右のチャンネルの音像が存在する位置(この位置を実スピーカ位置と称する)とは、異なる位置に音像が定位する2チャンネルのオーディオ信号を生成させるものである。この仮想音像信号の生成処理は、仮想音像として設定する位置からオーディオ信号を放音した場合の聴取者の耳元での音響伝達関数を使用して生成させるものである。
【0018】
ここで、本例で実行される仮想音像信号を生成させる仮想音像定位処理の原理を、図2を参照して説明する。仮想音像定位処理には、図2のAに示すように、リスニングルームの正面からの開き角がφ1である仮想スピーカ位置91から音声を放音させた場合の、聴取者90の左耳までの音響伝達関数Hφ1L及び聴取者90の右耳までの音響伝達関数Hφ1Rと、開き角がφ2である仮想スピーカ位置92から音声を放音させた場合の、聴取者90の左耳までの音響伝達関数Hφ2L及び聴取者90の右耳までの音響伝達関数Hφ2Rとが必要になる。
【0019】
そして、実際に存在するリアスピーカから音声を放音した場合のクロストークを補償するために、図2のBに示すように、リスニングルームの正面からの開き角がθ1であるリアスピーカ93から音声を放音させた場合の、聴取者90の左耳までの音響伝達関数Hθ1L及び聴取者90の右耳までの音響伝達関数Hθ1Rと、開き角がθ2であるリアスピーカ94から音声を放音させた場合の、聴取者90の左耳までの音響伝達関数Hθ2L及び聴取者90の右耳までの音響伝達関数Hθ2Rとが必要になる。
【0020】
これらの音響伝達関数は、図2のAに示した仮想スピーカ位置91,92や、図2のBに示したリアスピーカ位置93,94のそれぞれの位置に実際にスピーカを設置して、各位置に設置したスピーカからインパルス音を放音させて、聴取者90の位置に配置したダミーヘッドの左右の耳元でのインパルス応答を測定することにより求めることができる。即ち、聴取者の耳元で測定したインパルス応答が、インパルス音を放音したスピーカ位置から聴取者の耳元までの音響伝達関数に相当する。
【0021】
このようにして求められた音響伝達関数に基づいて、仮想音像処理部13で仮想音像定位処理が行われる。
【0022】
図3は、本例での仮想音像定位処理部3内での処理構成を示すブロック図である。図3に示すように、仮想音像処理部13は、いわゆるバイノーラル化処理に用いられるフィルタ901,012,903,904と、リアスピーカ93,94からの音声の放音時に生じる空間的クロストークを補償するためのいわゆるクロストーク補償処理に用いられるフィルタ907,908,909,910と、加算器905,906,911,912とを備えている。
【0023】
図3に示すように、フィルタ901〜904は、図2のAを用いて説明した仮想スピーカから聴取者の左右の耳元までの音響伝達関数Hφ1L,Hφ1R,Hφ2L,Hφ2Rがフィルタ係数として用いられる。
【0024】
また、フィルタ907〜910は、図2のBを用いて説明した実際に存在するリアスピーカから聴取者の左右の耳元までの音響伝達関数Hθ1L,Hθ1R,Hθ2L,Hθ2Rに基づいて求められるフィルタ係数G1,G2,G3,G4がフィルタ係数として用いられるものである。このフィルタ係数G1〜G4は、次の表1に基づいて算出される。
【0025】
【表1】

【0026】
ここで左右のリアチャンネルのオーディオ信号が、図3に示す回路に入力した場合の処理について説明すると、左リアチャンネルのオーディオ信号は、フィルタ901及び902に供給される。また、右リアチャンネルのオーディオ信号は、フィルタ903及び904に供給される。
【0027】
フィルタ901,902では、フィルタ係数Hφ1L,Hφ1Rに基づいて、左リアスピーカに供給されるオーディオ信号を変換し、左リアスピーカ93から放音された音が、仮想スピーカ位置91に音像があるように聴感されるようにする。
【0028】
同様に、フィルタ903,904では、フィルタ係数Hφ2L,Hφ2Rに基づいて、右リアスピーカに供給されるオーディオ信号を変換し、右リアスピーカ94から放音された音が、仮想スピーカ位置92に音像があるように聴感されるようにする。
【0029】
そして、フィルタ901及びフィルタ904において処理されて、聴取者90の左耳により聴取されるオーディオ信号は、加算器905に供給されて加算される。また、フィルタ902及びフィルタ903において処理されて、聴取者90の右耳により聴取されるオーディオ信号は、加算器906に供給されて加算される。加算器905で加算されたオーディオ信号は、フィルタ907,908に供給され、加算器906で加算されたオーディオ信号は、フィルタ909,910に供給される。
【0030】
フィルタ907,908,909,910では、リアスピーカから聴取者の耳元までの音響伝達関数に基づいて求められるフィルタ係数G1,G2,G3,G4に応じて、クロストークをキャンセルする処理が行われる。そして、フィルタ907,910により処理されたオーディオ信号は加算器911に供給され、フィルタ908,909により処理されたオーディオ信号は加算器912に供給される。
【0031】
加算器911で加算されたオーディオ信号は、左リアスピーカに供給するリア左チャンネルのオーディオ信号であり、加算器912で加算されたオーディオ信号は、右リアスピーカに供給するリア右チャンネルのオーディオ信号である。このようにして生成された各リアチャンネルのオーディオ信号を、それぞれのチャンネル用のリアスピーカに供給することで、図2のAに示すような仮想スピーカ位置に音像が定位するようになる。
【0032】
なお、ここまでの説明では、仮想音像定位位置として、リア左チャンネルとリア右チャンネルのそれぞれで1つの位置としたが、本例の仮想音像処理部13で生成させる仮想音像の位置は、それぞれの異なる複数の位置(ここでは5つの位置)としてある。この複数の仮想音像定位位置を生成させるためには、図3に示すフィルタを、その仮想音像定位位置に対応して複数設ければ対処できる。
【0033】
ここで図1の説明に戻ると、残響処理部12で残響信号が付加されたリア左チャンネルのオーディオ信号に、仮想音像処理部13で処理されたリア左チャンネルのオーディオ信号を、加算器14aで加算する処理を行い、残響処理部12で残響信号が付加されたリア右チャンネルのオーディオ信号に、仮想音像処理部13で処理されたリア右チャンネルのオーディオ信号を、加算器14bで加算する処理を行う。
【0034】
そして、残響処理部12で残響信号が付加された左チャンネル,右チャンネル,センターチャンネルのオーディオ信号と、加算器14a,14bで加算されたリア左チャンネル,リア右チャンネルのオーディオ信号とを、アンプ部15に供給して、各チャンネル用のスピーカを駆動するための増幅処理を行い、その増幅処理された各チャンネル用のオーディオ信号を、リスニングルーム16に配置された左チャンネル用スピーカ17L,右チャンネル用スピーカ17R,センターチャンネル用スピーカ17C,リア左チャンネル用スピーカ17SL,リア右チャンネル用スピーカ17SRに個別に供給する。
【0035】
ここで、上述した仮想音像処理部13での処理が行われることで、左右のリアスピーカ17SL,17SRから放音される音で、各チャンネル毎に5個の仮想音像位置17VL,17VRに定位する音像が得られる。また、左右のリアスピーカ17SL,17SRには、残響処理部12で残響信号が付加された左右のリアチャンネルのオーディオ信号についても供給されるため、実際にリアスピーカ17SL,17SRが存在する位置に音像が定位したリアチャンネルの音についても放音される。この実際にリアスピーカ17SL,17SRが存在する位置に音像が定位した音については、残響処理部12での処理により、残響が付加された音である。
【0036】
図4は、本例でのリスニングルーム16内での実際のスピーカ位置と仮想スピーカ位置との関係の例を示す図である。リスニングルーム16の正面に配置されたスクリーン18の左右の脇に、左チャンネル用スピーカ17Lと右チャンネル用スピーカ17Rとが配置してあり、スクリーン18の下にセンターチャンネル用スピーカ17Cが配置してある。また、スクリーン18から離れた後方の左右に、リア左チャンネル用スピーカ17SLとリア右チャンネル用スピーカ17SRとが配置してある。聴取者19は、リスニングルーム16のほぼ中央にいることを想定すると、仮想音像処理部13での処理で生成された仮想音像位置であるリアの左右の仮想スピーカ17VL,17VRが5個ずつ生成されて、聴取者19を取り囲む音場が形成される。
【0037】
本例の場合には、実際に存在する各スピーカ位置に定位した音については、残響処理部12で残響信号が付加された音であるため、コンサートホール,映画館などの任意の空間での再生状態を再現することができる。従って、残響付加処理による再生空間の設定と、仮想音像定位処理による音場設定との双方により、きわめてリアルなオーディオ信号の再生が可能になる。例えば、本例の装置で映画などの映像プログラムをDVD再生装置などで再生して、スクリーン18に映像を映しながら、各チャンネルのスピーカからオーディオを放音させることで、映画館で映画を視聴する場合と同様の臨場感のある視聴が可能になる。
【0038】
次に、図1に示した残響処理部12,仮想音像処理部13,加算器14a,14bでの処理の具体的構成の一例を、図5に示す。ここでは入力端子として、左チャンネルの入力端子11L,右チャンネルの入力端子11R,センターチャンネルの入力端子11C,リア左チャンネルの入力端子11SL,リア右チャンネルの入力端子11SRの他に、低域専用チャンネル(LFEチャンネル)の入力端子11LFEを備えて、5.1チャンネルのマルチチャンネルオーディオ信号が入力される構成としてある。但し、センターチャンネルの信号と低域専用チャンネルの信号については、残響処理部12,仮想音像処理部13では処理を行わずに、出力端子21C,21LFEから後段の回路に直接供給する構成としてある。
【0039】
まず、入力端子11L,11Rに得られるフロントの左チャンネル,右チャンネルのオーディオ信号の処理について説明すると、入力端子11Lに得られる左チャンネルの信号は、アンプ106を介して加算器107に供給して、残響信号を加算して、出力端子21Lに供給する。また、入力端子11Rに得られる右チャンネルの信号は、アンプ108を介して加算器109に供給して、残響信号を加算して、出力端子21Rに供給する。
【0040】
また、フロントの左右のチャンネルの残響信号を生成させる処理系への入力として、入力端子11Lに得られる左チャンネルの信号を、アンプ101を介して加算器104に供給し、入力端子11Cに得られるセンターチャンネルの信号を、アンプ102を介して加算器104に供給し、左チャンネルの信号にセンターチャンネルを加算する。同様に、入力端子11Rに得られる右チャンネルの信号を、アンプ103を介して加算器105に供給し、入力端子11Cに得られるセンターチャンネルの信号を、アンプ102を介して加算器105に供給し、右チャンネルの信号にセンターチャンネルを加算する。
【0041】
加算器104,105の出力は、各チャンネル毎に高域制限フィルタ110,120に供給する。この高域制限フィルタ110,120は、残響信号を構成する初期反射音のトーンコントロールを行うフィルタである。左チャンネルを処理するフィルタ110の構成としては、加算器104から供給される信号を、アンプ111を介して加算器112に供給し、この加算器112の加算出力を遅延回路113を介して加算器112に戻すと共に、遅延回路113の出力をアンプ114によりゲイン調整して加算器112に戻して加算する構成とし、加算器112の加算出力をフィルタ110の出力とする。右チャンネルを処理するフィルタ120の構成としては、加算器105から供給される信号を、アンプ121を介して加算器122に供給し、この加算器122の加算出力を遅延回路123を介して加算器122に戻すと共に、遅延回路123の出力をアンプ124によりゲイン調整して加算器122に戻して加算する構成とし、加算器122の加算出力をフィルタ120の出力とする。
【0042】
左チャンネルの高域制限フィルタ110の出力は、初期反射音を生成させるディレーライン131に供給する。同様に、右チャンネルの高域制限フィルタ120の出力は、初期反射音を生成させるディレーライン141に供給する。各チャンネルのディレーライン131,141では、所定量ずつ遅延させた複数の系統の信号を、初期反射音を構成する信号として生成させる。
【0043】
左チャンネル用のディレーライン131の3系統の出力(アンプ132,133,134を介した出力)と、右チャンネル用のディレーライン141の1系統の出力(アンプ145を介した出力)とは、加算器191に供給して1系統の信号にする。また、右チャンネル用のディレーライン141の3系統の出力(アンプ142,143,144を介した出力)と、左チャンネル用のディレーライン131の1系統の出力(アンプ135を介した出力)とは、加算器193に供給して1系統の信号にする。
【0044】
また、左チャンネル用のディレーライン131の1系統の出力をアンプ136を介して加算器138に供給すると共に、右チャンネル用のディレーライン141の1系統の出力をアンプ146を介して加算器138に供給し、加算器138で両チャンネルの信号を加算した後、高域制限フィルタ150に供給する。この高域制限フィルタ150についても、残響信号のトーンコントロールを行うフィルタである。フィルタ150の構成としては、加算器138から供給される信号を、アンプ151を介して加算器152に供給し、この加算器152の加算出力を遅延回路153を介して加算器152に戻すと共に、遅延回路153の出力をアンプ154によりゲイン調整して加算器152に戻して加算する構成とし、加算器152の加算出力をフィルタ150の出力とする。
【0045】
このフィルタ150の出力を、主残響音を生成させるためのディレーライン161に供給する。このディレーライン161で、所定量ずつ遅延量が変化した複数系統の信号を生成させて、それぞれの信号をアンプ162〜167を介して加算器168に供給し、1系統の信号に加算する。また、ディレーライン161の最終段の出力を、アンプ169を介して加算器138に戻して、主残響音の生成時間を長くできるように構成してある。
【0046】
加算器168の加算出力は、左チャンネルの主残響音用のオールパスフィルタ170と、右チャンネルの主残響音用のオールパスフィルタ180に供給する。左チャンネル用のフィルタ170の構成としては、加算器168から供給される信号を、加算器171に供給し、この加算器171の出力を遅延回路172に供給する。この遅延回路172の遅延出力を、アンプ173を介して加算器171に戻して、フィルタの入力と加算させる。また、遅延回路172の遅延出力を加算器174に供給すると共に、加算器171の出力をアンプ175を介して加算器174に供給し、両信号を加算する。さらに、加算器174の加算出力を、遅延回路176に供給する。この遅延回路176の遅延出力を、アンプ177を介して加算器174に戻して、加算器174の入力と加算する。そして、遅延回路176の遅延出力を加算器178に供給すると共に、加算器174の出力をアンプ179を介して加算器178に供給し、両信号を加算して、フィルタ170の出力を得る。
【0047】
右チャンネル用のフィルタ180の構成としては、加算器168から供給される信号を、加算器181に供給し、この加算器181の出力を遅延回路182に供給する。この遅延回路182の遅延出力を、アンプ183を介して加算器181に戻して、フィルタの入力と加算させる。また、遅延回路182の遅延出力を加算器184に供給すると共に、加算器181の出力をアンプ185を介して加算器184に供給し、両信号を加算する。さらに、加算器184の加算出力を、遅延回路186に供給する。この遅延回路186の遅延出力を、アンプ187を介して加算器184に戻して、加算器184の入力と加算する。そして、遅延回路186の遅延出力を加算器188に供給すると共に、加算器184の出力をアンプ189を介して加算器188に供給し、両信号を加算して、フィルタ180の出力を得る。
【0048】
左チャンネル用のフィルタ170の出力は、加算器191に供給して、上述した初期反射音と加算する処理を行って、初期反射音と主残響音とが加算された左チャンネル用の残響信号を生成させ、その生成された残響信号をアンプ192を介して加算器107に供給し、左チャンネルの直接音のオーディオ信号と加算し、その直接音と残響音とが加算されたオーディオ信号を、左チャンネル用の出力端子21Lに供給する。
【0049】
右チャンネル用のフィルタ180の出力は、加算器193に供給して、上述した初期反射音と加算する処理を行って、初期反射音と主残響音とが加算された右チャンネル用の残響信号を生成させ、その生成された残響信号をアンプ194を介して加算器109に供給し、右チャンネルの直接音のオーディオ信号と加算し、その直接音と残響音とが加算されたオーディオ信号を、右チャンネル用の出力端子21Rに供給する。
【0050】
ここまでがフロントの左右のチャンネルのオーディオ信号に残響信号を付加する処理である。
【0051】
次に、入力端子11SL,11SRに得られるリアの左右のチャンネルのオーディオ信号の処理について説明すると、入力端子11SLに得られる左リアチャンネルの信号は、アンプ203を介して加算器204に供給して、残響信号を加算した後、アンプ301,302を介して加算器303に供給して、仮想音像信号を加算してから出力端子21SLに供給する。また、入力端子11SRに得られる右リアチャンネルの信号は、アンプ205を介して加算器206に供給して、残響信号を加算した後、アンプ304,305を介して加算器306に供給して、仮想音像信号を加算してから出力端子21SRに供給する。
【0052】
そして、リアの左右のチャンネルの残響信号を生成させる処理系への入力として、入力端子11SLに得られる左リアチャンネルの信号を、アンプ201を介して高域制限フィルタ210に供給する。また、入力端子11SRに得られる右リアチャンネルの信号を、アンプ202を介して高域制限フィルタ220に供給する。この高域制限フィルタ210,220は、残響信号を構成する初期反射音のトーンコントロールを行うフィルタである。左リアチャンネルを処理するフィルタ210の構成としては、入力信号をアンプ211を介して加算器212に供給し、この加算器212の加算出力を遅延回路213を介して加算器212に戻すと共に、遅延回路213の出力をアンプ214によりゲイン調整して加算器212に戻して加算する構成とし、加算器212の加算出力をフィルタ210の出力とする。右リアチャンネルを処理するフィルタ220の構成としては、入力信号をアンプ221を介して加算器222に供給し、この加算器222の加算出力を遅延回路223を介して加算器222に戻すと共に、遅延回路223の出力をアンプ224によりゲイン調整して加算器222に戻して加算する構成とし、加算器222の加算出力をフィルタ220の出力とする。
【0053】
左リアチャンネルの高域制限フィルタ210の出力は、初期反射音を生成させるディレーライン231に供給する。同様に、右リアチャンネルの高域制限フィルタ220の出力は、初期反射音を生成させるディレーライン241に供給する。各チャンネルのディレーライン231,241では、所定量ずつ遅延させた複数の系統の信号を、初期反射音を構成する信号として生成させる。
【0054】
左リアチャンネル用のディレーライン231の3系統の出力(アンプ232,233,234を介した出力)は、加算器291に供給して1系統の信号にする。また、右リアチャンネル用のディレーライン141の3系統の出力(アンプ142,143,144を介した出力)は、加算器293に供給して1系統の信号にする。
【0055】
また、左リアチャンネル用のディレーライン231の1系統の出力をアンプ235を介して加算器236に供給すると共に、右リアチャンネル用のディレーライン241の1系統の出力をアンプ245を介して加算器236に供給し、加算器236で両チャンネルの信号を加算した後、高域制限フィルタ250に供給する。この高域制限フィルタ250についても、残響信号のトーンコントロールを行うフィルタである。フィルタ250の構成としては、加算器236から供給される信号を、アンプ251を介して加算器252に供給し、この加算器252の加算出力を遅延回路253を介して加算器252に戻すと共に、遅延回路253の出力をアンプ254によりゲイン調整して加算器252に戻して加算する構成とし、加算器252の加算出力をフィルタ250の出力とする。
【0056】
このフィルタ250の出力を、主残響音を生成させるためのディレーライン261に供給する。このディレーライン261で、所定量ずつ遅延量が変化した複数系統の信号を生成させて、それぞれの信号をアンプ262〜267を介して加算器268に供給し、1系統の信号に加算する。また、ディレーライン261の最終段の出力を、アンプ269を介して加算器236に戻して、主残響音の生成時間を長くできるように構成してある。
【0057】
加算器268の加算出力は、左リアチャンネルの主残響音用のオールパスフィルタ270と、右リアチャンネルの主残響音用のオールパスフィルタ280に供給する。左リアチャンネル用のフィルタ270の構成としては、加算器268から供給される信号を、加算器271に供給し、この加算器271の出力を遅延回路272に供給する。この遅延回路272の遅延出力を、アンプ273を介して加算器271に戻して、フィルタの入力と加算させる。また、遅延回路272の遅延出力を加算器274に供給すると共に、加算器271の出力をアンプ275を介して加算器274に供給し、両信号を加算する。さらに、加算器274の加算出力を、遅延回路276に供給する。この遅延回路276の遅延出力を、アンプ277を介して加算器274に戻して、加算器274の入力と加算する。そして、遅延回路276の遅延出力を加算器178に供給すると共に、加算器274の出力をアンプ279を介して加算器278に供給し、両信号を加算して、フィルタ270の出力を得る。
【0058】
右リアチャンネル用のフィルタ280の構成としては、加算器268から供給される信号を、加算器281に供給し、この加算器281の出力を遅延回路282に供給する。この遅延回路282の遅延出力を、アンプ283を介して加算器281に戻して、フィルタの入力と加算させる。また、遅延回路282の遅延出力を加算器284に供給すると共に、加算器281の出力をアンプ285を介して加算器284に供給し、両信号を加算する。さらに、加算器284の加算出力を、遅延回路286に供給する。この遅延回路286の遅延出力を、アンプ287を介して加算器284に戻して、加算器284の入力と加算する。そして、遅延回路286の遅延出力を加算器288に供給すると共に、加算器284の出力をアンプ289を介して加算器288に供給し、両信号を加算して、フィルタ280の出力を得る。
【0059】
左リアチャンネル用のフィルタ270の出力は、加算器291に供給して、上述した初期反射音と加算する処理を行って、初期反射音と主残響音とが加算された左リアチャンネル用の残響信号を生成させる。このとき、加算器191では、左チャンネル用のディレーライン131からの1系統の出力が、アンプ137を介して供給される構成としてあり、フロントの左チャンネルの初期反射音の一部についても加算して、リアチャンネルの残響信号を生成させる構成としてある。そして、その生成された残響信号をアンプ292を介して加算器204に供給し、左リアチャンネルの直接音のオーディオ信号と加算し、その直接音と残響音とが加算されたオーディオ信号を、アンプ301,302を介して仮想音像信号加算用の加算器303に供給する。
【0060】
右リアチャンネル用のフィルタ280の出力は、加算器293に供給して、上述した初期反射音と加算する処理を行って、初期反射音と主残響音とが加算された右リアチャンネル用の残響信号を生成させる。このとき、加算器293では、右チャンネル用のディレーライン141からの1系統の出力が、アンプ147を介して供給される構成としてあり、フロントの右チャンネルの初期反射音の一部についても加算して、リアチャンネルの残響信号を生成させる構成としてある。そして、その生成された残響信号をアンプ294を介して加算器206に供給し、右リアチャンネルの直接音のオーディオ信号と加算し、その直接音と残響音とが加算されたオーディオ信号を、アンプ304,305を介して仮想音像信号加算用の加算器306に供給する。
【0061】
ここまでがリアの左右のチャンネルのオーディオ信号に残響信号を付加する処理である。
【0062】
次に、リアの左右のチャンネルのオーディオ信号から仮想音像信号を生成させる処理について説明する。ここでは、入力端子11SL,11SRに得られる左右のリアチャンネルのオーディオ信号を、アンプ207,208を介して仮想音像処理部320に供給する。この仮想音像処理部320の構成は、既に図3で説明した仮想音像定位処理の基本的処理構成を具体化したものである。即ち、仮想音像処理部320に供給される左リアチャンネルの信号と右リアチャンネルの信号とを、加算器321に供給して両信号を加算すると共に、左リアチャンネルの信号と右リアチャンネルの信号とを減算器331に供給して、右リアチャンネルの信号から左リアチャンネルの信号を減算する。
【0063】
そして、加算器321の加算出力を、ディレーライン322に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ323a,323b‥‥323nを介して加算器324に供給する。このディレーライン322とアンプ323a〜323nと加算器324とで、FIRフィルタが構成されることになる。同様に、減算器331の減算出力を、ディレーライン332に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ333a,333b‥‥333nを介して加算器334に供給する。このディレーライン332とアンプ333a〜333nと加算器334とで、FIRフィルタが構成されることになる。
【0064】
各FIRフィルタの出力である加算器324,334の出力は、アンプ325,335を介して減算器326に供給して、アンプ325の出力からアンプ335の出力を減算すると共に、加算器336に供給して両信号を加算する。
【0065】
減算器326の減算出力は、仮想音像処理部320の左リアチャンネル出力として、アンプ307,308を介して加算器303に供給し、上述した加算器204側からアンプ301,302を介して加算器303に供給される残響信号が付加された左リアチャンネルのオーディオ信号に加算し、その加算出力を、残響信号と仮想音像信号が重畳された左リアチャンネルのオーディオ信号として、出力端子21SLから後段の処理回路に供給する。
【0066】
加算器336の加算出力は、仮想音像処理部320の右リアチャンネル出力として、アンプ309,310を介して加算器306に供給し、上述した加算器206側からアンプ304,305を介して加算器306に供給される残響信号が付加された右リアチャンネルのオーディオ信号に加算し、その加算出力を、残響信号と仮想音像信号が重畳された右リアチャンネルのオーディオ信号として、出力端子21SRから後段の処理回路に供給する。
【0067】
この図5に示す各出力端子21L,21R,21C,21SL,21SR,21LFEから出力される各チャンネルのオーディオ信号は、図1に示すアンプ部15に供給して、各チャンネル毎にスピーカを駆動するための増幅処理を行う。
【0068】
この図5に示すように残響処理部と仮想音像処理部とを構成とすることで、入力した各チャンネルのオーディオ信号に対して残響信号を生成させる処理と、左右のリアチャンネルのオーディオ信号に対して仮想音像信号を生成させる処理とが行われ、それぞれの信号が重畳されたオーディオ信号が得られて、図4に示したような良好なオーディオ再生環境が得られる。
【0069】
次に、本発明の第2の実施の形態を、図6〜図8を参照して説明する。この図6〜図8において、上述した第1の実施の形態で説明した図1〜図5に対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0070】
本実施の形態においても、上述した第1の実施の形態と同様に、AVアンプ装置と称される映像に同期したオーディオ信号(又は映像とは無関係のオーディオ信号)の高度な処理が行えるアンプ装置に適用したものである。まず、図6を参照して全体構成について説明すると、ここではDVD再生装置などの音声信号源(図示せず)から、5.1チャンネル(6チャンネル)のマルチチャンネルのオーディオ信号が供給される。即ち、左チャンネルのオーディオ信号が入力端子31Lに、右チャンネルのオーディオ信号が入力端子31Rに、センターチャンネルのオーディオ信号が入力端子31Cに、リア左チャンネルのオーディオ信号が入力端子31SLに、リア右チャンネルのオーディオ信号が入力端子31SRに供給される。また、低域専用チャンネルのオーディオ信号が図示しない入力端子に供給される。ここでは低域専用チャンネルのオーディオ信号の処理については省略してある。
【0071】
各チャンネルの入力端子に得られるオーディオ信号は、残響処理部32に供給して、残響信号を付加する処理を行う。ここでの残響信号付加処理としては、元のオーディオ信号に対して、初期反射音と主残響音とを(或いは初期反射音だけを)遅延処理などで生成させて、この生成された信号を、残響信号として元のオーディオ信号に付加する処理を行う。この残響信号を構成する初期反射音と主残響音との生成処理については、予めこの装置に設定された残響付加状態に基づいて行われる。
【0072】
そして、この残響処理部32で残響信号が付加されたオーディオ信号を、仮想音像処理部33に供給して、仮想音像信号を生成させる処理を行う。この場合、本例の仮想音像処理部32では、主として左右のリアチャンネルのオーディオ信号を処理して、仮想位置に音像が定位する仮想音像信号を生成させる。この仮想位置に音像定位させる処理については、上述した第1の実施の形態において、図2,図3などを使用して説明した処理と基本的には同じである。即ち、仮想音像として設定する位置からオーディオ信号を放音した場合の聴取者の耳元での音響伝達関数を使用して生成させるものである。但し、本例においては、生成された仮想音像信号をフロントの左右のチャンネルのオーディオ信号に重畳するようにしてあり、フロントのチャンネルに重畳してフロントの左右のスピーカからオーディオ信号を再生させたとき、リアの左右の所定位置(ここでは左側の5箇所と右側の5箇所)に音像が定位する仮想音像信号となるようにしてある。なお、仮想音像定位位置として設定する左と右の5箇所ずつの位置の内の1箇所の位置は、リアスピーカを使用した場合に、このリアスピーカが本来配置される位置に設定してある。
【0073】
このようにして生成された左右のチャンネルの仮想音像信号を、フロントの左右のチャンネルのオーディオ信号に重畳し、その仮想音像信号が重畳された左右のチャンネルのオーディオ信号と、センターチャンネルのオーディオ信号とを、アンプ部34に供給してスピーカ駆動用の増幅処理を行い、リスニングルーム35に配置された左チャンネル用スピーカ36L,右チャンネル用スピーカ36R,センターチャンネル用スピーカ36Cに供給して放音させる。
【0074】
ここで、上述した仮想音像処理部33での処理が行われることで、左右のスピーカ36L,36Rから放音される音で、リアの左側及び右側で、それぞれ5個の仮想音像位置36VL,36VRに定位する音像が得られる。このとき、フロントの左右のスピーカ36L,36Rの位置に定位しているフロントの左右の音は、フロントの残響信号が付加された音であり、仮想音像位置36VL,36VRに定位しているリアの左右の音は、リアの残響信号が付加された音になっている。
【0075】
図7は、本例でのリスニングルーム35内での実際のスピーカ位置と仮想スピーカ位置との関係の例を示す図である。リスニングルーム35の正面に配置されたスクリーン37の左右の脇に、左チャンネル用スピーカ36Lと右チャンネル用スピーカ36Rとが配置してあり、スクリーン37の下にセンターチャンネル用スピーカ36Cが配置してある。聴取者38は、リスニングルーム35のほぼ中央にいることを想定すると、仮想音像処理部33での処理で生成された仮想音像位置であるリアの左右の仮想スピーカ17VL,17VRが5個ずつ生成されて、聴取者38を取り囲む音場が形成される。
【0076】
本例の場合には、フロントの左右の2チャンネルのスピーカ36L,36Rだけを使用して、残響信号が付加されたフロントの2チャンネルの音と、リアの複数の仮想音像位置に定位した音とが放音されることになり、2チャンネルのスピーカだけを使用して、聴取者38の周囲を取り囲む音場が形成される。しかも本例の場合には、フロントのスピーカ位置に定位した音と、リアの仮想音像位置に定位した音のそれぞれに、それぞれのチャンネル用の残響音が付加されているので、コンサートホール,映画館などの任意の空間での再生状態を再現することができる。従って、フロントの左右2チャンネルのスピーカだけを使用した簡単なステレオ再生構成で、残響付加処理による再生空間の設定と、仮想音像定位処理による音場設定との双方により、きわめてリアルなオーディオ信号の再生が可能になる。
【0077】
次に、図6に示した残響処理部32,仮想音像処理部33での処理の具体的構成の一例を、図8に示す。ここでは入力端子として、左チャンネルの入力端子31L,右チャンネルの入力端子31R,センターチャンネルの入力端子31C,リア左チャンネルの入力端子31SL,リア右チャンネルの入力端子31SRの他に、低域専用チャンネル(LFEチャンネル)の入力端子31LFEを備えて、5.1チャンネルのマルチチャンネルオーディオ信号が入力される構成としてある。但し、センターチャンネルの信号と低域専用チャンネルの信号については、残響処理部32,仮想音像処理部33では処理を行わずに、出力端子41C,41LFEから後段の回路に直接供給する構成としてある。
【0078】
まず、入力端子31L,31Rに得られるフロントの左チャンネル,右チャンネルのオーディオ信号の処理について説明すると、入力端子31Lに得られる左チャンネルの信号を、アンプ106を介して加算器107に供給して、フロントの左チャンネルの残響信号を生成して加算するまでの処理と、入力端子31Rに得られる右チャンネルの信号を、アンプ108を介して加算器109に供給して、フロントの左チャンネルの残響信号を生成して加算するまでの処理については、上述した第1の実施の形態で説明した図5の処理と同じ処理が行われる。
【0079】
そして、残響信号が付加された左チャンネルの信号を、加算器107からアンプ431,432を介して加算器433に供給し、左リアチャンネルの信号(ここではリアチャンネルの原信号と残響信号と仮想音像信号とが混合された信号)を加算して、左チャンネル用の出力端子41Lに供給する。また、残響信号が付加された右チャンネルの信号を、加算器109からアンプ441,442を介して加算器443に供給し、右リアチャンネルの信号(ここではリアチャンネルの原信号と残響信号と仮想音像信号とが混合された信号)を加算して、右チャンネル用の出力端子41Rに供給する。左右のチャンネル用の出力端子41L,41Rから出力される信号は、図6に示すアンプ部34に供給して、フロントチャンネル用の増幅処理を行う。
【0080】
次に、入力端子31SL,31SRに得られるリアの左右のチャンネルのオーディオ信号の処理について説明すると、入力端子31SLに得られるリアの左チャンネルの信号を、アンプ203を介して加算器204に供給して、リアの左チャンネルの残響信号を加算するまでの処理と、入力端子31SRに得られる右チャンネルの信号を、アンプ108を介して加算器109に供給して、フロントの左チャンネルの残響信号を加算するまでの処理については、上述した第1の実施の形態で説明した図5の処理と同じ処理が行われる。
【0081】
そして本例においては、この残響信号が付加されたリアの左右のチャンネルのオーディオ信号を、アンプ401,402を介して仮想音像処理部410に供給する。この仮想音像処理部410の構成は、既に図3で説明した仮想音像定位処理の基本的処理構成を具体化したものである。即ち、仮想音像処理部410に供給される左リアチャンネルの信号と右リアチャンネルの信号とを、加算器411に供給して両信号を加算すると共に、左リアチャンネルの信号と右リアチャンネルの信号とを減算器421に供給して、右リアチャンネルの信号から左リアチャンネルの信号を減算する。
【0082】
そして、加算器411の加算出力を、ディレーライン412に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ413a,413b‥‥413nを介して加算器414に供給する。このディレーライン412とアンプ413a〜413nと加算器414とで、FIRフィルタが構成されることになる。同様に、減算器421の減算出力を、ディレーライン422に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ423a,423b‥‥423nを介して加算器424に供給する。このディレーライン422とアンプ423a〜423nと加算器424とで、FIRフィルタが構成されることになる。
【0083】
各FIRフィルタの出力である加算器414,424の出力は、アンプ415,425を介して減算器416に供給して、アンプ415の出力からアンプ425の出力を減算すると共に、加算器426に供給して両信号を加算する。
【0084】
減算器416の減算出力は、仮想音像処理部410の左チャンネル出力として、アンプ434,435を介して加算器433に供給し、上述した加算器107側からアンプ431,432を介して加算器433に供給される残響信号が付加された左チャンネルのオーディオ信号に加算し、その加算出力を、残響信号と仮想音像信号が重畳された左チャンネルのオーディオ信号として、出力端子41Lから後段の処理回路に供給する。
【0085】
加算器426の加算出力は、仮想音像処理部410の右チャンネル出力として、アンプ444,445を介して加算器443に供給し、上述した加算器109側からアンプ441,442を介して加算器443に供給される残響信号が付加された右チャンネルのオーディオ信号に加算し、その加算出力を、残響信号と仮想音像信号が重畳された右チャンネルのオーディオ信号として、出力端子41RRから後段の処理回路に供給する。
【0086】
この図8に示す各出力端子41L,41R,41C,41LFEから出力される各チャンネルのオーディオ信号は、図6に示すアンプ部34に供給して、各チャンネル毎にスピーカを駆動するための増幅処理を行う。
【0087】
この図8に示すように残響処理部と仮想音像処理部とを構成とすることで、入力したフロントの左右のチャンネルのオーディオ信号に対して残響信号を生成させて付加させる処理と、リアの左右のチャンネルのオーディオ信号に対して残響信号を付加させると共に、この残響信号が付加されたリアの信号を仮想音像信号に変換して、変換された仮想音像信号をフロントの左右のチャンネルのオーディオ信号に重畳する処理とが行われ、基本的にフロントの左右のスピーカだけを使用して、図7に示したような良好なオーディオ再生環境が得られる。
【0088】
次に、本発明の第3の実施の形態を、図9及び図10を参照して説明する。この図9及び図10において、上述した第1,第2の実施の形態で説明した図1〜図8に対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0089】
本実施の形態においても、上述した第1,第2の実施の形態と同様に、AVアンプ装置と称される映像に同期したオーディオ信号(又は映像とは無関係のオーディオ信号)の高度な処理が行えるアンプ装置に適用したものである。まず、図9を参照して全体構成について説明すると、ここではDVD再生装置などの音声信号源(図示せず)から、5.1チャンネル(6チャンネル)のマルチチャンネルのオーディオ信号が供給される。即ち、左チャンネルのオーディオ信号が入力端子51Lに、右チャンネルのオーディオ信号が入力端子51Rに、センターチャンネルのオーディオ信号が入力端子51Cに、リア左チャンネルのオーディオ信号が入力端子51SLに、リア右チャンネルのオーディオ信号が入力端子51SRに供給される。また、低域専用チャンネルのオーディオ信号が図示しない入力端子に供給される。ここでは低域専用チャンネルのオーディオ信号の処理については省略してある。
【0090】
各チャンネルの入力端子に得られるオーディオ信号は、残響処理部52に供給して、残響信号を付加する処理を行う。ここでの残響信号付加処理としては、元のオーディオ信号に対して、初期反射音と主残響音とを(或いは初期反射音だけを)遅延処理などで生成させて、この生成された信号を、残響信号として元のオーディオ信号に付加する処理を行う。この残響信号を構成する初期反射音と主残響音との生成処理については、予めこの装置に設定された残響付加状態に基づいて行われる。
【0091】
そして、この残響処理部52で生成された残響信号を、第1の仮想音像処理部53に供給して、残響信号から仮想音像信号を生成させる処理を行う。この場合、第1の仮想音像処理部53では、主として左右のリアチャンネルの残響信号を処理して、仮想位置に音像が定位する残響の仮想音像信号を生成させる。この仮想位置に音像定位させる処理については、上述した第1の実施の形態において、図2,図3などを使用して説明した処理と基本的には同じである。即ち、仮想音像として設定する位置からオーディオ信号を放音した場合の聴取者の耳元での音響伝達関数を使用して生成させるものである。但し、本例においては、生成された仮想音像信号をフロントの左右のチャンネルのオーディオ信号に重畳するようにしてあり、フロントのチャンネルに重畳してフロントの左右のスピーカからオーディオ信号を再生させたとき、リアの左右の所定位置に音像が定位する仮想音像信号となるようにしてある。
【0092】
また本例においては、入力端子51SLに得られるリア左チャンネルのオーディオ信号と、入力端子51SRに得られるリア右チャンネルのオーディオ信号とを、第2の仮想音像処理部54に供給して、仮想音像信号を生成させる処理を行う。この場合、第2の仮想音像処理部54では、残響信号が付加されてない左右のリアチャンネルのオーディオ信号を処理して、仮想位置に音像が定位する仮想音像信号を生成させる。この仮想位置に音像定位させる処理は、第1の仮想音像処理部53と同じである。
【0093】
そして、残響処理部52が出力する左右のチャンネルのオーディオ信号を、加算器55a,55bに供給して、第1の仮想音像処理部53で生成された左右のチャンネルの仮想音像信号を両チャンネルの信号に加算し、さらにこの加算器55a,55bの出力を加算器55c,55dに供給して、第2の仮想音像処理部54で生成された左右のチャンネルの仮想音像信号を両チャンネルの信号に加算し、第1,第2の仮想音像処理部53,54の出力が加算された左右のチャンネル及びセンターチャンネルのオーディオ信号を、アンプ部56に供給し、各チャンネル用のスピーカを駆動するための増幅処理を行い、リスニングルーム57に設置された左チャンネル用スピーカ58L,右チャンネル用スピーカ58R,センターチャンネル用スピーカ58Cに供給して放音させる。
【0094】
ここで、本実施の形態の場合には、上述した第2の実施の形態の場合と同様に、左右のスピーカ58L,58Rから放音される音で、リアの左側及び右側で、それぞれ複数個の仮想音像位置58VL,58VRに定位する音像が得られ、第2の実施の形態の場合と同様に、基本的にフロントの左右の2個のスピーカ58L,58Rだけを使用して、残響信号が付加されたフロントの2チャンネルの音と、リアの複数の仮想音像位置に定位した音とが放音されることになり、2チャンネルのスピーカだけを使用して、聴取者の周囲を取り囲む音場が形成される。
【0095】
そして本実施の形態の場合には、仮想音像信号を生成させる回路として、第1の仮想音像処理部53と第2の仮想音像処理部54とを設けて、第1の仮想音像処理部53では残響信号から仮想音像信号を生成させ、第2の仮想音像処理部54では残響信号がないリアチャンネルの信号から仮想音像信号を生成させるようにしたので、残響信号の仮想音像が定位する位置と、リアチャンネルの信号の仮想音像が定位する位置とを、それぞれ独立に設定することができ、最も効果的に音場を形成することができる状態に自由に設定できる。
【0096】
例えば、第2の仮想音像処理部54で残響信号がないリアチャンネルの信号により仮想音像が定位する位置を、本来リアスピーカが配置される位置とし、第1の仮想音像処理部53で残響信号が付加された信号により仮想音像が定位する位置を、それ以外の位置に設定することで、残響信号により囲まれる再生環境を、より良好な状態に設定できる。
【0097】
次に、図9に示した残響処理部52,第1及び第2の仮想音像処理部53及び54での処理の具体的構成の一例を、図10に示す。ここでは入力端子として、左チャンネルの入力端子51L,右チャンネルの入力端子51R,センターチャンネルの入力端子51C,リア左チャンネルの入力端子51SL,リア右チャンネルの入力端子51SRの他に、低域専用チャンネル(LFEチャンネル)の入力端子51LFEを備えて、5.1チャンネルのマルチチャンネルオーディオ信号が入力される構成としてある。但し、センターチャンネルの信号と低域専用チャンネルの信号については、残響処理部52,仮想音像処理部53及び54では処理を行わずに、出力端子61C,61LFEから後段の回路に直接供給する構成としてある。
【0098】
まず、入力端子51L,51Rに得られるフロントの左チャンネル,右チャンネルのオーディオ信号の処理について説明すると、入力端子51Lに得られる左チャンネルの信号を、アンプ106を介して加算器107に供給して、フロントの左チャンネルの残響信号を生成して加算するまでの処理と、入力端子51Rに得られる右チャンネルの信号を、アンプ108を介して加算器109に供給して、フロントの左チャンネルの残響信号を生成して加算するまでの処理については、上述した第1の実施の形態で説明した図5の処理と同じ処理が行われる。
【0099】
そして、残響信号が付加された左チャンネルの信号を、加算器107からアンプ553を介して加算器557に供給し、左リアチャンネルの仮想音像信号を加算して、左チャンネル用の出力端子61Lに供給する。また、残響信号が付加された右チャンネルの信号を、加算器109からアンプ556を介して加算器558に供給し、右リアチャンネルの仮想音像信号を加算して、右チャンネル用の出力端子61Rに供給する。左右のチャンネル用の出力端子61L,61Rから出力される信号は、図9に示すアンプ部56に供給して、フロントチャンネル用の増幅処理を行う。
【0100】
次に、入力端子51SL,51SRに得られるリアの左右のチャンネルのオーディオ信号の処理について説明すると、入力端子51SLに得られるリアの左チャンネルの信号と、入力端子51SRに得られるリアの右チャンネルの信号とから、リアチャンネルの残響信号を生成させて、加算器291の出力としてリアの左チャンネルの残響信号を得るまでの構成と、加算器293の出力としてリアの右チャンネルの残響信号を得るまでの構成については、上述した第1の実施の形態で説明した図5の処理と同じ構成である。
【0101】
そして本例においては、このリアの左右のチャンネルの残響信号を、アンプ292,294を介して仮想音像処理部510に供給する。この仮想音像処理部510が、図9での第1の仮想音像処理部53に相当する回路である。この仮想音像処理部510の構成は、既に図3で説明した仮想音像定位処理の基本的処理構成を具体化したものである。即ち、仮想音像処理部510に供給される左チャンネルの残響信号と右チャンネルの残響信号とを、加算器511に供給して両信号を加算すると共に、左チャンネルの残響信号と右チャンネルの残響信号とを減算器521に供給して、右チャンネルの残響信号から左チャンネルの残響信号を減算する。
【0102】
そして、加算器511の加算出力を、ディレーライン512に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ513a,513b‥‥513nを介して加算器514に供給する。このディレーライン512とアンプ513a〜513nと加算器514とで、FIRフィルタが構成されることになる。同様に、減算器521の減算出力を、ディレーライン522に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ523a,523b‥‥523nを介して加算器524に供給する。このディレーライン522とアンプ523a〜523nと加算器524とで、FIRフィルタが構成されることになる。
【0103】
各FIRフィルタの出力である加算器514,524の出力は、アンプ515,525を介して減算器516に供給して、アンプ515の出力からアンプ525の出力を減算すると共に、加算器526に供給して両信号を加算する。
【0104】
減算器516の減算出力は、仮想音像処理部510の左チャンネル出力として加算器551に供給する。また、加算器526の加算出力は、仮想音像処理部510の右チャンネル出力として加算器552に供給する。
【0105】
また本例においては、入力端子51SLに得られるリアの左チャンネルの信号と、入力端子51SRに得られるリアの右チャンネルの信号とを、アンプ203,205を介して仮想音像処理部530に供給する。この仮想音像処理部530が、図9での第2の仮想音像処理部54に相当する回路である。この仮想音像処理部530の構成は、既に説明した仮想音像処理部510の構成と同じである。即ち、仮想音像処理部530に供給される左リアチャンネルの信号と右リアチャンネルの信号とを、加算器531に供給して両信号を加算すると共に、左リアチャンネルの信号と右リアチャンネルの信号とを減算器541に供給して、右リアチャンネルの信号から左リアチャンネルの信号を減算する。
【0106】
そして、加算器531の加算出力を、ディレーライン532に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ533a,533b‥‥533nを介して加算器534に供給する。このディレーライン532とアンプ533a〜533nと加算器534とで、FIRフィルタが構成されることになる。同様に、減算器541の減算出力を、ディレーライン542に供給し、所定間隔で順に遅延された複数系統の信号を生成させて、その各系統の信号をそれぞれ別のアンプ543a,543b‥‥543nを介して加算器544に供給する。このディレーライン542とアンプ543a〜543nと加算器544とで、FIRフィルタが構成されることになる。
【0107】
各FIRフィルタの出力である加算器534,544の出力は、アンプ535,545を介して減算器536に供給して、アンプ535の出力からアンプ545の出力を減算すると共に、加算器546に供給して両信号を加算する。
【0108】
減算器536の減算出力は、仮想音像処理部520の左チャンネル出力として加算器551に供給する。また、加算器546の加算出力は、仮想音像処理部520の右チャンネル出力として加算器552に供給する。
【0109】
加算器551では、両仮想音像処理部510,520での左チャンネル出力を加算し、その加算出力を、アンプ554を介して加算器557に供給し、残響信号が付加された左チャンネルのオーディオ信号と加算した後、出力端子61Lから後段の回路に供給する。加算器552では、両仮想音像処理部510,520での右チャンネル出力を加算し、その加算出力を、アンプ555を介して加算器558に供給し、残響信号が付加された右チャンネルのオーディオ信号と加算した後、出力端子61Rから後段の回路に供給する。
【0110】
この図10に示す各出力端子61L,61R,61C,61LFEから出力される各チャンネルのオーディオ信号は、図9に示すアンプ部56に供給して、各チャンネル毎にスピーカを駆動するための増幅処理を行う。
【0111】
この図10に示すように残響処理部と仮想音像処理部とを構成とすることで、仮想音像信号として、リアの原信号に基づいた仮想音像信号と、残響信号に基づいた仮想音像信号とを、独立に形成させて出力させることができ、それぞれの仮想音像信号を最適な状態に設定できる。
【0112】
なお、ここまで説明した各実施の形態での処理では、フロントチャンネル,リアチャンネルのそれぞれで、残響信号を生成させる処理を、左右のチャンネル毎に独立して行うようにしたが、残響信号については左右の信号を混合した1チャンネルの信号として生成させて、各チャンネルに付加するようにしても良い。
【0113】
また、上述した実施の形態では、装置に入力するマルチチャンネルオーディオ信号は、ビデオディスク再生装置からアンプ装置に供給される信号としたが、他の映像機器やオーディオ機器から供給されるマルチチャンネルオーディオ信号(例えばチューナが受信した衛星放送波によるマルチチャンネルオーディオ信号)を、処理するようにしても良い。
【0114】
また、上述した実施の形態では、マルチチャンネルのオーディオ信号として、5.1チャンネルで構成されるオーディオ信号としたが、他の4チャンネル以上のマルチチャンネルオーディオ信号でも良い。
【0115】
さらに、上述した実施の形態では、AVアンプ装置と称されるオーディオ機器での処理に適用したが、システムステレオ装置などの他のオーディオ機器と一体化されたオーディオ機器で、同様の処理を行う場合や、DVD再生装置などの再生装置やデジタル放送受信装置などのオーディオ信号源側の装置で、同様の処理を行う場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の第1の実施の形態による処理例を示す構成図である。
【図2】本発明による仮想音像定位処理の説明に供する説明図である。
【図3】本発明による仮想音像定位処理構成例を示す構成図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態による再生状態の例を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態による信号処理構成例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態による処理例を示す構成図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態による再生状態の例を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態による信号処理構成例を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態による処理例を示す構成図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態による信号処理構成例を示すブロック図である。
【図11】従来のマルチチャンネルオーディオ信号による処理例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0117】
11C,11L,11R,11SL,11SR…オーディオ信号入力端子、12…残響処理部、13…仮想音像処理部、15…アンプ部、16…リスニングルーム、17C,17L,17R,17SL,17SR…スピーカ(実際に配置されたスピーカ)、17VL,17VR…仮想スピーカ、31C,31L,31R,31SL,31SR…オーディオ信号入力端子、32…残響処理部、33…仮想音像処理部、34…アンプ部、35…リスニングルーム、36C,36L,36R…スピーカ(実際に配置されたスピーカ)、36VL,36VR…仮想スピーカ、51C,51L,51R,51SL,51SR…オーディオ信号入力端子、52…残響処理部、53…第1の仮想音像処理部、54…第2の仮想音像処理部、56…アンプ部、57…リスニングルーム、58C,58L,58R…スピーカ(実際に配置されたスピーカ)、58VL,58VR…仮想スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号,左リアチャンネル信号,右リアチャンネル信号の少なくとも4チャンネル信号で構成されるオーディオ信号を信号処理し、信号処理された2チャンネル信号を、左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカから放音させるオーディオ信号再生装置であって、
上記4チャンネルのオーディオ信号について残響信号を生成する残響処理手段と、
上記残響処理手段によって生成された残響信号に対して仮想音像信号を生成する仮想音像処理手段と、
上記仮想音像処理手段によって生成された仮想音像信号を上記左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号に加算させる加算手段とを備え、
上記加算手段によって生成された仮想左チャンネル信号,右チャンネル信号をそれぞれ上記左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカから出力させる
ことを特徴とするオーディオ信号再生装置。
【請求項2】
請求項1記載のオーディオ再生装置において、
上記仮想音像信号の生成は、リアスピーカの位置から聴取者の左右の耳元までの音響伝達関数を使用して生成させ、上記所定位置として、左リアチャンネル及び右リアチャンネルのスピーカが本来配置される位置を含む複数の位置に設定する
ことを特徴とするオーディオ信号再生装置。
【請求項3】
請求項1記載のオーディオ再生装置において、
上記仮想音像処理手段は、仮想音像を複数の位置に設定するように仮想音像信号を生成する
ことを特徴とするオーディオ信号再生装置。
【請求項4】
請求項3記載のオーディオ再生装置において、
上記仮想音像処理手段における上記仮想音像の複数の位置の内の1箇所の位置は、リアスピーカが本来配置される位置に設定してある
ことを特徴とするオーディオ信号再生装置。
【請求項5】
左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号,左リアチャンネル信号,右リアチャンネル信号の少なくとも4チャンネル信号で構成されるオーディオ信号を信号処理し、信号処理された2チャンネル信号を、左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカから放音させるオーディオ再生方法であって、
上記4チャンネルのオーディオ信号について残響信号を生成する残響処理ステップと、
上記残響処理ステップによって生成された残響信号に対して仮想音像信号を生成する仮想音像処理ステップと、
上記仮想音像処理ステップによって生成された仮想音像信号を上記左フロントチャンネル信号,右フロントチャンネル信号に合成させる合成ステップと、
上記合成ステップによって生成された仮想左チャンネル信号,右チャンネル信号をそれぞれ上記左フロント用のスピーカ,右フロント用のスピーカから出力させる出力ステップと
を備えることを特徴とするオーディオ再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−215229(P2007−215229A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104078(P2007−104078)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【分割の表示】特願平10−243729の分割
【原出願日】平成10年8月28日(1998.8.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】