説明

オートテンショナ及びその製造方法

【課題】 アーム4に揺動自在に支持したプーリ5によって回転体駆動用ベルトに張力を与えるとともに、ブラケット3とアーム4との間に粘性流体を介在させてダンパ効果を奏させるオートテンショナにおいて、使用に伴って粘性流体の温度や圧力が上昇した場合でも安定したダンパ効果を発揮できるようにする。
【解決手段】 ブラケット3にテーパ円錐面を設け、アーム4にテーパ円錐面を設け、互いに対面するテーパ円錐面の間に隙間11を形成する。また、オートテンショナ1は前記隙間11に連通する流体室12を有しており、この隙間11及び流体室12には、粘性流体Lが封入されている。流体室12の内部には弾性変形可能な空気室形成部材13が配置されており、この空気室形成部材13によって流体室12の内部に空気室23が形成される。空気室23内の空気は、空気室形成部材13によって、粘性流体Lと隔てられた状態で流体室12の内部に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を自動的に適度に保つオートテンショナの構成、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンの補機駆動用ベルトの張力を保つ装置として、従来からオートテンショナが使用されている。一般にこのオートテンショナは、バネの力を利用してベルトの張力を自動的に制御するものであるが、オートテンショナの揺動を減衰・収束させる方式としては、油圧ダンパ方式と摩擦ダンパ方式とに大別される。このうち後者の摩擦方式では、一般にプーリが取り付けられた可動部材と車体(例えばエンジン)に固定する固定部材からなり、両者はバネ等の付勢部材によってベルト張力を一定にすべく軸部を介して相対運動する。
【0003】
この場合、可動部材と固定部材の間の軸部には、所定の摩擦係数を有する摺動部材を配置しておき、適度な面圧を与えることによって、摺動時に発生する摩擦エネルギーにより可動部材の揺動を短時間に減衰・収束させ、ベルトの張力を可及的に一定に保持するようにしている。
【0004】
前記の可動部材及び固定部材は一般的にはアルミニウム合金からなり、そのアルミニウム合金と摺動部材とが摺動することにより、ベルトの張力を一定に保ち、且つ両者間に摩擦エネルギーを発生させることにより可動部材の揺動を短時間に減衰するようになっている。このような構造のオートテンショナでは、摺動部材はアルミニウム合金と摩擦するために、可動部の揺動を減衰するのに必要な摩擦力すなわち適度の摩擦係数が必要であり、且つアルミニウム合金による摩耗が少ないことが必要になる。
【0005】
そのため、摺動部材としては、一般に摩擦係数が比較的小さい合成樹脂が使用されている。中でも、ナイロン66、ナイロン46又はポリアセタールを使用する例が多い。また、他の例としては、ポリエーテルサルフォン樹脂にポリテロラフルオロエチレン樹脂やアラミド繊維を配合したものも、特許文献1に提案されている。
【0006】
また、他のオートテンショナでは、固定軸と揺動スリーブに設けた空室に多板式粘性吸振手段(ダンパー)を設けている。この多板式粘性吸振手段は空室内に環状の板部材を重ね合わせて接触面積を大きくし、隙間にシリコンオイル等の粘性流体を充填させたものであり、特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開平8−42649号公報
【特許文献2】特公平8−10020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のように摺動部材として例えばナイロン66を用いた場合、ナイロン66はガラス転移温度が低く荷重たわみ温度が低いため、摩擦熱等により摺動部材の温度が上昇した場合に変形しやすく、且つ相手材(アルミニウム合金)と凝着し易いという問題があり、また一般的なナイロンは吸湿して膨張するために摩擦熱によって一層高温になり、摺動面の摩耗が大きくなって寿命が短くなる可能性があった。摺動部材としてポリアセタールを用いた場合はナイロン66等に比較して多少荷重たわみ温度が高くなるものの、決定的な差があるものではなく、高温環境で用いられ、摩擦面の面圧の大きいオートテンショナでは摩耗が大きくなる問題があった。
【0008】
ここで自動車用エンジンのカムシャフトや補機駆動用ベルトにオートテンショナを用いる場合、このオートテンショナはエンジンルーム内の比較的高温な環境下で作動するものであり、更に摺動部材自体が摩擦力によってオートテンショナの可動部の揺動を減衰させる機構であるから、その発熱によっても高温になる。一般的なナイロン66あるいはポリアセタールは、特定の温度においては良好な摺動性及び耐摩耗性を有しているとはいえ、前述した過酷ともいえる使用環境下では、その耐変形性、耐摩耗性が必ずしも十分ではなく、また摺動部材自体の面粗さや可動部材及び固定部材の真円度などにより摩擦力が影響を受けやすく、減衰性能がバラツキ易いという問題があった。
【0009】
一方、特許文献2のような多板式粘性吸振手段を用いた場合には、ベルトの張力を安定的に維持できるが、板部材を重ね合わせた複雑な構造になるために、部品数が多くなりコスト高になってしまう。また、大きな減衰力を発揮させるためには板部材の径を大きくする必要があるが、そうすると多板式粘性吸振手段を収容する環状空室は軸心からの距離が遠くなって容積が大きくなり、オートテンショナが構造的に大きくなるという問題があった。
【0010】
また、特許文献2のように粘性流体を封入するオートテンショナの場合、組立時の粘性流体封入行程において、多少の空気の噛み込みが避けられなかった。このように粘性流体への混入空気量が多いと、オートテンショナの使用時に可動部材の相対運動によって気泡が摺動面上に引き伸ばされあるいは多数の小気泡に分解してダンピング有効面積を低減させてしまうことになり、良好なダンパ効果を安定して得ることが非常に困難であった。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みてされたものであり、その目的は、固定部材と可動部材との間のダンパ効果を一層良好に発揮できるオートテンショナを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0013】
◆本発明の第1の観点によれば、回転体駆動用ベルトに張力を与えるオートテンショナにおいて、固定部材と可動部材との間に形成された隙間及びこの隙間に連通する流体室に粘性流体を封入するとともに、前記流体室の内部には前記粘性流体と隔てられた空気室が形成されている、オートテンショナが提供される。
【0014】
これにより、隙間に封入された粘性流体が摺動に伴う変形によってその温度及び圧力を上昇させる等して粘性流体の容積が変化しても、その容積変化は空気室によって補償される。従って、粘性流体によるダンパ効果が安定して得られる。
【0015】
◆前記のオートテンショナにおいては、前記隙間の径方向内側に前記流体室が形成されていることが好ましい。これにより、流体室及び隙間のコンパクトなレイアウトが得られ、オートテンショナのコンパクト化が容易である。
【0016】
◆前記のオートテンショナにおいては、前記固定部材にテーパ円錐面を設け、前記可動部材にテーパ円錐面を設け、互いに対面する前記テーパ円錐面の間に前記隙間が形成されていることが好ましい。これにより、隙間に介在される粘性流体を径方向に薄い膜状とすることが容易で、可動部材の回動に対して大きな抵抗を発揮させてダンパ効果を良好にできる。更に、オートテンショナの組立性が良好になる。加えて、粘性流体を封入する隙間を小さなスペースに収めることができるから、コンパクト性に優れるオートテンショナを提供できる。
【0017】
◆前記のオートテンショナにおいては、前記流体室は流体逃がし用通路を有しており、この流体逃がし用通路に連通する逃がし口が栓部材によって閉鎖されていることが好ましい。これにより、固定部材と可動部材との組付け時には、粘性流体の内部に混入した気泡を流体逃がし用通路及び逃がし口を通じて容易に逃がすことができる。一方、組付け後は逃がし口を栓部材で閉鎖することで、オートテンショナ使用時の粘性流体の逃がし口からの漏れ及び逃がし口を通じた外部空気の粘性流体への混入を防止できる。
【0018】
◆前記のオートテンショナにおいては、前記隙間の径方向内側には空気室形成部材が配置されており、この空気室形成部材によって前記空気室内の空気と前記粘性流体とが隔てられていることが好ましい。これによれば、空気室内の空気が粘性流体の内部に混入して気泡となることが空気室形成部材によって防止されるとともに、粘性流体の容積変化に応じて空気室形成部材が変形することでそのような容積変化を容易に吸収・補償できる。
【0019】
◆前記のオートテンショナにおいては、前記固定部材と前記可動部材との間にはテーパ筒状の摺動部材が介在されているとともに、前記可動部材と前記固定部材との間には前記可動部材を一側に回動付勢するための付勢バネが介設され、この付勢バネが前記固定部材と前記可動部材とを互いに近接する方向に付勢していることが好ましい。これにより、簡易な構成で可動部材を固定部材に対し回動自在に軸支できるとともに、組立性にも優れる。また、可動部材を回動付勢する付勢バネの引張力によって摺動部材に対して適度な面圧を付与でき、可動部材の相対運動時に摩擦抵抗を発生させることができる。この結果、一層のダンパ効果の向上が得られるとともに、構成を簡素化できる。
【0020】
◆本発明の第2の観点によれば、以下のような、固定部材と可動部材との間に隙間を形成してその隙間に粘性流体を介在させた構成のオートテンショナの製造方法が提供される。前記固定部材及び前記可動部材の何れか一方にテーパ内周面を設けるとともに他方にはテーパ外周面を設ける。前記テーパ内周面の内部空間に前記粘性流体を貯めた状態で、前記テーパ外周面を前記テーパ内周面の内部に軸方向に差し込むようにして前記固定部材と前記可動部材とを組み付けるとともに、互いに対向する前記テーパ内周面及びテーパ外周面との間に前記隙間を形成する。
【0021】
これにより、差込み始めの際は両テーパ面の間の隙間が大きいため、その隙間に入りこむ粘性流体に気泡が混入したとしても、気泡はその大きな隙間を通じて逃がすことができる。従って、粘性流体へ気泡が混入してダンパ効果に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0022】
◆前記のオートテンショナの製造方法においては、前記の組付け後の状態では、オートテンショナの内部に流体室が形成されてこの流体室が前記隙間に連通するとともに、当該流体室の内部では、空気が空気室形成部材によって前記粘性流体と隔てられた状態で存在することが好ましい。これにより、前記隙間に介在される粘性流体が摺動に伴う変形によってその温度及び圧力を上昇させる等して粘性流体の容積が変化しても、その容積変化は空気室によって補償される。従って、粘性流体によるダンパ効果が安定して得られる。
【0023】
◆前記のオートテンショナの製造方法においては、前記テーパ外周面を前記テーパ内周面の内部に軸方向に差し込む際は、テーパ内周面の内部に貯められた粘性流体の一部が、前記テーパ外周面を設けた側の部材に備えた流体逃がし用通路及び逃がし口を通じて外部に排出されることが好ましい。これにより、粘性流体の内部に混入した気泡を、組付け時に、液体逃がし用通路及び逃がし口を通じて容易に逃がすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係るオートテンショナの全体的な構成を示した軸断面図、図2は空気室形成部材の詳細な形状を示す斜視図、図3はオートテンショナの組付手順を示す要部断面図である。
【0025】
図1に示すオートテンショナ1は、鎖線で略示するエンジンブロック2に図略のボルト等によって固着されるブラケット(固定部材)3と、このブラケット3に対し揺動自在に支持されるアーム(可動部材)4と、を備えている。アーム4の先端には、鎖線で略示するように、プーリ5が回転自在に支持される。またアーム4は後述のスプリング(付勢バネ)22によって一側に回動付勢されており、これにより前記プーリ5の外周面は、エンジンのクランクシャフトの回転をオルタネータに伝達するための図略のVリブドベルト(回転体駆動用ベルト)に当接し、当該ベルトに適宜の張力を付与するように構成されている。
【0026】
ブラケット3はアーム4側に突出する環状壁6を備える一方、アーム4はブラケット3側に突出する第1環状壁8と第2環状壁9とを備えている。内側の第1環状壁8と外側の第2環状壁9は、ブラケット3側の環状壁6を径方向に挟むようにして設けられている。
【0027】
環状壁6の外周面と前記第2環状壁9の内周面との間には、テーパ筒状の摺動部材7が介在されている。この摺動部材7はナイロン66、ナイロン46、ポリアセタール等の摩擦係数の比較的小さい合成樹脂で形成されており、この摺動部材7を介してアーム4がブラケット3に対して回動自在に支持されている。
【0028】
環状壁6の内周面と第1環状壁8の外周面との間には薄肉テーパ筒状の隙間11が形成される。また、第1環状壁8の内部空間(即ち、前記隙間11よりも径方向内側)には流体室12が形成され、この流体室12は前記隙間11の軸方向の一端と連通している。隙間11及び流体室12には粘性流体Lが封入されている。この粘性流体Lとしてはシリコンオイルが好ましいが、これに限定されるものでもない。
【0029】
前記流体室12の内部には空気室形成部材13が配置される。この空気室形成部材13は弾性変形可能な合成樹脂等で構成されており、図2に示すように一側が拡径された漏斗状とも言うべき筒状に成形されるとともに、その軸方向両端には鍔部14,15が形成されて、この鍔部14,15の外周面が第1環状壁8の内周面に嵌合されている。前記空気室形成部材13の径方向外側であって第1環状壁8の内側の部分(前記鍔部14,15の間の部分)は、空気が封入される筒状の空気室23とされている。また、空気室形成部材13の軸孔の内部は流体逃がし用通路16とされ、この流体逃がし用通路16が前述の隙間11と連通している。また、前記アーム4の中心には逃がし口17が開口され、この逃がし口17が前記流体逃がし用通路16と接続されている。
【0030】
前記薄肉テーパ筒状の隙間11から粘性流体Lが漏れることを防止するために、前記第1環状壁8の基端部外周面にはシールリング18が設置されて、ブラケット3側の環状壁6の先端部の内周面と密着してシールしている。また、前記逃がし口17には栓部材19が設置されて、当該逃がし口17を閉鎖している。
【0031】
前記第2環状壁9の外側において、ブラケット3とアーム4にはそれぞれ、互いに対向する環状のバネ収容溝20,21が形成される。このバネ収容溝20,21の内部には、コイルバネ状の前記スプリング22が設置される。スプリング22のバネ線の一端はブラケット3に、他端はアーム4に、それぞれ固定される。このスプリング22は、アーム4をブラケット3に対して一側に回動付勢する付勢力を作用させると同時に、ブラケット3とアーム4とを相互に近接させる方向の軸方向の引張り力をブラケット3及びアーム4に作用させるように構成されており、この結果、環状壁6のテーパ外周面と摺動部材7との間、及び第2環状壁9のテーパ内周面と摺動部材7との間を、適度に圧接させ、所定の面圧を発生させている。従って、ブラケット3に対しアーム4が相対回動した場合は、摺動部材7と各テーパ面との間で生じる摩擦抵抗がそれに抗するようになっている。なおスプリング22は薄肉テーパ筒状の前記隙間11の周囲を囲むように外側に設置されており、これにより隙間11とスプリング22のコンパクトなレイアウトが実現されている。
【0032】
以上の構成で、前記プーリ5からアーム4に伝達される振動あるいは衝撃により、アーム4がブラケット3に対して相対回動するときは、それに対し、前記の隙間11に封入される粘性流体Lのせん断粘性抵抗、及び、前記摺動部材7の摩擦抵抗が抗するので、大きなダンパ効果を発揮し、そのような振動や衝撃を適切に減衰・吸収することができる。
【0033】
次に、上記のオートテンショナ1の組付けについて、図3を参照しながら説明する。即ち図3(a)に示すように、ブラケット3側においては、エンジンブロック2に取り付けられる側の面を下方に向けるとともに、前記環状壁6の内部(環状壁6のテーパ状に形成された内周面の内側)には、所定の量の粘性流体Lを注入して貯めておく。一方、アーム4側においては、前記第1環状壁8の内周面に空気室形成部材13を予め嵌合して組み付け、第1環状壁8の内部に空気室23を予め形成した状態としておく。また、前記逃がし口17の栓部材19は取り外した状態としておく。
【0034】
そして図3(a)の白抜き矢印のように、アーム4の前記第1環状壁8の外周面(第1環状壁8のテーパ状に形成された外周面)を、前記環状壁6の内部に軸方向に差し込んで行く。すると、第1環状壁8が先端(下端)から粘性流体Lに浸漬され、第1環状壁8の外側及び内側(前記隙間11、及び、前記空気室形成部材13の内部の流体逃がし用通路16)に粘性流体Lが行き渡っていく。第1環状壁8を下方へ差し込んで行くに従って粘性流体Lの液面は上昇し、最終的には図3(b)に示すように、環状壁6の上端ギリギリまで液面が上がるとともに、アーム4側に形成された流体逃がし用通路16及び逃がし口17から粘性流体Lが溢れ、外部に排出されることになる。それとほぼ同時に、シールリング18が環状壁6の内周面に嵌合して当該部分を封止する。そして、アーム4がブラケット3に完全に組みつけられた状態になると、逃がし口17を前記栓部材19でシールする。このようにして、隙間11及び流体室12に粘性流体Lが封入された状態となる。
【0035】
なお前述したとおり、環状壁6の内周面及び第1環状壁8の外周面は若干のテーパ状に構成されているので、前記の差込みの当初(両テーパ面が軸方向に離れている状態)では、図3(a)に示すように、両テーパ面の間の隙間11の厚みは大きい。従って、差込み作業の初期から中期にかけては、この隙間11に存在する粘性流体Lに空気の気泡が含まれていたとしても、その気泡は厚みの大きい隙間11を介して抜けることが容易である。また、シールリング18によって前記隙間11の一端が封止された後の状態(図3(b)から更に第1環状壁8を若干差し込んだ状態)でも、逃がし口17は未だ閉止されていないから、粘性流体L内の気泡を流体逃がし用通路16及び逃がし口17を通じて逃がすことが容易である。この結果、隙間11内の粘性流体Lへの空気の噛みこみ(混入)を顕著に抑制することができ、気泡によるダンパ性能の低下を回避することができる。
【0036】
本実施形態では上記に示すように、前記ブラケット3と前記アーム4との間に隙間11を形成するとともに、オートテンショナ1の内部には流体室12を設けて前記隙間11と連通させ、この隙間11及び流体室12に粘性流体Lを封入している。そして、流体室12の内部には空気室23が前記粘性流体Lと隔てられるように形成されている。
【0037】
従って、隙間11に封入された粘性流体Lが摺動に伴う変形によりその温度及び圧力を上昇させたとしても、それに伴う粘性流体Lの膨張が空気室23によって補償される。従って、粘性流体Lによるダンパ効果が安定して得られる。
【0038】
また本実施形態では、前記流体室12は前記隙間11の径方向内側に形成されている。従って、流体室12及び隙間11のコンパクトなレイアウトが得られ、オートテンショナ1のコンパクト化に寄与できる。
【0039】
また本実施形態では、前記隙間11は、前記ブラケット3の環状壁6の内周に形成したテーパ円錐面と、前記アーム4の第1環状壁8の外周に形成したテーパ円錐面との間に形成されている。従って、隙間11に封入される粘性流体Lが径方向に薄い膜状となって、アーム4がブラケット3に対し回動する際に大きなせん断抵抗を発揮でき、良好なダンパ効果が得られる。また、互いに対面するテーパ円錐面の間に隙間11が形成されるから、上記のように粘性流体Lに大きな粘性抵抗を生じさせるべく隙間11の厚みを小さく設定した場合でも、テーパ内周面(環状壁6の内周面)の中に先細り状のテーパ外周面(第1環状壁8の外周面)を容易に差し込むことができ、組立性に優れる。
【0040】
また本実施形態では、前記流体室12は流体逃がし用通路16を有しており、この流体逃がし用通路16に連通する逃がし口17が栓部材19によって閉鎖されている。この結果、図3に示すような組付け時においては、粘性流体Lの内部に混入した気泡を流体逃がし用通路16及び逃がし口17から容易に逃がすことができる一方、組付け後に逃がし口17を栓部材19によって閉鎖することで、使用時の粘性流体Lの逃がし口17からの漏れ及び逃がし口17を通じた粘性流体Lへの空気の混入を防止できる。
【0041】
本実施形態では、前記隙間11の径方向内側には弾性変形可能な空気室形成部材13が配置されており、この空気室形成部材13によって、空気室23内の空気と粘性流体Lとが隔てられている。従って、空気室23内の空気が粘性流体Lの内部に混入することが空気室形成部材13によって防止されるとともに、粘性流体Lの膨張/収縮に応じて空気室形成部材13が変形することで、そのような膨張/収縮を容易に吸収できる。
【0042】
また本実施形態では、ブラケット3とアーム4との間には、テーパ筒状の摺動部材7が介在されている。これにより、簡易な構成でアーム4をブラケット3に対し回動自在に軸支できる。また、摺動部材7がテーパ筒状となっているために、軸方向に差し込むだけで良く、組付けも容易である。本実施形態に照らして言えば、図3(a)に示すように、アーム4をブラケット3に組み付ける前段階で、摺動部材7を環状壁6に対して軸方向に差し込んで外嵌するだけで、摺動部材7を組み付けることができる。また、ブラケット3とアーム4とは、アーム4を一側に回動付勢するためのスプリング22の軸方向引張り力によって、互いに近接する方向に付勢される。この結果、摺動部材7に対して適度の面圧が発生し、摺動部材7の摩擦抵抗と前記粘性流体Lの粘性抵抗とが相俟って良好なダンパ効果が得られる。また、スプリング22に、摺動部材7の摺動面を圧接して摩擦抵抗を発生させる役割とアーム4を一側に回動付勢する役割の双方を兼ねさせる構成となっているから、構成が簡素化され、部品点数及び製造コストを削減できる。
【0043】
更に本実施形態では、前記ブラケット3の環状壁6の内面はテーパ内周面に形成する一方、アーム4の第1環状壁8の外面はテーパ外周面に形成している。そして図3に示すように、ブラケット3の環状壁6のテーパ内周面の内部空間に粘性流体Lを貯めた状態で、アーム4の第1環状壁8のテーパ外周面を、ブラケット3の環状壁6のテーパ内周面の内部に軸方向に差し込むようにして、前記ブラケット3とアーム4とを組み付けることで、オートテンショナ1を製造している。
【0044】
この製造方法を採ることで、差込み始めの際は両テーパ面の間の隙間11が大きいため、その隙間11に入り込む粘性流体Lに気泡が混入していたとしても、その大きい隙間11を介して気泡を逃がすことができる。従って、粘性流体Lへ気泡が混入してダンパ効果に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、テーパ面同士を差し込むため、ブラケット3とアーム4との組付けが容易であり、組立性に優れる。
【0045】
また本実施形態では、図1に示す組付け後の状態では、オートテンショナ1の内部に流体室12が形成されてこの流体室12が前述の隙間11に連通するとともに、当該流体室12の内部では、空気が空気室形成部材13によって粘性流体Lと隔てられた状態で存在する。従って、隙間11に封入された粘性流体Lが摺動に伴う変形によりその温度及び圧力を上昇させたとしても、それに伴う粘性流体Lの膨張が空気室23によって補償される。従って、粘性流体Lによるダンパ効果が安定して得られる。
【0046】
更に本実施形態では、図3(b)に示すように、アーム4の第1環状壁8のテーパ外周面をブラケット3の環状壁6のテーパ内周面の内部に軸方向に差し込む際は、テーパ内周面の内部に貯められた粘性流体Lの一部が、前記テーパ外周面を形成した側の部材(アーム4)に形成された流体逃がし用通路16及び逃がし口17を通じて外部に排出されるようになっている。従って、粘性流体Lの内部に混入した気泡を流体逃がし用通路16及び逃がし口17から容易に逃がすことができる。
【0047】
次に、オートテンショナの変形例を図4及び図5を参照して説明する。図4は変形例のオートテンショナの軸断面図、図5は図4のA−A断面矢視図である。
【0048】
この変形例のオートテンショナ1’では、アーム4からブラケット3側に向かって円錐状の突部8を突設させている。この突部8の先端面には適宜の深さの凹部24が設けられ、この凹部24の底部から流体逃がし用通路16が貫通状に形成される。即ち、この変形例では流体逃がし用通路16はアーム4の突部8に直接形成されている。
【0049】
前記凹部24の内部には中空球状の空気室形成部材13が配置され、この空気室形成部材13の内部には空気が封入されている。流体逃がし用通路16が凹部24の底面に形成する開口が空気室形成部材13によって塞がれても流体逃がし用通路16と凹部24内の連通を確保するために、当該凹部24の底面には断面四半円状(図4参照)の流体逃がし用第2通路25が4つ形成され、それぞれの流体逃がし用第2通路25は斜状に延びて前記流体逃がし用通路16と接続している。
【0050】
この変形例では、前記凹部24の内部の空間、流体逃がし用通路16、流体逃がし用第2通路25が流体室12に相当する。この流体室12は前記の実施形態と同様に、突部8の外側に形成される薄肉テーパ筒状の隙間11に連通されている。そして、この流体室12の内部に、粘性流体Lと隔てられた空気室(空気室形成部材13の内部の空気室)23が形成される。
【0051】
この変形例のオートテンショナ1’においてブラケット3とアーム4とを組み付ける際には、詳細は図示しないが図3(a)と同様に、ブラケット3のエンジンブロック2側への取付面を下側へ向けて載置し、その環状壁6の内部に適当な量の粘性流体Lを注入して貯めておき、更に図4に図示の球状の空気室形成部材13を粘性流体Lの液面に浮かせた状態で、アーム4の突部8のテーパ外周面をブラケット3の環状壁6のテーパ内周面に差し込むように軸方向に差し込めば良い。
【0052】
以上に本発明の好適な実施形態及びその変形例を説明したが、本発明の技術的範囲は前記の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、例えば以下のように変更して実施することができる。
【0053】
(1)オートテンショナ1,1’は、エンジンのオルタネータ(補機)を駆動するためのベルトに限定されず、他にも様々な用途が考えられる。
【0054】
(2)また、テーパ面の向きを軸方向で全く逆に構成しても良い。即ち、アーム4側に環状壁6を設け、ブラケット3側に第1環状壁8及び第2環状壁9を設け、環状壁6の内側のテーパ内周面と第1環状壁8の外側のテーパ外面との間に隙間11を形成しても良い。
【0055】
(3)本実施形態では前記スプリング22に、ブラケット3とアーム4とを相互に近接する方向へ引張る役割と、アーム4を一側へ回動付勢する役割の両方を行わせているが、スプリング22にはブラケット3とアーム4とを軸方向へ互いに引張る役割のみを担わせても良い。即ち、アーム4に別の付勢バネを取り付け、この付勢バネによってアーム4をブラケット3に対して一側へ回動付勢する構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係るオートテンショナの全体的な構成を示した軸断面図。
【図2】空気室形成部材の詳細な形状を示す斜視図。
【図3】オートテンショナの組付手順を示す要部断面図。
【図4】変形例のオートテンショナの軸断面図。
【図5】図4のA−A断面矢視図。
【符号の説明】
【0057】
1 オートテンショナ
3 ブラケット(固定部材)
4 アーム(可動部材)
11 隙間
12 流体室
13 空気室形成部材
16 流体逃がし用通路
17 逃がし口
19 栓部材
22 スプリング(付勢バネ)
23 空気室
L 粘性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体駆動用ベルトに張力を与えるオートテンショナにおいて、固定部材と可動部材との間に形成された隙間及びこの隙間に連通する流体室に粘性流体を封入するとともに、前記流体室の内部には前記粘性流体と隔てられた空気室が形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
請求項1に記載のオートテンショナであって、前記隙間の径方向内側に前記流体室が形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のオートテンショナであって、前記固定部材にテーパ円錐面を設け、前記可動部材にテーパ円錐面を設け、互いに対面する前記テーパ円錐面の間に前記隙間が形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載のオートテンショナであって、前記流体室は流体逃がし用通路を有しており、この流体逃がし用通路に連通する逃がし口が栓部材によって閉鎖されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載のオートテンショナであって、前記隙間の径方向内側には空気室形成部材が配置されており、この空気室形成部材によって前記空気室内の空気と前記粘性流体とが隔てられていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までの何れか一項に記載のオートテンショナであって、前記固定部材と前記可動部材との間にはテーパ筒状の摺動部材が介在されているとともに、前記可動部材と前記固定部材との間には前記可動部材を一側に回動付勢するための付勢バネが介設され、この付勢バネが前記固定部材と前記可動部材とを互いに近接する方向に付勢していることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項7】
固定部材と可動部材との間に隙間を形成して、その隙間に粘性流体を介在させた構成のオートテンショナの製造方法であって、
前記固定部材及び前記可動部材の何れか一方にテーパ内周面を設けるとともに他方にはテーパ外周面を設け、
前記テーパ内周面の内部空間に前記粘性流体を貯めた状態で、前記テーパ外周面を前記テーパ内周面の内部に軸方向に差し込むようにして前記固定部材と前記可動部材とを組み付けるとともに、互いに対向する前記テーパ内周面及びテーパ外周面との間に前記隙間を形成することを特徴とする、オートテンショナの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のオートテンショナの製造方法であって、
前記の組付け後の状態では、オートテンショナの内部に流体室が形成されてこの流体室が前記隙間に連通するとともに、当該流体室の内部では、空気が空気室形成部材によって前記粘性流体と隔てられた状態で存在することを特徴とする、オートテンショナの製造方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のオートテンショナの製造方法であって、
前記テーパ外周面を前記テーパ内周面の内部に軸方向に差し込む際は、テーパ内周面の内部に貯められた粘性流体の一部が、前記テーパ外周面を設けた側の部材に備えた流体逃がし用通路及び逃がし口を通じて外部に排出されることを特徴とする、オートテンショナの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate