説明

オーバーコート膜用組成物、オーバーコート膜および光学素子

【課題】膜中に溶剤や水分が残りやすい湿式成膜法により形成された異方性膜であっても、耐熱性、耐プロセス性、耐久性に優れた光学素子を構成できるような、異方性膜のオーバーコート膜を提供すること。
【解決手段】異方性膜上に形成されるオーバーコート膜用の組成物が、親水性化合物および疎水性化合物を含有する。親水性化合物としては、水酸基、エーテル基、アミド基、カルボキシ基、スルホ基、及び、アミノ基、からなる親水性基群のうち、1つ以上を有するモノマー化合物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜、位相差膜等の異方性膜上に形成されるオーバーコート膜用の組成物、並びに、それを用いたオーバーコート膜、及び、光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD(液晶表示ディスプレイ)では、表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光板、位相差板、円偏光板などが用いられている。OLED(有機EL素子)においても、外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。
【0003】
従来、これらの偏光板(偏光素子)には、ヨウ素や二色性を有する有機色素を、ポリビニルアルコール等の高分子材料に溶解または吸着させ、その膜を一方向にフィルム状に延伸して、二色性色素を配向させることにより得られる偏光膜が広く使用されてきた。しかしながら、このようにして製造される従来の偏光膜では、用いる色素や高分子材料によっては耐熱性や耐光性が十分でない、液晶装置製造時における偏光膜の貼り合わせの歩留りが悪い等の課題があった。
【0004】
そのため、ガラスや透明フィルムなどの基板上に、二色性色素を含む溶液を塗布する湿式成膜法にて二色性色素を含む膜を形成し、分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させることにより偏光膜を製造する方法が検討されている。
【0005】
湿式成膜法により形成される偏光膜や位相差膜をはじめとした異方性膜は、その耐久性向上のため、その膜上にオーバーコート膜が形成される。
【0006】
例えば、特許文献1や非特許文献1では、偏光膜上にラッカーを塗布したりプラスチックをラミネートしたりすることで、耐久性の高い偏光板を作ることが提案されている。
【0007】
しかしながら、湿式成膜法により形成された偏光膜や位相差膜中には、水やアルコールなどの溶剤が残存し易く、環境によって水分の出入りもある。そのため、湿式成膜法によりオーバーコート膜を形成しても、膜中の溶剤濃度や水分濃度が変動し、偏光性能や位相差能が低下することがあった。
【0008】
このことは加熱処理や減圧処理を行うと顕著になり、性能が低下するのみならず、亀裂が生じる場合もあった。そのため、光学素子に適用するにあたり、耐熱性やプロセス耐性面において課題を有していた。
【0009】
溶剤や水などの透過性を抑制するオーバーコート膜を用いることで耐久性は改良できるが、こうしたオーバーコート膜は屈折率が高く、層も厚いため、透過率の低下を招いてしまい、解決策とはなっていなかった。
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,914,016号明細書
【非特許文献1】Dreyer,J.F., Journal de Physique, 1969, 4, 114., “Light Polarization From Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、膜中に溶剤や水分が残りやすい湿式成膜法により形成された異方性膜であっても、耐熱性、耐プロセス性、耐久性に優れた光学素子を構成できる、異方性膜のオーバーコート膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが、鋭意検討した結果、オーバーコート膜を形成するための組成物に含まれる化合物として、親水性化合物と疎水性化合物の両方が含有される組成物を用いることにより、上記課題が解決できることが判明し本発明に至った。
【0013】
即ち、本発明の要旨としては、異方性膜上に形成されるオーバーコート膜用の組成物であって、親水性化合物および疎水性化合物を含有することを特徴とする、オーバーコート膜用組成物に存する(請求項1)。
【0014】
このとき、親水性化合物が、水酸基、エーテル基、アミド基、カルボキシ基、スルホ基、及び、アミノ基、からなる親水性基群のうち、1つ以上を有するモノマー化合物であることが好ましい(請求項2)。
【0015】
また、本発明の別の要旨としては、異方性膜上に形成されるオーバーコート膜であって、前記のオーバーコート膜用組成物を湿式成膜法により、異方性膜上に成膜してなることを特徴とする、オーバーコート膜に存する(請求項3)。
【0016】
さらに、本発明の別の趣旨としては、異方性膜上に形成されるオーバーコート膜であって、親水性化合物および疎水性化合物が重合してなる膜であることを特徴とする、オーバーコート膜に存する(請求項4)。
【0017】
また、本発明の更に別の要旨としては、異方性膜および上記のオーバーコート膜を有することを特徴とする、光学素子に存する(請求項5)。
【0018】
このとき、該異方性膜が、異方性材料及び溶剤を含有する組成物を湿式成膜法により成膜して形成された膜であることが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0019】
本発明のオーバーコート膜用組成物によって、湿式成膜法により形成された異方性膜であっても、耐熱性、耐プロセス性、耐久性に優れた光学素子を構成できる異方性膜のオーバーコート膜を提供することができる。また本発明のオーバーコート膜及び光学素子は、耐熱性、耐プロセス性、耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明するが、これは実施態様の一例(代表例)であり、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0021】
なお、本発明にいう「溶剤」とは、溶質を溶解する溶媒、及び、溶質を分散させる分散媒の両方を指し、溶剤中における溶質の存在状態は任意である。
【0022】
本発明は、異方性膜上に形成されるオーバーコート膜用の組成物であって、親水性化合物および疎水性化合物を含有することを特徴とする、オーバーコート膜用組成物に関する。
まず、異方性膜について説明し、その後、オーバーコート膜について説明する。
【0023】
[1.異方性膜]
本発明でいう異方性膜とは、膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する膜である。電磁気学的性質としては、例えば、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。例えば、吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜等が挙げられる。
本発明は、任意の異方性膜に用いることができるが、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜に用いられることが好ましく、中でも偏光膜に用いられることがより好ましい。
また、上述の異方性膜の中でも、本発明は、異方性材料及び溶剤を含有する組成物(異方性膜用組成物)を湿式成膜法により成膜して形成された膜に好適に使用することができる。
【0024】
なお、本発明に係る異方性膜は1層からなるものであってもよく、また、2層以上を積層してなるものであってもよい。
【0025】
<1−1.異方性膜用組成物>
本発明の異方性膜用組成物は、以下に説明する異方性材料を、少なくとも1つ以上含有する。また、必要に応じて、溶剤、その他の成分を含有しても良い。
【0026】
(1−1−1.異方性材料)
異方性材料としては、異方性を有する材料であれば任意の材料を用いることができる。異方性材料は、後述の湿式成膜法に供するためには、水や有機溶剤等の溶剤に可溶であることが好ましく、特に水溶性であることが好ましい。
【0027】
異方性材料の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、塩型をとらない遊離の状態で、好ましくは200以上、更に好ましくは300以上、また、好ましくは1500以下、更に好ましくは1200以下である。分子量が大きすぎると溶解性が低下する可能性があり、小さすぎると会合性が低下して、異方性膜の配向性が低下する可能性がある。
【0028】
中でも、異方性材料としては、液晶性を有する材料が好ましい。そのような異方性材料の例としては、色素、透明材料などが挙げられる。
【0029】
色素としては、例えば、縮合多環系色素、アゾ系色素などが挙げられる。その具体例を挙げると、米国特許第2400877号明細書、Dreyer J. F., Phys. and Colloid Chem., 1948, 52, 808., “The Fixing of Molecular Orientation”、Dreyer J. F., Journal de Physique, 1969, 4, 114., “Light Polarization from Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals”、及び、J. Lydon, “Chromonics” in “Handbook of Liquid Crystals Vol.2B: Low Molecular Weight Liquid Crystals II”, D. Demus, J. Goodby, G. W. Gray, H. W. Spiessm, V. Vill ed, Willey−VCH, P.981−1007(1998)等に記載の色素を使用することができる。
【0030】
中でも、アゾ系色素が好ましく、アゾ系色素の中でも特にジスアゾ色素或いはトリスアゾ色素が好ましい。特に、分子内にRR酸構造を有する色素や、複素環構造を有する色素が好ましい。
【0031】
具体的に、色素の例としては、以下の色素が挙げられる。以下の色素は、遊離酸型で記載するが、これらの色素の酸基は、塩型となっていてもよい。塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩;アルキル基、または、ヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩;有機アミンの塩;等が好ましい。
【0032】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【0033】
一方、異方性材料のうち透明材料としては、例えば、リオトロピック液晶性化合物などが挙げられる。具体的には、トリアジン系化合物などが挙げられる。その具体例を挙げると、特開昭52−2541号公報、特表2001−515945号公報、国際公開第2002/048759号パンフレットなどに記載の化合物を使用することができる。
【0034】
具体的に、透明材料の例としては、非特許文献(A. S. Vasilevskaya, E. V. Generalova and A. S. Sonin, "Chromonic mesophases", Russian Chemical Reviews, 58(9), 904, (1989).)記載のジソディウムクロモグリケート(DSCG)、7,7−クロモグリケート、等のクロモグリケート化合物;
非特許文献(T.K.Attwood, L.E.Lydon, "Lyotropic Mesophase Formation by Anti-Asthmatic Drugs", Mol. Cryst. Liq. Cryst., 108, 349, (1984).)記載のRoussel社製 Ru31156、Glaxo社製 AH7079,AH6556,AH7725、等のキサントン化合物;
非特許文献(R. Hentschke, P.J.B. Edwards, N. Boden, R.J. Bushby, Macromol. Symp., 81, 361-367, (1994) )記載のヘキサ−オキサアルキル−トリフェニレン、等のトリフェニレン化合物;
下記に示すモノトリアジン化合物;等が挙げられる。
【化13】

【化14】

(上記のモノトリアジン化合物は、遊離酸型で記載するが、これらの色素の酸基は、塩型となっていてもよい。)
【0035】
これらの異方性材料は、1種を単独で、又は、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0036】
本発明の異方性膜用組成物は、塗布乾燥時の欠陥を抑制するため、温度5℃、歪印加後0.01秒後の緩和弾性率Gが10分の1に低下するまでの時間が0.1秒以下であるような粘弾性特性を有しているのが好ましい。緩和弾性率Gが10分の1に低下するまでの時間が0.1秒を上回るような異方性膜用組成物は、塗布乾燥時に配向方向に垂直な縞状の欠陥を自発的に形成しやすい。
ここで、緩和弾性率とは、粘弾性測定装置ARES粘弾性測定システム(Rheometric Scientific社製)のStress Relaxationモードを用いて、以下の条件で測定した緩和弾性率をいう。また、本装置と同等の装置で測定されたものであってもよい。
緩和弾性率の測定方法は、以下の条件で行なう。測定治具には、試料(異方性膜用組成物)の緩和弾性率が100dyn/cm2以下であれば直径50mmのコーンプレートを使用し、100dyn/cm2を超える場合は直径25mmのコーンプレートを使用する。試料温度5℃に保ち、試料をセットする際の履歴をなくすために、測定開始前に剪断速度100s-1のプレッシャーを10秒与え、1分間静置した後、歪10%で測定を行なう。
【0037】
また、同様の目的で、本発明の異方性色素膜用組成物は、色素の酸性基に対して、カチオン0.9当量以上0.99当量以下と、強酸性アニオン0.02当量以上0.1当量以下とを含むことが好ましい。この範囲だと、上述の粘弾性特性を満たすことができる。
【0038】
(1−1−2.異方性膜用組成物の溶剤)
異方性膜用組成物を後述の湿式成膜法で形成する場合、通常は溶剤を用いる。その溶剤としては異方性材料を溶解することができれば制限はないが、中でも、水、水混和性のある有機溶剤、及び、これらの混合物が好ましい。
【0039】
水混和性のある有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類;等が挙げられる。
また、これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0040】
また、溶剤の沸点は、気圧1気圧において、通常250℃以下、中でも200℃以下、特に150℃以下が好ましい。沸点が高すぎると異方性膜の製造時に溶剤の乾燥を円滑に行なえなくなる可能性がある。
【0041】
本発明の異方性膜用組成物が溶剤を含む場合、当該異方性膜用組成物中の異方性材料の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、異方性材料の溶解性や会合状態の形成濃度にも依存するが、当該濃度は好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは1重量%以上、また、好ましくは50重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。濃度が低すぎると十分な二色性を得られない可能性があり、また、濃度が高すぎると成膜が困難になる可能性がある。
【0042】
(1−1−3.その他の成分)
本発明の異方性膜用組成物には、上記の異方性材料以外に、その他の成分を含有していてもよい。例えば、基材への濡れ性、塗布性などを向上させるため、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加えることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用可能である。その使用濃度は好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.05重量%以上、また、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.2重量%以下である。この範囲より上回ると異方性材料と界面活性剤の相分離する可能性があり、下回ると濡れ性が不十分となる可能性がある。
【0043】
さらに、本発明の異方性膜用組成物は、基材への染着性などを向上させるため、必要に応じて異方性材料の会合状態を制御するための会合制御剤を含有させることができる。その具体例を挙げると、前述の界面活性剤、アルコール類、グリコール類、尿素、塩化ナトリウム、ボウ硝等の無機塩などが挙げられる。その使用濃度は好ましくは0.05重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上、また、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。この範囲より上回ると液晶性を阻害したり、異方性材料と会合制御剤の相分離する可能性があり、下回ると染着性などの向上が弱まる傾向がある。
なお、その他の成分は、1種を用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0044】
また、本発明の異方性膜用組成物は、異方性膜の二色性向上や屈折率異方性制御を目的として、国際公開第2006/115206号パンフレット記載の電子不足な盤状化合物を含有させることができる。
【0045】
電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物とは、例えば参考文献1("An Electron-Deficient Discotic Liquid-Crystalline Material", K. Pieterse, et al., Chemistry of Materials, 2001年, Vol.13, p.2675)に記載されている ような、比較的大きな電子親和力を有し、好ましくはベンゼンよりも大きい−20×1040cm2以上の四重極子モーメントQzz、更に好ましくは正の四重極子モーメントQzzを持つ盤状部分構造を有する化合物のことを言う。
【0046】
本発明の材料として使用できる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物の例としては、電子親和性の高い置換基を有する芳香族系化合物又はアザ複素環式化合物などが挙げられる。また特に前述の溶剤に対して1重量%以上の溶解性を持つことが好ましく、また、1〜50重量%の何れかの濃度域でリオトロピック液晶相を形成する化合物であることが好ましい。
また、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物の中でも、アントラキノン誘導体又はアントラキノン誘導体を部分構造として含むアゾ色素が、得られる膜の二色性の点からも好ましい。
【0047】
<1−2.異方性膜の製造方法>
本発明に係る異方性膜の製法は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はなく、公知のいずれの製法を用いることができる。ただし、本発明のオーバーコート膜は、異方性材料及び溶剤を含有する組成物を湿式成膜法により成膜して形成された膜上に好適に形成することができる。以下、湿式成膜法による製造方法について説明する。
【0048】
(1−2−1.湿式成膜法)
本発明でいう湿式成膜法とは、異方性膜用組成物を異方性膜用塗布液として調製後、ガラス板などの各種基材上に塗布し、異方性材料を配向及び/又は積層する方法をいう。具体例としては、原崎勇次著「コーティング工学」(株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行)253頁〜277頁や、市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」(株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行)118頁〜149頁などに記載の公知の方法、並びに、予め配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法などで塗布する方法等が挙げられる。
【0049】
(1−2−2.基材)
本発明に係る異方性膜に使用される基材に制限はないが、その具体例としては、ガラスやトリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等が挙げられる。なお、この基材表面には、二色性色素の配向方向を制御するために、「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)226頁から239頁などに記載の公知の方法により、配向処理を施していてもよい。
【0050】
(1−2−3.湿式成膜法による異方性膜の製造)
湿式成膜法による異方性膜の製造において、異方性膜用塗布液の塗布時の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは−5℃以上、更に好ましくは0℃以上、また、好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。この範囲を下回ると異方性膜用塗布液が凍結する可能性があり、この範囲を上回ると液晶性を失う可能性がある。
また、塗布時の相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは10%RH以上、更に好ましくは20RH%以上、また、好ましくは90%RH以下、更に好ましくは80RH%以下である。この範囲より上回ると結露して塗布膜の配向性を乱す可能性があり、下回ると乾燥制御ができず品質が低下する可能性がある。なお、RHとはRelative Humidityの略であり、RH%とは相対湿度のことである。
【0051】
また、塗膜の乾燥時の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは0℃以上、更に好ましくは5℃以上、また、好ましくは150℃以下、更に好ましくは120℃以下である。この範囲より上回ると液晶性を失う可能性があり、下回ると乾燥時間がかかりすぎて生産性が低くなる傾向がある。
また、乾燥時の相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは10%RH以上、更に好ましくは20RH%、また、好ましくは90%RH以下、更に好ましくは80RH%以下である。この範囲より上回ると結露して塗布膜の配向性を乱す可能性があり、下回ると乾燥制御ができず品質が低下する可能性がある。
【0052】
湿式成膜法で基材上に異方性膜を形成する場合、異方性膜の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常乾燥後の膜厚で、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。この範囲より上回ると透過率が低下する可能性があり、下回ると塗布筋などの品質が低下する可能性がある。
【0053】
[2.オーバーコート膜]
本発明のオーバーコート膜は、異方性膜上に形成される。なお、異方性膜とオーバーコート膜とは、少なくとも一部、好ましくは全面において、直接接する様に構成される。
本発明のオーバーコート膜は、親水性化合物および/または疎水性化合物が重合してなる膜であれば他に制限はない。例えば、親水性化合物と疎水性化合物とが重合していてもよいし、親水性化合物のみが重合していてもよい。さらに、本発明の効果を著しく損なわない限り、他の任意の物質を混合することができる。また、重合の形態も制限はない。
【0054】
<2−1.オーバーコート膜用組成物>
本発明のオーバーコート膜用組成物は、以下に説明するオーバーコート膜用の親水性化合物を1種以上と、以下に説明するオーバーコート膜用の疎水性化合物を1種以上とを含有する。また、必要に応じて、溶剤、その他の成分を含有しても良い。ただし、オーバーコート膜用組成物によって、オーバーコート膜用組成物を塗布される膜が、溶解又は溶出しないことが好ましい。
また、親水性化合物、及び疎水性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよいが、少なくとも親水性化合物はモノマーであることが好ましい。親水性化合物が異方性膜に浸透し、異方性膜内部に残留していた異方性膜用組成物の溶剤と置き換わり、異方性膜を硬化させるためである。
【0055】
(2−1−1.親水性化合物)
本発明でいう親水性化合物とは、水に対して常温常圧下(25℃、1気圧)で0.5重量%以上の溶解性を有する重合性化合物である。例えば、水酸基、エーテル基、アミド基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基から成る親水性基群のうち1つ以上を有する化合物は、通常は親水性化合物として用いることができる。
【0056】
親水性化合物の具体例としては、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ポリオキシエチレンアクリレート、ポリオキシエチレンメタクリレート、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アクリロイルモルフォリン、ビニルホルムアミド、糖変性アクリレート、糖変性メタクリレート、等のノニオン性モノマー;ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、アリルアミン、等の塩基性モノマー;スチレンスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、等の酸性モノマー;等が挙げられる。
【0057】
その中でも好ましい化合物としては、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、等のノニオン性モノマー;ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、アリルアミン、等の塩基性モノマー;が挙げられる。特に好ましくはジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、等の塩基性モノマーが挙げられる。
【0058】
また、親水性化合物の分子量としては、通常20以上、好ましくは30以上、更に好ましくは40以上、また、通常500以下、好ましくは300以下、更に好ましくは200以下である。分子量が大きすぎると異方性膜中に浸透しにくくなる傾向がある。また、分子量が小さすぎると沸点が常温以下になる傾向がある。
【0059】
また、親水性化合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0060】
(2−1−2.疎水性化合物)
本発明でいう疎水性化合物とは、水に対して常温常圧下で0.5重量%未満の溶解性を有する化合物である。例えば、前記親水性化合物の説明で例示した官能基を有さない化合物をいう。疎水性化合物は、オーバーコート膜用組成物において溶剤として機能してもよいし、上述の親水性化合物と互いに重合してオーバーコート膜を形成してもよい。
【0061】
疎水性化合物の具体例としては、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキレンジオールアクリレート、アルキレンジオールメタクリレート、脂肪族エポキシアクリレート、脂肪族エポキシメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロアルキルアクリレート、シクロアルキルメタクリレート、アルコキシフェニルアクリレート、アルコキシフェニルメタクリレート、グリシジルアルキルアクリレート、グリシジルアルキルメタクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ジアルキレングリコールジアクリレート、ジアルキレングリコールジメタクリレート、グリセロールトリアクリレート、グリセロールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、イミドアクリレート、ジアリルフタレート、等のアクリル系モノマー;アクリロイロキシアルキルアクリレート、メタクリロイロキシアルキルメタクリレート、等の多官能アクリル系モノマー;アルキルビニルエーテル、等のビニル系モノマー;ジビニルベンゼン、等の多官能ビニル系モノマー;アクリロイロキシアルキルイソシアネート、メタクリロイロキシアルキルイソシアネート、等のイソシアネート系モノマー;アルカン、等の脂肪族化合物;ベンゼン、アルキル置換ベンゼン、等の芳香族化合物;等が挙げられる。
【0062】
その中でも好ましい化合物としては、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、等のアクリル系モノマー、アクリロイロキシアルキルアクリレート、メタクリロイロキシアルキルメタクリレート、等の多官能アクリル系モノマーが挙げられる。
【0063】
また、疎水性化合物の分子量としては、通常50以上、好ましくは60以上、更に好ましくは70以上、また、通常500以下、好ましくは300以下、更に好ましくは200以下である。分子量が大きすぎると異方性膜中に浸透しにくくなる傾向がある。また、分子量が小さすぎると沸点が常温以下となる可能性がある。
【0064】
また、疎水性化合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0065】
(2−1−3.その他の成分)
本発明のオーバーコート膜用組成物には、上記の親水性化合物、疎水性化合物の他に、他の材料を含有していてもよい。具体的には、重合開始剤、増感剤、重合促進剤、連鎖移動剤、溶剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、粘度調整剤、等を含有してもよい。
【0066】
(2−1−3−1.重合開始剤)
重合を速やかに開始させるため、重合開始剤を含有しても良い。重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、ラジカル重合開始剤が挙げられる。中でも光重合開始剤が好ましい。異方性膜の配向状態を損ねずに硬化できるためである。
【0067】
光重合開始剤としては、例えば「光反応応用技術・材料辞典」(産業技術サービスセンター発行、2006)に記載されている光開始剤のうち、オーバーコート膜用組成物に溶解するものを選択することができる。具体例としては、アセトフェノン系光重合開始剤等が挙げられる。重合開始剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0068】
(2−1−3−2.溶剤)
オーバーコート膜の厚みを所望のものとするため、適切な溶剤を用いてオーバーコート膜用組成物を希釈してもよい。その様な溶剤としては、例えば、Johan Bieleman Ed., ”Additives for Coatings”, Wiley−VCH, (2000)に記載されている溶剤から選択することができる。具体的には、アルカン等の脂肪族化合物;ベンゼン、アルキル置換ベンゼン、等の芳香族化合物;等が挙げられる。
【0069】
ただし、オーバーコート膜用組成物の溶剤によって、オーバーコート膜用組成物を塗布される膜が、溶解又は溶出しないことが好ましい。
これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、上述の疎水性化合物が溶剤として機能してもよい。
【0070】
(2−1−3−3.界面活性剤)
オーバーコート膜用組成物を塗布する際の、濡れ性を改善するために、界面活性剤を含有させてもよい。その様な界面活性剤としては、例えば、Johan Bieleman Ed., ”Additives for Coatings”, Wiley−VCH, (2000)に記載されている界面活性剤から選択することができる。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0071】
(2−1−3−4.増感剤)
塗布したオーバーコート膜用組成物に、後述する光硬化法を用いて硬化(重合)させる場合、オーバーコート膜用組成物に増感剤を含有することも望ましい。増感剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0072】
(2−1−4.オーバーコート膜用組成物の各成分の割合)
オーバーコート膜用組成物に対する、親水性化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは94重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。この範囲より上回ると異方性膜を溶解させたり、配向を乱したりする可能性がある。また、下回ると異方性膜に浸透せず、異方性膜の耐熱性、耐プロセス性を改善できない可能性がある。
【0073】
オーバーコート膜用組成物に対する、疎水性化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは10重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは94重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。この範囲より上回ると異方性膜の耐熱性、耐プロセス性を改善できない可能性があり、下回ると異方性膜を溶解させたり、配向を乱したりする可能性がある。
【0074】
オーバーコート膜用組成物中の、親水性化合物と疎水性化合物との重量比は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、親水性化合物と疎水性化合物との合計に対する親水性化合物の割合で表わすと、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。
【0075】
オーバーコート膜用組成物の親水性化合物及び疎水性化合物の総含有量に対する、重合開始剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは7重量%以下、更に好ましくは6重量%以下である。この範囲より上回ると、分子量が低くなりがちでオーバーコート膜が脆くなる可能性があり、下回ると重合反応が不十分となる可能性がある。
【0076】
オーバーコート膜用組成物に対する、界面活性剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、更に好ましくは0.3重量%以上、また、通常5重量%以下、好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。この範囲より上回ると透明性を損なう可能性があり、下回ると界面活性剤が十分作用しない可能性がある。
【0077】
<2−2.オーバーコート膜の製法>
オーバーコート膜の製法としては、オーバーコート膜の材料が含有された組成物を膜状に形成できれば、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。具体的には、湿式成膜法、熱溶融成膜法、熱融着法、等が挙げられる。しかし、異方性膜に残留する異方性膜用組成物の溶剤除去と異方性膜自体を硬化させる観点から、湿式成膜法が好ましい。従って、以下、湿式成膜法を中心に説明する。
【0078】
(2−2−1.湿式成膜法)
オーバーコート膜を形成する際の湿式成膜法は、異方性膜の形成に用いることができる湿式成膜法として例示された方法と、同様の方法によって形成することができる。
ただし、オーバーコート膜は、すでにガラス板などの各種基材上に塗布形成された他の膜の上に形成するため、オーバーコート膜の形成に際して、他の膜を機械的、化学的に侵襲しないことが好ましい。
【0079】
(2−2−2.湿式成膜法によるオーバーコート膜の製造)
湿式成膜法によるオーバーコート膜の製造方法は、本発明の効果を著しく制限しない限り任意である。通常は、オーバーコート膜の材料が含有された組成物を塗布する塗布工程(湿式成膜法を行なう工程)の他に、さらに塗布形成した膜を硬化する硬化工程や、必要によりその他の工程を有する方法によって製造する。
例えば、本発明のオーバーコート膜用組成物を、湿式成膜法により異方性膜上に成膜して、オーバーコート膜を形成することができる。このとき、親水性化合物と疎水性化合物とが重合することで成膜してもよいし、疎水性化合物が溶媒として機能する場合には、親水性化合物が重合することで成膜してもよい。以下、その一例を具体的に説明する。
【0080】
(2−2−2−1.塗布工程)
オーバーコート膜用組成物の塗布時の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは0℃以上、更に好ましくは10℃以上、また、好ましくは80℃以下、更に好ましくは50℃以下である。この範囲だと作業性が良好なためである。
塗布時の相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは10%RH以上、更に好ましくは30RH%以上、また、好ましくは80%RH以下、更に好ましくは70RH%以下である。この範囲だと作業性が良好なためである。
【0081】
また、塗膜の乾燥時の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは0℃以上、更に好ましくは20℃以上、また、好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下である。この範囲より上回ると異方性膜の配向性が低下する可能性があり、下回ると乾燥時間が長くて量産性が低下する可能性がある。
乾燥時の相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは10%RH以上、更に好ましくは30RH%、また、好ましくは80%RH以下、更に好ましくは70RH%以下である。この範囲より上回ると乾燥時間が長くて量産性が低下する可能性があり、下回ると異方性膜の配向性が低下する可能性がある。
【0082】
湿式成膜法でオーバーコート膜を形成する場合、オーバーコート膜の通常乾燥後の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。この範囲より上回ると透過性を損なう可能性があり、下回ると強度が不十分という可能性がある。
【0083】
(2−2−2−2.硬化工程)
塗布工程で形成されたオーバーコート膜は、さらに硬化(重合)させる工程を有していてもよい。
硬化(重合)させる方法の具体例としては、Johan Bieleman Ed., ”Additives for Coatings”, Wiley−VCH, (2000)に記載されている方法が挙げられる。より具体的には、熱硬化法、光硬化法、等が挙げられる。これらの方法のうちでも光硬化法が好ましい。異方性膜の配向性が低下しないためである。
以下、光硬化法について説明する。
【0084】
光硬化法で用いる光としては、重合反応を開始できれば制限はない。オーバーコート膜用組成物に重合開始剤が含有されている場合には、該重合開始剤が、光に作用して該重合反応を開始させる化学種を発生させる光であればよい。その様な光の例として、紫外線、可視光線、赤外線、ガンマ線、エックス線等の電磁波が挙げられる。
【0085】
なお、照射光の波長、照射時間、照射強度等は、オーバーコート膜用組成物の種類によってその値を適宜選択可能である。
【0086】
(2−2−2−3.その他の工程)
オーバーコート膜用組成物中に高沸点の溶剤を含む場合は、オーバーコート膜用組成物を光硬化させた後に、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは120℃以下の範囲で加熱乾燥してもよい。
【0087】
<2−3.オーバーコート膜の物性>
本発明のオーバーコート膜は、通常、溶剤等に不溶不融の性質を示し、厚膜化した場合であっても光学部材の用途に有利な性質を備え、密着性、表面硬化度に優れていることが好ましい。具体的には、低い光学歪み性(低複屈折性)、高い光線透過率、機械的強度、寸法安定性、高密着性、高表面硬度、及び一定以上の耐熱・耐湿変形性を示すことが好ましい。また、硬化収縮が小さいほど好ましい。
【0088】
本発明のオーバーコート膜の膜厚は、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。この範囲より上回ると透過性を損なう可能性があり、下回ると強度が不十分という可能性がある。
【0089】
[3.本発明のオーバーコート膜を備える光学素子]
本発明で用いられる異方性膜は、光吸収の異方性を利用し、直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能するほか、膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により、位相差性、屈折率異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に適用可能な光学素子とすることができる。
【0090】
本発明の光学素子は、上記の様な異方性膜やオーバーコート膜の他、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0091】
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することが出来る。
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特許第2841377号公報、特許第3094113号公報などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号公報などに記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
【0092】
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開2002−169025号公報や特開2003−29030号公報に記載されるような方法で微細孔を形成することあるいは、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0093】
反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。
【0094】
拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
【0095】
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物などの液晶性化合物を塗布して配向させることにより形成することができる。
【0096】
本発明の光学素子は、液晶ディスプレーや有機ELディスプレーだけでなく液晶プロジェクタや車載用表示パネル等、高耐熱性が求められる用途に好適に使用することができる。
【0097】
[4.本発明の利点と本発明の効果が得られるメカニズム]
本発明のオーバーコート膜用組成物が、親水性化合物と疎水性化合物との両方を含んでいることによって、下層が湿式成膜法で形成された異方性膜であっても、耐熱性、対プロセス性、耐久性に優れた光学素子を提供できる。しかし、なぜその様な効果が得られるかは、明らかになっていない。このことについて発明者は以下のように推測する。
【0098】
異方性膜中に残存する溶剤や水分は、示差熱・熱重量同時測定装置を用いて、異方性膜用化合物の熱分解温度より低い温度、例えば、200℃や250℃における減少重量として測定される。異方性膜用化合物は、溶剤への溶解性を付与する官能基を有しているため、成膜後も溶剤や水分が残りやすく、化合物によって異なるものの常温常圧下の膜中に大よそ5%から20%程度の溶剤及び水分を有している。
【0099】
オーバーコート膜用組成物中に親水性化合物と疎水性化合物とを含有していると、異方性膜上に塗布したとき、速やかにオーバーコート膜用組成物が異方性膜中に浸透し、膜中の溶剤や水分と置き換えが起こる。その後、熱や重合開始剤により親水性化合物および/または疎水性化合物が重合することで、耐久性を付与することができる。一般的に、湿式成膜法により形成される異方性膜用化合物は極性が強いため、親水性化合物に溶解しやすく、一方、疎水性化合物は浸透しない。オーバーコート膜用組成物中に親水性化合物と疎水性化合物との両方を含有することで、異方性膜を溶解せずに浸透し、膜内部から硬化させることができるようになると考えられる。
【0100】
即ち、本発明により、温湿度などの外部環境変化に対し、光学性能が変動しない、高耐久性の光学素子が得られる。また、該光学素子は、熱処理、減圧処理のような後プロセスにより、光学性能の低下や膜の欠陥を生じない、高い耐プロセス性を有する。さらに、もともとの異方性膜が脆性であっても、モノマーが含浸されたのち硬化するため、膜の強度が向上し、光学素子の変形による膜の破壊が起き難くなる。
【0101】
なお、本発明でいう耐熱性、耐プロセス性、耐久性とは、加熱処理後の光学特性保持性のことである。耐熱性は、公知の光学素子に比べて熱に対する耐性を有していればよいが、通常150℃以上、好ましくは200℃以上の熱に対して耐性を有することが望ましい。なお、耐熱性、耐プロセス性の測定方法としては、光学素子を大気中200℃で1時間加熱し、室温にて自然冷却後、光学特性の変化量が元の光学性能の5%以内に納まっているかで判断する。
【実施例】
【0102】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。なお、以下の記載中「部」は、特にことわらない限り重量部を表わす。
【0103】
[測定方法]
(1)透過率、(2)欠陥、亀裂について、以下のように評価した。
【0104】
(1)透過率
大塚電子製RETS−100を用いて、透過率の測定を行なった。測定は、波長400nm〜700nmで行なった。透過率は、ガラス製基板(厚さ1mm)を通過する光の量を基準に示した。
【0105】
(2)欠陥及び亀裂
偏光顕微鏡Nikon Optiphot−POLを用い、100倍の対物レンズ及び10倍の接眼レンズを用いて消光位にて観察した。
【0106】
[実施例]
(実施例1)
水を78.94部に、脱塩精製した下記式(1)で表わされる異方性材料のリチウム塩を15部と、脱塩精製した下記式(1)で表わされる異方性材料のリチウム80mol%中和塩を5部と、脱塩精製したアルドリッチ製アリザリンレッドSを1部と、塩化リチウムを0.06部とを撹拌溶解後、濾過して異方性膜用組成物を得た。
【化15】

【0107】
表面にシルク印刷法によるポリイミドの配向膜(膜厚約800Å)を形成し、そこに布でラビング処理を施した、ガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1mm)を用意した。これに上記異方性膜用組成物を、ギャップ5μmのアプリケータ(井元製作所社製四面アプリケータ)で塗布した後、自然乾燥して異方性膜を得た。
得られた異方性膜に、欠陥及び亀裂は観察されず、透過率は41%であった。
【0108】
親水性化合物として2−ビニルピリジンを35重量部と、疎水性化合物としてメチルメタクリレートを60重量部と、重合開始剤としてアセトフェノンを5重量部とを攪拌混合した後、濾過してオーバーコート膜用組成物を得た。上述の異方性膜上に、スピンコータを用いてオーバーコート膜用組成物を塗布した。スピンコータの回転数は3000rpm、回転時間は20秒で行なった。
【0109】
塗布されたオーバーコート膜用組成物に、超高圧水銀灯を10mW/cm2の強度で120秒照射し、オーバーコート膜を硬化させた。
得られた異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に、欠陥及び亀裂は観察されず、透過率は41%であった。従って、上述の異方性膜だけを塗布した場合と比較して、透過率の変化はなかった。
【0110】
作製した上記異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に対して、加熱処理を行なった。加熱処理としては、200℃に加熱したオーブンに1時間入れた後、取り出して常温まで自然冷却した。
加熱処理を行なった異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に、欠陥及び亀裂は観察されず、透過率は40%であった。従って、加熱処理を行なう前後で透過率の大きな変化はなかった。
【0111】
(実施例2)
親水性化合物として1−ビニル−2−ピロリドンを35重量部と、疎水性化合物としてヘキシルメタクリレートを60重量部と、重合開始剤としてアセトフェノンを5重量部とを攪拌混合した後、濾過してオーバーコート膜用組成物を得た。該オーバーコート膜用組成物を用いて、実施例1と同様にして得られた透過率41%の異方性膜上に、実施例1と同様の方法でオーバーコート膜を作製した。
得られた異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に、欠陥及び亀裂は観察されず、透過率は41%であった。従って、実施例1の異方性膜だけを塗布した場合と比較して、透過率の変化はなかった。
【0112】
作製した上記異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に対して、実施例1と同様にして加熱処理を行なった。
加熱処理を行なった異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に、欠陥及び亀裂は観察されず、透過率は40%であった。従って、加熱処理を行なう前後で透過率の大きな変化はなかった。
【0113】
(実施例3)
親水性化合物としてヒドロキシエチルメタクリレートを35重量部と、疎水性化合物としてシクロヘキシルメタクリレートを60重量部と、重合開始剤としてアセトフェノンを5重量部とを攪拌混合した後、濾過してオーバーコート膜用組成物を得た。該オーバーコート膜用組成物を用いて、実施例1と同様にして得られた透過率41%の異方性膜上に、実施例1と同様の方法でオーバーコート膜を作製した。
得られた異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に、欠陥及び亀裂は観察されず、透過率は41%であった。従って、実施例1の異方性膜だけを塗布した場合と比較して、透過率の変化はなかった。
【0114】
作製した上記異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に対して、実施例1と同様にして加熱処理を行なった。
加熱処理を行なった異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に、欠陥及び亀裂は観察されず、透過率は40%であった。従って、加熱処理を行なう前後で透過率の大きな変化はなかった。
【0115】
[比較例]
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた透過率41%の異方性膜上に、オーバーコート膜を形成せずに、実施例1と同様にして加熱処理を行なった。
異方性膜に欠陥及び亀裂は観察されなかったが、透過率は38%まで低下した。従って、透過率は実施例1、2、3より大きく低下した。
【0116】
(比較例2)
疎水性化合物としてメチルメタクリレートを95重量部と、重合開始剤としてアセトフェノンを5重量部とを攪拌混合した後、濾過して、親水性化合物を含まないオーバーコート膜用組成物を得た。該オーバーコート膜用組成物を用いて、実施例1と同様にして得られた透過率41%の異方性膜上に、実施例1と同様の方法でオーバーコート膜を作製した。
得られた異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に、亀裂が観察された。亀裂が観測されたため、透過率の測定は行わなかった。
【0117】
(比較例3)
親水性化合物として2−ビニルピリジンを95重量部と、重合開始剤としてアセトフェノン5重量部を攪拌混合した後、濾過して、疎水性化合物を含まないオーバーコート膜用組成物を得た。該オーバーコート膜用組成物を用いて、実施例1と同様にして得られた透過率41%の異方性膜上に、実施例1と同様の方法でオーバーコート膜を作製した。
得られた異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子は、異方性膜が一部溶解しており、溶解していない部分にはネマティック液晶で見られるシュリーレン状の欠陥が観察された。欠陥が観測されたため、透過率の測定は行わなかった。
【0118】
[考察]
上記実施例1〜3及び比較例1〜3の結果から、オーバーコート膜を形成する組成物中に親水性化合物と疎水性化合物の両方を含有することで、高耐久性の光学素子を得られることが分かった。
【0119】
また、実施例1において、異方性膜とオーバーコート膜とを備える光学素子に対して、200℃で1時間加熱しても品質に影響が無く、高い耐熱性を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は産業上の任意の分野において用いることができるが、特に、本発明は、偏光膜、位相差膜等の異方性膜上に形成されるオーバーコート膜用の組成物、及びそのオーバーコート膜、更には、それらを備える光学素子に最適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性膜上に形成されるオーバーコート膜用の組成物であって、親水性化合物および疎水性化合物を含有する
ことを特徴とする、オーバーコート膜用組成物。
【請求項2】
親水性化合物が、水酸基、エーテル基、アミド基、カルボキシ基、スルホ基、及び、アミノ基、からなる親水性基群のうち、1つ以上を有するモノマー化合物である
ことを特徴とする、請求項1記載のオーバーコート膜用組成物。
【請求項3】
異方性膜上に形成されるオーバーコート膜であって、請求項1又は請求項2に記載のオーバーコート膜用組成物を湿式成膜法により、異方性膜上に成膜してなる
ことを特徴とする、オーバーコート膜。
【請求項4】
異方性膜上に形成されるオーバーコート膜であって、親水性化合物および疎水性化合物が重合してなる膜である
ことを特徴とする、オーバーコート膜。
【請求項5】
異方性膜および請求項3又は請求項4に記載のオーバーコート膜を有する
ことを特徴とする、光学素子。
【請求項6】
該異方性膜が、異方性材料及び溶剤を含有する組成物を湿式成膜法により成膜して形成された膜である
ことを特徴とする、請求項5に記載の光学素子。

【公開番号】特開2008−179702(P2008−179702A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14286(P2007−14286)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】