説明

オーバーピン径計測装置

【課題】オーバーピン径の計測を自動化するとともに、計測誤差を抑制し、装置の信頼性を向上させることができるオーバーピン径計測装置を提供する。
【解決手段】ワークWの外周面に形成されたスプラインの相対する歯溝に対するオーバーピン径を計測するオーバーピン径計測装置において、先端に測定プローブ7a、7bが固定されたアーム部材8a8bと、測定プローブ7a、7bに取り付けられて支持され、ワークWのスプラインの相対する歯溝に挿通して当接可能とされるとともに、その当接時に歯溝の幅方向に対する動作が許容される当接部20aとを具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の外周面に形成された歯又はスプラインの相対する歯溝に対するオーバーピン径を計測するオーバーピン径計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外周面にスプラインが形成された被測定物における相対する歯溝間寸法は、通常、オーバーピン径を計測することにより検査されている。かかるオーバーピン径は、スプラインの相対する歯溝に作業者がピン又はボールを挿通して当接させ、そのピン又はボールの外側寸法を計測することにより得られるものである。然るに、計測されたオーバーピン径が許容寸法範囲内に収まっているか否かを判定すれば、被測定物のスプラインが設計通りとなっているか否かを検査することができる。尚、かかる先行技術は、文献公知発明に係るものでないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術においては、作業者が手作業にてピン又はボール(以下、当接部という)を相対する歯溝にそれぞれ挿通して当接させ、オーバーピン径を計測するものであるため、手間がかかることから、これを自動化するニーズが高まっている。しかしながら、オーバーピン径を自動計測する場合、隣接するスプラインの歯面に対して当接部が必ずしも当接せず、計測値に誤差が生じてしまう虞があった。
【0004】
すなわち、従来においては、作業者が当接部を歯溝に挿通する際、当該当接部が隣接するスプラインの歯面にそれぞれ当接するよう被測定物及び当接部を微妙に動作させ、計測誤差を回避していたのであるが、自動化した際には当該微妙な動作が極めて困難となるため、計測値に誤差が生じてしまい、装置の信頼性が低下してしまうという問題が生じてしまうのである。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、オーバーピン径の計測を自動化するとともに、計測誤差を抑制し、装置の信頼性を向上させることができるオーバーピン径計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、被測定物の外周面に形成された歯又はスプラインの相対する歯溝に対するオーバーピン径を計測するオーバーピン径計測装置において、先端に測定プローブが固定されたアーム部材と、前記測定プローブに取り付けられて支持され、前記被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に挿通して当接可能とされるとともに、その当接時に歯溝の幅方向に対する動作が許容される当接部とを具備したことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のオーバーピン径計測装置において、所定の弾性部材を介して前記アーム部材を押圧することにより当該アーム部材を摺動させ、前記当接部を被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に当接させ得る押圧手段と、前記押圧手段とアーム部材とに亘って挿嵌して支持され、被測定物と対向する部位に前記当接部が形成されたフレームとを具備したことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のオーバーピン径計測装置において、前記押圧手段には、前記フレームを所定位置に保持する凹部が形成されたことを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項2又は請求項3記載のオーバーピン径計測装置において、前記押圧手段のアーム部材に対する接近を検知する検知手段を具備するとともに、当該検知手段による検知に基づき、前記押圧手段による押圧動作を停止させることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1つに記載のオーバーピン径計測装置において、前記当接部を被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に当接させつつ当該被測定物を回転させ、当該歯溝間に対するオーバーピン径のピーク値を計測し得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、当接部が歯溝に対する当接時に当該歯溝の幅方向に対する動作が許容されるので、当接部は歯溝に倣って微妙に動作されることとなり、隣接する歯面にそれぞれ当接してオーバーピン径計測時の規定の状態となる。従って、オーバーピン径の計測を自動化するとともに、計測誤差を抑制し、装置の信頼性を向上させることができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、押圧手段とアーム部材とに亘って挿嵌して支持されたフレームにおける被測定物と対向する部位に当接部が形成されているので、当接部が歯溝に当接し、押圧手段が弾性部材を圧縮しつつアーム部材に接近すると、フレームの挿嵌による支持が解かれる。従って、当接部が歯溝の幅方向に対する動作が許容されるので、歯溝に倣って微妙に動作され、オーバーピン径計測時の規定の状態とすることができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、押圧手段には、フレームを所定位置に保持する凹部が形成されているので、オーバーピン径の計測終了後、当接部が歯溝から離間する際、フレームを元の位置にて挿嵌させることができる。従って、歯溝に対する当接時に当接部が動作した後も当該当接部を初期位置とすることができ、次のオーバーピン径計測をスムーズに行わせることができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、押圧手段のアーム部材に対する接近を検知する検知手段を具備するとともに、当該検知手段による検知に基づき、押圧手段による押圧動作を停止させるので、当接部が歯溝に当接した時点を正確に把握して押圧手段による押圧を即座に停止させることができる。
【0015】
請求項5の発明によれば、当接部を被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に当接させつつ当該被測定物を回転させ、当該歯溝間に対するオーバーピン径のピーク値を計測し得るので、被測定物の周方向に亘って奇数の歯が形成されたもの(相対する歯溝を結ぶ直線が被測定物の中心を通らないもの)にも対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係るオーバーピン径計測装置は、被測定物の外周面に形成されたスプラインの相対する歯溝に対するオーバーピン径を計測するためのもので、図1及び図2に示すように、台部1と、本体部6と、台部1上に配設された下面固定部2と、本体部6に対して上下動可能に配設された可動部3と、該可動部3に配設された上面固定部4と、計測部5とから主に構成されている。
【0017】
下面固定部2及び上面固定部4には、被測定物としてのワークWの下面及び上面に当接し得る突起部2a、4aがそれぞれ形成されている。そして、下面固定部2の突起部2aにワークWを載置させた状態で可動部3を下降させることにより、上面固定部4の突起部4aをワークWの上面に当接させ、当該ワークWを上下から挟持して固定し得るよう構成されている。
【0018】
また、突起部2a及び4aは、下面固定部2及び上面固定部4に対して回転自在とされており、図示しない駆動源を駆動させることにより、ワークWを挟持しつつ軸周りに回転させ得るよう構成されている。ここで、ワークWの所定部位には、その外周面における周方向に亘ってスプラインが形成されており、当該スプラインが形成された部位と略同一高さに計測部5が位置するよう構成されている。
【0019】
計測部5は、上述の如く固定されたワークWのスプラインにおけるオーバーピン径を計測するための部位で、図3及び図4に示すように、左右一対のアーム部材8a、8bと、上下一対のスライド軸部材9a、9bと、軸受10a〜10dと、押圧手段11a、11bと、弾性部材としてのコイルスプリング12と、モータMにて回転可能なボールネジ13と、一対のリニアゲージS1、S2(図1参照)と、当接部20aが形成されたフレーム20とから主に構成されている。
【0020】
アーム部材8a、8bは、先端に測定プローブ7a、7bがそれぞれ固定されつつ図中左右方向へ直線的に摺動して互いに近接又は離間し得るもので、左側のアーム部材8a(以下、左側アーム部材8aと呼ぶ)の内側面にはリニアゲージS2の作動子S2a先端が当接するとともに、右側のアーム部材8b(以下、右側アーム部材8bと呼ぶ)の内側面にはリニアゲージS1の作動子S1a先端が当接するよう構成されている。しかして、リニアゲージS1及びS2の測定値に基づき、測定プローブ7a、7bの離間寸法を検出し得るようになっている。
【0021】
また、左側アーム部材8aの基端側は、下側のスライド軸部材9b(以下、第2スライド軸部材9bと呼ぶ)に対して固定部材17を介して固定されるとともに、上側のスライド軸部材9a(以下、第1スライド軸部材9aと呼ぶ)に対して支持部材15を介し摺動自在に連結されている。一方、右側アーム部材8bの基端側は、第1スライド軸部材9aに対して固定部材14を介して固定されるとともに、第2スライド軸部材9bに対して支持部材16を介し摺動自在に連結されている。
【0022】
これら第1スライド軸部材9a及び第2スライド軸部材9bは、軸心が測定プローブ7a、7bの摺動方向(図中、左右方向)に延びた長尺状部材から成り、両端部が軸受10a、10b及び10c、10dにて支持されるとともに、それぞれが左右方向に摺動自在とされている。即ち、軸受10a〜10dは、第1スライド軸部材9a及び第2スライド軸部材9bをその軸方向に摺動自在に支承し得るよう構成されており、これにより、第2スライド軸部材9bは、測定プローブ7aを有した左側アーム部材8aと一体化され、当該左側アーム部材8aと共に左右方向へ摺動可能とされるとともに、第1スライド軸部材9aは、測定プローブ7bを有した右側アーム部材8bと一体化され、当該右側アーム部材8bと共に左右方向へ摺動可能とされているのである。
【0023】
然るに、第2スライド軸部材9bが左側アーム部材8aと共に摺動しても、支持部材16がその摺動を許容しつつ右側アーム部材8bの基端側を支持する一方、第1スライド軸部材9aが右側アーム部材8bと共に摺動しても、支持部材15がその摺動を許容しつつ左側アーム部材8aの基端側を支持するよう構成されている。即ち、一方のアーム部材の基端側に固定されたスライド軸部材に他方のアーム部材の基端側が連結され、その連結部には当該スライド軸部材の摺動を許容しつつ他方のアーム部材を支持する支持部材が形成されているのである。
【0024】
押圧手段11a、11bは、コイルスプリング12、12を介して左側アーム部材8a及び右側アーム部材8bを押圧することにより、これら左側アーム部材8a及び右側アーム部材8bを第2スライド軸部材9b及び第1スライド軸部材9aと共に摺動させ、測定プローブ7a、7bを互いに近接させるためのものである。押圧手段11a、11bは、その基端がボールネジ13と連結され、モータMの回転駆動力が伝達されて左右に移動し得るようになっており、互いに近接する過程で左側アーム部材8a及び右側アーム部材8bを押圧して、これらも近接させ得るよう構成されている。
【0025】
コイルスプリング12は、押圧手段11a、11bからアーム部材8a、8bに亘って挿通されたボルトBの外周に配設されており、当該押圧手段11a、11bとアーム部材8a、8bとの間に介在したものである。かかるボルトBは、先端がアーム部材8a、8bに固定され、基端の頭部が押圧手段11a、11bに位置するよう配設されたもので、押圧手段11a、11bのアーム部材8a、8bに対する図3の状態からの更なる離間を規制する一方、近接は許容し、コイルスプリング12を介した押圧を可能としている。
【0026】
従って、左側押圧手段11a及び右側押圧手段11bが弾性部材としてのコイルスプリング12を介して左側アーム部材8a及び右側アーム部材8bを押圧することにより測定プローブ7a、7bを後述する当接部20aを介してワークWの側面に接触させ得るので、コイルスプリング12の弾力により当該当接部20aをワークWに対して極めてソフトに接触させることができ、幅広い測定レンジを維持しつつ当接部20aのワークWに対する接触圧を低減させることができる。
【0027】
ボールネジ13は、モータMの出力軸と連結され、当該モータMの駆動により回転されるものであり、左側の押圧手段11a(以下、左側押圧手段11aという)の基端及び右側の押圧手段11b(以下、右側押圧手段11bという)の基端と連結されているとともに、左側押圧手段11aとの連結部位と右側押圧手段11bとの連結部位とでは外周のネジが逆に形成されている。これにより、モータMを正転駆動させれば、左側押圧手段11aと右側押圧手段11bとが近接する方向に移動し、当該モータMを逆転駆動させれば、左側押圧手段11aと右側押圧手段11bとが離間する方向に移動することとなる。
【0028】
フレーム20は、押圧手段11a(又は11b)とアーム部材8a(又は8b)とに亘って挿嵌して取り付けられることにより支持され、ワークWと対向する部位(アーム部材8a、8bの対向する面側)に当接部20aが形成されたものである。かかるフレーム20は、図5に示すように、一対の側フレーム20cと、これら側フレーム20の両端を繋ぐピン状の当接部20a及び連結部20bとから構成されており、全体としてロ字状部材から成る。
【0029】
そして、フレーム20を押圧手段11a(又は11b)とアーム部材8a(又は8b)とに跨って挿通すれば、当接部20aが測定プローブ7a(又は7b)先端、連結部20bが押圧手段11a(又は11b)背面とそれぞれ接触し、コイルスプリング12の付勢力(復元力)にて挿嵌されることとなる。この状態(即ち、当接部20aがワークWに当接していない状態)では、当接部20aは測定プローブ7a(又は7b)に対して比較的強固に固定されている。
【0030】
然るに、図7及び図8に示すように、モータMの駆動により押圧手段11a、11b及びアーム部材8a、8bが互いに接近すると、当接部20aがワークWのスプラインにおける相対する歯溝にそれぞれ挿通して当接する(図9参照)こととなる。このとき、後述する検知手段にて検知がなされるまで押圧手段11a11bがコイルスプリング12を圧縮しつつアーム部材8a、8bに接近することとなるので、フレーム20の挿嵌による支持が解かれる。
【0031】
従って、当接部20aが歯溝の幅方向(図9中矢印方向)に対する動作が許容されるので、隣接する歯面の何れか一方に対して当接していなかった場合でも、歯溝に倣って微妙に動作され、オーバーピン径計測時の規定の状態(即ち、隣接する歯面のそれぞれに当接した状態)とすることができる。
【0032】
更に、アーム部材8a(及び8b)における連結部20bが接触する側(背面側)には、図6に示すように、凹部11aaが形成されており、かかる凹部11aaに当該連結部20bが嵌り込んだ状態にてフレーム20が取り付けられるようになっている。これにより、オーバーピン径の計測終了後、当接部20aが歯溝から離間する際、フレーム20を元の位置にて挿嵌させることができる。従って、歯溝に対する当接時に当接部20aが動作した後も当該当接部20aを初期位置とすることができ、次のオーバーピン径計測をスムーズに行わせることができる。
【0033】
一方、左側押圧手段11aには、フォトセンサ19が形成されるとともに、左側アーム部材8aから左側押圧手段11aに向かって延設部18が延設されている。これらフォトセンサ19と延設部18とは、本発明における検知手段を構成するもので、左側押圧手段11aが左側アーム部材8aに近接すると、フォトセンサ19による光の送受が遮られ、当該近接を検知し得るよう構成されている。
【0034】
具体的には、左側押圧手段11aがコイルスプリング12を介して左側アーム部材8aを押圧して摺動させる過程で、当接部20aがワークWの外周面に当接すると、左側アーム部材8aは静止して左側押圧手段11aがコイルスプリング12を圧縮つつ近接することとなるので、延設部18が図10の状態から図11の状態となり、発光素子19aから照射された光hを受光素子19bが受光しなくなる。
【0035】
かかる光hの遮断の検知信号をモータMの駆動制御部に送り、当該モータMを瞬時に停止させるのである。尚、同様の検知手段が右側押圧手段11b及び右側アーム部材8bに形成されており、当該右側押圧手段11bの右側アーム部材8bに対する近接を検知し得るようになっている。これにより、当接部20aがワークWに接触した時点を正確に把握して左側押圧手段11a、右側押圧手段11bによる押圧を即座に停止させることができるので、当該当接部20aのワークWに対するソフトな接触を維持させることができる。
【0036】
上記本実施形態によれば、当接部20aが歯溝に対する当接時に当該歯溝の幅方向に対する動作が許容されるので、当接部20aは歯溝に倣って微妙に動作されることとなり、隣接する歯面にそれぞれ当接してオーバーピン径計測時の規定の状態とすることができる。従って、オーバーピン径の計測を自動化するとともに、計測誤差を抑制し、装置の信頼性を向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態においては、図5に示すように、測定プローブ7a、7bのワークWとの接触位置から第1スライド軸部材9a及び第2スライド軸部材9bの軸心までの長さt1よりも、軸受10a、10b(10c及び10dも同様)の離間寸法t2の方が大きくなるよう設定されている。これにより、軸受10a〜10dにて支持された第1スライド軸部材9a及び第2スライド軸部材9bに生じてしまうガタの測定プローブ7a、7bに対する影響を極力小さくすることができ、当該測定プローブ7a、7bの撓み及びガタを減少させてヒステリシスを低減させ、繰り返し精度を向上させることができる。
【0038】
次に、上記オーバーピン径計測装置における作用について説明する。
まず、図3及び図4に示すように、測定プローブ7a、7b及びそれらに取り付けられた当接部20aを十分に離間させた状態にてワークWを突起部2a、4aで挟持して固定させておく。かかる状態でモータMを正転駆動させると、左側押圧手段11aが図中右方向へ、右側押圧手段11bが図中左方向へ移動するので、それぞれがコイルスプリング12を介して左側アーム部材8a、右側アーム部材8bを押圧することとなる。
【0039】
これら左側アーム部材8aは、左側押圧手段11aで押圧されることにより、第2スライド軸部材9bと共に右方向へ摺動するとともに、その基端が支持部材15にて右側アーム部材8bの摺動に伴う第1スライド軸部材9aの摺動を許容(第1スライド軸部材9aとは連動しない)しつつ支持される一方、右側アーム部材8bは、右側押圧手段11bで押圧されることにより、第1スライド軸部材9aと共に摺動するとともに、その基端が支持部材16にて左側部材8aの摺動に伴う第2スライド軸部材9bの摺動を許容(第2スライド軸部材9bとは連動しない)しつつ支持される。
【0040】
然るに、左側アーム部材8aの摺動と共にリニアゲージS2の作動子S2aが変位する一方、右側アーム部材8bの摺動と共にリニアゲージS1の作動子S1aが変位し、これらの変位を計測し得るようになっている。しかして、右側アーム部材8a及び左側アーム部材8bが押圧されて摺動し、互いに近接する過程において、図7及び図8で示すように、ワークWの両側面に当接部20aが接触すると、延設部18及びフォトセンサ19とから成る検知手段が検知し、モータMを停止させる。
【0041】
すなわち、ワークWに測定プローブ7a、7bに接触すると、左側アーム部材8a及び右側アーム部材8bが静止する一方、左側押圧手段11a及び右側押圧手段11bがコイルスプリング12を圧縮しつつ左側アーム部材8a及び右側アーム部材8bに接近し始め、図11に示すように、延設部18がフォトセンサ19における発光素子19aと受光素子19bとの間に介在することとなる。
【0042】
この延設部18による介在で、発光素子19aから照射された光hを受光素子19bが受光しなくなると、当接部20aワークWに接触したと把握できるので、その時点でモータMの駆動が停止され、左側押圧手段11a及び右側押圧手段11bによる押圧動作が停止することとなる。従って、当接部20aがワークWに接触したにも関わらず押圧手段11a、11bによる押圧が継続され、接触圧が過大となってしまうのを確実に回避することができる。
【0043】
当接部20aのワークWにおける歯溝への当接時、モータMの駆動が停止されるまでの僅かな時間の押圧手段11a、11bによる押圧により当該押圧手段11a、11bがアーム部材8a、8bに対して微少量接近するので、フレーム20の挿嵌による支持が解かれ、当接部20aが歯溝の幅方向に対する動作が許容される。しかして、当接部20aが隣接する歯面の何れか一方に対して当接していなかった場合でも、歯溝に倣って微妙に動作され、オーバーピン径計測時の規定の状態となる。
【0044】
こうしてモータMが停止した時点の左側アーム部材8aと右側アーム部材8bの変位をリニアゲージS1及びS2にて計測し、これに基づき各測定プローブ7a、7bのワークWの接触点間の寸法を把握すれば、ワークWにおけるスプラインのオーバーピン径を検出することができる。オーバーピン径を検出した後は、モータMを逆転駆動させ、押圧手段11a、11bを離間させると、ボルトBによりアーム部材8a、8bも離間し、初期位置まで戻って待機状態とされる。
【0045】
このとき、歯溝に対する当接時に当接部20aが動作した後も、凹部11aaの作用でフレーム20が元の位置に戻り、当該当接部20aを初期位置とすることができる。尚、押圧手段11a、11bが初期位置となったことを検知するセンサ(不図示)を別途設け、当該初期位置となった時点でモータMを停止させるよう構成するのが好ましい。これらにより、次のオーバーピン径計測をスムーズに行わせることができる。
【0046】
ところで、上記方法によりワークWにおけるスプラインの相対するオーバーピン径を測定することができるのであるが、ワークによってはその周方向に亘って奇数の歯が形成されたもの(相対する歯溝を結ぶ直線が被測定物の中心を通らないもの)もあり、その場合には、以下の如き方法にてオーバーピン径を計測するのが好ましい。
【0047】
即ち、当接部20aをワークWにおけるスプラインの相対する歯溝に当接させつつ当該ワークWを左右方向或いは一方向に回転させ、当該歯溝間に対するオーバーピン径のピーク値を計測する。かかるピーク値に基づきオーバーピン径を計測すれば、周方向に亘って奇数の歯が形成されたワークにも良好に対応させることができ、そのスプラインが設計通りとなっているか否かを検査することができる。尚、ワークWを一方向に回転させつつオーバーピン径のピーク値を計測するものにおいては、順次隣の歯溝に対して当該ピーク値を計測させることができ、検査スピードを向上させることができる。
【0048】
本実施形態によれば、当接部20aが形成されたフレーム20が測定プローブ7a、7b等とは別体とされているので、当該フレーム20を取り外して使用すれば、ワークWの外径を計測する外径寸法測定装置として用いることができる。当該外径寸法測定装置として用いる際にも、押圧手段11a、11bがコイルスプリング12を介してアーム部材8a、8bを押圧することにより測定プローブ7a、7bをワークWに接触させ得るとともに、スライド軸部材9a、9bの両端部を摺動自在としつつ支持する軸受10a〜10dが、測定プローブ7a、7bのワークWとの接触位置からスライド軸部材9a、9bの軸心までの長さt1より大きな離間寸法t2を有して配設されているので、幅広い測定レンジを維持しつつ測定プローブ7a、7bのワークWに対する接触圧を低減させることができると同時に、測定プローブ7a、7bの撓み及びガタを減少させてヒステリシスを低減させ、繰り返し精度を向上させることができる。
【0049】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば当接部は、測定プローブに取り付けられ、ワークのスプラインの相対する歯溝に当接する際に歯溝の幅方向に対する動作が許容されれば足り、本実施形態の如き押圧手段を具備しないものにも適用することができる。また、本実施形態においては、ワーク外周面に形成されたスプラインのオーバーピン径を測定しているが、ワークが歯車やリングギアから成り、その歯溝に対するオーバーピン径を計測するものとしてもよい。
【0050】
更に、本実施形態においては検知手段が延設部18及びフォトセンサ19とから成るが、これに代え、当接部20aがワークWに接触したことを検知し得る他の検知手段(接触式或いは非接触式であってもよい)としてもよい。また、押圧手段11a、11bは、モータM及びボールネジ13にて駆動されているが、他の汎用的な駆動機構を用いるようにしてもよい。
【0051】
また更に、本実施形態においては、コイルスプリングを介して押圧手段11a、11bがアーム部材8a、8bを押圧しているが、かかるコイルスプリングに代えて他の弾性部材(弾力に富んだゴムや樹脂等)としてもよい。尚、本実施形態いおいては、ワークWを床面に対して上下方向に固定して測定部5による測定を行っているが、当該ワークWを水平方向に固定するよう構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
測定プローブに取り付けられ、被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に挿通して当接可能とされるとともに、その当接時に歯溝の幅方向に対する動作が許容される当接部にてオーバーピン径を計測するオーバーピン径計測装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係るオーバーピン径計測装置の全体正面図
【図2】同オーバーピン径計測装置の左側面図であって一部破断した図
【図3】同オーバーピン径計測装置における計測部を示す上面図であって測定プローブ及び当接部が離間した状態を示す模式図
【図4】同計測部を示す正面図であって測定プローブ及び当接部が離間した状態を示す模式図
【図5】同測定部における当接部が形成されたフレームを示す正面図及び底面図
【図6】同フレームが測定プローブ及び押圧手段に挿嵌された状態を示す拡大模式図
【図7】同計測部を示す上面図であって当接部が被測定物の相対する歯溝にそれぞれ当接した状態を示す模式図
【図8】同計測部を示す正面図であって当接部が被測定物の相対する歯溝にぞれぞれ当接した状態を示す模式図
【図9】同計測部における当接部が被測定物の相対する歯溝にそれぞれ当接した状態を示す拡大模式図
【図10】同オーバーピン径計測装置における検知手段を示す図(図3におけるX部拡大図)であって押圧部材がアーム部材に対して接近していない状態を示す模式図
【図11】同オーバーピン径計測装置における検知手段を示す図(図7におけるXI部拡大図)であって押圧部材がアーム部材に対して接近した状態を示す模式図
【符号の説明】
【0054】
1 台部
2 下面固定部
3 可動部
4 上面固定部
5 計測部
6 本体部
7a、7b 測定プローブ
8a、8b アーム部材
9a、9b スライド軸部材
10a〜10d 軸受
11a、11b 押圧手段
11aa 凹部
12 コイルスプリング(弾性部材)
13 ボールネジ
14、17 固定部材
15、16 支持部材
18 延設部(検知手段)
19 フォトセンサ(検知手段)
20 フレーム
20a 当接部
S1、S2 リニアゲージ
M モータ
W ワーク(被測定物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の外周面に形成された歯又はスプラインの相対する歯溝に対するオーバーピン径を計測するオーバーピン径計測装置において、
先端に測定プローブが固定されたアーム部材と、
前記測定プローブに取り付けられて支持され、前記被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に挿通して当接可能とされるとともに、その当接時に歯溝の幅方向に対する動作が許容される当接部と、
を具備したことを特徴とするオーバーピン径計測装置。
【請求項2】
所定の弾性部材を介して前記アーム部材を押圧することにより当該アーム部材を摺動させ、前記当接部を被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に当接させ得る押圧手段と、
前記押圧手段とアーム部材とに亘って挿嵌して支持され、被測定物と対向する部位に前記当接部が形成されたフレームと、
を具備したことを特徴とする請求項1記載のオーバーピン径計測装置。
【請求項3】
前記押圧手段には、前記フレームを所定位置に保持する凹部が形成されたことを特徴とする請求項2記載のオーバーピン径計測装置。
【請求項4】
前記押圧手段のアーム部材に対する接近を検知する検知手段を具備するとともに、当該検知手段による検知に基づき、前記押圧手段による押圧動作を停止させることを特徴とする請求項2又は請求項3記載のオーバーピン径計測装置。
【請求項5】
前記当接部を被測定物の歯又はスプラインの相対する歯溝に当接させつつ当該被測定物を回転させ、当該歯溝間に対するオーバーピン径のピーク値を計測し得ることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに記載のオーバーピン径計測装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate