説明

オープンカーのフロントピラー構造

【課題】フロントピラーに作用する上下方向の荷重に対して中間屈曲部が変形せず、剛性の高いオープンカーのフロントピラー構造を実現すること。
【解決手段】アウタパネル1とインナパネル2とで閉断面をなし、車体側面に沿ってほぼ垂直に起立するピラー下部P1と、その上端から屈曲して後斜め上方へ後傾するピラー上部P2とを備え、上記閉断面内には、ピラー下部P1側からピラー中間屈曲部P3を経てピラー上部P2の上下中間位置まで、ピラーPの軸線方向に沿ってリィンフォースメント3が設置されたフロントピラー構造において、リィンフォースメント3の上端のカット面30を、その前端33の高さ位置が、後端34の位置とほぼ同一高さ位置ないしは若干低い位置となるようにほぼ水平方向に形成し、ピラー上端部に上方から作用する荷重S2,S3をカット面30の前端33と後端34との2点で受けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオープンカーのフロントピラー構造、特にピラーの上下中間に位置する屈曲部の剛性を強化したフロントピラー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、一般に、オープンカーのフロントピラーPは、車体側面のフェンダーパネルFの後縁に沿ってほぼ垂直に起立するピラー下部P1と、その上端から屈曲して後斜め上方へ後傾姿勢で立ち上がるピラー上部P2とでほぼく字状に形成されている。ところでオープンカーのフロントピラーPは、上端が固定のルーフに結合されずに自由端となっているので、ピラー上部P2は上方からの荷重に対して中間屈曲部P3から倒れやすい。万一、車両が転覆した場合を想定すると、地面からの反力でピラー上部P2が車室側へ倒れ込み、地面と車体間に必要な空間が確保できないおそれがある。そこでフロントピラーPは、中間屈曲部P3の剛性を強化することが行なわれている。
【0003】
図6、図7は従来のフロントピラーの一例を示すもので、フロントピラーPは、車外側のアウタパネル1と、車内側のインナパネル2とで閉断面構造をなす。そして閉断面内には、中間屈曲部P3を中心にピラー下部P1側からピラー上部P2の上下中間位置かけてピラー軸線方向に沿ってほぼく字状に金属厚板からなるリィンフォースメント3Aが設けられている。リィンフォースメント3Aの上端位置は、前席着座者の頭部よりも上方位置とすることが望ましい。リィンフォースメント3Aは前縁の結合フランジ31および後縁の結合フランジ32がそれぞれ、アウタパネル1とインナパネル2の前縁および後縁の結合部に一体に結合され、ピラー断面を車幅方向に仕切るように設置されている。リィンフォースメント3Aの上端はピラー上部P2の軸線方向に対してほぼ直交するカット面30を備えている。図6の4はインナパネル2の屈曲部内面に重ね合わせてこれを補強する補助板である。
【0004】
ところで従来のフロントピラー構造の車両において、万一、車両が転覆してフロントピラーPの上端が地面に衝突すると、ピラーの上端付近の非補強部P21が大きな衝突荷重Sで後方へ屈曲変形する。これにより衝突荷重Sの一部が吸収されるものの衝突荷重Sが大きいとリィンフォースメント3Aの上端にも荷重S1が作用する。この場合、荷重S1はリィンフォースメント3Aの上端位置、特にカット面30の最も高い位置にある前端33側に集中的に作用し、荷重集中位置とフロントピラーPの中間屈曲部P3の屈曲中心との距離がかなり長いので中間屈曲部P3には大きな曲げモーメントが作用して中間屈曲部P3が屈曲してピラー上部P2が後方へ倒れ込むおそれがある。
この対してリィンフォースメント3Aの板厚を厚くすることが考えられるが、重量およびコストが増加すると言った問題が生じる。
【0005】
また従来の他のフロントピラーの補強構造として、下記特許文献1に記載されたように、ピラー閉断面内に長手方向に沿ってパイプ状の補強部材を設けることが提案されている。特許文献1では固定ルーフのある車両のフロントピラーおよびルーフサイドレールにかけてパイプ状の補強部材で補強することが記載されているが、しかしながらフロントピラーの閉断面内にパイプ状の補強部材を設けるのは取付構造が複雑となり、作業工程および生産コストが増加する。
【特許文献1】特開2003−118635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、構造簡素で、作業工程およびコストの増加がなく、フロントピラーに作用する上方からの荷重に対して中間屈曲部が変形せず、剛性の高いオープンカーのフロントピラー構造を実現することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アウタパネルとインナパネルとで閉断面をなし、車体側面に沿ってほぼ垂直に起立するピラー下部と、ピラー下部の上端から屈曲して後斜め上方へ傾斜するピラー上部とで構成されたオープンカーのフロントピラーであって、上記閉断面内には、上記ピラー下部側からピラー中間屈曲部を経て上記ピラー上部の上下中間位置まで、ピラーの軸線方向に沿ってリィンフォースメントが設置されたフロントピラー構造において、上記リィンフォースメントとの上端を、水平ないしはそれよりも若干前下がりのカット面に形成する(請求項1)。
リィンフォースメントの上端のカット面をほぼ水平ないしは前下がりとしたから、上からの荷重をリィンフォースメントのカット面の前端側と後端側とに分散させつつ受けられピラーの中間屈曲部に作用する曲げモーメントを軽減することができ、もってピラーの中間屈曲部からの倒れ変形を効果的に防止することができる。
【0008】
上記カット面の前端と後端が水平方向に同一高さ位置に形成する(請求項2)。
上記カット面を前後方向にほぼV字状に形成する(請求項3)。
リィンフォースメントの上端のカット面の前端および後端の2点で確実に上記荷重を受けさせることができる。
【0009】
上記ピラー上部には、上記リィンフォースメントの上端の直上位置に、フロントピラーに上方から作用する荷重に対して曲げ変形する易変形部を設ける(請求項4)。
荷重によりピラー上端部を後方へ倒れ変形させて衝撃を吸収させ、リィンフォースメントのカット面の前端および後端に作用する荷重を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図5に示したオープンカーのフロントピラーに本発明を適用した実施形態を説明する。フロントピラー(以下、単にピラーという)Pは、車体の側面に沿ってほぼ垂直に起立するピラー下部P1と、その上端から屈曲して後斜め上方へ後傾するピラー上部P2とでほぼく字状に形成してある。図1ないし図3に示すように、ピラーPは、アウタパネル1とインナパネル2とで閉断面構造をなす。
【0011】
アウタパネル1は金属厚板からなる下部アウタパネル1aと、これとは別の金属薄板から上部アウタパネル1bとを中間屈曲部付近で上下に連結してある。ほぼ垂直起立状に延びる下部アウタパネル1aはその幅が広く形成してあり、その上端が後斜め上方へ向かい、かつ先端方向へ漸次幅が狭くしてある。下部アウタパネル1aの先端縁には上部アウタパネル1bの下端縁が衝き合わせて溶接してあり、上部アウタパネル1bは下部アウタパネル1aとの結合部よりも若干幅の狭い形状で、上方かつ後方へ傾斜状に延設してある。
アウタパネル1は全体に車内側へ向けて開口する断面ハット形に形成してあり、前縁および後縁にはそれぞれ結合フランジ11,12を備えている。
【0012】
インナパネル2は金属厚板からなる下部インナパネル2aと、金属薄板から上部インナパネル2bとが中間屈曲部付近で上下に連結してあり、中間屈曲部において下部インナパネル2aの上端と上部インナパネル2bとの下端とが重ね合わせて溶接してあり、アウタパネル1とほぼ同一の外形形状を有する。
インナパネル2は全体にアウタパネル1に対応して、車外側へ向けて開口する浅い断面ほぼハット形に形成してあり、前縁および後縁にそれぞれ結合フランジ21,22が設けてある。
【0013】
またインナパネル2には、下部インナパネル2aの上端と上部インナパネル2bの下端とを重ね合わせて結合した中間屈曲部の車外側の内面に沿って補助板4を重合結合して補強してある。
【0014】
アウタパネル1とインナパネル2は前縁の結合フランジ11,21どうし、および後縁の結合フランジ12,22どうしを重ね合わせて溶接してある。
そして、ピラーPの閉断面内部には、ピラーPの軸線方向に沿ってピラー下部P1から中間屈曲部P3を経てピラー上部P2の上下中間位置へ延びるリィンフォースメント3が設けてある。
【0015】
リィンフォースメント3はアウタパネル1およびインナパネル2と同様に厚い金属板で、その断面形状はアウタパネル1の内面に沿うように車内側へ開口する断面ほぼコ字状をなし前縁部および後縁部にはそれぞれ結合フランジ31,32が形成してある。
【0016】
ピラー上部P2に沿って上方へ傾斜状に延びるリィンフォースメント3の上端の
カット面30は、ピラーP内部に設置された状態で、カット面30の前端33と後端34と水平方向に同一高さ位置となるように形成してある。
後端34の高さ位置は、車体の前席に着座した乗員の頭部位置よりも上方位置に設定してあり、従来構造とほぼ同一高さとしてある。これと水平位置とした前端33は従来構造よりも低く設定してある。
更に、カット面30は前後中間部が前端33および後端34よりも低くなるようにV字状に形成してある。
【0017】
リィンフォースメント3は前縁の結合フランジ31および後縁の結合フランジ32がアウタパネル1とインナパネル2の前縁および後縁の結合フランジ11,21,12,22間で挟み込まれ一体に溶接されて、ピラーPの閉断面を車幅方向に仕切るように設けてある。尚、図4はリィンフォースメント3のカット面30に対応する位置でピラー上部P2をその軸方向に対して直交する断面を示すもので、後縁の結合フランジ32が両パネル1,2の後縁の結合フランジ12,22間に挟み込まれ一体に溶接されている。
中間屈曲部P3より下方へ延びるリィンフォースメント3の下端は後方かつ先端へ向けて漸次幅が狭く形成してあり、幅広のピラー下部P1では中間屈曲部P3下方の後縁沿いを補強するようにしてある。
【0018】
また、ピラー上部P1にはリィンフォースメント3の直上位置に、上部インナパネル2bの表面に易変形部たる断面凹状のビード5がピラー軸線方向に対して直交方向に形成してある。これによりピラー上端に作用する荷重で、リィンフォースメント3上方のピラー上端部が容易に後傾変形し、この変形で衝撃を吸収させるようにしてある。
【0019】
本実施形態によれば、図1に示すように、万一、車両が転覆した時にピラー上端が地面に当ってピラー上端に大きな衝突荷重Sが作用すると、リィンフォースメント3上方のピラー非補強部P21がビード5を中心にその周辺から後方へ屈曲変形するので荷重の一部が吸収され、続いてほぼ水平位置に設けたリィンフォースメント3のカット面30の後端34および前端33の2点に、ピラー非補強部P21の変形で吸収緩和しきれなかった荷重が分散されつつ、ほぼ同時かあるいは後端34側から前端33側へ順に先に作用(図1の矢印S2,S3)することとなる。
【0020】
この場合、カット面30の後端34および前端33にかかる荷重S2,S3は分散され、いずれも従来構造の前端33に集中的に作用する荷重S1(図7)よりも小さい。尚、荷重S2,S3の和はS1と同等である。
また本発明のリィンフォースメント3は前端33の高さ位置を低くしたので、中間屈曲部P3の屈曲中心点から前端33までの距離L1が従来構造の距離Lよりも小さくなる。一方、上記屈曲中心点から後端34までの距離L2も従来構造の距離Lと同じか小さい。
【0021】
このように前端33および後端34の2点で分散された荷重S2,S3を受けるようになしたリィンフォースメント3の中間屈曲部に作用する曲げモーメントは、前端33側の荷重S3と距離L1の積と、後端34側の荷重S2と距離L2の積との和から算出される。
ここで従来構造のリィンフォースメント3Aに作用する曲げモーメントと比較すると、本発明のリィンフォースメント3は、下記数1から従来の前縁部上端33で集中的に荷重S1を受ける構造に比べて、後方へ倒れ変形する曲げモーメントを低減することができ、荷重に対して後傾変形しない剛性の高いリィンフォースメントとなり、ピラーPの中間屈曲部P3を効果的に強化できる。
リィンフォースメント3の両縁部上端33,34の高さ位置は乗員の頭部よりも高い位置に設けてあり、車両転覆時にリィンフォースメント3の両縁部上端33,34で変形することで乗員の生存空間を確保できる。
(数1)
S3・L1+S2・L2 < S1・L
【0022】
また、リィンフォースメント3はカット面30の前端33と後端34との間でV字状に形成したので、前端33と後端34の2点で確実に分散された荷重S3,S2を受けることができる。これに限らず、カット面30を前端33と後端34とが水平同一高さとなるように水平直線状にしてもよいが、荷重を2点に分散させる点においてV字状が望ましい。
またリィンフォースメント3ではカット面30の前端33と後端34とを水平方向に同一高さとしたが、前端33を後端34よりも若干低くめに設置してもよい。これによれば屈曲部P3中心点からの距離L1を更に小さくでき曲げモーメントの軽減効果を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用したフロントピラー構造を示す側面である。
【図2】上記フロントピラー構造の分解斜視図である。
【図3】図1のIII―III線に沿う位置での断面図である。
【図4】図1のIV―IV線に沿う位置での断面図である。
【図5】本発明を適用するオープンカーのフロントピラーを示す側面図である。
【図6】従来のフロントピラー構造を示す分解斜視図である。
【図7】図1に対応する従来のフロントピラーの側面図である。
【符号の説明】
【0024】
P フロントピラー
P1 ピラー下部
P2 ピラー上部
P3 中間屈曲部
P21 非補強部
1 アウタパネル
2 インナパネル
3 リィンフォースメント
30 カット面
33 前端
34 後端
5 ビード(易変形部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネルとインナパネルとで閉断面をなし、車体側面に沿ってほぼ垂直に起立するピラー下部と、ピラー下部の上端から屈曲して後斜め上方へ傾斜するピラー上部とで構成されたオープンカーのフロントピラーであって、上記閉断面内には、上記ピラー下部側からピラー中間屈曲部を経て上記ピラー上部の上下中間位置まで、ピラーの軸線方向に沿ってリィンフォースメントが設置されたフロントピラー構造において、
上記リィンフォースメントとの上端を、水平ないしはそれよりも若干前下がりのカット面に形成したことを特徴とするオープンカーのフロントピラー構造。
【請求項2】
上記請求項1に記載のオープンカーのフロントピラー構造において、
上記カット面の前端と後端が水平方向に同一高さ位置に形成したオープンカーのフロントピラー構造。
【請求項3】
上記請求項1に記載のオープンカーのフロントピラー構造において、
上記カット面を前後方向にほぼV字状に形成したオープンカーのフロントピラー構造。
【請求項4】
上記請求項1ないし3に記載のオープンカーのフロントピラー構造において、
上記ピラー上部には、上記リィンフォースメントの上端の直上位置に、フロントピラーに上方から作用する荷重に対して曲げ変形する易変形部を設けたオープンカーのフロントピラー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−285097(P2008−285097A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133873(P2007−133873)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】