説明

カウルカバー装置

【課題】コスト高および質量アップを回避しつつエンジンからの熱気によるカウルカバーの変形・劣化を防止できるカウルカバー装置を提供する。
【解決手段】カウルカバー6は、エンジンルーム1と車室3のフロントガラス4との間にあって、エンジンルーム1と隣接する位置においてこのエンジンルーム1に向かって斜め上方へ形成した斜壁部11と、この斜壁部11の上部から車室3のフロントガラス4にわたって設けた上板部12とを備えている。カウルカバー6の斜壁部11のエンジンルーム1側に配置した断熱材13と、斜壁部11との間には、複数のリブ形状のスペーサ18によって、空気層部19を形成する。各々のスペーサ18は、中央部に切欠溝20を有しているため、各リブ形状のスペーサ18によって仕切られた空気層部19は、相互に連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、電気モータまたはバッテリなどを収納するフロントコンパートメントと隣接するカウルカバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体には、エンジンルームなどのフロントコンパートメントを覆うボンネットフードと、車室の前側に位置するフロントガラスとの間のカウル部を覆う樹脂成形品のカウルカバーが取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−62472号公報(第1頁、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このカウルカバーは、エンジンルーム内に剥き出し状態で曝されているため、エンジンルームからの熱気を直接受け、エンジンからの放熱量の多い場合は、カウルカバーの変形・劣化が発生するおそれがある。
【0005】
また、エンジンルームからの熱によりカウルカバーが加熱され、カウルカバーが受けた熱がエアボックス内に伝わり、エアベントの温度が上昇するおそれもある。
【0006】
これらの対策として、エンジンからの放熱量の多いターボ車などでは、遮熱カバーなどを設置しているが、コスト高および質量アップとなっている。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、コスト高および質量アップを回避しつつフロントコンパートメントからの熱気によるカウルカバーの変形・劣化を防止できるカウルカバー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、フロントコンパートメントと車室のウインドシールドとの間に設けられたカウルカバー装置であって、このカウルカバー装置は、前記フロントコンパートメントと隣接する位置において前記フロントコンパートメントに向かって斜め上方へ形成された斜壁部と、この斜壁部の上部から前記車室のウインドシールドにわたって設けられた上板部と、この上板部にて前記斜壁部の上方に位置する対応箇所に設けられた外気とつながる開口とを備えたカウルカバーと、このカウルカバーの前記斜壁部のフロントコンパートメント側に配置された断熱材と、この断熱材と前記斜壁部との間に設けられた空気層部とを具備したカウルカバー装置である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のカウルカバー装置において、カウルカバーは、斜壁部の下端および上端からフロントコンパートメント側に、断熱材を支持する下端支持部および上端支持部が一体に形成され、これらの下端支持部と上端支持部との間に前記断熱材が当接して支持されたものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載のカウルカバー装置において、外気とつながる開口は、フロントコンパートメントの上方から上板部の上方へ突出されたフードの下側に隠れる位置に設けられたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された発明によれば、フロントコンパートメントから断熱材を通過した熱は、断熱材と斜壁部との間に設けられた空気層部内で拡散、分散されて斜壁部の一部が部分的に高温になることを避けることができ、熱を分散することにより、カウルカバーの最高温度を下げることができるとともに、斜壁部の全面で効率良く放熱できる。特に、フロントコンパートメントからの熱が、フロントコンパートメントに向かって斜め上方へ形成された斜壁部により効率良く上昇し、さらに、斜壁部の上方に位置する上板部の対応箇所に設けられた外気とつながる開口より外気へ放出されるので、フロントコンパートメントから受ける熱を開口から車外へ効率的に放出でき、カウルカバーの受ける熱害(変形・熱劣化)を無くし、カウルカバー本来の性能を維持できるとともに、フロントコンパートメントからの熱によるエアベント温度上昇を防止でき、しかも、安価にできる。
【0012】
請求項2に記載された発明によれば、斜壁部の下端および上端からフロントコンパートメント側に一体に形成された下端支持部および上端支持部によって、フロントコンパートメント側の断熱材を確実に支持できるとともに、これらの下端支持部および上端支持部に断熱材の下端および上端を当接して空気層部を容易に形成できる。
【0013】
請求項3に記載された発明によれば、フロントコンパートメントの上方から上板部の上方へ突出されたフードの下側に隠れる位置に外気とつながる開口を設けたので、この開口が走行中に飛来したゴミなどにより塞がれるおそれを確実に防止でき、この開口からの放熱効果を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るカウルカバー装置の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】同上カバー装置の分解斜視図である。
【図3】同上カバー装置の他の実施の形態を示す断面図である。
【図4】同上カバー装置の熱の流れ作用を示す断面図である。
【図5】同上カバー装置の特徴を説明するための参考対比構造の断面図である。
【図6】同上カバー装置の特徴を説明するための他の参考対比構造の断面図である。
【図7】同上カバー装置のさらに他の実施の形態を示す分解斜視図である。
【図8】同上カバー装置のさらに別の実施の形態を示す断面図である。
【図9】同上カバー装置のさらに別の実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、本発明を、図1および図2に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、カウルカバー装置を示し、自動車の車体には、フロントコンパートメントとしてのエンジンルーム1を覆うフードとしてのボンネットフード2と、車室3の前側に位置するウインドシールドとしてのフロントガラス4との間のカウル部5を覆うカウルカバー6が取り付けられている。このカウルカバー6は、例えば、ポリプロピレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリアミド系合成樹脂などの熱可塑性樹脂を金型を用いて射出成形した、弾性的に変形可能な樹脂成形品であり、上側の外気部7と下側のエアボックス8とを区画形成している。
【0017】
このカウルカバー6は、エンジンルーム1と車室3のフロントガラス4との間にあって、エンジンルーム1と隣接する位置においてこのエンジンルーム1に向かって斜め上方へ形成された斜壁部11と、この斜壁部11の上部から車室3のフロントガラス4にわたって設けられた上板部12とを備えている。
【0018】
カウルカバー6は、斜壁部11の下端および上端からエンジンルーム1側に、断熱材13を支持する下端支持部14および上端支持部15がコの字断面状に一体に形成され、これらの下端支持部14と上端支持部15との間に断熱材13が当接して支持されている。下端支持部14は、シール材を介して本体パネルとしてのエックステンションパネル16にネジ17により固定されている。
【0019】
カウルカバー6の斜壁部11のエンジンルーム1側に配置された断熱材13と、斜壁部11との間には、複数のリブ形状のスペーサ18によって、図2に示されるような空気層部19が形成されている。各々のスペーサ18は、中央部に切欠溝20を有しているため、各リブ形状のスペーサ18によって仕切られた空気層部19は、相互に連通している。
【0020】
カウルカバー6は、エンジンルーム1から熱を受ける車両前側の熱を受ける部位の形状が、斜壁部11、下端支持部14および上端支持部15によりコの字断面に成形され、このコの字断面内に断熱材13を設置し、この断熱材13の取付部には空気層部19を設定するようにリブ形状のスペーサ18を設ける。
【0021】
図1に戻って、カウルカバー6の上板部12にて、斜壁部11の上方に位置する対応箇所に、車両後方に向かって上方へ凹状に湾曲された凹状湾曲部21が設けられ、この凹状湾曲部21に外気とつながる開口としての空気取入口部22が設けられている。この空気取入口部22は、斜壁部11の全域を真上に投影した領域に設けることが望ましい。
【0022】
この外気とつながる空気取入口部22は、エンジンルーム1の上方から上板部12の上方へ突出されたボンネットフード2の下側に隠れる位置に設けられている。ボンネットフード2は、フードアウタ部23とフードインナ部24とが一体化されたもので、斜壁部11の上端支持部15上には、フードインナ部24により弾性変形されるシール部材25が設けられている。なお、図1には、変形前のシール部材25が示されている。
【0023】
カウルカバー6の上板部12にて、凹状湾曲部21に山頂状部26を介し、車両後方に向かって下降傾斜状の傾斜面部27が成形され、この傾斜面部27から雨水排出用の樋部28を介して窓枠部29が上昇傾斜状に成形されている。図2に示されるように、樋部28は、山頂状部26を部分的に凹状に形成した排水溝部30により前方へ排水可能に連通されている。
【0024】
窓枠部29の下側には、フロントガラス係合部31が凹状に一体成形され、このフロントガラス係合部31内にシール部材32とともにフロントガラス4の下部が嵌着されている。
【0025】
図3は、スペーサを用いることなく空気層部19を形成した他の実施の形態を示し、断熱材13が一定の形状を保つ強度が有る場合は、前記リブ形状のスペーサ18は、必ずしも必要ではない。
【0026】
次に、この図1および図2に示された実施の形態および図3に示された実施の形態の作用効果を、図4乃至図6を参照しながら説明する。
【0027】
図4に示されるように、カウルカバー6にて熱を直接受ける車両前側のコの字断面内に断熱材13を設置し、この断熱材13とカウルカバー6の斜壁部11との間にはリブ形状のスペーサ18などによって空気層部19を設定したので、断熱材13を通過した熱を、この空気層部19で全域に分散させて、カウルカバー6の斜壁部11の特定箇所に集中させないようにし、斜壁部11の全面から効率よく放熱する。
【0028】
さらに、断熱材13、空気層部19およびカウルカバー6の斜壁部11の3重構造とすることによって、熱の通過する断熱層を増やして、熱の通過量を減らす。
【0029】
このとき、カウルカバー6にて熱を直接受ける車両前側を、斜壁部11、下端支持部14および上端支持部15によりコの字断面に形成することによって、断熱材13の上下端部を下端支持部14および上端支持部15に密着されるように当接して、空気層部19を設定する。
【0030】
これに対し、図5に示される参考対比構造のカウルカバー6aのように、断熱材13aが斜壁部11aに密着していると、断熱材13aを通過した熱が分散することなく、カウルカバー6aの斜壁部11aに直接作用し、斜壁部11aが部分的に高温になってしまうとともに、放熱面積が小さく、空気取入口部22aからの放熱効率が悪くなる。
【0031】
また、図4に示されるように、コの字断面の斜壁部11は車両前側に傾くように設置し、その斜壁部11の上部に外気部7とつながる空気取入口部22を設置する。
【0032】
傾斜状の斜壁部11を設けているので、表面積が増加して、効率よく熱を放出できるとともに、放出された熱は斜壁部11から離脱して直ちに上部の空気取入口部22から外気部7に排出される。斜壁部11の傾きにより、熱気が空気取入口部22に向かう上昇を妨げないとともに、空気取入口部22の全域から放熱できる。
【0033】
これに対し、図6に示される参考対比構造のカウルカバー6bのように、垂直状の縦壁部11bでは、この縦壁部11bと断熱材13bとの間に空気層部19bがあっても、熱気が空気取入口部22bの一箇所に集中して、外部に効率よく排出されない。
【0034】
このようにして、図4に示されたものは、熱せられた斜壁部11の熱が空気取入口部22から効果的に外気に放出され、熱のこもりが無くなり、カウルカバー6の温度上昇を防止できる。また、熱の放出と同時に外気(冷気)を空気取入口部22からエアボックス8内に取り込み、斜壁部11を冷却する。
【0035】
斜壁部11の上部に外気部7とつながる空気取入口部22があるため、斜壁部11を通過してエアボックス8内に侵入した熱はすぐに外気に放出されるため、エアボックス8内の温度上昇を防止でき、エアボックス8に連通されたエアベントの温度上昇も防止できる。
【0036】
カウルカバー6の下端部は、エクステンションパネル16とシールされているので、熱気はそれらの隙間を通ってエアボックス8内に入り込むこともない。
【0037】
以上のように、エンジンルーム1から断熱材13を通過した熱は、断熱材13と斜壁部11との間に設けられた空気層部19内で拡散、分散されて斜壁部11の一部が部分的に高温になることを避けることができ、熱を分散することにより、カウルカバー6の最高温度を下げることができるとともに、斜壁部11の全面で効率良く放熱できる。
【0038】
特に、エンジンルーム1からの熱が、エンジンルーム1に向かって斜め上方へ形成された斜壁部11を通過すると効率良く上昇し、さらに、斜壁部11の上方に位置する上板部12の対応箇所に設けられた外気とつながる空気取入口部22より外気へ放出されるので、エンジンルーム1から受ける熱を空気取入口部22から車外へ効率的に放出でき、カウルカバー6の受ける熱害(変形・熱劣化)を無くし、カウルカバー本来の性能を維持できるとともに、エンジンルーム1からの熱によるエアベント温度上昇を防止できる。
【0039】
しかも、高価な遮熱カバーなどを設置しなくても、カウルカバー6および断熱材13のみにより安価にできる。
【0040】
また、斜壁部11の下端および上端からエンジンルーム1側に一体に形成された下端支持部14および上端支持部15によって、エンジンルーム側の断熱材13を確実に支持できるとともに、これらの下端支持部14および上端支持部15に断熱材13の下端および上端を当接して空気層部19を容易に形成できる。
【0041】
さらに、エンジンルーム1の上方から上板部12の上方へ突出されたフード2の下側に隠れる位置に、外気とつながる空気取入口部22を設けたので、この空気取入口部22が走行中に飛来したゴミなどにより塞がれるおそれを確実に防止でき、この空気取入口部22からの放熱効果を確保できる。
【0042】
次に、図7は、さらに他の実施の形態のカウルカバー6Aを示し、エンジンルーム1側の熱源の位置に合せて、断熱材13の幅形状Lを縮小すると良い。
【0043】
次に、図8は、さらに別の実施の形態のカウルカバー6Bを示し、エンジンルーム1側からの熱量の大きさに合せて、断熱材13の厚みを調整すると良い。
【0044】
次に、図9は、さらに別の実施の形態のカウルカバー6Cを示し、前記リブ形状のスペーサ18に替えてボス形状のスペーサ18bを用いてもよい。
【0045】
なお、上記各実施の形態では、フロントコンパートメントとして内燃機関としてのエンジンを収納するエンジンルーム1を例示したが、フロントコンパートメントとしては、電気モータまたはバッテリなどを収納する場合もあり得る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、カウルカバー装置の製造などにおいて利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 フロントコンパートメントとしてのエンジンルーム
2 フードとしてのボンネットフード
3 車室
4 ウインドシールドとしてのフロントガラス
6 カウルカバー
11 斜壁部
12 上板部
13 断熱材
14 下端支持部
15 上端支持部
19 空気層部
22 開口としての空気取入口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントコンパートメントと車室のウインドシールドとの間に設けられたカウルカバー装置であって、
このカウルカバー装置は、
前記フロントコンパートメントと隣接する位置において前記フロントコンパートメントに向かって斜め上方へ形成された斜壁部と、
この斜壁部の上部から前記車室のウインドシールドにわたって設けられた上板部と、
この上板部にて前記斜壁部の上方に位置する対応箇所に設けられた外気とつながる開口とを備えたカウルカバーと、
このカウルカバーの前記斜壁部のフロントコンパートメント側に配置された断熱材と、
この断熱材と前記斜壁部との間に設けられた空気層部と
を具備したことを特徴とするカウルカバー装置。
【請求項2】
カウルカバーは、斜壁部の下端および上端からフロントコンパートメント側に、断熱材を支持する下端支持部および上端支持部が一体に形成され、
これらの下端支持部と上端支持部との間に前記断熱材が当接して支持された
ことを特徴とする請求項1記載のカウルカバー装置。
【請求項3】
外気とつながる開口は、フロントコンパートメントの上方から上板部の上方へ突出されたフードの下側に隠れる位置に設けられた
ことを特徴とする請求項1または2記載のカウルカバー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−57027(P2011−57027A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207131(P2009−207131)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】