説明

カシューナッツ殻液誘導体およびそれを含む樹脂組成物

【課題】樹脂の可塑剤として有用なカシューナッツ殻液誘導体の提供。
【解決手段】カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化した後、カシューナッツ殻液側鎖に、以下に示す構造式の不飽和有機酸無水物および/または不飽和有機酸を付加させる。側鎖へ付加させる不飽和有機酸の無水物および/または不飽和有機酸としては、無水マレイン酸が好ましい。また、カシューナッツ殻液としては、アナカルド酸、カルダノール、カルドールおよび2−メチルカルドールの4種類の内、1種類以上を含有するものが使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規構造のカシューナッツ殻液誘導体と、このカシューナッツ殻液誘導体を含有する樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止、循環型社会の構築に貢献する新たな資源として、植物由来の材料が注目されている。植物由来の材料は、植物が生長する過程で、光合成で環境中の二酸化炭素を吸収して形成されたものであるため、それを燃焼しても、植物のライフサイクル全体で見ると二酸化炭素の収支に変化はないものと考えられる。
【0003】
このように環境中の二酸化炭素の増減に影響を与えない性質はカーボンニュートラルと呼ばれ、植物由来のプラスチック樹脂がにわかに注目を浴びるようになり、従来の石油由来のプラスチック樹脂を植物由来のプラスチック樹脂へ置き換える研究が盛んに行われている。
【0004】
植物由来のプラスチックは、バイオマスプラスチックとも呼ばれ、特にポリ乳酸樹脂は、既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料としてその工業生産が可能となっている。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、結晶性樹脂であるため、硬くてもろく、柔軟性が不十分であり、軟質な製品として利用するには可塑剤を添加する必要がある。このような可塑剤としても、カーボンニュートラルの観点から、植物由来の材料が好ましい。
【0006】
カシューナッツ殻液をプラスチック樹脂用の可塑剤として応用するためには、可塑化される樹脂との相溶性に優れることが必要である。特許文献1には、カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させたカシューナッツ殻液誘導体を可塑剤とするポリ乳酸系組成物が記載されている。
【0007】
特許文献1に記載されたポリ乳酸系組成物においては、カシューナッツ殻液側鎖の二重結合はそのままか、或いは水素添加により飽和させたものであることから、カシューナッツ殻液と、可塑化される樹脂との相溶性の点で改善の余地があるもと考えられる。一方、特許文献2には、カシューナッツ殻液の側鎖へ極性基を付加させる方法として、不飽和有機酸を付加させることが記載されている。カシューナッツ殻液の側鎖へ極性基を付加させることによって、可撓性、耐熱性、耐薬品性が一段と向上するという効果が強調されている。
【0008】
しかしながら、この方法によるときには、カシューナッツ殻液の側鎖へ不飽和有機酸を付加させる反応に高温を要するため、カシューナッツ殻液中のフェノール性水酸基と側鎖との二重結合によるポリマーが生じてしまうという問題がある。プラスチック樹脂の可塑剤として使用するには、云うまでもなくポリマーの生成は好ましくない。
【特許文献1】特開2005−239992号公報
【特許文献2】特公昭41−15440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、可塑化される樹脂との相溶性を改善する方法として、カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させる方法や不飽和有機酸を付加させる方法が知られているが、カシューナッツ殻液と、可塑化される樹脂との相溶性やポリマー成分が副生するなどの改善すべき問題が残されていたという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させた後、カシューナッツ殻液側鎖に不飽和有機酸無水物および/または不飽和有機酸を付加させたことを最も主要な特徴とする。
【0011】
上記カシューナッツ殻液誘導体において、側鎖へ付加させる不飽和有機酸の無水物および/または不飽和有機酸としては、無水マレイン酸が好ましい。また、カシューナッツ殻液としては、アナカルド酸、カルダノール、カルドールおよび2−メチルカルドールの4種類の内、1種類以上を含有するものを使用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、最初にカシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化しポリマー化を防止した上で、側鎖に極性基を付加しており、ポリマー成分を副生することなく、樹脂に対する相溶性に優れたカシューナッツ殻液誘導体を提供できる。上記カシューナッツ誘導体を可塑剤として樹脂に添加することにより、柔軟性、耐ブリード性に優れた樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によるカシューナッツ殻液誘導体の説明に先立ち、本発明に用いるカシューナッツ殻液についてその概要を以下に説明する。カシューは天然に存在する熱帯性植物であり、その実(カシューナッツ)には、蛋白質と糖質などが含まれており、食用としてミックスナッツなどのスナックや料理に用いられる。
【0014】
カシューナッツは天然果実であり、これを資源として捕らえたときには、再生可能な資源である。本発明に用いるカシューナッツ殻液は、食用として使用されている天然のカシューナッツの実を採取する際、副生物として得られるカシューナッツの殻に含まれる油状の液体である。
【0015】
カシューナッツ殻液には、アナカルド酸、カルドール、2−メチルカルドール、カルダノールなどが含まれている。その含有量はカシューナッツの産地により若干差があるが、アナカルド酸約75重量%、カルドール約20重量%、2−メチルカルドールおよびカルダノールを約5重量%含有していると言われている。
【0016】
本発明に使用するカシューナッツ殻液としては、その有効成分であるアナカルド酸、カルドール、2−メチルカルドール、カルダノールのいずれかの1種類を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、側鎖の二重結合に由来する活性メチレン基を反応に用いるため、側鎖に二重結合を持たないカシューナッツ殻液を単独で用いることはできない。
【0017】
天然のカシューナッツ殻液は、側鎖の二重結合の数が異なる4種類の化合物の混合物であり、平均2個の二重結合を有するため、本発明に使用する上で不都合は生じない。
【0018】
本発明においては、カシューナッツ殻液に有機酸無水物を反応させ、カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させた後、カシューナッツ殻液側鎖の活性メチレン基へ不飽和有機酸の無水物および/または不飽和有機酸を付加させる。ここで、予めカシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させておくことにより、カシューナッツ殻液中のフェノール性水酸基と側鎖の二重結合によるポリマー生成を防止することができる。
【0019】
本発明によるカシューナッツ殻液誘導体の製造方法としては、特に制限はないが、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、
(1)カシューナッツ殻液に有機酸無水物を触媒存在下、室温で反応させ、次いで、未反応分の有機酸無水物及び反応で生じる有機酸を除去する。使用する有機酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水絡酸等が挙げられる。特に、ポリ乳酸系樹脂との相溶性の面で、無水酢酸によるエステル化が好ましい。
【0020】
反応の際の無水酢酸の仕込み比率は、原料であるカシューナッツ殻液に対し、100〜600重量%、好ましくは200〜300重量%である。無水酢酸が100重量%未満であるとエステル化反応が十分に進行しない可能性があり、一方、300重量%を越えると未反応の無水酢酸が残存しコスト高となる可能性があるので好ましくない。触媒としては、プロトン酸特にスルホン酸基を有するものが反応を円滑に進行させ好ましい。p−トルエンスルホン酸は取り扱いが容易であり、特に好ましい。
【0021】
反応式を式(1)に示す。
【化2】


(2)前記反応式(1)に示すエステル化されたカシューナッツ殻液に不飽和有機酸無水物および/または不飽和有機酸、および共沸溶剤を加え、加熱下で反応させ、次いで、未反応物を除去する。
【0022】
不飽和有機酸無水物および/または不飽和有機酸としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、マレイン酸、フタル酸等が挙げられる。特に、反応性の面で、無水マレイン酸が好ましい。その反応式を式(2)に示す。
【化3】


【0023】
上記反応の際の無水マレイン酸の仕込み比率は、エステル化されたカシューナッツ殻液に対し、5〜100重量%であり、好ましくは20〜50重量%である。無水マレイン酸が5重量%未満であると側鎖に付加される量が少なくなり、耐ブリード性向上の効果が少なくなり、無水マレイン酸が100重量%を超えると未反応の無水マレイン酸が残存しコスト高となる可能性があるので好ましくない。無水マレイン酸の共沸溶剤としては、m−クレゾールなどが挙げられる。反応温度は140〜220℃であり、好ましくは160〜200℃である。
【0024】
本発明のカシューナッツ殻液誘導体を樹脂に混合する場合の配合量は、樹脂100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは15〜50重量部である。カシューナッツ殻液誘導体の配合量が、15重量部未満では樹脂の可塑化効果が少なくなり、一方、50重量部を超えるとブリードアウトが生じる恐れがある。樹脂成分としては、ポリエステル系樹脂が好ましく、特にポリ乳酸が好ましい。
【0025】
樹脂組成物の調製方法は、特に限定されない。従来公知の方法を使用することができる。例えば溶融混練法や溶剤に溶融して混合する方法などにより調製できる。これらの方法の中でも溶融混練法が好ましい。溶融混練法の場合、単軸押出機や多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用して、180℃以上の温度で溶融混練することが好ましい。
【0026】
このようにして得られた樹脂組成物は、柔軟性が付与され、良好な成形性を有し、従来公知の各種成形方法、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形などにより、フィルム、シート、構造体などを容易に作製することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし本発明は実施例により限定されるものではない。
【0028】
(合成例1)
温度計、撹拌装置、滴下ロートおよび冷却管を備えた内容積1リットルの4つ口フラスコに、蒸留で精製したカシューナッツ殻液200g、触媒として、p−トルエンスルホン酸0.1gを仕込んだ後、室温で、関東化学(株)製無水酢酸400gを、0.5時間かけて滴下した。その後、室温で5時間攪拌を継続した。未反応物及び副生成物を2mmHgの減圧蒸留下、200℃で留出させ、淡黄色透明液体である化合物を得た。
【0029】
次いで、関東化学(株)製無水マレイン酸65g、共沸溶剤としてm−クレゾール40gを仕込んだ後、180℃還流下で3時間攪拌を継続した。未反応物及び共沸溶剤を2mmHgの減圧蒸留下、180℃で留出させ、褐色粘性液体である化合物を得た。
(実施例1)
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE−2500)100重量部に、合成例1で得られたカシューナッツ殻液誘導体25重量部を配合し、200℃で溶融混練し、ポリ乳酸系樹脂組成物を作製した。その諸特性を表1に示す。なお、諸特性は、以下の要領で測定した。
【0030】
<耐ブリード性>
樹脂組成物を目視により観察し、ポリ乳酸系樹脂に対する耐ブリード性を下記基準により評価した。
○:2週間後でもブリードアウトが見られない。
△:1日後に明らかにブリードアウトが見られる。
×:3時間後に明らかに白化および/またはブリードアウトが見られる。
【0031】
<破断点応力、破断伸び>
得られた樹脂組成物について、180℃のプレス成形機を使用して、厚さ0.6mmのシートを作製した。得られたシートを1号ダンベルで打ち抜き、島津製作所製オートグラフS−2000−Cを使用して、破断点応力および破断伸びを測定した。
【0032】
(実施例2)
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE−2500)100重量部に、合成例1で得られたカシューナッツ殻液誘導体40重量部を配合し、実施例1と同様の方法で樹脂組成物を作製し、評価した。
【0033】
(比較合成例1)
温度計、撹拌装置、滴下ロートおよび冷却管を備えた内容積1リットルの4つ口フラスコに、蒸留で精製したカシューナッツ殻液200g、触媒として、p−トルエンスルホン酸0.1gを仕込んだ後、室温で、関東化学(株)製無水酢酸400gを、0.5時間かけて滴下した。その後、室温で5時間攪拌を継続した。未反応物及び副生成物を2mmHgの減圧蒸留下、200℃で留出させ、淡黄色透明液体である化合物を得た。
【0034】
(比較例1)
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE−2500)100重量部に、比較合成例1で得られたカシューナッツ殻液誘導体25重量部を配合し、実施例1と同様の方法で樹脂組成物を作製し、評価した。
【0035】
(比較例2)
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE−2500)100重量部に、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル25部を配合し、実施例1と同様の方法で樹脂組成物を作製し、評価した。尚、比較例2は、耐ブリード性評価が「×」であったため、破断点応力及び破断伸びの評価は行わなかった。
【0036】
(比較例3)
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE−2500)のみで樹脂組成物を作製し、評価した。
各実施例及び比較例を表1に併せて示す。
【表1】

【0037】
以上表1に明らかなとおり、カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させた後、カシューナッツ殻液側鎖に不飽和有機酸無水物および/または不飽和有機酸を付加させることによって、得られた本発明によるカシューナッツ殻液誘導体を可塑剤に用いたポリ乳酸樹脂は、カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させただけで、カシューナッツ殻液側鎖に不飽和有機酸無水物および/または不飽和有機酸を付加させる処理を行わないまま可塑剤に用いたポリ乳酸樹脂あるいは、可塑剤を使用しないポリ乳酸樹脂に比べて耐ブリード性、破断点応力、切断伸びにおいて大幅に改善されることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によるカシューナッツ殻液誘導体によれば、樹脂、特にポリ乳酸系樹脂を含むポリエステル系樹脂の可塑剤に用いて柔軟性に優れた製品が得られ、各種フィルム、トレー、包装用資材、カード、衛生用品などに広く活用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシューナッツ殻液のフェノール性水酸基をエステル化させた後、カシューナッツ殻液側鎖に、不飽和有機酸無水物および/または不飽和有機酸を付加させたことを特徴とするカシューナッツ殻液誘導体。
【請求項2】
前記カシューナッツ殻液誘導体のカシューナッツ殻液側鎖に付加させる不飽和有機酸の無水物および/または不飽和有機酸は、無水マレイン酸であることを特徴とする請求項1に記載のカシューナッツ殻液誘導体。
【請求項3】
前記カシューナッツ殻液誘導体は、以下の構造式

【化1】


によって示されるものであることを特徴とする請求項2に記載のカシューナッツ殻液誘導体。
【請求項4】
前記カシューナッツ殻液誘導体を可塑剤とする樹脂によって構成されたことを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂は、ポリ乳酸系樹脂を含むポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂に混合するカシューナッツ殻液誘導体の配合量は、樹脂100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは15〜50重量部であることを特徴とする請求項4又は5のいずれかに記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−64967(P2010−64967A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230709(P2008−230709)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000221959)東北化工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】