説明

カスパーゼ3活性調節による幹細胞分化の調節

カスパーゼ3活性の計画的な操作により、治療目的のために幹細胞の運命を方向付ける方法を提供する。幹細胞の分化を誘導するのに使用することができるカスパーゼ3活性化剤及び/またはエフェクター、及び幹細胞の分化を抑制しそれによって幹細胞の増殖を促進あるいは維持することができるカスパーゼ3抑制剤も含めて、幹細胞の分化を調節するためのカスパーゼ3活性調節剤の使用を開示する。カスパーゼ3調節剤のスクリーニング方法及びこのような化合物を幹細胞の分化をin vitroあるいはin vivoで調節するために使用することも、該化合物の治療的適用として提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞治療分野、特に、カスパーゼ3タンパクの活性化または抑制によって幹細胞の分化を調節する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞とは、様々な特定のタイプの細胞を作り出し、究極的には最終的な分化細胞を作り出す能力を持つ未分化の、あるいは未成熟の細胞である。幹細胞は、他の細胞と異なり、基本的に必要な時に成熟細胞を無限に供給するように自己更新することができる。この自己更新能があることにより、幹細胞は組織の再生及び修復において治療的に有用である。
【0003】
脊椎動物において、組織系や器官系の発達には、前もって決められた幹細胞の系統の拡張、次いで最終的な分化が介在している。幹細胞の治療的有用性(すなわち、障害を受けたあるいは欠陥のある組織の再生能)は、目標とする細胞を十分な数だけ得ること、そして、分化した成熟組織の特定細胞への移行が操作可能であることにかかっている。そのため、最近の研究では、これら細胞数を増やすためにin vitroで幹細胞を培養する方法の探索が中心となっている。ここ数年で、幹細胞の分化の理解、サイトカインの発見、細胞のサブタイプの分離及び同定、ならびに様々なバイオリアクターコンセプトの発達(例えば、the review by Noll et al., (2002) Adv Biochem Eng Biotechnol 74:111−28参照)において進歩があり、また組換えの成長因子や細胞選択技術が利用できるようになったことにより、幹細胞あるいは前駆細胞をin vitroやex vivoで拡張させようと試みる研究が可能になってきている。しかしながら、幹細胞の拡張及び分化を制御するには、細胞培養において最も挑戦的な分野の一つが残っている。
【0004】
幹細胞の増殖を刺激する方法は知られているが、これらの方法は、主として特定のタイプの幹細胞、例えば、造血幹細胞(米国特許第5,981,708号及び第5,728,581号参照)や、神経幹細胞(米国特許第5,750,376号参照)に限定されている。さらに、分化への移行についてはよくわかっていないが、成長促進遺伝子産生物の抑制及び組織特異的な転写因子の上方調節を伴う協調反応に依存することが知られている。
【0005】
骨格筋形成は、細胞分化を統制する制御調節の基礎的な指令を探索する理想的なモデル系として役立ってきた。最近では、選択ばれた情報伝達経路が筋肉分化の開始に刺激を与え、プロマイトジェン的役割はマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路にあるとする証拠が示されてきている。例えば、p38αはMAPKsのp38サブファミリーの一員であるが、その活性化は分化の誘発と同時に起こり、p38αの薬理的抑制剤を使用するとこのプロセスを効果的にブロックできる(Cuenda, A., & Cohen, P., (1999) J.Biol.Chem. 274, 4341−4346; Wu, Z., et al., (2000) Mol. Cell. Biol. 20, 3951−3964; Zetser, A., et al., (1999) J. Biol. Chem. 274, 5193−5200; Ornatsky, O. I., et al., (1999) Nucleic Acids Res. 27, 2646−2654)。また、p38γが筋形成を促進する機構は未だ解明されていないが、プロマイトジェン的効果はこのキナーゼにもある(Graves, J.D., et al., (1998) EMBO J 17, 2224−2234)。
【0006】
p38MAPKファミリーはアポトーシスの開始及び進行にも関与している(Juo, P., et al., (1997) Mol. Cell. Biol. 17, 24−35; Hall, A., & Nobes, C. D. (2000) Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 355, 965−970)。アポトーシスと分化が同じシグナルカスケードを利用して筋肉細胞におけるMAPK活性を保証しているこという数多くの結果が示されている。例えば、アクチン線維の分解/再構成は、アポトーシス(Sabourin, L. A., & Rudnicki, M. A. (2000) Clin. Genet. 57, 16−25; Gallo, R., et al., (1999) Mol. Biol. Cell 10, 3137−3150)と分化筋芽細胞(Qu, G., et al., (1997) J. Cell. Biochem. 67, 514−527; Mills, J.C., et al., (1998) J. Cell Biol. 140, 627−636)の両方の特徴を保持したものである。そして、保存筋肉収縮性タンパクであるミオシン軽鎖キナーゼが、アポトーシスの特徴である膜ブレビングのために必要とされる(Powell, W. C., et al., (1999) Curr. Biol. 9, 1441−1447)。さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ活性の増加が、筋芽細胞の分化とアポトーシスとの両方における膜融合を調整するために不可欠な要件のようである(Yagami−Hiromasa, T., et al., (1995) Nature 377, 652−656; Utz, P. J., & Anderson, P. (2000) Cell Death Differ. 7, 589−602)。
【0007】
アポトーシスのプログラムが成功して完了するかどうかは、カスパーゼと呼ばれるユニークなクラスのタンパク分解酵素の活性に依存している(Utz, P. J., & Anderson, P. (2000) Cell Death Differ. 7, 589−602)。カスパーゼタンパクは主としてタンパクをターゲットとし、セリンを切断することによりタンパクを不活性化するが、様々なカスパーゼタンパクがMEKK1(Cardone, M.H., et al., (1997) Cell 90, 315−323)及びSLK(Hall, A., & Nobes, C. D. (2000) Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 355, 965−970)を含むシグナル伝達分子の切断活性化によりアポトーシスも保証する。さらに、カスパーゼ3活性は、介在するキナーゼの活性化であるにもかかわらずMAPKsJNK及びp38の活性化にも関連している(Utz, P. J., & Anderson, P. (2000) Cell Death Differ. 7, 589−602; Cardone, M.H., et al., (1997) Cell 90, 315−323; Chaudhary, P. M., et al., (1999) J. Biol. Chem. 274, 19211−19219)。
最近の報告では、骨格筋形成プログラムの早期開始が、重要なアポトーシス性セリンプロテアーゼであるカスパーゼ3の活性に依存することも示唆された(Fernando et al. (2002) PNAS 99:11025−30)。この報告は、組換えの活性型カスパーゼ3をトランスフェクトした一次筋芽細胞が分化を受けること、そして、カスパーゼ3で活性化されるキナーゼであるMammalian Sterile Twenty−like Kinase(MST1)がカスパーゼ3−/−筋芽細胞における筋形成を助けることができるということを示唆した。
【0008】
幹細胞の増殖を刺激する方法は知られており、また、幹細胞の分化誘導の理解も進歩してきてはいるが、これらは特定の、通常予め決められたタイプの幹細胞に限定される。従って、より広く適用できる幹細胞分化調節方法が依然として求められている。
【発明の要約】
【0009】
本発明の目的は、カスパーゼ3活性調節剤を用いて幹細胞の分化を調節する方法を提供することである。
【0010】
本発明の一つの態様に従って、次のステップを含む幹細胞分化調節化合物のスクリーニング方法が提供される:
(a)カスパーゼ3タンパクを候補化合物と接触させた後、カスパーゼ3タンパク活性を測定し、その測定した活性を候補化合物なしの場合のカスパーゼ3タンパク活性と比較し、活性の差異があった場合の候補化合物をカスパーゼ3活性調節剤とすることにより、カスパーゼ3活性調節化合物を同定する;
(b)幹細胞群を前記カスパーゼ3活性調節剤と接触させて、処理幹細胞群を得る;
(c)前記幹細胞群において少なくとも一つの分化マーカーのレベルを測定する;及び
(d)処理幹細胞群における前記マーカーレベルを調節剤と接触させなかったコントロール幹細胞群と比較して、マーカーレベルの差異があった場合の調節剤を幹細胞分化調節能を有する化合物であるとする。
【0011】
本発明の別の態様に従って、幹細胞分化調節化合物のスクリーニングのための、カスパーゼ3タンパクあるいはカスパーゼ3タンパクをエンコードするポリヌクレオチドの使用が提供される。
【0012】
本発明の別の態様に従って、幹細胞分化調節のために、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用が提供される。
【0013】
本発明の別の態様に従って、幹細胞あるいは幹細胞群を1つ以上のカスパーゼ3活性調節剤に接触させることを含む幹細胞分化調節方法が提供される。
【0014】
本発明の別の態様に従って、前記方法において、幹細胞あるいは幹細胞群を、カスパーゼ3活性を低減し幹細胞の分化を抑制する調節剤、及びカスパーゼ3活性を増強し幹細胞の分化を誘導する調節剤に順次接触させる方法が提供される。
【0015】
本発明の別の態様に従って、本発明のスクリーニング方法により化合物を同定し、該化合物を薬学的に許容可能な剤型に製剤化することを含む、幹細胞の分化調節用医薬組成物の製造方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【0016】
本発明は、幹細胞の分化の調節におけるカスパーゼ3介在シグナルカスケードの予期せぬ役割の解明に基づく。よって、本発明はカスパーゼ3活性の意図的な操作により、治療目的のために幹細胞の運命を管理する手段を提供する。
【0017】
従って、本発明は、幹細胞の分化を調節するために、カスパーゼ3活性調節剤を使用することを提供するものであり、前記調節剤は、カスパーゼ3シグナル伝達経路の1つ以上の構成要素を抑制あるいは活性化することによりその効果を発揮する。本発明の調節剤はカスパーゼ3活性化剤及び/またはエフェクターであることができ、これは幹細胞の分化を誘導するのに用いることができる。あるいは、本発明の調節剤はカスパーゼ3抑制剤であることができ、これは幹細胞の分化を抑制し、それによって幹細胞の増殖を促進または維持するのに用いることができる。
【0018】
このように、本発明の一つの実施形態において、カスパーゼ3のシグナル伝達経路の誘導により、幹細胞の分化を誘導する方法、ならびに幹細胞の分化を誘導において使用するためのカスパーゼ3活性化剤及びエフェクターを提供する。
【0019】
本発明の別の実施形態においては、幹細胞の分化を抑制する方法、ならびにこれによって増殖を促進する方法、そして、幹細胞の増殖促進に用いるためのカスパーゼ3タンパク抑制剤を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、幹細胞の運命の段階的な操作、例えば、幹細胞の増殖を促進するために幹細胞群を最初に一つ以上のカスパーゼ3抑制剤に接触させ、次いで増殖した幹細胞群の分化を誘導するために一つ以上のカスパーゼ3活性化剤/エフェクターに連続的に連続的に接触させることにより段階的に操作することも意図している。
【0021】
ここで記載された方法ならびにカスパーゼ3調節剤(活性化剤、エフェクター及び抑制剤)は、例えば、代替組織の提供を目的としてin vitroで幹細胞の分化を刺激するために、あるいは損傷を受けた組織の置換又は修復を目的としてin vivoで幹細胞の分化を刺激するために、あるいは損傷を受けた組織の置換又は修復を患者のそれが本来あった場所で助けることを目的としてin vivoで幹細胞の増殖を促進するために、あるいはex vivoでの幹細胞の増殖を促進し、これにより移植に適した細胞群を提供するために、使用することができる。本発明の治療への適用は、幹細胞の分化の促進及び/または損傷を受けたもしくは欠陥のある組織を置換する必要がある疾病や疾患、例えば筋ジストロフィー、心血管疾患、卒中、心不全、心筋梗塞、神経変性疾患などに関係し、また、損傷を受けたあるいは機能不全の組織を置換する必要がある疾病や疾患、例えば肝硬変や肝炎を含む変性肝疾患、糖尿病、パーキンソン病やアルツハイマー病のような神経変性疾患、ならびに変性または虚血性心疾患にも関係する。
【0022】
定義
特記しない限り、ここで使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が関係する分野の当業者が通常理解しているのとと同じ意味である。
本発明の開示を通じて用いているように、以下の用語は、特に指示のない限り、次のような意味を有するものと理解されるべきである。
【0023】
「カスパーゼ3」という用語は、ここで用いられているように、哺乳動物のカスパーゼ3タンパク及びその生物学的に活性なフラグメントを指す。カスパーゼ3は、他のポリペプチド及び/またはタンパクを切断することができるセリンプロテアーゼであり、CPP32、Yama、ならびにアポペイン(apopain)としても知られている。カスパーゼ3はDEVDモチーフの切断に最も効果的に作用するが、効果は低いものの他の部位(DXXDモチーフを有するものを含む)も切断することができる。
当該分野において知られているように、カスパーゼ3はN末端ペプチド(PRO−ドメイン)と二つのサブユニットを含む酵素前駆体として合成される(Cohen, G.M., Biochem. J., (1997) 326:1−16参照)。PRO−ドメインは酵素前駆体から切断され、活性型カスパーゼ3を生じる。従って、そのタンパクの前駆体及び種々の活性体の両方が「カスパーゼ3」との用語に包含される。
ヒトの酵素においては、PRO−ドメインに要求される切断部位はAsp−9またはAsp−28またはこれらの両方のいずれかである。活性化カスパーゼ3の二つのサブユニットの形成は、アミノ酸残基Asp−175における追加的切断によって起こるように要求される。サブユニットの1つまたは両方においてさらに進行することがある。このように、カスパーゼ3の活性型は、一つのポリペプチド、または2つもしくはそれ以上のサブユニットポリペプチド、またはこれらの混合物を含んでよい。例えば、多くのカスパーゼは各サブユニットを二つずつ含むヘテロ四量体として活性である。
【0024】
「カスパーゼシグナル伝達経路」との用語は、ここで用いられているように、カスパーゼ3タンパクによって介在され、最終的に細胞分化に影響を及ぼす細胞シグナル伝達経路を指す。
【0025】
「幹細胞」という用語は、ここで使用されているように、幹細胞、予め定められた幹細胞、及び前駆細胞を包含する。従って、本用語は全能性、多能性、及び単能性の細胞に適用する。全能性幹細胞は、一般に、分化及び増殖によって完全に分化した機能的な後代系列を生み出す能力を有する。全能性幹細胞は、ある成人の組織から分離されたものもあるが、一般には起源は胚である。
単能性及び多能性細胞は、一般に、1つまたは数個の異なる最終の分化した細胞のタイプに分化する能力を有する幹細胞系における細胞である。単能性及び多能性幹細胞は、これらに限定されるものではないが、血液、神経、筋肉、皮膚、消化管、骨、腎臓、肝臓、膵臓、胸腺などを含む様々な組織系や臓器系を起源とすることができる。本発明において、「幹細胞」という用語は、最も分化したあるいは完全に成熟した細胞以前の、分化系列及び増殖系列におけるすべての細胞を包含する。例えば、成熟した個体における皮膚前駆細胞は、ただ一つのタイプの細胞に分化することができるが、それ自体は完全に成熟や分化はしていない細胞であり、これも幹細胞の定義に含まれる。
【0026】
「分化」という用語は、本発明で用いているように、特定機能の個別細胞になる発達プロセスを指す。例えば、このプロセスでは、細胞が最初の細胞のタイプとは異なる1つ以上の形態的特徴及び/または機能を獲得する。分化は、例えば、当業者に知られている免疫組織化学的手法やその他の手法を用いて、系列マーカーがあるか否かをモニターすることによって判定される。本発明の方法によって幹細胞から誘導された分化済みの後代細胞は、その幹細胞の源である組織と同じ胚葉や組織に必ずしも関連しているわけではない。例えば、神経前駆細胞及び筋前駆細胞は造血細胞系列へ分化することが可能である。
【0027】
「増殖」及び「拡張」という用語は、ここでは細胞に関して互換性を持って用いられ、分裂によって同じタイプの細胞の数が増加することを意味する。本発明において、ある化合物が、その化合物で処理されていない幹細胞と比較して幹細胞群の増殖速度を増大するならば、その化合物は「増殖を促進する」とみなされる。また、その化合物、その化合物で処理されていない幹細胞と比較して幹細胞群の増殖速度を維持している場合には、分化を受ける。
【0028】
ここで用いているように、カスパーゼ3の「活性化剤」とは、カスパーゼ3が活性となるように作用するか、あるいはカスパーゼ3活性を向上することにより、カスパーゼ3活性を促進する化合物または分子であり、これには、カスパーゼ3タンパクそのもの(前駆体、活性化体の両方)も、その生物学的活性フラグメントも含まれる。
本発明で用いているように、カスパーゼ3の「エフェクター」とは、その経路においてカスパーゼ3の下流で働いてカスパーゼ3活性の効果を増強する化合物又は分子を指す。すなわち、それはカスパーゼ3活性化により生じる分子的及び細胞的事象のカスケードの一部であるか、あるいはこのようなカスケードの一部を活性化するものである。このように、「活性化剤」及び「エフェクター」という用語は、カスパーゼ3シグナル伝達経路がもともと活性になっていない細胞内で該経路を刺激する能力を有する化合物及び分子にも、「エンハンサー」として働いて該経路の元々の活性を向上する化合物及び分子にも及ぶ。
【0029】
カスパーゼ3の「抑制剤」という用語は、ここで用いているように、カスパーゼ3の活性を直接的あるいは間接的に弱める化合物または分子を指す。よって、この用語は、カスパーゼ3そのものに働く化合物/分子も、シグナル伝達経路においてカスパーゼ3の上流で働いてカスパーゼ3が活性化することを妨げる化合物/分子も含む。このように、「抑制剤」という用語は、カスパーゼ3シグナル伝達経路がもともと活性化している細胞内で該経路を抑制することができる化合物及び分子にも、該経路の活性化を妨げる化合物又は分子にも及ぶ。
【0030】
ここで用いているように、「他の細胞」または「二次細胞」または「エデュケーター細胞」という用語は互換性があり、使用中の幹細胞と非同一の細胞を指す。通常、他の細胞は、幹細胞とは別のタイプ、あるいは一部もしくは全体が分化した非幹細胞であり、使用中の幹細胞と同じ胚葉あるいは異なる胚葉を起源としてよい。通常、他の細胞は目標とする分化した幹細胞に発達上関連し、使用中の幹細胞の発達経路に影響(エデュケート)する。そのような他の細胞として、例えば筋芽細胞、肝細胞、膵島細胞、セルトリ細胞などがあり、また、例えば一次細胞株あるいは樹立細胞株などであってもよい。当業者は、共培養に幹細胞を暴露するなどの当該分野において既知の方法を用いて、本発明の方法のエデュケーター細胞として働くよう、様々な組織源からの細胞及び様々な分化段階の細胞の適正を評価することができる(例えば、Seale, P., et al., (2000) Cell. 102, 777−786; Minasi, M.G., et al., (2002) Development. 129, 2773−2783; Hierlihy, A.M., et al., (2002) FEBS Lett. 530, 239−243)。他の細胞への幹細胞の暴露は、直接的暴露でもよく、例えば、幹細胞と他の細胞との接触によることができる。あるいは間接的暴露でもよく、例えば、調整培地、溶解物、または他の細胞由来の溶解物因子によることができる。
【0031】
核酸配列に関連してここで用いられる「相当する」という用語は、参照ポリヌクレオチドの配列の全部あるいは一部が同一であるポリヌクレオチド配列を意味する。一方、「相補的」という用語は、ここにおいてはポリヌクレオチドの配列が参照ポリヌクレオチド配列の相補体の全部または一部と同一であることを意味する。具体例を挙げると、ヌクレオチド配列「TATAC」は参照配列「TATAC」に相当し、参照配列「GTATA」に相補的である。
【0032】
以下に挙げる用語は、ここにおいては2種以上のポリヌクレオチド間の配列関係、あるいは2種以上のポリペプチド間の配列関係を示すために使用される:「参照配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性パーセント」、及び「実質的同一性」。
「参照配列」は、配列比較のための基準として用いた確定した配列である;参照配列は、例えば全長のcDNA、遺伝子、あるいはタンパク配列のセグメントのようにより大きな配列のサブセットであってよく、また、完全なcDNA、遺伝子、あるいはタンパク配列を含んでもよい。一般に、参照ポリヌクレオチド配列は少なくとも20ヌクレオチド長さであり、少なくとも50ヌクレオチド長さであることが多い。参照ポリペプチド配列は、一般には少なくとも7アミノ酸長さであり、少なくとも17アミノ酸長さであることが多い。
【0033】
「比較ウィンドウ」とは、ここで用いられいるように、少なくとも15個の隣接ヌクレオチド配置あるいは少なくとも5個の隣接アミノ酸配置から成る参照配列の概念的セグメントを指し、これらによって候補配列が参照配列と比較される。この2つの配列の最適アラインメントのための参照配列(これは追加あるいは削除を含まない)に比べて、比較ウィンドウ中の候補配列の部分が20%以下の追加もしくは削除(すなわちギャップ)を含んでもよい。
本発明は、参照配列あるいは候補配列のいずれかの全長以下の比較ウィンドウの様々な長さを想定している。比較ウィンドウを並べるための配列の最適アラインメントは、Smith及びWatermanの局所相同アルゴリズム(Adv. Appl. Math. (1981) 2:482)、Needleman及びWunschの相同アラインメントアルゴリズム(J. Mol. Biol. (1970) 48:443)、Pearson及びLipmanらの類似法調査(Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) (1988) 85:2444)を用いて行ってよい。また、これらアルゴリズムのコンピュータによる実施(GAP, BESTFIT, FASTA, and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 573 Science Dr., Madison, WI)や、ALIGNあるいはMagalign(DNASTAR)のような市販コンピュターソフトウエアの使用により、あるいは視察により、行ってもよい。最良のアラインメント(すなわち、比較ウィンドウで同一性パーセンテージが最も高い結果を示したもの)が選択される。
【0034】
「配列同一性」という用語は、比較ウィンドウにより、2つのポリヌクレオチド配列あるいはポリペプチド配列が同一(すなわち、ヌクレオチド−ヌクレオチドあるいはアミノ酸−アミノ酸基準で)であることを意味する。
「配列同一性パーセント(%)」という用語は、ここでは参照配列に関して用いられ、候補配列中のヌクレオチド残基またはアミノ酸残基のパーセンテージとして定義され、それは、配列及び導入したギャップの最適アラインメント後の比較ウィンドウで参照ポリペプチド配列中の残基と同一であり、必要に応じて、何れの保守的置換も配列同一性部分と見なさずに、最大の配列同一性パーセントを達成する。
【0035】
「実質的同一性」という用語は、ここで用いているように、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の特徴を示し、そのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、比較ウィンドウで参照配列と比較したときに、少なくとも50%の配列同一性を有する配列を含む。比較ウィンドウで参照配列と比較したときに、少なくとも60%の配列同一性、少なくとも70%の配列同一性、少なくとも80%の配列同一性、及び少なくとも90%の配列同一性であるポリヌクレオチド及びポリペプチドも参照配列と実質的同一性を有するとみなす。
【0036】
ここで用いる「自然発生」とは、ある物に対して適用され、物が自然界において見出すことができるという事実を指す。例えば、自然発生ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列は、生物(ウィルスを含む)中に存在するものであり、生物から分離することができ、実験室において人間により意図的に修飾されたことがないものである。
【0037】
ここにおいて、「約」という用語は、公称値の+/−10%の変動を指す。特に言及があるないにかかわらず、このような変動は本発明で提供される何れの値にも常に含まれることが理解されるべきである。
【0038】
ここで用いる「対象」または「患者」という用語は、本発明において用いるように、治療が必要とされる動物を指す。
【0039】
「動物」という用語は、ここで用いているように、ヒト及びヒトではない動物の両方を指し、哺乳類、鳥、魚を含むがこれらに限定されるものではない。
【0040】
ここで本発明で用いた他の化学的用語は、McGraw−Hill Dictionary of Chemical Terms (ed. Parker, S., 1985), McGraw−Hill, San Franciscoに例示されるような、当該分野での通常の使用に従って用いられている。
【0041】
幹細胞の分化調節
本発明は、分化を調節することによって、幹細胞の運命を方向付ける方法を提供する。これは、カスパーゼ3活性を調節する化合物を用いて、カスパーゼ3シグナル伝達経路内でカスパーゼ3活性を計画的に操作することにより達成される。従って、本発明に係る方法は、幹細胞または幹細胞群を一つ以上のカスパーゼ3活性調節剤と接触させることを含む。本発明中、「調節剤」は活性化剤、エフェクターあるいは抑制剤であることができる。
【0042】
従って、本発明の一つの実施形態のように、カスパーゼ3活性の誘導あるいは増強により幹細胞の分化を誘導するための、カスパーゼ3活性化剤及びエフェクターの使用が提供される。また、本発明の別の実施形態のように、カスパーゼ3活性を弱めることにより幹細胞の分化を抑制するための、カスパーゼ3抑制剤の使用が提供される。
【0043】
本発明中、カスパーゼ3調節剤は、カスパーゼ3タンパクそのもの(あるいはカスパーゼ3の前駆体)に作用する直接的なカスパーゼ3活性調節剤でも、シグナル伝達経路中カスパーゼ3の上流もしくは下流で作用する1つ以上のタンパクの活性を調節する間接的なカスパーゼ3活性調節剤であってもよい。
【0044】
1.カスパーゼ3活性化剤及びエフェクター
本発明中、活性化剤とは、カスパーゼ3が活性になるようにするか、またはカスパーゼ3活性を向上させるかの何れかにより、カスパーゼ3活性を促進する化合物である。エフェクターとは、カスパーゼ3シグナル伝達経路においてカスパーゼ3の下流に作用してカスパーゼ3活性の効果を高める化合物である。すなわち、エフェクターは、カスパーゼ3の活性化により生じる分子的事象及び細胞的事象のカスケードの一部であるか、あるいはこのカスケードの一部を活性化するものであり、幹細胞の分化に影響を与えるものである。
このような活性化剤及びエフェクターの例としては、カスパーゼ3タンパク(前駆体及び活性体の両方を含む)、カスパーゼ3タンパクの生物学的に活性なラグメント、シグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって活性化されるタンパクあるいはその生物学的に活性なフラグメント、シグナル伝達経路においてカスパーゼ3を活性化するタンパクあるいはその生物学的に活性なフラグメント、前記タンパクやフラグメントをエンコードしているポリヌクレオチド、このポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及びカスパーゼ3を活性化するか、あるいはカスパーゼ3活性を向上させるか、あるいはカスパーゼ3の発現を促進する他の化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
1.1 タンパク及びポリペプチド
本発明の活性化剤及びエフェクターとして用いられるタンパク及びポリペプチドには、カスパーゼ3タンパクあるいはその生物学的に活性なフラグメント、シグナル伝達経路においてカスパーゼ3により活性化されるタンパクあるいはその生物学的に活性なフラグメント、及びシグナル伝達経路においてカスパーゼ3を活性化するタンパクあるいはその生物学的に活性なフラグメントが含まれる。シグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって活性化されるタンパクには、mammalian sterile twenty−like protein(MST1)、MEKK1、ASK1、SLKのようなカスパーゼ3のタンパク分解活性により直接活性化されるタンパク、及びMKK6、MKK3、p38α、p38γのようにカスパーゼ3によって直接活性化されたタンパクのキナーゼ活性の結果として間接的に活性化されるタンパクが挙げられる。
【0046】
当該分野において知られているように、タンパクのカスパーゼ活性化は、通常切断ステップを含み、その結果そのタンパクの活性体となる。例えば、MST1のカスパーゼ3活性化は、アミノ酸残基323−327間にあるモチーフでの切断により起こることが要求される(Juo, et al., Mol. Cell. Biol. (1997) 17:24−35参照)。従って、本発明は、アミノ酸1−327を含むMST1の活性体のような、前記タンパクの活性体を用いることも想定している。
【0047】
生物学的に活性なフラグメントとは、野性型タンパクと実質的に同じ活性を有する自然発生の(あるいは野生型の)タンパクのフラグメントであり、前記タンパクの活性化体も、実質的に同じ活性を有するより小さなあるいはより大きなフラグメントも含む。タンパクの活性フラグメントの例として、アミノ酸1−330を含むMST1のフラグメントが挙げられる(Kolodziejczyk, et al., Curr. Biol. (1999) 9:1203−1206、及び本発明の実施例1参照)。
【0048】
候補フラグメントは、野性型タンパクから生じたランダムフラグメントから選択することができ、あるいは、特別にデザインすることもできる。フラグメントの活性を野性型タンパクの活性と比較試験し、野性型タンパクと実質的に同じ活性を有するフラグメントを選択する。ポリペプチドフラグメントを生成する方法は当該分野においてよく知られており、野性型タンパクあるいはその組換え体の酵素的、化学的、または機械的切断、このようなフラグメントをエンコードするポリヌクレオチドの発現などの方法がある。
【0049】
本発明に従って、タンパクやポリペプチドはその本来有する活性を保持するような方法で調製される。アミノ酸残基を除去あるいは追加してもよいことや、あるいは野性型タンパクのアミノ酸配列において野性型タンパクと実質的に同じ生物学的活性を有する変異タンパクまたはフラグメントを生成するようなアミノ酸残基に置換してもよいことは、当業者に理解されている。このような変異タンパクやフラグメントは、本発明の範囲内であると考えられる。
【0050】
本発明中、変異タンパクまたはタンパクフラグメントは、それらが野性型タンパクの50%の活性を示すとき、野性型タンパクと実質的に同等の活性を有するとみなす。ある実施例では、変異タンパクまたはフラグメントは野性型タンパクの60%の活性を示す。別の実施例では、変異タンパクまたはフラグメントは、野生型タンパクの75%の活性を示す。また別の実施例では、変異タンパクまたはフラグメントが野性型タンパクの90%の活性を示す。
【0051】
本発明のタンパク及びポリペプチドは、細胞抽出物からの精製、あるいは組換え技術の使用(Colligan et al. Current Protocols in Protein Science, John Wiley & Sons, New York; Ausubel et al. (1994 & updates) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York参照)など、当該分野で公知の方法により調製することができる。
カスパーゼ3シグナル伝達経路に関わる多くのタンパクのアミノ酸系列は、当該分野において知られている。例えば、
カスパーゼ3 [Genbank Accession Nos. gi|857569, NP_033940 (mouse)及びAAA74929 (human)](図7も参照)、
MST1[Genbank Accession No. gi|1117791](図9も参照)、
MEKK1[Genbank Accession No. gi|2815888]、
ASK1[Genbank Accession No. gi|1805500]、
SLK[Genbank Accession Nos. AAD28717 (mouse)及びgi|7661994 (human, putative)、
MKK6[Genbank Accession Nos. NP_036073 (mouse)、NP_114365及びNP_002749 (human)]、
MKK3[Genbank Accession Nos. NP_032954 (mouse)及びNP_659732 (human)]、
p38α[Genbank Accession Nos. NP_036081 (mouse)及びNP_001306 (human)]、
p38γ[Genbank Accession Nos. NP_002960 (human)及びNP_038899 (mouse)]等が挙げられる。
【0052】
これら配列の一つに由来するポリペプチド、またはそのフラグメントは、当該分野の既知の方法により化学合成することもできる。例えば、排他的固相合成、部分的固相合成、フラグメント縮合、あるいは古典的な溶液合成(Merrifield (1963) J. Am. Chem. Soc.,85:2149; Merrifield (1986) Science 232:341)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明のタンパク及びポリペプチドは、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、サイジングカラムクロマトグラフィー、あるいは高速液体クロマトグラフィーなど)、遠心分離、溶解度差のような標準的な手法を用いて、あるいは、当業者によく知られているその他の手法により、精製することができる。
【0053】
1.2ポリヌクレオチド
本発明の一つの実施形態において、タンパク及びポリペプチドは組換え技術によって作られる。このような技術は当該分野においてよく知られており(例えば、Sambrook et al., (2000) Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Ausubel et al. (1994 & updates) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York参照)、通常タンパクやポリペプチドをエンコードするDNAの全部あるいは一部含む発現ベクターを用いた適当な宿主細胞のトランスフォーメーション(トランスフェクション、トランスダクション、インフェクションなども含む)を含む。
ヒト及びマウスから分離されたカスパーゼ3遺伝子のヌクレオチド配列は、当該分野において知られており(Tewari et al. (1995) Cell 81:801−809; GenBank Accession Nos. gi|857568及びU26943 (human)及びNM_009810 (mouse);図6も参照)、MST1のヌクレオチド配列も同様である(Creasey and Chernoff (1995) J.Biol.Chem. 260:21695− 21700; GenBank Accession No. gi|1117790;図8参照)。
カスパーゼ3シグナル伝達経路に関連する他の多くのタンパクの遺伝子配列が知られており、例えば、
MEKK1[Genbank Accession Nos. gi|2815887, NM_011943 (mouse), NM_031988及びNM_002758 (human)]、
ASK1[Genbank Accession No. gi|1805499]、
SLK[Genbank Accession Nos. gi|4741822及びAF112855 (mouse)及びgi|7661994 (human, putative)]、
MKK6[Genbank Accession No. gi|1209670]、
MKK3[Genbank Accession Nos. gi|685173, NM_008928 (mouse)及びNM_145110 (human)]、
p38α[Genbank Accession Nos. gi|529039, NM_011951 (mouse)及びNM_001315 (human)]、及び
p38γ[Genbank Accession Nos. gi|1772645, NM_002969 (human)及びNM_013871 (mouse)]が挙げられる。なお、上記Accession Noは、単に代表的な例として挙げたものであり、何れもこれに限定することを意図するものではない。当業者により容易に認識されるように、前記に挙げた多くの遺伝子の転写変異体が生まれ、当該分野において知られている。例えば、MMK6、MKK3、p38α、p38γなどは全て転写変異体を持つことが知られている。これらの転写変異体も本発明の範囲内に含まれる。
【0054】
本発明にかかるタンパクまたはポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドは、標準的な手法により適当な起源から容易に精製することができる。ポリヌクレオチドはゲノムDNAやゲノムRNAであることができ、あるいは標準的な手法により分離されたmRNAから調製されたcDNAであることができる。ポリヌクレオチドを得るための適当な起源は、カスパーゼ3シグナル伝達カスケードにおいてカスパーゼ3及び他のタンパクを発現することが知られている細胞であり、例えば筋細胞、肝細胞、胸線細胞、心筋細胞、神経細胞などの細胞である。
さらに、カスパーゼ3及びMST−1を含むカスパーゼ3シグナル伝達カスケード中のタンパクをエンコードするポリヌクレオチドは、市販されている(例えば、Stratagene(La Jolla, CA)から入手可能なクローンバンククレクションより)。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドと用いるのに適当な発現ベクターとして、プラスミド、ファージミド、ウィルス粒子及びベクター、ファージなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。昆虫細胞の場合、バキュロウィルス発現ベクターが適している。発現ベクター全体もしくはその一部を宿主細胞ゲノムに統合することができる。ある条件下では、例えばthe LACSWITCHTM Inducible Expression System (Stratagene, LaJolla, CA)などのように、誘導可能な発現ベクターを採用することが好ましい。本発明の一つの実施形態においては、発現ベクターpcDNA3.1 Myc/His(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いている。
【0056】
分子生物学分野における技術者は、広汎で多様な発現系が組換えタンパクまたはポリペプチドを得るために用いることができるということを理解するであろう。使用される精密な宿主細胞は、本発明には重要ではない。タンパクやポリペプチドは原核性宿主中(例えば、E. coliあるいはB. subtilisなど)または真核性宿主中(例えば、SaccharomycesまたはPichia;COS, NIH 3T3, CHO, BHK, 293,あるいはヘラ細胞のような哺乳動物細胞;または昆虫細胞など)で作ることができる。
さらにタンパク及びポリペプチドは、植物細胞を使用して作ることもできる。植物細胞として、ウィスル発現ベクター(カリフラワーモザイクウィルスやタバコモザイクウィルスなど)及びプラスミド発現ベクター(Tiプラスミドなど)が適している。
トランスフォーメーションあるいはトランスフェクションの方法、及び発現ベクターの選択は、選択された宿主系に依存し、当業者により容易に決定することができる。トランスフォーメーション及びトランスフェクションの方法は、例えば、Ausubel et al. (1994) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York に記載されており、様々な発現ベクターを、例えばCloning Vectors: A Laboratory Manual (Pouwels et al., 1985, Supp. 1987)などにより提供されるものの中から選択すればよい。。
【0057】
発現ビヒクルを取り込んだ宿主細胞は、選択された遺伝子の活性化や抑制、トランスフォーメーションの選択、あるいは選択された遺伝子の増幅に必要なように、適当な従来の栄養培地中で培養することができる。
【0058】
野性型タンパクをエンコードするポリヌクレオチドは、部位特異的突然変異誘発のような標準的手法により変化させることができ、その結果、核酸がコード配列から削除されたり、及び/又はコード配列に追加されたり、及び/又はその中で置換され、しかも活性タンパクまたはポリペプチドが依然として発現されるということは、当業者に明らかである。野性型タンパクと実質的に同等の活性を有するタンパクまたはポリペプチドをエンコードする核酸変異体は、本発明の範囲内であると考えられる。
【0059】
さらに、本発明のタンパク及びポリペプチドは、融合タンパクとして作ることができる。このような融合タンパクの一つの使用としては、タンパクまたはポリペプチドの精製あるいは検出の改善のためである。例えば、タンパクまたはポリペプチドは、免疫グロブリンFcドメインに融合し、得られた融合タンパクは、プロテインAカラムを使用して容易に精製することができる。融合タンパクの他の例としては、ヒスジチンタグに融合したタンパク又はポリペプチド(Ni2+レジンカラムで精製可能)、グルタチオン−Sトランスフェラーゼに融合したタンパク又はポリペプチド(グルタチオンカラムで精製可能)、あるいはビオチンに融合したタンパク又はポリペプチド(ストレプトアジビンラベル化磁気ビーズで精製可能)などが挙げられる。
【0060】
特定の開始シグナルが、クローン化されたポリヌクレオチドの効率的翻訳に要求されるかもしれない。このようなシグナルとしては、ATG開始コドンや隣接配列などが挙げられる。それ自身の開始コドン及び隣接配列を含む完全な野性型遺伝子またはcDNAを適当な発現ベクターに挿入する場合、追加的な翻訳調節シグナルは必要でないかもしれない。他のケースにおいては、おそらくATG開始コドンなどの外因性翻訳調節シグナルを与える必要がある。さらに、開始コドンは、挿入全体の翻訳を確実にするために、所望のコード配列のフレームの読み取りと同調していなければならない。
これらの外因性翻訳調節シグナル及び開始コドンは、天然及び合成の様々な起源のものであることができる。発現効率は、適当な転写促進要素、転写終止因子を含むことによって促進されてよい(Bittner et al. (1987) Methods in Enzymol. 153, 516)。
【0061】
さらに、当業者により容易に認識されるように、宿主細胞として、挿入された配列の発現を調節するもの、あるいは特定の所望の種類に遺伝子産物を修飾及び処理するものを選択してもよい。タンパク産物のこのような修飾(例えば、グリコシル化など)及び処理(例えば、切断など)は、タンパクの活性に重要であるかもしれない。別の宿主細胞は、タンパク及び遺伝子産物を翻訳後処理及び修飾するのに、特徴的で特異的なメカニズムを有する。適当な細胞系列または宿主系は、発現される異質タンパクの正しい修飾及び処理を確実にするように、当業者が選択することができる。
【0062】
本発明の一つの実施形態において、タンパク/ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドは、幹細胞に直接導入する。当業者は、この特別な適用のために、発現ベクターの選択がより重要であるということを認識するであろう。本目的に適したベクターは当該分野において知られており、通常はウィルスベースのベクターである。代表的な例はここに記載されている(遺伝子治療の欄及び実施例を参照)。
【0063】
1.3その他の化合物
カスパーゼ3の活性化剤またはエフェクターとして作用する能力が隠されているかもしれない候補化合物は、任意にあるいは合理的に選択することができ、また、デザインすることもできる。
ここで用いているように、幹細胞の分子成分、あるいは共培養を用いた場合には他の細胞の分子成分との潜在的関連に伴う特異的相互作用を考慮せずに化合物を任意に選択した場合は、その候補化合物は任意に選択されたと言う。候補化合物の任意の抽出の例は、ケミカルライブラリーまたはペプチドコンビナトリアルライブラリーまたは生物の成長ブロスの使用である。
ここで用いているように、標的部位の配列及び/又はコンフォメーションやその化合物の作用に関連したプロセスを考慮した非任意基準により化合物を選択する場合、その候補化合物は合理的に選択された、あるいはデザインされたと言う。候補化合物は、例えば、標的部位を作り上げるヌクレオチド又はペプチド配列を用いて、合理的に選択あるいは合理的にデザインすることができる。例えば、合理的に選択されたペプチドは、そのアミノ酸配列が機能的に共通な部位と同一であるか、あるいはその誘導体であるようなペプチドであることができる。
【0064】
本発明に係る候補化合物は、例えば、ポリヌクレオチド、小さな分子(ポリペプチドを含む)、抗体(及び/またはそのフラグメント)、合成有機分子、自然発生の有機分子、ビタミン誘導体、炭水化物、及びそれらの成分あるいは誘導体などであることができる。
【0065】
前記候補化合物は、分離されたもの、分離されていないもの、純粋なもの、部分的に精製されたもの、あるいは粗混合物の状態でもよい。例えば、細胞、細胞由来の溶解物又は抽出物、あるいは細胞由来の分子の形であってもよい。候補化合物が一つ以上の分子を含む組成物中にある場合、その組成物をそのまま及び/又は適当な方法により任意に分割したサンプルについて、本発明記載の方法または別の方法を用いて試験し、カスパーゼ3活性化剤あるいはエフェクターとして作用する組成物の特定の機能あるいは成分を同定してもよいと考えられる。さらに、試験組成物のサブ画分を再分割し、カスパーゼ3活性化剤あるいはエフェクターとして同定されたサブコンビネーションから不活性成分を除くことを最終的な目的として、本発明の方法を用いて繰り返し分析してもよい。化合物の分離及び/又は精製及び/又は同定の中間的ステップは、本発明の方法の使用前及び/又は使用中及び/又は使用後に必要とされ、あるいは適当に含まれてもよい。
【0066】
候補化合物は、合成化合物あるいは天然化合物の膨大なライブラリーの形で得ることができる。現在多数の手法が糖類、ペプチド及び核酸をベースとする化合物の任意及び方向的な合成に用いられ、それらは当該分野において公知である。合成化合物ライブラリーは多くの会社から市販され、例えば、Maybridge Chemical Co.(Trevillet, Cornwall, UK)、Comgenex (Princeton, N.J.)、Brandon Associates (Merrimack, N.H.)、Microsource (New Milford, Conn.)などが挙げられる。希少な化学ライブラリーは、Aldlich(Milwaukee,Wis.)から入手できる。コンビナトリアルライブラリーも入手可能であり、また標準的な手法により調製することができる。
また、バクテリア、菌類、植物及び動物の抽出物の形態の天然化合物ライブラリーも例えば、Pan Laboratories (Bothell, Wash.)、MycoSearch (North Carolina)などから入手可能であり、また容易に作り出すこともできる。さらに、天然及び合成的に作られたライブラリー及び化合物は、通常用いられる化学的、物理的、及び生化学的手段によって容易に修飾される。
【0067】
2. カスパーゼ3抑制剤
本発明中、抑制剤とは、カスパーゼ3タンパクまたは遺伝子に作用して直接カスパーゼ3活性を減少させる化合物、あるいはカスパーゼ3シグナル伝達経路中、カスパーゼ3の上流または下流に作用して間接的にカスパーゼ3の活性あるいは効果を減少させる化合物である。すなわち、抑制剤は、カスパーゼ3活性化に導く、あるいはカスパーゼ3活性化の結果として生じる分子的及び細胞的事象のカスケードの一部を弱めるまたは不活性化する。
【0068】
本発明に係る抑制剤の例として、カスパーゼ3タンパクのオリゴヌクレオチド抑制剤(例えば、アンチセンス分子など)、抗体、生物学的に不活性なフラグメントまたは変異体;シグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって活性化されるタンパクの生物学的に不活性なフラグメントまたは変異体;シグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって不活性化されるタンパクまたはその生物学的に活性なフラグメントや変異体;シグナル伝達経路においてカスパーゼ3を活性化するタンパクの生物学的に不活性なフラグメントまたは変異体;シグナル伝達経路においてカスパーゼ3を抑制するタンパクまたはその生物学的に活性なフラグメントや変異体;これらのタンパク、フラグメントまたは変異体をエンコードする核酸配列、及びカスパーゼ3の活性を低下させるあるいはカスパーゼ3の発現を減少させる他の化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
シグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって活性化されるタンパクとしては、前記記載のものが挙げられる。カスパーゼ3活性を抑制するタンパクとしては、XIAP、c−IAP2、c−IAP1、スルビビンなど直接的にカスパーゼ3を抑制するものが挙げられる。また、カスパーゼ3活性化タンパク(カスパーゼ1、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、グランザイムBなど)の抑制によって間接的にカスパーゼ3活性を制限するタンパクも挙げられ、I−FRICE、CrmA、XIAP、c−IAP2、c−IAP1、スルビビンなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
2.1 オリゴヌクレオチド抑制剤
本発明にかかるオリゴヌクレオチド抑制剤は、哺乳類のカスパーゼ3遺伝子またはMST1のようなカスパーゼ3によって活性化されるタンパクをエンコードする他の遺伝子、またはカスパーゼ3を活性化するタンパクをエンコードする遺伝子を標的とする。シグナル伝達経路の下流または上流で作用するタンパクをエンコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、当該分野において知られており、番号は前記の通りである(1.2欄)。他の公知の配列としては、
p38(GenBank Accession No. gi|1772645)、
p38(GenBank Accession No. gi|529039)、
XIAP(GenBank Accession No. gi|8923794)、
c−IAP2(GenBank Accession No. gi|3978243)、
c−IAP1(GenBank Accession No. gi|14770186)、
スルビビン(GenBank Accession No. gi|4502144)、
カスパーゼ1(GenBank Accession No. gi|537291)、
カスパーゼ8(GenBank Accession No. gi|2429161)、
カスパーゼ9(GenBank Accession No. gi|3056726)、
カスパーゼ10(GenBank Accession No. gi|3386522)、
グランザイムB(GenBank Accession No. gi|1247450)、
I−FLICE(GenBank Accession No. gi|2827289)、
CrmA(GenBank Accession No. gi|323401)
などが挙げられる。
【0071】
本発明の一つの実施形態において、オリゴヌクレオチド抑制剤は哺乳類のカスパーゼ3遺伝子を標的とする。別の実施形態においては、ヒトのカスパーゼ3遺伝子を標的とする。また別の実施形態においては、哺乳動物のMST1遺伝子を標的とし、また別の実施形態においては、ヒトのMST1遺伝子を標的とする。
【0072】
本発明中、「オリゴヌクレオチド抑制剤」という用語は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ショートインターフェリングRNA(siRNA)分子、リボザイム及び三重螺旋形成オリゴヌクレオチドを包含する。
【0073】
ここで用いているように「オリゴヌクレオチド」という用語は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、又はそれらの修飾された変異体のオリゴマーやポリマー、あるいはRNAやDNAのミメティクを指す。従って、この用語は、自然発生の核酸塩基、糖、及び共有結合性ヌクレオシド間(バックボーン)結合から構成されるオリゴヌクレオチドも、その機能は同等であるが非自然発生部分を持つオリゴヌクレオチドも含む。このような修飾あるいは置換オリゴヌクレオチドは、望ましい特性、例えば、増強された細胞内への取り込み、核酸ターゲットとの増強された親和性、ヌクレアーゼの存在下での向上した安定性などの特性のため、天然型よりも好ましいことが多い。
また、この用語は、キメラのオリゴヌクレオチドも含む。キメラオリゴヌクレオチドはとは、2つ以上の化学的に別個の領域を含み、各領域は少なくとも一つのモノマーユニットを含むオリゴヌクレオチドである。本発明に係るオリゴヌクレオチドは、一本鎖または2本鎖であることができる。
【0074】
当該分野において知られているように、ヌクレオシドとは塩基−糖の結合体であり、ヌクレオチドとは、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸基をさらに有するヌクレオシドである。オリゴヌクレオチドの形成においては、リン酸基が隣接したヌクレオシドをもう一つのヌクレオチドと共有結合して、3’から5’のリン酸ジエステル結合であるRNAやDNAの通常の鎖あるいは骨格を有する鎖状ポリマー化合物を形成する。
本発明において有用なオリゴヌクレオチドの具体例としては、修飾骨格もしくは非天然ヌクレオシド間結合を有するものが挙げられる。本明細書で定義しているように、修飾骨格を有するオリゴヌクレオチドとは、骨格中にリン原子を有するもの及びリン原子を持たないものの両方を含む。本発明の目的において、当該分野において時々言及されるように、リン原子をヌクレオシド間骨格中に持たない修飾オリゴヌクレオチドもオリゴヌクレオチドと見なすことができる。
【0075】
本発明にかかるオリゴヌクレオチドに包含することができる修飾オリゴヌクレオチド骨格として、例えば、ホスホロチオエート型、キラルなホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロトリエステル、アミノアルキルホスホロトリエステル、3’−アルキレンホスホネートやキラルホスホネートを含むメチルホスホネートあるいは他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3’−アミノホスホラミドやアミノアルキルホスホラミドを含むホスホラミド、チオノホスホラミド、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、ならびに、通常の3’−5’結合を有するボラノホスフェート、これらの2’−5’結合アナログ、及びヌクレオシドユニットの隣接ペアが3’−5’から5’−3’、あるいは2’−5’から5’−2’と逆の極性であるアナログなどが挙げられる。また、様々な塩、混合塩、遊離酸型も含まれる。
【0076】
リン酸原子を含まない修飾オリゴヌクレオチド骨格の例としては、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合へテロ原子とアルキルまたはシクロアルキル結合ヌクレオシド間結合、あるいは1つ以上の短鎖ヘテロ原子またはヘテロ環ヌクレオシド間結合により形成されるものなどが挙げられる。このような骨格として、モルフォリノ結合(ヌクレオシドの糖部から部分的に形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシド、及びスルホン骨格;ホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノ骨格;スルホネート及びスルホンアミド骨格;アミド骨格;及び混在したN、O、S及びCHの構成部分を有する他の骨格などが挙げられる。
【0077】
ここで用いられる「アルキル」という用語は、1〜20の炭素原子を有する一価のアルキル基を指す。本発明の一つの実施形態において、アルキル基は1〜6の間の炭素原子を有する。適当なアルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、n−ヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
「シクロアルキル」とは、3〜20の炭素原子の、一つの環あるいは複数の縮合した環を有する環状アルキル基を指す。適当なシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロオクチルなどの単環構造、またはアダマンタニルなどの多環構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
また、本発明は、ヌクレオチドユニットの糖とヌクレオシド間結合との両方が新しい基で置き換えられたオリゴヌクレオチドミメティクも考慮している。塩基ユニットは、適当な核酸ターゲットとのハイブリダイゼーションのために維持される。このようなオリゴヌクレオチドミメティクの例で、優れたハイブリダイゼーション特性を示すものとして、ペプチド核酸(PNA)がある[Nielsen et al.,Science,254,1497−1500(1991)]。PNA化合物において、オリゴヌクレオチドの糖骨格はアミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格で置換される。核酸塩基は、保持されて骨格のアミド部位のアザ−窒素原子に直接的にまたは間接的に結合する。
【0080】
また、本発明に係る修飾オリゴヌクレオチドは、一つ以上の置換された糖部分を含んでいてもよい。例えば、オリゴヌクレオチドは、次の置換基の一つを有する糖を2’位に含んでいてもよい:OH;F;O−、S−、またはN−アルキル;O−、S−、またはN−アルケニル;O−、S−、またはN−アルキニル;又はO−アルキル−O−アルキル。前記のアルキル、アルケニル、及びアルキニルは、置換又は非置換の、C〜C10のアルキル、C〜C10のアルケニル及びアルキニルであってよい。これらの基の例は、O[(CHO]CH、O(CHOCH、O(CHNH、O(CHCH、O(CHONH、O(CHON[(CHCH]]であり、n及びmは1〜約10である。
あるいは、オリゴヌクレオチドは、次の置換基の一つを2’位に含んでいてもよい:C〜C10の低級アルキル、置換の低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O−アルカリルまたはO−アラルキル、SH、SCH、OCN、Cl、Br、CN、CF、OCF、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、オリゴヌクレオチドの薬物速度論的特性を改善する基、オリゴヌクレオチドの薬力学的特性を改善する基、及び類似の特性を有する他の置換基。具体例としては、2’−O−メチル(2’−O−CH)、2’−メトキシエトキシ(2’−O−CHCHOCH、2’−O−(2−メトキシエチル)または2’−MOEとしても知られる)[Martin et al., Helv. Chim. Acta, 78:486−504(1995)]、2’−ジメチルアミノオキシエトキシ(2’−O(CHON(CH基、2’−DMAOEとしても知られる)、2’−アミノプロポキシ(2’−OCHCHCHNH)、及び2’−フルオロ(2’−F)が挙げられる。
【0081】
また、オリゴヌクレオチドの別の部位、特に3’末端ヌクレオチドまたは2’−5’結合オリゴヌクレオチドの糖の3’位、及び5’末端ヌクレオチドの5’位に同様の修飾がされていてもよい。また、オリゴヌクレオチドは、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分のような糖ミメティクを含んでいてもよい。
【0082】
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、核酸塩基に対する修飾または置換も含んでよい。ここで用いられているように、「非修飾」あるいは「天然の」核酸塩基とは、プリン塩基であるアデニン(A)及びグアニン(G)、及びピリミジン塩基であるチミン(T)及びシトシン(C)及びウラシル(U)を含む。
修飾核酸塩基としては、次のような他の合成及び天然の核酸塩基が挙げられる:5−メチルシトシン(5−me−C);イノシン;5−ヒドロキシメチルシトシン;キサンチン;ヒポキサンチン;2−アミノアデニン;アデニン及びグアニンの6−メチル誘導体及び他のアルキル誘導体;アデニン及びグアニンの2−プロピル誘導体及び他のアルキル誘導体;2−チオウラシル,2−チオチミン及び2−チオシトシン;5−ハロウラシル及びシトシン;5−プロピニルウラシル及びシトシン;6−アゾウラシル、シトシン及びチミン;5−ウラシル(偽ウラシル);4−チオウラシル;8−ハロ,8−アミノ,8−チオール,8−チオアルキル,8−ヒドロキシル及び他の8−置換アデニン及びグアニン;5−ハロ、特に5−ブロモ,5−トリフルオロメチル及び他の5−置換ウラシル及びシトシン;7−メチルグアニン及び7−メチルアデニン;8−アザグアニン及び8−アザアデニン;7−デアザグアニン及び7−デアザアデニン;3−デアザグアニン及び3−デアザアデニンなど。さらに、核酸塩基としては、次のものに記載されているものも含まれる:米国特許第3,687,808号;The Concise Encyclopaedia Of Polymer Science And Engineering, (1990) pp 858−859, Kroschwitz, J. I., ed. John Wiley & Sons;Englisch et al., Angewandte Chemie, Int. Ed., 30:613 (1991);Sanghvi, Y. S., (1993) Antisense Research and Applications, pp 289−302、Crooke, S. T. and Lebleu, B., ed., CRC Press。
これら核酸塩基のうちのあるものは、本発明のオリゴマー化合物の結合親和性を増すのに特に有用である。このようなものとしては、5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン、2−アミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシル及び5−プロピニルシトシンなどのN−2及びN−6及びO−6置換プリンが挙げられる。5−メチルシトシン置換は、0.6〜1.2℃で核酸の二本鎖の安定性を高めることが示されている[Sanghvi, Y. S., (1993) Antisense Research and Applications, pp 276−278, Crooke, S. T. and Lebleu, B., ed., CRC Press, Boca Raton]。
【0083】
本発明における別のオリゴヌクレオチド修飾は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布あるいは細胞への取り込みを高める一つ以上の部分や接合体のオリゴヌクレオチドへの化学的結合である。
このような部分として、コレステロール部のような脂質部分(Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:6553−6556 (1989))、コール酸(Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Let., 4:1053−1060 (1994))、ヘキシル−S−トリチルチオールなどのチオエーテル(Manoharan et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 660:306−309 (1992); Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 3:2765−2770 (1993))、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 20:533−538 (1992))、ドデカンジオール残基やウンデシル残基などの脂肪族鎖(Saison−Behmoaras et al., EMBO J., 10:1111−1118 (1991); Kabanov et al., FEBS Lett., 259:327−330 (1990); Svinarchuk et al., Biochimie, 75:49−54 (1993))、ジ−ヘキサデシル−rac−グリセロールやトリエチルアンモニウム 1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rec−グリセロ−3−H−ホスホネートなどのリン脂質(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 36:3651−3654 (1995); Shea et al., Nucl. Acids Res., 18:3777−3783 (1990))、ポリアミン鎖やポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides & Nucleotides, 14:969−973 (1995))、アダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 36:3651−3654 (1995))、パルミチル部(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1264:229−237 (1995))、オクダデシルアミン又はヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部(Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 277:923−937 (1996))などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
当業者には、与えられたオリゴヌクレオチドの全ての位置が、均一に修飾されていることが必ずしも必要でないことがわかるであろう。従って、本発明は、前記修飾の一つ以上を一つのオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド内にある一つのオリゴヌクレオシドに取り入れることを考慮している。
【0085】
前記のように、キメラ化合物であるオリゴヌクレオチドは本発明の範囲内に含まれる。キメラオリゴヌクレオチドは、通常少なくとも1つの領域を含み、この領域では、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ分解に対する抵抗性の向上及び/又は細胞内への取り込みの増進及び/又は標的とする核酸との結合親和性の向上が付与されるようにオリゴヌクレオチドが修飾される。オリゴヌクレオチドの付加的な領域が、RNA:DNAまたはRNA:RNAハイブリッドを切断する能力を有する酵素の基質として働いてもよい。
【0086】
本発明中、オリゴヌクレオチドは、DNAヌクレアーゼ及びRNAヌクレアーゼによる分解の影響を受けにくいような修飾がされた場合、あるいはDNAヌクレアーゼやRNAヌクレアーゼからオリゴヌクレオチドを保護するようなデリバリービヒクル中にある場合には、「ヌクレアーゼ抵抗性」である。
ヌクレアーゼ抵抗性オリゴヌクレオチドとして、例えば、メチルホスホネート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、及びモルホリノオリゴマーなどが挙げられる。ヌクレアーゼ抵抗性を与えるのに適したデリバリービヒクルとしては、例えばリポソームである。
【0087】
さらに、本発明は、オリゴヌクレオチドの薬物速度論的特性を改善する基、または薬力学的特性を改善する基を含むオリゴオリゴヌクレオチドも考慮している。
【0088】
2.1.1 アンチセンスオリゴヌクレオチド
本発明において用いられる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、関心のある遺伝子(すなわち、カスパーゼ3シグナル伝達経路中のタンパクなど関心のあるタンパクをエンコードする遺伝子)から転写されるmRNAの部分に相補的なヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを意味する。
【0089】
本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、関心のある遺伝子を標的とする。本発明中、アンチセンスオリゴヌクレオチドの特定の核酸に対する「ターゲティング」は、通常、その機能が調節される核酸配列の同定から始まる多段階のプロセスである。本発明中、標的は、カスパーゼ3シグナル伝達経路中のタンパクをエンコードする遺伝子またはそれから転写されるmRNAである。
また、このターゲティングプロセスは、アンチセンス相互作用を生じた結果、遺伝子によりエンコードされたタンパクの発現の調節が起こるような核酸配列内の一つあるいは複数の部位を同定することを含む。標的となる部位が同定されると、所望の結果を与えるのに前記ターゲットと十分に相補的な(すなわち、十分な強さと特異性を持ってハイブリダイズする)オリゴヌクレオチドが選択される。
【0090】
一般に、遺伝子またはそれから転写されるmRNAには5つの領域があり、これらの領域はアンチセンス調節のターゲットとしてもよい:5’未翻訳領域(5’−UTR)、翻訳開始(またはスタート)コドン領域、自由読み取りフレーム(ORF)、翻訳終止(またはストップ)コドン領域、及び3’未翻訳領域(3’−UTR)。
【0091】
「翻訳開始コドン」及び「スタートコドン」との用語は、たとえ各々の場合において開始アミノ酸が通常(真核生物において)メチオニンであっても、多くのコドン配列を包含し得る。また、当該分野においては、真核生物の遺伝子は2つ以上の代替スタートコドンを有し、これらの何れか1つが、特定のタイプの細胞や組織中、または特定の条件下で翻訳開始のために優先的に利用され得ることも知られている。本発明中、「スタートコドン」及び「翻訳開始コドン」は、コドンの配列に関わらず、関心をもっているタンパクをエンコードする遺伝子から転写されたmRNA分子の翻訳を開始するために、in vivoで用いられる一つ又は複数のコドンを指す。
【0092】
当該分野において知られているように、いくつかの真核生物の転写産物は直接翻訳されるが、大抵の哺乳動物の遺伝子、あるいは自由読み取りフレーム(ORFs)は、翻訳される前に転写産物から切り取られる一つ以上の配列を含み、これは「イントロン」として知られている。ORFの発現部分(切り取られない部分)は「エクソン」と呼ばれ、これらがつなぎ合わせられてmRNA転写産物を形成する(Alberts et al., (1983) Molecular Biology of the Cell, Garland Publishing Inc., New York, pp. 411−415)。
本発明中、イントロン及びエクソンは両方とも、アンチセンスのための標的となってよい。ある場合には、ORFも、in vivoでのいくつかの機能的重要性によりアンチセンスの標的とすることができる部位を1つ以上含んでいてもよい。後者のタイプの部位の例としては、遺伝子内のステム・ループ構造(例えば、米国特許第5,512,438号参照)や、非処理mRNA分子(一次転写産物)においてはイントロン/エクソンの結合部位が挙げられる。
また、当該分野において知られているように、一次RNA転写産物は、エクソンのスプライシングによってin vivoで処理されてもよく、よって、これは同じ遺伝子に相当するが構造は異なるスプライシングされたmRNA分子を作り出すことができる。さらに、mRNA分子は、アンチセンスのターゲットとしてもよい5’キャップ領域を有する。mRNAの5’キャップ領域は、mRNAの5’最残基(5’−most residue)に5’−5’トリフォスフェート結合を介して結合しているN−メチル化グアノシン残基を含む。mRNAの5’キャップ領域は、5’キャップ構造自体も、キャップに隣接した最初の50のヌクレオチドも含むと考えられる。
【0093】
このように、本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、イントロンを含む完全な遺伝子の領域、遺伝子の一次mRNA転写産物、あるいは関心のある遺伝子から転写されたmRNAの1つ以上の最終的なスプライシングされたものに相補的であることができる。
【0094】
本発明に用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、関心のある遺伝子と相補的であり、二本鎖、ヘアピン構造を形成するあるいはホモオリゴマー/配列リピートを含む可能性を少なくとも示す配列から選ばれる。さらに、オリゴヌクレオチドはGCクランプを有することができる。当業者は、これらの特性を、様々なコンピューターモデリングプログラム、例えば、program OLIGO(R) Primer Analysis Software, Version 5.0 (distributed by National Biosciences, Inc., Plymouth, MN)などを利用して定性的に決定可能であるということを認識している。
【0095】
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、2つ以上のスピーシーズの遺伝子の間で高度に保存される標的遺伝子の領域を構成する核酸配列に相補的であるものを選択することができる。これらの特性は、例えば、National Center for Biotechnology Information (NCBI) databasesとUniversity of Wisconsin Computer group (GCG) software (Devereux. et al., (1984) Nucleic Acids Res., 12:387−395)のBLASTN program (Altschul, et al., (1990) J. Mol. Biol., 215:403−10)を利用して決定することができる。
【0096】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが、有効であるために、その標的配列の相補体と100%の同一性を有する必要はないということは、当該分野において理解されている。従って、本発明にかかるアンチセンスオリゴオリゴヌクレオチドは、標的配列の相補体と少なくとも約70%同一の配列を有する。本発明の一つの実施形態においては、アンチセンスオリゴオリゴヌクレオチドは、標的配列の相補体と少なくとも約80%同一の配列を有する。また別の実施形態においては、標的配列の相補体と少なくとも約90%同一、あるいは少なくとも95%同一であり、いくつかの塩基のギャップやミスマッチは許容される。同一性は、例えば、前記University of Wisconsin Computer group (GCG) softwareのBLASTN programを用いて決定することができる。
【0097】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドが関心のある遺伝子の発現抑制において機能するために、それらが標的配列に十分な特異性を示し、細胞中の他の核酸配列に結合しないことが必要である。従って、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列の相補体と適当なレベルの配列同一性を有すると同時に、他の既知の配列とは密接に類似しているべきではない。
従って、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、何れの他の哺乳動物の核酸配列とも同一性が50%未満であるべきである。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの他の配列に対する同一性は、例えば前記BLASTN program及びNCBI databasesの使用などにより決定することができる。
【0098】
本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、通常7〜100ヌクレオチド長さである。一つの実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドは約7〜50ヌクレオチド、またはヌクレオチドアナログを含む。関連する実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約7〜35ヌクレオチドあるいはオリゴヌクレオチドアナログ、及び約15〜25ヌクレオチドあるいはオリゴヌクレオチドアナログを含む。
【0099】
本発明の別の実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドは1つ以上のホスホロチオエート骨格結合を含む。関連の実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチド中の全骨格結合は、ホスホロチオエート結合である。
【0100】
本発明のもう一つの実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエートと2’−O−メチルの混在する骨格を持つキメラ分子である。関連した実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドはさらにTCCCモチーフを含む。アンチセンスオリゴヌクレオチド中のこのようなモチーフの存在は、mRNA:DNA二本鎖がRnase Hが介在する分解を受ける可能性を高めることが示されている。Rnase Hは、RNA:DNA二本鎖のRNA鎖を切断する細胞性エンドヌクレアーゼである。従って、アンチセンス治療において、Rnase Hの活性化は、mRNA標的の切断を引き起こし、それによって遺伝子発現のオリゴヌクレオチド抑制効率が著しく高まる。
【0101】
2.1.2 ショートインターフェリングRNA(siRNA)分子
ショートインターフェリング二本鎖RNA分子(siRNA)が介在するRNA干渉は、当該分野において、転写後遺伝子サイレンシングにおいて重要な役割を果たすことが知られている(Zamore, Nature Struc. Biol., 8:746−750 (2001))。本質的に、siRNAは通常21〜22塩基対長さで、長い二本鎖RNA分子が内因性リボヌクレアーゼの作用により切断された時に生じる。最近では、標的遺伝子と同一の配列をもつ合成siRNA分子での哺乳動物細胞のトランスフェクションが、標的遺伝子のmRNAレベルを低下させることが示されている[Elbashir, et al., Nature, 411:494−498 (2001)]。
【0102】
本発明に係るオリゴヌクレオチド抑制剤は、関心のある遺伝子を標的とするsiRNA分子であることができ、その結果、siRNAの配列は前記遺伝子の一部に相当する。当該分野において知られているように、有効なsiRNA分子は通常30塩基対長さより小さく、それがインターフェロン応答を介して細胞内の非特異的RNA干渉経路の引き金となるのを妨げるのを助ける。従って、本発明の一つの実施形態においては、siRNA分子は約15〜25塩基対長さである。関連する実施形態において、siRNA分子は約19〜22の塩基対長さである。
【0103】
二本鎖siRNA分子は、さらに、Rnaseが介在する分子の分解を最小限に抑えるために、3’末端及び5’末端にpoly−Tまたはpoly−Uの突出部を含むことができる。従って、本発明の別の実施形態においては、siRNA分子は、3’末端及び5’末端に2個のチミジン残基または2個のウリジン残基を有する突出部を含む。siRNA分子のデザイン及び構築については、当該分野において知られている[例えば、Elbashir, et al., Nature, 411:494−498 (2001); Bitko and Barik, BMC Microbiol., 1:34 (2001)参照]。
さらに、in vitro転写によるsiRNA分子の構築のための迅速かつ効率的手段を提供するキットも市販されており(Ambion, Austin, TX; New England Biolabs, Beverly, MA)、本発明に係るsiRNA分子の構築に用いてもよい。
【0104】
2.1.3 リボザイム
本発明に係るオリゴヌクレオチド抑制剤は、関心のあるタンパクをエンコードするmRNAを特異的に標的とするリボザイムであることができる。当該分野において知られているように、リボザイムとは、別の分割されたRNA分子をヌクレオチド配列特有の方法で連続的に切断することが可能な酵素活性を有するRNA分子である。このうな酵素活性を有するRNA分子は、実質的にどんなmRNA転写産物も標的とすることができ、効率的な切断をin vitroで行うことができる[Kim et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:8788, (1987); Haseloff and Gerlach, Nature, 334:585, (1988); Cech, JAMA, 260:3030, (1988); Jefferies et al., Nucleic Acids Res., 17:1371, (1989)]。
【0105】
通常、リボザイムは非常に近接した2つの部位を含む:それは、標的mRNA配列に相補的な配列を持つmRNA結合部位と、標的mRNAを切断するように作用する触媒部位である。リボザイムはまず、リボザイムの標的mRNA結合部位による相補的な塩基対形成によって標的mRNAを認識し結合することにより作用する。標的に特異的に結合すると、リボザイムはこの標的mRNAの切断を触媒する。このような戦略的切断により、エンコードされたタンパクの合成を指示する標的mRNAの能力が破壊される。リボザイムがmRNA標的に結合しこれを切断すると、リボザイムは放れ、新しい標的mRNA分子と結合し、切断を繰り返すことができる。
【0106】
最も特徴的なリボザイム分子の一つは、「ハンマーヘッドリボザイム」である。ハンマーヘッドリボザイムは、ヌクレオチド配列において、標的mRNAの少なくとも一部に相補的であるハイブリダイジング領域、及び標的mRNAに結合して切断する触媒領域を含む。一般に、ハイブダイジング領域は少なくとも9ヌクレオチドを含む。従って、本発明は、オリゴヌクレオチド抑制剤をハンマーヘッドリボザイムのハイブリダイジング領域の一部として利用することも考慮している。このときのハイブリダイジング領域は、関心のあるタンパクをエンコードする遺伝子に相補的な少なくとも9個のヌクレオチドを含み、適当な触媒ドメインに結合している。このようなリボザイムの構築及び作製は、当該分野においてよく知られている[例えば、Haseloff and Gerlach, Nature, 334:585−591 (1988)参照]。
【0107】
また、本発明に係るリボザイムには、Tetrahymena thermophila(IVSまたはL−19 IVS RNAとして知られている)に自然に発生するもののようなRNAエンドリボヌクレアーゼ(以下、「Cechタイプリボザイム」という)も含まれ、これは、文献に広く記載されている[Zaug, et al., Science, 224:574−578 (1984); Zaug and Cech, Science, 231:470−475 (1986); Zaug, et al., Nature, 324:429−433 (1986); 米国特許第4,987,071号; Been and Cech, Cell, 47:207−216 (1986)参照]。Cechタイプリボザイムは、8ヌクレオチドの活性部位を有し、これが標的mRNA配列にハイブリダイズし、次いでリボザイムにより標的mRNAを切断する。
【0108】
当業者は、リボザイムと、最大のリボザイム活性を産み出す基質との間の結合自由エネルギーの範囲が狭いことを理解している。このような結合エネルギーは、mRNA結合部位においてGがI(イノシン)に、UがBrU(ブロモウラシル)に置換したリボザイムとするのに利用することができる。このような置換は、標的認識配列や、mRNA結合部位の長さ、あるいはリボザイムの酵素部位を変えることなく、結合自由エネルギーを操作することを可能にする。
自由エネルギー対リボザイム活性曲線の形は、リボザイム/基質相互作用の規模を変更する複雑さなしに、各塩基(あるいは幾つかの塩基)が修飾あるいは非修飾の当該分野で既知の標準的実験データを用いて容易に決定することができる。
【0109】
必要であれば、このような実験を用いて活性が最大であるリボザイムの構造を示すことが可能である。従って、修飾塩基の使用は、結合自由エネルギーの「微調整」が最大リボザイム活性を確かなものとすることを可能にすし、これは、本発明の範囲内であると考えられる。さらに、非標的RNAの切断が問題となる場合には、前記のような塩基の置換、例えば、GをIとするような置換により、基質特異性のレベルをより高めてもよい。
【0110】
2.1.4 三重螺旋形成オリゴヌクレオチド
本発明の別の実施形態において、抑制剤は、標的遺伝子の5’末端にハイブリダイズし三重螺旋構造を形成するオリゴヌクレオチドであり、よって、これは転写をブロックするために用いることができる。三重螺旋形成オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドと関連して前記記載のように調製することができる。
【0111】
2.1.5 オリゴヌクレオチド抑制剤の有効性
関心のある遺伝子の発現抑制における本発明に係るオリゴヌクレオチド抑制剤の有効性は、当該分野において知られている多くの異なる方法を用いて決定することができる。本発明のオリゴオリゴヌクレオチドの有効性決定に使用可能な方法の例を以下に挙げる。
【0112】
本発明のオリゴヌクレオチド有効性の最初の決定は、in vitro技術を用いて行うことができる。例えば、オリゴヌクレオチドを、標的遺伝子が正常にあるいは過剰に発現する細胞系に導入し、その遺伝子から転写されたmRNAの量を、ノーザンブロット分析法や定量的RT−PCR法などの標準的技術により測定することができる。あるいは、その細胞で生成された標的タンパクの量を、例えばウェスタンブロット分析法などにより測定することができる。その後、オリゴヌクレオチドで処理した細胞中で生成されるmRNAまたはタンパクの量を、コントロールの細胞、すなわち未処理の細胞またはコントロールのオリゴヌクレオチドで処理された細胞で生成された量と比較し、どれだけオリゴヌクレオチドが遺伝子発現を抑制できたかという結果が得られる。
mRNA標的に対するオリゴヌクレオチドの特異性は、適当なコントロール実験を並行して行うことにより決定することができる。適当なコントロールは、調べるオリゴヌクレオチド抑制剤のタイプに依存し、当業者により容易に選択可能である。適当なコントロールの例としては、未処理の細胞や、任意あるいは「無作為」のオリゴヌクレオチドで処理した細胞、確定した数のミスマッチを含むオリゴオリゴヌクレオチドで処理した細胞、長鎖非特異的二本鎖RNA分子で処理した細胞、あるいは任意のオリゴオリゴヌクレオチドをそのmRNA結合ドメインに組み入れたリボザイムで処理した細胞などが挙げられる。これらを行うための方法は、当業者によく知られている(例えば、Ausubel et al., (2000) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons, New York: Coligan, et al., (2001) Current Protocols in Protein Science, Wiley & Sons, New York参照)。
【0113】
また、本発明のオリゴヌクレオチド抑制剤が標的タンパクの発現を抑制する能力は、オリゴヌクレオチドの存在下及び非存在下でのタンパクの総合的な細胞活性を分析することにより、in vitroで決定することができる。そのタンパクが酵素である場合、タンパクレベルは、そのタンパクに関連する酵素活性レベルを測定することにより決定され、例えば、その酵素によって触媒される反応の基質あるいは生産物の細胞レベルにおいて、抑制剤により誘発される変化を測定することにより決定することができる。当業者は、このようなタイプの分析において、当該分野において知られている様々な細胞系、レポーター遺伝子、及び決定法を用いることができるということを認識している。
【0114】
また、オリゴヌクレオチド抑制剤が標的タンパクの発現や活性を抑える能力、あるいは逆に幹細胞の増殖を促進するまたは分化を抑える能力は、移植片培養もしくは適当な動物モデルで決定することもできる。例えば、適当な濃度のオリゴヌクレオチド抑制剤をニューロスフェア培養物(Hitoshi et al. (2002) Genes & Dev. 16, 846−858参照)または完全な骨格筋線維培養物(Asakura et al. (2002) J. Cell. Biol 159, 123−134)とインキュベートし、これら移植片からの幹細胞の成長を抑制する能力を試験することができる。同様に、オリゴヌクレオチド抑制剤を、エデュケーター細胞として一次心筋細胞を用いた心臓幹細胞共培養物とインキュベートし、その増殖抑制能を評価することできる。
【0115】
また、オリゴヌクレオチド抑制剤の毒性は、まず標準的な技術を用いてin vitro評価することもできる。例えば、ヒト一次繊維芽細胞を、リポフェクタミンなどの市販の脂質担体の存在下、in vitroでオリゴヌクレオチドと処理することができる。その後、細胞をトリパンブルー排除試験のような標準的生存率測定法を用いて、その生存率を処理後の異なる時点で試験する。また、細胞を、例えばチミジン取り込み法を用いてそのDNA合成能も測定し、また、例えばフルオロサイトメーター細胞分類機(FACS)を組み合わせた標準的な細胞分類法を用いて細胞サイクル動態の変化も測定する。
【0116】
in vivoにおけるオリゴヌクレオチドの毒性効果は、当該分野において知られている方法、例えば、処理中の動物の体重に対する効果の測定や、その動物を死亡させた後の血液学的プロファイル及び肝酵素分析などにより評価することができる。
【0117】
2.1.6 オリゴヌクレオチド抑制剤の調製
本発明のオリゴヌクレオチド抑制剤は、当業者によく知られた通常の方法によって調製することができる。例えば、Applied Biosystems Canada Inc. (Mississauga, Canada)から入手可能な装置のような、市販の装置を用いた固相合成により調製することができる。当該分野においてよく知られているように、ホスホロチオエートやアルキル化誘導体などの修飾オリゴヌクレオチドも、同様の方法により容易に調製可能である。
【0118】
あるいは、本発明のオリゴヌクレオチド抑制剤は、当該分野において知られている標準的技術を用いて、自然発生の標的遺伝子またはmRNA、あるいはmRNAから合成されたcDNAの酵素的消化及び/又は増幅により、調製することができる。オリゴヌクレオチド抑制剤がRNAを含む場合、当該分野においても知られているin vitro転写法により調製できる。前記のように、siRNA分子も市販のin vitro転写キットを利用して簡便に調製できる。
【0119】
また、オリゴヌクレオチドも遺伝子組み換えDNA技術を利用して調製することが可能である。従って、本発明には、オリゴヌクレオチド抑制剤をエンコードする核酸配列を含む発現ベクターや、適当な宿主細胞中でのエンコードされたオリゴヌクレオチドの発現も含まれる。このような発現ベクターは、前記(1.2欄参照)のような当該分野において知られている手順を用いて容易に構築できる[Ausubel, et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc, NY. (1989 and updates)]。
【0120】
本発明に係るリボザイム抑制剤は、当該分野において知られている技術によって容易に構築することができる。これらの分子において、オリゴヌクレオチド配列は、リボザイムのハイブリダイジング部位またはmRNA結合部位に含まれ、適当な触媒作用部位に結合される。適当な触媒部位の選択は、構築すべきリボザイムのタイプに依存し、当業者が容易に決定できる[例えば、Haseloff and Gerlach, Nature, 334:585−591 (1988); 米国特許第4,987,071号参照]。
【0121】
2.2 タンパク及びポリペプチド抑制剤
本発明のタンパク及びポリペプチド抑制剤としては、カスパーゼ3タンパクの生物学的に不活性なフラグメントまたは変異体;シグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって活性化されるタンパクの生物学的に不活性なフラグメントや変異体;シグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって不活性化されるタンパクあるいはその生物学的に活性なフラグメントまたは変異体;シグナル伝達経路においてカスパーゼ3を活性化するタンパクの生物学的に不活性なフラグメントまたは変異体;及びシグナル伝達経路においてカスパーゼ3を抑制するタンパクあるいはその生物学的に活性なフラグメントまたは変異体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
生物学的に活性なフラグメントとは、野性型タンパクと実質的に同等の活性を有する野性型タンパクのフラグメントである。このようなフラグメントを得る方法の例は、前記のとおりである(1.1欄参照)。前記のとおり、変異タンパクまたはタンパクフラグメントが野性型タンパクの約50%の活性を示すとき、それは野生型タンパクと実質的に同等の活性を有すると認められる。
【0123】
また、本発明は、野性型タンパクの作用を妨害する、すなわちタンパク活性抑制剤として作用する、生物学的に不活性なタンパクあるいはそのフラグメントの使用も考慮している。本発明で考慮している生物学的に不活性なタンパクまたはフラグメントは、野性型タンパクよりも実質的に低い活性を有するものである。
【0124】
候補抑制フラグメントは、標準的方法を用いて野性型タンパクから得ることができる。本発明中、生物学的に不活性なタンパク、フラグメント、または変異体は、その活性が野性型タンパクの75%以下である場合に、実質的に野生型タンパクよりも低い活性を持つと見なす。別の実施形態においては、変異タンパクまたはフラグメントは、野性型タンパクの60%以下の活性を示す。また別の実施形態においては、生物学的に不活性な変異タンパクやフラグメントは、野性型タンパクの約50%以下の活性を示し、例えば、野生型タンパクの約1〜40%の間である。
【0125】
また、本発明は、カスパーゼ3、またはカスパーゼ3シグナル伝達経路中の他のタンパクに結合しその活性を抑制するペプチドも提供する。このようなペプチドを同定する方法の一例として、ファージディスプレイ法が挙げられる。任意の短鎖ペプチドのファージディスプレイライブラリーは、例えば、New England Biolabs, Inc.から入手可能であり、「パニング」として知られるin vitro選択法により利用される。最もシンプルな場合においては、パンニングは、まず最初に標的分子でコーティングされたプレートまたはビーズとファージディスプレイドペプチドのライブラリーをインキュベートし、その後結合しなかったファージ粒子を洗い流し、最後に特異的に結合したファージを抽出することを含む。標的分子の例としては、カスパーゼ3タンパクやそのフラグメントが挙げられる。
【0126】
その後、特異的結合ファージによってディスプレーされたペプチドは分離され、当業者に公知の標準的技術により配列決定される。いくつかの場合には、その後、分離されたペプチドの結合強度が標準的技術により試験される。
【0127】
ペプチドが同定されれば、様々なペプチドアナログ、ペプチド誘導体、及び同等の活性をシェアするペプチドミメティク化合物の調製に用いてもよい。このような化合物は、当該分野においてよく知られており、自然発生のペプチドに勝る利点、例えば、より高い化学的安定性、向上したタンパク分解抵抗性、増強した薬理学的特性(例えば、半減期、吸収、有効性、効能など)、変更された特殊性(例えば、広範囲の生物学的活性など)、及び/又は低減した抗原性などを有するかもしれない。
【0128】
本発明のタンパクまたはポリペプチド抑制剤は、前記のように当該分野において知られている方法によって調製することができる。例えば、細胞抽出物からの精製や遺伝子組換え技術の使用、あるいは化学合成などの方法が挙げられる。
【0129】
2.3 タンパク及びポリペプチド抑制剤をエンコードするポリヌクレオチド
本発明の一つの実施形態において、タンパク及びポリペプチド抑制剤は遺伝子組換え技術によって得られる。このような技術は当該分野においてよく知られており(例えば、Sambrook et al., (2000) Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Ausubel et al. (1994 & updates) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York参照)、大体は前記の通りである(1.2欄参照)。
【0130】
2.4 抗体
本発明は、カスパーゼ3シグナル伝達経路における標的タンパクに対して作られ、該タンパクと結合しこれを抑制する抗体及び抗体のフラグメントの使用も考慮している。本発明中、標的タンパクは、カスパーゼ3タンパクや、カスパーゼ3を活性化するタンパク、あるいはシグナル伝達経路においてカスパーゼ3によって活性されるタンパクである。
【0131】
抗体の産生に関し、様々な宿主、例えば、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、ヒトなどを、標的タンパク、または免疫原性を有するそれらのフラグメントあるいはペプチドで免疫することができる。宿主種に応じて、様々な補助剤を免疫応答を増強するために使用してもよい。このような補助剤として、例えば、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモリシン(KLH)、ジニトロフェノールなどの界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ヒトに用いられる補助剤の例としては、例えばBCG(bacilli Calmette−Guerin)やCorynebacterium parvumなどが挙げられる。
【0132】
抗体を誘導するために用いられるペプチドまたはタンパクフラグメントは、約5個のアミノ酸程しかない少ないアミノ酸配列を有することができる。本発明の一つの実施形態において、少なくとも約10個のアミノ酸であるアミノ酸配列が使用される。これらのペプチドまたはタンパクフラグメントは、野性型タンパクのアミノ酸配列の一部と同一であるか、自然発生の低分子のアミノ酸配列全体を含むことができる。必要であれば、標的タンパクのアミノ酸の短いストレッチを、KLHのような別のタンパクのそれと融合し、キメラ分子に対する抗体を作ることができる。
【0133】
標的タンパクに対するモノクローナル抗体は、連続する培養細胞系により抗体分子を産生するのための技術を用いて調製することができる。このような技術としては、ハイブリドーマ法やヒトB細胞ハイブリドーマ法、EBVハイブリドーマ法(例えば、Kohler, G. et al. (1975) Nature 256:495−497; Kozbor, D. et al. (1985) J. Immunol. Methods 81:31−42; Cote, R. J. et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:2026−2030; and Cole, S. P. et al. (1984) Mol. Cell Biol. 62:109−120参照)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明に係るモノクローナル抗体は、マウスやラットのような動物を精製されたタンパクで免疫することにより得ることができる。その後、免疫された動物から分離された脾細胞を、標準的技術を用いて不死化する。
【0134】
免疫動物から取り出された脾細胞の不死化は、例えば、J. Imm. Meth. 39:285−308(1980)の記載の方法に従って、これらの細胞をP3X63−Ag 8.653(ATCC CRL 1580)のような骨髄腫細胞系と融合することにより行うことができる。また、当業者に知られている別の方法も脾細胞の不死化に使用することができる。標的タンパクに対する所望の抗体を産生する不死化脾細胞を検出するために、培養液の上澄みサンプルの反応性を、例えば酵素免疫吸着測定法(ELISA)などを用いて検査する。標的タンパクの活性を抑制するこれらの抗体を得るために、、タンパクと結合する抗体を産生するクローンの培養液の上澄みを、さらに適当な分析法を用いてタンパク活性抑制を調べる。
その後、その培養液の上澄みに、標的タンパクの活性を抑制し、かつIC50が100ng/ml未満である抗体を含むような分離不死化細胞を選択し、当業者に知られている技術を用いてクローン化する。そして、これらのクローンによって作り出されたモノクローナル抗体を、標準的なプロトコルに従い分離する。
【0135】
さらに、適当な抗原特異性及び生物学的活性を持つ分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子へスプライシングするような、「キメラ抗体」産生技術を用いることができる(Morrison, S. L. et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:6851−6855; Neuberger, M. S. et al. (1984) Nature 312:604−608; and Takeda, S. et al. (1985) Nature 314:452−45)。また、一本鎖抗体の産生技術も、当該分野において知られている方法を用いて、標的タンパクに特異的な一本鎖抗体を得るのに用いることができる。関連する特異性を有するが別個のイディオタイプ組成の抗体は、任意のコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリーからの鎖混合により得ることができる(例えば、Burton D. R. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:10134−10137参照)。
【0136】
また、抗体は、リンパ細胞群のin vivo産生誘導により、あるいは免疫グロブリンライブラリー又は文献記載の高特異的結合試薬のパネルをスクリーニングすることにより得ることもできる(Orlandi, R. et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. 86: 3833−3837; Winter, G. et al. (1991) Nature 349:293−299)。
【0137】
標的タンパクに特異的に結合する部位を含む抗体フラグメントも得ることができる。例えば、F(ab’)2は抗体分子のペプシン消化によって産生でき、また、次いでF(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによりFabフラグメントを生じることができる。あるいは、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントを速やかにかつ簡便に同定できるように、Fab発現ライブラリーを構築することもできる(例えば、Huse, W. D. et al. (1989) Science 246:1275−1281参照)。
【0138】
様々な免疫学的検定法が、所望の特異性を有する抗体を同定するスクリーニングに利用可能である。競争的結合のための多くのプロトコル、または、確立された特異性を持つポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いる免疫放射定量測定法は、当該分野においてよく知られている。このような免疫学的検定法は、通常標的タンパクとその特異的抗体との複合体の形成を測定することを含む。このような技術の例としては、ELISAsやラジオイムノアッセイ(RIAs)、及び蛍光活性化細胞選別(FACS)などが挙げられる。あるいは、二つの非干渉エピトープに反応性のモノクローナル抗体を利用したツーサイトモノクローナルベース免疫学的検定法や、競争的結合検定を用いることもできる(Maddox, D. E. et al. (1983) J. Exp. Med. 158:1211−1216参照)。これら及びその他の分析法は当該分野においてよく知られている(例えば、Hampton, R. et al. (1990) Serological Methods: A Laboratory Manual, APS Press, St Paul, Minn., Section IV; Coligan, J. E. et al. (1997, and periodic supplements) Current Protocols in Immunology, Wiley & Sons, New York, N.Y.; Maddox, D. E. et al. (1983) J. Exp. Med. 158:1211−1216参照)。
【0139】
2.5 その他の化合物
また、本発明は、カスパーゼ3シグナル伝達経路の低分子抑制剤も提供する。例えば、ペプチド、ポリヌクレオチド、合成有機分子、自然発生有機分子、ビタミン誘導体、炭水化物、及びそれらの成分や誘導体などが挙げられる。低分子化合物は、経路中のタンパクに結合し、カスパーゼ3シグナルカスケードの正常な活性を妨害してよく、または野性型カスパーゼ3をエンコードする核酸あるいはシグナル伝達経路中の別のタンパクをエンコードする核酸に結合して、タンパクの発現を妨害してもよい。
カスパーゼ3の低分子抑制剤の例としては、DEVD.fmk(Garcia−Calvo et al. (1998) J. Biol. Chem. 273, 32608−32755)が挙げられる。その他の有効なカスパーゼ3低分子抑制剤として、Choong et al. (2002) J. Med. Chem. 45, 5005−5022に記載の化合物3、4、47c、59、62b、64b、66a、66b、69bの非ペプチド性ファーマコフォアが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0140】
カスパーゼ3シグナル伝達経路の抑制剤として作用する活性についてスクリーニングされた候補低分子は、当該分野において知られている標準的な方法ならびに前記に概説した方法(1.3欄参照)を用いて、任意にあるいは合理的に選択、あるいはデザインすることができる。
【0141】
カスパーゼ3活性調節剤の選択
本発明は、カスパーゼ3調節剤として作用し、幹細胞の細胞の運命に影響を及ぼす化合物を同定する方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、当該分野において知られている様々な技術を用いて、候補化合物がカスパーゼ3調節剤として作用する能力を決定することができる。例えば、候補化合物について、前記した代表的な方法(2.1.5欄参照)を用い、カスパーゼ3シグナル伝達経路中の特定タンパクの発現への影響を試験してよい。また、候補化合物について、カスパーゼ3シグナル伝達経路におけるカスパーゼ3あるいは他のタンパクのタンパク活性を促進もしくは抑制する能力を試験してもよい。あるいは、もしくは追加的に、カスパーゼ3シグナル伝達経路における効果は、幹細胞分化へ影響を及ぼす能力を決定することにより間接的に試験することもできる。
【0142】
プロテアーゼ及びキナーゼの活性を測定する方法は当該分野においてよく知られており、カスパーゼ3、MST1、その他のカスパーゼ3シグナル伝達経路中のキナーゼを活性化もしくは抑制する候補化合物の能力を決定するために使用するのに適している(Kameshita, I., & Fujisawa, H. (1989) Anal. Biochem. 183, 139−143; Belizario, J.E., et al., (2001) Br J Cancer 84, 1135−1140; Yaoita, Y., & Nakajima, K. (1997) J. Biol. Chem. 272, 5122−5127; Fernando et al., (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 11025−11030)。
例えば、活性は、タンパクの分離、イムノブロット分析、免疫細胞化学、免疫共沈法、キナーゼ分析を用いて測定してもよい。さらに、シグナル伝達経路のカスパーゼ3及び他のタンパクの活性を測定するキット、例えば、カスパーゼ3蛍光分析キット(BD Pharmingen, San Diego, CA)などが市販されており、これをカスパーゼ3活性調節候補化合物の能力を決定するのに使用することもできる。
【0143】
幹細胞の分化に影響する候補化合物の能力は、候補化合物の存在下もしくは非存在下で幹細胞を培養し、細胞における分化及び/または増殖の一つ以上の指標をモニターすることにより決定することができる。様々な組織に由来する幹細胞または前駆細胞を、候補化合物をスクリーニングするために用いることができる。例えば、胚、心臓、筋肉、膵臓、神経、肝臓などの組織由来の幹細胞、骨髄、造血細胞、筋芽細胞、肝細胞、胸線細胞、心臓細胞由来の幹細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0144】
幹細胞を培養で維持する方法は、当該分野において知られている(例えば、Madlambayan, G.J., et al., (2001) J. Hematother. Stem Cell Res. 10, 481−492; Hierlihy, A.M., et al., (2002) FEBS Lett. 530, 239−243; Asakura, A., et al., (2002) J. Cell Biol. 159, 123−134)。幹細胞はそれ単独で培養することができ(単培養)、あるいは他の(エデュケーター)細胞と一緒に共培養することもできる。例えば、共培養としては、筋肉由来幹細胞(または他の幹細胞)と筋芽細胞(エデュケーター細胞)を、別々の培養系での維持期あり、あるいはなしで分離した後、混合した細胞群が可能であった。あるいは、この二つの細胞群を起源である組織から分離することなく外植片(例えば、マウスの後肢筋外植片)として共培養することができた。もし、幹細胞群及び/またはエデュケーター細胞群が完全には純粋でなければ、1種以上(単培養)あるいは2種以上(共培養)の細胞群が最初に存在し、その後幹細胞群が分化することがあることが理解及び予測される。
【0145】
培養期間の前、間、あるいは後に、細胞群を同定あるいは単離するステップや、本方法の成功に寄与する別のステップなど追加のステップが、本スクリーニング法に含まれてよい。例えば、成長因子または他の化合物を幹細胞群の分離及び拡張のために用いてよい。Grittiら(J. Neurosci. (1999) 19:3287−3297)に記載されているように、EGF及びFGFは上記目的のために神経幹細胞と共に用いられており、Bcl−2は「筋幹細胞」群の分離に利用されている(米国特許第6,337,184号参照)。
【0146】
スクリーニング法で用いられる幹細胞は、正常哺乳動物から分離あるいは取り出された一次細胞または培養幹細胞系であることができる。あるいは、カスパーゼ3シグナル伝達経路中のタンパクをエンコードする1つ以上の遺伝子に突然変異を保因する哺乳動物から分離または取り出された幹細胞であることができ、例えば、ヌル変異(カスパーゼ3-/-)などのように、カスパーゼ3活性の減少という結果をもたらすカスパーゼ3突然変異哺乳動物からの幹細胞が挙げられる。
【0147】
一般に、培養物に添加される候補化合物は、通常1000倍濃度範囲にわたって試験され、適当な暴露プロトコルが当業者により容易に確立される。共培養系を用いる場合、候補化合物への幹細胞の暴露は、エデュケーター細胞に対する最初の幹細胞の暴露の前及び/又は間及び/又は後に行うことができる。あるいは、候補調節剤がポリヌクレオチド、またはタンパクやポリペプチドのようなポリヌクレオチドによってエンコードされた化合物である場合、ここであるいはその他の箇所で記載された標準的方法を用いて、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む発現ベクターで幹細胞をトランスフェクトすることができ、候補調節剤を内因的に産生することができる。さらに、候補活性化剤や候補エフェクターを安定に発現する細胞系をスクリーニング法に用いて、多様な増殖刺激からの保護における活性化剤/エフェクターの有効性を決定することができる。
【0148】
幹細胞における分化及び/または増殖の指標は、定性的あるいは定量的にモニターすることができ、例えば、全体的形態変化、総細胞数変化、組織学的変化、組織化学的変化あるいは免疫組織化学的変化、または特定の細胞マーカーレベルの有無または相関などが挙げられる。これらの指標は、細胞全体または標準的技術により調製される細胞溶解液において評価することができ、サイズ分画のような分析を容易にする別の手法をまず行った細胞や溶解液で、あるいはそうでない細胞や溶解液でモニターすることができる。
【0149】
様々な細胞マーカーレベルの有無または相関は、多くの標準的な技術を用いて分析できる。例えば、組織化学的技術、免疫学的技術、電気泳動法、ウェスタンブロット法、FACS法、フローサイトメトリーなどが挙げられる。あるいは、細胞マーカータンパクをエンコードする遺伝子から発現したmRNAの存在を、例えば、PCR法、ノーザンブロット法、適当なオリゴヌクレオチドプローブの使用などにより検出することができる。
【0150】
分化の指標として評価することができる細胞マーカーは、通常、系列に特異的なタンパクである。例を挙げれば、心筋幹細胞の分化を評価するためにモニターされる細胞マーカーとして、例えばコネキシン−43、MEF2C及び/またはミオシン重鎖などが挙げられる。筋肉由来幹細胞については、ミオシン重鎖、次亜リン酸化MyoD、ミオゲニン、Myf5及び/又はトロポニンTなどの1つ以上の筋細胞マーカータンパクの発現を測定することができ、ニューロスフェアやSP細胞などのような神経幹細胞については、GFAP、MAP2及び/またはβ−IIIチューブリンのようなマーカーを測定することができる(例えば、Hitoshi, S., et al., (2002) Genes & Dev. 16, 846−858参照)。
増殖の指標として評価される細胞マーカーの例としては、例えば、サイクリンD1、ホスホ−ヒストンH1及びH3、E2F、及びPCNAなどが挙げられる。
【0151】
本発明の一つの実施形態において、スクリーニング法に用いられる幹細胞は筋芽細胞である。筋芽細胞における分化誘導は、例えば、筋芽細胞の融合または筋管の形成を測定することにより、あるいはミオシン重鎖、次亜リン酸化MyoD、ミオゲニン、トロポニンTなどのマーカータンパクの発現について細胞を試験することにより測定ことができる。これらマーカーの1つ以上の欠如あるいはダウンレギュレーションは、細胞が分化できなかったことを示唆する。増殖におけるどのような増加も、総細胞数を測定し、これを候補化合物で処理しなかったコントロールと比較することにより評価することができる。
【0152】
本発明の別の実施形態においては、スクリーニング法で用いられる幹細胞は心臓のサイドポピュレーション(SP)細胞である。心臓SP細胞は幹細胞様活性を有し、その常在群は実験的に操作可能で、成人の心臓に存在することが示されている[Hierlihy, et al., A.M., et al., (2002) FEBS Lett. 530, 239−243]。心臓SP細胞は、心筋細胞とともに共培養することができ、心臓SP細胞中のコネキシン−43、MEF2C及びミオシン重鎖のような心筋細胞特有のマーカーの出現をモニターすることにより分化誘導を測定することができる。これらマーカーの1つ以上の欠如あるいはダウンレギュレーションは、細胞が分化できなかったことを示唆する。
【0153】
本発明の別の実施形態においては、スクリーニング法に用いられる幹細胞は神経幹細胞である。神経幹細胞は、ニューロスフェアやサイドポピュレーション(SP)細胞画分として得られるが、神経皮質前駆細胞とともに共培養すると、それらが本来持っている成熟ニューロンへの分化能力を調べることができる。分化誘導は、例えば、GFAP、MAP2、β−IIIチューブリン[例えば、Hitoshi, S., et al., (2002) Genes & Dev. 16, 846−858参照]、ミエリン塩基性タンパク、グリア繊維酸性タンパクなどの発現をモニターすることによって測定することができる。これらマーカーの1つ以上の欠如あるいはダウンレギュレーション、またはマーカーであるネスチンの存在は、細胞が分化できなかったことを示唆する。
【0154】
医薬組成物
本発明は、カスパーゼ3タンパク調節剤及び薬学的に許容される希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。本医薬品組成物は、さらに、1つ以上の治療用化合物、例えば、抗生物質、抗炎症剤、抗うつ剤などを含んでいてもよい。
【0155】
本発明に係る医薬組成物は、通常の無毒性の薬学的に許容される担体、補助剤、及びビヒクルを含む用量単位の処方において、経口的、局所的、非経口的、吸入あるいはスプレー、あるいは直腸によりに投与してよい。ここで使用する非経口的との用語は、皮下注射、または静脈内、筋肉内、子宮内への注射あるいは注入技術などを含む。
【0156】
経口用製剤とする場合、医薬組成物剤の剤型として、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性または油性懸濁液、分散可能な粉末剤あるいは顆粒剤、エマルジョンのハードあるいはソフトカプセル、シロップ剤、エリキシル剤などとすることができる。
【0157】
経口用組成物は、当該分野において知られている医薬組成物製造方法に従って調製してよく、このような医薬品組成物は、製剤的に優れた服用しやすい製品とするために、一つ以上の添加剤、例えば、甘味料、香料、着色剤、保存剤などを含んでもよい。錠剤は、錠剤の製造に適当な無毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物中に活性成分を含む。これら賦形剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどの不活性な希釈剤;コーンスターチ、アルギン酸などの顆粒化剤及び崩壊剤;スターチ、ゼラチン、アカシアなどの結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルクなどの滑沢剤などが挙げられる。錠剤はコーティングされていなくてもよく、あるいは、消化管における崩壊及び吸収を遅らせて長時間にわたり作用を維持するための公知技術によりコーティングされていてもよい。例えば、グリセリルモノステアレートやグリセリルジステアアレートのような遅延材料を用いてよい。
【0158】
また、経口用医薬組成物は、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリンなどの不活性な固体希釈剤と活性成分とを混合したハードゼラチンカプセルとしてもよく、あるいは、水や、ピーナッツ油、液状パラフィン、オリーブ油などの油性媒体と活性成分とを混合したソフトゼラチンカプセルとしてもよい。
【0159】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適当な賦形剤との混合物中に活性成分を含む。このような賦形剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、アカシアガムなどの懸濁剤である。分散剤あるいは湿潤剤は、レシチンなどの天然発生のホスファチド、ポリオキシエチレンステアレートなどのアルキレンオキシド−脂肪酸縮合物、ヘプタデカエチレンオキシセタノールなどのエチレンオキシド−長鎖脂肪族アルコール縮合物、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレートなどのエチレンオキシド−脂肪酸及びヘキシトール部分エステル縮合物、またはポリエチレンソルビタンモノオレートなどのエチレンオキシド−脂肪酸及びヘキシトール無水物部分エステル縮合物等であってよい。
また、水性懸濁液は、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエートなどの1つ以上の保存剤、1つ以上の着色剤、1つ以上の香料、あるいはスクロースやサッカリンなどの1つ以上の甘味料を含んでもよい。
【0160】
油性懸濁液は、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ココナッツ油などの植物油中、あるいは液状パラフィンなどの鉱物油中に活性成分を懸濁することにより製剤化してよい。油性懸濁液は、密ロウ、硬化パラフィン、セチルアルコールのような増粘剤を含んでもよい。前記のような甘味料及び香料も服用しやすい経口剤とするために添加してよい。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を添加して保存してもよい。
【0161】
水を加えることにより水性懸濁液を調製するのに適当な分散可能な粉末剤及び顆粒剤は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤及び1つ以上の保存剤との混合物中に活性成分を有する。適当な分散剤または湿潤剤、及び懸濁剤の例として、前記記載のものが挙げられる。追加の賦形剤として、例えば、甘味料、香料、着色剤なども含んでよい。
【0162】
本発明に係る医薬組成物は、水中油型乳化物であってもよい。油相は、オリーブ油、落花生油などの植物油、または液状パラフィンなどの鉱物油、またはこれらの混合物などであってよい。適当な乳化剤として、アカシアガム、トラガカントガムなどの自然発生のガム、大豆レチシンなどの自然発生のホスファチド、脂肪酸とヘキシトールとに由来するエステル又は部分エステルあるいはソルビタンモノオレートなどの脂肪酸と無水物とに由来するエステル又は部分エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの前記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物などが挙げられる。また、乳化物は甘味料や香料を含んでもよい。
【0163】
シロップ剤及びエリキシル剤は、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、スクロースなどの甘味料とともに製剤化してよい。このような製剤は、粘滑剤、保存剤、香料、着色剤を含んでいてもよい。本医薬組成物は、無菌で注射可能な水性あるいは油性懸濁液であってもよい。本懸濁液は前記のような適当な分散剤または湿潤剤、及び懸濁剤を用いて公知技術に従い製剤化してよい。また、無菌で注射可能な製剤は、例えば1,3―ブタンジオールなどの無毒性の非経口に投与可能な希釈剤あるいは溶剤中、無菌の注射可能な溶液あるいは懸濁液であってよい。許容されるビヒクル及び溶剤のうち用いてよいものとしては、水、リンゲル液、乳酸リンゲル液、及び生理食塩水がある。さらに、無菌の不揮発性油も通常溶媒または懸濁媒体として利用される。この目的のために、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含む何れの不揮発性油分も用いてよい。さらに、オレイン酸などの脂肪酸は、注射剤における使用がみられる。
【0164】
投与
本発明の調節剤及びそれを含む医薬組成物は、局所的治療か全身的治療かによって、あるいは治療すべき範囲によって、様々な方法で投与することができる。投与は、局所的投与(眼、及び膣や直腸などの粘膜デリバリーを含む)、ネブライザーによるものを含む粉末剤やエアゾールの吸入あるいは通気等による肺的投与、気管内的投与、鼻腔的投与、表皮的投与、経皮的投与、経口投与、あるいは非経口投与などが挙げられる。非経口投与は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、あるいは筋肉内への注射または注入;あるいはクモ膜下や心室内などの頭蓋内への投与を含む。
【0165】
本発明の調節剤は、薬学的に許容可能なビヒクルと組み合わせて投与してよい。このようなビヒクルは、調節剤の安定性及び/またはデリバリー特性を高めることが理想的である。本発明は、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルなどの適当なビヒクル用いた調節剤またはその医薬組成物の投与も提供する。本発明の多様な実施形態において、このようなビヒクルの使用は、活性成分の放出持続において利点を有してよい。
【0166】
非経口注射剤とする場合、調節剤またはその医薬組成物は他の溶質を含む無菌溶液の形態で使用され、溶質としては、例えば、溶液を等張とするのに十分な生理食塩水あるいはグルコースなどが挙げられる。
【0167】
吸入または通気による投与のために、調節剤またはその医薬組成物は、水性のあるいは部分的に水性の溶液に製剤化することができ、これはその後エアゾールの形態で利用することができる。また、本発明は、調節剤またはその医薬組成物の局所使用も考慮している。この目的のために、薬学的に許容可能なビヒクル中の粉剤、クリーム、ローションなどとして製剤化することができ、これは、皮膚の作用させる部分に適用される。
【0168】
本発明の調節剤の投与量は、用いる個々の化合物または組成物、投与経路、症状の程度、治療する個々の患者により変化する。投与量は、当業者に知られている標準的な臨床技術により決定することができる。一般に、治療はその化合物の最適量よりも少ない用量で始める。その後、用量を最適な効果に達するまで増やす。一般に、調節剤は、どのような有害あるいは有毒な副作用も起こさずに有効な結果を与える濃度で投与する。投与は1日に1回とすることができ、あるいは、必要に応じて、用量を使いやすく分けて一日の適当な時間に服用することができる。
【0169】
1. 遺伝子治療
また、本発明は、オリゴヌクレオチド、タンパク、ポリペプチド及びペプチド調節剤を、in vivoで分子合成されるようにデザインされた遺伝子ベクター構築物の形態で投与することも提供する。適当なベクターとして、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、バクロウイルス、ヘルペスウィルスなどのウイルスベクターが挙げられる。ベクター構築物内で、抑制剤をエンコードするポリヌクレオチド配列は、適当なプロモーターのコントロール下にある。ここで記載されているように、ベクター構築物はさらに、調節剤をエンコードするポリヌクレオチドの効率的な転写及び/または翻訳が行われるように、他の調節コントロール要素を含んでよい。このような投与方法は、しばしば「遺伝子治療」と呼ばれる。
【0170】
オリゴヌクレオチド、タンパク、ポリペプチド、あるいはペプチドをin vivo合成するためのこのような遺伝子ベクター構成物を構築、投与する方法は、当該分野においてよく知られている(例えば、Ausubel, et al., (2000) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons, New York, N.Y.; Cid−Arregui (eds.), Viral Vectors: Basic Science and Gene Therapy, (2000) Eaton Publishing Co.参照)。
【0171】
従って、例えば、患者の細胞を、ex vivoにおいて1つ以上の調節剤(オリゴヌクレオチド、タンパク、ポリペプチド、又はペプチド)をエンコードするポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)で操作し、その後操作された細胞を治療すべき被験者に提供する。同様に、in vivoでのポリペプチドの発現のために、調節剤をエンコードするポリヌクレオチドを被験者に投与することにより、細胞をin vivoで操作してもよい。このような方法は、当該分野においてよく知られている。細胞をポリヌクレオチド単独と操作することができ、あるいは発現ベクターの形態で操作することもできる。このような使用に適当な代表的発現ベクターとして、例えば、ウイルス、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ワクチニアウイルスが挙げられる(例えば、Cid−Arregui (eds.), Ibid.参照)。また、プラスミドも利用可能であり、例えば、Invitrogen(Carlsbad, CA)のpVAX1プラスミドが挙げられる。
【0172】
当該分野において知られているように、本発明の調節剤をエンコードするRNAを含むウイルス粒子を生産する生産細胞を、細胞を操作して調節剤をin vivoで発現することを目的として、被験者に投与するのに用いてもよい。さらに、ポリヌクレオチドのみを、さらに賦形剤、担体、あるいはデリバリー分子を用いて、あるいは用いないで投与できることも考慮している。「裸の」DNAを注射することは、当該分野において知られている。例えば、Felgner et al., 米国特許第5,580,589号参照。
【0173】
また、本発明は、カスパーゼ3シグナル伝達経路のタンパクをエンコードする内因性遺伝子の発現増加のために、組換えDNA構築物を使用することも考慮している。このような構築物及び標的遺伝子の発現増加のためにこれを使用することは、米国特許第5,641,670号に記載されている。一般に、このような構築物は、調節配列、エクソン部位、スプライスドナー部位を含み、より典型的にはターゲティング配列、調節配列、エクソン部位、非対スプライスドナー部位を含む。本構築物は、予め選択された部位で宿主細胞のゲノムへホモログ遺伝子組み換えにより導入され、その結果標的遺伝子の発現が増加する。本構成物は、そのDNA構築物に存在する調節配列、エクソン部位、及びスプライスドナー部位が適切に内因性遺伝子に結合して遺伝子発現が変化する新しい転写ユニットができるような方法で、ゲノムに導入される。
【0174】
2. 移植
また、本発明は、幹細胞をex vivoで操作し、移植処置により患者に再び導入することも考慮している。このような移植は、当該分野において知られている。
使用
【0175】
本発明により提供される調節剤及び幹細胞の分化の操作方法は、多くの治療に適用される。調節剤はin vivoで内因性幹細胞の最終形態を操作するのに使用することができ、あるいは、in vitroまたはex vivoで、移植のための拡張したあるいは分化した幹細胞群を得るために用いることができる。調節剤は、幹細胞群が所望の最終結果となるように選択することができる。従って、例えば、もし分化した幹細胞群が必要であれば、カスパーゼ3を活性化する調節剤を選択し、幹細胞へ適用することができる。一方、拡張した幹細胞群が必要であれば、カスパーゼ3を抑制する調節剤を選択することができる。
また、本発明は、調節剤を組み合わせて使用することも考慮している。例えば、1つ以上のカスパーゼ3抑制剤を使用して、まず幹細胞群を拡張し、次いで所望の細胞数に達したら、一つ以上の活性化剤を使用して分化を刺激する。
【0176】
in vivoでの適用として、例えば、常在性幹細胞を増殖及び/または分化するように刺激して損傷を受けたもしくは欠陥のある組織を置換または修復するために、調節剤を被験者に投与することができる。従って、本発明の調節剤及び方法は、損傷を受けた組織を置換するのに有用であり、例えば、化学療法や放射線治療の後や、組織の変質や損傷をもたらす疾病や疾患、例えば筋ジストロフィー、心臓血管疾患、脳卒中、心不全、心筋梗塞、パーキンソン病やアルツハイマー病のような神経変性疾患などの治療中あるいは管理中、あるいは欠損または損傷または機能不全の組織の置換が必要な疾病や疾患、例えばガン(白血病を含む)や、肝硬変、肝炎などの変性肝疾患、糖尿病、変性または虚血性心疾患などの治療中または管理中において有用である。
【0177】
また、本調節剤及び方法は、移植のための代替組織を得るために、in vitroで幹細胞または前駆細胞の増殖及び/または分化を刺激するのに使用することもできる。幹細胞のex vivoでの拡張は、多くの症状の治療に対して明らかな治療上の適用を有する。例えば、骨髄移植は白血病などの血液感染性ガンの治療において十分に立証された治療法であり、造血幹細胞(HSCs)やへそ臍帯血(CB)細胞のex vivoにおける拡張は、従来の血液治療の延長として認められている(Douay (2001) J. Hematother Stem Cell Res. 10, 341−346)。
【0178】
また、本発明は、幹細胞のin vitroでの増殖及び/または分化を促進し、その幹細胞群をさらにin vitroで使用するために、例えば調査目的で使用するために本発明の調節剤及び方法を用いることも考慮している。また、本調節剤及び方法は、薬物試験のための新しいin vitroモデルの開発など、組織工学の分野における適用の可能性も有している。
【0179】
キット
さらに、本発明は、幹細胞の分化を調節するカスパーゼ3調節剤の1つ以上を含む治療用キットも提供する。本調節剤は1つ以上の医薬組成物の形態で提供されてよい。キットの内容物は、凍結乾燥することができ、さらにキットには凍結乾燥したものを再構成するための適当な溶剤を含むことができる。キットの個々の構成品は、別々の容器に包装することができ、このような容器に関しては、医薬品または微生物製品の製造、使用及び売買を統制する政府機関により規定された方式の、動物投与のための製造、使用及び売買が認可されている旨が表示された注意書きを有することができる。本キットは、本発明の調節剤と合わせて、使用可能な他の治療用化合物をさらに含むことができる。
【0180】
ここに記載した本発明のより深い理解のために、以下の実施例を示す。これら実施例は、代表的な目的だけのためのものであることが理解されるべきである。従って、いずれにしてもこれらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0181】
実施例1:筋幹細胞(筋芽細胞)の分化調節
一般:材料及び方法
<筋芽細胞培養>
C2C12細胞(マウスの骨格筋筋芽細胞)培養物は、50units/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシン(Gibco)と10%FBSを含むDMEM中で成長させ、維持した。分化は、低血清濃度(2%ウマ血清)しか含まないDMEM中で培養物をインキュベートすることにより誘導した。カスパーゼ活性は、カスパーゼ3及びカスパーゼ8蛍光分析キット(Pharmingen)を用いて測定した。カスパーゼ活性が変動した細胞を、カスパーゼ3(z−DEVD.fmk)またはカスパーゼ8(z−LETD.fmk)(Enzyme Systems)の何れかに特異的な抑制剤20μMで処理した(0〜100μMの濃度曲線試験に基づいた)。コントロール細胞は、等量のビヒクル(DMSO)で処理した。一次筋芽細胞は、記載されているように(Cregan, S.P. et al., (1999) J. Neuro. 19, 7860−7869)、1−2日齢のC57BL/6野性型のカスパーゼ3異種接合マウス及びカスパーゼ3ヌルマウスの後肢及び前肢の骨格筋から取り出した(Frasch, S. C., et al., (1998) J. Biol. Chem. 273, 8389−8397; Kuida, K., et al., (1996) Nature 384, 368−372)(各ゲノタイプに対してn=5)。分化を誘導するため、一次筋芽細胞培養物は、5%ウマ血清を含むDMEM中でインキュベートした。
【0182】
<トランスフェクションアッセイ>
クローンバンクコレクション(Stratagene)から入手したヒトMST1の完全な自由読み取りフレーム(ORF)を、発現ベクターpcDNA3.1 Myc/His(Invitrogen)に挿入した。構成的に活性なMST1(MST1−act)は、既知の方法により調製した(Megeney, L.A., et al., (1996) Genes Dev 10, 1173−1183)。MST1及びMST1−actの両方が完全であることをシ配列決定により確認した。これらタンパクのキナーゼ活性を、COS1細胞への一時的トランスフェクションにより確認し、次いで免疫沈降法及びHistone−H1を標的基質として用いたキナーゼ分析を行った(下記参照)。MST1及びMST1−actのCOS1及び一次筋芽細胞へのトランスフェクションは、Lipofectamine Plus(Gibco)を用いて使用説明書の指示通りに行った。
【0183】
<タンパクの分離、イムノブロット分析及び免疫細胞化学>
C2C12及び一次筋芽細胞株からの細胞を氷冷PBSで洗浄し、20mM NaF、5mMNaVO、各々10μg/mlのアプロチニン、ロイペプチン、ペプスタチン及びPMSFを含む修飾RIPA緩衝液中、45分間氷上で溶解した。総タンパクはBCAプロテインアッセイ(Pierce)を用いて測定した。イムノブロット分析は、MST1、MKK6、p38γ、p38α(Upstate)、p38、MEF2C(Cell Signaling Technologies)、ミオゲニンF5D、ミオシン重鎖MF20 mAb(Developmental Hybridoma Bank)、及び活性カスパーゼ3 (Biovision)の抗体を用いて、既知の方法に従い行った(Creasy, C.L., & Chernoff, J.(1995) J. Biol. Chem. 270, 21695−21700)。
【0184】
C2C12筋芽細胞を既知の方法により固定し、抗MF20で染色した(Cregan, et al., (1999) J. Neuro. 19, 7860−7869)。一次筋芽細胞株は4%パラホルムアルデヒド中で固定し、0.01%Triton X−100を含むPBSで3回洗浄し、前記のように染色した。C2C12及び一次筋芽細胞培養物の両方に対し、細胞をPBSによって1:10000倍希釈した4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールで10分間インキュベートすることにより、核を検出した。
【0185】
<免疫共沈法及びキナーゼ分析>
免疫沈降法は、150〜200μgの総タンパクを用いて行い、それぞれの抗体を含む修飾RIPA緩衝液中4℃で16時間インキュベートした。サンプルは50%プロテインG(Pharimacia)25μlと1時間混合した。免疫共沈法のために、免疫沈降物を修飾RIPA緩衝液で洗浄し、1X Lamelli緩衝液中で煮沸し、イムノブッロト分析のためSDS−PAGE及びウェスタンブロットにより分離した。キナーゼ分析に用いる免疫沈降物は、修飾RIPA緩衝液で洗浄し、20mM MOPS(pH 7.2)、25mM β−グリセロホスフェート、5mM EGTA、1mM NaVO、及び1mM DTTを含み、[γ−32P]ATP及び標的基質として組換え型MBPか組換え型Histone H1(Upstate)の何れかを添加したキナーゼ緩衝液中でインキュベートした。サンプルは37℃で30分間インキュベートし、その後1X Lamelli緩衝液中で煮沸した。SDS−PAGEの後、ゲルを乾燥し、リンの取り込みをオートラジオグラフィーによって分析した。
【0186】
サンプルは、MBPまたはHistoneH1を標的基質として用い、既知の方法(Kolodziejczyk, S.M., et al., (1999) Curr Biol 9, 1203−1206)によりインゲルキナーゼ分析に供した。二次元インゲルキナーゼ分析については、サンプルをpH4.0−7.0 IPGストリップ(BioRad)を用いて一次元で等電点電気泳動を行った。二次元分析は、インゲル基質としてHistone H1を含む10% SDS−PAGEを用いて行った。追加のインゲルキナーゼ分析を前記のとおりに行った。
【0187】
<in vitro翻訳及びMST1タンパク分解>
MST1−pcDNA3.1 Myc/Hisは、TnT T7 Coupled Wheat Germ Extract System (Promega)を用いて、in vitroで転写、翻訳した。ラベリング効率を、SDS−PAGE、クーマシー染色及びオートラジオグラフィーにより確認した。[35S]−メチオニンでラベルしたMST1タンパクを、z−DEVD.fmk(カスパーゼ3抑制剤)及び低血清培地で処理した後のC2C12細胞サンプルと37℃で30分間インキュベートした。MST1のタンパク分解的切断を、SDS−PAGE及びオートラジオグラフィーで評価した。
【0188】
1.1 カスパーゼ3-/-筋芽細胞は分化欠損を示す
カスパーゼ3に標的ヌル突然変異を有するマウスを飼育した。既に報告されているとおり、周産期初期のマウスは、野性型及び異型接合型の腹子に比べて著しく小さかった(Frasch, S. C., et al., (1998) J. Biol. Chem. 273, 8389−8397; Kuida, K., et al., (1996) Nature 384, 368−372)。さらに、骨格筋総質量の顕著な減少が認められ、これはこれらの動物において筋形成が損なわれたことを示す。
筋形成におけるカスパーゼ3除去の影響を調べるために、一次筋芽細胞培養物を、カスパーゼ3ヌル突然変異(カスパーゼ3-/-)の1−2日齢マウスから得た。細胞株の目視観察では、野性型、カスパーゼ3+/-、及びカスパーゼ3-/-の筋芽細胞の増殖は同様であった。0日に分化を誘導した後、誘導後4日目までに、野性型細胞に比べてカスパーゼ3-/-の筋管形成の重度欠損が明らかとなった(図1A;それぞれ野生型に対して10%vs80%、ヌルの融合インデックスを比較)。また、次亜リン酸化MyoD、ミオゲニン及びトロポニン T(各々、図1のD,E及びH)など多くの分化特異的タンパクの発現が、野性型筋芽細胞に比べてカスパーゼ3-/-筋芽細胞中で実質的に減少した。さらに、カスパーゼ-/-筋芽細胞中において、細胞増殖マーカーであるサイクリンD1の残存レベルが、野性型筋芽細胞に比べて高くなった(図1F)。これらの観察結果は、カスパーゼ3活性の上昇が、骨格筋形成の初期段階中における効果的な分化に必要であることを示唆するものである。
【0189】
あるいは、カスパーゼ3活性は、通常分化プロセスを抑制する筋芽細胞群の(アポトーシスによる)除去に、すなわち、非細胞的自律性効果に必要なのかもしれない。または、カスパーゼ3活性の上昇が細胞内変化をもたらし、分化プログラムを活性化する、すなわち細胞性自律的効果をもたらすのかもしれない。従って、カスパーゼヌル型筋芽細胞及び野性型筋芽細胞におけるアポトーシスの程度を、低血清分化誘導中において比較した。
驚くべきことに、Annexin V 及びヨウ化プロピジウム染色及びポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)切断の分析を用いたフローサイトメトリーにより示されるように(図1B,C:118kDa PARPタンパク及び85kDaの切断フラグメントの両方が検出された)、アポトーシスの初期あるいは後期のマーカーにおいて測定可能な差異は全く認められなかった。さらに、カスパーゼ3異型接合型マウス由来の筋細胞は、野性型のコントロールに比べ筋形成レベルの低下を示したが、それにもかかわらず分化した(図1A)。これらの結果は、通常分化と関連付けられるカスパーゼ3活性上昇は、全くアポトーシス的なものではないことを示唆するものである。
【0190】
より詳細には、図1は次のことを示す:
(A) 2日間または4日間低血清培地中でインキュベート後、固定し、ミオシン重鎖を染色した野性型及びカスパーゼ3-/-マウス(各ゲノタイプに対しn=5)由来の一次筋芽細胞株。細胞は核マーカーのヘマトキシリン(暗染色パターン)で対比染色した。筋形成の重度欠損がカスパーゼ3-/-細胞で示されている。
(B) 表示された期間低血清培地中でインキュベート後の、野性型筋芽細胞及びカスパーゼ3-/-筋芽細胞のフローサイトメトリー分析。細胞は、染色されずにいるか(左下枠)、Annexin V−FITCによって染色されているか(右下枠)、ヨウ化プロピジウムで染色されているか(左上枠)、あるいは両染料で染色されているか(右上枠)のいずれかであった。2日間の低血清処理後、野性型及びカスパーゼヌル型筋芽細胞の両方において、同等数のアポトーシス細胞が観察された。
(C) ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)は野性型及びカスパーゼ3ヌル型の筋芽細胞の両方において同等である。低血清(分化)培地中でインキュベートされた野性型及びカスパーゼ3ヌル型の筋芽細胞において、抗PARP抗体を用いたPARPウェスタンブロット分析。118kDaPARPタンパク、及び85kDa切断フラグメントの両方が検出された。
(D),(E),(H) カスパーゼ3ヌル型筋芽細胞における筋分化特異的タンパクの減少が、(D)次亜リン酸化MyoD(各パネルにおける上及び下の矢印は、リン酸化及び次亜リン酸化MyoDをそれぞれ示す)、(E)ミオゲニン、及び(H)トロポニンT、のウエスタンブロット分析を用いて観察された。
(F) カスパーゼ3ヌル型筋芽細胞は、低血清(分化)培地の存在下、サイクリンD1の蓄積延長を示した。
(G) 抗チューブリン抗体を用いてウェスタンブロット分析と同等のローディングが観察された。
【0191】
1.2 カスパーゼ3活性が骨格筋分化中において積極的な役割を果たす
カスパーゼ3ヌル型動物由来の筋芽細胞で見られる現象を、確立された筋芽細胞群においてさらに試験した。既に骨格筋のカスパーゼ3及びカスパーゼ8の活性変化が研究報告されているので(Kameshita, I., & Fujisawa, H. (1989) Anal. Biochem. 183, 139−143; Belizario, J.E., et al., (2001) Br J Cancer 84, 1135−1140; Yaoita, Y., & Nakajima, K. (1997) J. Biol. Chem. 272, 5122−5127)、C2C12骨格筋細胞系のカスパーゼ3及びカスパーゼ8の活性を、分化の開始期及び進行中において測定した。増殖中のC2C12細胞を低血清培地中に置き、5日間分化させた。5日間の様々な時点で、細胞のサブセットを広範囲にわたり洗浄し、溶解液に非付着性アポトーシス細胞がないことを保証した。蛍光分析により、24時間以内にカスパーゼ3活性がシャープに9倍増加し、その後、分化が進行するにつれて下降することが明らかとなった(図2A)。興味深いことに、カスパーゼ8の活性においても同様の傾向が見られたが、正常値と比べた活性の増加はカスパーゼ3で観察されたほど大きくなかった(平均±標準誤差、n=5)。活性型カスパーゼ3の免疫組織化学的検出により、測定されたカスパーゼ3活性の増加は分化中の筋芽細胞の特徴であり、アポトーシスを受けている細胞の結果ではないことが確認された。
【0192】
カスパーゼ3ヌル型モデルの分析結果を補うものとして、C2C12筋芽細胞におけるカスパーゼ活性を、カスパーゼ3に特異的な薬理学的抑制剤(z−DEVD.fmk)及びカスパーゼ8に特異的な薬理学的抑制剤(z−LETD.fmk)を用い直接的に標的とした。細胞を分化開始0、2及び4日間後に固定し、ミオシン重鎖抗体MF20で染色した。筋管形成の僅かな減衰が、カスパーゼ8抑制で観察された。カスパーゼ3が抑制された筋芽細胞では、筋管形成が損なわれた(図2B中央パネル、C)。特に、これらの細胞は、ビヒクル(DMSO)処理されたC2C12筋芽細胞に比べ、低血清状態に4日間置いた後も単核で非融合の状態を維持していた。
【0193】
タンパク処理細胞及びコントロール細胞の溶解液をカスパーゼ3特異的抗体でウェスタン分析したところ、z−DEVD.fmk処理がカスパーゼ3活性抑制に有効であることが確認された(図2D−矢印は、カスパーゼ3活性化を示す21kDaカスパーゼ3フラグメントを示し、コントロール細胞では高レベルであり、カスパーゼ3が抑制されたサンプルでは非常に低レベルである)。
注目すべきは、z−DEVD.fmk処理したC2C12細胞の筋芽細胞の分化欠損が、カスパーゼ3-/-筋芽細胞と著しく似ていたことである。一方、カスパーゼ8抑制剤であるz−LTED.fmkとインキュベートした細胞においては、分化はより顕著であった(図2B下段パネル、C)。しかしながら、分化の程度はビヒクル処理した細胞で観察されるよりも低いままであった。カスパーゼ3が抑制された細胞の部分は、筋肉転写因子ミオゲニンを発現することができたが(図2F)、コントロールの筋芽細胞と比較すると、蓄積の遅延及び減少は明らかであった。さらに顕著には、後筋原性マーカーMEF2Cの発現が、カスパーゼ3活性を抑制した細胞中において、実質的に観察されなかった(図2G)。明らかに、筋形成の欠損がおおよそカスパーゼ3抑制によって引き起こされることは、カスパーゼ3が筋原性プロテアーゼの前駆体であることを示唆しており、また、その効果はカスパーゼ8により介在される効果よりも大きいということを示唆している。さらに、PARP切断物が、z−DEVDで処理された筋芽細胞及び処理されていない筋芽細胞において同程度に蓄積され(図2E)、これは、カスパーゼ3活性が、分化中の筋芽細胞群のアポトーシス周辺速度の原因ではないことを示唆している。
【0194】
より詳細には、図2は次のことを示す:
(A) 蛍光分析:カスパーゼ3活性(四角)のシャープな増加が、低血清処理1日後のC2C12筋芽細胞において認められた。同様の傾向がカスパーゼ8(円)の活性化においても認められたが、カスパーゼ8活性においてはより小さな増加であった(平均±標準偏差、n=5)。
(B) カスパーゼ3またはカスパーゼ8の活性を抑制した後のC2C12細胞の細胞形態。C2C12細胞は、カスパーゼ3特異的抑制剤(z−DEVD.fmk)、カスパーゼ8特異性抑制剤(z−LETD.fmk)、あるいはコントロール(DMSO)のいずれかの存在下、低血清培地中でインキュベートした。細胞を分化開始0、2及び4日後に固定し、ミオシン重鎖抗体MF20で染色した。筋管形成は、分化4日後のカスパーゼ3抑制細胞において、劇的に減少する。カスパーゼ8抑制では筋管形成の僅かな減少が観察される。
(C) カスパーゼ3抑制細胞は、融合能力を欠く。筋芽細胞融合率は、分化した筋管内に2つ以上の核を有する細胞(MF20 positive cell)のパーセンテージとして計算。値は、3〜4の独立した由来の初代培養物から平均±標準誤差として決定した。
(D) コントロール細胞及びカスパーゼ3抑制細胞からの活性型カスパーゼ3のウェスタンブロット分析。矢印は21kDaのカスパーゼ3フラグメントを示し、コントロール細胞においてはカスパーゼ3活性化が高く、カスパーゼ3抑制サンプルにおいては非常に低レベルであることを示している。
(E) コントロール細胞及びカスパーゼ3抑制細胞におけるPARP切断の同等なレベル。コントロール細胞及びカスパーゼ3抑制細胞におけるPARP切断はウェスタンブロットにより評価した。118kDa PARP種が示されている。
(F) カスパーゼ3抑制C2C12筋芽細胞及びコントロール細胞において、ミオゲニンの蓄積は遅れ、より低量である。抗p38αを用いたウェスタンブロットにより同等のローディングが認められた。
(G) カスパーゼ3抑制C2C12筋芽細胞は、コントロール細胞に比べMEF2Cの発現レベルが低い。カスパーゼ3抑制細胞及びコントロール細胞におけるMEF2Cの発現。同等のローディングが図(F)と同様に認められた。
【0195】
筋芽細胞の分化誘導におけるカスパーゼ3の細胞性自律的役割をさらに調べるため、活性型カスパーゼ3タンパクを、成長培地中で維持したサブコンフルエントのC2C12筋芽細胞群にトランスフェクトした。サブコンフルエントなC2C12筋芽細胞を、20pgの組み換え活性型カスパーゼ3でトランスフェクトし、12時間後に、FITC結合二次抗体を用いて検出されるミオシン重鎖(抗MF20)の存在を調べた。コンフルエントな細胞群を、低血清培地(分化培地)中でインキュベートして、筋芽細胞の分化を誘導し、12時間後に試験した。試験した全ての細胞において、核をDAPI染色で局在化した。結果を図3に示すが、これは7回の試験のうちの代表的なものである。
【0196】
ミオシン重鎖及び形態的再構成の免疫的検出により測定されたように、トランスフェクトされた筋芽細胞は分化プログラムを開始した(図3;トランスフェクション効率〜10%;分化を受けたトランスフェクト細胞>95%、n=4 独立したトランスフェクション)。ミオシン重鎖を発現する筋芽細胞もトランスフェクトされた活性カスパーゼ3タンパク(非表示)に対してポジティブで、通常アポトーシスに起因する形態的な特徴を全く示さなかった。さらに、活性型カスパーゼ3のトランスフェクションは、成長刺激性条件、すなわち高血清条件にかかわらず、筋芽細胞の分化を誘導した(図3)。合わせて考えると、これらの結果は、内因性カスパーゼ3活性が筋芽細胞の分化に必要であるということを示すものである。
【0197】
1.3 カスパーゼ3は分化中にMST1キナーゼを活性化する
カスパーゼ3を活性型にする場合、通常その調節C末端ドメインを切断及び除去することにより、それらが活性となる幾つかのプロテインキナーゼを標的とすることができる(Utz, P. J., & Anderson, P. (2000) Cell Death Differ. 7, 589−602; Mukasa, T., et al., (1999) Biochem. Biophys. Res. Commun. 260, 139−142)。従って、カスパーゼ3活性化は、筋原性シグナルカスケードの一部であるキナーゼを刺激するの必要なのかもしれない。実際、様々なMAPKファミリー由来の筋形成キナーゼ前駆体(Cheng, T.C., at el., (1993) Science 261, 215−218; Cuenda, A., & Cohen, P., (1999) J.Biol.Chem. 274, 4341−4346; Yang, S. H., et al., (1999) Mol. Cell. Biol. 19, 4028−4038)が、カスパーゼ3によって切断―活性化され、もしくはカスパーゼの指示よる切断により刺激された上流のキナーゼエフェクター自体に関連することが示されている(Utz, P. J., & Anderson, P. (2000) Cell Death Differ. 7, 589−602; Mukasa, T., et al., (1999) Biochem. Biophys. Res. Commun. 260, 139−142)。
【0198】
二次元インゲルキナーゼ分析は、標的基質としてミエリン塩基性タンパク(MBP)を用い、カスパーゼ3活性により標的とされるプロテインキナーゼを同定した。C2C12細胞をカスパーゼ3抑制剤で処理し、全タンパク溶解液を1次元で等電点電気泳動し、その後、交差基質としてMBPを用いて2次元に分離した。C2C12細胞をz−DEVD.fmkと12時間低血清処理した後、多くの内因性キナーゼの活性レベルが、未処理の筋芽細胞と比べて低下した(図4)。同様の結果が、ヒストンH1をインゲル基質として用いたときにも観察された。
【0199】
活性が変化したあるキナーゼは、Mammalian Sterile Twenty−like kinase(MST1)と一致した予想されたpI(5.2)及び分子量(36kDa)で移動した。MST1は、セリン/スレオニン Ste20キナーゼの酵母ファミリーと相同であるカスパーゼ3活性化キナーゼとして知られている(Lechner, C., et al., (1996) Proc.Natl. Acad. Sci.USA 93, 4355−4359; Megeney, L.A., et al., (1996) Genes Dev 10, 1173−1183)。興味深いことに、MST1は、MMK6及びp38MAPKファミリーのメンバーを標的とする上流キナーゼエフェクターとして作用するとされている(Lechner, C., et al., (1996) Proc. Natl. Acad. Sci.USA 93, 4355−4359Sun, S., & Ravid, K. (1999) J. Cell. Biochem. 76, 44−60)。ウェスタンブロットによる分析から、低血清処理開始から24時間の間、完全長MST1のレベルがz−DEVD.fmk処理培養物と比較して低いことが明らかとなった(図4B)。一方、MST1タンパクはz−DEVD.fmk処理培養物とあまり変らないままであった。この相違は、2次元イムノブロット分析を用いてさらに示された(図4C)。
MST1の蓄積における相違が、カスパーゼ3介在性の切断によるものであることを確認するために、35S−メチオニンでラベル化したMST1を、コントロール及びz−DEVD.fmkで処理されたC2C12培養物の両方から分離したタンパク溶解液と共にインキュベートした。完全長MST1は10% SDS−PAGEで約58kDaへ移動した。正常に分化中のC2C12細胞由来の溶解液とインキュベートした場合、約36kDaのより低いバンドが現れ、これは切断されたMST1フラグメントを示す(図4D)。これらサンプルでは、約45kDaの別のバンドも存在した。
最近の報告では、MST1アミノ酸配列内にカスパーゼ切断に感受性の強い2つの部位が同定された(Sun, S., & Ravid, K. (1999) J. Cell. Biochem. 76, 44−60)。これら部位の一つはアミノ酸323−327の間にあり、これは保存カスパーゼ3切断モチーフDEVDであった。この部位における切断により、36kDaの触媒活性フラグメントが生じる(Lechner, C., et al., (1996) Proc. Natl. Acad. Sci.USA 93, 4355−4359)。アミノ酸346−349の間にある2番目の部位(TMTD)における切断により、41kDaフラグメントが生じ、これは機能的カスパーゼ8切断ドメインを表すかもしれない。C2C12細胞において、カスパーゼ3活性が抑制されたサンプルでは、より低い36kDaのMST1フラグメントは現れず、これはMST1が筋形成の初期段階中においてカスパーゼ3によって正常に切断されることを示唆する。
標的となるMST1の切断がその活性化と密接に結びつくことが明らかになったので、分化の初期段階中におけるMST1活性を測定した。MST1はコントロール及びz−DEVD.fmkで処理された溶解液から免疫沈降し、in vitroキナーゼ分析においてHistone H1とインキュベートした。低血清培地中で12時間処理した後のコントロール溶解液中で、Histone H1が強くリン酸化された(4倍以上の増加)のに対し、z−DEVD.fmk処理細胞からは、基底レベル以上のリン酸化は検出されなかった(図4D)。総合的に考えれば、以上の結果は、カスパーゼ3がMST1の活性化に介在しているというメカニズムを支持するものである。
【0200】
さらに詳細には、図4は次のことを示す:
(A) 2次元ゲル内キナーゼ分析。C2C12細胞をカスパーゼ3抑制剤で処理し、全タンパク溶解液を1次元等電点電気泳動した後、交差基質としてMBPを用いて2次元に分離した。カスパーゼ3抑制の結果、MBP指示性の細胞キナーゼ活性は著しく減少する。活性型MST1キナーゼの推定位置を、予測pI(5.2)及び分子量(36kDa)に基づき、白矢印で示す。
(B) 抗MST1抗体を用いたC2C12細胞のウェスタンブロット分析。コントロール処理細胞では、分化開始0日及び1日の間においてMST1量が変化し、タンパク分解に関連した現象を示す。MST1は、カスパーゼ3が抑制された筋芽細胞中に低血清培地の添加しても変化しない。下に示すのは、p38αを用いたローディングコントロールである。
(C) 12時間低血清培地中においた後のコントロール及びカスパーゼ3で処理した細胞の2D IEF/ウェスタンブロット。引き続きイムノブロット分析を抗MST1抗体を用いて行った。示されているのは、コントロール及びカスパーゼ3抑制サンプルの両方の1分暴露の結果である。カスパーゼ3サンプルの20秒暴露が、シグナル強度の比較として含まれている。
(D) MST1は分化中の筋芽細胞において切断される。[35S]−メチオニンでラベルしたMST1をコントロールあるいはカスパーゼ3が抑制されたC2C12細胞の何れかからの溶解液と、分化条件下でインキュベートした。矢印は、約36kDaと45kDaのMST1切断物を示し、これらは、コントロールサンプルでは見られたが、カスパーゼ3抑制サンプルでは見られなかった。
(E) 筋芽細胞の分化中において、MST1キナーゼ活性が増加する。分化条件下でC2C12筋芽細胞から得たMST1を免疫沈降したあとのg−32P−[ATP]ラベル化Histone H1。分化12時間後のコントロールサンプルにおけるMST1の実質的な活性化は、(A)及び(C)で示されたようにMST1の切断と合致する。サンプルのローディングは、乾燥及びオートラジオグラフィーに先立ってクーマシーブルーでゲルを染色して指標とした(Dの下パネル)。矢印はHistone H1の位置を示す。
【0201】
MST1の基質として、p38αMAPK経路の関連があるメンバーが既に報告されている(Lechner, C., et al., (1996) Proc. Natl. Acad. Sci.USA 93, 4355−4359; Sun, S., & Ravid, K. (1999) J. Cell. Biochem. 76, 44−60)。これらのキナーゼは、リン酸化及び骨格筋転写因子の内因性活性を増加することによって、筋形成の促進することが示されている。
よって、カスパーゼ3/MST1シグナルルートにおける下流基質として、これらのキナーゼの能力を調べた。興味深いことに、カスパーゼ3の抑制により、MKK6及びp38αの両方の活性化が遮断される。総合的に考えれば、これらデータは、MST1が骨格筋の分化を効果的に促進するMAPKカスケードの下流メンバーを増強するように作用することを示すものである。
【0202】
1.4 活性型MST1はカスパーゼ3-/-筋芽細胞中の筋形成を救済する
筋形成におけるMST1の効果を示すために、野性型MST1、活性化MST1(aa 1−330、MST1−act)、またはプラスミド単独を、カスパーゼ3-/-マウス由来の一次筋芽細胞中へ一時的にトランスフェクトした。これらの構築物の活性は、一時的にトランスフェクトしたCOS1細胞からのMST1のHistone H1標的キナーゼ分析によって確認した(図5A)。
MST1−actをトランスフェクトした細胞は、高レベルのキナーゼ活性を示した。プラスミド単独または野性型MST1の何れかをトランスフェクトしたカスパーゼ3−/−筋芽細胞は、一核筋芽細胞のままであった(図5B,D)。一方、MST1−actをトランスフェクトしたカスパーゼ3-/-筋芽細胞は、伸張し、近接する細胞と融合して多核性の筋管を形成した(図5C,E)。これは、カスパーゼ3-/-筋芽細胞中の活性化MST1の発現が、異常な筋原性フェノタイプを救済することを示すものである。
さらに、活性化MST1の前筋原的役割を明らかにするために、MST1−actを野性型一次筋芽細胞にトランスフェクトした。分化培地に2日間おかれたトランスフェクト野性型培養物は、分化4〜5日後の野性型培養物と比較してフェノタイプ的特徴を示した(図5F,G)。さらに、分化タイムコースを延長(4日間以上)したMST1−actトランスフェクト細胞は、アポトーシスの増加を示すことが観察された。これらの結果は、MST1の内因性の活性化パターンが骨格筋細胞の分化を加速し、活性化期間が延長すると該キナーゼにより強力なアポトーシス現象がもたらされることを示す。
【0203】
さらに詳細には、図5は次のことを示す:
(A) MST1タンパク構築物物のキナーゼ活性。完全長MST1または切断されたMST1(aa 1−330, MST1−act)をCOS1細胞へトランスフェクション(n=4)。トランスフェクション後、MST1を免疫沈降し、Histone H1標的キナーゼ分析に用いた。サンプルのローディングの精度は、クーマシー染色により示される。
(B) ベクター単独をトランスフェクトしたカスパーゼ3ノックアウト筋芽細胞は、分化しなかった。
(C) MST1−actを含むカスパーゼ3ノックアウト筋芽細胞は、分化して融合した多核性の筋管を形成した。MST1−act筋芽細胞中での分化率は85%以上であった。
全部の核をDAPI染色を用いて目視化した(D及びE)。核は、ベクター単独を含む筋芽細胞(パネルD)よりも、MST1−actを含む筋芽細胞(パネルE)の方がより多く、より密接である。
MST1−actをトランスフェクトした野性型筋芽細胞(F)は、非トランスフェクト野性型筋芽細胞と比較して2日後の筋形成を加速し、4日間分化させた非トランスフェクト野生型筋芽細胞と同程度であった(G)。
【0204】
前記実施例は、カスパーゼ3の生物学的封鎖及び化学的封鎖の両方が筋形成において重大な欠損を招き、またSte20−likeキナーゼMST1が、筋肉分化のカスパーゼ3誘導の介在において重要なパイプ役を果たすことを示す。従来の報告は、カスパーゼ3があるタイプの細胞において非アポトーシス的機能、すなわち、分化中のレンズ上皮及びケラチノサイトにおける核排出(Graves, J.D., et al., (2001) J. Biol. Chem. 276, 14909−14915; Ishizaki, Y, et al., (1998) J. Cell. Biol. 140, 153−158)、及びT−細胞の活性化(Weil, M., et al., (1999) Curr. Biol. 9, 361−364))を調節できることを示唆している。それでも、本観察は、フェノタイプのように死を招くことのない細胞形態の重大な変化にカスパーゼ3活性を直接結びつける初めてのものである。また、同様のシグナル伝達要素(MST1、MKK6、p38)が、肝細胞、胸線細胞及びニューロンを含む多くの分化した細胞においても見られること(Alam, A., et al., (1999) J Exp Med. 190, 1879−1890; Zheng, T.S., et al., (1998) Proc. Natl. Acad. Sci.USA. 95, 13618−13623; Ko, H. W., et al., (2000) J. Neurochem. 74, 2455−2461)、よって、カスパーゼ3/MST1シグナル伝達が、一般に細胞分化の開始に欠くことのできない構成要素であるということに注目することが重要である。
【0205】
実施例2:種々の幹細胞群におけるカスパーゼ3及びプロカスパーゼ3の局在
プロカスパーゼ3(すなわち、その切断されていない不活性型)が骨格タンパクとして作用する可能性を探るため、プロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の局在化試験を実施した。「骨格タンパク」という用語は、プロカスパーゼ3が、幹細胞における分化効果(またはアポトーシス効果)を誘導するのに必要な他のシグナル伝達タンパクと分子複合体を形成することを指す。骨格タンパクとして作用する利点は、正確な刺激、すなわち、細胞死の誘導よりは分化を引き起こすための刺激が与えるのに、プロカスパーゼ3型が急速に活性化でき、前分化効果を促進する鍵となるシグナル伝達経路に存在することができることである。大抵のシグナルトランスダクションカスケードのように、カスパーゼ3の応答は用量及び時間依存性である。このように骨格タンパクとして作用することにより、カスパーゼ3は、細胞内環境が要求する正確な効果(すなわち、増殖または分化)をもたらす、より良い機会を有する。
【0206】
図10は、増殖中及び分化中の筋芽細胞中のプロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の局在を示す。
(A)は、骨格筋芽細胞の成長(分化)中において、プロカスパーゼ3を(Cy3)赤で染色したもの、及び切断型の活性型カスパーゼ3をFITCで染色(緑色)したものを示す。プロカスパーゼ3は細胞の全範囲に分布する。活性型カスパーゼ3も核(DAPI染色の青で示される)周辺に点在した蓄積状態で細胞の全範囲に分布する。プロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の両者の併合は、両タンパクの共局在を示す。
(B) プロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の再分布は、骨格筋芽細胞の分化中観察される。FITC(緑)により示される活性型カスパーゼ3は細胞の全範囲に局在するが、蓄積がより点在した状態で核(DAPI染色の青で示される)周辺に認められる。プロカスパーゼ3は、(成長細胞との比較して)核周辺にはほとんど蓄積の点在はなく、細胞の全範囲でより分散されたパターンを示す。
(C)及び(D) 活性型カスパーゼ3は、筋芽細胞分化の後期中において消失し、一方、プロカスパーゼ3は細胞の全範囲に分布したままである。
【0207】
図11は、増殖中及び分化中の一次線条体幹細胞における、プロカスパーゼ3(A)及び活性型カスパーゼ3(B)の局在を示す。この図は、細胞の主要部分から切り離された細胞(ニューロスフェア)では、活性型カスパーゼ3が明確に染色されているのに対し、切り離されていない細胞(すなわち、ほとんど分化していない細胞)においてはプロカスパーゼ3が明確に染色されていることを示す。
筋芽細胞及び線条体幹細胞におけるカスパーゼ3及びプロカスパーゼ3の局在確認及び視覚化に関する方法論については実施例3を参照(下記)。
【0208】
実施例3:一次線条体幹細胞におけるカスパーゼ3の抑制
原料及び方法:
<線条体幹細胞の産生と取り扱い>
妊娠E13日目(E0はプラグが確認された日)に、妊娠雌マウスをその胚を傷つけないように(すなわち、脊髄脱臼)死亡させた。その後、腹部に70%エタノールを噴霧した。腹部に対して垂直に2cm開腹した。ホーンを滅菌ピンセットで取り出し、PBS中に入れた。ホーンを切り開いて一つの胚を一度に露出させ、各胚を2mlのPBSを入れた別々の35mmの組織培養皿に入れた。各々の胚は皿にピンで固定し、外皮を一枚一枚はがして線条体を露出させ、取り外した。線条体組織を、氷冷下、冷Hank’s balanced Salt Solution(HBBS)を入れた50mLのファルコンチューブに入れ、組織がチューブの底に沈むようにした。HBSSを2mlの完全Neurocult増殖培地で置換し、組織をそのフラグメントがほとんど残らなくなるまで、注意深く粉砕した。上澄みを集め、組織のフラグメントを1mlの培地中で粉砕した。上澄みをさらに取って、集めておいた最初の上澄みと一緒に保存した。
【0209】
この時点で、細胞数をトリパンブルー(1/5希釈)のアリコートを用いてカウントすることができる。細胞は完全増殖培地25ml当たり100万個の細胞密度とし、完全Neurocult増殖培地中で4日間成長させ、4日目にプレートがコンフルエントになりすぎているようであれば、拡張した。拡張の必要がない場合は、細胞を集菌する前にさらに数日間成長させた。一次培養物を拡張するため、細胞懸濁液の半分を新しい皿に入れ、12.5mlの完全増殖培地を最初のプレートと拡張プレートのそれぞれに添加した。数日後、スフェアのほとんどがプレートから持ち上がり、スフェア懸濁液はコンフルエントであった。この時点で、細胞を成長培地に移すか、凍結するか、分化プレートに植えつけるかの何れかとした。
【0210】
<線条体幹細胞の解凍>
凍結細胞を入れたバイアルを、37℃のインキュベーター内で、ほとんど解凍されるまで温め、その後1mlの完全Neurocult増殖培地を各バイアルに滴下した。スフェア懸濁液を8mlの完全Neurocult増殖培地が入った新しいチューブに移し、チューブを4℃で5分間、500rpmで遠心分離した。上澄み液の半分をアスピレーションにより取り出し、スフェアペレットを5mlピペットを用いて5回注意深く再懸濁した。次いで、スフェア懸濁液を10cmの皿に入った25mlの完全Neurocult増殖培地に入れ、37℃でインキュベートした。毎日、スフェアの生育性と拡張性を観察した。培養物はスフェアのほとんどがプレートから離れるまで成長させた(5〜10日間)。
【0211】
<線条体幹細胞のプレーテュング及び分化>
ニューロスフェアの分化のため、ニューロスフェアをラミニン及びポリ−D−リジンでコーティングした表面上に塗布しなければならない。スフェア懸濁液を10cmの皿から集め、50mlチューブに入れて4℃で5分間、500rpmで遠心分離した。上澄み液を吸い出して除去し、2mlの完全Neurocult増殖培地を添加し、スフェアペレットをスフェアが再懸濁するまで注意深く粉砕した。その後、スフェア懸濁液を完全Neurocult増殖培地で所望の濃度に希釈した(ニューロスフェアの10cm皿一つは、約4のコーティングされたチャンバースライドに適当である)。1チャンバー当たりスフェア懸濁液2mlを塗布し、37℃で数時間後、培地を完全Neurocult分化培地に変えた。
【0212】
<細胞のパラホルムアルデヒド(PFA)固定>
新しく調製した4%PFAを用いた。培地をウェルから吸引除去し、各ウェルを2mlのPBSで3分間洗浄した。ウェルからPBSを吸引除去後、1.5mlの4%PFAを各ウェルに添加し、室温にて10分間(C2C12)、あるいは30分間(ニューロスフェア)、インキュベートした。その後PFAをウェルから吸引除去し、各ウェルを2mlのPBSで3分間洗浄した。ウェルからPBSを吸引除去した後、各ウェルに2mlのPBSを添加し、染色に必要とされるまでプレートを4℃で保存した。
【0213】
<免疫細胞化学>
4%PFA固定で固定され、PBSで洗浄された細胞を、室温で10分間、1mlの0.3%Triton X−100(in PBS)中でインキュベートし、その後、2mlのPBSで3回室温で4分間洗浄した。PBSを吸引除去した後、細胞を室温1時間、5%ウマ血清(in PBS)でブロックした。ブロック溶液を吸引除去後、細胞を1ウェル当たり1mlの一次抗体(C2C12細胞用はin PBS+1%BSA、ニューロスフェア用はin PBS+10%HS)で終夜4℃でインキュベートした。(用いた一次抗体の希釈度:活性カスパーゼ3(Rb Biovision) 1:50、プロカスパーゼ3(Ms Chemicon) 1:500、Mf20(Ms) 1:50。)その後、各ウェルを2mlのPBSで3回室温にて5分間洗浄し、細胞を室温で1時間、1ウェル当たり1mlのニ次抗体(C2C12細胞用はin PBS+1%BSA、ニューロスフェア用はin PBS+10%HS)とインキュベートした(この時点から細胞を遮光した)。(用いたニ次抗体の希釈度:FITC(Rb Biovision) 1:150、Rhodamine(Ms Chemicon) 1:150。)各ウェルは2mlのPBSで3回室温で5分間洗浄し、細胞を室温で10分間、1mlのDAPI(1:1000希釈、in PBS)とインキュベートした。各ウェルを2mlのPBSで5分間室温にて再洗浄し(ウェル壁面に沿わせてPBSを添加)、細胞を封入用のddH2O2mL中に懸濁した。
【0214】
結果
E14胎児マウス由来の一次線条体ニューロスフェアは、培地中で増殖し続けることが可能であり、あるいは、別の神経細胞系列へと分化を誘導することができる。分化した神経組織は、ニューロンあるいはグリア(乏突起神経膠細胞及び星状細胞も、他の系列も含む)を形成することができる。
【0215】
ニューロスフェアをE14マウスから培養し、1μMのカスパーゼ3抑制剤z−DEVD−FMK(+/-カスパーゼ3抑制剤)の存在下あるいは非存在下でインキュベートした。インキュベート後、ニューロスフェアの増殖能力及び/または分化能力を調べた。細胞は固定し、神経系列のマーカーを免疫染色した。
【0216】
増殖中の線条体幹細胞を抗ネスチン抗体で染色し(初期神経細胞のマーカー)、Cy3蛍光色素で対比染色することにより視覚化した。細胞は核が見えるようにDAPIで共染色した。通常、初期の神経前駆体は、ニューロスフェア成長中に存在する。この実験結果は、図12(A)に示すように、この特定の抑制剤を用いたカスパーゼ3の抑制が細胞サイクルに影響を与えないことを示す。
【0217】
図12(B)は、抗ミエリン塩基性タンパク抗体(乏突起神経膠細胞系統のマーカー)で染色し、FITC蛍光色素で対比染色することにより視覚化した増殖中の細胞を示している。細胞は核が見えるようにDAPIで共染色した。予想どおり、分化した乏突起神経膠細胞はニューロスフェア成長中には存在しない。
【0218】
図12(C)は、抗グリア繊維性酸性タンパク抗体(星状細胞系統のマーカー)で染し、FITC蛍光色素で対比染色することにより視覚化した増殖中の細胞を示している。細胞は核が見えるようにDAPIで共染色した。予想どおり、分化した星状細胞はニューロスフェア成長中には存在しない。
【0219】
分化中の線条体幹細胞(48時間)も抗ネスチン抗体で染色し、Cy3蛍光色素で対比染色することにより視覚化した。細胞は核が見えるようにDAPIで共染色した。初期の神経前駆体は細胞分化中には存在せずに細胞成長中に存在するべきである。
図13(A)は、初期の神経前駆体がカスパーゼ3抑制剤で処理されていない細胞中には存在しないことを示す。しかしながら、カスパーゼ3抑制剤の存在下では、ネスチンの存在によって示されるように、細胞は未分化の系列を維持する。従って、カスパーゼ3の抑制は神経細胞の分化を抑制する。
【0220】
図13(B)は、抗ミエリン塩基性タンパク抗体(乏突起神経膠細胞のマーカー)で染色し、FITC蛍光色素で対比染色することにより視覚化した分化中の細胞を示す。細胞は核が見えるようにDAPIで共染色した。分化したニューロスフェアは乏突起神経膠細胞の存在を示すべきである。カスパーゼ3抑制剤の非存在下でインキュベートした細胞は、乏突起神経膠細胞の明確な染色からわかるように、適切に分化した。カスパーゼ3抑制剤の存在下でインキュベートした細胞は、乏突起神経膠細胞の明確な染色が認められず、これは、これらの細胞の分化が遅延あるいは停止されたことを示すものである。従って、カスパーゼ3の抑制は、乏突起神経膠細胞の形成を抑制し、よって神経細胞の分化を抑制する。
【0221】
図13(C)は、グリア繊維性酸性タンパク抗体(星状細胞のマーカー)で染色し、FITC蛍光色素で対比染色することにより視覚化した分化中の細胞を示している。細胞は核が見えるようにDAPIで共染色した。星状細胞は、分化した神経細胞系列の一部分である。カスパーゼ3抑制剤非存在下でインキュベートした細胞では、星状細胞マーカーが明確に染色され、一方、カスパーゼ3抑制剤非存在下で分化した細胞は星状細胞が染色されなかった。これは、カスパーゼ3抑制が星状細胞の形成も遅延あるいは停止させることを示すものである。従って、カスパーゼ3活性の非存在下では、神経細胞の分化が抑制される。
【0222】
実施例4:ヒトプロカスパーゼ3のクローニング
細胞中のプロカスパーゼ3と他のタンパクとの間の一時的なタンパク−タンパク相互作用の調査を容易するために、プロカスパーゼ3遺伝子をPCR増幅してクローニングに供した。具体的には、EcoRI及びPacIの挿入のために、プロカスパーゼ3の5’末端と3’末端の各々に制限部位を提供するプライマーを用いて、HeLa細胞RNAの逆転写PCRにより得られたcDNAプールからヒトのプロカスパーゼ3遺伝子(U26943)を、PCR増幅した:
5’Primer: 5’−ATGACCATGATTACGAATTCATGGAGACAC−3’(SEQ ID NO:5)
3’Primer: 5’−CACTCTAGATTAATTAAAAAAATAGAGTTC−3’(SEQ ID NO:6)
PCRプロトコルは次の通り:95℃2分、(99℃1分、55℃1分、72℃1分)の30回繰り返し、72℃10分。
【0223】
PCRフラグメントは、その後EcoRI及びPacIで消化され、対応するEcoRI及びPacI部位を有する適当なベクターに連結することができる。組換え型ベクターをE.coli DH5alpha細胞へトランスフォーメーションし、組換え型ベクターを含む単一の細菌コロニーを選択した後、プラスミドDNAの大スケールでの調製を行うことができる。次いでプラスミドDNAを精製し、プロカスパーゼ3の挿入の確認のために配列決定することができる。
【0224】
実施例5:種々幹細胞の初期の分化におけるカスパーゼ3の役割の決定方法
多様な組織起源を利用した従来の研究は、ヘキスト染料で染色された細胞懸濁液がヘキスト流出サブ細胞群(サイド細胞群あるいはSP細胞)を明らかにすることを示している。これらの細胞は幹細胞様活性を有し、また多剤抵抗性タンパクの抑制剤であるベラパミルの存在に敏感であるという特徴も有する(Goodell, M.A., et al. (1996) J. Exp. Med. 183, 1797−1806 ; Gussoni, E., et al. (1999) Nature 401, 390−394 ; Jackson, K.A., et al. (1999) J. Clin. Invest. 107, 1395−1402)。実験的に操作可能である成人心臓の常在性心臓幹細胞群が最近報告されている(Hierlihy et al. (2002) FEBS Lett. 530, 239−243)。
【0225】
心臓幹細胞の初期分化過程におけるカスパーゼ3の役割は、心臓SP細胞を用いて直接分析することができる。共培養試験は、カスパーゼ3抑制剤及びカスパーゼ8抑制剤の存在下で、Z/AP由来心臓SP細胞及び非標識心筋細胞を用いて行うことができる。免疫組織化学的分析を行い、1つ以上のカスパーゼ3調節剤で処理した後、β−グルコシダーゼ活性、及びコネキシン−43、MEF2C、ミオシン重鎖のような心筋細胞特異的マーカーの発現を共染色して同定することができる(FITC接合抗体を用いる)。その後、in vitro及びin vivoの両方における心筋細胞の分化に関与するカスパーゼ3ヌル型心臓SP細胞の能力を分析することができる。活性化MST−1 (Ad−ActMST−1)や、キナーゼ失活MST−1(Ad−kdMST−1)、野性型MST−1(Ad−wtMST−1)を含む一連のE1削除アデノウィルスベクターが開発され、これらは心臓SP細胞に感染させ、共培養誘導分化に対する応答を試験するのに用いることができる。この際、カスパーゼ3ヌル型マウスは機能的な心筋を発達させることに注目することが重要である。フェノタイプのこのようなはっきりとした欠損は、MST−1を活性化する能力があることが示されたカスパーゼ8の補償活性から生じるのかもしれず(Fernando et al., (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 11025−11030参照)、このことは、カスパーゼ3またはカスパーゼ8のいずれかが心臓系列における分化プロセスを保証するかもしれないということを示唆するものである。カスパーゼ3ヌル型心臓SP細胞及び一次心筋細胞を用いた共培養試験を、カスパーゼ8抑制剤の共存下及び非共存下で行い、各々のプロテアーゼの役割を同定する手助けとすることができる。
【0226】
さらに、野性型及びカスパーゼ3ヌル型由来心臓SP細胞のin vivoでの心筋細胞再構成能力を評価することができる。この試験を実施するために、カスパーゼヌル型マウスが、損傷のある心筋に注射された場合にこれらの細胞の位置と運命を追跡できるようZ/APマーカー染色して飼育されている。また、これら分析は、神経由来SP細胞及び胎齢14日由来皮質前駆細胞を用いて行ってもよい。共培養試験はZ/APマーカー染色及び適当な神経マーカーを利用する。
【0227】
同様に、脳や骨髄由来のin vitro培養SP細胞群において、カスパーゼ3調節剤の効果を評価することができる。細胞の数、成長曲線、DNA複製マーカー、及びウェスタンブロット及びRT−PCR法による分化に特異的な遺伝子産物の資料も含めて分化の表示を行うことができる。これらの試験の後、適当な系列特異的共培養試験を行って、カスパーゼ3調節が細胞の可塑性/生育性を変化させないことを確かめることができる。
【0228】
また、前記試験を補足するためのin vitro試験も行うことができる。調節剤濃度を変えてマウスを処理するのに用い(尾静脈注射)、続いて回収した単一細胞懸濁液のFACS分析を行うことができる。本方法では、種々の組織起源(骨格筋、心臓、脳、及び骨髄)からのSP群を測定し、プロカスパーゼ3調節とポストカスパーゼ3調節とを比較する。C57BL/6野性型マウス、カスパーゼ3異型接合型マウス、及びカスパーゼ3ヌル型マウスにおけるこれらの同じ組織起源からのSPフラクション(Frasch, S. C., et al., (1998) J. Biol. Chem. 273, 8389−8397; Kuida, K., et al., (1996) Nature 384, 368−372)(通常各ゲノタイプに対しn=5)は、記載されているように(Cregan, S.P. et al., (1999) J. Neuro. 19, 7860−7869)、比較することができる。
【0229】
さらに、各標的組織においてそれぞれ障害を誘導するin vivo試験(例えば、心筋梗塞を誘導する冠状動脈結結紮、急性虚血性脳疾患を誘導する頚動脈閉塞、及び再生応答反応を誘導する骨格筋への直接的カルジオトキシン注射など)を行うことができる。所望の幹細胞群をin vivo拡張及び/または分化するために、カスパーゼ3調節剤の濃度を変えて投与し、修復プロセスの促進に影響を与えることができる。
【0230】
以上の発明は、明瞭性及び理解を目的としていくらか詳しく記載してきたが、本発明及び添付の請求項の真の範囲を逸脱しないで形式及び詳細において多様な変更が可能であるということは、本発明の開示から当業者が認識できるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0231】
【図1】図1は、カスパーゼ3ヌル型筋芽細胞における不完全な筋管形成を示している。
【図2】図2は、カスパーゼ3活性が骨格筋分化に必要であることを示している。
【図3】図3は、活性化されたカスパーゼ3による成長中の筋芽細胞の分化誘導を示している。
【図4】図4は、骨格筋の分化中、カスパーゼ3によりMammalian Sterile Twenty−likekinase(MST1)が活性化することを示している。
【図5】図5は、活性化されたMST1によりカスパーゼ3-/-筋芽細胞フェノタイプが救済されることを示している。
【図6】図6は、ヒトカスパーゼ3遺伝子のヌクレオチド配列を示している[Genbank Accession No.gi|857568;SEQ ID NO:1]。
【図7】図7は、(A)ヒトカスパーゼ3タンパクのアミノ酸配列[Genbank Accession No.gi|857569;SEQ ID NO:2]、(B)活性型カスパーゼ3タンパクの一つの型のアミノ酸配列(アミノ酸9と10の間で切断)[SEQ ID NO:7]、(C)活性型カスパーゼ3タンパクの別の型のアミノ酸配列(アミノ酸28と29の間で切断)[SEQ ID NO:8]、(D)及び(E)活性型カスパーゼ3タンパクの2つの可能なサブユニットのアミノ酸配列(アミノ酸175及び176の間でのSEQ ID NO:8の切断)[SEQ ID NO:9(D)及びSEQ ID NO:10(E)]、を示している。
【図8】図8は、ヒトMST1遺伝子のヌクレオチド配列を示している[Genbank Accession No.gi|1117790;SEQ ID NO:3]。
【図9】図9は、ヒトMST1タンパクのアミノ酸配列を示している[Genbank Accession No.gi|1117791;SEQ ID NO:4]。
【図10A】図10Aは、成長条件下の筋芽細胞中におけるプロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の分布を示している。
【図10B】図10Bは、分化条件下12時間後の筋芽細胞中におけるプロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の分布を示している。
【図10C】図10Cは、分化条件下24時間後の筋芽細胞中におけるプロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の分布を示している。
【図10D】図10Dは、分化条件下48時間後の筋芽細胞中におけるプロカスパーゼ3及び活性型カスパーゼ3の分布を示している。
【図11A】図11Aは、成長条件下及び分化条件下(12時間、24時間、48時間)で培養した、一次線条体幹細胞中におけるプロカスパーゼ3の分布を示している。
【図11B】図11Bは、成長条件下及び分化条件下(12時間、24時間、48時間)で培養した、一次線条体幹細胞中における活性型カスパーゼ3の分布を示している。
【図12A】図12Aは、カスパーゼ3抑制剤の存在下あるいは非存在下で増殖中の線条体幹細胞の、ネスチン染色を示している。
【図12B】図12Aは、カスパーゼ3抑制剤の存在下あるいは非存在下で増殖中の線条体幹細胞のミエリン塩基性タンパク染色を示している。
【図12C】図12Cは、カスパーゼ3抑制剤の存在下あるいは非存在下で増殖中の線条体幹細胞のグリア線維性酸性タンパク染色を示している。
【図13A】図13Aは、カスパーゼ3抑制剤の存在下あるいは非存在下において48時間分化後の線条体幹細胞のネスチン染色を示している。
【図13B】図13Bは、カスパーゼ3抑制剤の存在下あるいは非存在下において48時間分化後の線条体幹細胞のミエリン塩基性タンパク染色を示している。
【図13C】図13Cは、カスパーゼ3抑制剤の存在下あるいは非存在下において48時間分化後の線条体幹細胞のグリア線維性酸性タンパク染色を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップを備えることを特徴とする幹細胞分化調節化合物のスクリーニング方法:
(a)カスパーゼ3タンパクあるいはカスパーゼ3タンパクを発現する細胞を候補化合物と接触させた後、カスパーゼ3タンパク活性を測定し、その測定した活性を候補化合物に接触させなかった場合のカスパーゼ3タンパク活性と比較し、活性の差異があった場合の候補化合物をカスパーゼ3活性調節剤とすることにより、カスパーゼ3活性調節剤を同定する;
(b)幹細胞群を前記カスパーゼ3活性調節剤と接触させて、処理幹細胞群を得る;
(c)前記幹細胞群において少なくとも一つの分化マーカーのレベルを測定する;及び
(d)処理幹細胞群における前記マーカーレベルを調節剤と接触させなかったコントロール幹細胞群と比較して、マーカーレベルの差異があった場合の調節剤を幹細胞分化調節能を有する化合物であるとする。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、ステップ(C)の前に、さらに前記処理幹細胞群を分化培地中で培養することを特徴とする、幹細胞分化調節化合物のスクリーニング方法。
【請求項3】
幹細胞分化調節化合物のスクリーニングのための、カスパーゼ3タンパクあるはカスパーゼ3タンパクをエンコードするポリヌクレオチドの使用。
【請求項4】
幹細胞分化調節のための、カスパーゼ3シグナル伝達経路の1つ以上の構成要素を抑制または活性化することによりカスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項5】
請求項4記載の使用において、前記1つ以上の構成要素が、プロカスパーゼ3、活性型カスパーゼ3、Mammalian Sterile Twenty−like kinase 1(MST1)、MEKK1、ASK1、SLK、MKK6、MKK3、p38α、p38γ、XIAP、c−IAP2、c−IAP1、スルビビン、カスパーゼ1、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、グランザイムB、I−FLICE、及びCrmAからなる群から選ばれることを特徴とする、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項6】
請求項4又は5記載の使用において、前記1つ以上の化合物がカスパーゼ3活性を増強し、幹細胞分化を誘導することを特徴とする、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項7】
請求項4又は5記載の使用において、前記1つ以上の化合物がカスパーゼ3活性を低減し、幹細胞分化を抑制することを特徴とする、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項8】
請求項4、5、6又は7の何れかに記載の使用において、前記幹細胞が、筋幹細胞、心臓幹細胞、神経幹細胞、外皮幹細胞、及び骨髄幹細胞からなる群から選ばれることを特徴とする、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項9】
請求項4、5、6、7又は8の何れかに記載の使用において、前記幹細胞がin vivoであることを特徴とする、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項10】
請求項4、5、6、7又は8の何れかに記載の使用において、前記幹細胞がex vivoであることを特徴とする、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項11】
請求項4、5、6、7又は8の何れかに記載の使用において、前記幹細胞がin vitroであることを特徴とする、カスパーゼ3活性を調節する1つ以上の化合物の使用。
【請求項12】
幹細胞あるいは幹細胞群を1つ以上のカスパーゼ3活性調節剤に接触させることを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記1つ以上のカスパーゼ3活性調節剤が、カスパーゼ3シグナル伝達経路の1つ以上の構成要素を活性化または抑制することを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項14】
請求項13又は14記載の方法において、前記1つ以上の構成要素が、プロカスパーゼ3、活性型カスパーゼ3、Mammalian Sterile Twenty−like kinase 1(MST1)、MEKK1、ASK1、SLK、MKK6、MKK3、p38α、p38γ、XIAP、c−IAP2、c−IAP1、スルビビン、カスパーゼ1、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、グランザイムB、I−FLICE、及びCrmAからなる群から選ばれることを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項15】
請求項12、13又は14の何れかに記載の方法において、前記1つ以上の調節剤がカスパーゼ3活性を増強し、幹細胞分化を誘導することを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項16】
請求項12、13又は14の何れかに記載の方法において、前記1つ以上の調節剤がカスパーゼ3活性を低減し、幹細胞分化を抑制することを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項17】
請求項12、13、14、15又は16の何れかに記載の方法において、前記幹細胞あるいは幹細胞群が筋幹細胞、心臓幹細胞、神経幹細胞、外皮幹細胞及び骨髄幹細胞からなる群から選ばれることを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項18】
請求項12、13、14、15,16又は17の何れかに記載の方法において、前記幹細胞あるいは幹細胞群がin vivoであることを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項19】
請求項12、13、14、15,16又は17の何れかに記載の方法において、前記幹細胞あるいは幹細胞群がex vivoであることを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項20】
請求項12、13、14、15,16又は17の何れかに記載の方法において、前記幹細胞あるいは幹細胞群がin vitroであることを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項21】
請求項12、13又は14の何れかに記載の方法において、前記幹細胞あるいは幹細胞群を、カスパーゼ3活性を低減し幹細胞分化を抑制する調節剤、及びカスパーゼ3活性を増強し幹細胞分化を誘導する調節剤に順次接触させることを特徴とする、幹細胞分化調節方法。
【請求項22】
請求項1記載のスクリーニング方法によって化合物を同定し、該化合物を薬学的に許容可能な剤型に製剤化することを特徴とする、幹細胞分化調節用医薬組成物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【公表番号】特表2006−508666(P2006−508666A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−557711(P2004−557711)
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/CA2003/001911
【国際公開番号】WO2004/053144
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(505050555)オタワ ヘルス リサーチ インスティテュート (11)
【Fターム(参考)】