説明

カソードユニットおよび成膜装置

【課題】高精度に膜厚を均一化することができるカソードユニットおよび成膜装置を提供する。
【解決手段】スパッタ室13内に配置されたターゲット材17と、ターゲット材が取り付けられる裏板19と、裏板の裏面側に所定距離離間して配置された磁石29と、を備えたカソードユニット15において、磁場強度調整機構100を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードユニットおよび成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板に対して薄膜をスパッタ法にて形成する場合、析出速度が速く、生産性に優れたマグネトロンカソード(カソードユニット)を用いた成膜装置が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。この成膜装置では、一般的にスパッタ室内にマグネトロンカソードを基板搬送方向に沿って一つ以上配列している。そして、マグネトロンカソードのターゲットに対向するように基板を搬送させることで、基板面に薄膜を成膜するように構成されている。なお、基板は被成膜面が鉛直方向と平行になるように、基板を立てた状態で搬送しながら成膜を行うのが一般的である。
【0003】
特許文献1に示すように、ターゲットの背面には裏板が設けられ、ターゲットを固定し、裏板から所定距離離間して磁石が配置されている。また、磁石はヨークに固定され、さらにヨークを支持するリブが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−109568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の基板の大型化に伴って、マグネトロンカソードも大型化している。マグネトロンカソードが大型化すると、ターゲットが取り付けられた裏板が、その自重およびスパッタ室内が真空状態に保持されることで引っ張られる(外部の大気側から押される)ことにより反ってしまうことがある。一方、磁石はヨークに固定され、さらにリブでヨークを補強しているため反りは発生しない。したがって、この状態で成膜を行うと、ターゲットと磁石との距離が基板の被成膜面の鉛直方向の位置によって異なり、膜厚分布が大きくなる。具体的には、裏板は鉛直方向の略中間位置において凸状の頂部になるように山なりに反りが生ずるため、その位置においてターゲットと磁石との距離が一番大きくなり、磁場が弱くなる。その結果、基板の鉛直方向の両端の膜厚が厚くなり、中間部分の膜厚が薄くなってしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、高精度に膜厚を均一化することができるカソードユニットおよび成膜装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明は、スパッタ室内に配置されたターゲット材と、該ターゲット材が取り付けられる裏板と、該裏板の裏面側に所定距離離間して配置された磁石と、を備えたカソードユニットにおいて、磁場強度調整機構を有していることを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、磁場強度調整機構によりターゲット材にかかる磁場の大きさが略均一になるように調整することにより、基板の被成膜面の全面に亘って略均一な膜厚で成膜することができる。したがって、高精度に膜厚を均一化することができる。
【0009】
請求項2に記載した発明は、前記磁場強度調整機構は、前記磁石が基板の被成膜面に平行な面内方向で、かつ、該基板の進行方向に対して直交する方向に対して、中心部分が凸状になるように変形可能に構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載した発明によれば、磁石の表面とターゲットの表面との距離が磁石を基板の被成膜面に平行な面内方向で、かつ、基板の進行方向に対して直交する方向の全長(鉛直方向の全長)に亘って等間隔になるように調整することができる。したがって、鉛直方向の全長に亘って磁場を略均一にすることができるため、基板の鉛直方向の全長に亘って膜厚を略均一に成膜することができる。
【0011】
請求項3に記載した発明は、前記磁石を所定量変形するためのスペーサを備えていることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載した発明によれば、スペーサを用いて磁石を変形させることができるため、磁石の変形量を精度良く調整することができる。
【0013】
請求項4に記載した発明は、前記磁石の裏面側に配置されるヨークと、該ヨークの裏面側に配置されるリブと、を備え、 前記ヨークと前記リブとの隙間を調整可能な調整ボルトと、前記ヨークと前記リブとを結束する結束ボルトと、を取り付け可能に構成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載した発明によれば、調整ボルトおよび結束ボルトを用いてヨークを反らせることができるとともに、その状態を確実に保持することができる。したがって、磁石を所定量反らせることができ、ターゲット鉛直方向表面の全長に亘って磁場を略均一にすることができる。
【0015】
請求項5に記載した発明は、成膜装置において、請求項1〜4のいずれかに記載のカソードユニットを備えたことを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載した発明によれば、磁場強度調整機構によりターゲット材にかかる磁場の大きさが略均一になるように調整することにより、基板の被成膜面の全面に亘って略均一な膜厚で成膜することができる。したがって、高精度に膜厚を均一化された基盤を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、磁場強度調整機構によりターゲット材にかかる磁場の大きさが略均一になるように調整することにより、基板の被成膜面の全面に亘って略均一な膜厚で成膜することができる。したがって、高精度に膜厚を均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態におけるスパッタ成膜装置の概略構成図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】本発明の実施形態における磁気回路(永久磁石、ヨークおよびリブで構成されている)の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態におけるヨークとリブとの固定方向を示す部分断面図である。
【図5】本発明の実施形態におけるスペーサの斜視図である。
【図6】本発明の実施形態におけるスパッタ成膜装置で基板を成膜する際のマグネトロンカソードの状態を説明する側面図である。
【図7】本発明の実施形態におけるスパッタ成膜装置で基板を成膜した際の基板の鉛直方向における膜厚分布を示す図である。
【図8】従来のスパッタ成膜装置で基板を成膜した際の基板の鉛直方向における膜厚分布を示す図である。
【図9】鉛直方向におけるターゲットと永久磁石との距離のばらつき(ΔT/M)と、そのときの表面磁場強度のばらつきとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係るスパッタ成膜装置について、図1〜図9に基づいて説明する。
図1はスパッタ成膜装置の要部概略構成図(平面図)である。図1に示すように、スパッタ成膜装置10は、量産式のインライン式スパッタ装置であり、等速駆動されるキャリア11に基板21が載置され、スパッタ室13内を矢印Xの方向に連続して順次搬送される。なお、基板21は被成膜面21aが鉛直方向と平行になるように載置された状態で水平方向に搬送される。また、キャリア11(基板21)の搬送手段としては、モータに連結された搬送ローラやラック&ピニオン機構などの搬送手段を用いることができる。また、基板21の上端縁と下端縁とを溝付ロータにより挟持し、モータなどにより溝付ローラを回転させることで、基板21を搬送するように構成してもよい。また、スパッタ室13内は真空雰囲気に保持可能に構成されている。
【0020】
基板21の被成膜面21aに対向した位置に、マグネトロンカソード(カソードユニット)15が配置されている。マグネトロンカソード15における基板21に対向する面には、ターゲット17が配されている。ターゲット17はバッキングプレート(裏板)19にメタルボンディングされ、絶縁板23を介してスパッタ室13の壁面25に取り付けられている。
【0021】
また、バッキングプレート19の背面側(大気側)にはヨーク27が配置されており、このヨーク27の表面27aには永久磁石29が設けられている。また、ヨーク27は、ヨーク27の背面27bに設けられた柱状のリブ28に支持されている。このリブ28は例えば鋼などで製造された強固なものである。
【0022】
さらに、図2、図3に示すように、ヨーク27の表面27aには、バッキングプレート19側から見て鉛直方向に平行になるように配された棒状の中央磁石29aと、中央磁石29aの周囲を囲むように矩形状に配された外周磁石29bと、で構成された磁石群29cが2組配されている。
【0023】
中央磁石29aおよび外周磁石29bは、ともに基板21の被成膜面21aに対して垂直方向に着磁されており、さらに中央磁石29aと外周磁石29bとは互いに逆方向に着磁されている。例えば、中央磁石29aの表面がS極に着磁されており、外周磁石29bの表面がN極に着磁されている。このように永久磁石29を配置することにより、中央磁石29aと外周磁石29bとの間に磁場が形成される。なお、永久磁石29は、例えばモータなどからなる移動装置(不図示)を用いて基板21の搬送方向に沿って往復移動できるように構成してもよい。
【0024】
また、バッキングプレート19には、ターゲット17に直流電界を印加するための直流電源装置31が設けられている。さらに、スパッタ室13内へ供給するスパッタガスが封入された第一ガスボンベ33およびスパッタ室13内へ供給する反応性ガスが封入された第二ガスボンベ35が配置されている。第一ガスボンベ33および第二ガスボンベ35は、スパッタ室13内へ配管37を介して導入され、その先端がガス導入ノズル39に接続され、スパッタ室13内に噴出できるようになっている。
【0025】
ここで、図4に示すように、ヨーク27とリブ28とは結束ボルト41により締結固定されている。結束ボルト41は、リブ28の軸方向(鉛直方向)に沿って複数取り付け可能に構成されている。具体的には、ヨーク27に雌ネジ部42が形成されるとともに、リブ28における雌ネジ部42に対応した位置に貫通孔43が形成されている。なお、貫通孔43の大きさは結束ボルト41の雄ネジ部44の外形よりも大きく、頭部45の外形よりも小さく形成されている。したがって、結束ボルト41をリブ28の貫通孔43に挿通するとともにヨーク27の雌ネジ部42で螺合することにより、ヨーク27とリブ28とを締結固定することができる。
【0026】
一方、リブ28には調整ボルト51が取り付け可能に構成されており、調整ボルト51によりヨーク27とリブ28との間に隙間を形成することができる。調整ボルト51は、リブ28の軸方向(鉛直方向)に沿って複数取り付け可能に構成されている。具体的には、リブ28に雌ネジ部52が形成されている。なお、雌ネジ部52はリブ28を貫通するように形成されている。したがって、調整ボルト51をリブ28の雌ネジ部52に螺合することにより調整ボルト51の先端部53はヨーク27側へと移動し、先端部53はヨーク27の背面27bに当接する。さらに、調整ボルト51を螺合することにより、ヨーク27とリブ28との間を押し広げ、ヨーク27とリブ28との間に隙間を形成することができる。
【0027】
つまり、ヨーク27とリブ28とを結束ボルト41で締結しつつ、調整ボルト51によりヨーク27とリブ28との間に隙間を形成することにより、ヨーク27を鉛直方向に沿って湾曲させることができる。
【0028】
本実施形態においては、基板21の被成膜面21aに平行な面内方向で、かつ、基板21の進行方向に対して直交する方向(鉛直方向)に対して、中心部分が凸状になるように湾曲可能に構成した。このようにリブ28に対してヨーク27および永久磁石29を湾曲させてマグネトロンカソード15の磁場を調整する機構を磁場強度調整機構100という。つまり、磁場強度調整機構100により、基板21のの被成膜面21aに平行な面内方向で、かつ、基板21の進行方向に対して直交する方向(鉛直方向)の磁場強度を調整することができる。
【0029】
また、ヨーク27とリブ28との隙間には、スペーサ61を配置できるように構成した。スペーサ61を隙間に配置することにより、隙間の管理を容易にすることができる。図5に示すように、スペーサ61は板状の部材であり、調整ボルト51を挿通可能な貫通孔62および結束ボルト41との接触を回避するための切欠部63が形成されている。スペーサ61は厚さの異なるものを複数用意して、隙間の大きさに合わせて使い分けるようにしてもよいし、薄板のスペーサ61を複数用意して、隙間の大きさに合わせてスペーサ61を積層して隙間に配置するようにしてもよい。
【0030】
次に、スパッタ成膜装置10を用いて基板を成膜する方法について説明する。なお、ここでは基板21の大きさが(幅)2200mm×(長さ)2500mmのものを用いてその被成膜面21aに成膜する場合について説明する。
【0031】
基板21が上述のように大型の場合には、カソードとなるターゲット17およびバッキングプレート19の長さは約3000mmの長さとなる。このように大型のターゲット17およびバッキングプレート19をスパッタ成膜装置10にセットし、スパッタ室13内を真空雰囲気にすると、図6に示すように、ターゲット17およびバッキングプレート19は基板21の被成膜面21aに平行な面内方向で、かつ、基板21の進行方向に対して直交する方向(鉛直方向)に対して、中心部分が凸状になるように湾曲する。このときターゲット17およびバッキングプレート19の鉛直方向両端部と、鉛直方向中心部と、は約4mm程度撓んだ状態となる。
【0032】
そこで、本実施形態では、調整ボルト51を調整することで、ヨーク27の表面27aが同様に約4mm、鉛直方向中心部分が凸状になるようにする。つまり、ヨーク27の表面27aに配された永久磁石29の鉛直方向中心部分が凸状になるようにして、ターゲット17と永久磁石29とが略平行に配されるように設定した。
【0033】
このように設定したスパッタ成膜装置10を用いて、基板21の被成膜面21aを成膜したときの鉛直方向の膜厚分布の結果を図7に示す。図7に示すように、基板21の鉛直方向に沿う方向の膜厚分布は±2.2%となった。
【0034】
一方、従来のようにターゲット17およびバッキングプレート19が撓んだ状態で、永久磁石29は撓ませず鉛直方向に平行な状態で、基板21の被成膜面21aを成膜したときの鉛直方向の膜厚分布の結果を図8に示す。図8に示すように、基板21の鉛直方向に沿う方向の膜厚分布は±3.7%となった。
【0035】
つまり、本実施形態のように、ターゲット17の撓みに応じて永久磁石29も撓ませて、ターゲット17と永久磁石29とが略平行になるように配した状態で成膜した方が、基板21の鉛直方向の膜厚分布を小さくすることができる。
【0036】
さらに、図9に鉛直方向におけるターゲット17と永久磁石29との距離のばらつき(ΔT/M)と、そのときの表面磁場強度のばらつきとの関係を示す。図9に示すように、ΔT/Mが±2mm以下であれば、表面磁場強度のばらつきが±6%以下となる。表面磁場強度のばらつきが±6%以下であれば、膜厚分布は図7に示した膜厚分布に近づき、問題ない。なお、上記図7の状態においては、鉛直方向両端部におけるターゲット17と永久磁石29との間の距離(T/M)は34mmであり、T/Mは小さい方にずれることはない。つまり、鉛直方向中心部分は凸状に変形し、T/Mは34mmよりも必ず大きくなる。したがって、鉛直方向中心部分においてT/Mを34mm〜36mmとなるように永久磁石29を湾曲させれば表面磁場強度のばらつきが小さくなり、膜厚分布を小さくすることができる。
なお、上述のΔT/Mは、例えばT/Mがもっと大きい場合(例えば、40mm)には、許容できる値は大きくなる。
【0037】
本実施形態によれば、磁場強度調整機構100によりターゲット17にかかる磁場の大きさが略均一になるように調整することにより、基板21の被成膜面21aの全面に亘って略均一な膜厚で成膜することができる。したがって、高精度に膜厚を均一化することができる。
【0038】
また、永久磁石29とターゲット17との距離(T/M)が、永久磁石29を基板21の被成膜面21aに平行な面内方向で、かつ、基板21の進行方向に対して直交する方向の全長(鉛直方向の全長)に亘って等間隔になるように調整することができるように構成した。したがって、鉛直方向の全長に亘って磁場を略均一にすることができるため、基板21の鉛直方向の全長に亘って膜厚を略均一に成膜することができる。
【0039】
また、スペーサ61を用いて永久磁石29を変形させることができるため、永久磁石29の変形量を精度良く調整することができる。
【0040】
さらに、調整ボルト51および結束ボルト41を用いてヨーク27を反らせることができるとともに、その状態を確実に保持することができる。したがって、永久磁石29を所定量反らせることができ、鉛直方向の全長に亘って磁場を略均一にすることができる。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、上述の実施形態では、インライン式のスパッタ成膜装置を用いて説明したが、これに限らず静止型の成膜装置など、真空排気を必要とするチャンバ室が複数ある成膜装置に採用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10…スパッタ成膜装置(成膜装置) 13…スパッタ室 15…マグネトロンカソード(カソードユニット) 17…ターゲット(ターゲット材) 19…バッキングプレート(裏板) 27…ヨーク 28…リブ 29…永久磁石(磁石) 41…結束ボルト 51…調整ボルト 61…スペーサ 100…磁場強度調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ室内に配置されたターゲット材と、
該ターゲット材が取り付けられる裏板と、
該裏板の裏面側に所定距離離間して配置された磁石と、を備えたカソードユニットにおいて、
磁場強度調整機構を有していることを特徴とするカソードユニット。
【請求項2】
前記磁場強度調整機構は、前記磁石が基板の被成膜面に平行な面内方向で、かつ、該基板の進行方向に対して直交する方向に対して、中心部分が凸状になるように変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のカソードユニット。
【請求項3】
前記磁石を所定量変形するためのスペーサを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のカソードユニット。
【請求項4】
前記磁石の裏面側に配置されるヨークと、
該ヨークの裏面側に配置されるリブと、を備え、
前記ヨークと前記リブとの隙間を調整可能な調整ボルトと、
前記ヨークと前記リブとを結束する結束ボルトと、を取り付け可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカソードユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のカソードユニットを備えたことを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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