説明

カチオン重合可能な樹脂を硬化させるための、アントラセンベースの電子供与体を含む光開始剤系

本発明は、ヨードニウム塩、可視光増感剤、および1種以上のアントラセンベース化合物(電子供与体として)を含んだ光開始剤系と、カチオン重合可能な樹脂とを含む光重合可能な組成物であることを特徴とする。本発明において使用される電子供与体組み合わせ物は、複数種の置換アントラセン化合物、または少なくとも1種の置換アントラセン化合物と未置換アントラセンとの組み合わせ物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、カチオン重合可能な樹脂のための光開始剤系に関する。さらに詳細には、本発明は、化学線にさらされると活性化するアントラセンベースの光開始剤系とカチオン重合可能な樹脂とを含有する光重合可能な組成物に関する。本発明はさらに、この光開始剤系を使用してこうした組成物を重合させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1950年代以来、歯科業界は、歯の修復用の、歯の色をした金属アマルガム代替物の研究開発に多大の努力を注いできた。アクリル樹脂〔たとえば、ポリ(メチルメタクリレート)すなわちPMMA〕の使用は、歯の修復のためにポリマー技術を使用する上での最初のステップであった。現在の歯科修復システムの多くは、シラン処理した無機フィラー粒子(たとえば、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ジルコニウムガラス、または石英等)を含有するジメタクリレートモノマー樹脂をベースにしている。
【0003】
メタクリレート複合材料は最初、化学的に硬化された2成分系として導入された。この系の一方の成分は通常過酸化物を含有し、他方の成分はアミンを含有する。これらの成分を混合すると、2種の開始剤成分が反応してフリーラジカルを生成し、このフリーラジカルがメタクリレートマトリックスの重合を開始させる。この手順は、施用前に充分なミキシング時間を必要とし、複合材料が硬化する前の輪郭形成時間が制限される。こうした問題に対し、可視光線(400〜1000nm)によってフリーラジカルを生成する開始剤系を導入することによって、輪郭形成後に硬化する1成分修復システムを使用できるようにするという取り組みがなされた。
【0004】
残念ながら、光硬化によるこれらメタクリレート修復物は、光重合時にかなりの収縮を示すことがあり、このため、複合材料内および複合材料-歯の界面に応力の発生をきたすことがある。これらの応力は、歯尖の破損、周縁の破損、および/または術後の過敏症を引き起こすほどに高くなることがある。したがって、光硬化性組成物を少しずつ配置して硬化させるというのが普通の歯科的やり方である。この方法により、応力/収縮に関係した厄介な問題を最小限に抑えることができるものの、適切な修復に必要とされる作業時間の量も増大することになる。
【0005】
従来の研究は、インクリメンタル配置法(incremental placement techniques)による修復物に代わるものとして低収縮修復物の開発に重点がおかれてきた。脂肪族エポキシモノマーを歯科用樹脂として使用することは1つの有望な解決策である。これらの物質は一般に、1分子当たり少なくとも1つの(通常は1分子当たり少なくとも2つの、そして場合によっては4つ以上の)重合可能なエポキシ基を有する。これらのエポキシ化合物は、カチオン性開環重合硬化メカニズムに基づいて使用される。
【0006】
エポキシ基含有化合物は、種々のカチオン性の開始剤系を使用して硬化可能であることが知られている。たとえば、ヨードニウム塩、可視光増感剤、および電子供与体を含んだ三元光開始剤系が、エポキシ樹脂およびエポキシ/ポリオール樹脂の硬化用に開発されている。これらの開始剤系はかなり有望であることが示されているけれども、硬化速度と硬化の深さを増大させること、そしてより良好な色彩形成とより良好な感温性をもたらすことが望まれている。したがって、満足できる硬化速度と硬化深さをもたらすことができると共に、望ましくない色彩形成を最小限に抑えることができ、そして良好な色彩安定性を示すことができるような光重合可能な組成物が依然として求められている。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、カチオン重合可能な樹脂のための光開始剤系を特徴としている。1つの実施態様においては、光開始剤系は、成分(a)ヨードニウム塩;成分(b)可視光増感剤;成分(c)約400ナノメートル未満の光吸収最大値(a light absorption maximum)を有する第1のアントラセン;および成分(d)下記の構造
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1〜R10のそれぞれは、R1〜R10の少なくとも1つがHではないという条件で、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から独立に選択される)を有する第2のアントラセン;を含む。第1のアントラセンは、たとえば未置換アントラセンであってよく、第2のアントラセンは、アルキル置換アントラセンまたはアルコキシ置換アントラセン〔たとえば、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン(EDMOA)、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、または9,10-ジメチルアントラセン〕であってよい。必要に応じてさらに他のアントラセンが存在してもよい。他の実施態様においては、光開始剤系は、2種以上の置換アントラセンの組み合わせを含み、このときアントラセンの一方がアルコキシ置換アントラセン(たとえばEDMOA)であり、他方のアントラセンが、アルキル置換アントラセン、フェニル置換アントラセン、またはアルコキシ置換アントラセンである。
【0010】
さらに他の実施態様においては、本発明の光開始剤系は、アルコキシ置換アントラセン(たとえば、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、または9,10-ジメトキシアントラセン等)を電子供与体として含み、このときさらに他のアントラセンベース化合物を含む場合と含まない場合があり、あるいは組成物中に他の電子供与体が存在する場合がある。
【0011】
本発明の光開始剤系とカチオン重合可能な樹脂とを組み合わせて光重合可能な組成物を得ることができる。カチオン重合可能な樹脂は、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、スピロ-オルトカーボネート樹脂、およびこれらの組み合わせ物から選択することができる。幾つかの実施態様においては、カチオン重合可能な樹脂は、エポキシ樹脂(たとえばケイ素含有エポキシ樹脂)、またはケイ素を含有しないエポキシ樹脂とケイ素含有エポキシ樹脂とのブレンドを含む。光重合可能な組成物は、必要に応じて、フリーラジカル重合可能な樹脂および/またはヒドロキシル含有物質をさらに含んでもよい。
【0012】
光開始剤系のためのヨードニウム塩は、たとえば、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(1-メチルエチル)フェニル4-メチルフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、またはこれらの組み合わせ物であってよい。
【0013】
可視光増感剤は、ケトン、クマリン色素、キサンテン色素、フルオロン色素、フルオレセイン色素、アミノケトン色素、p-置換アミノスチリルケトン化合物、およびこれらの組み合わせ物から選択することができる。
【0014】
選択したアントラセンベース化合物またはこれらの組み合わせ物を電子供与体として使用することによって、本発明は、これまでに報告されているエポキシ樹脂系より優れた硬化速度と色彩形成を達成する。好ましい電子供与体組成物は、置換アントラセン(たとえば、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、または9,10-ジメチルアントラセン)と未置換アントラセンとの混合物を含む。一般には、混合供電子与体系は、個々の電子給与体のそれぞれを含有する系より良好な性能特性をもたらす。このことは、光開始剤系中に複数種のアントラセン電子供与体が存在する場合に、電子供与に対して補完的もしくは相乗作用的な反応メカニズムが働いていることを示している。これにより、好ましくない色彩形成の程度を、従来の開始剤系では不可能であるような最小限の程度に保持しつつ、最適な硬化速度と硬化深さを得るべく、電子供与体の混合物と濃度を慎重に調整することが可能となる。さらに、本発明の開始剤系を使用すると、硬化速度が驚くほど温度の影響を受けない、光硬化可能でカチオン重合可能な組成物が得られることが見出されている。こうした温度に対する感受性のなさは、光重合可能な(メタ)アクリレート組成物の場合においてより一般的である。
【0015】
本発明によって具現される硬化速度と硬化深さの増大によって、歯科医はより大きな修復物を一度に調製・硬化できるようになり、したがって時間と手間が節減できるようになる。さらに、望ましくない色彩形成が減少し、そして色彩安定性が向上することで、修復物をその耐用年数にわたって歯の種々の色調にマッチングさせることがより容易に且つより正確にできるようになる。実施例の部は、単一の電子供与体を含んだ修復用配合物と比較してときの、本発明の利点を定量的に示す実験を説明している。
【0016】
歯科修復物の用途で使用されるほかに、低応力のエポキシ樹脂において本発明で達成できる高い硬化速度、より大きな硬化深さ、温度不感受性、および程度の低い色彩形成という有用な組み合わせにより、本発明の配合物は他の用途でも使用できるものと思われる。こうした用途は、種々の金属、ガラス、プラスチック、紙、および木材等を含めた多種多様な基材に対するハードコートを含む。他の有望な用途としては、グラフィックアートイメージング(たとえば硬化可能なインク)、フォトレジスト、はんだマスク、電子コーティング、光硬化可能な接着剤(たとえば歯科矯正学)、および非歯科用の光硬化可能な複合材料(たとえば自動車部品や自動車修理)などがある。本発明の他の特徴と利点は、以下に記載の発明の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【0017】
本発明は、ヨードニウム塩、可視光増感剤、および電子供与体化合物もしくは複数種の電子供与体化合物の組み合わせ物を含有する光開始剤系とカチオン重合可能な樹脂とを含んだ光重合可能な組成物を提供する。本発明の組成物は、1種以上のアントラセンベースの化合物を電子供与体として含む。幾つかの実施態様においては、本発明の組成物は、複数種の置換アントラセン化合物、または置換アントラセン化合物と未置換アントラセン化合物との組み合わせ物を含む。こうした混合アントラセン電子供与体の組み合わせ物を光開始剤系の一部として使用すると、同じマトリックスにおける相当する単一電子供与体光開始剤系と比較したときに、大幅に増大した硬化深さ、硬化速度、および温度不感受性をもたらす。これらの混合電子供与体組成物はさらに、単一の電子供与体で構成される多くの系と比較して、色彩形成が減少し、色彩安定性が向上するという利点を示す。これらの特徴は、重合しても比較的収縮の少ないフィラーなしのエポキシベース組成物およびフィラー含量の多いエポキシベース組成物に対して特に有用である。
【0018】
有利なことに、本発明の光重合可能な組成物は、“可視光”領域の全体にわたって感受性であり、それほど熱を加えなくても重合する。“可視光”という用語は、本特許出願全体にわたって、約400〜1000ナノメートル(nm)の波長を有する光を表わすのに使用されている。本発明の組成物の光重合は、このスペクトル内の波長を有する化学線源に組成物をさらすことによって行われる。
【0019】
本発明の組成物において有用なカチオン重合可能な樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂(ケイ素含有エポキシ樹脂を含む)、オキセタン樹脂、スピロ-オルトカーボネート樹脂、ビニルエーテル樹脂、およびこれらの組み合わせ物などがある。
【0020】
有用なエポキシ樹脂は、オキシラン環(すなわち、式
【0021】
【化2】

【0022】
で示される基)を有する、開環によって重合可能な有機化合物である。このような物質は概してエポキシドと呼ばれ、モノマーエポキシ化合物とポリマータイプのエポキシドを含み、脂肪族であっても、脂環式であっても、芳香族であっても、あるいは複素環式であってもよい。これらの物質は一般に、平均して、1分子当たり少なくとも1個の重合可能なエポキシ基(1分子当たり、好ましくは少なくとも約1.5個の、さらに好ましくは少なくとも約2個の重合可能なエポキシ基)を有する。ポリマーエポキシドとしては、末端エポキシ基を有する線状ポリマー(たとえば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、骨格オキシラン構造単位(skeletal oxirane units)を有するポリマー(たとえば、ポリブタジエンポリエポキシド)、およびペンダントエポキシ基を有するポリマー(たとえば、グリシジルメタクリレートポリマーまたはグリシジルメタクリレートコポリマー)などがある。エポキシドは、単なる化合物であってもよいし、あるいは1分子当たり1個、2個、またはそれ以上のエポキシ基を含有する化合物の混合物であってもよい。1分子当たりのエポキシ基の‘平均’数は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の総数を存在するエポキシ含有分子の総数で割ることによって求められる。
【0023】
これらのエポキシ樹脂は、低分子量のモノマー物質から高分子量のポリマーまで変わってよく、また主鎖と置換基の特性が大幅に変わってもよい。たとえば、主鎖はいかなるタイプであってもよく、また主鎖上の置換基は、室温でのカチオン重合を実質的に妨害しないいかなる基であってもよい。許容しうる置換基の例としては、ハロゲン、エステル基、エーテル基、スルホネート基、シロキサン基、ニトロ基、およびホスフェート基などがある。エポキシ樹脂の分子量は、約58〜約100,000またはそれ以上まで変わってよい。
【0024】
特定の好ましいエポキシ樹脂としては、シクロヘキセンオキシド基を含有する樹脂〔たとえば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-2-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-2-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、およびビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペートに代表されるエポキシシクロヘキサンカルボキシレート〕がある。こうした特性をもつ有用なエポキシドのさらに詳細なリストについては、米国特許第3,117,099号と第6,245,828号、国際特許出願WO01/51540、ヨーロッパ特許出願第0412430号、および日本特許公開第51-033514号を参照のこと。本発明の組成物において有用な他のエポキシ樹脂としては、式
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、R’はアルキルまたはアリールであり、nは1〜6の整数である)で示されるグリシジルエーテルモノマーがある。例としては、多価フェノールと過剰のクロロヒドリン(たとえばエピクロロヒドリン)とを反応させることによって得られる多価フェノールのグリシジルエーテル〔たとえば、2,2-ビス-(2,3-エポキシプロポキシフェノール)プロパンのジグリシジルエーテル〕が挙げられる。このタイプのエポキシドのさらなる例が、米国特許第3,018,262号と「“Handbook of Epoxy Resins”by Lee and Neville,McGraw-Hill Book Co.,New York(1967)」に記載されている。
【0027】
本発明において使用できるエポキシ樹脂が多数市販されている。特に、入手の容易なエポキシドとしては、オクタデシレンオキシド、エピクロロヒドリン、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、グリシドール、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル〔たとえば、シェルケミカル社から“エポン(Epon)828”、“エポン825”、“エポン1004”、および“エポン1010”の商品名で市販されているもの、ならびにダウミカル社から“DER-331”、“DER-332”、および“DER-334”の商品名で市販されているもの〕、ビニルシクロヘキセンジオキシド(たとえば、ダウケミカル社の子会社であるユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4206”)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4221”または“CYRACURE UVR 6110もしくはUVR6105”)、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチル-シクロヘキセンカルボキシレート(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4201”)、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4289”)、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-0400”)、脂肪族エポキシ変性ポリプロピレングリコール(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4269”や“ERL-4052”)、ジペンテンジオキシド(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4269”)、エポキシド化ポリブタジエン(たとえば、FMC社から市販の“オキシロン(Oxiron)2001”)、シリコーン樹脂を含有する、エポキシ官能性の難燃性エポキシ樹脂(たとえば、ダウケミカル社から市販の臭素化ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂である“DER-580”)、フェノールホルムアルデヒドノボラックの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(たとえば、ダウケミカル社から市販の“DEN-431”や“DEN-438”)、レゾルシノールジクリシジルエーテル〔たとえば、コッパーズ社(Koppers Company,Inc)から市販の“コポキサイト(Kopoxite)”〕、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4299”や“UVR-6128”)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタ-ジオキサン(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“ERL-4234”)、ビニルシクロヘキセンモノオキシド1,2-エポキシヘキサデカン(たとえば、ユニオンカーバイド社から市販の“UVR-6216”)、アルキルC8-C10グリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー7”)、アルキルC12-C14グリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー8”)、ブチルグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー61”)、クレジルグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー62”)、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー65”)、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル等の多官能グリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー67”)、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー68”)、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー107”)、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー44”)、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー48”)、脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー84”)、ポリグリコールジエポキシド(たとえば、シェルケミカル社から市販の“HELOXYモディファイヤー32”)、ビスフェノールFエポキシド(たとえば、チバ-ガイギー社から市販の“EPN-1138”または“GY-281”)、および9,9-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)-フェニル]フルオレノン(たとえば、シェルケミカル社から市販の“エポン1079”)などがある。
【0028】
さらに他の有用なエポキシ樹脂は、グリシドールのアクリル酸エステル(たとえば、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレート)と1種以上の共重合可能なビニル化合物とのコポリマーを含む。このようなコポリマーの例としては、スチレン-グリシジルメタクリレートの1:1コポリマー、メチルメタクリレート-グリシジルアクリレートの1:1コポリマー、およびメチルメタクリレート-エチルアクリレート-グリシジルメタクリレートの62.5:24:13.5コポリマーなどがある。
【0029】
他の有用なエポキシドとしては、エピクロロヒドリン、アルキレンオキシド(たとえば、プロピレンオキシドやスチレンオキシド);アルケニルオキシド(たとえばブタジエンオキシド);およびグリシジルエステル(たとえばエチルグリシデート);などがある。
【0030】
特に好ましいエポキシドはケイ素を含有するエポキシドである。これらのエポキシドの有用な例が国際特許出願WO01/51540号に記載されており、たとえば、7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン;3,3’,3”,3’”-[(2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン-2,4,6,8-テトラアリール)テトラ-2,1-エタンジイル]テトラキス-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン;3,3’,3”,3’”,3””-[(2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン-2,4,6,8,10-ペンタアリール)ペンタ-2,1-エタンジイル]ペンタキス-;シラン,メチルビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]フェニル-;シラン、ジメチルビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)メチル]-;シラン,ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)メチル][2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]-;シラン,1,4-フェニレンビス[ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]]-;シラン,1,2-エチレンビス[ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]]-;シラン,ジメチルビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]]-;1,3-ビス[2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル]-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン;シラン,2,5-ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス[ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]]-;シラン,1,6-ヘキシレンビス[ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]]-;シラン,1,1,’,1”-(1,2,4-シクロヘキシレントリス(ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]))-;トリシロキサン,3-[[ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]シリル]オキシ-1,1,5,5-テトラメチル-1,5-ビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]-3-フェニル-;ジシロキサン,1,1’,1”-(1,2,4-シクロヘキサントリイルトリ-2,1-エタンジイル)トリス[1,1,3,3-テトラメチル-3-[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]]-;トリシロキサン,3,3-ビス[[ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]シリル]オキシ]-1,1,5,5-テトラメチル-1,5-ビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]-;トリシロキサン,3-[[ジメチル[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]シリル]オキシ]-1,1,3,5,5-ペンタメチル-1,5-ビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]-;1,3,5,7-テトラキス(2,1-エタンジイル-3,4-エポキシシクロヘキシル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロ-テトラシロキサン;および1,3,5,7,9-ペンタキス(2,1-エタンジイル-3,4-エポキシシクロヘキシル)-1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサン;などが挙げられている。
【0031】
カチオン重合可能な樹脂はさらに、ビニルエーテル樹脂からも得ることができる。使用できるビニルエーテル樹脂の例としては、トリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(TEGDVE)、グリシジルビニルエーテル(GVE)、ブタンジオールビニルエーテル(BDVE)、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(DEGDVE)、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(CHDMDVE)、4-(イソプロペニルオキシメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン(POMDO)、2-クロロエチルビニルエーテル(CEVE)、2-エチルヘキシルビニルエーテル(EHVE)、エチルビニルエーテル(EVE)、n-プロピルビニルエーテル(NPVE)、イソプロピルビニルエーテル(IPVE)、n-ブチルビニルエーテル(NBVE)、イソブチルビニルエーテル(IBVE)、オクタデシルビニルエーテル(ODVE)、シクロヘキシルビニルエーテル(CVE)、ブタンジオールジビニルエーテル(BDDVE)、ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル(CHMVE)、tert-ブチルビニルエーテル(TBVE)、tert-アミルビニルエーテル(TAVE)、ドデシルビニルエーテル(DDVE)、エチレングリコールジビニルエーテル(EGDVE)、エチレングリコールモノビニルエーテル(EGMVE)、ヘキサンジオールジビニルエーテル(HDDVE)、ヘキサンジオールモノビニルエーテル(HDMVE)、ジエチレングリコールモノビニルエーテル(MVE-2)、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル(MTGVE)、テトラエチレングリコールジビニルエーテル(DVE-4)、トリメチロールプロパントリビニルエーテル(TMPTVE)、アミノプロピルビニルエーテル(APVE)、ポリテトラヒドロフランジビニルエーテル(PTHFDVE)、n-ブチルビニルエーテル(n-BVE)、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)、エチレングリコールブチルビニルエーテル(EGBVE)、2-ジエチルアミノエチルビニルエーテル(DEAEVE)、ジプロピレングリコールジビニルエーテル(DPGDVE)、ビニルエーテル末端の芳香族エステルモノマー〔たとえば、ノースカロライナ州グリーンズボロのモルフレックス社(Morflex)からVECTOMER4010の商品名で市販されているヒドロキシブチルビニルエーテルイソフタレート〕、ビニルエーテル末端の脂肪族エステルモノマー(たとえば、モルフレックス社からVECTOMER4020の商品名で市販されているシクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテルグルタレート)、ビニルエーテル末端の脂肪族ウレタンオリゴマー(たとえば、モルフレックス社から市販のVECTOMER2020)、およびビニルエーテル末端の芳香族ウレタンオリゴマー(たとえば、モルフレックス社から市販のVECTOMER2015とVECTOMER2020)などがあるが、これらに限定されない。
【0032】
種々のカチオン重合可能な樹脂のブレンドも、本発明において使用可能であると考えられる。このようなブレンドの例としては、2種以上の重量平均分子量分布を有する樹脂を含有する化合物がある〔たとえば、低分子量(200未満)、中分子量(約200〜10,000)、およびより高い分子量(約10,000より大きい)〕。これとは別に、あるいはこれに加えて、樹脂は、異なった化学特性(たとえば、脂肪族や芳香族、官能価、極性や無極性)を有する樹脂含有物質のブレンドを含有してもよい。必要に応じて、他のカチオン重合可能なポリマーをさらに組み込むことができる。
【0033】
本発明において使用できる任意のヒドロキシル含有物質は、少なくとも1(好ましくは少なくとも2)のヒドロキシル官能価を有するいかなる有機物質であってもよい。
ヒドロキシル含有物質は、2個以上の一級もしくは二級脂肪族ヒドロキシル基(すなわち、ヒドロキシル基が直接非芳香族の炭素原子に結合している)を含有するのが好ましい。ヒドロキシル基は、末端に位置していてもよいし、あるいはポリマー鎖もしくはコポリマー鎖からのペンダントになっていてもよい。ヒドロキシル含有有機物質の分子量は、極めて低い分子量(たとえば32)から極めて高い分子量(たとえば100万以上)まで広範囲で変わってよい。適切なヒドロキシル含有物質は、低い分子量(すなわち、約32〜約200)を有していてもよいし、中程度の分子量(すなわち、約200〜約10,000)を有していてもよいし、あるいは高い分子量(すなわち、約10,000以上)を有していてもよい。本明細書で使用している分子量は全て重量平均分子量である。
【0034】
ヒドロキシル含有物質は、室温でのカチオン重合を実質的に妨害しない他の官能基を必要に応じて含有してよい。したがってヒドロキシル含有物質は、性質が非芳香族であっても、あるいは芳香族官能価を有していてもよい。ヒドロキシル含有物質は、最終的に得られるヒドロキシル含有物質が、室温でのカチオン重合を実質的に妨害しないという十件にて、必要に応じて分子の主鎖中にヘテロ原子(たとえば、窒素、酸素、またはイオウ等)を含有してよい。ヒドロキシル含有物質は、たとえば、天然に産するセルロース系物質または合成によるセルロース系物質から選択することができる。当然ながら、ヒドロキシル含有物質はさらに、熱または光に対して不安定な基を実質的に含まない。すなわち、ヒドロキシル含有物質は、約100℃未満の温度にて、または光共重合可能な組成物に対する所望の重合条件の進行時に生じることのある化学線の存在下にて分解しないか、もしくは揮発性成分を発生しない。
【0035】
1のヒドロキシル官能価を有する適切なヒドロキシル含有物質の代表的な例としては、アルカノール、ポリオキシアルキレングリコールのモノアルキルエーテル、アルキレングリコールのモノアルキルエーテル、および当業界に公知の他の物質がある。
【0036】
有用なポリヒドロキシ有機物質モノマーの代表的な例としては、アルキレングリコール〔たとえば、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,18-ジヒドロキシオクタデカン、および3-クロロ-1,2-プロパンジオール〕;ポリヒドロキシアルカン(たとえば、グリセリン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、およびソルビトール);および他のポリヒドロキシ化合物〔たとえば、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ベンズアミド、2-ブチン-1,4-ジオール、4,4-ビス(ヒドロキシメチル)ジフェニルスルホン、およびヒマシ油〕;などがある。
【0037】
有用なヒドロキシ含有ポリマー物質の代表的な例としては、ポリオキシエチレングリコールとポリオキシプロピレングリコール、特に、約200〜約10,000の分子量〔ジオールの場合は100〜5000のヒドロキシ当量(hydroxy equivalent weight)に相当し、トリオールの場合は70〜3300のヒドロキシ当量に相当する〕を有するポリオキシエチレングリコールジオール(polyoxyethylene glycol diols)とポリオキシエチレングリコールトリオール(polyoxyethylene glycol triols)、およびポリオキシプロピレングリコールジオール(polyoxypropylene glycol diols)とポリオキシプロピレングリコールトリオール(polyoxypropylene glycol triols);ポリテトラメチレンエーテルグリコール(たとえば、種々の分子量のポリテトラヒドロフラン、すなわち“ポリTHF”);ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、またはヒドロキシエチルメタクリレートと他のフリーラジカル重合可能なモノマー(たとえば、アクリレートエステル、ハロゲン化ビニル、またはスチレン)とのコポリマー;酢酸ビニルコポリマーの加水分解もしくは部分加水分解によって形成されるペンダントヒドロキシ基を含有するコポリマー、およびペンダントヒドロキシル基を含有するポリビニルアセタール樹脂;変性セルロースポリマー(たとえば、ヒドロキシエチル化セルロースやヒドロキシプロピル化セルロース);ヒドロキシ末端ポリエステル;ヒドロキシ末端ポリラクトン、特にポリカプロラクトン;フッ素化ポリオキシエチレングリコール、フッ素化ポリオキシプロピレングリコール;ならびにヒドロキシ末端ポリアルカジエン;などがある。
【0038】
市販の有用なヒドロキシル含有物質としては、“TERATHANE”シリーズのポリテトラメチレンエーテルグリコール〔たとえば、“TERATHANE”650、1000、2000、および2900(デラウェア州ウィルミントンのデュポン社から市販)〕;平均分子量が250のポリテトラヒドロフラン(ミズーリ州セントルイスのシグマ-アルドリッチ社から市販);二級ヒドロキシル基を有する“PEP”シリーズのポリオキシアルキレンテトロール(たとえば、“PEP”450、550、および650);“BUTVAR”シリーズのポリビニルアセタール樹脂〔たとえば、“BUTVAR”B-72A、B-73、B-76、B-90、およびB-98(ミズーリ州セントルイスのモンサントケミカル社から市販)〕;“FORMVAR”シリーズの樹脂〔たとえば、“FORMVAR”7/70、12/85、7/95S、7/95E、15/95S、および15/95E(モンサントケミカル社から市販)〕;“TONE”シリーズのポリカプロラクトンポリオール〔たとえば、“TONE”0200、0210、0230、0240、0300、および0301(ユニオンカーバイド社から市販)〕;“PARAPLEX U-148”脂肪族ポリエステルジオール(ペンシルベニア州フィラデルフィアのローム・アンド・ハース社から市販);“MULTRON”Rシリーズの飽和ポリエステルポリオール〔たとえば、“MULTRON”R-2、R-12A、R-16、R-18、R-38、R-68、およびR-74(モベイケミカル社から市販)〕;約100の当量を有する“KLUCEL E”ヒドロキシプロピル化セルロース(ハーキュレス社から市販);約400のヒドロキシル当量を有する“アルコール可溶性ブチレート(Alcohol Soluble Butyrate)”[セルロース]アセテートブチレートエステル(ニューヨーク州ロチェスターのイーストマンコダック社から市販);ポリプロピレングリコールジオール等のポリエーテルポリオール〔たとえば、“ARCOL PPG-425”、“ARCOL PPG-725”、“ARCOL PPG-1025”、“ARCOL PPG-2025”、“ARCOL PPG-3025”、および“ARCOL PPG-4025”(ARCOケミカル社から市販)〕;ポリプロピレングリコールトリオール〔たとえば、“ARCOL LT-28”、“ARCOL LHT-42”、“ARCOL LHT-112”、“ARCOL LHT-240”、“ARCOL LG-56”、“ARCOL LG-168”、および“ARCOL LG-650”(ARCOケミカル社から市販)〕;エチレンオキシドでキャップしたポリオキシプロピレントリオールもしくはポリオキシプロピレンジオール〔たとえば、“ARCOL 11-27”、“ARCOL 11-34”、“ARCOL E-351”、“ARCOL E-452”、“ARCOL E-785”、および“ARCOL E-786”(ARCOケミカル社から市販)〕;エトキシル化ビスフェノールA;ならびにプロピレンオキシドベースもしくはエチレンオキシドベースのポリオール〔たとえば、“VORANOL”ポリエーテルポリオール(ダウケミカル社から市販)〕;などがある。
【0039】
本発明の組成物において必要に応じて使用されるヒドロキシル含有有機物質の量は、ヒドロキシル含有物質と樹脂との相溶性、ヒドロキシル含有物質の当量と官能価、最終的な硬化組成物において要求される物理的特性、および光重合の所望の速度等のファクターに応じて広い範囲にわたって変わってよい。
【0040】
種々のヒドロキシル含有物質のブレンドも、本発明において使用することができると考えられる。このようなブレンドの例としては、2種以上の分子量分布〔たとえば、低い分子量(200未満)、中程度の分子量(約200〜約10,000)、およびより高い分子量(約10,000より大きい)〕を有するヒドロキシル含有化合物のブレンドがある。これとは別に、あるいはこれに加えて、ヒドロキシル含有物質は、異なった化学特性(たとえば、脂肪族や芳香族、官能価、極性や無極性)を有するヒドロキシル含有物質のブレンドを含有してもよい。さらなる例として、2種以上の多官能ヒドロキシ物質の混合物、あるいは1種以上の単官能ヒドロキシ物質と多官能ヒドロキシ物質との混合物を使用してもよい。
【0041】
必要に応じて、光重合可能な組成物はさらに、エチレン性不飽和モノマー、エチレン性不飽和オリゴマー、またはエチレン性不飽和ポリマーを含めたフリーラジカル重合可能な物質を含有してよい。適切なフリーラジカル重合可能な物質は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を受けることができる。このようなフリーラジカル重合可能な物質としては、モノアクリレート、モノメタクリレート、ジアクリレート、ジメタクリレート、ポリアクリレート、およびポリメタクリレート〔たとえば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリメタクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、ビス[1-(2-アクリルオキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-アクリルオキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタン、およびトリヒドロキシエチル-イソシアヌレートトリメタクリレート〕;分子量が200〜500のポリエチレングリコールのビス-アクリレートとビス-メタクリレート、アクリル化モノマー(たとえば、米国特許第4,652,274号に記載の物質)の共重合可能な混合物、およびアクリル化オリゴマー(米国特許第4,642,126号に記載の物質);ならびにビニル化合物(たとえば、スチレン、フタル酸ジアリル、コハク酸ジビニル、アジピン酸ジビニル、およびフタル酸ジビニル);などがある。これらのフリーラジカル重合可能な物質の2種以上の混合物も、必要に応じて使用することができる。
【0042】
必要に応じて、重合可能な物質は、カチオン重合可能な官能基とフリーラジカル重合可能な官能基の両方を単一の分子中に含有してよい。こうした物質は、たとえば、ジエポキシドまたはトリエポキシドと1以上の当量のエチレン性不飽和カルボン酸とを反応させることによって得ることができる。このような物質の例としては、UVR-6105(ユニオンカーバイド社から市販)もしくはDER332(ダウケミカル社から市販)と1当量のメタクリル酸との反応生成物がある。エポキシ官能基とフリーラジカル重合可能な官能基を有する市販物質としては、ダイセル化学工業から市販の“シクロマー(Cyclomer)”(たとえば、シクロマーM100やM101)がある。
【0043】
重合可能な物質はさらに、ヒドロキシル官能基とフリーラジカル重合可能な官能基の両方を単一の分子中に含有してよい。このような物質の例としては、ヒドロキシアルキルアクリレートおよびヒドロキシアルキルメタクリレート(たとえば、ヒドロキシエチルアクリレートやヒドロキシエチルメタクリレート);ならびにグリセロールモノアクリレート、グリセロールモノメタクリレート、グリセロールジアクリレート、およびグリセロールジメタクリレート;等がある。
【0044】
カチオン重合可能な樹脂、任意使用のヒドロキシ含有物質、および任意使用のフリーラジカル重合可能な物質を、多成分の光開始剤系と組み合わせる。光開始剤系中の第1の成分はヨードニウム塩(たとえば、ジアリールヨードニウム塩)である。ヨードニウム塩は組成物中に溶解するものでなければならず、保存安定性が高いのが好ましい(このことは、可視光増感剤と電子供与体化合物の存在下にて組成物中に溶解したときに、重合を自然発生的に促進しない、ということを意味している)。したがって、個々のヨードニウム塩の選択は、選定する樹脂の種類、可視光増感剤の種類、および電子供与体の種類にある程度依存する。適切なヨードニウム塩が、米国特許第3,729,313号、第3,741,769号、第3,808,006号、第4,250,053号、および第4,394,403号に記載されている。ヨードニウム塩は、Cl-、Br-、I-、またはC2H5SO3-等のアニオンを含有する単純な塩であってもよいし;あるいは、アンチモン酸イオン、ヒ酸イオン、リン酸イオン、またはホウ酸イオン(たとえば、SbF5OH-やAsF6-)を含有する金属錯塩であってもよい。必要に応じて、ヨードニウム塩の混合物も使用することができる。
【0045】
有用な芳香族ヨードニウム錯塩光開始剤の例としては、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート;ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート;フェニル-4-メチルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート;ジ(4-ヘプチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート;ジ(3-ニトロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(4-クロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(ナフチル)ヨードニウムテトラフルオロボレート;ジ(4-トリフルオロメチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート;ジ(4-フェノキシフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート;フェニル-2-チエニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;3,5-ジメチルピラゾリル-4-フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート;2,2’-ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート;ジ(2,4-ジクロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(4-ブロモフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(4-メトキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(3-カルボキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(3-メトキシカルボニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(3-メトキシスルホニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(4-アセトアミドフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;ジ(2-ベンゾチエニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;およびジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート;などがある。
【0046】
本発明の組成物において使用するのに適した芳香族ヨードニウム錯塩のうちで好ましいのは、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、および4-(1-メチルエチル)フェニル4-メチルフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。これらの塩が好ましいのは、一般には、より速やかな反応を促進し、錯イオンを含んだ他の芳香族ヨードニウム塩より不活性溶媒に対する溶解性が高いからである。上記塩のいずれか2種以上の組み合わせ物も使用することができる。
【0047】
芳香族ヨードニウム錯塩は、「Beringer et al.,J.Am.Chem.Soc.81,342(1959)」に記載の手順にしたがって、対応する芳香族ヨードニウム単塩(たとえば、重硫酸ジフェニルヨードニウム)のメタセシス反応によって製造することができる。したがって、たとえば、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート錯塩は、29.2gのフルオロホウ酸銀、2gのフルオロホウ酸、および0.5gの亜リン酸を約30mlの水中に混合して得られる水溶液を、44g(139ミリモル)の塩化ジフェニルヨードニウムの溶液に60℃にて加えることによって製造される。沈殿したハロゲン化銀を濾別し、濾液を濃縮してジフェニルヨードニウムフルオロボレートを得、これを再結晶によって精製する。
【0048】
芳香族ヨードニウム単塩は、(1)2種の芳香族化合物と硫酸ヨージルとを硫酸中にてカップリングさせる、という方法;(2)2種の芳香族化合物とヨウ素酸塩とを酢酸-無水酢酸-硫酸中にてカップリングさせる、という方法;(3)2種の芳香族化合物とヨウ素アクリレート(iodine acrylate)とを酸の存在下にてカップリングさせる、という方法;および(4)ヨードソ化合物、ヨードソジアセテート、またはヨードキシ化合物と他の芳香族化合物とを酸の存在下にて縮合させる、という方法;を含めた種々の方法によって、上記の「Beringer et al.,J.Am.Chem.Soc.81,342(1959)」にしたがって製造することができる。重硫酸ジフェニルヨードニウムは方法(3)によって製造される。たとえば、55.5mlのベンゼンと50mlの無水酢酸と53.5gのヨウ素酸カリウムとの混合物をよく攪拌し、この混合物に、35mlの濃硫酸と50mlの無水酢酸との混合物を5℃未満の温度にて8時間にわたって加えることによって製造される。混合物を0℃〜5℃にてさらに4時間、室温(約25℃)にて48時間攪拌し、300mlのジエチルエーテルで処理する。濃縮すると粗製の重硫酸ジフェニルヨードニウムが沈殿し、必要に応じて再結晶することによって精製することができる。
【0049】
光開始剤系中の他の成分は可視光増感剤である。可視光増感剤は、光重合可能な組成物中にある程度または完全に溶解するものでなければならず、カチオン重合プロセスを実質的に妨げるような官能基を含んでいてはならず、約400〜約1000ナノメートルの波長範囲内のどの波長でも光吸収できるものでなければならない。好ましい可視光増感剤は、1つ以上のカルボニル官能基を含有する可視光増感剤である。
【0050】
適切な可視光増感剤は、下記のカテゴリーの化合物を含んでよい:ケトン、クマリン色素(たとえば、ケトクマリン)、キサンテン色素、フルオロン色素、フルオレセイン色素、アミノケトン色素、p-置換アミノスチリルケトン化合物、およびこれらの組み合わせ物。ケトン(たとえば、モノケトンやα-ジケトン)、クマリン色素(たとえば、ケトクマリン)、キサンテン色素、フルオロン色素、およびフルオレセイン色素が、本発明において使用する上で特に好ましい可視光増感剤である。深い硬化を必要とする用途(たとえば、充填剤量の多い複合材料の硬化)の場合は、光重合のための照射の所望の波長にて約1000 lmole-1cm-1未満(さらに好ましくは約100 lmole-1cm-1未満)の減衰係数を有する増感剤を使用するのが好ましい。α-ジケトンは、こうした特性を有する可視光増感剤の種類の1つの例であり、歯科用途に対して特に好ましい。深い硬化はさらに、もし増感剤が、光にさらされると減衰係数を低下させるならば、1000 lmole-1cm-1より大きい減衰係数を有する可視光増感剤を使用して達成することもできる。キサンテン色素、フルオロン色素、およびフルオレセイン色素は、こうした特性を有する可視光増感剤の種類の例である。
【0051】
たとえば、好ましい種類のケトン可視光増感剤は、式
ACO(X)bB
を有し、このときXはCOまたはCR1R2であって、R1とR2は、同一であっても異なっていてもよく、水素、アルキル、アルカリール、またはアラルキルであってよく、bはゼロであり、そしてAとBは、同一であっても異なっていてもよく、置換(1つ以上の反応を妨害しない置換基を有する)もしくは非置換のアリール基、アルキル基、アルカリール基、またはアラルキル基であり、あるいはAとBが一緒になって環状構造を形成してよく、この環状構造は、置換もしくは非置換の脂環式の環、芳香環、ヘテロ芳香環、または縮合芳香環であってよい。
【0052】
上記式の適切なケトンとしては、2,2-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、ジ-2-ピリジルケトン、ジ-2-フラニルケトン、ジ-2-チオフェニルケトン、ベンゾイン、フルオレノン、カルコン、ミヒラーケトン、2-フルオロ-9-フルオレノン、2-クロロチオキサントン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、1-アセトナフトン、2-アセトナフトン、9-アセチルアントラセン、2-アセチルフェナントレン、3-アセチルフェナントレン、9-アセチルフェナントレン、4-アセチルビフェニル、プロピオフェノン、n-ブチロフェノン、バレロフェノン、2-アセチルピリジン、3-アセチルピリジン、4-アセチルピリジン、および3-アセチルクマリン等のモノケトン(b=0)がある。適切なジケトンとしては、アントラキノン、フェナントレンキノン、o-ジアセチルベンゼン、m-ジアセチルベンゼン、p-ジアセチルベンゼン、1,3-ジアセチルナフタレン、1,4-ジアセチルナフタレン、1,5-ジアセチルナフタレン、1,6-ジアセチルナフタレン、1,7-ジアセチルナフタレン、1,8-ジアセチルナフタレン、1,5-ジアセチルアントラセン、1,8-ジアセチルアントラセン、および9,10-ジアセチルアントラセン等のアラルキルジケトンがある。適切なI-ジケトン(b=1およびX=CO)としては、2,3-ブタンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオン、ベンジル、2,2’-ジヒドロキシベンジル、3,3’-ジヒドロキシベンジル、4,4’-ジヒドロキシベンジル、フリル、ジ-3,3’-インドリルエタンジオン、2,3-ボルナンジオン(カンファーキノン)、ビアセチル、1,2-シクロヘキサンジオン、1,2-ナフタキノン、アセナフタキノン、および1-フェニル-1,2-プロパンジオン等がある。
【0053】
特に好ましい可視光増感剤の例としては、α-ジケトン、カンファーキノン、グリオキサール、ビアセチル、3,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサンジオン、3,3,7,7-テトラメチル-1,2-シクロヘプタンジオン、3,3,8,8-テトラメチル-1,2-シクロオクタンジオン、3,3,18,18-テトラメチル-1,2-シクロオクタデカンジオン、ジピバロイル、ベンジル、フリル、ヒドロキシベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、および1-フェニル-1,2-プロパンジオンなどがある。これらのうちで最も好ましい可視光増感剤はカンファーキノンである。
【0054】
好ましいフルオロン色素の例としては、フルオレセイン、4’,5’-ジブロモフルオレセイン、エリスロシンB、エチルエオシン、エオシンY、エリトロシン、およびこれらの黄色がかったブレンド(yellowish blend)などがあるが、これらに限定されない。
【0055】
光開始剤系中の他の成分は、アントラセンベースの電子供与体化合物またはこのような化合物の組み合わせ物である。光開始剤系中に種々のアントラセンベース化合物を使用することができ、これらの化合物は一般に、所望の波長の可視光にさらされると、アントラセンベースの電子供与体化合物を除いた同じ組成物と比較して、カチオン重合可能な樹脂を含んだ組成物の重合速度および/または重合深さ(the depth of polymerization)を増大させることができる。
【0056】
さらに具体的に言えば、下記の構造Iで示されるアントラセンベースの電子供与体化合物を使用することができる。
【0057】
【化4】

【0058】
上記の構造Iにおいて、置換基R1〜R10は、カチオン重合に対して実質的な悪影響を及ぼさない基であればいかなる基であってもよく、H、アルキル基、アリール基、および/またはアルコキシ基から独立に選択され、好ましいのはC1-C10アルキル基および/またはC1-C10アルコキシ基である。最も好ましいR群置換基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、tert-ブチル、メトキシ、およびエトキシである。
【0059】
特に有用なアントラセンベース化合物としては、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン(EDMOA)、9,10-ジメチルアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、9-メチルアントラセン、2-エチルアントラセン、2-tert-ブチルアントラセン、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、9,10-ジフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、およびこれらの組み合わせ物などがある。2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン誘導体を除き、これらの化合物は全てミズーリ州セントルイスのシグマ-アルドリッチ社から市販されている。
【0060】
本発明の1つの実施態様においては、光開始剤系は、2種以上のアントラセンベース化合物の組み合わせ物を含む。こうした混合物は、約400ナノメートル未満の光吸収最大値を有する未置換アントラセン(すなわち、R1-10が全てHである)もしくは他のアントラセンを、構造Iの置換アントラセン(好ましいのは、EDMOA、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、もしくは9,10-ジメチルアントラセン等のアルキル置換またはアルコキシ置換アントラセン)と組み合わせて含んでよい。これとは別に、光開始剤系は、2種以上の置換アントラセンを含んでもよい。
【0061】
これとは別に、本明細書に開示されている好ましいアントラセンベース化合物の多くは、追加のアントラセンベース化合物を存在させずに使用した場合でも改良された性能を示す。特に、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン(EDMOA)、9,10-ジエトキシアントラセン、および1,4-ジメトキシアントラセン等のアルコキシ置換アントラセンは、これまでに報告されているアントラセンと比較して、優れた硬化速度および/または硬化深さを有することが示されている。したがって、本発明の光開始剤系は、EDMOA、9,10-ジエトキシアントラセン、もしくは1,4-ジメトキシアントラセンを、単独にて、あるいは1種以上のさらなる置換アントラセンもしくは未置換アントラセンと組み合わせて含んでよい。
【0062】
本発明において使用されるアントラセンベース化合物は、下記の特性の1つ以上(さらに好ましくは、全部ではないとしても幾つか)を有するのが好ましい:(a)重合可能な組成物中に溶解するか又はある程度溶解する;(b)組成物を光重合させるのに使用される光の波長(一般には、可視光増感剤が最大吸収を示す波長)において相当量の光を吸収しない(このことは、電子供与体化合物が、可視光増感剤の性能に悪影響を及ぼさないということを意味している);(c)飽和カロメル電極(SCE)に対して測定したときに、0よりは大きいが1,4-ジメトキシベンゼンの酸化電位より低い酸化電位(Eox)を有する;(d)約8より大きいpKbを有する;(e)光重合した樹脂に付与される好ましくない色彩が極めてわずかである;および(f)重合に対する阻害が極めて少ない。個々の組成物のためのアントラセンベース化合物の選択に影響を及ぼす他のファクターとしては、選択されたカチオン重合可能な樹脂、ヨードニウム塩、および可視光増感剤の種類、ならびにカチオン重合可能な組成物の保存性などがある。
【0063】
本発明において使用される好ましいアントラセンベース化合物は、ゼロよりは大きく、1,4-ジメトキシベンゼンのEox以下のEoxを有するけれども、電子供与体化合物は、飽和カロメル電極(SCE)を使用して測定したときに約1.35ボルト未満のEoxを有するのが好ましく、Eoxが約0.5〜1.34ボルト(SCEに対して)であるのがさらに好ましい。Eoxの値は、実験的に測定することもできるし、あるいは文献〔たとえば、「N.L.Weinburg編,Technique of Electroorganic Synthesis Part II Techniques of Chemistry,Vol.5(1975)、および「C.K.Mann and K.K.Barnes,Electrochemical Reactions in Nonaqueous Systems(1970)」〕から得ることもできる。
【0064】
有利なことに、アントラセンベースの電子供与体化合物は、電子供与体化合物を含まない組成物と比較して、カチオン重合可能な樹脂の重合速度(ゲル化時間によって測定)を加速することがある。光重合可能な組成物の多くの用途に対し、ゲル化時間は、Dedeらによる米国特許出願第2003/0166737号に記載のゲル化時間プロトコルによれば、好ましくは60分未満であり、さらに好ましくは約10分未満であり、最も好ましくは約2分未満である。簡単に言えば、カチオン重合可能な樹脂と、所望の可視光増感剤、ヨードニウム塩、および電子供与体化合物とを混合し、均一になるまでミキシングすることによって、電子供与体化合物と比較上の化合物(comparative compounds)が個々のカチオン重合可能な組成物の重合速度に及ぼす影響を評価した。光重合可能な組成物を、ポリエステルフィルムが底面と直接接触する形でクランプ締めされている、直径6mm×厚さ2.5mmのテフロンモールドに移すことによって、各サンプルに対するゲル化時間を調べた。サンプルを、VISILUX2またはELIPAR Trilight デンタル・キュアリング・ライト(dental curing light)のライトガイド(light guide)のすぐ下に10mmの距離にて配置した(後者に対しては、標準的な光度モードを使用した)。サンプルに対して最大120秒まで照射し、ハードで不粘着性の表面が観察されるようになるまで表面にプラスチックプローブで探りを入れることによって、ハードゲル化時間を測定した。
【0065】
光開始剤系の個々の成分は、光重合を起こさせる上で効果的な量(すなわち、カチオン重合可能な樹脂の光重合を開始させることができる、あるいはさらに好ましくは、重合速度を加速することができる光開始剤系を得るのに効果的な量)にて与えられる。可視光増感剤は、光重合可能な組成物全体を基準として約0.05〜5.0重量%にて存在するのが好ましく、約0.10〜2.0重量%にて存在するのがさらに好ましい。ヨードニウム塩は、組成物全体を基準として約0.05〜10.0重量%の量にて存在するのが好ましく、約0.10〜5.0重量%の量にて存在するのがさらに好ましく、約0.50〜3.0重量%の量にて存在するのが最も好ましい。電子供与体化合物(すなわちアントラセン類)は、組成物全体を基準として約0.01〜5.0重量%の量にて存在するのが好ましく、約0.05〜1.0重量%の量にて存在するのがさらに好ましく、約0.05〜0.50重量%の量にて存在するのが最も好ましい。
【0066】
本発明の光重合可能な組成物は、“安全光(safe light)”の条件下にて、本発明の組成物の成分を単に混合することによって製造される。この混合を行うときには、適切な不活性溶媒を必要に応じて使用することができる。本発明の組成物の成分とあまり反応しない溶媒であれば、いかなる溶媒も使用することができる。適切な溶媒の例としては、アセトン、ジクロロメタン、アセトニトリル、およびラクトンなどがある。重合させようとするある液体物質を、重合させようとする他の液体物質もしくは固体物質に対する溶媒として使用することもできる。ヨードニウム錯塩、増感剤、および電子供与体をカチオン重合可能な樹脂中に単に溶解することによって(溶解を促進するために穏やかに加熱する場合、または加熱しない場合)、無溶媒組成物を作製することもできる。
【0067】
本発明の組成物は、重合速度、重合深さ、および保存寿命の極めて有用な組み合わせ物となっている。本発明の組成物は、多量のフィラーが組み込まれている場合でも旨く重合し、いろいろな金属、ガラス、プラスチック、紙、および木材等を含む様々な支持体に対するハードコートを含めた種々の用途において使用することができる。他の有望な用途としては、グラフィックアートイメージング(たとえば、カラープルーフィングシステム、硬化可能なインク、または銀を含まないイメージング)、プリンティングプレート(たとえば、プロジェクションプレートやレーザープレート)、フォトレジスト、はんだマスク、電子絶縁保護コーティングと電子アンダーフィル、光ファイバーコーティング、塗布研磨剤、磁気媒体、光硬化可能な接着剤(たとえば、歯科矯正用途、電子用途、光ファイバー用途、および医療用途など)、ハードコート(たとえば光学レンズ用)、および光硬化可能な複合材料(たとえば、車体修理用や歯科細工物用)などがある。特に、歯科用途、電子用途、光学レンズ用途、および光ファイバー用途は、本発明のユニークな組成物から恩恵を受ける。
【0068】
アクリレートベースおよびメタクリレートベースの物質は、接着剤組成物や歯科用修復組成物に一般的に使用されている。これらの物質は、光開始剤系を使用して可視光で光重合可能であるという利点をもつが、重合プロセス中に比較的高い程度の収縮を受けるという欠点を有する。これとは対照的に、本発明の組成物において見られるカチオン重合可能な樹脂は、重合プロセス中に収縮する程度がアクリレート樹脂やメタクリレート樹脂よりかなり小さい。本発明は、カチオン重合可能な樹脂を、容認できる時間(たとえば120秒未満)にて、歯科医院やエレクトロニクス組み立て工場において既に利用されている可視光線源装置を使用して充分な深さにまで重合させるための系を提供する。
【0069】
本発明の組成物は特に、種々の歯科材料(フィラーを含んでいても、フィラーを含んでいなくてもよい)として使用すべく設計されている。このような歯科材料としては、直接的なエステティック修復材料(たとえば、前部修復物と後部修復物)、補綴物、口腔硬組織用の接着剤とプライマー、シーラント、ベニヤー(veneers)、キャビティ・ライナー(cavity liners)、あらゆるタイプのブラケット(たとえば、金属、プラスチック、およびセラミック)と共に使用するための歯科矯正用ブラケット接着剤、クラウン・セメントとブリッジ・セメント、人工歯冠、入れ歯、および義歯などがある。これらの歯科材料は口中にて使用され、本当の歯に隣接して配置される。ここで使用している“〜に隣接して配置される”とは、歯科材料を、一時的もしくは永久的な接合(たとえば接着剤)またはタッチング(たとえば、咬合又は隣接状態の)にて本当の歯と接触させて配置することを表わしている。歯科材料の文脈にて本明細書で使用している“複合材料”とは、フィラーが組み込まれた歯科材料を表わしている。本明細書で使用している“修復物(restorative)”とは、歯に隣接して配置した後に重合される歯科複合材料を表わしている。本明細書で使用している“補綴物”とは、歯に隣接して配置される前に、最小用途向けの形状に造られ、その最終用途(たとえば、クラウン、ブリッジ、ベニヤー、インレイ、またはオンレイ等)向けに重合される複合材料を表わしている。本明細書で使用している“シーラント”とは、歯に隣接して配置した後に硬化される、フィラー含量の少ない歯科複合材料またはフィラーを含まない歯科複合材料を表わしている。
【0070】
特定の歯科用途においては、フィラーを使用することが適切な場合がある。フィラーの選択は、歯科複合材料の重要な特性(たとえば、外観、放射線不透過性、および物理的・機械的特性)に影響を与える。外観は、複合材料の成分の量と相対屈折率を調整することによってある程度影響され、これにより、複合材料の半透明性、不透明性、または真珠光沢性を変えることができる。本発明のカチオン重合可能な組成物は、フィラーの屈折率〔たとえば、石英(屈折率1.55)、サブミクロンシリカ(屈折率1.46)、およびモル比5.5:1のSiO:ZrO非ガラス質微粒子(屈折率1.54)〕に近い屈折率を有するように作製することができる。このように、歯科材料の外観は、必要に応じて生歯の外観に近づくようにすることができる。
【0071】
放射線不透過性は、歯科複合材料がX線検査によって検出されうる能力の尺度である。たとえば、歯の修復が正常な状態のままであるかどうかを歯科医が決定できるよう、放射線不透過性の歯科材料が望ましい場合が多い。他の状況下においては、放射線透過性の複合材料が望ましい場合がある。放射線不透過性配合物に使用するのに適したフィラーが、EP-A2-0189540、EP-B-0238025、および米国特許第6,306,926B1号に記載されている。
【0072】
複合材料中に組み込まれるフィラーの量〔本明細書では“組み込みレベル(loading level)”として表わされ、歯科材料の総重量を基準とした重量%で表示する〕は、フィラーの種類、カチオン重合によって硬化可能な樹脂の種類、組成物の他の成分の種類、および複合材料の最終用途に応じて変わる。
【0073】
ある種の歯科材料(たとえばシーラント)に対しては、本発明のカチオン重合可能な組成物は、フィラーの含量が少なくても(たとえば、約40重量%未満の組み込みレベルを有する)、あるいはフィラーを含まなくてもよい。歯科材料の粘度は、噛み合わせの歯表面の穴と裂け目中への、そしてエナメル質の腐食部分中への侵入を可能にする程度に充分に低い(これによって歯科材料の保持が促進される)のが好ましい。高い強度と耐久性が要求される用途(たとえば、前部もしくは後部の修復物、補綴物、クラウン・セメントとブリッジ・セメント、人工歯冠、および義歯)においては、フィラーの組み込みレベルは約95重量%という多い量である。ほとんどの歯科修復物用途と補綴物用途の場合、一般には約60〜90重量%の組み込みレベルが好ましい。
【0074】
フィラーは、医療用途に使用される組成物中への組み込みに適した物質(たとえば、現在、歯科修復物用組成物等において使用されているフィラー)の1種以上から選択することができる。フィラーは微粉化されていて、約50μm未満の最大粒径と約10μm未満の平均粒径を有するのが好ましい。フィラーは、単一モードもしくは複数モード(たとえば2つのモード)の粒径分布を有することができる。フィラーは無機物質であってよい。フィラーはさらに、重合可能な樹脂に対して不溶性の架橋有機物質であってもよく、また必要に応じて無機フィラーが組み込まれる。いずれにしても、フィラーは無毒性でなければならず、口中での使用に適したものでなければならない。フィラーは、放射線不透過性(radiopaque)であっても、放射線透過性(radiolucent)であっても、あるいは非放射線不透過性(non-radiopaque)であってもよい。
【0075】
適切な無機フィラーの例としては、石英、窒化物(たとえば窒化ケイ素)、たとえばCe、Sb、Sn、Zr、Sr、Ba、およびAlから誘導されるガラス類、コロイダルシリカ、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、チタニア、および亜鉛ガラス等の、天然に産する物質または合成物質;モース硬度の低いフィラー(たとえば、米国特許第4,695,251号に記載のフィラー);ならびにサブミクロンシリカ粒子(たとえば、デグッサ社から市販の“エアロジル”シリーズである“OX50”シリカ、“OX130”シリカ、“OX150”シリカ、および“OX200”シリカ、ならびにキャボット社から市販の“Cab-O-Sil M5”シリカ等の熱分解法シリカ);などが挙げられる。適切な有機フィラー粒子の例としては、フィラー入りもしくはフィラーなしの微粉砕ポリカーボネートや微粉砕ポリエポキシドなどがある。好ましいフィラー粒子は、石英、サブミクロンシリカ、および米国特許第4,503,169号に記載のタイプの非ガラス質微粒子である。純粋な金属(たとえば、第IVA族、第VA族、第VIA族、第VIIA族、第VIII族、第IB族、もしくは第IIB族の金属、アルミニウム、インジウム、第IIIB族のタリウム、および第IVB族の錫と鉛)あるいはこれら金属の合金から製造される粒状金属フィラー等の金属フィラーも組み込むことができる。従来の歯科用アマルガム合金粉末(一般には、銀、錫、銅、および亜鉛の混合物)も、必要に応じて組み込むことができる。粒状金属フィラーは、約1ミクロン〜約100ミクロンの平均粒径を有するのが好ましく、約1ミクロン〜約50ミクロンの平均粒径を有するのがさらに好ましい。これらのフィラーの混合物、ならびに有機物質と無機物質から造られる組み合わせフィラーも使用できると考えられる。フルオロアルミノケイ酸塩ガラスフィラー(未処理の場合、またはシラノール処理した場合)が特に好ましい。これらのガラスフィラーは、口腔環境に置かれたときに、セメント充填の部位にフッ化物を放出するというさらなる利点を有する。
【0076】
フィラーと重合可能な樹脂との間の結合を強めるために、必要に応じて、フィラー粒子の表面を表面処理剤(たとえばカップリング剤)で処理することができる。カップリング剤は、反応性硬化基(reactive curing groups)(たとえば、アクリレート、メタクリレート、およびエポキシ等)で官能化することができる。カップリング剤の例としては、γ-メタクリルオキシプロピル-トリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-トリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランがある。
【0077】
本発明の物質はさらに、適切なアジュバント(たとえば、促進剤、抑制剤、吸収剤、安定剤、顔料、色素、粘度調整剤、表面張力低下剤と湿潤剤、酸化防止剤、および当業者によく知られている他の成分)を含有してよい。
【0078】
歯科材料中の各成分の種類と量は、重合の前と後で所望の物理的特性と取扱適性が得られるように調整しなければならない。たとえば、歯科材料の重合速度、重合安定性、流動性、圧縮強度、引張強度、および耐久性は一般に、重合開始剤の種類と量を変えることによって、そしてフィラーが存在する場合はフィラーの組み込み量と粒径分布を変えることによって、ある程度調整される。このような調整は一般に、歯科材料に対する従来の経験に基づいて実験的に行われる。歯科材料を歯に施すとき、必要に応じて、歯をプライマーおよび/または接着剤で当業者に公知の方法によって前処理することができる。
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴と利点を説明するが、これらの実施例に記載の個々の物質と量、および他の条件と詳細が、本発明を過度に限定すると解釈してはならない。特に明記しない限り、部とパーセントは全て重量基準であり、水は全て脱イオン水であり、分子量は全て重量平均分子量である。
【実施例】
【0080】
試験法
硬化速度とエンタルピーの試験法A
2920示差走査フォトカロリメーター(デラウェア州ニューキャッスルのTAインスツルメンツ)を使用して、試験サンプルの硬化速度とエンタルピーを評価した。開放したアルミニウム平なべ中のサンプル(10mg)に、窒素ガスのパージ下にて弱い可視光線を照射し(3mW/cm2,400-800nm)、重合反応が起こったときに等温状態(37℃)を保持するのに必要な熱量をフォトカロリメーターにより測定した。硬化した基準サンプルに対して2つのサンプルが同時に実験されるデュアルサンプルセルを使用した。誘導時間、反応ピーク(ピークマックス)時間、および全反応エンタルピーを測定した。結果は、2回繰り返しの平均として記録した。
【0081】
硬化速度とエンタルピーの試験法B
サンプルサイズが25mgであり、重合反応が起こったときに幾つかの温度(25℃、37℃、および45℃)にて等温状態(37℃)を保持するのに必要な熱量をフォトカロリメーターにより測定したこと以外は、硬化速度とエンタルピーの試験法Aに記載のように硬化速度とエンタルピーを分析した。サンプルを等温状態にて5分保持し、次いで光を当てて60分暴露した。結果は、4回繰り返しの平均として記録した。
【0082】
ゲル化時間の試験法
ポリエステルフィルムまたは冷間圧延スチールのシートに施したサンプルについて、ゲル化時間を下記の手順にしたがって測定した。プラスチック製のミキシングスティックを使用して、サンプルをフィルムまたはスチールシートの表面上に約0.5〜1.0mmの厚さに塗りつけた。380mW/cm2の硬化光線(ELIPAR Trilight、ミネソタ州セントポールの3M ESPE社)を、塗りつけたサンプルの1cm上に保持し、これを使用してサンプルがゲル化するまで照射した。ストップウォッチを使用してサンプルのゲル化時間を測定し、サンプルが目視にて屈折率と反射率の相当な変化を示したときの時間、および/またはサンプルが硬くなったとき(ミキシングスティックを使用した穏やかなタッピングによって決定)の時間と定義した。結果は、少なくとも3回繰り返しの平均として記録した。
【0083】
硬化深さの試験法A
ペースト状のサンプルを円筒形の不透明プラスチック硬化モールド(深さ11mm、直径4mm)中に詰め、900mW/cm2の硬化光線(XL3000、3M ESPE社)を使用してサンプルを40秒硬化させることによって硬化深さを分析した。約1分のキャアー後、硬化サンプルをモールドから取り出し、未硬化のペーストをプラスチックアプリケーターでサンプルからこすり落とした。結果は、4回繰り返しの平均として記録した。
【0084】
硬化深さの試験法B
硬化モールドが深さ12mmであり、硬化光線がELIPAR Trilight Standard(800mW/cm2)(3M ESPE社)であること以外は、硬化深さの試験法Aに記載のように分析した。
【0085】
色彩形成と色彩安定性の試験法A
下記の手順にしたがって色彩形成と色彩安定性を調べた。試験サンプルのペーストを厚さ1mmのモールド(直径30mm)中にプレスし、広帯域の白色光で120秒、そして900mW/cm2の硬化光線(XL3000、3M ESPE社)で160秒照射した。こうした得られた硬化ディスクをウルトラスキャンXEカラーアナライザー(バージニア州レストンのハンター・アソシエーツ・ラボラトリー)によって分析した。結果は、L*a*b*スケールによる明度(color values)として、および硬化したディスクを37℃の水中で一日エージングした後のデルタE値(色彩の変化を表わす)として記録した。b*値(黄色着色の量)とデルタE値(色彩安定性)は、審美的に感じのよい前部の歯科修復用途をモニターする上での特に重要な値である。b*値が低いと(約20未満)、ビータ・シェード・ガイド(Vita shade guide)による最も明るいシェードにマッチする組成物を配合作製することができ、一方、デルタE値が低いということは、色彩安定性が良好であることを示しており、また修復物がシェードの整合を長期間にわたって保持できる能力があるということを示している。
【0086】
色彩形成と色彩安定性の試験法B
硬化モールドの厚さが1mmで直径が15mmであり、硬化光線がELIPAR Trilight Standard(800mW/cm2)(3M ESPE社)であり、そしてカラーアナライザーがハンター・ラブ・スキャン(Hunter Lab Scan)045であること以外は、色彩形成と色彩安定性の試験法Aに記載のように色彩形成と色彩安定性を調べた。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
実施例1〜16および比較例C1〜C7
置換アントラセン誘導体を含有する樹脂組成物
CYGEPSIレジン(185.7g)、CPQ(1.00g)、RHODORSIL2074(5.97g)、ポリ-THF(6.03g)、ピリジニウムトシラート(0.08g)、TINUVIN292(0.09g)、TINUVIN328(0.73g)、およびLUMILUXブルー(0.03g)を混合することによってストックレジン組成物(SRC-1)を作製した。種々の電子供与体〔電子供与体なし(対照標準;C1);EDMAB、アントラセン、アルキル置換アントラセン、およびフェニル置換アントラセン(比較例C2〜C7);アルコキシ置換アントラセン(実施例1〜3);および置換アントラセンとアントラセンとの組み合わせ物(実施例4〜16);を含めて〕をSRC-1に加え、得られた組成物を、硬化速度とエンタルピーの試験法Aにしたがって反応硬化速度とエンタルピーに関して評価した。SRC-1中の電子供与体の濃度と評価結果を表1Aに示す。単独使用の電子供与体はSRC-1に等モル量にて加えたが、組み合わせ使用の電子供与体はSRC-1に表1Aに示す種々の量にて加えた。
【0090】
さらに、上記の組成物(比較例C1〜C7、ならびに実施例1〜3、9、および12〜16)に対し、ポリエステルフィルム上および冷間圧延スチールシート上でのゲル化時間を、ゲル化時間の試験法にしたがって評価した。SRC-1中の電子供与体の濃度と評価結果を表1Bに示す。
【0091】
【表3】

【0092】
単独使用のアルコキシ置換アントラセンを含有する組成物(実施例1〜3)および未置換アントラセンと置換アントラセンとの混合物を含有する組成物(実施例4〜16)はいずれも、未置換アントラセンだけを含有する組成物(比較例C4)、または他の全ての比較例組成物(C1〜C7)より大きい硬化速度値および/またはエンタルピー値を示した、ということが表1Aからわかる。
【0093】
アントラセンとアルキル置換アントラセンとの混合物を含有する組成物(実施例13、15〜16)はいずれも、アルキル置換アントラセンだけを含有する組成物(比較例C5〜C7)またはアントラセンだけを含有する組成物(比較例C4)硬化速度に基づいて予測されるより大きい硬化速度を示した。
【0094】
単独使用のアルコキシ置換アントラセン、およびアントラセンと置換アントラセンとの混合物を含有する組成物は一般に、アントラセン単独または他の比較用の電子供与体単独より高いエンタルピー値と硬化速度(最大ピークに基づいて)を有した。
【0095】
【表4】

【0096】
単独使用のアルコキシ置換アントラセンを含有する組成物(実施例1〜3)および未置換アントラセンと置換アントラセンとの混合物を含有する組成物(実施例9、12〜16)はいずれも、アントラセンだけを含有する組成物(比較例C4)より速いゲル化時間を示した、ということが表1Bからわかる。特定のアルコキシ置換アントラセンを単独で使用した場合に、またアルコキシ置換アントラセンと未置換アントラセンとの特定の組み合わせ物を使用した場合により速いゲル化時間が観察された。
【0097】
実施例1R〜16Rおよび比較例C1R〜C7R
置換アントラセン誘導体を含有するフィラー入り組成物
種々の電子供与体を含有する樹脂組成物および電子供与体の種々の混合物を含有する樹脂組成物(実施例1〜16と比較例C1〜C7)を、フィラーAを70重量%加えることによってフィラー入り組成物に転化させた。こうして得られるフィラー入り組成物(実施例1R〜16Rおよび比較例C1R〜C7R)は、たとえば修復物用ペーストとして特性付けることができ、本明細書に記載の硬化速度とエンタルピーの試験法Aにしたがって反応硬化速度とエンタルピーに関して、そして硬化深さの試験法Aにしたがって硬化深さに関して評価した。評価結果を表2に示す。さらに、本明細書に記載の色彩形成と色彩安定性の試験法Aにしたがって、サンプルを色彩形成と色彩安定性に関して評価した。評価結果を表3に示す。
【0098】
【表5】

【0099】
硬化速度とエンタルピーの傾向が、表1において観察されたのとほとんど同じであるということが表2からわかる。エンタルピー値は全体としてかなり低いが、これは不活性の無機石英フィラーがフィラー入り組成物中に70重量%にて存在するからである。表2からわかるように、アルコキシ置換アントラセンを単独で含有するフィラー入り組成物(実施例1R〜3R)は、比較の電子供与体を単独で含有する組成物(C1R〜C7R)のどれよりも高い硬化速度を示した。未置換アントラセンと置換アントラセンとの混合物を含有するフィラー入り組成物はいずれも、アントラセンだけを含有するフィラー入り組成物(比較例C4R)より高い硬化速度を示した。さらに、実施例1R、3R、および5R〜16Rはいずれも、比較例C4Rより大きい硬化深さを示した。
【0100】
【表6】

【0101】
表3からわかるように、置換アントラセンを含有する各フィラー入り組成物(実施例1R〜3Rおよび比較例C5R〜C7R)は、アントセランだけを含有する組成物(比較例C4R)と比較して、より多い量の色彩(b*値に基づいて)とより低い色彩安定性(デルタE値に基づいて)を示した。DMOAを単独で含有する組成物と組み合わせて含有する組成物(実施例2Rと12R)は、最も多量の色彩(b*値)と最も低い色彩安定性(デルタ値)を示した。アントラセンと置換アントラセンとの混合物を含有するフィラー入り組成物のうちの幾つか(たとえば、実施例4R、5R、8R〜10R、および14R)は、対応する置換アントセランだけを含有する組成物より少ない色彩(b*値)と高い色彩安定性(デルタ値)を示した。アントラセンと置換アントラセンとの混合物を含有するフィラー入り組成物のうちの幾つかは、アントラセンだけを含有する組成物とほぼ同等の色彩安定性を示した(たとえば、実施例8R、15R、および16R)。
【0102】
実施例17R〜24Rおよび比較例C8R〜C14R)
置換アントラセン誘導体を含有するフィラー入り組成物
別個のシリーズの実験において、種々の電子供与体〔アントラセンとジアルキル置換アントラセン(比較例C8R〜C14R);アルコキシ置換(実施例17R〜18R);および置換アントラセンとアントラセンもしくは他の置換アントラセンとの組み合わせ物(実施例19R〜24R);を含む〕を樹脂SRC-1に加え、得られた組成物にフィラーAを70重量%加えることによってフィラー入り組成物にした。得られたフィラー入り組成物(すなわち修復物用ペースト)を、硬化深さの試験法Bにしたがって硬化深さに関して、そして色彩形成と色彩安定性の試験法Bにしたがって色彩形成と色彩安定性に関して評価した。フィラー入り組成物におけるSRC-1中の電子供与体の濃度と評価結果を表4に示す。
【0103】
【表7】

【0104】
表4から、アルコキシ置換アントラセンだけを含有するフィラー入り組成物(実施例17R〜18R)、および置換アントラセンとアントラセンもしくは他の置換アントラセンとの混合物を含有するフィラー入り組成物(実施例19R〜24R)はいずれも、アントラセンだけを含有するフィラー入り組成物(比較例C8R)より硬化深さが大きい、ということがわかる。
【0105】
実施例25R〜26Rおよび比較例C15R
アントラセン、EDMOA、またはアントラセンとEDMOAとの混合物を含有するフィラー入り組成物
組成物が、1000ppmのアントラセン(比較例C15R)、1000ppmのEDMOA(実施例25R)、または〔1000ppmのアントラセン+500ppmのEDMOA〕(実施例26R)とSRC-1とを含有する樹脂系を含んだこと以外は、実施例1R〜16Rと比較例C1R〜C7Rに関して記載のようにフィラー入り組成物を作製した。3種の組成物に対し、前述の硬化速度とエンタルピーの試験法Bにしたがって、反応硬化速度とエンタルピーを25℃、37℃、および45℃にて評価した。得られた結果を表5に示す。
【0106】
【表8】

【0107】
表5のデータからわかるように、EDMOAだけを含有する組成物(実施例25R)と混合アントラセンを含有する組成物(実施例26R)は、アントラセンだけを含有する組成物(比較例C15R)と比較して大幅に高い硬化速度を有し、また温度変化による影響をそれほど受けなかった。混合アントラセン系とEDMOA単独は、試験した各温度においてほぼ同等の硬化速度を有した。さらに、表5のデータからわかるように、EDMOAだけを含有する組成物(実施例25R)と混合アントラセンを含有する組成物(実施例26R)は、特定の温度に対して、アントラセンだけを含有する組成物と比較して大幅に大きいエンタルピーを有した。
【0108】
本明細書において引用した特許、特許文献、および出版物の全開示内容を参照により本明細書に含める。当業者にとっては、本発明の範囲と精神を逸脱することなく、本発明に対する種々の改良形と変形が明らかとなろう。理解しておかなければならないことは、本発明は、本明細書に記載の実施態様と実施例によって限定されることはなく、このような実施例と実施態様は、単に例として挙げられているだけであり、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定される、という点である。
【0109】
上記の明細書、実施例、およびデータは、本発明の組成物の製造と使用について、そして本発明の方法について説明している。本発明は、本明細書に開示の実施態様に限定されることはない。当業者にとっては言うまでもないことであるが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく本発明の多くの代替実施態様が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ヨードニウム塩;
(b) 可視光増感剤;
(c) 約400ナノメートル未満の光吸収最大値を有する第1のアントラセン;および
(d) 下記の構造
【化1】

(式中、R1〜R10のそれぞれは、R1〜R10の少なくとも1つがHではないという条件で、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から独立に選択される)を有する第2のアントラセン;
を含む光開始剤系。
【請求項2】
(a) カチオン重合可能な樹脂;ならびに
(b) (i) ヨードニウム塩;
(ii) 可視光増感剤;
(iii) 約400ナノメートル未満の光吸収最大値を有する第1のアントラセン;および
(iv) 下記の構造
【化2】

(式中、R1〜R10のそれぞれは、R1〜R10の少なくとも1つがHではないという条件で、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から独立に選択される)を有する第2のアントラセン;
を含む、カチオン重合可能な樹脂のための光開始剤系;
を含む光重合可能な組成物。
【請求項3】
カチオン重合可能な樹脂が、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、スピロ-オルトカーボネート樹脂、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項4】
カチオン重合可能な樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項3に記載の光重合可能な組成物。
【請求項5】
カチオン重合可能な樹脂がケイ素含有エポキシ樹脂を含む、請求項4に記載の光重合可能な組成物。
【請求項6】
カチオン重合可能な樹脂が、ケイ素含有エポキシ樹脂とケイ素を含有しないエポキシ樹脂とのブレンドを含む、請求項3に記載の光重合可能な組成物。
【請求項7】
ヨードニウム塩が、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(1-メチルエチル)フェニル4-メチルフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項8】
可視光増感剤が、ケトン、クマリン色素、キサンテン色素、フルオロン色素、フルオレセイン色素、アミノケトン色素、p-置換アミノスチリルケトン化合物、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項9】
可視光増感剤がα-ジケトンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項10】
前記α-ジケトンがカンファーキノンである、請求項9に記載の光重合可能な組成物。
【請求項11】
第1のアントラセンが非置換のアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項12】
第2のアントラセンが、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジメチルアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、9-メチルアントラセン、2-エチルアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、2-tert-ブチルアントラセン、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、および9,10-ジフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルアントラセンから選択される、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項13】
第2のアントラセンが2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項14】
第2のアントラセンが9,10-ジメチルアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項15】
第2のアントラセンが9,10-ジエトキシアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項16】
第2のアントラセンが1,4-ジメトキシアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項17】
第2のアントラセンが9-メチルアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項18】
第2のアントラセンが2-エチルアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項19】
R1〜R10の少なくとも1つがtert-ブチルである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項20】
第2のアントラセンが2,6-ジ-tert-ブチルアントラセンである、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項21】
フリーラジカル重合可能な樹脂をさらに含む、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項22】
ヒドロキシル含有物質をさらに含む、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項23】
光重合可能な組成物が光重合可能な接着剤である、請求項2に記載の光重合可能な組成物。
【請求項24】
(a) ヨードニウム塩;
(b) 可視光増感剤;および
(c) アルコキシ置換アントラセンを含む電子供与体;
を含む光開始剤系。
【請求項25】
下記の構造
【化3】

(式中、R1〜R10のそれぞれは、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から的に選択される)を有する第2の電子供与体化合物をさらに含む、請求項24に記載の光開始剤系。
【請求項26】
(a) カチオン重合可能な樹脂;ならびに
(b) (i) ヨードニウム塩;
(ii) 可視光増感剤;および
(iii) アルコキシ置換アントラセンを含む電子供与体;
を含む、カチオン重合可能な樹脂のための光開始剤系;
を含む光重合可能な組成物。
【請求項27】
下記の構造
【化4】

(式中、R1〜R10のそれぞれは、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から的に選択される)を有する第2の電子供与体をさらに含む、請求項26に記載の光開始剤系。
【請求項28】
カチオン重合可能な樹脂が、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、スピロ-オルトカーボネート樹脂、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項26に記載の光重合可能な組成物。
【請求項29】
カチオン重合可能な樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項28に記載の光重合可能な組成物。
【請求項30】
カチオン重合可能な樹脂がケイ素含有エポキシ樹脂を含む、請求項29に記載の光重合可能な組成物。
【請求項31】
カチオン重合可能な樹脂が、ケイ素含有エポキシ樹脂とケイ素を含有しないエポキシ樹脂とのブレンドを含む、請求項28に記載の光重合可能な組成物。
【請求項32】
ヨードニウム塩が、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(1-メチルエチル)フェニル4-メチルフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項26に記載の光重合可能な組成物。
【請求項33】
可視光増感剤が、ケトン、クマリン色素、キサンテン色素、フルオロン色素、フルオレセイン色素、アミノケトン色素、p-置換アミノスチリルケトン化合物、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項26に記載の光重合可能な組成物。
【請求項34】
可視光増感剤がα-ジケトンである、請求項26に記載の光重合可能な組成物。
【請求項35】
α-ジケトンがカンファーキノンである、請求項34に記載の光重合可能な組成物。
【請求項36】
アルコキシ置換アントラセンが、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、および1,4-ジメトキシアントラセンから選択される、請求項26に記載の光重合可能な組成物。
【請求項37】
(a) ヨードニウム塩;
(b) 可視光増感剤;
(c) どちらも下記の構造
【化5】

を有する第1のアントラセンと第2のアントラセン、このとき前記第1のアントラセンとしては、R1〜R10のそれぞれは、R1〜R10の少なくとも1つがアルコキシであるという条件で、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から独立に選択され、前記第2のアントラセンとしては、R1〜R10のそれぞれは、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から独立に選択される;
を含む光開始剤系。
【請求項38】
(a) カチオン重合可能な樹脂;ならびに
(b) (i) ヨードニウム塩;
(ii) 可視光増感剤;および
(iii) どちらも下記の構造
【化6】

を有する第1のアントラセンと第2のアントラセン、このとき前記第1のアントラセンとしては、R1〜R10のそれぞれは、R1〜R10の少なくとも1つがアルコキシであるという条件で、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から独立に選択され、前記第2のアントラセンとしては、R1〜R10のそれぞれは、H、アルキル基、フェニル基、またはアルコキシ基から独立に選択される;
を含む、カチオン重合可能な樹脂のための光開始剤系;
を含む光重合可能な組成物。
【請求項39】
カチオン重合可能な樹脂が、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、スピロ-オルトカーボネート樹脂、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項38に記載の光重合可能な組成物。
【請求項40】
カチオン重合可能な樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項39に記載の光重合可能な組成物。
【請求項41】
カチオン重合可能な樹脂がケイ素含有エポキシ樹脂を含む、請求項40に記載の光重合可能な組成物。
【請求項42】
カチオン重合可能な樹脂が、ケイ素含有エポキシ樹脂とケイ素を含有しないエポキシ樹脂とのブレンドを含む、請求項39に記載の光重合可能な組成物。
【請求項43】
ヨードニウム塩が、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(1-メチルエチル)フェニル4-メチルフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項38に記載の光重合可能な組成物。
【請求項44】
可視光増感剤が、ケトン、クマリン色素、キサンテン色素、フルオロン色素、フルオレセイン色素、アミノケトン色素、p-置換アミノスチリルケトン化合物、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、請求項38に記載の光重合可能な組成物。
【請求項45】
可視光増感剤がα-ジケトンである、請求項38に記載の光重合可能な組成物。
【請求項46】
前記α-ジケトンがカンファーキノンである、請求項45に記載の光重合可能な組成物。
【請求項47】
第1のアントラセンが、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、および1,4-ジメトキシアントラセンから選択される、請求項38に記載の光重合可能な組成物。
【請求項48】
第2のアントラセンが、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジメチルアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、9-メチルアントラセン、2-エチルアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、2-tert-ブチルアントラセン、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、および9,10-ジフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルアントラセンから選択される、請求項38に記載の光重合可能な組成物。
【請求項49】
請求項2、26、または38に記載の光重合可能な組成物を含んだ光重合可能な歯科材料。
【請求項50】
少なくとも1種のフィラーをさらに含む、請求項49に記載の光重合可能な歯科材料。
【請求項51】
前記フィラーが、石英、サブミクロンシリカ、および非ガラス質ミクロ粒子から選択される、請求項50に記載の光重合可能な歯科材料。
【請求項52】
少なくとも1種のアジュバントをさらに含む、請求項49に記載の光重合可能な歯科材料。
【請求項53】
前記アジュバントが、促進剤、抑制剤、吸収剤、安定剤、顔料、色素、粘度調整剤、表面張力低下剤、湿潤剤、および酸化防止剤から選択される、請求項52に記載の光重合可能な歯科材料。
【請求項54】
(a) 請求項49に記載の光重合可能な歯科材料を供給するステップ;および
(b) 歯科修復物または歯科補綴物が得られるよう、前記歯科材料を適切な波長の光線にさらすことによって重合させるステップ;
を含む歯科修復物または歯科補綴物の作製法。
【請求項55】
工程(b)の前または後に、前記歯科材料を患者の口中に配置するステップをさらに含む、請求項54に記載の作製法。
【請求項56】
前記歯科材料に光線を120秒未満照射する、請求項54に記載の作製法。

【公表番号】特表2007−514660(P2007−514660A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541260(P2006−541260)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/037665
【国際公開番号】WO2005/051332
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504010914)キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ (1)
【出願人】(500213199)スリーエム エスペ アーゲー (6)
【出願人】(504328369)スリーエム・イノベイティブ・プロパティーズ・カンパニー (1)
【Fターム(参考)】