説明

カチオン電着塗料用電導度制御剤およびそれを用いるカチオン電着塗料の電気電導度調整方法

【課題】低固形分および低灰分のカチオン電着塗料組成物において、電導度やつきまわり性の低下するのを防止する技術の提供。
【解決手段】塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料において、電気電導度を900〜2,000μS/cmに調整する電導度制御剤が分子量500〜20,000であり、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなるカチオン電着塗料用電導度制御剤およびこれを低固形分のカチオン電着塗料組成物に配合する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料の電導度制御剤およびそれを用いるカチオン電着塗料の電気電導度の調整に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬し、電圧を印加することにより行なわれる。
【0003】
カチオン電着塗料は、従来は、固形分濃度約20重量%を有する水性塗料組成物であり、撹拌せずに放置すると、顔料などが沈降し電着浴中に沈降物が生じる。通常カチオン電着塗料は、ポンプで循環したりや撹拌器で撹拌を行なうことにより、沈降物が生じないようにしている。
【0004】
しかしながら、カチオン電着浴は自動車車体が浸漬できるほどの大掛かりな設備であるので、循環や撹拌にかかるエネルギー、それにかかわる設備、またその設備の維持にかかる費用は膨大なものとなる。そのような循環や撹拌を減らしたり、不要にすることはカチオン電着塗装における省エネルギーに多大な貢献をする。そのためにカチオン電着塗料が沈降物を生じないか、沈降物の少ないものであること、具体的には低固形分あるいは低灰分のカチオン電着塗料を使用することが有効であり、当該カチオン電着塗料が検討されはじめている。
【0005】
たとえば、特開2004−231989号公報(特許文献1)には、カチオン電着塗料の顔料灰分が3〜10重量%および固形分濃度が5〜12重量%であるカチオン電着塗料を用いた環境対応型電着塗装方法の開示が存在する。このカチオン電着塗料は、沈降物が少なく、撹拌や循環にかかるエネルギーコストも少なく、優れたものということができるが、実際には、塗料固形分が少なくなっていくと、電導度が小さくなって、いわゆる「つきまわり性」と呼ばれる、電着塗装において被塗物の隅々まで塗膜が形成される性能が悪くなっていく。
【0006】
塗膜の電導度を適切な値に調整することで好適なつきまわり性を付与できることは一般的に知られている。特許文献として、塗料の電導度とつきまわり性について言及されたものは、特開2004−269627号公報(特許文献2)が存在する。このカチオン電着塗料組成物は、スルホニウム変性エポキシ樹脂を配合しており、膜抵抗のコントロールが必要である。
【0007】
カチオン電着塗料の基体樹脂のアミン価について検討をしているものは、特開2005−232397号公報(特許文献3)および特開平7−150079号公報(特許文献4)などが存在する。特許文献3では、ウレタン樹脂(基体樹脂)のアミン価を20〜60mgKOH/g(換算すると、35.7〜107.0mmol/100g)が望ましいとされ、また特許文献4のカチオン電着性樹脂はアミン価3〜200mgKOH/g(換算すると、5.3〜356mmol/100g)が望ましい範囲として記載されている。これらは、従来のアミン価の値であって、基本的には低いものである。
【特許文献1】特開2004−231989号公報
【特許文献2】特開2004−269627号公報
【特許文献3】特開2005−232397号公報
【特許文献4】特開平7−150079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
低固形分および/または低灰分のカチオン電着塗料においては、通常のカチオン電着塗料に比べて電導度が低下する傾向がある。本発明では、低固形分および/または低灰分のカチオン電着塗料組成物において、電導度の低下に伴うつきまわり性の低下を防止する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料において、電気電導度を900〜2,000μS/cmに調整する電導度制御剤が分子量500〜20,000であり、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなるカチオン電着塗料用電導度制御剤を提供する。この電導度制御剤は、カチオン電着塗料では、塗膜形成性成分であるカチオン性エポキシ樹脂、硬化剤および顔料とは別のエマルションとして存在しており、実際には第3成分として配合する。
【0010】
上記電導度制御剤として使用されるアミノ基含有化合物はアミン変性エポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られるものが好ましい。
【0011】
上記アミノ基含有化合物はまた、アミン変性アクリル樹脂であって、エポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られるものが好ましい。
【0012】
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノール型、t−ブチルカテコール型、ノボラックフェノール型またはクレゾールノボラック型であり、数平均分子量500〜20,000を有するものであってよい。
【0013】
本発明は、また、塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料において、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物から上記カチオン電着塗料用電導度制御剤を配合して、カチオン電着塗料の電気電導度を900〜2,000μS/cmに調整する方法を提供する。
【0014】
本発明は、更に、塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料において、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなる上記カチオン電着塗料用電導度制御剤を配合して、電気電導度を900〜2,000μS/cmに調製した低固形分型カチオン電着塗料を提供する。
【0015】
本発明は、更にまた、塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料に、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物から上記カチオン電着塗料用電導度制御剤を補給して、カチオン電着塗料の電気電導度を900〜2,000μS/cmに調整することを特徴とする低固形分型カチオン電着塗料への電導度制御剤の補給方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定のカチオン電着塗料の電導度制御剤をカチオン電着塗料中に配合することにより、低灰分型および/または低固形分型のカチオン電着塗料の欠点であるカチオン電着塗料の電導度の低下に伴うつきまわり性の低下を、解消することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のカチオン電着塗料用電導度制御剤は、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物から構成される。本発明のカチオン電着塗料用電導度制御剤はアミン価が上記範囲を有すれば、どのようなアミノ基含有物であってもよいが、通常はアミン変性エポキシ樹脂もしくはアミン変性アクリル樹脂が好ましい。また、本発明のカチオン電着塗料用電導度制御剤は必要に応じて、酸により中和されていても良い。アミン価は好ましくは250〜450mmol/100gであり、もっとも好ましくは300〜400mmol/100gである。アミン価が200mmol/100gよりも小さいと、低固形分濃度のカチオン電着塗料の液電導度を最適値に調整するための必要添加量が多くなり、耐食性を損なう恐れがある。また、500mmol/100gを超えると、析出性を低下させ、所望のつきまわり性が得られないといった欠点を有する。また亜鉛鋼板適性も低下する。
【0018】
本発明における上記カチオン電着塗料用電導度制御剤としてのアミノ基含有化合物は、低分子のものから高分子のものまで考えられるが、通常アミン変性エポキシ樹脂やアミン変性アクリル樹脂などの高分子量のものの化合物が挙げられる。低分子量アミノ基含有化合物は、たとえばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルブチルアミンなどが挙げられる。
【0019】
本発明では、高分子量のアミノ基含有化合物、特にアミン変性エポキシ樹脂およびアミン変性アクリル樹脂が好ましい。アミン変性エポキシ樹脂はエポキシ樹脂のエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られる。エポキシ樹脂は、一般的なものが使用できるが、ビスフェノール型エポキシ樹脂、t−ブチルカテコール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であって、分子量が500〜20000を有するものが好適である。これらのエポキシ樹脂の中で、フェノールノボラック樹脂およびクレゾールノボラック型樹脂がもっとも望ましい。特に、これらのエポキシ樹脂は市販されている。たとえば、ダウケミカルジャパン社製フェノールノボラック樹脂DEN−438、東都化成社製クレゾールノボラック樹脂YDCN−703などがあげられる。
【0020】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0021】
アミン変性アクリル樹脂としては、たとえばアミノ基含有モノマーであるジメチルアミノエチルメタクリレートのホモポリマーまたは他の重合性モノマーとの共重合体をそのまま用いても良いし、グリシジルメタクリレートのホモポリマーまたは他の重合性モノマーとの共重合体のグリシジル基をアミン化合物で変性することにより得ることができる。
【0022】
エポキシ樹脂またはエポキシ基を含有するアクリル樹脂にアミノ基を導入する化合物としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンなどが挙げられる。それらの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ブチルアミン、ジメチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフイド・酢酸混合物などの外、アミノエチルエタノールアミンのジケチミン、ジエチルヒドロアミンのジケチミンなどの一級アミンのブロックした二級アミンが挙げられる。アミン類は複数のものを使用してもよい。
【0023】
前述のとおり、これらアミン変性エポキシ樹脂およびアミン変性アクリル樹脂の数平均分子量は500〜20000が好適である。数平均分子量が500よりも小さいと、耐食性を損なう恐れがあり、また理由は定かではないが、つきまわり性の低下および亜鉛鋼板適性の低下が見られる。数平均分子量が20000よりも大きいと仕上がり外観の低下を引き起こす恐れがある。
【0024】
本発明の上記カチオン電着塗料用電導度制御剤を適用できるカチオン電着塗料は、固形分濃度が0.5〜9.0重量%の低固形分型カチオン電着塗料に限らず、固形分濃度が20重量%程度の通常のカチオン電着塗料に適用することも可能である。通常のカチオン電着塗料においても電導度が低下する場合があり、そのまま電着塗装すると、つきまわり性が不十分となる場合がある。この様な不具合が発生した場合は、上記カチオン電着塗料用電導度制御剤を通常のカチオン電着塗料に添加することで、電導度を適正値に制御することが可能となり、その結果、十分なつきまわり性を確保することが可能となる。
【0025】
これらアミン変性エポキシ樹脂およびアミン変性アクリル樹脂は、あらかじめ中和酸により中和させて用いることもできる。中和に用いる酸は、塩酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0026】
電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料用電導度制御剤は、カチオン電着塗料への配合量を調整することにより、電着塗料の電気電導度を好適に調整することができる。カチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤および必要に応じて顔料や添加剤を含むものが挙げられる。以下、それぞれの成分について説明する。
【0027】
カチオン性エポキシ樹脂(塗膜形成性成分としてのカチオン変性エポキシ樹脂)
本発明で用いるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基の全部にカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。カチオン電着塗料のカチオン性エポキシ樹脂は、アミン価が好ましくは50〜200mmol/100gであって、上記カチオン電着塗料用電導度制御剤のアミン価(200〜500mmol/100g)よりも小さい値を持つ。アミン価が50mmol/100gを下回ると、カチオン変性エポキシ樹脂の水への分散性が確保できず、200mmol/100gを上回ると、得られる塗膜の耐水性が悪化する恐れがあり、好ましくない。
【0028】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0029】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0030】
【化1】

【0031】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0032】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0033】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0034】
これらのエポキシ樹脂は、開環後50〜200mmol/100gのアミン価となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0035】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0036】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0037】
硬化剤
本発明で使用する硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートが好ましく、ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0038】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0039】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーも硬化剤として使用してよい。
【0040】
ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。形成される塗膜が耐候性に優れるからである。
【0041】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0042】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0043】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0044】
カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤とを含むバインダーは、一般に、電着塗料組成物の全固形分の25〜85重量%、好ましくは40〜70重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0045】
顔料
本発明で用いられる電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、ケイ酸ビスマスのような防錆顔料等、が挙げられる。
【0046】
顔料は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の1〜35重量%、好ましくは10〜30重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0047】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0048】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂ワニスとしては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂ワニスは5〜40重量部、顔料は10〜30重量部の固形分比で用いる。
【0049】
上記顔料分散用樹脂ワニスおよび顔料を、樹脂固形分100重量部に対し10〜1000重量部混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0050】
本発明の上記カチオン電着塗料組成物は、塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である必要がある。塗料固形分濃度が下限を下回るとカチオン電着塗膜が得られない。一方、塗料固形分濃度が上限を上回ると、静置した無撹拌状態で当該カチオン電着塗料に含まれる顔料成分が沈降して好ましくない。
【0051】
電着塗料組成物の調製
電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤、及び顔料分散ペーストを水性媒体中に分散することによって調製される。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0052】
硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分重量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0053】
電着塗料は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開裂触媒を含むことができる。鉛を実質的に含まないものが好ましいため、その量はブロックポリイソシアネート化合物の0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0054】
電着塗料組成物は、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び顔料などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0055】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記記載の成分を含むものであれば、特に限定するものではないが、本発明のカチオン電着塗料用電導度制御剤が有効に作用するカチオン電着塗料は低固形分型のものである。また、本発明のカチオン電着塗料は、低灰分型であってもよい。
【0056】
低固形分型のカチオン電着塗料は、固形分濃度が従来の20重量%程度より少ない固形分濃度、特に0.5〜9重量%であり、より好ましい下限は3重量%である。0.5重量%を下回ると、無撹拌状態で顔料成分が沈降するので好ましくない。一方、9重量%を超えて構わないがカチオン電着塗料用電導度調整剤を添加して塗料の電気電導度を調整する必要が無くなる可能性がある。
【0057】
カチオン電着塗料の固形分濃度を減少する方法として、顔料成分を減少する方法を採る場合、塗料中の灰分(即ち、塗料を燃焼した場合に残存する固体状灰の重量を塗料の固形分重量で割って、100をかけたもの)が減少することになる。従って、本発明で用いるカチオン電着塗料は、低灰分型ということもできる。灰分は通常のカチオン電着塗料の場合、15〜40重量%であるので、低灰分型のカチオン電着塗料の灰分量は好ましくは2〜7重量%、より好ましくは3〜5重量%である。
【0058】
電着塗料組成物を用いて電着塗装を行う場合の被塗物は、予め、浸漬、スプレー方法等によりリン酸亜鉛処理等の表面処理の施された導体であることが好ましいが、この表面処理が施されていないものであっても良い。また、導体とは、電着塗装を行うに当り、陰極になり得るものであれば特に制限はなく、金属基材が好ましい。
【0059】
電着が実施される条件は一般的に他の型の電着塗装に用いられるものと同様である。印加電圧は大きく変化してもよく、1ボルト〜数百ボルトの範囲であってよい。電流密度は通常約10アンペア/m〜160アンペア/mであり、電着中に減少する傾向にある。
【0060】
本発明の電着塗装方法によって電着した後、被膜を昇温下に通常の方法、例えば焼付炉中、焼成オーブン中あるいは赤外ヒートランプで焼付ける。焼付け温度は通常約140℃〜180℃である。本発明のカチオン電着塗料によって塗装された塗装物は、最終水洗の後、乾燥、焼付けされることによって、硬化電着塗膜が形成され、これにより塗装工程が完了する。
【0061】
電気電導度(電導度)の調整
本発明では、上述のカチオン電着塗料用液電導度制御剤をカチオン電着塗料をカチオン電着塗料に添加することにより、塗料の液電導度を確保する。前述のように、低固形分型のカチオン電着塗料は、固形分濃度が20重量%程度の通常のカチオン電着塗料に比べて、液電導度が不足する傾向にあり、その不足分を特定のカチオン電着塗料用電導度制御剤を配合することにより調整する。塗膜形成成分としてのカチオン変性エポキシ樹脂のアミン価を上昇させることで、電導度を適正値に維持し、つきまわり性を確保することができる。しかし、カチオン変性エポキシ樹脂のアミン価を200mmol/100gを超えて付与すると、得られる塗膜の耐水性が悪化する恐れがあり、好ましくない。所望のつきまわり性を得るために必要な電気電導度は、900〜2000μS/cmであり、本発明のカチオン電着塗料用電導度制御剤を添加することにより、低固形分型電着塗料の液電導度をこの範囲にコントロールすることができる。電導度の好ましい下限は1000μS/cmであり、好ましい上限は1800μS/cmである。電導度が900μS/cmより小さいと、所望のつきまわり性が得られないといった欠点を有し、2000μS/cmより大きいと、亜鉛鋼板塗装時にガスピンと呼ばれる塗膜欠陥を生じやすいといった欠点を有する。なお、電導度は市販されている液電導度計を用い、液温25℃の条件にて測定する。
【0062】
カチオン電着塗料へのカチオン電着塗料用電導度制御剤の配合量は、特に限定的ではなく、所定の電気電導度が得られればよく、具体的には、塗料固形分に基づいて、0.5〜30重量%、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1〜15重量%である。0.5重量%より少なくてもよいが、十分な電気電導度が得られないことがある。また、配合量は50重量%を超えてもよいが、添加量に比例した電気電導度の増加が見られなくなる。
【0063】
上記のように電導度を調整した低固形分型カチオン電着塗料は、低灰分および低固形分型のカチオン電着塗料であり、なおかつ好適なつきまわり性を確保できる。このようなカチオン電着塗料においても、塗装ラインで被塗物を繰り返し塗装する過程で、カチオン電着塗料槽への塗膜形成性成分の補給が必要になる。この際、槽内のカチオン電着塗料の電気電導度が本願が所望している900〜2,000μS/cmの範囲を逸脱する可能性がある。電気電導度が900μS/cm以下となった場合、本発明の電導度調整剤をカチオン電着塗料槽別途添加することで、固形分濃度を0.5〜9.0重量%に維持しつつ、槽内のカチオン電着塗料の電導度を900〜2,000μS/cmの範囲に調整することができる。
【実施例】
【0064】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものと解してはならない。実施例中、部および%は、別途指示しない限り重量に基づく。
【0065】
実施例A−1
還流冷却器、撹拌機を備えたフラスコに、メチルイソブチルケトン(以下「MIBK」と略す。)295部、メチルエタノールアミン37.5部、ジエタノールアミン52.5部を仕込み、撹拌しながら100℃に保持する。これにクレゾールノボラックエポキシ樹脂(東都化成製、商品名YDCN−703)205部を徐々に加える、全量加え終えたのち3時間反応させる。分子量を測定したところ、2,100であった。得られたアミノ変性樹脂のアミン価(MEQ(B))を測定したところ、340mmol/100gであった。
【0066】
実施例A−2
実施例A−1で得られたアミノ変性樹脂溶液140部に、ギ酸5.5部と脱イオン水1254.5部を加えて80℃に保持しながら30分間撹拌する。減圧下において有機溶剤を除去し固形分7.0%の液電導度制御剤Aを得た。
【0067】
実施例B−1
還流冷却器、撹拌機を備えたフラスコに、MIBK255部、メチルエタノールアミン75部、を仕込み、撹拌しながら100℃に保持する。これにフェノールノボラック樹脂(ダウケミカルジャパン社製、商品名DEN−438)180部を徐々に加える、全量加え終えたのち3時間反応させる。分子量を測定したところ、1,000であった。得られたアミノ変性樹脂のアミン価(MEQ(B))を測定したところ、390mmol/100gであった。
【0068】
実施例B−2
実施例B−1で得られたアミノ変性樹脂溶液140部に、スルファミン酸14部と脱イオン水1247部を加えて80℃に保持しながら30分間撹拌する。減圧下において有機溶剤を除去し固形分7.0%の液電導度制御剤Bを得た。
【0069】
実施例C−1
還流冷却器、窒素導入管、滴下ロート、撹拌機を備えたフラスコにメチルイソブチルケトン(MIBK)を50部仕込み、撹拌しながら100℃に保持する。メタクリル酸グリシジル100部、およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2部からなる混合液を滴下ロートより2時間で等速滴下した。100℃に保ち30分間撹拌を続けた。その後、MIBK52.5部、AIBN0.5部の混合液を1時間かけて滴下した。さらに1時間撹拌を続けて反応を終了させた。
【0070】
実施例C−2
還流冷却器、撹拌機を備えたフラスコに、MIBK47.5部、メチルエタノールアミン52.8部を仕込み、撹拌しながら100℃に保持する。これに実施例C−1で得られた反応物C205部を徐々に加える、全量加え終えたのち3時間反応させる。分子量を測定したところ、9,800であった。得られたアミノ変性樹脂のアミン価(MEQ(B))を測定したところ、450mmol/100gであった。
【0071】
実施例C−3
実施例C−2で得られたアミノ変性樹脂溶液140部に、乳酸25.2部と脱イオン水1234.8部を加えて80℃に保持しながら30分間撹拌する。減圧下において有機溶剤を除去し固形分7.0%の液電導度制御剤Cを得た。
【0072】
比較例D
ガラスビーカーに脱イオン水463.4部、ギ酸13.5部を加え撹拌する。撹拌しながら、分子量が89であるジメチルエタノールアミン23.1部を徐々に加えた。有効成分のアミン価(MEQ(B))が740mmol/100g、有効成分濃度7%の液電導度制御剤Dを得た。
【0073】
製造例1 カチオン電着塗料組成物の調製
製造例1−1 アミン変性エポキシ樹脂の調製
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0074】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0075】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0076】
製造例1−2 ブロックイソシアネート硬化剤の調製
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてガラス転移温度が0℃のブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0077】
製造例1−3 顔料分散樹脂の調製
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0078】
次いで、適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0079】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ、初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0080】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0081】
製造例1−4 顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに製造例9−3で得た顔料分散用樹脂を100部、二酸化チタン100.0部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分50%)。
【0082】
製造例1−5 エマルションの調製
製造例1−1で得られたアミン変性エポキシ樹脂と製造例9−2で得られたブロックイソシアネート硬化剤とを固形分比で80/20で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0083】
比較例1
上記製造例1−5で得られたエマルション319部および上記顔料分散ペースト133部と、イオン交換水543部と10%酢酸セリウム水溶液2部およびジブチル錫オキサイド3部とを混合して、固形分20%の電着塗料組成物Fを得た。このカチオン電着塗料組成物の固形分に含まれる顔料の濃度は23重量%であった。なお塗料固形分は、180℃で30分間加熱した後の残渣の質量の、元の質量に対する百分率として求めることができる。(JIS K5601に準拠)ここで得られた電着塗料組成物Fをそのまま比較例1として用いた。液電導度は1600μS/cmであった。
【0084】
比較例2
上記製造例1−5で得られたエマルション158部および顔料分散ペースト8部と、イオン交換水831部と10%酢酸セリウム水溶液2部およびジブチル錫オキサイド1部とを混合して、固形分7%の電着塗料組成物Gを得た。顔料濃度は5重量%であった。ここで得られた電着塗料組成物Gをそのまま比較例2として用いた。液電導度は890μS/cmであった。
【0085】
実施例1
先に得られた電着塗料組成物Gの1000部に対して、実施例A−2で得られた液電導度制御剤Aを6部加えることにより、液電導度を1200μS/cmに調整した電着塗料組成物Hを得た。この電着塗料組成物Hを実施例1として用いた。
【0086】
実施例2
先に得られた電着塗料組成物Gの1000部に対して、実施例B−2で得られた液電導度制御剤Bを8部加えることにより、液電導度を1300μS/cmに調整した電着塗料組成物Iを得た。この電着塗料組成物Iを実施例2として用いた。
【0087】
実施例3
先に得られた電着塗料組成物Gの1000部に対して、実施例C−3で得られた液電導度制御剤Cを3部加えることにより、液電導度を1100μS/cmに調整した電着塗料組成物Jを得た。この電着塗料組成物Jを実施例3として用いた。
【0088】
実施例4
先に得られた電着塗料組成物Gの1000部に対して400部のイオン交換水を加えることにより、固形分濃度を7%から5%に低減した。この操作により液電導度が890μS/cmから640μS/cmに低下した。ここに実施例A−2で得られた液電導度制御剤Aを8部加えることにより液電導度を1100μS/cmに調整した電着塗料組成物Kを得た。この電着塗料組成物Kを実施例4として用いた。
【0089】
比較例3
先に得られた電着塗料組成物Gの1000部に対して、実施例Dで得られた液電導度調整剤Dを1部加えることにより液電導度を1200μS/cmに調整した電着塗料組成物Lを得た。この電着塗料組成物Eを比較例3として用いた。
【0090】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物と焼き付けて得られたカチオン電着塗膜については以下の方法により評価をおこなった。
【0091】
<つきまわり性>
つきまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1にしめすように、4枚のリン酸亜鉛処理鋼鈑(JIS G3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通穴15が設けられている。
【0092】
カチオン電着塗料4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着浴とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0093】
マグネチックスターラー(非表示)で塗料21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、鋼鈑にカチオン電着塗装を行なった。塗装は、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後通常電着では175秒間、短時間電着では115秒間その電圧を維持することにより行った。
【0094】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)によりつきまわり性を評価した。この値が50%を超えた場合を良好(凡例;○)、この値が50%以下の場合を不良(凡例;×)と判断した。
【0095】
<亜鉛鋼鈑適性>
化成処理を行った合金化溶融亜鉛めっき鋼鈑に、220Vまで5秒で昇圧後、175秒で電着したのち水洗し、170℃で25分間焼き付けし、塗膜状態を観察した。塗膜異常が認められない場合を良好(凡例;○)、わずかに異常が認められる場合を、異常あり(凡例;△)、著しい異常が認められる場合を不良(凡例;×)と判断した。
【0096】
<水平外観>
無攪拌状態のカチオン電着塗料中に水平状態に置いて電着塗装された電着塗装板の焼付け後の外観を目視評価した。
:問題なく良好、△:顔料が少し沈降し、ややザラザラ感がある、×:顔料が沈降し、外観不良。
【0097】
<電導度>
実施例および比較例によって得られたカチオン電着塗料組成物の電導度を、導電率計(東亜電波工業(株)社製CM−305)を用い、液温25℃の条件にて測定した。
【0098】
【表1】

【0099】
実施例1〜4では、液電導度制御剤を含むカチオン電着塗料であり、液電導度が適正範囲にあって、つきまわり性や塗膜外観に欠陥は見られない。比較例1は通常の塗料固形分(20重量%)のカチオン電着塗料であり、液電導度は本発明の領域にあるが、塗料固形分が高く水平外観が悪くなる。比較例2は塗料固形分濃度が7重量%と低いカチオン電着塗料であって、電着塗料の液電導度が不足して、つきまわり性が低下する。比較例3では、アミノ基含有化合物を比較例2のカチオン電着塗料に配合しているが、アミノ基含有化合物のアミン価が本発明の範囲を超えているものであって、つきまわり性も亜鉛鋼板適正も劣る。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】つきまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【0101】
【図2】つきまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0102】
10...ボックス、
11〜14...リン酸亜鉛処理鋼板、
15...貫通穴、
20...電着塗装容器、
21...電着塗料、
22...対極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料において、電気電導度を900〜2,000μS/cmに調整する電導度制御剤が分子量500〜20,000であり、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなるカチオン電着塗料用電導度制御剤。
【請求項2】
前記アミノ基含有化合物がアミン変性エポキシ樹脂またはアミン変性アクリル樹脂である請求項1記載のカチオン電着塗料用電導度制御剤。
【請求項3】
前記アミン変性エポキシ樹脂がエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られる請求項2記載のカチオン電着塗料用電導度制御剤。
【請求項4】
前記アミン変性アクリル樹脂がエポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基をアミン化合物で変性することにより得られる請求項2記載のカチオン電着塗料用電導度制御剤。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノール型、t−ブチルカテコール型、ノボラックフェノール型またはノボラッククレゾール型であり、数平均分子量500〜20,000を有する請求項3記載のカチオン電着塗料用電導度制御剤。
【請求項6】
塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料において、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなるカチオン電着塗料用電導度制御剤を配合して、カチオン電着塗料の電気電導度を900〜2,000μS/cmに調整する方法。
【請求項7】
塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料において、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなるカチオン電着塗料用電導度制御剤を配合して、電気電導度を900〜2,000μS/cmに調製した低固形分型カチオン電着塗料。
【請求項8】
塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である低固形分型カチオン電着塗料に、アミン価が200〜500mmol/100gを有するアミノ基含有化合物からなるカチオン電着塗料用電導度制御剤を補給して、カチオン電着塗料の電気電導度を900〜2,000μS/cmに調整することを特徴とする低固形分型カチオン電着塗料への電導度制御剤の補給方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−37889(P2008−37889A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209954(P2006−209954)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】