カチオン電着塗料組成物およびその応用
【課題】カチオン電着塗料において、表面平滑性と端面被覆性とを両立させる方法の提供。
【解決手段】カチオン電着塗料組成物において、該カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られた未硬化の析出塗膜であって、該未硬化の析出塗膜の140℃における貯蔵弾性率(G’)が80〜500dyn/cm2であり、同時に80℃における損失弾性率(G”)が10〜150dyn/cm2である平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物およびそれを用いる平滑性と端面被覆性を両立させる方法。
【解決手段】カチオン電着塗料組成物において、該カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られた未硬化の析出塗膜であって、該未硬化の析出塗膜の140℃における貯蔵弾性率(G’)が80〜500dyn/cm2であり、同時に80℃における損失弾性率(G”)が10〜150dyn/cm2である平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物およびそれを用いる平滑性と端面被覆性を両立させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物およびそれを用いるカチオン電着塗膜の平滑性および端面被覆性を両立させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬させ電圧を印加することにより行なわれる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗塗装方法として広く実用化されている。
【0003】
電着塗装であっても、物品上への被覆塗装であるので、塗装面が平滑であることが望ましい。また、金属の打ち抜き部分などは鋭角的な端面を有しており、その部分にも塗膜が充分被覆されなければ防食性能が劣化する。したがって、表面平滑性と端面被覆性はともに電着塗膜の必要とする性能である。一方で、表面平滑性は焼付硬化時に未硬化の塗膜が粘度を下げることにより流動化して平滑になるが、端面被覆性は未硬化の塗膜の粘度が下がらないようにすることによりタレを抑制し、鋭角的な端面にも塗膜が残ることが必要である。即ち、平滑性と端面被覆性は相反する性能とされている。
【0004】
電着塗膜の塗膜粘度について検討した技術としては、特開2002−285077号公報(特許文献1)があり、塗膜硬化過程における最低塗膜粘度が30〜150PaSの間にあることを特徴とする電線用電着塗料組成物が記載されている(請求項3)。特許文献1には、塗膜硬化過程における最低塗膜粘度を調整することにより、溶融時のタレがなく、エッジ被覆性などを向上させることができると記載されている。
【0005】
特開平6−65791号公報(特許文献2)には、カチオン電着塗料を塗装し形成された未硬化塗膜面に耐チッピング性プライマーを塗装し、さらに中塗りまたは上塗りを塗装して三層を同時に硬化させる方法において、カチオン電着塗料が塗膜硬化時の最小溶融粘度が104〜108cpsであることが開示されている。この塗膜は、三層を一度に焼きつけるために塗装工程が短縮できると共に、エッジカバー性にすぐれ、形成される複層塗膜は仕上がり性および耐チッピング性に優れることが開示されている。この公報では、複層塗膜における仕上り性及びエッジカバー性について開示されているが、電着塗膜自体の仕上り性およびエッジカバー性については検討されていない。一方、本発明のカチオン電着塗料を含む一般塗料において、後述する粒子を用いて塗膜の粘性を制御することが従来より行われていた。
【特許文献1】特開2002−285077号公報
【特許文献2】特開平6−65791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、上述のように、カチオン電着塗料において表面平滑性と端面被覆性という相反する性能を両立させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明はカチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られた未硬化の析出塗膜の140℃における貯蔵弾性率(G’)が80〜500dyn/cm2であり、80℃における損失弾性率(G”)が10〜150dyn/cm2である平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物を提供する。
【0008】
上記カチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、樹脂粒子および/または顔料分を含むものが好ましい。
【0009】
また、本発明は、カチオン電着塗料中に被塗物を浸漬して電圧を印加することによるカチオン電着塗膜の形成方法において、カチオン電着塗料の未硬化の析出塗膜において、140℃における貯蔵弾性率(G’)を80〜500dyn/cm2に調整し、80℃における損失弾性率(G”)を10〜150dyn/cm2に調整することによりカチオン電着塗膜の平滑性および端面被覆性を両立させる方法を提供する。
【0010】
貯蔵弾性率と損失弾性率の調整は、好ましくは架橋樹脂粒子の添加や無機顔料の配合により行われ、架橋樹脂粒子の場合は平均粒子径1.0〜3.0μmが好ましく、その添加量はカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量であるのが好ましい。
【0011】
無機顔料による貯蔵弾性率と損失弾性率の調整は、無機顔料をカチオン電着塗料組成物の固形分中10〜20重量%の量で配合するのが好ましい。
【0012】
無機顔料と架橋樹脂粒子の両方による貯蔵弾性率と損失弾性率の調整も可能であり、架橋樹脂粒子は、平均粒子径1.0〜3.0μmを有し、かつ無機顔料はカチオン電着塗料組成物の固形分中0.5〜10重量%の量で用いるのが好ましい。
【0013】
上記無機顔料と架橋樹脂粒子の両方による貯蔵弾性率と損失弾性率の調整の場合に、架橋樹脂粒子はカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量で配合されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電着塗装において析出した未硬化塗膜の動的粘弾性のうち、損失弾性率G”および貯蔵弾性率G’を同時に調整することにより平滑性と端面被覆性との両立を可能にすることができるようになった。従来技術では、動的粘弾性測定における複素粘性率η*の制御により最低溶融粘度を管理することだけで平滑性を確保してきたが、単なる粘度だけでは上記平滑性と端面被覆性との両立が不可能であることが解った。本発明では、カチオン電着塗料の未硬化塗膜の動的粘弾性においては、平滑性の制御の際、損失弾性率:G”(粘性項)を特定の範囲にコントロールすることが重要であることを見出した。また端面被覆性の制御の際、貯蔵弾性率G’(弾性項)を特定の範囲にコントロールすることが重要であることを見出した。さらに本発明では、従来相反事象とされていた電着塗膜の平滑性と端面被覆性との両立を確保する上で、損失弾性率G”を特定の範囲にコントロールし、同時に貯蔵弾性率G’を特定の範囲にコントロールすることが重要であることを見出し、これらG”とG’を独立のパラメーターであるとして、これらパラメーターを各々特定の範囲にコントロールすることにより、得られる電着塗膜の平滑性と端面被覆性の両立を達成したものである。
【0015】
本発明によれば、電着において析出した未硬化塗膜の損失弾性率と貯蔵弾性率の2つを制御するだけで、表面平滑性と端面被覆性との両立を評価することができ、カチオン電着塗料の有用な性能検査あるいは性能管理の方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
動的粘弾性とは、線形粘弾性体に振動的(周期的)な歪みまたは力を与えた場合に観測される弾性率で、振動数および温度に関係する。以下の動的粘弾性に関する記載は、講座レオロジー(日本レオロジー学会編)、第2章高分子液体のレオロジー、p31−39および高分子化学序論(岡村誠三、中島章夫、小野木重治、西島安則、東村敏延、伊勢典夫共著)、第4章高分子物質の諸性能 粘弾性、p149−155に記載されている内容を参考にしたものである。
【0017】
角速度ω(2π×周波数f)における応力及び歪みは下記式にて与えられる。
歪み γ(t)=γ0eiωt (dyn/cm2)
応力 σ(t)=σ0ei(ωt+δ) (dyn/cm2)
(ここでγ(t)は時間tにおける歪み、σ(t)は時間tにおける応力であり、γ0はt=0における歪み、σ0はt=0における応力、δは位相差を示す。)
このときの複素弾性率G*は、
G*=(σ0/γ0)eiδ=(σ0/γ0)(cosδ−i sinδ)
で表される。一般的に塗料の粘度制御因子として用いられている複素粘性率η*=G*/ω(ポイズ)は、塗料の粘性と弾性、双方の性質を併せ持つ粘弾性を定量化したものである。
【0018】
即ち、本発明では、この粘性と弾性を個別にとらえ、それぞれを制御することにより平滑性と端面被覆性との両立を可能にした。平滑性を確保するには焼き付け過程における塗料の流動を制御する必要がある。この流動には、粘性的性質がかかわっており、これは応力と歪みの関係より、下記式で表される。
損失弾性率(粘性) G”=G*sinδ(dyn/cm2)
【0019】
一方、端面被覆性の確保には、焼き付け過程において、その場に留まろうとする力を制御する必要があり、この力は、弾性的性質がかかわっており、これは応力と歪みの関係より、下記式で表される。
貯蔵弾性率(弾性) G’=G*cosδ(dyn/cm2)
【0020】
カチオン電着塗料を含む一般的な塗料の場合、焼き付け初期段階で未硬化塗膜は粘性項支配となり、損失弾性率G”の影響を大きく受ける。後期段階では未硬化塗膜が融着や擬似架橋によりゲル化点(見かけ上、端から端まで繋がった状態)を迎え、それ以降は弾性項支配となり、貯蔵弾性率G’の影響を大きく受ける。ゲル化点とは、焼付過程における粘弾性挙動の損失弾性率G”(粘性項)と貯蔵弾性率G’(弾性項)の関係が損失弾性率G”<貯蔵弾性率G’となる温度のことである。即ち、粘性項支配から弾性項支配へと変化する点を意味する。
【0021】
本発明において、ゲル化点以下の温度(80℃)の損失弾性率G”を制御する事と、ゲル化点以上の温度(140℃)の貯蔵弾性率G’を制御する事で、平滑性と端面被覆性の両立が可能となる事を見出し、本発明を完成するに到った。
【0022】
ここでは、発明を完成するに到る過程を述べることにより、本発明を説明する。まず、予備的な実験として以下の事を行った。
いくつかの塗料、具体的には顔料などを配合した従来の塗料系、それらを配合しないもの、種々の架橋樹脂粒子を配合したもので粘弾性挙動を測定した。塗料は、温度が上がるにつれて、40〜80℃にかけて粘度が下がり始め、また80〜100℃ぐらいの間では少し粘度が上昇して、100℃を越えると大きく粘度が減少してフローする。このフロー後に硬化反応が開始し始めて粘度が再び上昇し始め150℃前後まで徐々に上がり始め、その後急激に粘度が上昇して硬化が完結する。それを確認しつつ塗料の動的粘弾性を調べるために、5種類の塗料について株式会社ユービーエムのレオゾール(Rheosol)−G3000を用いて測定し、歪み0.5度、周波数0.02Hzで温度上昇率2℃/分の条件で、加えた応力値σ(t)に対する歪み値γ(t)および応力と歪みの位相差δを測定した。得られた応力値σ(t)、歪み値γ(t)および位相差δの関係から前述式にて貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)および複素粘性率(η*)を算出し、それぞれを図1〜図3に示す。図1〜3中において用いた塗料は次のようなものである:『STD』はPN−310(日本ペイント社製:カチオン電着塗料)、『顔料free』はPN−310から顔料成分を除いたもの(PWC=0%)、『樹脂粒子1』に関しては『顔料free』に架橋樹脂粒子(平均粒子径1〜3μm)を15重量%配合したもの、『樹脂粒子2』に関しては『顔料free』に架橋樹脂粒子(平均粒子径100nm)を5重量%配合したもの、『樹脂粒子3』に関しては『顔料free』に『樹脂粒子2』で用いた架橋樹脂粒子とは異なる架橋樹脂粒子(平均粒子径100nm)を10重量%配合したものである。
【0023】
この図1〜図3をみると明らかなように、各塗料によって、その挙動がかなり違うことがわかる。大まかには、三つの態様(40〜80℃、80〜100℃、および100℃以上)に分かれるが、塗料の配合、特に粒子等の存在により、動的粘弾性の挙動が大きく変化することも5種類の塗料によって描かれるグラフが異なることも解る。従って、配合を変化させることにより、粘弾性の挙動を最適にコントロールすることも可能であるということが判る。
【0024】
特に、図1〜図3を見てそれぞれの塗料間において大きく異なるのは、80℃付近の粘弾性挙動および140℃付近の粘弾性挙動というのが基準となると理解できる。
【0025】
この基準に基づいて、更に次の実験を行った。PN−310(日本ペイント(株)社製カチオン電着塗料)およびPN−310塗料の無機顔料成分量を変更したもの、PN−310から無機顔料成分を除いたものおよびその塗料に架橋樹脂粒子の種類、配合量を変更したいくつかの種類を作成し、それぞれの粘性挙動を測定した。それらの粘弾性の結果から、各温度での変化が判りやすいように図4には80℃の三つの粘弾性挙動、即ちG’値と電着肌(図4A)、η*値と電着肌(図4B)およびG”値と電着肌(図4C)をすべて表示し、図5には同じく140℃の三つの粘弾性挙動、即ちG’値と電着肌(図5A)、η*値と電着肌(図5B)およびG”値と電着肌(図5C)のすべてを表示した。尚、電着肌は表面粗さ(Ra)で表した。ここで評価した電着肌とは、後述する電着塗膜の外観、即ち平滑性を意味し、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)の測定値で表示されるものをいう。即ち、前述の平滑性を電着肌で見ることにより、この電着肌と粘弾性挙動との関係を見たのである。
【0026】
この図4および図5の挙動から明らかなように、各測定点および測定塗料の粘弾性変化と電着肌との関係において一定の関係を持っていると認められるのが80℃の電着肌との関係である(図4C参照)。また、同じく端面被覆性と粘弾性挙動の三つの挙動を測定したものを図6A〜Cおよび図7A〜Cに同様に記載する。この図6および図7から明らかなように140℃の貯蔵弾性率(G’)と端面被覆性との関係が相関関係を示すことがわかる(図7A参照)。すなわち、粘度の値の変化と電着肌(平滑性)あるいは端面被覆性とが相関関係を持っているということになる。ここで、上記の端面被覆性は、後述の評価方法により求められたものである。尚、図6、図7で表示する「被覆性」とは、ここでいう「端面被覆性」と同意義である。
【0027】
この測定結果から本発明では、電着肌(平滑性)に対しては80℃の損失弾性率(G”)を用い、端面被覆性に関しては140℃の貯蔵弾性率(G’)を基準として用いればよいことを導きだした。このことにより本発明を完成したのである。また上記図4Aおよび図7Aを参考にすると貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の好ましい範囲を選択することができる。すなわち、140℃におけるG’は図7Aを参考にすると、80〜500dyn/cm2が好適であり、80℃におけるG”は図4Cを参考にすると10〜150dyn/cm2(電着肌Raは小さい方が平滑性がよい)を選択することができる。好ましくは、貯蔵弾性率(G’)は90〜500dyn/cm2であり、より好ましくは100〜500dyn/cm2である。また、80℃における損失弾性率(G”)が好ましくは10〜120dyn/cm2であり、より好ましくは10〜100dyn/cm2である。
【0028】
貯蔵弾性率G’の望ましい下限を下回ると、得られる電着塗膜の端面被覆性が悪化する恐れがあり、望ましい上限を上回ると平滑性が低下する恐れがある。損失弾性率G”の望ましい加減を下回ると、平滑性は向上するものの得られる電着塗膜の端面被覆性が悪化する恐れがあり、望ましい上限を上回ると平滑性が低下する恐れがある。
【0029】
ここで、上記で述べた貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”は未硬化の析出塗膜の弾性率であるが、その未硬化とは、カチオン電着塗料を電着塗装して得られた析出塗膜が、未だ焼き付けして硬化されていない状態を言う。
【0030】
カチオン電着塗料用組成物は、上述のように架橋樹脂粒子および/または無機顔料を添加もしくは配合させるが、これら以外に水性媒体、水性媒体中に分散するかまたは溶解したカチオン性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂、中和酸、有機溶媒を含有するものである。
【0031】
上記の粘弾性挙動を調整するためには、第1の方法として架橋樹脂粒子を添加する方法がある。この架橋樹脂粒子の平均粒子径は1.0〜3.0μmが好ましい。この粒子径が1.0μmより小さいと、表面積の割合が増大し、カチオン電着塗料組成物に含まれているバインダー樹脂成分であるカチオン性エポキシ樹脂等との相互作用が増大し、析出塗膜の粘度が急上昇するため、上述のような粘弾性挙動の調整が難しくなる。一方、粒子径が3.0μmより大きくなると、電着塗料の無撹拌時の沈降や電着塗料時における水平面への粒子の降り積もりによる平滑性の低下が起こる。ここでの平均粒子径は、以下の方法により測定することができるものである。
【0032】
樹脂粒子の平均粒子径を、日機装(株)社製、MICROTRAC9340UPAを用いて、粒状粒子透過測定法にて測定した。また、この測定器において、樹脂粒子の粒度分布を測定し、その測定値から累積相対度数F(x)=0.5における平均粒子径を算出した。これらの測定および算出においては、溶媒(水)の屈折率1.33、樹脂分の屈折率1.59を用いた。
【0033】
架橋樹脂粒子は、架橋構造を持っていることが必須である。架橋構造が無い場合、上記140℃における貯蔵弾性率G’の値が80dyn/cm2以下となり、端面被覆性を確保することができず好ましくない。架橋樹脂粒子はカチオン電着塗料組成物の樹脂固形分中3〜15重量%の量で用いるのが好ましい。3重量%より少ないと、平滑性と端面被覆性の両立が難しくなり、15重量%を超えると、腐食性などの塗膜性能の低下を引き起こす恐れがある。ここで、上記「樹脂固形分」とは、カチオン電着塗料組成物に含まれている、架橋樹脂粒子を含む全ての樹脂固形分中を意味する。
【0034】
架橋樹脂粒子の平均粒子径が1.0〜3.0μmの大きさであることを考慮すると、懸濁重合により製造されることが好ましい。乳化重合などその他の方法で製造することも、粒径が上記範囲を満足すれば、可能であるが、粒径を所望の範囲にそろえる観点から懸濁重合が好適である。
【0035】
上記架橋樹脂粒子としては、特に限定されず、例えば、エチレン性不飽和単量体を主体として得られた架橋構造を有する樹脂からなる樹脂粒子、内部架橋したウレタン樹脂からなる樹脂粒子、内部架橋したメラミン樹脂からなる微小樹脂粒子等を挙げることができる。
【0036】
上記エチレン性不飽和単量体を主体として得られた架橋構造を有する樹脂としては特に限定されず、例えば、架橋性単量体を必須成分とし、エチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物を、水性媒体中で懸濁重合させて調製した水分散体、上記水分散体を溶媒置換等の方法により得られる内部架橋した樹脂粒子、又は、脂肪族炭化水素等の低SP有機溶媒又はエステル、ケトン、アルコール等の高SPである有機溶媒のようにモノマーは溶解するが重合体は溶解しない非水性有機溶媒中で架橋性単量体を必須成分とし、エチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物を共重合させて得られる内部架橋した樹脂粒子を分散するNAD法又は沈澱析出法等の方法によって得られる内部架橋した樹脂粒子等を挙げることができる。
【0037】
上記の粘性挙動を調整する第2の方法としては、無機顔料をカチオン電着塗料組成物の固形分中10〜20重量%(以下、「PWC」と呼ぶこともある。)の量で用いる方法がある。従来のカチオン電着塗料では、上記PWCを20重量%を越え、25重量%以下としており、平滑性および端面被覆性の両立を図ることができなかったが、このPWCを10〜20重量%の範囲で用いることにより、これらの性能の両立を図ることができる。ここでPWCとは、カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分、顔料成分全ての固形分に対する割合をいう。無機顔料のPWCが10重量%未満であると、樹脂の含有量が多くなり、温度の上昇により樹脂が軟化するため、目的とする高粘度を得ることができず、上記の粘性挙動を調整することができない。一方、PWCが20重量%を超えると、逆に顔料が多くなり、樹脂による融着効果を得ることができず、その結果高粘度の発現がされず、粘弾性の制御が困難となる。尚、無機顔料では、上記のようにPWCが粘性挙動に影響を与えるが、その粒子径は粘性挙動にさほど影響しない。
【0038】
ここで用いる無機顔料としては、電着塗料組成物に通常用いられている顔料であれば、特に制限されない。顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、ビスマス系化合物、セリウム系化合物のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0039】
上述の粘弾性挙動を調整する第3の方法としては、上記架橋樹脂粒子と無機顔料を併用する方法である。この場合、上記架橋樹脂粒子の平均粒子径は1.0〜3.0μmであり、その用いる量は塗料固形分中に3〜15重量%である。一方、無機顔料の使用量はカチオン電着塗料組成物の固形分中(PWC)0.5〜10重量%の範囲に減少させることができる。その下限値としては好ましくは1重量%、更に好ましくは2重量%である。一方、上限値としては、好ましくは7重量%、更に好ましくは5重量%である。10重量%を超える量で使用すると顔料が必要以上に多くなり、顔料の沈降による水平外観の悪化となる恐れがある。また、0.5重量%未満にすると、色隠蔽性が低下する恐れがある。
【0040】
無機顔料および架橋樹脂粒子の両方を用いることにより、無機顔料の量を更に減少させることができ、その結果電着塗料の固形分の沈降防止のためのエネルギーや労力の削減が期待できる。また、無機顔料を用いずに架橋樹脂粒子だけを用いて粘性挙動を調整すると、上記の固形分の沈降防止のためのエネルギーや労力を大幅に減少させることができる。また無機顔料を含まないか又は含んでいても極めて少量の場合には、電着塗装後に被塗物の水洗が行われるのであるが、水洗工程が大きく短縮され、設備の簡略化や資源の使用の削減となる大きな効果がえられる。
【0041】
次に、一般的なカチオン電着塗料組成物に用いられる成分を説明する。
【0042】
カチオン性エポキシ樹脂
本発明で用いるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0043】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0044】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0045】
【化1】
【0046】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0047】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0048】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0049】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0050】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0051】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数の種類を併用して用いてもよい。
【0052】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれであってもよい。
【0053】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0054】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0055】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0056】
ブロック剤としては、通常使用されるε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等を用いることができる。
【0057】
架橋樹脂粒子を電着塗料の成分として用いる場合、その電着塗料を製造するどの段階で配合してもよいが、好ましくは製造されたカチオン電着塗料に直接添加する方法が良い。
【0058】
無機顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に無機顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。無機顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0059】
顔料分散ペーストは、無機顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0060】
一般に、顔料分散樹脂は、無機顔料100質量部に対して固形分比20〜100質量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0061】
本発明で使用されるカチオン電着塗料組成物は、上記成分の他に、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩を触媒として含んでもよい。これらは、硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。触媒の濃度は、電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂と硬化剤合計の100固形分質量部に対して0.1〜6質量部であるのが好ましい。
【0062】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上に述べたカチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、および必要に応じて架橋樹脂粒子および/または顔料分散ペーストおよび触媒を、水性媒体中に分散させることによって調製することができる。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂を中和して分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン等の無機酸または有機酸である。本明細書中における水性媒体とは、水か、水と有機溶剤との混合物である。水としてイオン交換水を用いるのが好ましい。使用しうる有機溶剤の例としては炭化水素類(例えば、キシレンまたはトルエン)、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)またはそれらの混合物が挙げられる。
【0063】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。中和酸の量はカチオン性エポキシ樹脂のカチオン性基の少なくとも20%、好ましくは30〜60%を中和するのに足りる量である。
【0064】
有機溶媒はカチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤等の樹脂成分を調製する際に溶剤として必ず必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。
【0065】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0066】
カチオン電着塗料組成物は、上記成分のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤など、通常使用される塗料用添加剤を含むことができる。
【0067】
カチオン電着塗料組成物の塗装方法
上記カチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0068】
カチオン電着塗料組成物の電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0069】
電着塗装工程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する工程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる工程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0070】
電着塗膜の膜厚は、一般に5〜25μmの範囲で形成することができる。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分となる恐れがある。また、電着塗膜の膜抵抗は膜厚15μmにおいて1000〜1600kΩ/cm2であることが好ましい。塗膜の膜抵抗が1000kΩ/cm2未満であると十分な電気抵抗が得られていない状態であり、つきまわり性に劣る恐れがあり、また1600kΩ/cm2を超えると塗膜外観が劣る恐れがある。塗膜の膜抵抗は、より好ましくは1100〜1500kΩ/cm2である。
【0071】
塗膜の膜抵抗値は、最終塗装電圧(V)における、塗膜の残余電流値(A)より、下記の式にて求められる。
膜抵抗値(FR)=V/A
【0072】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化し、硬化電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0074】
製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(コロネートHX:日本ポリウレタン(株)製)199部とメチルイソブチルケトン32部、およびジブチルスズジラウレート0.03部を秤りとり、攪拌、窒素をバブリングしながら、メチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ70℃まで昇温した。そのあと1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。その後n−ブタノール0.74部、メチルイソブチルケトン39.93部を加え、不揮発分80%とした。
【0075】
製造例2 アミン変性エポキシ樹脂エマルションの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、2,4/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20wt%)71.34部と、メチルイソブチルケトン111.98部と、ジブチルスズジラウレート0.02部を秤り取り、攪拌、窒素バブリングしながらメタノール14.24部を滴下ロートより30分かけて滴下した。温度は室温から発熱により60℃まで昇温した。その後30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル46.98部を滴下ロートより30分かけて滴下した。発熱により70〜75℃へ昇温した。30分間反応を継続した後、ビスフェノールAプロピレンオキシド(5モル)付加体(三洋化成工業(株)製BP−5P)41.25部を加え、90℃まで昇温し、IRスペクトルを測定しながらNCO基が消失するまで反応を継続した。
【0076】
続いてエポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製YD−7011R)475.0部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、MIBKとの共沸により反応系から水を除去した。125℃まで冷却した後、ベンジルジメチルアミン1.107部を加え、脱メタノール反応によるオキサゾリドン環形成反応を行った。反応はエポキシ当量1140になるまで継続した。
【0077】
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン24.56部,ジエタノールアミン11.46部およびアミノエチルエタノールアミンケチミン(78.8%メチルイソブチルケトン溶液)26.08部を加え、110℃で2時間反応させた。その後エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル20.74部とメチルイソブチルケトン12.85部を加えて希釈し、不揮発物82%に調節した。数平均分子量(GPC法)1380、アミン当量94.5meq/100gであった。
【0078】
別の容器にイオン交換水145.11部と酢酸5.04部を秤り取り、70℃まで加温した上記アミン変性エポキシ樹脂320.11部(固形分として75.0部)および製造例1のブロックイソシアネート硬化剤190.38部(固形分として25.0部)の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。そのあとイオン交換水を加え固形分36%に調整した。
【0079】
製造例3 顔料分散樹脂の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を秤り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた樹脂ワニスはイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。
【0080】
製造例4 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例3で得られた顔料分散樹脂ワニスを120部、カオリン100部、二酸化チタン92部、ジブチルスズオキシド8.0部およびイオン交換水184部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。(固形分48%)
【0081】
製造例5 架橋樹脂粒子の製造
反応容器にブチルセロソルブ120部を入れ120℃に加熱攪拌した。ここにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2部およびブチルセロソルブ10部を混合した溶液と、グリシジルメタクリレート15部、2−エチルヘキシルメタクリレート50部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20部およびn−ブチルメタクリレート15部からなるSP値が10.1であるモノマー混合物とを3時間で滴下した。30分間エージングした後、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5部およびブチルセルソルブ5部を混合した溶液を30分で滴下し、2時間のエージングを行った後、冷却した。ここにN,N−ジメチルアミノエタノール7部および50%乳酸水溶液15部を加えて80℃で加熱攪拌することにより4級化を行った。酸価が1以下になり、粘度上昇が止まった時点で加熱を停止し、アンモニウム基を有するアクリル樹脂を得た。このアンモニウム基を有するアクリル樹脂の1分子あたりのアンモニウム基の個数は6.0個であった。
【0082】
反応容器に、アンモニウム基を有するアクリル樹脂120部と脱イオン水270部とを加え、75℃で加熱攪拌した。ここに2,2'−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)1.5部の酢酸100%中和水溶液を5分かけて滴下した。5分間エージングした後、メチルメタクリレート30部を5分かけて滴下した。さらに5分間エージングした後、アンモニウム基を有するアクリル樹脂170部と脱イオン水250部とを混合した溶液にメチルメタクリレート170部、スチレン40部、n−ブチルメタクリレート30部、グリシジルメタクリレート5部およびネオペンチルグリコールジメタクリレート30部からなるα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を加え攪拌して得られたプレエマルションを40分かけて滴下した。60分間エージングした後、冷却し、架橋樹脂粒子1の分散液を得た。得られた架橋樹脂粒子の分散液の不揮発分は35%、pHは5.0、平均粒子径は100nmであった。
【0083】
製造例6 非架橋樹脂粒子の製造
スチレン104部、2−エチルヘキシルメタクリレート20部、ラウリルメタクリレート76部を混合した溶液にラウロイルパーオキサイド2部を溶解した。これを、ポリビニルアルコール(ゴウセノールGH−17、日本合成社製)8部を脱イオン水に溶解してなる水溶液497部に攪拌しながら添加し、ホモミックラインフロー30型(特殊機化工業社製の高速分散機)3500rpmで懸濁液を製造した。
【0084】
この懸濁液を通常のバッチ式反応容器を用いて攪拌速度150rpm、反応温度81〜83℃で5時間かけて懸濁重合を行い、冷却後、得られた分散液を200メッシュ網で濾過し、非架橋樹脂粒子を得た。得られた非架橋樹脂粒子の分散液の不揮発成分は30%、平均粒子径3μmであった。
【0085】
実施例1
製造例2で得られたエマルション2222部及び製造例4で得られた顔料分散ペースト417部と、イオン交換水2361部とを混合して、PWC=16.5%、架橋樹脂粒子0重量%、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0086】
比較例1
製造例2で得られたエマルション738部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4598部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子0重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0087】
比較例2
製造例2で得られたエマルション702部及び製造例5で得られた架橋樹脂粒子38部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4596部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子5重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0088】
比較例3
製造例2で得られたエマルション665部及び製造例5で得られた架橋樹脂粒子76部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4596部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子10重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0089】
比較例4
製造例2で得られたエマルション665部及び製造例6で得られた非架橋樹脂粒子89部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4582部とを混合して、PWC=0%、非架橋樹脂粒子10重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0090】
比較例5
製造例2で得られたエマルション389部及び製造例4で得られた顔料ペースト125部と、イオン交換水3486部とを混合して、PWC=25%、架橋樹脂粒子0%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0091】
実施例2
製造例2で得られたエマルション702部、架橋樹脂粒子(メタクリル酸メチルを主成分とする架橋樹脂粒子;東洋紡績(株)社製、タフチック(登録商標)F−200)42部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4592部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子5%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0092】
実施例3
製造例2で得られたエマルション665部、架橋樹脂粒子(メタクリル酸メチルを主成分とする架橋樹脂粒子;東洋紡績(株)社製、タフチック(登録商標)F−200)84部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4587部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子10%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0093】
実施例4
製造例2で得られたエマルション628部、架橋樹脂粒子(メタクリル酸メチルを主成分とする架橋樹脂粒子;東洋紡績(株)社製、タフチック(登録商標)F−200)127部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4581部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子15%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0094】
実施例5
製造例2で得られたエマルション628部、架橋樹脂粒子(スチレンモノマーを主成分とする架橋樹脂粒子;綜研化学(株)社製、ケミスノーSX500H、平均粒子径3μm)40部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4668部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子15%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0095】
実施例6
製造例2で得られたエマルション567部、製造例4で得られた顔料分散ペースト54部及び架橋樹脂粒子(スチレンモノマーを主成分とする架橋樹脂粒子;綜研化学(株)社製、ケミスノーSX500H、平均粒子径3μm)40部と、イオン交換水4739部とを混合して、PWC=8%、架橋樹脂粒子15%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0096】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、動的粘弾性における80℃での損失弾性率および140℃での貯蔵弾性率、平滑性および端面被覆性を以下の方法により評価を行なった。
【0097】
電着塗膜の損失弾性率および貯蔵弾性率の測定
上記で得られたカチオン電着塗料にブリキ板を浸漬し、焼付後の膜厚が15μmとなるような塗装電圧で塗装して電着塗膜を形成し、これを水洗して余分な電着塗料組成物を取り除いた。次いで水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐにその未硬化状態の塗膜片を取り出して、試料を調製した。こうして得られた試料を、回転型動的粘弾性測定装置であるレオゾール(Rheosol)−G3000(株式会社ユービーエム製)を用いて、動的粘弾性における温度依存測定を、設定条件:歪み0.5deg、周波数0.02Hzで行った。調製した試料をセットし、測定温度を50℃に保った。測定開始後、コーンプレート内で電着塗膜が均一に広がった状態となった時点で塗膜の粘度の測定を行った。
【0098】
電着塗膜の外観(平滑性)評価
電着塗膜の外観評価は、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)を測定することにより行った。上記で得られたカチオン電着塗料にリン酸亜鉛処理した冷間圧延鋼板を浸漬し、焼付後の膜厚が15μmとなるような塗装電圧で塗装して得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で10分間焼付した。その後、この硬化電着塗膜のRa値を、JIS−B0601に準拠し、評価型表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値を得た。結果を表1、2に示す。このRa値が小さい程、凹凸が少なく、塗膜外観が良好であるといえる。
【0099】
端面被覆性評価方法
カチオン電着塗料組成物にリン酸亜鉛処理を施したカッターナイフ(OLFA製:LB−50K)の被塗物を浸漬し、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる。また上記電着条件はカッターナイフに析出膜厚が15μmとなる様に調整した印加電圧及び時間とした。得られた電着塗膜を水洗した後、160℃にて10分焼き付ける事により、硬化電着塗膜を得た。
【0100】
電着塗膜が被覆したカッターナイフの中心を折り、カッターナイフ先端(鋭角部)から30ミクロン部位に被覆した電着塗膜の膜厚をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製:VH−8000)にて測定した。図8には、カッターナイフの先端から30ミクロン部位を模式的に示した。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表1から明らかなように、動的粘弾性の損失弾性率(G”)および貯蔵弾性率(G’)を所定の範囲にしたものは、平滑性および端面被覆性において優れた性能を示すことがわかった。具体的には、比較例1は貯蔵弾性率(G’)が本発明の範囲を外れており、端面被覆性がよくない。比較例2は製造例5の架橋樹脂粒子を配合したものであるが、損失弾性率(G”)および貯蔵弾性率(G’)共に本発明の範囲を外れており、平滑性も端面被覆性もよくない。比較例2と同様に、比較例3も製造例5の架橋樹脂粒子を配合したものであるが、ここで用いた架橋樹脂粒子の平均粒子径が100nmと小さく損失弾性率(G”)の値が本発明の範囲を外れるものであり、平滑性が不足する。比較例4では非架橋粒子を配合するもので、貯蔵弾性率(G’)の値が本発明の範囲を外れるもので、端面被覆性が劣る結果となる。更に比較例5は、樹脂粒子ではなく無機顔料を含むが、損失弾性率(G”)において本発明の範囲を外れるものであり、その結果平滑性がよくない。また実施例1では、製造例4の顔料を含むものであり、本発明の範囲に全ては入り、平滑性も端面被覆性も優れている。実施例2〜6では、特定の粒子を配合することにより、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を本発明の範囲内にコントロールするもので、平滑性も端面被覆性も共に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】5種類の塗料の動的粘弾性における損失弾性率(G”)値の挙動を示すグラフである。
【図2】5種類の塗料の動的粘弾性における損失弾性率(G’)値の挙動を示すグラフである。
【図3】5種類の塗料の動的粘弾性における複素粘性率(η*)値の挙動を示すグラフである。
【図4A】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G’)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図4B】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(η*)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図4C】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G”)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図5A】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G’)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図5B】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(η*)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図5C】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G”)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図6A】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G’)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図6B】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(η*)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図6C】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G”)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図7A】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G’)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図7B】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(η*)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図7C】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G”)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図8】カッターナイフの先端から30ミクロン部位を模式的に示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物およびそれを用いるカチオン電着塗膜の平滑性および端面被覆性を両立させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬させ電圧を印加することにより行なわれる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗塗装方法として広く実用化されている。
【0003】
電着塗装であっても、物品上への被覆塗装であるので、塗装面が平滑であることが望ましい。また、金属の打ち抜き部分などは鋭角的な端面を有しており、その部分にも塗膜が充分被覆されなければ防食性能が劣化する。したがって、表面平滑性と端面被覆性はともに電着塗膜の必要とする性能である。一方で、表面平滑性は焼付硬化時に未硬化の塗膜が粘度を下げることにより流動化して平滑になるが、端面被覆性は未硬化の塗膜の粘度が下がらないようにすることによりタレを抑制し、鋭角的な端面にも塗膜が残ることが必要である。即ち、平滑性と端面被覆性は相反する性能とされている。
【0004】
電着塗膜の塗膜粘度について検討した技術としては、特開2002−285077号公報(特許文献1)があり、塗膜硬化過程における最低塗膜粘度が30〜150PaSの間にあることを特徴とする電線用電着塗料組成物が記載されている(請求項3)。特許文献1には、塗膜硬化過程における最低塗膜粘度を調整することにより、溶融時のタレがなく、エッジ被覆性などを向上させることができると記載されている。
【0005】
特開平6−65791号公報(特許文献2)には、カチオン電着塗料を塗装し形成された未硬化塗膜面に耐チッピング性プライマーを塗装し、さらに中塗りまたは上塗りを塗装して三層を同時に硬化させる方法において、カチオン電着塗料が塗膜硬化時の最小溶融粘度が104〜108cpsであることが開示されている。この塗膜は、三層を一度に焼きつけるために塗装工程が短縮できると共に、エッジカバー性にすぐれ、形成される複層塗膜は仕上がり性および耐チッピング性に優れることが開示されている。この公報では、複層塗膜における仕上り性及びエッジカバー性について開示されているが、電着塗膜自体の仕上り性およびエッジカバー性については検討されていない。一方、本発明のカチオン電着塗料を含む一般塗料において、後述する粒子を用いて塗膜の粘性を制御することが従来より行われていた。
【特許文献1】特開2002−285077号公報
【特許文献2】特開平6−65791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、上述のように、カチオン電着塗料において表面平滑性と端面被覆性という相反する性能を両立させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明はカチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られた未硬化の析出塗膜の140℃における貯蔵弾性率(G’)が80〜500dyn/cm2であり、80℃における損失弾性率(G”)が10〜150dyn/cm2である平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物を提供する。
【0008】
上記カチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、樹脂粒子および/または顔料分を含むものが好ましい。
【0009】
また、本発明は、カチオン電着塗料中に被塗物を浸漬して電圧を印加することによるカチオン電着塗膜の形成方法において、カチオン電着塗料の未硬化の析出塗膜において、140℃における貯蔵弾性率(G’)を80〜500dyn/cm2に調整し、80℃における損失弾性率(G”)を10〜150dyn/cm2に調整することによりカチオン電着塗膜の平滑性および端面被覆性を両立させる方法を提供する。
【0010】
貯蔵弾性率と損失弾性率の調整は、好ましくは架橋樹脂粒子の添加や無機顔料の配合により行われ、架橋樹脂粒子の場合は平均粒子径1.0〜3.0μmが好ましく、その添加量はカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量であるのが好ましい。
【0011】
無機顔料による貯蔵弾性率と損失弾性率の調整は、無機顔料をカチオン電着塗料組成物の固形分中10〜20重量%の量で配合するのが好ましい。
【0012】
無機顔料と架橋樹脂粒子の両方による貯蔵弾性率と損失弾性率の調整も可能であり、架橋樹脂粒子は、平均粒子径1.0〜3.0μmを有し、かつ無機顔料はカチオン電着塗料組成物の固形分中0.5〜10重量%の量で用いるのが好ましい。
【0013】
上記無機顔料と架橋樹脂粒子の両方による貯蔵弾性率と損失弾性率の調整の場合に、架橋樹脂粒子はカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量で配合されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電着塗装において析出した未硬化塗膜の動的粘弾性のうち、損失弾性率G”および貯蔵弾性率G’を同時に調整することにより平滑性と端面被覆性との両立を可能にすることができるようになった。従来技術では、動的粘弾性測定における複素粘性率η*の制御により最低溶融粘度を管理することだけで平滑性を確保してきたが、単なる粘度だけでは上記平滑性と端面被覆性との両立が不可能であることが解った。本発明では、カチオン電着塗料の未硬化塗膜の動的粘弾性においては、平滑性の制御の際、損失弾性率:G”(粘性項)を特定の範囲にコントロールすることが重要であることを見出した。また端面被覆性の制御の際、貯蔵弾性率G’(弾性項)を特定の範囲にコントロールすることが重要であることを見出した。さらに本発明では、従来相反事象とされていた電着塗膜の平滑性と端面被覆性との両立を確保する上で、損失弾性率G”を特定の範囲にコントロールし、同時に貯蔵弾性率G’を特定の範囲にコントロールすることが重要であることを見出し、これらG”とG’を独立のパラメーターであるとして、これらパラメーターを各々特定の範囲にコントロールすることにより、得られる電着塗膜の平滑性と端面被覆性の両立を達成したものである。
【0015】
本発明によれば、電着において析出した未硬化塗膜の損失弾性率と貯蔵弾性率の2つを制御するだけで、表面平滑性と端面被覆性との両立を評価することができ、カチオン電着塗料の有用な性能検査あるいは性能管理の方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
動的粘弾性とは、線形粘弾性体に振動的(周期的)な歪みまたは力を与えた場合に観測される弾性率で、振動数および温度に関係する。以下の動的粘弾性に関する記載は、講座レオロジー(日本レオロジー学会編)、第2章高分子液体のレオロジー、p31−39および高分子化学序論(岡村誠三、中島章夫、小野木重治、西島安則、東村敏延、伊勢典夫共著)、第4章高分子物質の諸性能 粘弾性、p149−155に記載されている内容を参考にしたものである。
【0017】
角速度ω(2π×周波数f)における応力及び歪みは下記式にて与えられる。
歪み γ(t)=γ0eiωt (dyn/cm2)
応力 σ(t)=σ0ei(ωt+δ) (dyn/cm2)
(ここでγ(t)は時間tにおける歪み、σ(t)は時間tにおける応力であり、γ0はt=0における歪み、σ0はt=0における応力、δは位相差を示す。)
このときの複素弾性率G*は、
G*=(σ0/γ0)eiδ=(σ0/γ0)(cosδ−i sinδ)
で表される。一般的に塗料の粘度制御因子として用いられている複素粘性率η*=G*/ω(ポイズ)は、塗料の粘性と弾性、双方の性質を併せ持つ粘弾性を定量化したものである。
【0018】
即ち、本発明では、この粘性と弾性を個別にとらえ、それぞれを制御することにより平滑性と端面被覆性との両立を可能にした。平滑性を確保するには焼き付け過程における塗料の流動を制御する必要がある。この流動には、粘性的性質がかかわっており、これは応力と歪みの関係より、下記式で表される。
損失弾性率(粘性) G”=G*sinδ(dyn/cm2)
【0019】
一方、端面被覆性の確保には、焼き付け過程において、その場に留まろうとする力を制御する必要があり、この力は、弾性的性質がかかわっており、これは応力と歪みの関係より、下記式で表される。
貯蔵弾性率(弾性) G’=G*cosδ(dyn/cm2)
【0020】
カチオン電着塗料を含む一般的な塗料の場合、焼き付け初期段階で未硬化塗膜は粘性項支配となり、損失弾性率G”の影響を大きく受ける。後期段階では未硬化塗膜が融着や擬似架橋によりゲル化点(見かけ上、端から端まで繋がった状態)を迎え、それ以降は弾性項支配となり、貯蔵弾性率G’の影響を大きく受ける。ゲル化点とは、焼付過程における粘弾性挙動の損失弾性率G”(粘性項)と貯蔵弾性率G’(弾性項)の関係が損失弾性率G”<貯蔵弾性率G’となる温度のことである。即ち、粘性項支配から弾性項支配へと変化する点を意味する。
【0021】
本発明において、ゲル化点以下の温度(80℃)の損失弾性率G”を制御する事と、ゲル化点以上の温度(140℃)の貯蔵弾性率G’を制御する事で、平滑性と端面被覆性の両立が可能となる事を見出し、本発明を完成するに到った。
【0022】
ここでは、発明を完成するに到る過程を述べることにより、本発明を説明する。まず、予備的な実験として以下の事を行った。
いくつかの塗料、具体的には顔料などを配合した従来の塗料系、それらを配合しないもの、種々の架橋樹脂粒子を配合したもので粘弾性挙動を測定した。塗料は、温度が上がるにつれて、40〜80℃にかけて粘度が下がり始め、また80〜100℃ぐらいの間では少し粘度が上昇して、100℃を越えると大きく粘度が減少してフローする。このフロー後に硬化反応が開始し始めて粘度が再び上昇し始め150℃前後まで徐々に上がり始め、その後急激に粘度が上昇して硬化が完結する。それを確認しつつ塗料の動的粘弾性を調べるために、5種類の塗料について株式会社ユービーエムのレオゾール(Rheosol)−G3000を用いて測定し、歪み0.5度、周波数0.02Hzで温度上昇率2℃/分の条件で、加えた応力値σ(t)に対する歪み値γ(t)および応力と歪みの位相差δを測定した。得られた応力値σ(t)、歪み値γ(t)および位相差δの関係から前述式にて貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)および複素粘性率(η*)を算出し、それぞれを図1〜図3に示す。図1〜3中において用いた塗料は次のようなものである:『STD』はPN−310(日本ペイント社製:カチオン電着塗料)、『顔料free』はPN−310から顔料成分を除いたもの(PWC=0%)、『樹脂粒子1』に関しては『顔料free』に架橋樹脂粒子(平均粒子径1〜3μm)を15重量%配合したもの、『樹脂粒子2』に関しては『顔料free』に架橋樹脂粒子(平均粒子径100nm)を5重量%配合したもの、『樹脂粒子3』に関しては『顔料free』に『樹脂粒子2』で用いた架橋樹脂粒子とは異なる架橋樹脂粒子(平均粒子径100nm)を10重量%配合したものである。
【0023】
この図1〜図3をみると明らかなように、各塗料によって、その挙動がかなり違うことがわかる。大まかには、三つの態様(40〜80℃、80〜100℃、および100℃以上)に分かれるが、塗料の配合、特に粒子等の存在により、動的粘弾性の挙動が大きく変化することも5種類の塗料によって描かれるグラフが異なることも解る。従って、配合を変化させることにより、粘弾性の挙動を最適にコントロールすることも可能であるということが判る。
【0024】
特に、図1〜図3を見てそれぞれの塗料間において大きく異なるのは、80℃付近の粘弾性挙動および140℃付近の粘弾性挙動というのが基準となると理解できる。
【0025】
この基準に基づいて、更に次の実験を行った。PN−310(日本ペイント(株)社製カチオン電着塗料)およびPN−310塗料の無機顔料成分量を変更したもの、PN−310から無機顔料成分を除いたものおよびその塗料に架橋樹脂粒子の種類、配合量を変更したいくつかの種類を作成し、それぞれの粘性挙動を測定した。それらの粘弾性の結果から、各温度での変化が判りやすいように図4には80℃の三つの粘弾性挙動、即ちG’値と電着肌(図4A)、η*値と電着肌(図4B)およびG”値と電着肌(図4C)をすべて表示し、図5には同じく140℃の三つの粘弾性挙動、即ちG’値と電着肌(図5A)、η*値と電着肌(図5B)およびG”値と電着肌(図5C)のすべてを表示した。尚、電着肌は表面粗さ(Ra)で表した。ここで評価した電着肌とは、後述する電着塗膜の外観、即ち平滑性を意味し、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)の測定値で表示されるものをいう。即ち、前述の平滑性を電着肌で見ることにより、この電着肌と粘弾性挙動との関係を見たのである。
【0026】
この図4および図5の挙動から明らかなように、各測定点および測定塗料の粘弾性変化と電着肌との関係において一定の関係を持っていると認められるのが80℃の電着肌との関係である(図4C参照)。また、同じく端面被覆性と粘弾性挙動の三つの挙動を測定したものを図6A〜Cおよび図7A〜Cに同様に記載する。この図6および図7から明らかなように140℃の貯蔵弾性率(G’)と端面被覆性との関係が相関関係を示すことがわかる(図7A参照)。すなわち、粘度の値の変化と電着肌(平滑性)あるいは端面被覆性とが相関関係を持っているということになる。ここで、上記の端面被覆性は、後述の評価方法により求められたものである。尚、図6、図7で表示する「被覆性」とは、ここでいう「端面被覆性」と同意義である。
【0027】
この測定結果から本発明では、電着肌(平滑性)に対しては80℃の損失弾性率(G”)を用い、端面被覆性に関しては140℃の貯蔵弾性率(G’)を基準として用いればよいことを導きだした。このことにより本発明を完成したのである。また上記図4Aおよび図7Aを参考にすると貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の好ましい範囲を選択することができる。すなわち、140℃におけるG’は図7Aを参考にすると、80〜500dyn/cm2が好適であり、80℃におけるG”は図4Cを参考にすると10〜150dyn/cm2(電着肌Raは小さい方が平滑性がよい)を選択することができる。好ましくは、貯蔵弾性率(G’)は90〜500dyn/cm2であり、より好ましくは100〜500dyn/cm2である。また、80℃における損失弾性率(G”)が好ましくは10〜120dyn/cm2であり、より好ましくは10〜100dyn/cm2である。
【0028】
貯蔵弾性率G’の望ましい下限を下回ると、得られる電着塗膜の端面被覆性が悪化する恐れがあり、望ましい上限を上回ると平滑性が低下する恐れがある。損失弾性率G”の望ましい加減を下回ると、平滑性は向上するものの得られる電着塗膜の端面被覆性が悪化する恐れがあり、望ましい上限を上回ると平滑性が低下する恐れがある。
【0029】
ここで、上記で述べた貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”は未硬化の析出塗膜の弾性率であるが、その未硬化とは、カチオン電着塗料を電着塗装して得られた析出塗膜が、未だ焼き付けして硬化されていない状態を言う。
【0030】
カチオン電着塗料用組成物は、上述のように架橋樹脂粒子および/または無機顔料を添加もしくは配合させるが、これら以外に水性媒体、水性媒体中に分散するかまたは溶解したカチオン性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂、中和酸、有機溶媒を含有するものである。
【0031】
上記の粘弾性挙動を調整するためには、第1の方法として架橋樹脂粒子を添加する方法がある。この架橋樹脂粒子の平均粒子径は1.0〜3.0μmが好ましい。この粒子径が1.0μmより小さいと、表面積の割合が増大し、カチオン電着塗料組成物に含まれているバインダー樹脂成分であるカチオン性エポキシ樹脂等との相互作用が増大し、析出塗膜の粘度が急上昇するため、上述のような粘弾性挙動の調整が難しくなる。一方、粒子径が3.0μmより大きくなると、電着塗料の無撹拌時の沈降や電着塗料時における水平面への粒子の降り積もりによる平滑性の低下が起こる。ここでの平均粒子径は、以下の方法により測定することができるものである。
【0032】
樹脂粒子の平均粒子径を、日機装(株)社製、MICROTRAC9340UPAを用いて、粒状粒子透過測定法にて測定した。また、この測定器において、樹脂粒子の粒度分布を測定し、その測定値から累積相対度数F(x)=0.5における平均粒子径を算出した。これらの測定および算出においては、溶媒(水)の屈折率1.33、樹脂分の屈折率1.59を用いた。
【0033】
架橋樹脂粒子は、架橋構造を持っていることが必須である。架橋構造が無い場合、上記140℃における貯蔵弾性率G’の値が80dyn/cm2以下となり、端面被覆性を確保することができず好ましくない。架橋樹脂粒子はカチオン電着塗料組成物の樹脂固形分中3〜15重量%の量で用いるのが好ましい。3重量%より少ないと、平滑性と端面被覆性の両立が難しくなり、15重量%を超えると、腐食性などの塗膜性能の低下を引き起こす恐れがある。ここで、上記「樹脂固形分」とは、カチオン電着塗料組成物に含まれている、架橋樹脂粒子を含む全ての樹脂固形分中を意味する。
【0034】
架橋樹脂粒子の平均粒子径が1.0〜3.0μmの大きさであることを考慮すると、懸濁重合により製造されることが好ましい。乳化重合などその他の方法で製造することも、粒径が上記範囲を満足すれば、可能であるが、粒径を所望の範囲にそろえる観点から懸濁重合が好適である。
【0035】
上記架橋樹脂粒子としては、特に限定されず、例えば、エチレン性不飽和単量体を主体として得られた架橋構造を有する樹脂からなる樹脂粒子、内部架橋したウレタン樹脂からなる樹脂粒子、内部架橋したメラミン樹脂からなる微小樹脂粒子等を挙げることができる。
【0036】
上記エチレン性不飽和単量体を主体として得られた架橋構造を有する樹脂としては特に限定されず、例えば、架橋性単量体を必須成分とし、エチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物を、水性媒体中で懸濁重合させて調製した水分散体、上記水分散体を溶媒置換等の方法により得られる内部架橋した樹脂粒子、又は、脂肪族炭化水素等の低SP有機溶媒又はエステル、ケトン、アルコール等の高SPである有機溶媒のようにモノマーは溶解するが重合体は溶解しない非水性有機溶媒中で架橋性単量体を必須成分とし、エチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物を共重合させて得られる内部架橋した樹脂粒子を分散するNAD法又は沈澱析出法等の方法によって得られる内部架橋した樹脂粒子等を挙げることができる。
【0037】
上記の粘性挙動を調整する第2の方法としては、無機顔料をカチオン電着塗料組成物の固形分中10〜20重量%(以下、「PWC」と呼ぶこともある。)の量で用いる方法がある。従来のカチオン電着塗料では、上記PWCを20重量%を越え、25重量%以下としており、平滑性および端面被覆性の両立を図ることができなかったが、このPWCを10〜20重量%の範囲で用いることにより、これらの性能の両立を図ることができる。ここでPWCとは、カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分、顔料成分全ての固形分に対する割合をいう。無機顔料のPWCが10重量%未満であると、樹脂の含有量が多くなり、温度の上昇により樹脂が軟化するため、目的とする高粘度を得ることができず、上記の粘性挙動を調整することができない。一方、PWCが20重量%を超えると、逆に顔料が多くなり、樹脂による融着効果を得ることができず、その結果高粘度の発現がされず、粘弾性の制御が困難となる。尚、無機顔料では、上記のようにPWCが粘性挙動に影響を与えるが、その粒子径は粘性挙動にさほど影響しない。
【0038】
ここで用いる無機顔料としては、電着塗料組成物に通常用いられている顔料であれば、特に制限されない。顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、ビスマス系化合物、セリウム系化合物のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0039】
上述の粘弾性挙動を調整する第3の方法としては、上記架橋樹脂粒子と無機顔料を併用する方法である。この場合、上記架橋樹脂粒子の平均粒子径は1.0〜3.0μmであり、その用いる量は塗料固形分中に3〜15重量%である。一方、無機顔料の使用量はカチオン電着塗料組成物の固形分中(PWC)0.5〜10重量%の範囲に減少させることができる。その下限値としては好ましくは1重量%、更に好ましくは2重量%である。一方、上限値としては、好ましくは7重量%、更に好ましくは5重量%である。10重量%を超える量で使用すると顔料が必要以上に多くなり、顔料の沈降による水平外観の悪化となる恐れがある。また、0.5重量%未満にすると、色隠蔽性が低下する恐れがある。
【0040】
無機顔料および架橋樹脂粒子の両方を用いることにより、無機顔料の量を更に減少させることができ、その結果電着塗料の固形分の沈降防止のためのエネルギーや労力の削減が期待できる。また、無機顔料を用いずに架橋樹脂粒子だけを用いて粘性挙動を調整すると、上記の固形分の沈降防止のためのエネルギーや労力を大幅に減少させることができる。また無機顔料を含まないか又は含んでいても極めて少量の場合には、電着塗装後に被塗物の水洗が行われるのであるが、水洗工程が大きく短縮され、設備の簡略化や資源の使用の削減となる大きな効果がえられる。
【0041】
次に、一般的なカチオン電着塗料組成物に用いられる成分を説明する。
【0042】
カチオン性エポキシ樹脂
本発明で用いるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0043】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0044】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0045】
【化1】
【0046】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0047】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0048】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0049】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0050】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0051】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数の種類を併用して用いてもよい。
【0052】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれであってもよい。
【0053】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0054】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0055】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0056】
ブロック剤としては、通常使用されるε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等を用いることができる。
【0057】
架橋樹脂粒子を電着塗料の成分として用いる場合、その電着塗料を製造するどの段階で配合してもよいが、好ましくは製造されたカチオン電着塗料に直接添加する方法が良い。
【0058】
無機顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に無機顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。無機顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0059】
顔料分散ペーストは、無機顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0060】
一般に、顔料分散樹脂は、無機顔料100質量部に対して固形分比20〜100質量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0061】
本発明で使用されるカチオン電着塗料組成物は、上記成分の他に、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩を触媒として含んでもよい。これらは、硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。触媒の濃度は、電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂と硬化剤合計の100固形分質量部に対して0.1〜6質量部であるのが好ましい。
【0062】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上に述べたカチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、および必要に応じて架橋樹脂粒子および/または顔料分散ペーストおよび触媒を、水性媒体中に分散させることによって調製することができる。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂を中和して分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン等の無機酸または有機酸である。本明細書中における水性媒体とは、水か、水と有機溶剤との混合物である。水としてイオン交換水を用いるのが好ましい。使用しうる有機溶剤の例としては炭化水素類(例えば、キシレンまたはトルエン)、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)またはそれらの混合物が挙げられる。
【0063】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。中和酸の量はカチオン性エポキシ樹脂のカチオン性基の少なくとも20%、好ましくは30〜60%を中和するのに足りる量である。
【0064】
有機溶媒はカチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤等の樹脂成分を調製する際に溶剤として必ず必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。
【0065】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0066】
カチオン電着塗料組成物は、上記成分のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤など、通常使用される塗料用添加剤を含むことができる。
【0067】
カチオン電着塗料組成物の塗装方法
上記カチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0068】
カチオン電着塗料組成物の電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0069】
電着塗装工程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する工程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる工程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0070】
電着塗膜の膜厚は、一般に5〜25μmの範囲で形成することができる。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分となる恐れがある。また、電着塗膜の膜抵抗は膜厚15μmにおいて1000〜1600kΩ/cm2であることが好ましい。塗膜の膜抵抗が1000kΩ/cm2未満であると十分な電気抵抗が得られていない状態であり、つきまわり性に劣る恐れがあり、また1600kΩ/cm2を超えると塗膜外観が劣る恐れがある。塗膜の膜抵抗は、より好ましくは1100〜1500kΩ/cm2である。
【0071】
塗膜の膜抵抗値は、最終塗装電圧(V)における、塗膜の残余電流値(A)より、下記の式にて求められる。
膜抵抗値(FR)=V/A
【0072】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化し、硬化電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0074】
製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(コロネートHX:日本ポリウレタン(株)製)199部とメチルイソブチルケトン32部、およびジブチルスズジラウレート0.03部を秤りとり、攪拌、窒素をバブリングしながら、メチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ70℃まで昇温した。そのあと1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。その後n−ブタノール0.74部、メチルイソブチルケトン39.93部を加え、不揮発分80%とした。
【0075】
製造例2 アミン変性エポキシ樹脂エマルションの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、2,4/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20wt%)71.34部と、メチルイソブチルケトン111.98部と、ジブチルスズジラウレート0.02部を秤り取り、攪拌、窒素バブリングしながらメタノール14.24部を滴下ロートより30分かけて滴下した。温度は室温から発熱により60℃まで昇温した。その後30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル46.98部を滴下ロートより30分かけて滴下した。発熱により70〜75℃へ昇温した。30分間反応を継続した後、ビスフェノールAプロピレンオキシド(5モル)付加体(三洋化成工業(株)製BP−5P)41.25部を加え、90℃まで昇温し、IRスペクトルを測定しながらNCO基が消失するまで反応を継続した。
【0076】
続いてエポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製YD−7011R)475.0部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、MIBKとの共沸により反応系から水を除去した。125℃まで冷却した後、ベンジルジメチルアミン1.107部を加え、脱メタノール反応によるオキサゾリドン環形成反応を行った。反応はエポキシ当量1140になるまで継続した。
【0077】
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン24.56部,ジエタノールアミン11.46部およびアミノエチルエタノールアミンケチミン(78.8%メチルイソブチルケトン溶液)26.08部を加え、110℃で2時間反応させた。その後エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル20.74部とメチルイソブチルケトン12.85部を加えて希釈し、不揮発物82%に調節した。数平均分子量(GPC法)1380、アミン当量94.5meq/100gであった。
【0078】
別の容器にイオン交換水145.11部と酢酸5.04部を秤り取り、70℃まで加温した上記アミン変性エポキシ樹脂320.11部(固形分として75.0部)および製造例1のブロックイソシアネート硬化剤190.38部(固形分として25.0部)の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。そのあとイオン交換水を加え固形分36%に調整した。
【0079】
製造例3 顔料分散樹脂の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を秤り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた樹脂ワニスはイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。
【0080】
製造例4 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例3で得られた顔料分散樹脂ワニスを120部、カオリン100部、二酸化チタン92部、ジブチルスズオキシド8.0部およびイオン交換水184部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。(固形分48%)
【0081】
製造例5 架橋樹脂粒子の製造
反応容器にブチルセロソルブ120部を入れ120℃に加熱攪拌した。ここにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2部およびブチルセロソルブ10部を混合した溶液と、グリシジルメタクリレート15部、2−エチルヘキシルメタクリレート50部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20部およびn−ブチルメタクリレート15部からなるSP値が10.1であるモノマー混合物とを3時間で滴下した。30分間エージングした後、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5部およびブチルセルソルブ5部を混合した溶液を30分で滴下し、2時間のエージングを行った後、冷却した。ここにN,N−ジメチルアミノエタノール7部および50%乳酸水溶液15部を加えて80℃で加熱攪拌することにより4級化を行った。酸価が1以下になり、粘度上昇が止まった時点で加熱を停止し、アンモニウム基を有するアクリル樹脂を得た。このアンモニウム基を有するアクリル樹脂の1分子あたりのアンモニウム基の個数は6.0個であった。
【0082】
反応容器に、アンモニウム基を有するアクリル樹脂120部と脱イオン水270部とを加え、75℃で加熱攪拌した。ここに2,2'−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)1.5部の酢酸100%中和水溶液を5分かけて滴下した。5分間エージングした後、メチルメタクリレート30部を5分かけて滴下した。さらに5分間エージングした後、アンモニウム基を有するアクリル樹脂170部と脱イオン水250部とを混合した溶液にメチルメタクリレート170部、スチレン40部、n−ブチルメタクリレート30部、グリシジルメタクリレート5部およびネオペンチルグリコールジメタクリレート30部からなるα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を加え攪拌して得られたプレエマルションを40分かけて滴下した。60分間エージングした後、冷却し、架橋樹脂粒子1の分散液を得た。得られた架橋樹脂粒子の分散液の不揮発分は35%、pHは5.0、平均粒子径は100nmであった。
【0083】
製造例6 非架橋樹脂粒子の製造
スチレン104部、2−エチルヘキシルメタクリレート20部、ラウリルメタクリレート76部を混合した溶液にラウロイルパーオキサイド2部を溶解した。これを、ポリビニルアルコール(ゴウセノールGH−17、日本合成社製)8部を脱イオン水に溶解してなる水溶液497部に攪拌しながら添加し、ホモミックラインフロー30型(特殊機化工業社製の高速分散機)3500rpmで懸濁液を製造した。
【0084】
この懸濁液を通常のバッチ式反応容器を用いて攪拌速度150rpm、反応温度81〜83℃で5時間かけて懸濁重合を行い、冷却後、得られた分散液を200メッシュ網で濾過し、非架橋樹脂粒子を得た。得られた非架橋樹脂粒子の分散液の不揮発成分は30%、平均粒子径3μmであった。
【0085】
実施例1
製造例2で得られたエマルション2222部及び製造例4で得られた顔料分散ペースト417部と、イオン交換水2361部とを混合して、PWC=16.5%、架橋樹脂粒子0重量%、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0086】
比較例1
製造例2で得られたエマルション738部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4598部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子0重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0087】
比較例2
製造例2で得られたエマルション702部及び製造例5で得られた架橋樹脂粒子38部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4596部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子5重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0088】
比較例3
製造例2で得られたエマルション665部及び製造例5で得られた架橋樹脂粒子76部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4596部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子10重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0089】
比較例4
製造例2で得られたエマルション665部及び製造例6で得られた非架橋樹脂粒子89部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4582部とを混合して、PWC=0%、非架橋樹脂粒子10重量%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0090】
比較例5
製造例2で得られたエマルション389部及び製造例4で得られた顔料ペースト125部と、イオン交換水3486部とを混合して、PWC=25%、架橋樹脂粒子0%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0091】
実施例2
製造例2で得られたエマルション702部、架橋樹脂粒子(メタクリル酸メチルを主成分とする架橋樹脂粒子;東洋紡績(株)社製、タフチック(登録商標)F−200)42部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4592部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子5%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0092】
実施例3
製造例2で得られたエマルション665部、架橋樹脂粒子(メタクリル酸メチルを主成分とする架橋樹脂粒子;東洋紡績(株)社製、タフチック(登録商標)F−200)84部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4587部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子10%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0093】
実施例4
製造例2で得られたエマルション628部、架橋樹脂粒子(メタクリル酸メチルを主成分とする架橋樹脂粒子;東洋紡績(株)社製、タフチック(登録商標)F−200)127部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4581部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子15%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0094】
実施例5
製造例2で得られたエマルション628部、架橋樹脂粒子(スチレンモノマーを主成分とする架橋樹脂粒子;綜研化学(株)社製、ケミスノーSX500H、平均粒子径3μm)40部及びジブチルスズオキシド4部と、イオン交換水4668部とを混合して、PWC=0%、架橋樹脂粒子15%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0095】
実施例6
製造例2で得られたエマルション567部、製造例4で得られた顔料分散ペースト54部及び架橋樹脂粒子(スチレンモノマーを主成分とする架橋樹脂粒子;綜研化学(株)社製、ケミスノーSX500H、平均粒子径3μm)40部と、イオン交換水4739部とを混合して、PWC=8%、架橋樹脂粒子15%、固形分5重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0096】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、動的粘弾性における80℃での損失弾性率および140℃での貯蔵弾性率、平滑性および端面被覆性を以下の方法により評価を行なった。
【0097】
電着塗膜の損失弾性率および貯蔵弾性率の測定
上記で得られたカチオン電着塗料にブリキ板を浸漬し、焼付後の膜厚が15μmとなるような塗装電圧で塗装して電着塗膜を形成し、これを水洗して余分な電着塗料組成物を取り除いた。次いで水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐにその未硬化状態の塗膜片を取り出して、試料を調製した。こうして得られた試料を、回転型動的粘弾性測定装置であるレオゾール(Rheosol)−G3000(株式会社ユービーエム製)を用いて、動的粘弾性における温度依存測定を、設定条件:歪み0.5deg、周波数0.02Hzで行った。調製した試料をセットし、測定温度を50℃に保った。測定開始後、コーンプレート内で電着塗膜が均一に広がった状態となった時点で塗膜の粘度の測定を行った。
【0098】
電着塗膜の外観(平滑性)評価
電着塗膜の外観評価は、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)を測定することにより行った。上記で得られたカチオン電着塗料にリン酸亜鉛処理した冷間圧延鋼板を浸漬し、焼付後の膜厚が15μmとなるような塗装電圧で塗装して得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で10分間焼付した。その後、この硬化電着塗膜のRa値を、JIS−B0601に準拠し、評価型表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値を得た。結果を表1、2に示す。このRa値が小さい程、凹凸が少なく、塗膜外観が良好であるといえる。
【0099】
端面被覆性評価方法
カチオン電着塗料組成物にリン酸亜鉛処理を施したカッターナイフ(OLFA製:LB−50K)の被塗物を浸漬し、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる。また上記電着条件はカッターナイフに析出膜厚が15μmとなる様に調整した印加電圧及び時間とした。得られた電着塗膜を水洗した後、160℃にて10分焼き付ける事により、硬化電着塗膜を得た。
【0100】
電着塗膜が被覆したカッターナイフの中心を折り、カッターナイフ先端(鋭角部)から30ミクロン部位に被覆した電着塗膜の膜厚をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製:VH−8000)にて測定した。図8には、カッターナイフの先端から30ミクロン部位を模式的に示した。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表1から明らかなように、動的粘弾性の損失弾性率(G”)および貯蔵弾性率(G’)を所定の範囲にしたものは、平滑性および端面被覆性において優れた性能を示すことがわかった。具体的には、比較例1は貯蔵弾性率(G’)が本発明の範囲を外れており、端面被覆性がよくない。比較例2は製造例5の架橋樹脂粒子を配合したものであるが、損失弾性率(G”)および貯蔵弾性率(G’)共に本発明の範囲を外れており、平滑性も端面被覆性もよくない。比較例2と同様に、比較例3も製造例5の架橋樹脂粒子を配合したものであるが、ここで用いた架橋樹脂粒子の平均粒子径が100nmと小さく損失弾性率(G”)の値が本発明の範囲を外れるものであり、平滑性が不足する。比較例4では非架橋粒子を配合するもので、貯蔵弾性率(G’)の値が本発明の範囲を外れるもので、端面被覆性が劣る結果となる。更に比較例5は、樹脂粒子ではなく無機顔料を含むが、損失弾性率(G”)において本発明の範囲を外れるものであり、その結果平滑性がよくない。また実施例1では、製造例4の顔料を含むものであり、本発明の範囲に全ては入り、平滑性も端面被覆性も優れている。実施例2〜6では、特定の粒子を配合することにより、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を本発明の範囲内にコントロールするもので、平滑性も端面被覆性も共に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】5種類の塗料の動的粘弾性における損失弾性率(G”)値の挙動を示すグラフである。
【図2】5種類の塗料の動的粘弾性における損失弾性率(G’)値の挙動を示すグラフである。
【図3】5種類の塗料の動的粘弾性における複素粘性率(η*)値の挙動を示すグラフである。
【図4A】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G’)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図4B】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(η*)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図4C】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G”)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図5A】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G’)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図5B】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(η*)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図5C】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G”)と電着肌との関係を示すグラフである。
【図6A】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G’)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図6B】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(η*)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図6C】いくつかの塗料の80℃での動的粘弾性(G”)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図7A】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G’)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図7B】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(η*)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図7C】いくつかの塗料の140℃での動的粘弾性(G”)と端面被覆性との関係を示すグラフである。
【図8】カッターナイフの先端から30ミクロン部位を模式的に示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られた未硬化の析出塗膜の140℃における貯蔵弾性率(G’)が80〜500dyn/cm2であり、80℃における損失弾性率(G”)が10〜150dyn/cm2である平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
カチオン電着塗料組成物が、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、架橋樹脂粒子および/または無機顔料分を含む請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電圧を印加することによるカチオン電着塗膜の形成方法において、カチオン電着塗料の未硬化の析出塗膜について、140℃における貯蔵弾性率(G’)を80〜500dyn/cm2に調整し、80℃における損失弾性率(G”)を10〜150dyn/cm2に調整することによりカチオン電着塗膜の平滑性および端面被覆性を両立させる方法。
【請求項4】
平均粒子径が1.0〜3.0μmの架橋樹脂粒子をカチオン電着塗料組成物に添加することにより、貯蔵弾性率と損失弾性率を調整する請求項3記載の方法。
【請求項5】
架橋樹脂粒子がカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量で添加する請求項4記載の方法。
【請求項6】
無機顔料をカチオン電着塗料組成物の固形分中10〜20重量%の量で用いて、貯蔵弾性率と損失弾性率を調整する請求項3記載の方法。
【請求項7】
カチオン電着塗料組成物に、平均粒子径が1.0〜3.0μmの架橋樹脂粒子を添加し、かつ無機顔料をカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中0.5〜10重量%の量で配合させることにより、貯蔵弾性率と損失弾性率を調整する請求項3記載の方法。
【請求項8】
架橋樹脂粒子がカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量で添加する請求項7記載の方法。
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物であって、該カチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られた未硬化の析出塗膜の140℃における貯蔵弾性率(G’)が80〜500dyn/cm2であり、80℃における損失弾性率(G”)が10〜150dyn/cm2である平滑性および端面被覆性に優れたカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
カチオン電着塗料組成物が、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、架橋樹脂粒子および/または無機顔料分を含む請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電圧を印加することによるカチオン電着塗膜の形成方法において、カチオン電着塗料の未硬化の析出塗膜について、140℃における貯蔵弾性率(G’)を80〜500dyn/cm2に調整し、80℃における損失弾性率(G”)を10〜150dyn/cm2に調整することによりカチオン電着塗膜の平滑性および端面被覆性を両立させる方法。
【請求項4】
平均粒子径が1.0〜3.0μmの架橋樹脂粒子をカチオン電着塗料組成物に添加することにより、貯蔵弾性率と損失弾性率を調整する請求項3記載の方法。
【請求項5】
架橋樹脂粒子がカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量で添加する請求項4記載の方法。
【請求項6】
無機顔料をカチオン電着塗料組成物の固形分中10〜20重量%の量で用いて、貯蔵弾性率と損失弾性率を調整する請求項3記載の方法。
【請求項7】
カチオン電着塗料組成物に、平均粒子径が1.0〜3.0μmの架橋樹脂粒子を添加し、かつ無機顔料をカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中0.5〜10重量%の量で配合させることにより、貯蔵弾性率と損失弾性率を調整する請求項3記載の方法。
【請求項8】
架橋樹脂粒子がカチオン電着塗料組成物の塗料樹脂固形分中3〜15重量%の量で添加する請求項7記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【公開番号】特開2008−106134(P2008−106134A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290003(P2006−290003)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】
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