説明

カチオン電着塗装方法

【課題】いろいろな形状や大きさの被塗物(特に、部品)が搬送されてくるカチオン電着塗装において、電着塗膜の膜厚が均一にすること。
【解決手段】実効電圧110〜200Vで膜厚増加率が0.01〜0.04μm/Vの範囲を有するカチオン電着塗料を用いてカチオン電着塗装する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗装方法、特に大きさや形状が異なる部品が混在したままカチオン電着塗装を施しても各部品間で膜厚の差が少ないカチオン電着塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物のみならず、小さな部品の防錆性下塗り塗装に汎用されている。
【0003】
電着塗装で小さな部品を塗装する場合には、図1に模式的に示すように、塗装される部品(被塗物)3がハンガー4と呼ばれる吊り掛け手段に吊り下げられて、搬送手段5により移動し、電着浴1の電着塗料2に浸漬され、その間に部品3と対極に電圧が印加されて電着塗装が施される。
【0004】
大きな被塗物ではなく、小さな部品の電着塗装する場合には、一般的に、上記ハンガー4にいろんな形状あるいは大きさの部品が順次吊り下げられて塗装が施されていく。電着塗装は、理想的には、どのような形状のどのような大きさの部品が被塗物として電着浴に浸漬されても、塗装された膜厚が均一である筈である。しかし、実際には、被塗物の吊り掛け位置の差、通電時間の差、浸漬の深さの差、あるいは被塗物の塗装面積の差などいろいろな条件によって、塗装膜厚に差が生じる。その膜厚の差は、各被塗物間でもあるいは1つの被塗物内でも生じる。
【0005】
現在は、上述のように、電着塗膜の膜厚の差が生じるのを考慮に入れて、一番薄膜になる部分の膜厚が所定の膜厚になるように電着時間や通電量などをコントロールしている。そのため、条件のよい部分は、逆に過剰膜厚になる。
【0006】
電着塗装において、膜厚を均一化することについては、多くの検討が成されている。例えば、特開平9−249994号公報(特許文献1)には、被塗物上に異種金属接合部がある場合でも、膜厚差を少なくするために、電着浴に被塗物が入槽する際の電流集中をパルス電圧の印加により軽減する方法が記載されている。この方法では、装置の複雑化は避けられず、しかもたくさんの大きさや形状の違う部品が1つの電着浴で塗装される場合には対応できない。
【0007】
特開2004−83824号公報(特許文献2)は、袋構造を有する被塗物の外板膜厚と内板膜厚の差のない均一な塗装性を得るために、特定の組成のカチオン電着塗料を用いることを開示している。この方法は、内板部と外板部の膜厚差のみを目的としているので、いろんな形状あるいは大きさの部品が搬送されてくる部品塗装の膜厚制御には対応することができない。
【0008】
特開平7−18495号公報(特許文献3)には、電着浴に浸漬した電極からの距離に応じて塗料の析出し難い部位と、析出し易い部位が存在する場合でも被塗物の各部位における塗膜の膜厚の均一化を図るために、析出し難い部分付近で塗料温度を高めに設定し、析出し易い部分で塗料温度を低めに設定することが提案されている。このような液温の部分的な制御は技術的に複雑であると同時に、電極からの距離のみに依存しているため、被塗物の形態に応じた膜厚の制御はできない。
【特許文献1】特開平9−249994号公報
【特許文献2】特開2004−83824号公報
【特許文献3】特開平7−18495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、いろいろな形状や大きさの被塗物(特に、部品)が搬送されてくるカチオン電着塗装において、電着塗膜の膜厚が均一になることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するためにカチオン電着塗装方法を検討し、本発明をなすに到った。即ち、本発明は、実効電圧110〜200Vで膜厚増加率が0.01〜0.04μm/Vの範囲を有するカチオン電着塗料を用いてカチオン電着塗装する方法を提供する。
【0011】
上記被塗物は表面積1〜30mを有し、表面積の異なる被塗物が混流されて塗装されていく。
【0012】
上記カチオン電着塗料は被塗物に対して厚さ15μmに電着された塗膜の膜抵抗700〜1,800KΩ・cmを有するのが好ましい。
【0013】
本発明は、また、実効電圧110〜200Vで膜厚増加率を0.01〜0.04μm/Vの範囲に制御したカチオン電着浴内でカチオン電着塗装することを特徴とする塗装物間の塗装膜厚を均一にするカチオン電着塗装方法を提供する。
【0014】
その場合も、被塗物は表面積1〜30mを有し、表面積の異なる被塗物が混流されて塗装されて塗装されていくのが好ましい。
【0015】
また、被塗物間の塗装膜厚の偏差は、3μm以内であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカチオン電着塗装方法を用いると、多種多様な被塗物(特に、部品)が混合されてカチオン電着塗料浴に搬送されてくる場合において、各被塗物間または各塗装内で膜厚の差が余り生じない。
【0017】
従来のカチオン電着塗装では、電着塗膜の膜厚が均一ではなく、膜厚の薄い部分に十分な電着塗膜が形成されるように電着塗装条件を選択していたので、他の部分では必然的に膜厚が厚くなっていた。本発明では、カチオン電着塗膜の膜厚の均一化がはかれるので、膜厚が厚くなった部分が少なくなり、付着する塗料の量が削減されるので、省資源化も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、実効電圧が110V以上、具体的には110〜200Vの範囲内では、保持時間(即ち、電着塗装を行っている時間)を一定にした場合に実効電圧と膜厚が相関関係、即ち直線的関係を示すことを発見したことに基づいている。実効電圧とは、印可された電圧の中で、実際に電着塗膜の形成に利用される電圧であって、表面電位計により測定することができる。印可電圧は、電着塗膜の形成に作用する実効電圧の他に、水溶液の抵抗や析出塗膜の抵抗により消費される。
【0019】
実効電圧について検討を重ねた結果、実効電圧が110Vになるまでは、析出・塗着する電着塗膜の膜厚は変化するが、110Vを超える場合に、保持時間を一定にすると、実効電圧と膜厚が直線的相関関係を示すので、その傾き(膜厚増加率)を0.01〜0.04μm/V、好ましくは0.01〜0.02μm/Vと小さくすることにより、カチオン電着塗装により多くの部品が流れてくる混流塗装ラインで、各被塗物間あるいは各被塗物内での塗装膜厚が均一化するのである。膜厚増加率が0.01μm/Vより小さいと、膜の形成や膜厚の増大が起こらなくなる。また、膜厚増加率が0.04μm/Vより大きいと実効電圧の変化が膜厚に大きく影響し、その結果膜厚の均一性が崩れてきて、各被塗物間あるいは各被塗物内での膜厚に相違が生じてくる。
【0020】
膜厚増加率は、使用するカチオン電着塗料に応じて変化する。具体的には、塗料に配合される溶剤量により膜厚増加率を調整することができる可能性があるが、必ずしもそれのみではなく、塗装浴の形態、材質、電極の形態など他の要因でも変化すると思われる。従って、膜厚増加率は実際に実効電圧が110Vを超える様にして、保持時間を一定にした場合の実効電圧と析出膜厚との相関関係をプロットして導き出すのが実際的である。
【0021】
実際にカチオン電着塗装に用いられる実効電圧は、好ましくは110〜220V、より好ましくは150〜200V、最も好ましくは180〜200Vである。110Vより小さい電圧では、前述のように膜厚の変化が大きく、一定化していない。また、逆に220Vを超える実効電圧は、GA不良やガスピン不良の欠点を有する。
【0022】
実効電圧を変化させるためには、印可電圧を変化して調節する必要がある。しかし、実効電圧と実際に印加される印加電圧とは前述のように差があり、実際には、実効電圧は印加電圧より20〜30%の低下があるので、実効電圧として110Vが必要なときは、印可電圧を150Vにすることで調整しても良い。または、実効電圧の測定値から、印可電圧を自動的に調節するようにしてもよい。実効電圧の測定部位は、ハンガーに吊した被塗物の中心部分、具体的には、実施例の図3(説明は後述する。)に示すハンガーに吊した所定の大きさの被塗物(鋼板)の一番中心の被塗物(5番の鋼板)で測定する。
【0023】
被塗物については、後述するが、本発明では被塗物の表面積が1〜30mであるのが好ましい。より好ましくは10〜30m、もっとも好ましくは10〜15mである。1mより小さいと、過剰膜厚となる傾向があり、30mより大きいと、膜厚が不足する傾向にある。
【0024】
本発明で使用されるカチオン電着塗料組成物は、通常、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解した、バインダー樹脂、中和酸、有機溶媒、顔料、金属触媒等添加剤を含有する。バインダー樹脂は、アミン変性エポキシ樹脂、スルホニウム変性エポキシ樹脂(任意成分)、ブロックポリイソシアネート硬化剤を含む。水性媒体としては、イオン交換水等が一般に用いられる。
【0025】
アミン変性エポキシ樹脂
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物には、アミンで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれる。このアミン変性エポキシ樹脂は、例えば、特開昭54−4978号、同昭56−34186号などに記載されているような従来公知のものでよい。アミン変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0026】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)などがある。
【0027】
特開平5−306327号公報第0004段落の式、化3に記載のような、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をアミン変性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0028】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0029】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されている。
【0030】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0031】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩が含まれる。かかるアミンの中でも2級アミンが特に好ましい。エポキシ樹脂と2級アミンを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0032】
アミンの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0033】
スルホニウム変性エポキシ樹脂
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物には、スルホニウム変性エポキシ樹脂が含まれる。スルホニウム変性エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂にスルフィド化合物及び中和酸を反応させてそのエポキシ基が開環されると同時にスルホニウム塩基が導入された樹脂をいう。このスルホニウム変性エポキシ樹脂は、例えば、特開平6−128351号公報、特開平7−206968号公報などに記載されているような従来公知のものであってよい。スルホニウム変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環をスルフィド化合物及び中和酸で開環して製造される。
【0034】
エポキシ樹脂と反応させるスルフィド化合物は、エポキシ基と反応し、かつ妨害基を含まない全てのスルフィド化合物が含まれる。尚、エポキシ樹脂とスルフィド化合物との反応は中和酸の存在下で行う必要があり、その結果、エポキシ樹脂にスルホニウム基が導入される。
【0035】
スルフィド化合物の具体例としては、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィドまたは環状スルフィドであり得る。使用しうるスルフィド化合物の例には、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド等が挙げられる。
【0036】
特に好ましいスルフィド化合物は、式
【化1】

[式中、R及びR'はそれぞれ独立して炭素数2〜8の直鎖又は分枝鎖アルキレン基である。]
で表されるチオジアルコールである。かかるスルホニウム変性エポキシ樹脂は電着開始直後の短時間(約10秒間)塗膜抵抗の形成を遅くする機能を有し、かつバインダー樹脂に水分散安定性を付与する。
【0037】
チオジアルコールの例には、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノ−ル、及び1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノールなどがある。最も好ましくは、スルフィド化合物は、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノールである。
【0038】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明においてブロックイソシアネート硬化剤を得るために使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0039】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4´−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0040】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0041】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0042】
ブロック剤としては、ε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等通常使用されるものを用いることができる。しかしながら、これらの内、揮発性のブロック剤はHAPsの対象として規制されているものが多く、使用量は必要最小限とすることが好ましい。
【0043】
顔料
本発明の電着塗料組成物には通常用いられる顔料を含有させてもよい。本明細書でいう「顔料」には、前述のケイ酸化合物は含まれない。他方、例えばクレーやタルクなどはケイ酸を含むが、これらは溶出平衡濃度が所定範囲を満足しないので、顔料として扱う。使用し得る顔料の例としては、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等が挙げられる。
【0044】
顔料の量は、塗料組成物中に含まれる顔料と樹脂固形分との質量比(P/V)が1/4.5以下になる量とする。塗料組成物中の顔料の量が樹脂固形分との質量比1/5.5を越えると塗料固形分の析出性が低下するため、つきまわり性が低下する。塗料組成物中に含まれる顔料と樹脂固形分との質量比(P/V)1/4.5〜1/5.5が好ましい。
【0045】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0046】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂分散物と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂分散物とは、顔料分散樹脂を水性媒体中に分散させたものである。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0047】
顔料分散樹脂分散物と顔料等とを混合した後、その混合物中の顔料等の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0048】
金属触媒
本発明のカチオン電着塗料組成物には塗膜の耐食性を改良するための触媒として、金属触媒を金属イオンとして含有させてもよい。金属イオンとしては、セリウムイオン、ビスマスイオン、銅イオン、亜鉛イオンが好ましい。これらは適当な酸と組み合わせた塩や金属イオンを含有する顔料からの溶出物として電着塗料組成物に含まれる。酸としては、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂を中和するための中和酸として後に説明する塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸のいずれかであればよい。好ましい酸は酢酸である。
【0049】
電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上に述べた金属触媒、スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、及び顔料分散ペーストおよび必要に応じて金属触媒を水性媒体中に分散することによって調製される。また、通常、水性媒体にはスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0050】
本発明で使用される電着塗料組成物では、スルホニウム変性エポキシ樹脂の合計100gに含まれるスルホニウム塩基のミリ当量数は7〜45、好ましくは10〜35とする。スルホニウム塩基のミリ当量数が7ミリ当量未満であるとスルホニウム変性エポキシ樹脂の親水性が不充分となり、塗料の分散安定性が維持できないこととなり、45ミリ当量を超えると塗料のつきまわり性が劣ることとなる。
【0051】
塗料組成物に含有させる中和酸の量が多くなると、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂の中和率が高くなり、バインダー樹脂粒子の水性媒体に対する親和性が高くなり、分散安定性が増加する。このことは、電着塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し難い特性を意味し、塗料固形分の析出性は低下する。
【0052】
逆に、塗料組成物に含有させる中和酸の量が少ないと、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂の中和率が低くなり、バインダー樹脂粒子の水性媒体に対する親和性が低くなり、分散安定性が減少する。このことは、塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し易い特性を意味し、塗料固形分の析出性は増大する。
【0053】
従って、電着塗料のつきまわり性を改良するためには、塗料組成物に含有させる中和酸の量を減らして、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂の中和率を低レベルに抑えることが好ましい。
【0054】
具体的には、中和酸の量は、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂固形分100gに対して10〜25mg当量、好ましくは15〜20mg当量とする。中和酸の量が10mg当量未満であると水への親和性が十分でなく水への分散ができないか、著しく安定性に欠ける状態となり、25mg当量を越えると析出に要する電気量が増加し、塗料固形分の析出性が低下し、つきまわり性が劣る状態となる。
【0055】
なお、本明細書中において「中和酸の量」とは、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂を中和するのに用いた酸の量であって、塗料組成物に含まれているバインダー樹脂固形分100gに対するmg当量数で表わし、MEQ(A)と表示する。
【0056】
スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、及び硬化剤としてブロックイソシアネート硬化剤を配合し、水性媒体にこれらを分散させる方法については、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂それぞれ、又はいずれかひとつにブロックイソシアネート硬化剤を溶液状態で混合し、それぞれをエマルションとし、その後それぞれのエマルションを混合してよく、又はスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂を予め溶液状態で混合しておき、これにブロックイソシアネート硬化剤を加えた混合溶液を、エマルションにしてもよい。
【0057】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂の合計と、ブロックイソシアネート硬化剤との固形分質量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0058】
スルホニウム変性エポキシ樹脂とアミン変性エポキシ樹脂との混合割合は、質量比で、25/75〜50/50、好ましくは40/60〜50/50の範囲である。スルホニウム変性エポキシ樹脂の質量比が上記混合割合25/75を下まわると塗料の耐ガスピン性が劣ることとなり、上記混合割合50/50を超えると、塗膜の外観不良が解消され難くなる。
【0059】
塗料組成物は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開裂触媒を含むことができる。但し本発明のカチオン電着塗料組成物は鉛を実質的に含まないため、その量は樹脂固形分の0.1〜5質量%とすることが好ましい。
【0060】
有機溶媒はスルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必ず必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とし、また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上することから、少量ではあるが一定量塗料中に含まれる。
【0061】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0062】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0063】
本発明のカチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜(未硬化)を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されないが、本発明では自動車などの大きなものにも適用できるが、部品などの比較的小さなものを被塗物とする。部品としては、自動車用部品や工業用部品が最も好適である。
【0064】
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。ただ、実効電圧が110Vを超える必要があるので、印加電圧は最低でも約150V程度が必要となる。印加電圧が低くなりすぎると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0065】
本発明の電着塗料組成物は、電着塗装における最小析出pHが11.90〜12.00である必要がある。11.90未満だと電着浴の安定性が低下し、12.00を超えるとつきまわり性が低下する。ここで最小析出pHとは、カチオン電着塗装において、バインダー樹脂が析出するために必要とされる水酸化物イオン濃度に基づくpHをいう。
【0066】
上記の最小析出pHは、定電流電着塗装、すなわち電流密度(mA/cm)を一定にした電着塗装、における電着挙動により求めることができる。定電流電着塗装において、被電着塗装面での樹脂の析出が始まると、その樹脂の析出による電気抵抗の増大に依存して、より高い印加電圧が必要となる。ここで、電気抵抗が増大するまでの通電時間から、樹脂が析出するために必要とされる水酸化物イオン濃度(COH−)を下記式により求めることができる。
【数1】

F:ファラデー定数 96486.7
D:イオン拡散係数 OH=5×10−5
【0067】
最小析出pHは下記式により求めることができる。
【数2】

【0068】
また、最小析出pHにおける印加電圧と通電時間との関係を示すグラフを図1に示す。
【0069】
電着過程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。本明細書中「電着塗膜」とは、上記の、被膜を析出させる過程後であって、焼付硬化前の、電着塗装後の未硬化の塗膜をいう。
【0070】
電着塗膜の膜厚は、好ましくは5〜25μm、より好ましくは20μmとする。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分であり、25μmを超えると、塗料の浪費につながる。本発明では、膜厚の均一性が発明の効果であるので、各被塗物間の膜厚に違いが少なくなる。即ち、膜厚の各被塗物間の偏差が5μm以内、好ましくは3μm以内である。膜厚の各被塗物間の偏差が5μmを超えると、本発明の効果が十分でなくなる。膜厚の各被塗物間の偏差は、小さければ小さいほど良いが、実際には偏差を0にすることは不可能に近い。
【0071】
また、電着塗膜の膜抵抗は膜厚15μmにおいて700〜1,800kΩ・cm2であることが好ましい。塗膜の膜抵抗が700kΩ・cm2未満であると膜厚の均一化が得られなくなり、1,800kΩ・cm2を越えると塗膜外観が著しく劣ることとなる。塗膜の膜抵抗は、より好ましくは900〜1,500kΩ・cm2、最も好ましくは1,000〜1,300kΩ・cm2である。電着塗膜の膜抵抗は、析出膜の電荷移動媒体量や粘性を制御することにより調節できる。
【0072】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化させる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0074】
製造例1
ブロックイソシアネート硬化剤の製造
ジフェニルメタンジイソシアネート1250部およびメチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチルスズジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0075】
製造例2
スルホニウム変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0076】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂550部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量330になるまで130℃で反応させた。
【0077】
続いて、ビスフェノールA100部及びオクチル酸36部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1030となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、SHP−100(1−(2―ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、三洋化成製)52部、イオン交換水21部、88%乳酸39部を加え、80℃で反応させた。反応は酸価が5を下回るまで継続し、3級スルホニウム塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0078】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、イオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを得た。またこのエマルションの樹脂固形分100g当たりの塩基のミリ当量は10であった。
【0079】
製造例3
アミン変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0080】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂650部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量300になるまで130℃で反応させた。
【0081】
続いて、ビスフェノールA165部及びオクチル酸29部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1160となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン85部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0082】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるようギ酸を加え、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂エマルションを得た。
【0083】
製造例4
アミン変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0084】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂492部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量360になるまで130℃で反応させた。
【0085】
続いて、ビスフェノールA70部及びオクチル酸29部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は850となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、メチルエタノールアミン48部およびジエチレントリアミンをケチミン化したもの70部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0086】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるようギ酸を加え、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂エマルションを得た。
【0087】
製造例5
アミン変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0088】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂834部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量270になるまで130℃で反応させた。
【0089】
続いて、ビスフェノールA194部及びオクチル酸29部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1540となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン85部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0090】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるようギ酸を加え、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂エマルションを得た。
【0091】
製造例6
顔料分散樹脂分散物の製造
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここへジブチルスズジラウリート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0092】
次いで適当な反応容器に、ジメチルエタノール87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0093】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させて、次いで、120℃に冷却した後、先に調整した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0094】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を加えた。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散樹脂分散物を得た(樹脂固形分50%)。
【0095】
製造例7、8
顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例6で得た顔料分散樹脂分散物を120部、カーボンブラック2.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水221.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料ペーストを得た(固形分48%)。
【0096】
実施例1
製造例2で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたアミン変性エポキシ樹脂エマルションとを混合して、樹脂固形分比25/75とし、次いで製造例7で得られた顔料分散ペーストを混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。得られた電着塗料組成物のMEQ(A)(中和酸の量:塗料組成物に含まれているバインダー樹脂固形分100gに対するmg当量数)は19.5であり、塗料組成物中に含まれる顔料と樹脂固形分との質量比(P/V)は1/4.5であった。
【0097】
<電着塗膜の膜抵抗>
カチオン電着塗料組成物を含む電着浴に、リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−2500処理)(寸法:70mm×150mm、厚さ0.7mm)を電着塗料に10cm浸漬した。この鋼板に電圧を印加し、30秒間かけて200Vの電圧に昇圧し、150秒間電着した。浴温28℃における塗膜厚15μmの塗装電圧および電着終了時の残余電流を測定して、塗膜抵抗値(kΩ・cm2)を算出した。結果を表1に示す。
【0098】
このカチオン電着塗料の膜厚増加率を測定した。塗装温度と保持時間(被塗物が電着塗料中に浸漬されている時間)をそれぞれ30℃で150秒にして、実効電圧を変化させて同じ形の被塗物、具体的には厚さ0.5mm×縦2.0cm×横5cmの鉄板を塗装し、膜厚の変化をプロットした。実施例1のカチオン電着塗料のプロットしたグラフを図2に示す。
【0099】
図2から明らかなように、実効電圧が110Vより小さいときは、膜厚の変化が直線状に乗らないが、110Vを超えて200Vの間は、ほぼ直線状に乗っている。実効電圧が100V〜200Vの間での膜厚増加率は、図2から以下の式で得ることができる。
膜厚増加率=(15−12)÷(200−100)=0.03μm/V
従って、実施例1のカチオン電着塗料の実効電圧100〜200Vでの膜厚増加率は0.03μm/Vであることがわかる。
【0100】
この電着塗料を用いて、図3に記載のハンガーに被塗物として厚さ0.5mm×縦2.0cm×横5cmの鉄板を9個吊るして、30℃3分間電圧200Vで電着塗装し、各被塗物の膜厚を測定した。膜厚の測定結果を表1に示す。表1には、被塗物の最大膜厚と最小膜厚、および両者の差も記載する。
【0101】
比較例1
日本ペイント社製の電着塗料(商品名パワーニクス120M)を用いて同じ条件で図3に記載のハンガーを用いて電着塗装を行った。各被塗物の膜厚を同様に測定し、結果を表1に示す。比較例1の電着塗料の塗膜抵抗値は650kΩ・cm2であった。尚、このパワーニクス120Mの膜厚増加率は、実施例1のカチオン電着塗料と同様に測定した。実効電圧と膜厚のプロットしたものを図4に示す。この図4から、実効電圧100V〜200Vの間の膜厚増加率を計算すると、(16−7.5)÷(200−100)=0.085μm/Vであった。
【0102】
【表1】

【0103】
上記結果から明らかなように、実施例1のカチオン電着塗料では各被塗物間の膜厚の差は2.5μmで、比較例1のカチオン電着塗料の膜厚の差5.8μmより非常に少なくなっている。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】部品の電着塗装ラインの電着浴部分の模式図である。
【図2】実施例1のカチオン電着塗料の塗装温度30℃で保持時間150秒にしたときの実効電圧と膜厚の関係を示すグラフである。
【図3】実施例および比較例で用いたハンガーと被塗物(鉄板)の吊り下げ状態を示す模式図である。
【図4】比較例1のカチオン電着塗料(日本ペイント株社製パワーニクス120M)の塗装温度30℃で保持時間150秒にしたときの実効電圧と膜厚の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0105】
1…電着浴、
2…電着塗料、
3…部品、
4…ハンガー、
5…搬送手段、
6…矢印。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実効電圧110〜200Vで膜厚増加率が0.01〜0.04μm/Vの範囲を有するカチオン電着塗料を用いてカチオン電着塗装する方法。
【請求項2】
被塗物が表面積1〜30mを有し、表面積の異なる被塗物が混流されて塗装されていく請求項1記載の方法。
【請求項3】
カチオン電着塗料が被塗物に対して厚さ15μmに電着された塗膜の膜抵抗700〜1,800KΩ・cmを有する請求項1記載の方法。
【請求項4】
実効電圧110〜200Vで膜厚増加率を0.01〜0.04μm/Vの範囲に制御したカチオン電着塗料でカチオン電着塗装することを特徴とする塗装物間の塗装膜厚を均一にするカチオン電着塗装方法。
【請求項5】
被塗物が表面積1〜30mを有し、表面積の異なる被塗物が混流されて塗装されていく請求項4記載のカチオン電着塗装方法。
【請求項6】
被塗物間の塗装膜厚の偏差が、3μm以内である請求項4記載のカチオン電着塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−189962(P2008−189962A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23788(P2007−23788)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】