説明

カットパイル布帛

【課題】艶消剤の練り込まれた芯鞘複合繊維をパイル繊維とするカットパイル布帛において、その芯鞘複合繊維の断面構造と、その練り込まれる艶消剤の適用方法を変え、パイル面の発色性を損なうことなく白ボケを解消する。
【解決手段】艶消剤含有率が0.1重量%未満のポリエステルを芯成分とし、艶消剤含有率が0.8重量%以上のポリエステルを鞘成分とし、芯成分が繊維軸芯11を構成し、鞘成分が繊維軸芯を被覆する鞘層12を構成している芯鞘複合ポリエステル繊維をカットパイルに用いる。芯鞘複合ポリエステル繊維の単繊維繊度は1.0〜5.5dtexにし、その横断面を内側に窪んだ凹部14と外側に突き出た凸部15が形成されている偏平断面にし、その横断面に占める鞘層の面積占有率を10〜50%とする。鞘層の厚みtと艶消剤含有率wとの積として示される艶消剤被覆量kを2.5〜5.5にするとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カットパイル織物(モケット等)、カットパイル編物(ダブルラッセル等)、起毛面にシャリングを施して仕上げられたカットパイル起毛布(トリコットベロア等)等のカットパイルによってパイル面が構成されており、主として自動車や列車、航空機等の交通機関の内装材、就中、椅子張地に使用されるカットパイル布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のパイル布帛では、カットパイルの押し倒される方向によってパイル面の色彩が濃淡変化し、カットパイルが正逆異方向に押し倒された箇所には色彩の濃淡差がマーク状に現れる所謂フィンガーマークとか白ボケとか称される現象(以下、白ボケと称する。)が見られる。
この白ボケは、カットパイルの先端である繊維断面とカットパイルの側面である繊維側面との光の反射具合いの相違に起因することが知られている。
化学繊維には、可視光領域に特定の吸収がなく、可視光反射率や屈折率の高い酸化チタン微粒子(以下、単に”酸化チタン”と言う。)が艶消剤として練り込まれた繊維があり、この繊維は、光沢が少ないことからして”ダル繊維”と称され、その繊維断面と繊維側面の光沢差が酸化チタンの練り込まれていない所謂”ブライト繊維”に比して少ないことからして、パイル面の白ボケ防止に有効と考えられている。
然るに、可視光領域に特定の吸収がなく、反射率が高いために白色顔料としても作用するが故に、酸化チタンの練り込まれた繊維は発色性が悪く、それを使用して鮮やかに発色したカットパイル布帛を得ることは出来ない。
【0003】
ダル繊維の発色性を改善する方法としては、硫酸バリウムを酸化チタンと併用する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
ダル繊維の発色性を改善する他の方法として、ダル繊維を芯鞘複合構造とし、その鞘層をカチオン可染ポリエステルで構成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
又、発色性のよいブライト繊維のギラツキ感を改善する他の方法として、ブライト繊維を芯鞘複合構造とし、その鞘層に繊維軸芯に比して艶消剤を多く練り込む方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平09−078353号公報
【特許文献2】特開昭62−268855号公報
【特許文献3】特開平01−306646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、パイル繊維の発色性を損なうことなく白ボケを防止する種々の試みはあるものの、十分な効果は得られていない。
特に、椅子張地に最適とされる単繊維繊度5.5dtex以下のパイル繊維に成るカットパイル布帛では、白ボケが生じ易い。
そして、単繊維繊度5.5dtex以下のパイル繊維に成るカットパイル布帛では、その単繊維繊度が細くなるにつれて深色・濃色に染色することが難しくなり、又、艶消剤に発色が妨げられ易くなるので、パイル面の発色性を損なうことなく白ボケを防止することが困難視された。
【0006】
白ボケの生じ易いパイル面を具に観察するに、パイル繊維の側面での表面反射光が目に映るときは、それが白色光となって目に映るためにパイル面が白っぽく見える一方、その表面反射光が目に映らないときは、パイル繊維の色彩が表面反射光(白色光)に左右されることがなく目に映るので濃色に見えるとの知見を得た。
又、パイル繊維の単繊維繊度を細くすれば、その細くした分だけパイル糸を構成するパイル繊維の本数が多くなり、カットパイルに占めるパイル繊維の比表面積が増え、その結果、パイル繊維の側面での表面反射光量も増えることになるので、パイル面での白ボケが生じ易くなるとの知見を得た。
更に、芯鞘複合繊維では、艶消剤を練り込むとしても、その艶消剤の適用方法の如何によって、白ボケ防止効果と繊維の発色性が大きく変るとの知見を得た。
【0007】
本発明は、これらの知見を基に芯鞘複合繊維の断面構造と艶消剤の適用方法を変え、パイル繊維の発色性を損なうことなくカットパイル布帛のパイル面での白ボケを解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明に係るカットパイル布帛は、(a) 艶消剤含有率が0.1重量%未満のポリエステルを芯成分とし、艶消剤含有率が0.8重量%以上のポリエステルを鞘成分とし、芯成分が繊維軸芯11を構成し、鞘成分が繊維軸芯11を被覆する鞘層12を構成している芯鞘複合ポリエステル繊維を主材とするカットパイルによってパイル面が構成されており、(b) 芯鞘複合ポリエステル繊維の単繊維繊度が1.0〜5.5dtexであり、(c) 芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面に占める鞘層の面積占有率が10〜50%であり、(d) 鞘層12の厚みt(単位;μm)と、鞘層12の艶消剤含有率w(単位;重量%)との積として示される艶消剤被覆量k(=t×w)が2.5〜5.5(2.5≦k≦5.5)であることを第1の特徴とする。
【0009】
本発明に係るカットパイル布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、芯鞘複合ポリエステル繊維が偏平断面形状を成し、その横断面の直交する2つの方向X・Yの中の一つの方向Xにおける寸法Lが他の方向Yにおける寸法Hの2〜5倍であり、それらの寸法の比として示される偏平度L/Hが2〜5である点にある。
【0010】
本発明に係るカットパイル布帛の第3の特徴は、上記第2の特徴に加えて、芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面が、外側に突き出た凸部15と内側に窪んだ凹部14が交互する凹凸輪郭線13に囲まれた偏平断面形状を成している点にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、芯鞘複合ポリエステル繊維の単繊維繊度を1.0〜5.5dtexとし、その横断面に占める鞘層の面積占有率を10〜50%としたので、その芯鞘複合ポリエステル繊維が円形断面を成すものと仮定した場合の太さ(直径)は9.6〜22.5μm、繊維軸芯の太さ(直径)は6.8〜21.3μmとなり、鞘層の厚み(t)は0.25〜3.3μmとなる。
その芯鞘複合ポリエステル繊維の太さの大半、即ち横断面の50〜90%を占める繊維軸芯の艶消剤の含有率が0.1重量%未満であるので、繊維軸芯は艶消剤に阻害されることなく鮮やかに発色すると共に、鞘層の厚み(t)が0.25〜3.3μmとなるので、繊維側面の表面反射光の低下によって白ボケが改善され、尚且つ鞘層に隠蔽されることなく繊維軸芯の色彩によってパイル繊維が鮮やかに彩られることになる。
【0012】
勿論、繊維の発色性は、艶消剤によって損なわれる。本発明では、繊維軸芯11の艶消剤含有率が0.1重量%未満なので、繊維軸芯11の発色性は艶消剤によって格別損なわれることはない。
とは言え、鞘層12の艶消剤含有率wが0.8重量%以上なので、鞘層12の発色性は艶消剤によって損なわれ、その鞘層12で繊維軸芯11を被覆して成る芯鞘複合繊維の発色性は、その鞘層12の含有する艶消剤によって損なわれることにもなる。
しかし、艶消剤含有率wが0.8重量%以上であっても、その鞘層12が薄ければ、良好に発色した繊維軸芯11の色彩は鞘層12を透過して現れるので、芯鞘複合繊維の発色性が、鞘層12の含有する艶消剤によって大きく損なわれることはない。
一方、艶消剤含有率wが少なくても、その鞘層12が厚ければ、繊維軸芯11の色彩は鞘層12を透過して現れ難くなるので、芯鞘複合繊維の発色性が、鞘層12の含有する艶消剤によって損なわれることにもなる。しかし、艶消剤含有率wが少なければ、鞘層12の発色性は艶消剤によって格別損なわれることはなく、鞘層12が良好に発色することになるので、鞘層12が厚いからと言って、芯鞘複合繊維の発色性が、鞘層12の含有する艶消剤によって損なわれるとは言い難い。
従って、芯鞘複合繊維の発色性が鞘層12の含有する艶消剤によって損なわれるか否かは、鞘層12の艶消剤含有率wと厚みtとの関係において検討されるべきこととなる。
同様のことが、白ボケ防止効果の改善にも言える。
【0013】
本発明では、これらの点を考慮し、鞘層の厚みt(単位;μm)と、鞘層の艶消剤含有率w(単位;重量%)との積として示される艶消剤被覆量kを2.5〜5.5(2.5≦k≦5.5)とした結果、鞘層12の含有する艶消剤によって芯鞘複合ポリエステル繊維全体の発色性を格別損なうことなく、パイル面での白ボケ防止効果が改善される。
【0014】
本発明では、更に、芯鞘複合ポリエステル繊維を偏平断面形状としたので、円形断面形状としたものに比して断面二次モーメントが小さくなり、より一層柔らかで滑らかな感触のカットパイル布帛が得られる。
又、本発明では、偏平断面形状の芯鞘複合ポリエステル繊維の偏平側面に凹凸を付与したので、偏平側面がフラットなものに比して表面反射光が拡散され、パイル面での白ボケが目立ち難くなる。
【0015】
このようにして、白ボケ防止効果と発色性低下防止とのバランスがとれ、且つ、風合いが良好で自動車や列車、航空機等の椅子張地に好適なカットパイル布帛を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
艶消剤には、酸化チタンの他に、本発明の効果を発現し、ポリエステル繊維ポリマーに安定に分散可能な酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アンチモン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等も使用することが出来るが、ポリエステル繊維ポリマーとの分散性の点では酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウムを使用することが好ましく、特に、酸化チタンを使用することが好ましい。
本発明では、艶消剤によってパイル繊維の発色性が損なわれることがないようにするために繊維軸芯の艶消剤の含有率を0.1重量%未満にするが、この含有率を0.05重量%未満にすることが望ましく、好ましくはゼロにする。
そのように艶消剤を含まず高発色に染色された繊維軸芯の色彩が、鞘層に隠蔽されることなくパイル繊維の外面に現れるようにするためには、芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面に占める鞘層の面積占有率を40%以下とし、鞘層の厚み(t)が2.5μm以下になるように、鞘層に相対して繊維軸芯が太くなるようにすることが望ましい。
しかし、鞘層が薄くなると、糸条巻き返しや整経等の織編準備工程や織編工程におけるヤーンガイド、綜絖、筬、ニードル等との摩擦によって鞘層12が剥脱し、繊維軸芯11が露出するだけではなく、艶消剤による艶消効果も薄れる。
この点を考慮し、芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面に占める鞘層の面積占有率を40〜20%に、好ましくは35〜20%にし、鞘層の厚み(t)を0.6〜2.5μmにし、繊維軸芯の実質繊度が0.9〜2.2dtexになるようにするとよい。
【0017】
本発明において、鞘層の厚みtと艶消剤含有率wとの積として示される艶消剤被覆量k(=t×w)を2.5〜5.5(2.5≦k≦5.5)とするのは、繊維軸芯の色彩が鞘層に損なわれることなくパイル繊維の外面に現われ、且つ、艶消剤による艶消効果が確保されるためである。
一般に、繊維ポリマーに艶消剤を6.35重量%前後配合することは可能である。しかし、厚み(t)が0.6〜2.5μmの鞘層に艶消剤を多量配合するときは、彩色豊かなパイル布帛が得難くなるばかりではなく、艶消剤によってパイル繊維の表面が粗面となり、パイル繊維やパイル糸の取り扱い過程で接する糸道ガイド等の治具が摩耗・損傷し易くなる。そのような不具合を避けるためにも、繊維ポリマーへの艶消剤の配合量は6重量%未満にするが、その鞘層に対する配合率は1.5重量%前後でも十分であり、そのように艶消剤の含有率が少ないことからしてパイル繊維の発色性が確保される。
【0018】
本発明では、柔らかい感触や開繊性等のパイル繊維として望ましい諸特性を得るために、芯鞘複合ポリエステル繊維の偏平度(L/H)を2〜5としているが、そうすることによって繊維の材料力学で言う所謂断面二次モーメントが円形断面繊維に比して小さくなり、例えば、偏平断面繊維(偏平度5)の繊度が1.0dtexであっても、繊度が0.45dtexの円形断面繊維に相当する所謂極細繊維に成るカットパイル布帛と同様に、感触の柔らかいカットパイル布帛が得られる。しかし、その偏平度(L/H)が2未満になると、極細繊維に成るかの如き触感・風合い上の効果が薄れる一方、その偏平度(L/H)が5を超えて余り大きくなると、繊維軸芯では透明度が増して濃色にはならず、鞘層では艶消剤が稀薄になって艶消効果が低下し、又、平板な側面形状からして光沢を増し、カットパイルも毛倒れし易くなるので、白ボケ防止とは逆効果になる。
この点を考慮し、芯鞘複合ポリエステル繊維の偏平度(L/H)は2〜3.5にするとよく、又、その断面形状は、平板ではなく、外側に突き出た凸部15と内側に窪んだ凹部14が交互する凹凸輪郭線13に囲まれ、凸部と凸部、および、凹部と凹部がそれぞれ厚み方向(Y−Y)において表裏対称を成す偏平断面形状、例えば、図1に図示するように、中央部と左右両端部が外側に突き出た凸部15を成し、中央部と左右両端部の間が内側に窪んだ凹部14を成す輪郭線13に囲まれて菱形ないし楕円形に近似し、四方の頂点(凸部15)と頂点(凸部15)の間に窪み(凹部14)の付けられた両面三山偏平断面形状とし、或いは、中央部が凹部を成し、その中央部の凹部を境に左右対称に凸部と凹部が続き、左右両端部が凸部を成す両面四山偏平断面形状とする。
芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面の輪郭線13の変曲点Pの数や凹部14や凸部15、或いは、偏平断面を成す芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面の形状によって本発明の技術的範囲が縮減されることはない。
【0019】
カットパイルの開繊性や触感・風合い等を高めるために、芯鞘複合ポリエステル繊維に捲縮を付与することが、本発明を更に効果的に実施する上で推奨される。
以下、実施例と比較例とによって本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
[実施例1〜7と比較例1〜4]
芯鞘複合ポリエステル繊維の芯成分ポリマーに、酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップを用い、鞘成分ポリマーには、酸化チタン含有率6.35重量%のポリエチレンテレフタレート超フルダルチップと酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップとの混合チップ、および、酸化チタン含有率2.5重量%のポリエチレンテレフタレートフルダルチップと酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップとの混合チップを用いる。
芯鞘複合ポリエステル繊維の紡糸には三山偏平断面形状(図1)となる口金を用い、紡糸温度280℃、紡糸速度1,000m/分で芯鞘複合ポリエステル繊維未延伸糸を複合紡糸し、温度88℃の第1ローラーと温度130℃の第2ローラーに巻取り速度600m/分で通して延伸し、単繊維繊度1.74dtex・偏平度(L/H)2.2の偏平断面芯鞘複合ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸(167dtex−96fil)を得た。
【0021】
[比較例5〜6]
酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップと酸化チタン含有率2.50重量%のポリエチレンテレフタレートフルダルチップを用い、それぞれ三山偏平断面形状の口金から、紡糸温度280℃、紡糸速度1,000m/分でポリエステルブライト繊維未延伸糸(比較例5)とポリエステルフルダル繊維未延伸糸(比較例6)を単独紡糸し、温度88℃の第1ローラーと温度130℃の第2ローラーに巻取り速度600m/分で通して延伸し、単繊維繊度1.74dtex・偏平度(L/H)2.2の偏平断面ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸(167dtex−96fil)を得た。
【0022】
これらのマルチフィラメント糸を、2ヒーター仮撚加工装置に通して仮撚加工を施し、4本合撚(200t/m Sヨリ)して撚止めセット後、黄系分散染料0.95%owfと赤系分散染料0.42%owfと青系分散染料0.81%owfとからなる染液を昇温して136℃にて20分間チーズ染色し、グレー色の先染パイル糸とした。
【0023】
次に、これらの先染パイル糸を使用し、ポリエステル仮撚加工糸(330dtex−96filエア交絡糸)を地経糸とし、グレー色の先染ポリエステル紡績糸(30/2)を地緯糸とし、株式会社川島織物が所有する特許第3248058号(特開平9−256244号)に係る緯二重パイル織機により、経糸密度48本/2.54cm、緯糸密度60本/2.54cm、緯パイル糸密度20本/2.54cmの二重織構造のダブルモケット原反を織成し、センターカットして得られたモケット原反(カットパイル布帛)のパイル面にブラッシングを施し、シャリング装置に通してパイル長を3mmに刈り揃え、再度、方向を変えてブラッシング装置とシャリング装置に通し、その後、150℃で加熱セットしてモケット(カットパイル布帛)に仕上げた。
【0024】
実施例1〜7と比較例1〜4の偏平断面芯鞘複合ポリエステル繊維の鞘層の艶消剤含有率(w)は、酸化チタン含有率6.35重量%のポリエチレンテレフタレート超フルダルチップと酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップとの混合比率、および、酸化チタン含有率2.50重量%のポリエチレンテレフタレートフルダルチップと酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップとの混合比率によって、偏平断面芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面に占める鞘層の面積占有率と鞘層の厚み(t)は、芯成分ポリマーと鞘成分ポリマーの紡糸吐出量を調整して、それぞれ表1に示す通り設定した。
実施例1〜7と比較例1〜6におけるパイル面の白ボケ評価値、発色性評価値、明度L値、明度差△L値、及び、パイル繊維の鞘層の厚み(t)の各特性値は、次の方法で計測して表1に示す。
尚、表1において、単独紡糸した酸化チタン含有率0.025重量%のポリエステルブライト繊維(比較例5)は、鞘層の厚みが0の繊維軸芯だけの繊維として表示し、単独紡糸した酸化チタン含有率2.50重量%のポリエステルフルダル繊維(比較例6)は、繊維軸芯のない鞘層だけの繊維として表示している。
【0025】
白ボケ(官能検査;絶対評価法): 実施例と比較例のカットパイル布帛を個別に平板上に置き、パイル面の毛並みを一定方向に揃え、その逆方向に指で撫でた撫で跡と周辺との色差の違いを目視で確認し、その撫で跡が目立たない場合は「○」、やや目立つ場合は「△」、よく目立つ場合は「×」の3段階で評価した。
【0026】
白ボケ(官能検査;一対比較法): 実施例と比較例のカットパイル布帛を2枚1組として平板上に置き、パイル面の毛並みを一定方向に揃え、その逆方向に指で撫でた撫で跡と周辺との色差の違いを目視で確認し、その各組の2枚のカットパイル布帛の撫で跡と周辺との色差を比較し、その2枚の中の何れかのパイル布帛の撫で跡と周辺との色差が、他の1枚のパイル布帛の撫で跡と周辺との色差に比較して、殆ど目立たない場合は「+2点」、格別目立たない場合は「+1点」、殆ど差がない場合は「0点」、やや目立つ場合は「−1点」、かなり目立つ場合は「−2点」との評価点をもって定量的に評価した。
従って、各試料の評価点は−2.0〜+2.0の間に位置付けされ、この数値が大きいほど白ボケが目立ち難いことを意味する。
【0027】
発色性(官能検査;目視法): カットパイル布帛のパイル面の色彩の濃淡、鮮明性(白っぽさがないものを良好と評価する。)を、拡散反射となる照明下で目視で確認し、かなり濃くて鮮明な場合は「◎」、濃くて鮮明な場合は「○」、やや濃くて鮮明な場合は「△」、薄くて不鮮明な場合は「×」、かなり薄くて不鮮明な場合は「××」の5段階で評価した。
【0028】
発色性(測色検査): カットパイル布帛のL、a、b値を測色計を使って測定し、発色性を定量化した。濃淡差および鮮明性差は、明度L値を採用した。この数値が小さいほど濃色に見えることを意味する。
【0029】
繊維断面と繊維側面の明度差△L値: パイル繊維の糸束の断面のL値(L*b)と側面のL値(L*a)を測色計を使って測定し、その明度差△L値=L*a−L*bを算定する。
【0030】
鞘層の厚み(t)(単位;μm): パイル繊維の横断面の輪郭線を32等分し、その32箇所の鞘層の厚みを実測し、その平均値をもって鞘層の厚み(t)を算定する。
【0031】
図2は、表1に示す実施例1〜7と比較例1〜6におけるパイル面の一対比較法による白ボケ評価値とパイル繊維断面と側面との明度差△L値の相関性を示す。
図2には、実施例1〜7のデータを試料番号T1 ,T2 ,T3 ,T4 ,T5 ,T6 ,T7 と共に「〇印」で示し、比較例1〜6のデータを試料番号X1 ,X2 ,X3 ,X4 ,X5 ,X6 と共に「●印」で示している。
図2において、白ボケが目立ち難いカットパイル布帛ほど明度差△L値が小さく、繊維断面と繊維側面の明度差△L値と官能検査(一対比較法)による白ボケ評価値との間に、明度差△L値と白ボケ評価値が比例する相関性が確認された。
【0032】
図3は、表1に示す実施例1〜7と比較例1〜6における白ボケ評価値と艶消剤被覆量kの関係を白ボケ評価・被覆量関係曲線f(k)によって図示し、明度L値(発色性評価値)と艶消剤被覆量kの関係を発色性評価・被覆量関係曲線f(L)によって図示するものである。
図3には、実施例1〜7の白ボケ評価のデータを試料番号T1 ,T2 ,T3 ,T4 ,T5 ,T6 ,T7 と共に「〇印」で示し、実施例1〜7の発色性評価のデータを「□印」で示し、比較例1〜6の白ボケ評価のデータを試料番号X1 ,X2 ,X3 ,X4 ,X5 ,X6 と共に「●印」で示し、比較例1〜6の発色性評価のデータを「■印」で示している。
図3の白ボケ防止効果を示す一対比較法による評価目盛のわきに、各データ(試料番号T1 ,T2 ,T3 ,T4 ,T5 ,T6 ,T7 ,X1 ,X2 ,X3 ,X4 ,X5 ,X6 )の絶対評価法による3段階評価値(○,△,×)を、又、パイル面の発色性を示す明度L値の目盛のわきに、各データ(試料番号T1 ,T2 ,T3 ,T4 ,T5 ,T6 ,T7 ,X1 ,X2 ,X3 ,X4 ,X5 ,X6 )の目視法による5段階評価値(◎,○,△,×,××)を付記している。
【0033】
表1と図3から明らかなように、実施例1〜7と比較例1〜6のデータを比較すると、実施例1〜7で得られたカットパイル布帛は、白ボケが目立ち難く、発色性にも優れていた。一方、比較例1〜6で得られたカットパイル布帛は、白ボケが目立ち難いものでは発色性が悪く、逆に、発色性の良いものでは白ボケが目立った。
【0034】
鞘層の厚みt(単位;μm)と艶消剤含有率w(単位;重量%)との積として示される艶消剤被覆量kが0.4〜2.3(k<2.5)のカットパイル布帛は、比較例2(k=2.3)のデータ(図3,試料番号X2 )と比較例4(k=1.7)のデータ(図3,試料番号X4 )が示す通り、明度L値が低く、発色性は良いものの白ボケが可成り目立ち、艶消剤被覆量kが5.5を超えると、白ボケは目立ち難いが、比較例1(k=5.6)と比較例3(k=7.4)のデータ(図3,試料番号X1 ,X3 )が示す通り、明度L値が高く、発色性が低下することが確認された。
図3において、その付記した目視法による5段階評価値(◎,○,△,×,××)の稍々濃くて鮮明な場合の評価値「△」は、明度L値が「27」となる位置に位置し、明度L値が「27」となる位置における艶消剤被覆量kはk=5.5となっている一方、白ボケ防止効果の現われる位置における艶消剤被覆量kはk=2.5となっていることからして、本発明において艶消剤被覆量kをk=2.5〜5.5とする技術的意味が理解されよう。
図3が示す通り、実施例1〜7のカットパイル布帛では、艶消剤被覆量kが全て2.5〜5.5以上であり、官能検査(一対比較法)による白ボケ評価値が殆どプラスであり、明度L値(発色性)が27を超えることはなく、発色性を損なうことなく白ボケ防止効果が得られることが確認された。
【0035】
上記実施例1〜7と比較例1〜6を比較して明らかな通り、本発明によると、発色性を損なうことなく白ボケの目立たないカットパイル布帛を得ることが出来る。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例8〜9と比較例7〜10]
酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップ、酸化チタン含有率0.3重量%のポリエチレンテレフタレートセミダルチップ、酸化チタン含有率2.5重量%のポリエチレンテレフタレートフルダルチップ、および、酸化チタン含有率0.025重量%のポリエチレンテレフタレートブライトチップと酸化チタン含有率2.5重量%のポリエチレンテレフタレートフルダルチップを混合した酸化チタン含有率1.4重量%のポリエチレンテレフタレート混合チップを紡糸原料に用い、紡糸には円形断面形状となる口金を用い、紡糸温度280℃、紡糸速度1,000m/分で表2に示す鞘層酸化チタン含有率1.4重量%の円形断面芯鞘複合ポリエステル繊維未延伸糸(試料番号;T8 )と、鞘層酸化チタン含有率2.5重量%の円形断面芯鞘複合ポリエステル繊維未延伸糸(試料番号;T9 )と鞘層酸化チタン含有率0.3重量%の円形断面芯鞘複合ポリエステル繊維未延伸糸(試料番号;X7 )との3種類のポリエステル繊維未延伸糸を複合紡糸すると共に、酸化チタン含有率0.025重量%の円形断面ブライトポリエステル繊維未延伸糸(試料番号;Y1 )と酸化チタン含有率0.3重量%の円形断面セミダルポリエステル繊維未延伸糸(試料番号;Y2 )と酸化チタン含有率2.5重量%の円形断面フルダルポリエステル繊維未延伸糸(試料番号;Y3 )との3種類のポリエステル繊維未延伸糸を単独紡糸し、それぞれ温度88℃の第1ローラーと温度130℃の第2ローラーに巻取り速度600m/分で通して延伸し、単繊維繊度1.75dtexの円形断面ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸(168dtex−96fil)を得た。
【0038】
これらのマルチフィラメント糸を、それぞれ2ヒーター仮撚加工装置に通して仮撚加工を施し、4本合撚(200t/m Sヨリ)して撚止めセット後、ベージュ系分散染料になる染液を昇温して136℃にて20分間チーズ染色し、ベージュ色の先染パイル糸とした。
【0039】
次に、これらの先染パイル糸を使用し、ポリエステル仮撚加工糸(330dtex−96filエア交絡糸)を地経糸とし、ベージュ色の先染ポリエステル紡績糸(30/2)を地緯糸とし、株式会社川島織物が所有する特許第3248058号(特開平9−256244号)に係る緯二重パイル織機により、経糸密度48本/2.54cm、緯糸密度60本/2.54cm、緯パイル糸密度20本/2.54cmの二重織構造のダブルモケット原反を織成し、センターカットして得られたモケット原反(カットパイル布帛)のパイル面にブラッシングを施し、シャリング装置に通してパイル長を3mmに刈り揃え、再度、方向を変えてブラッシング装置とシャリング装置に通し、その後、150℃で加熱セットしてモケット(カットパイル布帛)に仕上げた。
【0040】
実施例8〜9と比較例7〜10におけるパイル面の白ボケ評価値、発色性評価値、明度L値、明度差△L値、及び、パイル繊維の鞘層の厚み(t)の各特性値を、実施例1〜7および比較例1〜6と同様に計測して表2に示す結果を得た。
尚、表2において、単独紡糸した酸化チタン含有率0.025重量%のポリエステルブライト繊維(比較例8)は、鞘層の厚みが0の繊維軸芯だけの繊維として表示し、単独紡糸した酸化チタン含有率0.30重量%のポリエステルフルセミダル繊維(比較例9)と酸化チタン含有率2.50重量%のポリエステルフルダル繊維(比較例10)は、繊維軸芯のない鞘層だけの繊維として表示している。
【0041】
図4は、表2に示す実施例8〜9と比較例7〜10における白ボケ評価値と艶消剤被覆量kの関係を白ボケ評価・被覆量関係曲線f(k)によって図示し、明度L値(発色性評価値)と艶消剤被覆量kの関係を発色性評価・被覆量関係曲線f(L)によって図示するものである。
図4には、実施例8〜9の白ボケ評価のデータを試料番号T8 ,T9 と共に「〇印」で示し、実施例8〜9の発色性評価のデータを「□印」で示し、比較例7〜10の白ボケ評価のデータを試料番号X7 ,Y1 ,Y2 ,Y3 と共に「●印」で示し、比較例7〜10の発色性評価のデータを「■印」で示している。
【0042】
実施例8〜9と比較例7〜10のデータを比較すると、実施例8〜9で得られたカットパイル布帛は、実施例1〜7のパイル布帛と同様に、表2と図4から明らかなように、白ボケが目立ち難く、発色性にも優れていた。一方、比較例7〜10で得られたカットパイル布帛は、比較例1〜6のパイル布帛と同様に、白ボケが目立ち難いものでは発色性が悪く、逆に、発色性の良いものでは白ボケが目立った。
【0043】
図5は、繊維横断面に占める鞘層の面積占有率が50%で鞘層の厚みが1.8μmの円形断面芯鞘複合ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸(試料番号;T8 ,T9 ,X7 )と円形断面ポリエステル繊維(非芯鞘複合)のマルチフィラメント糸(試料番号;Y1 ,Y2 ,Y3 )に成るパイル面の一対比較法による白ボケ評価値と明度L値(発色性評価値)の関係を白ボケ評価・明度L値関係曲線gによって図示するものである。
図5には、実施例8〜9のデータを試料番号T8 ,T9 と共に「〇印」で示し、比較例7〜10のデータを試料番号X7 ,Y1 ,Y2 ,Y3 と共に「●印」で示している。
【0044】
図5に示す円形断面芯鞘複合ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸に成るカットパイル布帛(試料番号;T8 ,T9 ,X7 )の白ボケ評価・明度L値関係曲線g(50%)と円形断面ポリエステル繊維(非芯鞘複合)のマルチフィラメント糸に成るカットパイル布帛(試料番号;Y1 ,Y2 ,Y3 )の白ボケ評価・明度L値関係曲線g(100%)を対比して明らかなように、円形断面芯鞘複合ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸に成るカットパイル布帛(試料番号;T8 ,T9 ,X7 )は、円形断面ポリエステル繊維(非芯鞘複合)のマルチフィラメント糸に成るカットパイル布帛(試料番号;Y1 ,Y2 ,Y3 )に比して艶消剤の白ボケ防止機能によるパイル面の発色性の低下が少ない。
このように、図5によって、パイル繊維を芯鞘断面構造にすると共に、パイル繊維の横断面に占める鞘層の面積占有率を50%以下にすることが白ボケ防止のために艶消剤を適用する上で有利であり、その鞘層の面積占有率を40〜20%に、好ましくは35〜20%にし、鞘層の厚み(t)を0.6〜2.5μmにし、繊維軸芯の実質繊度が0.9〜2.2dtexになるようにすると効果的であることが確認された。
【0045】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る芯鞘複合ポリエステル繊維の拡大断面図である。
【図2】繊維断面と繊維側面の明度差△L値と官能検査(一対比較法)による白ボケ評価値との関係図である。
【図3】パイル面の白ボケ評価・被覆量関係と発色性評価・被覆量関係との関係曲線図である。
【図4】パイル面の白ボケ評価・被覆量関係と発色性評価・被覆量関係との関係曲線図である。
【図5】パイル面の白ボケ評価値と発色性評価明度L値との関係曲線図である。
【符号の説明】
【0047】
11:繊維軸芯
12:鞘層
13:輪郭線
14:凹部
15:凸部
f(k):白ボケ評価・被覆量関係曲線
f(L):発色性評価・被覆量関係曲線
g:白ボケ評価・明度L値関係曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) カットパイル布帛において、少なくとも一部のカットパイルを構成する繊維は、芯鞘複合繊維であって、その芯成分はポリエステルと0.1重量%未満の艶消剤を含み、鞘成分はポリエステルと0.8重量%以上の艶消剤を含んでいて、
(b) 芯鞘複合ポリエステル繊維は、単繊維繊度が1.0〜5.5dtexであり、
(c) 芯鞘複合ポリエステル繊維は、横断面に占める鞘層の面積占有率が10〜50%であり、
(d) 鞘層の厚みt(単位;μm)と、鞘層の艶消剤含有率w(単位;重量%)との積として示される艶消剤被覆量k(=t×w)が2.5〜5.5(2.5≦k≦5.5)であることを特徴とするカットパイル布帛。
【請求項2】
芯鞘複合ポリエステル繊維が偏平断面形状を成し、その横断面の直交する2つの方向の中の一つの方向における寸法(L)が他の方向における寸法(H)の2〜5倍であり、それらの寸法の比として示される偏平度(L/H)が2〜5である前掲請求項1に記載のカットパイル布帛。
【請求項3】
芯鞘複合ポリエステル繊維の横断面が、外側に突き出た凸部と内側に窪んだ凹部が交互する凹凸輪郭線に囲まれた偏平断面形状を成す前掲請求項2に記載のカットパイル布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−262591(P2007−262591A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85456(P2006−85456)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】