説明

カット豆腐の製造方法

【課題】ボイルクール工程において生じる鬆立ちがさらに抑制されたカット豆腐の製造方法を提供する。
【解決手段】油脂と糖類と乳化剤とを含有する水中油型乳化油脂組成物を豆乳に添加し、次に凝固剤を加えて該豆乳を凝固させて豆腐を調製する工程と、該豆腐をカットして容器に密封し、次にカットされた豆腐を該容器ごと加熱および冷却する工程とを含むこと特徴とするカット豆腐の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カット豆腐の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は、製品の形態により充填豆腐とカット豆腐とに大きく分類される。充填豆腐は、豆乳を凝固剤と共に容器に充填・密閉し、加熱して凝固させることにより製造される。これに対し、カット豆腐は、型箱の中などで成型された凝固物(豆腐)を水槽に取り出して水晒しを行った後、一定の大きさに切り分け(カット)し、カットされた個々の豆腐を水と共に容器に密封して製造される。
【0003】
このようなカット豆腐の製造では、多くの場合、製品の日持ちを向上させる目的で、カットされた豆腐を水と共に容器に密封した後、容器ごと加熱槽および冷却槽で加熱・冷却すること(以下、ボイルクール工程という)が行われている。
【0004】
しかし、このボイルクール工程では、加熱による鬆立ち(すなわち、豆腐の表面に多数の細かい穴が生じる現象)が生じ易く、製品の価値が失われるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、カット豆腐と食塩濃度が3〜7%の食塩水を容器に挿入密封し、カット豆腐を容器ごと80〜95℃で加熱殺菌した後、当該豆腐の中心部温度が10℃以下に冷却することを特徴とするカット豆腐の製造方法(特許文献1参照)などが提案されている。
【0006】
しかしながら、上記方法は、実用上必ずしも満足できるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開2001−258491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ボイルクール工程において生じる鬆立ちがさらに抑制されたカット豆腐の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、油脂と糖類と乳化剤とを含有する水中油型乳化油脂組成物を豆乳に添加してカット豆腐を製造すると、ボイルクール工程における鬆立ちが著しく抑制されることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、油脂と糖類と乳化剤とを含有する水中油型乳化油脂組成物を豆乳に添加し、次に凝固剤を加えて該豆乳を凝固させて豆腐を調製する工程と、該豆腐をカットして容器に密封し、次にカットされた豆腐を該容器ごと加熱および冷却する工程とを含むこと特徴とするカット豆腐の製造方法、からなっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、ボイルクール工程における鬆立ちが著しく抑制されたカット豆腐を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、先ず豆乳に、油脂と糖類と乳化剤とを含有する水中油型乳化油脂組成物が添加される。
【0013】
本発明で用いられる豆乳は、例えば原料として国産大豆、IOM大豆、ビントン大豆、ビーソン大豆または中国産大豆などを用いて、自体公知の方法で作製されたものであって良い。豆乳の濃度に特に制限はないが、例えば固形分濃度が約11〜14質量%の豆乳が好ましく用いられる。
【0014】
本発明で用いられる水中油型乳化油脂組成物に含有される油脂としては、食用に適する動物性、植物性の油脂及びそれらの硬化油、エステル交換油、分別油等が挙げられる。植物性油脂としては、例えばサフラワー油、大豆油、綿実油、コメ油、ナタネ油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられる水中油型乳化油脂組成物に含有される糖類としては、例えばキシロース、ブドウ糖又は果糖等の単糖、ショ糖、乳糖又は麦芽糖等のオリゴ糖、デキストリン又は水飴等の澱粉分解物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース又はマルトヘキサオース等のマルトオリゴ糖等、あるいはソルビトール、マンニトール、マルチトール又は還元水飴等の糖アルコールが挙げられ、好ましくはソルビトール等の糖アルコールである。
【0016】
本発明で用いられる水中油型乳化油脂組成物に含有される乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびレシチンなどが挙げられる。本発明においては、これらの乳化剤を一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0017】
上記グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが含まれる。
【0018】
上記レシチンとしては、油糧種子または動物原料から得られたもので、リン脂質を主成分とするものであれば特に制限はなく、例えば大豆レシチンおよび卵黄レシチンなど油分を含む液状レシチン、該液状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン、並びにレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチンおよび酵素処理レシチンなどが挙げられる。
【0019】
本発明で用いられる水中油型乳化油脂組成物の製造方法に特に制限はなく、例えば、以下の工程(1)および(2)を実施することにより製造できる。
工程(1):油脂に乳化剤を加えて約60〜70℃に加熱して溶解する。
工程(2):水に糖類を加えて約60〜70℃に加熱して溶解し、その中に(1)で作成した溶液を加え、攪拌機を用いて攪拌・分散して水中油型乳化油脂組成物を得る。
【0020】
攪拌機としては、TKホモミクサー(プライミクス社製)、クレアミックス(エムテクニック社製)などの高速回転式分散・乳化機を使用することができる。さらに、攪拌機以外にも、超音波乳化機などの均質化処理機を用いてもよい。
【0021】
水中油型乳化油脂組成物100質量%中の油脂、糖類、乳化剤および水の含有量に特に制限はないが、例えば、油脂が通常約20〜50質量%、糖類が通常約30〜70質量%、乳化剤が通常約1〜5質量%、水が通常約5〜40質量%となるように調整するのが好ましい。
【0022】
本発明に用いられる水中油型乳化油脂組成物としては、例えばフレンジー102(商品名;理研ビタミン社製)、フレンジーM(商品名;理研ビタミン社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0023】
豆乳に、上記水中油型乳化油脂組成物を添加する方法に特に制限はないが、例えば豆乳に適量の水中油型乳化油脂組成物を加えて、攪拌・分散することが好ましく行われる。豆乳100質量部に対する水中油型乳化油脂組成物の添加量は、通常約0.5〜15質量部であり、好ましくは2〜10質量部である。水中油型乳化油脂組成物の添加量が0.5質量部未満であると、ボイルクール工程における鬆立ちが十分に改善されず好ましくない。また、水中油型乳化油脂組成物の添加量が15質量部を超えると、豆腐の凝固が不十分になり好ましくない。
【0024】
次に、水中油型乳化油脂組成物が添加された豆乳に凝固剤を加えて該豆乳を凝固させ、豆腐を調製する。
【0025】
凝固剤としては、豆腐の製造に使用できるものであれば特に制限はないが、例えば塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムおよびグルコノデルタラクトンなどが挙げられる。これらの凝固剤を一種類で用いてもよいし、二種類以上を任意に組み合わせた製剤の形態で用いてもよい。豆乳100質量部に対する凝固剤の添加量に特に制限はないが、例えば約0.1〜1質量部であり、好ましくは0.3〜0.5質量部である。
【0026】
豆乳を凝固させ、豆腐を調製する方法に特に制限はなく、慣用の装置を用いて、常法により実施することができる。例えば、豆乳に凝固剤を加え、分散機を用いて均一に混合・分散し、得られた分散液を容器に入れて室温下で凝固させ、その後流水で粗熱を取り除くことにより、豆腐を調製することができる。
【0027】
続いて、調製された豆腐を一定の大きさに切り分け(カット)して容器に密封し、次にカットされた豆腐を該容器ごと加熱および冷却すること(ボイルクール工程)によりカット豆腐が製造される。
【0028】
豆腐をカットして容器に密封する方法に特に制限はなく、慣用の装置を用いて、常法により実施することができる。ボイルクール工程の実施の方法に特に制限はないが、例えば、容器に密封された豆腐を加熱槽に入れ約70〜95℃で約15〜40分間加熱し、次に該豆腐を冷却槽に入れ約1〜10℃で約20〜60分間冷却することが好ましく行われる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
豆乳(固形分濃度13質量%)600gを、1L容ガラス製ビーカー(直径115mm)に入れ、80℃に調温した。その豆乳に水中油型乳化油脂組成物(製品名:フレンジー102;理研ビタミン社製)30gおよび凝固剤(製品名:にがり伝説−501;理研ビタミン社製)4gを添加し、クレアミックス(型式:CLM−0.8S;エムテクニック社製)を用いて、6500rpmで60秒間攪拌・分散した。得られた分散液をプラスチック製容器(縦153mm、横113mm、高さ48mm)に注ぎ、該容器に蓋をして、20分間静置して凝固させた。得られた凝固物から円柱状の豆腐(直径75mm、高さ30mm)を切り出し、これらを各々プラスチック製容器(円柱状、直径100mm、高さ40mm)に入れ、該容器を水で満たした上で、該容器の上部をシールし、密封した。次いで、容器に密封された豆腐を加熱槽に入れて85℃で40分間加熱した後、氷水に入れて40分間冷却し、カット豆腐(実施品)を得た。
【0031】
また、対照として、実施例に記載の水中油型乳化油脂組成物を添加しなかったこと以外は実施例と同様に実施し、カット豆腐(対照品)を得た。
【0032】
上述した方法により作製したカット豆腐(実施品3個および対照品3個)について、ボイルクール工程により生じた鬆立ちの程度を目視にて観察して評価した。下記5段階の基準に従い、各3個の評価点数の平均値を求めた結果を表1に示す。
5は豆腐表面の細かい穴がまったく見られないことを表わす。
4は豆腐表面の細かい穴があまり見られないことを表わす。
3は豆腐表面の細かい穴がやや見られることを表わす。
2は豆腐表面の細かい穴が見られることを表わす。
1は豆腐表面の細かい穴がとても多く見られることを表わす。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の製造方法により得られたカット豆腐は、対照品に比べ、豆腐表面の細かい穴があまり見られなかった。従って、本発明の製造方法によれば、ボイルクール工程において生じる鬆立ちを十分に抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と糖類と乳化剤とを含有する水中油型乳化油脂組成物を豆乳に添加し、次に凝固剤を加えて該豆乳を凝固させて豆腐を調製する工程と、該豆腐をカットして容器に密封し、次にカットされた豆腐を該容器ごと加熱および冷却する工程とを含むこと特徴とするカット豆腐の製造方法。

【公開番号】特開2010−75105(P2010−75105A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248376(P2008−248376)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】