説明

カップホイール用基板およびその製造方法並びにカップホール

【課題】コンクリートや石材等の硬脆材からなる被削材の研削作業に供されるカップホイールであって、その基板を改善して高速回転時における安定性を維持しつつ、その軽量化を図って作業者の負担を軽減し、併せてその製造コストの低減化を図る。
【解決手段】円形の鋼製基板の軸心に電動工具へ取付け孔を有する凹部が形成され、該凹部の外側の端部から基板の外周端部に至る平坦面に、砥粒層取着領域が設けられるカップホイール用基板において、前記凹部の壁面から前記砥粒層取着領域の平坦面の略中央部にかけて且つ前記基板の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて凹状のリブを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート、石材、タイル、煉瓦等の各種建材や鋳物などの硬脆材からなる被削材に対し、平面研磨等の研削加工を施す際に好適に用いられる研削工具に係り、詳しくは御影石や大理石に代表される天然石、或いは人工大理石、タイル、瓦、煉瓦、サイディングボードなどを含む人口石材のスラブ板(平板)等を、高い精度を以って研削加工するための、研削面にダイヤモンド砥粒層若しくはcBN砥粒層を取着してなるカップホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、建築用資材として各種天然石や人工大理石等(以下、単に「石材」ということがある。)に加えて、上記のような各種硬質材料が数多く採用され、これらの硬質材料からなる被削材の表面を、所望の寸法や形状に精度良く研削加工するための平面研削工具として、円形の鋼製基板の軸心に形成された電動工具への取付け孔の周辺部分にお椀型(カップ状)の凹みを設け、該凹み部分を除いた外側の平坦面を砥粒層取着領域とし、該領域にダイヤモンド砥粒やcBN砥粒を主成分とする砥粒層を、連続的もしくは間歇的に取着したカップホイールが広く用いられている。これらのカップホイールは通常グラインダー、サンダー等の手持ち式回転電動工具のスピンドルに、その取付け孔をスピンドルの軸心に対して直交状態で嵌挿して締結され、平面研削加工等の手作業に供されるが、高速で回転する電動工具を手にして被削材に対する研削加工を行う場合、その振動によってもたらされる作業の困難性や作業者への健康的障害を回避するため、カップホイールのスピンドルへの締結手段として、特殊な金属部材とクッション材とからなる緩衝材を用いたドライサーフェーサー(例えば、特許文献1参照)を初め数多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、研削作業中に発生する切粉を効率的に排出して良好な作業環境と、被削材に対する精度の良い研削仕上がり面を得ることを目的として、基板の砥粒層取着領域となる平坦面と電動工具への取付け孔との間にある傾斜面に、集塵用の貫通孔を設けると共に、該貫通孔の基板正面側(基板内面側)と基板背面側(基板外面側)とにそれぞれ特定の凹部を形成し、砥石の回転に伴って強制的な空気の流れを発生させ、切粉の排出能力を高めたカップ型砥石(例えば、特許文献2参照)のほか、基板の砥粒層取着領域にレーザー溶接によって砥粒層を取着する際、強固な接合を実現する手段として砥粒層が接合される基板の外周縁部に基板の厚さ方向に貫通する孔を形成し、砥粒層が基板外周縁と接触する外周と前記孔の部位に対してそれぞれレーザー溶接を行って、砥粒層の幅方向にみた溶接箇所の増加と、砥粒層の中央部と周辺部との熱影響の均一化を図ることにより、基板と砥粒層との強固な接合を実現したカップ型砥石(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開2000−326197号公報
【特許文献2】特開2003−103469号公報
【特許文献3】特開2003−225870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記各従来技術において、特許文献1において提案されるドライサーフェーサーにおいては、用いられる緩衝リングの作用によって高速回転中のカップホイールの、研削作業中の振動が効果的に抑制され、特許文献2のカップ型砥石によれば研削作業によって生ずる切粉がスムースに排出され、また、特許文献3の砥粒層の接着方法によると基板と砥粒層の強固な接合が実現されるなど、それぞれ所期の目的を達成している。ところが上記の各従来技術においては、通常カップ型に形成される鋼製基板が例えば中実体(ムク材)からなる鋼製材料に対し、旋盤等の機械的手段によってカップ(お椀)形状に削り出し加工を施すことによって形成されるため、加工効率に難がある上に材料費が嵩んで基板そのものが高価につくという問題があり、一方、上記のコスト面を改善する手段として、鋼製の平板に対してプレス加工を施すことによって、カップ形状に成形した基板についても提案されているが、高速回転によってもたらされる遠心力に対する充分な耐力が確保できず、さらには塑性変形を起こすことも懸念されるため、鋼製基板にある程度の厚さをもたせることによって強度維持が図られているが、結果としてカップホイールそのものの重量が増し、研削作業時における作業者の負担が大きくなる上に、手振れを招いて研削面の仕上がりの精度に問題が残るなど、早急に解決を望まれる課題が残されていた。
【0005】
従って、本発明の課題は、コンクリートや石材等の硬脆材からなる被削材の研削作業に供されるカップホイールにおける高速回転時における安定性を維持しつつ、その軽量化を図って作業者の負担を軽減し、併せてその製造コストの低減化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カップホイールにおける上記の課題を解決することを所期の目的とするものであり、カップホイールの高速回転時における安定性を維持しながらその軽量化を図って作業者の負担を軽減し、併せてその製造コストの低減化を図るためには、基板そのものの形状に改善を施すと共に、その加工手段に改良を加えることに着目して種々検討した結果、基板の凹部の壁面から砥粒層取着領域の平坦面の略中央部に至る部位に補強用のリブを設けることと、該リブの形成手段を含む基板の加工方法として、プレスによる成形加工を主体的に採用することにより、製造工程が大幅に簡素化されることを見出して本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、上記従来の課題を解決したものであって、円形の鋼製基板の軸心に電動工具へ取付け孔を有する凹部が形成され、該凹部の外側の端部から基板の外周端部に至る平坦面に、砥粒層取着領域が設けられるカップホイール用基板において、前記凹部の壁面から前記砥粒層取着領域の平坦面の略中央部にかけて且つ前記基板の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて凹状のリブが形成されることを特徴とするカップホイール用基板を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、前記リブが2〜16の範囲で設けられることを特徴とする前記カップホイール用基板を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、前記リブとこれに隣接するリブ間の砥粒層取着領域に、抜き穴が設けられることを特徴とする前記カップホイール用基板を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、円形の鋼製基板材の軸心に電動工具への取付け孔を設けると共に、該取付け孔の周辺部分にプレスによる成形加工を施すことによって、所定の深さと外径を有する凹部を形成すると共に、該凹部の外側の端部から基板の外周端部に至る平坦面に砥粒層取着領域を形成し、さらに前記凹部の壁面から前記砥粒層取着領域の平坦面の略中央部にかけて且つ前記基板の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて凹状のリブを形成することを特徴とするカップホイール用基板の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記リブを2〜16列の範囲で設けることを特徴とする前記カップホイール用基板の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、前記リブとこれに隣接するリブ間の砥粒層取着領域に、抜き穴を設けることを特徴とする前記カップホイール用基板の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、前記円形の鋼製基板材、該基板材の軸心に設けられる電動工具への取付け孔、前記砥粒層取着領域に設けられる抜き穴が、それぞれプレスによる打ち抜き加工によって施されることを特徴とする前記カップホイール用基板の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記カップホイール用基板の砥粒層取着領域の平坦面部分に、セグメントタイプおよび/またはリムタイプの砥粒層、或いはバインダーを介して直接砥粒を取着して得られることを特徴とするカップホイールを提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記砥粒層の取着手段がろう接、溶接、電着、溶着および真空ろう付けのいずれかであることを特徴とする前記カップホイールを提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記砥粒層がダイヤモンド砥粒若しくはcBN砥粒を主成分とする砥粒層であることを特徴とする前記カップホイールを提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるカップホイール用基板は、円形の鋼製基板におけるカップ状(略お椀型)凹部の壁面から、基板の外周端部に至る砥粒層取着領域のほぼ中央付近に達する平坦面にかけて且つ前記基板の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて凹状のリブが形成されることにより、基板強度が著しく向上して基板の厚さを極限に近くまで薄くすることが可能となり、砥粒層取着後のカップホイールとしての重量を極めて低く抑えることができる。また、該基板の製造方法は、その主体的加工手段がプレスによる成形加工であるため、工程が極めて簡略で加工コストが大幅に削減され、かつ鋼製の平板を素材として採用することにより、中実体からの削りだし加工に比較して材料費が削減されることと相俟って、基板そのもののコストを大きく削減することができる。このようにして得られた本発明のカップホイール用基板の砥粒層取着領域に、リムタイプ若しくはセグメントタイプ、或いは両者を適宜に組み合わせて砥粒層を取着するか、該砥粒層取着領域にバインダーを介して直接砥粒を取着することによって、本発明によるカップホイールが得られるが、該カップホイールを用いて被削材に対する研削作業に携わる作業者は、カップホイールの軽量化に伴いその負担が大幅に軽減され、手振れが効果的に抑制され、効率的でかつ安定的に作業を継続することが可能となると共に、精度的にも優れた仕上がり面を得ることができる。また本発明によるカップホイールは、基板に設けられたリブによってその表面積が大きくなり、放冷効果が増大してカップホイールとしての研削性能がさらに向上する。さらにリブによって基板強度が確保されることによって、基板の砥粒層取着領域に適宜に抜き穴を設けることが可能となり、基板の軽量化に一層寄与すると同時に、設けられた該抜き穴が放冷効果に加え切粉の排出にも効果的に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良の形態について添付した図面並びに実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって拘束されるものではなく、本発明の主旨の範囲内において自由に設計変更が可能である。
【0019】
本発明の第1の実施の形態におけるカップホイール用基板を図1〜図4を参照して説明する。図1は本例のカップホイール用基板の正面図、図2はその背面図、図3はその平面図、図4(A)は図1のX−X線に沿って見た端面図、(B)は図1のY−Y線に沿って見た端面図である。なお、本明細書中、「正面」あるいは「前面」は砥粒層取着側を言い、「背面」はその反対側を言う。
【0020】
カップホイール用基板1は、円形の鋼製基板110の軸心に電動工具へ取付け孔4を有するカップ状の凹部3が形成され、凹部3の外側の端部14から基板の外周端部12に至る平坦面11に、砥粒層取着領域111が設けられたものである。
【0021】
すなわち、凹部3は背面側に若干縮径する略筒状の壁部32と背面側の取付け孔4を有する平坦面の底部33からなる。壁部32と底部33の接続部はアール状となっている。そして、凹部3の傾斜状の壁面32から砥粒層取着領域111の平坦面11の略中央部にかけて且つ基板110の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて複数、本例では8つの半長円形の凹状のリブ2が形成されている。リブ2の凹状部分21は図1のように、砥粒層取着領域111側から見た場合に表れるものであり、図2の背面側から見た場合は、リブ2は凸面22として表れる。リブ2の軸芯側の先端位置は壁面32のいずれの場所であってもよいが、本例のように壁面32の背面側の端部13近傍とするのが、リブ2の効果が顕著に発揮できる点で望ましい。
【0022】
本発明のカップホイール用基板において、凹状のリブ2の形成数は2〜16、好ましくは4〜12の範囲で適宜選択される。リブ2が1つでは補強効果が十分でなく、17以上になると砥粒層取着領域111が限定的となる上に加工費が嵩んで望ましくない。凹状のリブ2における両端のアール部以外における部分の深さ及び幅wとしては、深さが1〜4mmの間で、幅が2〜8mmの間で適宜選択される。また、基板の背面に表れるリブ2の凸状の高さ、すなわち、凹部表面から突出する高さhとしては、1〜4mm程度である。
【0023】
複数の半長円形の凹状のリブ2を設けることによって、基板110の強度が向上すると共に、基板の面積が増大して放熱効果が高まる。また、リブ2を基板110の軸芯から周方向を縦割りに等分することによって、その回転方向のバランスを維持することができる。
【0024】
本発明のカップホイール用基板において、凹部3の壁面32は、本例のような傾斜状に限定されず、鉛直壁や丸み状壁であってもよい。
【0025】
カップホイール用基板1は、通常厚さが1.5〜3.5mmの鋼板に対する打ち抜き加工を施し、軸心部分に電動工具への取付け孔4を有する外径が90〜180mmの円盤状の鋼製基板材を作製し、次いで、取付け孔4の周辺部分にプレスによる成形加工を施すことによって、所定の深さと外径を有するカップ状の凹部4を形成すると共に、凹部4の外側の端部から基板110の外周端部12に至る平坦面11に砥粒層取着領域111を形成し、さらに凹部4の壁面32から砥粒層取着領域111の平坦面11の略中央部にかけて且つ基板110の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて凹状のリブ2をプレスによる成形加工によって形成する方法によって得ることができる。
【0026】
本発明のカップホイール用基板の製造方法において、円形の鋼製基板に対する取付け孔周辺の凹部の形成と、該凹部の壁面から砥粒層取着領域のほぼ中心部に達する複数の半長円形のリブの形成は、前者のプレス成形を先に行ない、その後後者のプレス成形を行う2段階成形であっても、凹部とリブの成形を同時に行なう1段階成形であってもよい。凹部とリブの成形を同時に行なうことによって、製造工程の一層の簡略化を図ることができる。さらに、本発明によるこれらのプレスによる成形加工に際し、所定の冷間加工法を採用することも、或いはまた、加工による歪を修正するために機械的加工を施すことも任意である。
【0027】
本発明の第2の実施の形態におけるカップホイール用基板を図5を参照して説明する。図5は本例のカップホイール用基板の正面図である。図5において、図1と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し異なる点について主に説明する。すなわち、図5において、図1と異なる点はリブ2とこれに隣接するリブ2の間に基板110を貫通する抜き穴15を形成した点にある。すなわち、本例のカップホイール用基板1aでは、リブ2とこれに隣接するリブ2で構成される一対のリブを、ひとつ置きに選択して、抜き穴15を4つ形成したものである。基板110に抜き穴15を設けることで、基板の軽量化に一層寄与すると同時に、設けられた該抜き穴が放冷効果に加え切粉の排出にも効果的に寄与する。
【0028】
なお、本発明のカップホイール用基板1aにおいて、抜き穴15はリブ2とこれに隣接するリブ2間の全てに形成してもよい。また、抜き穴15の形状、数及び大きさは特に制限されないが、基板110の強度や砥粒層取着領域111としての面積の確保を優先的に考慮することが望ましい。また複数の抜き穴15は、軸芯から周方向を縦割りに等分して形成することが、周方向のバランスがとれる点で好ましい。抜き穴15はプレスによる抜き打ち加工により成形されるが、凹部3の取付け孔4を成形する際、同時に成形すればよい。
【0029】
本発明の実施の形態におけるカップホイールを図6〜図9を参照して説明する。図6は本例のカップホイールの正面図、図7はその平面図、図8は他の形態におけるカップホイールの正面図、図9はその平面図である。図6〜図9において、図5と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し異なる点について主に説明する。すなわち、図6〜図9において、図5と異なる点は上記の如くして得られたカップホイール用基板1aの砥粒層取着領域111に、ダイヤモンド砥粒若しくはcBN砥粒を主成分とする砥粒層6を取着した点、又はダイヤモンド砥粒若しくはcBN砥粒を接合した点にある。
【0030】
図6及び図7のカップホイール10は、基板110の砥粒層取着領域111に砥粒層6を間歇的に取り付けたセグメントタイプであるが、これ以外に連続的に取り付けられるリムタイプ、或いはそれらを適宜に組み合わせて取り付けたものでもよい。また、図8及び図9のカップホイール10aは、基板110のリブ2の凹状部分21と抜け穴15を除く砥粒層取着領域111に低融点金属などからなるバインダーを介して、直接的にダイヤモンド砥粒若しくはcBN砥粒6aを接合したものである。
【0031】
本発明のカップホイールにおいて、上記のような砥粒や砥粒層構造は被削材に対する研削加工の目的や用途に応じて適宜に選択することができるが、いずれの用途に対してもカップホイール10は基板110に形成されるリブ2の作用によって、基板110の強度が著しく向上することによりその厚さを極端に薄くすることが可能となり、基板自体の重量が大幅に軽くなって、結果としてカップホイールそのものの重量が軽減され、これを用いて研削作業に従事する作業者の負担も同時に大幅に軽減される。
【0032】
本発明のカップホイールにおいて、カップホイール用基板に対する砥粒層の接合手段は、両者が強固に固着される方法であれば溶接やろう付など、従来公知の方法を適宜に採用することを否定しないが、セグメントタイプのカップホイールの場合、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒からなる超砥粒と、コバルト、ブロンズ、鉄、ニッケル、炭化タングステン若しくはこれらの各種混合物からなる各種ボンドマトリックスとを、各種バインダーを介して所定の混合比で混錬した砥粒層の成形と、該砥粒層の鋼製基板への結合を同時に行う所謂同時焼結法を採用することが、工程の簡素化による製造コストの削減と、製品の品質を安定的に確保する上で望ましく、また、砥粒層を基板の砥粒層取着領域に直接的に取着する場合は、各種バインダーを介して電着によって接合することが工程の簡略化と、安定的接合を確保する上で望ましい。
【実施例1】
【0033】
板厚が2.3mmの鋼板材に対する打ち抜き加工を施すことによって、外径が98mmで軸心に内径15mmの取付け孔を有する円盤状の鋼製基板材を得た。次いで該鋼製基板材の前記取付け孔の周囲に対するプレスによる成形加工を施すことによって、図1〜図4に示すような壁面が傾斜面となるカップ状(略お椀形)の凹部を形成した。凹部の形状は基板の前面から底部までの深さが11.7mm、その裏面から見た外周の径が51mm、底部と傾斜面との接続部がアール形状であり、底部には傾斜面に連なる取付け孔との間に、有効平面がφ32mm以上の平坦面を有するものであった。該底部の平坦面は電動工具のスピンドルへの取付けに際し、その有効平面がφ32mm以上であることによって均一でかつ強固な締結が確保される。
【0034】
このプレスによる成形加工によって、軸心付近に形成された前記凹部を除いた基板材の外周端部に至る平坦面の前面が、砥粒層取着領域となるカップホイール用基板が形成された。次いで、前記の基板に対して、さらに重ねてプレスによる成形加工を施し、軸心の周辺に形成された前記カップ状凹部の壁面から基板の前記砥粒層取着領域のほぼ中央部に至る平坦面の前面から背面にかけて、図1〜図4に示すように円盤状の鋼製基板の軸芯から周方向を8等分に分割して、8列の半長円形の凹部からなるリブを形成した。
【0035】
基板の前面から見た該リブは、図1に示すように基板の軸心周辺に形成された前記凹部の外側の端部近傍を基点として、その軸心方向に延びた先端が前記底部の外側のアール部分に達し、その外周方向に延びた先端が前記砥粒層取着領域の略中心部分に達して、平均深さが2mmの半長円形の凹部として形成され、反対に該基板の背面から見た該リブは、図2および図3に示すように蒲鉾型の半長円形凸面として形成された。
【0036】
このようにして得られた本実施例によるカップホイール用基板は、該基板に形成された前記リブを除いた砥粒層取着領域に、その目的に応じて任意所望の砥粒層を取着することによって、平面研削用のカップホイールとして供されるが、その基板の厚さは前記したように2.3mmであり、市販されている同種のカップホイールの基板の通常の厚さ3.1mmに比較すると、概略30%程度薄くなっているところから、カップホイールとしての重量も同様に3割程度軽減化されていることが確認された。
【実施例2】
【0037】
図5示すように基板に形成されたリブを除いた砥粒層取着領域に、4つの抜き穴を設けた以外は実施例1と同様にしてカップホイール用基板を得た。基板に設けられた抜き孔は、砥粒層取着領域に形成された8列のリブの間で、基板の軸芯から周方向を縦割りに4等分してその孔径が12mmの貫通孔として形成され、該4つの抜き孔によって本実施例による基板の重量はさらに5%程度軽減され、これを用いたカップホイールの重量もそれに比例して軽量化されることが確認された。
【実施例3】
【0038】
実施例2で得られたカップホイール用基板における、リブおよび抜き穴を除いた砥粒層取着領域に、ダイヤモンド砥粒を主成分とする厚さ4.5mmの砥粒層を、ろう付けによって接合して図6及び図7に示すようにセグメントタイプのカップホイールを得た。得られた該カップホイールを人工大理石からなるスラブ板の表面研削作業に供した結果、接合された前記砥粒層の厚さによって、セグメントタイプのカップホイール特有の切れ味と寿命を大幅に改善しているにも拘らず、その重量は基板1aの重量が軽量であることによって大幅に抑制され、しかも基板に形成されたリブが基板の強度低下を補うことにより、高速回転を伴う研削作業においても安定的な回転運動が保たれ、研削作業に携わる作業者の負担が軽減されて研削面の良好な仕上がりが確保された。また、前記リブによって基板の面積が増大すると共に、該基板に形成された前記抜き穴によってもたらされる風冷効果によってその蓄熱が効率良く妨げられ、砥石面の切れ味が長時間にわたって維持され、かつ該抜き穴が切り粉の排出に寄与して研削面の良好な仕上がりが維持された。このように本実施例によって得られたセグメントタイプのカップホイールは、基板の軽量化によって接合される砥粒層をより一層厚くすることが可能となり、蓄熱が効果的に抑制されて被削材に対する鋭い切れ味を長時間にわたって維持すると共に、切粉の排出を良好にして精度的に優れた研削面が得られることが確認された。
【実施例4】
【0039】
実施例2によって得られたカップホイール用基板における、リブおよび抜き穴を除いた砥粒層取着領域に、低融点金属粉を主成分とするバインダーを介して、電着によってダイヤモンド砥粒からなる砥粒層を取着して、図8及び図9に示すようなオフセットタイプのカップホイールを得た。得られた該カップホイールを用いて実施例3と同様の人工大理石からなる被削材に対する表面研削作業に供した結果、被削材に対する砥粒層の食い込みや鋭い切れ味は、上記実施例3のカップホイールには及ばないものの、研削面はほぼ鏡面状に仕上げられ、精度的に優れた平面研削作業が確保されることが確認された。なお本実施例によるカップホイールも軽量で、かつ放熱や切り粉の排出は良好な状態で確保され、砥石としての寿命や良好な仕上がり面の確保に充分貢献していることが確認された。
【0040】
本発明における上記のカップホイール用基板は、通常炭素工具鋼からなる所定の板厚の板材が用いられ、該板材に対する所定の金型を用いた打ち抜き加工を施すことによって円形(円盤状)の鋼製基板材が形成されるが、本発明においては用いられる鋼板材の板厚を大幅に薄くすることができるために、該円形の鋼製基板材の形成時に、同時に軸心の取付け孔や抜け穴を形成することも可能であり、このことによって基板形成時の工程をより簡略化することができる。
【0041】
また、本発明のカップホイール用基板の製造方法における加工手段は、基板として用いられる鋼板の板厚を薄くしたことによってプレスによる成形加工を主体的に採用するものであり、このことによって基板の製造工程を簡略化し、その製造コストを大幅に改善することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳述したように本発明によるカップホイール基板は、基板に形成された複数の半長円形の凹部からなるリブによって、その強度が高いレベルで維持され、素材となる鋼板の厚さを大幅に薄くすることができるために、得られるカップホイールの重量をより軽量化することが可能となる。また、形成されるリブによって基板面積が増大してその放熱効果が砥石の寿命と鋭い切れ味を長時間に亘って維持し、研削作業に携わる作業者の負担が大幅に軽減され、未熟な作業者であっても良好な仕上がり面を容易に得ることが可能となる。さらに鋼板の厚さを薄くすることによって基板の加工手段として、プレスによる成形加工を主体的に採用できるところから、その製造工程を簡略化して大幅なコスト削減が実現できるため、当該産業分野において幅広く採用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1の実施の形態におけるカップホイール用基板の正面図である。
【図2】図1の背面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】(A)は図1のX−X線に沿って見た端面図、(B)は図1のY−Y線に沿って見た端面図である。
【図5】第2の実施の形態におけるカップホイール用基板に正面図である。
【図6】本例のカップホイールの正面図である。
【図7】図6の平面図である。
【図8】他の形態におけるカップホイールの正面図である。
【図9】図8の平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1、1a カップホイール用基板
2 リブ
3 カップ状凹部
4 取付け孔
6、6a 砥粒層
10、10a カップホイール
12 基板の外周端部
21 半長円形凹部
22 凸面
31 外側の端部
32 壁面
33 底部
111 砥粒層取着領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の鋼製基板の軸心に電動工具へ取付け孔を有する凹部が形成され、該凹部の外側の端部から基板の外周端部に至る平坦面に、砥粒層取着領域が設けられるカップホイール用基板において、前記凹部の壁面から前記砥粒層取着領域の平坦面の略中央部にかけて且つ前記基板の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて凹状のリブが形成されることを特徴とするカップホイール用基板。
【請求項2】
前記リブが2〜16の範囲で設けられることを特徴とする請求項1に記載のカップホイール用基板。
【請求項3】
前記リブとこれに隣接するリブ間の砥粒層取着領域に、抜き穴が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載のカップホイール用基板。
【請求項4】
円形の鋼製基板材の軸心に電動工具への取付け孔を設けると共に、該取付け孔の周辺部分にプレスによる成形加工を施すことによって、所定の深さと外径を有する凹部を形成すると共に、該凹部の外側の端部から基板の外周端部に至る平坦面に砥粒層取着領域を形成し、さらに前記凹部の壁面から前記砥粒層取着領域の平坦面の略中央部にかけて且つ前記基板の軸芯から周方向を縦割りに等分して、前面から背面にかけて凹状のリブを形成することを特徴とするカップホイール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記リブを2〜16列の範囲で設けることを特徴とする請求項4に記載のカップホイール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記リブとこれに隣接するリブ間の砥粒層取着領域に、抜き穴を設けることを特徴とする請求項4または5に記載のカップホイール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記円形の鋼製基板材、該基板材の軸心に設けられる電動工具への取付け孔及び前記砥粒層取着領域に設けられる抜き穴が、それぞれプレスによる打ち抜き加工によって施されることを特徴とする請求項6に記載のカップホイール用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至3のカップホイール用基板の該砥粒層取着領域の平坦面部分に、セグメントタイプおよび/またはリムタイプの砥粒層、或いはバインダーを介して直接砥粒を取着して得られることを特徴とするカップホイール。
【請求項9】
前記砥粒層の取着手段がろう接、溶接、電着、溶着および真空ろう付けのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載のカップホイール。
【請求項10】
前記砥粒層がダイヤモンド砥粒若しくはcBN砥粒を主成分とする砥粒層であることを特徴とする請求項8または9に記載のカップホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−52045(P2010−52045A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216195(P2008−216195)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(390010685)三京ダイヤモンド工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】