説明

カドミウムフリーデンプンの調製法

【課題】 重金属を含有する植物から重金属を除去する方法を提供し、重金属含有植物の有効利用を提供すること。
【解決手段】 特定の溶液中にて米粉を攪拌する工程を包含することによって、アミロペクチンおよびアミロースの分子構造ならびにデンプン粒の形態を損なうことなく玄米または精米から重金属を含まない米デンプン粉末を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含有する植物から重金属を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の生物資源に重金属が蓄積されることが問題となっている。重金属は、古くから種々の用途に用いられているが、環境中(例えば、土壌、地下水、海洋など)に排出された重金属は、生育する動植物の生育を妨げるだけでなく、このような重金属が動植物に取り込まれて蓄積されると、食物連鎖にしたがってやがてヒトに取り込まれてしまうという危険性がある。このように重金属を蓄積してしまった動植物は、再利用されることなく焼却処分に付されている。
【0003】
米デンプンの供給源であるコメもまた、重金属を多く含有する土壌で栽培されることによって重金属を吸収かつ蓄積してしまう。例えば、カドミウムは人体に吸収または蓄積されると種々の疾病(例えば、腎障害)を引き起こす。そのため、米のカドミウム含有量は規制されている。カドミウムを含有する米は、カドミウム濃度が0.40〜1.00ppmの場合は工業用に利用され、1.00ppm以上の場合は焼却処分に付されている。
【0004】
しかし、焼却時に生じる噴煙中にカドミウムが含まれてしまう可能性も否定することができないので、カドミウム含有米は、ただ焼却すればよいというものでもない。また、工業用とはいえ不要にカドミウムを含有する物質を用いて製造した製品が生活空間において使用されることは好ましくない。
【0005】
食用として用いることができないカドミウム含有米(カドミウム含有量が0.4ppm以上)が国内で2〜3,000T/年も存在していることからも、カドミウム含有米を有効利用する技術が望まれている。
【0006】
焼却処分されてきた重金属含有植物または重金属含有動物を有効利用するために、これらから重金属を除去する方法がいくつか提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、カドミウム汚染米の外皮部を除去した後に粉砕して得たデンプンを消石灰およびキレート剤とともに攪拌して水洗すれば、カドミウム汚染米からカドミウムを除去し得るということが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、未利用有機資源に含有されている重金属を、有機酸または鉱酸と微生物の分泌する酵素を用いて解離し、さらに重金属イオンを捕捉する機能を有する媒体を用いて捕捉するという、重金属を含有する未利用有機資源を再利用するための方法が記載されている。特許文献3には、キノコの抽出液にアパタイトを作用させて抽出液から重金属を除去する方法が記載されている。さらに、特許文献4には、乳酸菌などを含む培養液中に植物を浸漬して発酵処理を行い、植物に含まれる重金属を該培養液に移行させるという、焼却処分されてきた植物から重金属を除去する方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭52−90649号公報(昭和52年7月30日公開)
【特許文献2】特開2001−137810公報(平成13年5月22日公開)
【特許文献3】特開2001−259303公報(平成13年9月25日公開)
【特許文献4】特開2004−33837公報(平成16年2月5日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らは、カドミウム含有米におけるカドミウムの分布は特許文献1に記載されているようなもの(すなわち、米の外部の皮質部にカドミウムが多く含有され、内部澱粉質の部分には僅少である)とは全く異なるものであることを見出し、特許文献1に記載の技術は実用的ではないことを見出した。すなわち、特許文献1に記載されている方法に従った場合、記載されているようにカドミウムが有効に除去されることはなかった。また、特許文献1には水溶液中の消石灰の濃度が何ら記載されておらず、記載されている量の消石灰を実用的な容量の水溶液に用いた場合には消石灰濃度が非常に高くなるため、デンプンの構造は維持されることはあり得ない。さらに消石灰を用いた場合は、処理後のデンプンを有効利用するためにはデンプンに結合するカルシウムを除去する必要があり、容易には実用化することができない。
【0010】
また、特許文献2〜4に記載される方法は、酸および/または微生物、あるいはキレート剤またはアパタイトなどを用いる方法であり、このような方法を用いた場合、重金属以外の成分までも変化させてしまう可能性が高く、デンプン粒子の構造を維持したまま重金属を生体に無害な量まで除去することができなかった。
【0011】
このように、米デンプンをその特性を維持したまま精製する場合、さらなる工程を付加することはやはり困難であり、すなわち、重金属を含有するコメから結晶構造を維持したまま米デンプンを精製する方法はこれまで全く知られていなかった。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、カドミウムなどの重金属を含有する植物から重金属を除去する、コストを最低限に抑えかつ最小限の工程数からなる方法を提供し、重金属含有植物の有効利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るアミロペクチンおよびアミロースの分子構造ならびにデンプン粒の形態を損なうことなく玄米または精米から重金属を含まない米デンプン粉末を調製するための方法は、
・玄米または精米を破砕して米粉を得る工程;
・アルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中にて該米粉を攪拌する工程;および
・該攪拌する工程の後の沈殿物を回収する工程
を包含することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る方法において、上記攪拌する工程が2回以上行われることが好ましい。
【0015】
本発明に係る方法において、上記攪拌する工程が1〜48時間の範囲で行われることが好ましい。
【0016】
本発明に係る方法において、上記アルカリ性溶液がNaOH水溶液であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る方法において、上記NaOH水溶液の濃度が0.2%(w/v)以下であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る方法において、上記重金属がカドミウムであることが好ましい。
【0019】
本発明に係る米デンプン粉末は、上記の方法によって調製されていることを特徴としている。
【0020】
本発明に係るデンプン製品は、上記の米デンプン粉末を用いて製造されていることを特徴としている。
【0021】
本発明に係る植物から重金属を除去する方法は、重金属を含有する植物をアルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中に浸漬する工程を包含することを特徴としている。
【0022】
本発明に係る植物から重金属を除去する方法において、上記植物は穀類であることが好ましい。
【0023】
本発明に係る重金属を含まないデンプン粉末を調製する方法は、重金属を含有する穀類をアルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中に浸漬する工程、および該溶液に浸漬した該穀類からデンプンを調製する工程を包含することを特徴としている。
【0024】
本発明に係る重金属を含まないデンプン粉末を調製する方法において、上記穀類はイネであることが好ましい。
【0025】
本発明に係る重金属を含まないデンプン粉末を調製する方法において、上記穀類は玄米、精米またはこれらを粉砕した米粉であることが好ましい。
【0026】
本発明に係る方法において、上記重金属がカドミウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明を用いれば、重金属(例えば、カドミウム)を含有する植物から重金属を効率的に除去することができる。本発明をカドミウム含有米に適用した場合は、デンプン本来の特性(糊化特性、粘弾性など)および構造(結晶型、デンプン粒の形態、アミロペクチンまたはアミロースの分子構造)を保持したままでデンプンを精製することができる。そのため、米デンプンを、食品および/または医薬品、化粧品などの素材として利用することができるだけでなく、安全な工業用接着剤および/または生分解性のデンプンプラスチックもしくはフィルムなどの素材として産業利用することができる。しかも、結晶構造を保持したデンプン粒子には所望の仔か状態を付与することができるため、これまで限定されていた米デンプンの利用範囲が格段に広がる。また、本発明は、試料の大量処理に適しているので、コストの面で大いに利点を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、重金属を含有する植物から重金属を除去する方法を提供する。本発明に係る方法において、植物は穀類であることが好ましく、より好ましくはコメ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ソルガム、ソバ、ジャガイモ、サツマイモ、クズ、カタクリ、ワラビであり、最も好ましくはコメである。
【0029】
一実施形態において、本発明に係る方法は、重金属を含まないデンプン粉末を調製する方法を提供する。本明細書中において使用される場合、デンプンは、コメ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ソルガム、ソバ、ジャガイモ、サツマイモ、クズ、カタクリ、ワラビなどの穀類に由来するものが意図され、米デンプンが好ましい。また、米デンプンは、玄米、精米またはこれらを粉砕した米粉のいずれを原料としてもよいが、重金属を容易に除去し得るという観点から、精米を粉砕した米粉を原料とすることが好ましい。
【0030】
デンプンは、分子式(C10で示される炭水化物(多糖類)である。デンプンは、多数のα−グルコース分子がグルコシド結合によって重合した天然高分子であって、構成単位であるグルコースとは異なる性質を示す。デンプン粒子の形状および性状(特に糊化特性)は由来する植物の種類によって異なる。デンプンの利用は非常に多岐にわたり、高分子特性を利用するものとしては、粘度安定剤、コロイド安定剤、保水剤、ゲル形成剤、繊維糊化デンプン、洗濯のり、接着剤糊化デンプンなどが挙げられる。
【0031】
デンプンはアミロースとアミロペクチンとからなり、直鎖状の分子であるアミロースは分子量が比較的小さく、枝分かれの多い分子であるアミロペクチンは分子量が比較的大きい。デンプンの直鎖部分は、グルコースがα1−4結合で連なったもので、分岐は直鎖の途中からグルコースのα1−6結合によるものである。アミロペクチンは、平均でグルコース残基約25個に1個の割合でα1−6結合による分枝構造を有する。アミロースおよびアミロペクチンはともに白色の粒粉状物質、無味無臭であるが、アミロースは熱水に溶解し、アミロペクチンは溶解しない。
【0032】
デンプンの精製は、植物が細胞内に貯蔵しているデンプン粒子を取り出すことによって行われる。デンプンを精製するためには、基本的には植物細胞の細胞壁を破壊すればよいが、原料となる植物の種類または用途によってタンパク質および/または脂質の除去が必要となる。原料となる植物としては、コメ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ソルガム、ソバ、ジャガイモ、サツマイモ、クズ、カタクリ、ワラビなどが挙げられる。植物の根、茎、種子または果実から抽出して精製する場合は、タンパク質および/または脂質の分離操作が必要とされる。
【0033】
また、デンプンを水中に懸濁し加熱すると糊化する。これは、デンプン粒子が吸水して次第に膨張し、加熱し続けると粒子が崩壊して溶解するために生じる。デンプンが糊化すると、白濁したデンプン懸濁液は次第に透明になると同時に、急激に粘度を増す。糊化したデンプンはαデンプンと呼ばれ、天然の結晶状態にあるデンプンはβデンプンと呼ばれる。デンプンの糊化は、結晶構造をとっているデンプン分子の隙間に水分子が入り込むことでその構造が緩み、各枝が水中に広がることによって生じる現象である。
【0034】
米デンプンは、アミロース含量が15〜20%、平均粒径2〜20μmであり、市販されているデンプンの中では最も小さい。米デンプンは古来より接着剤または粘結剤として使用されているが、これは、米デンプンが、その大きさおよびその角張った形状に起因して、微細な凹凸面に付着し平滑面とする効果が非常に大きいからである。従って、米デンプンの特性を生かしたデンプン製品を製造するためには、米デンプン粒子の構造が維持されていることが好ましい。
【0035】
しかし、一般的なタンパク質および/または脂質の分離に用いられる酸処理および/またはアルカリ処理は、デンプンの結晶構造を容易に破壊する。また、糊化したデンプン溶液を冷却することにより生じるデンプンの再結晶の結晶構造は、デンプン本来の結晶構造とは大きく異なってしまう。
【0036】
米デンプンは、粉砕したコメ胚乳部分から容易に得られるにもかかわらず、さらなる工程を付加するとデンプン本来の特性および構造を保持したまま精製することが難しくなるという非常に繊細なものである。しかし、本発明に係る方法に従えば、デンプン本来の特性および構造を保持したまま重金属を含まないデンプン粉末を得ることができる。
【0037】
本明細書中において植物の観点から使用される場合、「重金属を含む(含有する)」は、例えば、天然の農作物に限らず、食用または人体に取り込まれ得る形態でヒトに提供される植物生産物が、動植物の生育に影響を及ぼすであろうとされる値(例えば、法律などにより規制される値、医学上問題視される値、または社会通念上問題とされる値)よりも多く重金属を含んでいることが意図され、土壌の観点から使用される場合、かような植物生産物を生産し得る程度に土壌が重金属を含んでいることが意図される。
【0038】
1つの局面において、本実施形態に係る重金属を含まないデンプン粉末を調製する方法は、アミロペクチンおよびアミロースの分子構造ならびにデンプン粒の形態を損なうことなく玄米または精米から重金属を含まない米デンプン粉末を調製するための方法であり得る。本実施形態に係る方法は、玄米または精米を破砕して米粉を得る工程;アルカリ性溶液中にて該米粉を攪拌する工程;および、該攪拌する工程の後の沈殿物を回収する工程、を包含することを特徴としている。
【0039】
別の局面において、本実施形態に係る重金属を含まないデンプン粉末を調製する方法は、アミロペクチンおよびアミロースの分子構造ならびにデンプン粒の形態を損なうことなく玄米または精米から米デンプン粉末を調製するための方法であり得る。本実施形態に係る方法は、玄米または精米を破砕して米粉を得る工程;界面活性剤を含有する溶液中にて該米粉を攪拌する工程;および、該攪拌する工程の後の沈殿物を回収する工程、を包含することを特徴としている。
【0040】
本明細書中において使用される場合、アルカリ性溶液としては、8〜14の範囲のpHを有する溶液であれば特に限定されないが、好ましくは、NaOH水溶液である。また、NaOH水溶液の濃度範囲としては、好ましくは0.4%(w/v)以下、より好ましくは0.2%(w/v)以下、さらに好ましくは0.1%(w/v)以下である。
【0041】
本明細書中において使用される場合、界面活性剤としては、当該分野において公知の界面活性剤であれば特に限定されないが、好ましくはSDSである。また、界面活性剤の濃度範囲としては、好ましくは4%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1〜0.5%である。
【0042】
本実施形態に係る重金属を含まない米デンプンを調製する方法によれば、アルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中にて米粉を攪拌することによって米粉中に存在する重金属を洗い流すことができる。米粉の攪拌は、所望の温度条件下にて実施可能であるので、余分な昇温設備も冷却設備も必要としない。また、攪拌に要する時間は、1〜48時間、好ましくは12〜24時間である。さらにアルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中での米粉の攪拌は、2回以上行うことが好ましい。また、2回以降の攪拌も1回目と同様に12〜24時間行うことが好ましい。
【0043】
上記攪拌を行い、沈殿物を水で十分に洗浄した後に乾燥させると、目的のデンプン粒子を得ることができる。また、水をエタノールなどで置換することによって沈殿物を容易に乾燥させることができる。
【0044】
本実施形態に係る方法によれば、重金属を含まない米デンプンを玄米または精米から調製することができる。さらに本実施形態に係る方法に従って調製した米デンプンは、デンプン本来の特性(アミロペクチンおよびアミロースの分子構造ならびにデンプン粒の形態)を保持している。したがって、本実施形態に係る方法に従って調製した米デンプンは、本明細書中に記載される種々の用途に容易に適用することができる。
【0045】
本明細書中においてカドミウム含有米を例に本発明を説明しているが、本明細書中において使用される場合、用語「重金属」は、比重が4.0以上の金属が意図され、カドミウム以外に、例えば、亜鉛、アンチモン、クロム、コバルト、水銀、スズ、鉄、銅、鉛、ニッケル、マンガンなどが重金属として挙げられる。また、本明細書中において使用される場合、「重金属」は上記金属単体であっても、酸化物や硫化物などの化合物、糖やタンパク質などの有機物と上記金属とが結合した有機金属体であってもよい。本発明を用いれば、上記重金属のなかでも、カドミウムおよび亜鉛の除去効果が特に高い。また、本発明を用いる対象の植物は穀類だけに限定されず、穀類、野菜類、果実類、キノコ類、いも類、種実類、豆類、藻類などもまた本発明を用いる対象として挙げられる。
【0046】
本発明の方法に従って得られた米デンプンは、米デンプン本来の結晶型、デンプン粒の形態、アミロペクチンまたはアミロースの分子構造を有するとともに、特定の糊化特性および粘弾性を有する。
【0047】
本発明はさらに、種々のデンプン製品を提供する。デンプン製品は、製薬業界においても利用されており、高品質化が要求されている。また、農薬の素材としてもまた有用なデンプン製品は、自然界に影響を及ぼさない安全なデンプン製品が求められている。さらに、デンプン製品は、飼料用途として、魚類飼料の粘結剤、膨化剤、ドライペレット、モイストペレットなど様々な養魚用飼料材料として使用されている。本発明に係るデンプン製品は、本発明に係る米デンプンの有する特性(すなわち、特定の糊化特性および粘弾性)を利用することによって製造され得る。
【0048】
本明細書中において使用される場合、デンプン製品は、植物由来の天然のデンプンを含むことが好ましく、コメ、コムギ、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、クズ、カタクリなどに由来するデンプン単独または2つ以上の混合物を含むことが好ましく、米デンプンを含むことが最も好ましい。また本明細書中において使用される場合、デンプン製品は、加工デンプンを含んでもよい。加工デンプンは、酸化、酸処理、酵素処理、エステル化、エーテル化架橋化などの反応を1種もしくは2種以上組み合わせて生成されたデンプンが意図され、加工デンプンとしては、化学的に変性されたもの(例えば、分解デンプン(デキストリン、酸処理デンプン、酸化デンプンなど)、誘導体デンプン(架橋デンプン、デンプンエステル、デンプンエーテル、グラフト共重体など)など)、物理的に変性されたもの(例えば、α化デンプン、分別アミロース、湿熱処理デンプンなど)または酵素的に変性されたもの(例えば、デキストリン、アミロースなど)が挙げられる。
【0049】
すなわち、本明細書中において使用される場合、デンプン製品は、米デンプンを含むことが好ましいが、米デンプン以外のデンプン(天然のデンプンまたは加工デンプン)が混合されていてもよく、デンプン製品に含まれるデンプンのうち、好ましい米デンプンの割合は、10〜100%であり、50〜100%であることがより好ましく、70〜100%であることがさらに好ましい。また、デンプン製品に含有される米デンプンは、デンプン粒子の結晶構造が維持されているものが少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上含まれ得る。
【0050】
本発明に係る重金属を含有する植物から重金属を除去する方法は、重金属の除去が必要とされる植物であればいずれにも適用することができ、本発明に係る方法を適用した植物は、工業製品、食品、化粧品、医薬品などの種々の用途に利用することができる。
【0051】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0052】
また、本明細書中に記載された特許文献および学術文献などの文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0053】
〔1.試料〕
以下の試料をカドミウム含有量の測定に用いた。
(1)玄米
(2)精米(上記1を精米機で精米したもの)
(3)玄米由来米粉(上記1を製粉機で磨砕した米粉)
(4)精米由来米粉(上記2を製粉機で磨砕した米粉)
(5)玄米由来デンプン(上記3から下記の手順に従って調製したデンプン)
(6)精米由来デンプン(上記4から下記の手順に従って調製したデンプン)。
【0054】
〔2.試験の概要〕
カドミウム含有米からのカドミウム除去を行い、調製デンプンの物性と構造に対するカドミウム除去操作の影響を検討した。
【0055】
(1:カドミウム除去試験)
以下の項目について検討した。
1)水酸化ナトリウムの効果
2)SDS(sodium dodesyl sulfate)の効果
3)除去操作中の温度の影響。
【0056】
(2:カドミウム除去操作による調製デンプンの物性と構造への影響)
デンプンの特性を以下のように調査した。
1)走査型電子顕微鏡(SEM;scanning electric microscopy)によるデンプン粒の形態の観察
2)示差操作熱量測定(DSC;differential scanning calorimetry)によるデンプンの物性の分析
3)アミロペクチン鎖長分布分析によるデンプン分子構造の解析。
【0057】
〔3:手順〕
〔3−1:デンプンの調製〕
まず、精米機を用いて玄米を精米し、製粉機を用いて玄米または精米から米粉を得た。得られた米粉7gを210mlの0.1%(w/v)NaOH(または2%SDS)を含むビーカーに入れ、所定の温度(4℃、20℃など)条件下にて、マグネティックスターラーで撹拌した(12時間)。攪拌後の溶液を所定温度下にて5分間遠心分離し(3,000rpm(870×g))、上清をデカンテーションして捨てた。沈殿しているデンプンを100mlの0.1%(w/v)NaOH(または2%SDS)を含むビーカーに入れ、所定の温度(4℃、20℃など)条件下で、マグネティックスターラーで撹拌した(1時間または12時間)。攪拌後の溶液を所定温度下にて5分間遠心分離し(3,000rpm(870×g)、上清をデカンテーションして捨てた。
【0058】
沈殿しているデンプンに80mlの蒸留水を加え、デンプンの塊をガラス棒でほぐしながら丁寧に混和させた。この溶液を所定温度下にて5分間遠心分離し(3,000rpm(870×g))、上清をデカンテーションして捨てた。この工程をさらに2回繰り返して行った。
【0059】
沈殿しているデンプンに20mlの80%(v/v)のエタノールを加え、デンプンの塊をガラス棒でほぐしながら丁寧に混和させた。溶液を所定温度下にて5分間遠心分離し(3,000rpm(870×g))、上清をデカンテーションして捨てた。
【0060】
沈殿しているデンプンを減圧条件下にて20℃で乾燥させた。このデンプンをガラス棒でほぐして粉状化し、−30℃で保存した。これを、以下において分析用サンプルとして用いた。
【0061】
〔3−2:カドミウム除去操作による調製デンプンの物性と構造への影響〕
上記の方法で得られた分析用サンプルを、銀製の両面テープを貼り付けた真鍮製ステージに分散させ、金蒸着させた後、走査型電子顕微鏡(SEM(JEOL−5600))によってデンプン粒の形態を観察した。
【0062】
上記の方法で得られた分析用サンプル約3mgに蒸留水9μlを加えたものをアルミ容器に入れて示差走査熱量測定(DSC,セイコーインスツルメンツ社製)によってデンプンの物性を分析した。昇温速度は3℃/minであり、5℃〜100℃の範囲を測定して、糊化開始温度、糊化ピーク温度、糊化終了温度、糊化熱量を算出した。
【0063】
次いで、デンプン分子構造を解析するために、O` Shea and Morell(Electrophoresis,17,681−688(1996))の方法を参考にして、分析用サンプルのアミロペクチンの鎖長分布を以下のように行った。
【0064】
分析用サンプルに15μlの5N水酸化ナトリウムを加え、5分間煮沸してデンプンを糊化させた。糊化液を氷酢酸9.6μlで中和した後、蒸留水1089μl、0.6M酢酸緩衝液(pH4.4)100μl、2%アジ化ナトリウム15μl、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68,林原生物化学研究所)3μl(約210unit)を加え、スターラーバーで撹拌しながら37℃で8時間以上反応させた。さらにイソアミラーゼ3μlを追加して8時間以上反応させた後、常温にて10,000×gで遠心分離し、上清を脱イオンカラム(AG501−X8(D),Bio−Rad)で濾過した。α−グルカン鎖の非還元末端を蛍光標識するために、Hizukuriら(1981.Carbohydrate Research,94,205−213)の方法により試料中の糖含量を定量し、10nmol相当の還元末端をもつα一グルカン鎖を遠心濃縮機で乾燥させ、2μlの1−アミノピレン−3,6,8−三硫酸塩(APTS)溶液(2.5%APTS,15%酢酸)および2μlのシアン化ホウ素ナトリウム溶液(1Mシアン化ホウ素ナトリウム,100%テトラヒドロフラン)を添加し、55℃で90分間反応させた。分析時には蒸留水で12.5倍に希釈して用いた。キャピラリー電気泳動装置(P/ACE MDQ,Beckman Coulters)を用いて、鎖長分布解析を行った。グルコース重合度(DP)3以上の各ピーク面積を数値化し、DP80までのピーク面積の合計を100%としたときの各DPの割合(Area%)を算出した(図3)。
【0065】
〔3−3:カドミウム含有量の測定〕
上述した試料およびデンプンサンプル各々0.5gに濃硝酸5mlおよび過酸化水素1mlを加えて、マイクロウェーブ(Advanced Microwave Labstation System(ETH OS 1600):MILESTONE社)を用いて、硝酸分解を行った。分解した液体に約4mlの0.1M HNOを加えて総容量を10mlとし、ICP(CID高周波プラズマ発光分光分析装置(IRIS/IRIS Advantage ICAP);日本ジャーレル・アッシュ社製)を用いてカドミウムを定量した。なお、本装置は、原子を励起させ、得られる発光スペクトルの波長により、定性・定量分析する装置であり、励起エネルギーが高温のプラズマであるため、液体試料が完全に気化され、共存元素の影響が極めて少なく、高感度でかつ多種類定量することができる。
【0066】
下記の(I)〜(III)をメソッド:[HIDEKI2](P・S・K・Mg=10mg/l,Na・Ca・Mn・Fe・Cu・Zu・Cd・Ni=1mg/lの濃度で設定したプログラム)を使用してICP分析を行った。
【0067】
(I)ブランク:濃硝酸を10倍希釈したもの
(II)標準液:P・S・K・Mg=10mg/l,Na・Ca・Mn・Fe・Cu・Zu・Cd・Ni=1mg/lを含む溶液
(III)試料:試料2mlに蒸留水8mlを加えたもの。
【0068】
〔4.結果〕
〔4−1:カドミウム含有量の測定結果〕
試料中のカドミウム含有量を測定した結果を表1で示す。
【0069】
(表1.カドミウム含有米から調製したデンプン試料中のカドミウム含有量(重量あたり、ppmで表示))
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、カドミウム含有米(原料)は、玄米、精米、精米米粉において、約1.17〜1.32ppmのカドミウムを含んでいたこと、および、含有米から調製したデンプン中のカドミウム含有量は、処理法によって変動することが明らかになった。
【0072】
カドミウム除去効果が最も顕著だったのは、4℃条件下にて0.1%NaOH処理を12時間づつ2回行うことであった。この場合、0.10ppm以下のカドミウムしか検出されず、カドミウムが除去された。分析を繰り返し行ったが、データの再現性は満足すべきレベルであり、本方法によって調製されたデンプン中のカドミウムの含量は、試料米中の含量の10%以下に低下し、法定値以下となることが明らかとなった。
【0073】
また、玄米ではなく精米を原料として用いた方が効果的にカドミウムが除去された。玄米または精米では、重量あたりのカドミウム含有量にほとんど差が見られなかったことから、穀粒内でカドミウムの存在形態が異なり、種子外部(胚、アリューロン層など)に存在するカドミウムは、種子内部(胚乳)に存在するカドミウムに比べ、除去しにくいと考えられた。従って、カドミウム除去の原料として、精米後の米粉を用いた方が好ましいことがわかった。
【0074】
さらに、処理中の温度は除去効果に影響し、4℃の方が20℃よりも効果的であった。また、処理溶液として、0.1%NaOHの方が2%SDSよりも効果的であった。処理時間についても、0.1%NaOH溶液の2回目の処理時間を12時間行う方が、同処理を1時間行うよりもカドミウム除去効果が大きいことがわかった。
【0075】
〔4−2:カドミウム除去操作による調製デンプンの物性と構造への影響について〕
カドミウム除去操作による調製デンプンの物性と構造への影響は以下のとおりである。
【0076】
デンプン粒の形態を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した結果、米デンプン粒の形態(形と大きさ)は、いずれの処理(0.1%NaOHまたは2%SDS、4〜20℃)によっても全く影響を受けなかった(図1)。このことから、本発明の方法によってカドミウム除去された米デンプンは、本来備える物性および/または構造を保持しており、本処理操作によって原料としてのデンプンの品質の劣化が全く起きていないと結論された。よって、本方法によってカドミウム除去された米デンプンは、産業利用する際に何ら問題はない。
【0077】
また、NaOH濃度のデンプン粒の形態に及ぼす影響を調べた結果、0.2%まではほとんど影響は見られなかったものの、0.4%ではデンプン粒の形態にかなりのダメージを与え、0.6%以上になると、デンプン粒は原形をとどめないほどに損傷を受けることが明らかになった(図2)。以上の結果から、NaOHの濃度は0.2%以下が好ましく、0.1%であることがより好ましいと結論された。また、市販の上新粉を用いた場合、デンプン粒が熱で変性し、角が取れて粒同士が融合した(図2)。
【0078】
示差走査熱量測定(DSC)によるデンプンの物性の分析結果を表2に示す。
【0079】
(表2.0.1%NaOH溶液または2%SDS溶液を用いてカドミウム含有米から調製したデンプンの熱糊化特性)
【0080】
【表2】

【0081】
4〜20℃の条件下にて、0.1%NaOH溶液を用いれば、カドミウムを首尾よく除去することができ、デンプンを調製する操作によっては、デンプンの熱糊化特性に影響がほとんどないことがわかった(表2)。2%SDSで処理した場合は、やや熱糊化特性に影響が現れ、部分的にデンプン粒を変性する傾向が認められた(表2)。
【0082】
アミロペクチン鎖長分布分析によってデンプン分子構造を解析した結果を図3に示す。4〜20℃の条件下にて、0.1%NaOHまたは2%SDS溶液を用いれば、カドミウムを首尾よく除去することができ、デンプンを調製する操作によっては、デンプンの主成分であるアミロペクチンの鎖長分布に有意な影響は認められなかった。このことより、本方法によるカドミウム除去処理がデンプンの分子構造には何ら影響を及ぼさないことが明らかになった(図3)。
【0083】
〔5.考察〕
以上のように、本発明者らは、カドミウム含有米からカドミウムを除去した「浄化デンプン」を調製することに成功した。このことは、浄化デンプンを工業利用するための第一段階をクリアしたといえる。本方法によるカドミウム除去処理は、デンプンの構造に対してほとんど影響を与えることがなく、かつ比較的単純な化学的処理によって構成されており、非常に有用であるといえる。
【0084】
また、表1に示すように、精米した米についても玄米と同程度のカドミウムが含有していたことから、カドミウムが胚または玄米の表層に局在しているとは考えにくく、胚乳組織にも広く分布している可能性が高いといえる。よって、物理的方法によってカドミウムを除去する方法は効果的ではなく、本方法のような化学的方法のさらなる改良が本分野の技術開発に大いに寄与すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、試料の大量処理に適しているので、コストの面で大いに利点を有するだけでなく、複雑な処理施設を設ける必要がない。また、本発明を用いれば、重金属を含有する植物から重金属を効率的に除去することができるので、焼却処分に付されるしかなかった該植物を安全に有効利用することができる。その結果、利用分野への材料供給を安定にするとともに、資源の浪費を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、0.1%NaOH溶液または2%SDS溶液を用いて調製した米デンプン粒のSEM観察像を示す写真である。#番号は表1のサンプル番号を示す。
【図2】図2は、異なる濃度のNaOH溶液を用いて調製した米デンプン粒のSEM観察像を示す写真である。#番号は表1のサンプル番号を示し、バーは10μmを示す。
【図3】図3は、カドミウム含有米から0.1%NaOH溶液または2%SDS溶液を用いて調製した米デンプンの鎖長分布解析の結果を示すグラフである。#番号は表1のサンプル番号を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロペクチンおよびアミロースの分子構造ならびにデンプン粒の形態を損なうことなく玄米または精米から重金属を含まない米デンプン粉末を調製するための方法であって、
・玄米または精米を破砕して米粉を得る工程;
・アルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中にて該米粉を攪拌する工程;および
・該攪拌する工程の後の沈殿物を回収する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記攪拌する工程が2回以上行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記攪拌する工程が1〜48時間の範囲で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ性溶液がNaOH水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記NaOH水溶液の濃度が0.2%(w/v)以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記重金属がカドミウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法によって調製された米デンプン粉末。
【請求項8】
請求項7に記載の米デンプン粉末を用いて製造されたデンプン製品。
【請求項9】
重金属を含有する植物をアルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中に浸漬する工程を包含する、植物から重金属を除去する方法。
【請求項10】
前記植物が穀類である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
重金属を含有する穀類をアルカリ性溶液または界面活性剤を含有する溶液中に浸漬する工程、および該溶液に浸漬した該穀類からデンプンを調製する工程を包含する、重金属を含まないデンプン粉末を調製する方法。
【請求項12】
前記穀類がイネである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記穀類が玄米、精米またはこれらを粉砕した米粉である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記重金属がカドミウムである、請求項9または11に記載の方法。



【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−288306(P2006−288306A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115000(P2005−115000)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(505135966)有限会社日本スターチ総研 (4)
【Fターム(参考)】