説明

カビ検出方法及びせん断力付加装置

【課題】身のまわりに存在するカビを効率よく検出することを目的とする。
【解決手段】カビ検出方法は、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「cgg cgt ctc tag aaa cca(18)」の塩基配列を有する第1のプローブを用いてアルテルナリア(Alternaria)属のカビを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カビ検出方法及びせん断力付加装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カビは食料を汚染する。特に米などの貯蔵物では、知らぬ間にカビが繁殖して、汚染さていることがある。そのため、このような貯蔵物に対するカビの検査が行われる。例えば、その検査手法として、カビの胞子及び菌糸を培養することでカビを検出する手法がある。また、その他の検査手法として、非特許文献1及び2には、キチナーゼなどの酵素を用いてカビの細胞壁(キチン層など)の一部を溶解させ、FISH法(fluorescence in situ hybridization)でカビを蛍光染色する手法が開示されている。なお、FISH法とは、蛍光標識したプローブを、標的微生物のみに反応させることで、標的微生物のみを蛍光染色する手法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】In Situ Detection of Freshwater Fungi in an Alpine Stream by New Taxon-Specific Fluorescence In Situ Hybridization Probes Christiane BaSchienら、APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Oct. 2008, Vol.74, No.20,p.6427‐6436
【非特許文献2】Quantitative imaging and statistical analysis of fluorescence hybridization(FISH) of Aureobasidium pullulans Russell N. Spearら、Journal of Microbiological Methods35 (1999) 101-1 10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術では、カビの胞子及び菌糸を培養することでカビを検出している。しかし、この培養法によるカビの検出は、培養に時間がかかるので、迅速な検出ができない。さらに、カビの分類は形態観察や生理試験などで専門性を求められる部分が多いので、一般的には普及することが難しい。また、上記非特許文献1及び2では、キチナーゼなどの酵素を用いてカビの細胞壁(キチン層など)を溶解させ、カビを蛍光染色することでカビを検出している。しかしながら、カビの胞子や菌糸は成熟とともに表面が黒色色素で覆われるので、その場合には酵素が細胞壁成分のキチン層まで到達できない。そのため、カビを蛍光染色することが困難である。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、身のまわりに存在するカビを効率よく検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、カビ検出方法に係る第1の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「cgg cgt ctc tag aaa cca(18)」の塩基配列を有する第1のプローブを用いてアルテルナリア(Alternaria)属のカビを検出するという手段を採用する。
【0007】
本発明では、カビ検出方法に係る第2の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「agt cgt tgc caa ctc ccc(18)」の塩基配列を有する第2のプローブを用いてカビの1つであるアスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)を検出するという手段を採用する。
【0008】
本発明では、カビ検出方法に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記第2のプローブを用いてアスペルギルス フミガタスを検出し、「ggt cgttgc caa ctc ccc(18)」の塩基配列を有する第3のプローブを用いてアスペルギルス フミガタス以外のカビの検出を回避するという手段を採用する。
【0009】
本発明では、カビ検出方法に係る第4の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「gcc atg aga ttc ccc aga(18)」の塩基配列を有する第4のプローブを用いてカビの1つであるアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)を検出するという手段を採用する。
【0010】
本発明では、カビ検出方法に係る第5の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「cgc tga tga cgt acg ctt(18)」の塩基配列を有する第5のプローブを用いてオーレオバシジウム(Aureobasidiurn)属のカビを検出するという手段を採用する。
【0011】
本発明では、カビ検出方法に係る第6の解決手段として、上記第5の解決手段において、前記第5のプローブを用いてオーレオバシジウム属のカビを検出し、「cgc tgatga cgt act ctt(18)」の塩基配列を有する第6のプローブを用いてオーレオバシジウム属以外のカビの検出を回避するという手段を採用する。
【0012】
本発明では、カビ検出方法に係る第7の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「ccg aac ggg tca aaa tac(18)」の塩基配列を有する第7のプローブと、「ccg agc ggg tca aaa tac(18)」の塩基配列を有する第8のプローブとを用いてクラドスポリウム(Cladosporium)属及びデビディエラ(Davidielia)属のカビを検出するという手段を採用する。
【0013】
本発明では、カビ検出方法に係る第8の解決手段として、上記第7の解決手段において、第7のプローブと第8のプローブとを用いてクラドスポリウム(Cladosporium)属及びデビディエラ(Davidielia)属のカビを検出し、「ccg aac ggg tca aaa tat(18)」の塩基配列を有する第9のプローブと、「ccg aac ggg tca aaa taa(18)」の塩基配列を有する第10のプローブと、「ccg aac ggg tca aaa tag(18)」の塩基配列を有する第11のプローブと、「ccg agc ggg tca aaa taa(18)」の塩基配列を有する第12のプローブと、を用いてクラドスポリウム属及びデビディエラ属以外のカビの検出を回避するという手段を採用する。
【0014】
本発明では、カビ検出方法に係る第9の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「ccg agc ggg tca tta tag(18)」の塩基配列を有する第13のプローブを用いてユーロチウム(Eurotium)属及びそれに近縁のアスペルギルス属のカビを検出するという手段を採用する。
【0015】
本発明では、カビ検出方法に係る第10の解決手段として、上記第9の解決手段において、前記第13のプローブを用いてユーロチウム属及びそれに近縁のアスペルギルス属のカビを検出し、「ccg agc ggg tca tca tag(18)」の塩基配列を有する第14のプローブを用いてユーロチウム属及びそれに近縁のアスペルギルス属以外のカビの検出を回避するという手段を採用する。
【0016】
本発明では、カビ検出方法に係る第11の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「aac acg ccc aat ctc tag tc(20)」の塩基配列を有する第15のプローブと、「aac act ccc aat ctc tag tc(20)」の塩基配列を有する第16のプローブとを用いてリゾプス(Rhizopus)属のカビを検出するという手段を採用する。
【0017】
本発明では、カビ検出方法に係る第12の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「gcc tgt cga ttc gac tag tt(20)」の塩基配列を有する第17のプローブを用いてトリコデルマ(Trichoderma)属及びヒポクレア(Hypocrea)属のカビを検出するという手段を採用する。
【0018】
本発明では、カビ検出方法に係る第13の解決手段として、上記第12の解決手段において、前記第17のプローブを用いてトリコデルマ属及びヒポクレア属のカビを検出し、「gcc tgt cga ttc gac cag tt(20)」の塩基配列を有する第18のプローブと、「gcc tgt cga ttc gac aag tt(20)」の塩基配列を有する第19のプローブとを用いてトリコデルマ属及びヒポクレア属以外のカビの検出を回避するという手段を採用する。
【0019】
本発明では、カビ検出方法に係る第14の解決手段として、分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、「ccc cct aag ccc aaa aac tt(20)」の塩基配列を有する第20プローブを用いてワレミア(Wallemia)属のカビを検出するという手段を採用する。
【0020】
本発明では、カビ検出方法に係る第15の解決手段として、カビにせん断力を付加することで前記カビの色素層及び細胞壁を破損させ、その後に当該カビを蛍光染色するという手段を採用する。
【0021】
本発明では、カビ検出方法に係る第16の解決手段として、上記第15の解決手段において、カビとともにビーズを収容器に入れ、当該収容器内を攪拌することでカビにせん断力を付加するという手段を採用する。
【0022】
本発明では、カビ検出方法に係る第17の解決手段として、上記第15の解決手段において、カビとともにビーズを収容器に入れ、棒で前記カビ及び前記ビーズを押し付けながらかき混ぜることでカビにせん断力を付加するという手段を採用する。
【0023】
本発明では、カビ検出方法に係る第18の解決手段として、上記第15〜第17のいずれかの解決手段において、カビにせん断力を付加した後、当該カビが含まれる標本に細胞壁を分解する分解酵素を添加し、当該カビの細胞壁を分解した後に当該カビを蛍光染色するという手段を採用する。
【0024】
本発明では、せん断力付加装置に係る第1の解決手段として、カビにせん断力を付加するという手段を採用する。
【0025】
本発明では、せん断力付加装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、ピンセット形状をしており、対向する1対の挟圧片の間に配置されたカビを挟みこみながらカビに圧力を付加するとともに圧力方向に対して略垂直方向にずらすという手段を採用する。
【0026】
本発明では、せん断力付加装置に係る第3の解決手段として、上記第19の解決手段において、カビを所定の圧力で挟む一対の挟圧片と、圧力方向に対して略垂直方向に前記挟圧片のいずれか一方をずらす挟圧片変動部を具備するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、第1〜第20のプローブを用いて検出対象のカビを検出する。すなわち、検出対象のカビに第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブを結合させるとともに、第3のプローブ、第6のプローブ、第9〜第12、第14のプローブ、第18のプローブ及び第19のプローブを検出対象外のカビに結合させる。このようにすることで、第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブを用いてカビ、すなわち身のまわりに存在するカビを簡単に検出することができるので、従来よりも効率よくカビを検出することができる。また、第3のプローブ、第6のプローブ、第9〜第12、第14のプローブ、第18のプローブ及び第19のプローブを用いることで、検出対象外のカビを検出対象のカビとして誤検出することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るカビ検出方法のフローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態に係るせん断力付加装置Aの平面図(a)及び側面図(b)である。
【図3】本発明の一実施形態に係るせん断力付加装置Aの動作を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るせん断力付加装置Bの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るカビ検出方法は、FISH法を用いて試料からカビを検出する方法であり、以下に説明するように第1〜第11の工程を有するものである。
カビ検出方法について、図1を参照して、説明する。
〔第1の工程〕
まず、第1の工程において、米の貯蔵袋の穴から浮遊粒子をエアーサンプラーで収集する(ステップS1)。ここで用いるエアーサンプラーは、通常の培地に捕集するタイプではなく、水溶液中に浮遊粒子を捕集するタイプが好ましい。
〔第2の工程〕
上記第1の工程が終了すると、次に第2の工程において、浮遊粒子を含む試料に、終濃度が4%になるようにパラホルムアルデヒド溶液を添加し、当該試料を4℃の温度の下で一晩保存することでカビの固定標本を作製する(ステップS2)。
【0030】
〔第3の工程〕
上記第2の工程が終了すると、次に第3の工程において、上記試料をろ過装置によってろ過することで、カビの固定標本をメンブレンフィルタ上に捕集する(ステップS3)。なお、上記メンブレンフィルタは、直径が25mmの円形であり、孔径が0.22μmであるポリカーボネート製のフィルタである。そして、このメンブレンフィルタの中心部の直径16mmの円形領域が、ろ過に使用される。
〔第4の工程〕
上記第3の工程が終了すると、次に第4の工程において、上記メンブレンフィルタを99.5%のエタノールに1分間入れることで脱水し、その後に常温の空気中で乾燥させる(ステップS4)。
【0031】
〔第5の工程〕
上記第4の工程が終了すると、次に第5の工程において、メンブレンフィルタ上の標本にせん断力を付加することでカビの胞子または菌糸の表面を覆う色素層及び細胞壁を破損させる(ステップS5)。第5の工程においてせん断力を加える方法について、3つの方法を説明する。
【0032】
≪第1の方法≫
まず、第1の方法について説明する。
第1の方法では、本実施形態に係るせん断力付加装置Aを使ってメンブレンフィルタ上の標本に含まれるカビにせん断力を付加する。
このせん断力付加装置Aは、効果的にせん断力を与えるために、図2の(a)及び(b)に示すように、先の広いピンセットを加工して簡単にせん断力を与えられるようにしたものである。つまり、せん断力付加装置Aは、対向する1対の上部挟圧片1及び下部挟圧片2からなる。上部挟圧片1では、柄部1aと摘み部1bとが直線状になっている。また、下部挟圧片2では、柄部2aが上部挟圧片1とは逆方向に反り上がるとともに摘み部2bが上部挟圧片1に向って湾曲している。
【0033】
そして、図3の(a)に示すように、このせん断力付加装置Aの摘み部1bの上にメンブレンフィルタFlを載せる。その後に、図3の(b)に示すように、摘み部2bでメンブレンフィルタFl上の標本に含まれるカビSlを挟みこみながらカビSlに約1kg/cm2 の圧力を付加するとともに圧力方向に対して略垂直方向に約10回程度ずらすことで、縦方向の圧力とともに横方向へのずれが生じる。これによりカビSlにせん断力を付加することができる。
【0034】
≪第2の方法≫
次に、第2の方法について説明する。
上述のせん断力付加装置Aでは、使い方によって個人差が生じやすい。そのため、本実施形態に係るせん断力付加装置B(図4参照)を用いるのが好ましい。
せん断力付加装置Bは、図4に示すように、下部支持板10に支柱11を介して上部支持板12が設けられている。さらに、せん断力付加装置Bでは、その下部支持板10上に下部挟圧片13が保持され、上部支持板12に押圧用ネジ15で上部挟圧片14が下部挟圧片13に対して所定の圧力を付加できる。そして、せん断力付加装置Bでは、下部挟圧片13及び上部挟圧片14がメンブレンフィルタFl上のカビSlを挟みこみながら圧力を加え、ハンマ(挟圧片変動部)16で圧力方向に対して略垂直方向に上部挟圧片14をずらす。これによりカビSlにせん断力を付加することができる。このようなせん断力付加装置Bは、押圧用ネジ15で圧力を調整するとともにハンマ16の殴打力が一定であるので、カビSlに対して一定のせん断力を付加することができる。そのため、カビSlの破損の程度を一定にすることができる。
【0035】
≪第3の方法≫
次に、第3の方法について説明する。
まず、カットされたメンブレンフィルタとともに直径0.25〜0.3mmのガラスビーズ20mgをマイクロチューブに入れる。そして、ペッスル(棒)でメンブレンフィルタ上のカビ及びガラスビーズを押し付けながらかき混ぜることでカビにせん断力を付加する。その際、ペッスルの角度は5度程度であり、押し付ける回数は1〜10回程度である。
【0036】
〔第6の工程〕
上記第5の工程が終了すると、次に第6の工程において、メンブレンフィルタ上の標本にキチナーゼを添加し、キチナーゼの終濃度が0.1〜5mgになるように調整した上で、標本を1〜20分の間キチナーゼに反応させる(ステップS6)。なお、キチナーゼとは、カビの細胞壁の主成分であるキチンを分解する分解酵素である。
【0037】
〔第7の工程〕
上記第6の工程が終了すると、次に第7の工程において、上記メンブレンフィルタ上の標本に第1のプローブ〜第20のプローブを添加し、標本にプローブを反応させる(ステップS7)。プローブとは、標的微生物であるカビの核酸(多くの場合においてリボソームRNA(ribosome Ribonucleic acid))に対して相補的なポリヌクレオチド(塩基配列)に蛍光色素を共有結合したものである。
【0038】
ここで、第1のプローブ〜第20のプローブについて、詳細に説明する。第1のプローブ〜第20のプローブの塩基配列は、以下の通りである。
1. 第1のプローブ :cgg cgt ctc tag aaa cca(18)
2. 第2のプローブ :agt cgt tgc caa ctc ccc(18)
3. 第3のプローブ :ggt cgt tgc caa ctc ccc(18)
4. 第4のプローブ :gcc atg aga ttc ccc aga(18)
5. 第5のプローブ :cgc tga tga cgt acg ctt(18)
6. 第6のプローブ :cgc tga tga cgt act ctt(18)
7. 第7のプローブ :ccg aac ggg tca aaa tac(18)
8. 第8のプローブ :ccg agc ggg tca aaa tac(18)
9. 第9のプローブ :ccg aac ggg tca aaa tat(18)
10.第10のプローブ:ccg aac ggg tca aaa taa(18)
11.第11のプローブ:ccg aac ggg tca aaa tag(18)
12.第12のプローブ:ccg agc ggg tca aaa taa(18)
13.第13のプローブ:ccg agc ggg tca tta tag(18)
14.第14のプローブ:ccg agc ggg tca tca tag(18)
15.第15のプローブ:aac acg ccc aat ctc tag tc(20)
16.第16のプローブ:aac act ccc aat ctc tag tc(20)
17.第17のプローブ:gcc tgt cga ttc gac tag tt(20)
18.第18のプローブ:gcc tgt cga ttc gac cag tt(20)
19.第19のプローブ:gcc tgt cga ttc gac aag tt(20)
20.第20のプローブ:ccc cct aag ccc aaa aac tt(20)
なお、第1〜第20のプローブの塩基配列の右側に記載する括弧内の数字は、塩基数を示している。また、上記塩基配列における、「a」はアデニン、「t」はチミン、「c」はシトシン、「g」はグアニンである。そして、「a」は「t」と相補的に結合し、「c」は「g」と相補的に結合する。上記第1のプローブ〜第20のプローブでは、左端の塩基に5’末端が結合し、右端の塩基「t」に3’末端が結合している。
【0039】
そして、上記第1〜第20プローブの使用目的は以下(1)〜(14)の通りである。
(1)第1のプローブは、アルテルナリア(Alternaria)属のカビを検出することを目的とする。
(2)第2のプローブは、カビの1つであるアスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)を検出することを目的とする。
(3)第3のプローブは、第2のプローブを使用する時に、第2のプローブに類似する塩基配列をもつアスペルギルス フミガタス以外のカビの検出を回避することを目的とする。
(4)第4のプローブは、カビの1つであるアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)を検出することを目的とする。
(5)第5のプローブは、オーレオバシジウム(Aureobasidiurn)属のカビを検出することを目的とする。
【0040】
(6)第6のプローブは、第5のプローブを使用する時に、第5のプローブに類似する塩基配列をもつオーレオバシジウム属以外のカビの検出を回避することを目的とする。
(7)第7及び第8のプローブは、クラドスポリウム(Cladosporium)属及びデビディエラ(Davidielia)属のカビを検出することを目的とする。
(8)第9〜第12のプローブは、第7及び第8のプローブを使用する時に、第7及び第8のプローブに類似する塩基配列をもつクラドスポリウム属及びデビディエラ属以外のカビの検出を回避することを目的とする。
(9)第13のプローブは、ユーロチウム(Eurotium)属及びそれに近縁のアスペルギルス属のカビを検出することを目的とする。
(10)第14のプローブは、第13のプローブを使用する時に、第13のプローブに類似する塩基配列をもつユーロチウム属及びそれに近縁のアスペルギルス属以外のカビの検出を回避することを目的とする。
【0041】
(11)第15及び第16のプローブは、リゾプス(Rhizopus)属のカビを検出することを目的とする。
(12)第17のプローブは、トリコデルマ(Trichoderma)属とヒポクレア(Hypocrea)属のカビを検出することを目的とする。
(13)第18及び第19のプローブは、第17のプローブを使用する時に、第17のプローブに類似する塩基配列をもつトリコデルマ属とヒポクレア属以外のカビの検出を回避することを目的とする。
(14)第20のプローブは、ワレミア(Wallemia)属のカビを検出することを目的とする。
【0042】
そして、(1)〜(14)の目的に基づいて、第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第5のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブを、FITC(fluorescein isothiocyanate:蛍光色素)で標識する。また、第3のプローブ、第6のプローブ、第9〜第12、第14のプローブ、第18のプローブ及び第19のプローブを、FITCで標識しない。これにより、検出対象のカビのみが蛍光を発し、検出対象外のカビは蛍光を発しない。
【0043】
ここで、上記第1〜第20のプローブを標本に添加する手法について、具体的に説明する。
まず、上記第1〜第20のプローブをハイブリダイゼーションバッファに混ぜたプローブ溶液を作製する。なお、上記ハイブリダイゼーションバッファの構成は、NaClが0.9%、Tris‐Clが20mM、formamideが35%、Blocking reagentが2%、SDS(Sodium Dodecyl sulphate:界面活性剤)が0.02%である。
【0044】
そして、上記プローブ溶液をマイクロチューブに入れ、カビを捕集したメンブレンフィルタを適当な大きさに裁断し、裁断したメンブレンフィルタをプローブ溶液の中に入れる。これにより、メンブレンフィルタの標本に上記第1〜第20のプローブが添加される。
さらに、振とう機を使ってマイクロチューブを46℃の温度下で、約2時間振とうさせる。これにより、標本に対する上記第1〜第20のプローブの添加が促進される。そして、時間の経過とともに標本に含まれる検出対象のカビと第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第5のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブとが結合する。また、検出対象外のカビと第3のプローブ、第6のプローブ、第9〜第12、第14のプローブ、第18のプローブ及び第19のプローブとが結合する。
【0045】
〔第8の工程〕
上記第7の工程が終了すると、次に第8の工程において、上記メンブレンフィルタをウォッシングバッファに浸し、メンブレンフィルタ上の未反応のプローブを洗浄する。(ステップS8)。
〔第9の工程〕
上記第8の工程が終了すると、次に第9の工程において、上記メンブレンフィルタを99.5%のエタノールに1分間入れることでメンブレンフィルタを脱水し、その後に常温の空気中で乾燥させる(ステップS9)。
〔第10の工程〕
上記第9の工程が終了すると、次に第10の工程において、スライドガラス上にメンブレンフィルタを載せ、メンブレンフィルタ上の標本にベクターシールドを滴下し、その上に気泡がはいらないようカバーガラスを載せて、密着させる(ステップS10)。
【0046】
〔第11の工程〕
上記第10の工程が終了すると、次に第11の工程において、蛍光顕微鏡にスライドガラスを取り付け、波長495nmの青色の励起光をスライドガラス上のメンブレンフィルタに対して蛍光顕微鏡が照射する。すると、検出対象のカビに結合した第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第5のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブは波長520nmの緑色の蛍光を発光する。蛍光顕微鏡でメンブレンフィルタを見ると、緑色蛍光を発する検出対象のカビを見ることができる。そして、蛍光顕微鏡で撮影した標本の画像から、第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第5のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブの蛍光に基づいて検出対象のカビを検出する(ステップS11)。
【0047】
以上のように、本実施形態では、標本にせん断力を付加することでカビの胞子または菌糸の周囲の色素層及び細胞壁を破損させ、さらにキチナーゼでカビの細胞壁を分解する。その上で、第1〜第20のプローブを標本に添加する。そして、検出対象のカビに第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第5のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブを結合させるとともに、第3のプローブ、第6のプローブ、第9〜第12、第14のプローブ、第18のプローブ及び第19のプローブを検出対象外のカビに結合させる。このようにすることで、第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第5のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブを用いてカビ、すなわち身のまわりに存在するカビを簡単に検出することができるので、従来よりも効率よくカビを検出することができる。また、第3のプローブ、第6のプローブ、第9〜第12、第14のプローブ、第18のプローブ及び第19のプローブを用いることで、検出対象外のカビを検出対象のカビとして誤検出することを防ぐことができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記実施形態では、ろ過により試料からメンブレンフィルタ上にカビを捕集した後に、第5の工程において当該カビに対してせん断力を付加し、第6の工程においてチキナーゼを添加したが、本発明はこれに限定されない。
例えば、第2の工程が終了した後に、カビが含まれる試料とともに直径0.25〜0.3mmガラスビーズ0.150gを試験管に入れ、当該試験管を試験管用ミキサーで30〜120秒間攪拌する。そして、試料にキチナーゼを添加する。その後、ガラスビーズは試験管の底に沈降するので、沈降したガラスビーズ以外の試料を使って第3の工程を実行するようにしてもよい。
【0049】
(2)上記実施形態では、FITCを第1のプローブ、第2のプローブ、第4のプローブ、第5のプローブ、第7プローブ、第8のプローブ、第13のプローブ、第15〜第17のプローブ及び第20のプローブの蛍光色素として使用したが、本発明はこれに限定されない。
例えば、FITCの代わりに、Cy3を蛍光色素として使用してもよい。
【0050】
(3)上記実施形態では、第1〜第20のプローブは、4種類の塩基「a(アデニン)」、「t(チミン)」、「c(シトシン)」及び「g(グアニン)」から構成したが、本発明はこれに限定されない。当然ではあるが、「t」は、「u(ウラシル)」であってもよい。
【0051】
(4)上記実施形態では、FISH法に第1〜20のプローブを用いたが、本発明はこれに限定されない。
例えば、PCR(polymerase chain reaction)法、FISH法以外のハイブリダイゼーション法及びDNAチップに第1〜20のプローブを用いてカビを検出するようにしてもよい。すなわち、本発明は、分子生物学的手法を用いたあらゆるカビ検出方法に適用することができる。
【0052】
(5)上記実施形態では、米からのカビの胞子検出を行ったが、本発明はこれに限定されない。
例えば、室内環境中のカビ胞子の測定や、ふき取り検査により食物や壁から採取したカビの胞子や菌糸の検出同定にも用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
A,B…せん断力付加装置、1…上部挟圧片、2…下部挟圧片、1a…柄部、1b…摘み部、2a…柄部、2b…摘み部、10…下部支持板、11…支柱、12…上部支持板、13…下部挟圧片、14…上部挟圧片、15…押圧用ネジ、16…ハンマ(挟圧片変動部)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「cgg cgt ctc tag aaa cca(18)」の塩基配列を有する第1のプローブを用いてアルテルナリア(Alternaria)属のカビを検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項2】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「agt cgt tgc caa ctc ccc(18)」の塩基配列を有する第2のプローブを用いてカビの1つであるアスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)を検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項3】
前記第2のプローブを用いてアスペルギルス フミガタスを検出し、「ggt cgttgc caa ctc ccc(18)」の塩基配列を有する第3のプローブを用いてアスペルギルス フミガタス以外のカビの検出を回避することを特徴とする請求項2に記載のカビ検出方法。
【請求項4】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「gcc atg aga ttc ccc aga(18)」の塩基配列を有する第4のプローブを用いてカビの1つであるアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)を検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項5】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「cgc tga tga cgt acg ctt(18)」の塩基配列を有する第5のプローブを用いてオーレオバシジウム(Aureobasidiurn)属のカビを検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項6】
前記第5のプローブを用いてオーレオバシジウム属のカビを検出し、「cgc tgatga cgt act ctt(18)」の塩基配列を有する第6のプローブを用いてオーレオバシジウム属以外のカビの検出を回避することを特徴とする請求項5に記載のカビ検出方法。
【請求項7】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「ccg aac ggg tca aaa tac(18)」の塩基配列を有する第7のプローブと、「ccg agc ggg tca aaa tac(18)」の塩基配列を有する第8のプローブとを用いてクラドスポリウム(Cladosporium)属及びデビディエラ(Davidielia)属のカビを検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項8】
前記第7のプローブ及び前記第8のプローブを用いてクラドスポリウム属及びデビディエラ属のカビを検出し、「ccg aac ggg tca aaa tat(18)」の塩基配列を有する第9のプローブと、「ccg aac ggg tca aaa taa(18)」の塩基配列を有する第10のプローブと、「ccg aac ggg tca aaa tag(18)」の塩基配列を有する第11のプローブと、「ccg agc ggg tca aaa taa(18)」の塩基配列を有する第12のプローブとを用いてクラドスポリウム属及びデビディエラ属以外のカビの検出を回避することを特徴とする請求項7に記載のカビ検出方法。
【請求項9】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「ccg agc ggg tca tta tag(18)」の塩基配列を有する第13のプローブを用いてユーロチウム(Eurotium)属及びそれに近縁のアスペルギルス属のカビを検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項10】
前記第13のプローブを用いてユーロチウム属及びそれに近縁のアスペルギルス属のカビを検出し、「ccg agc ggg tca tca tag(18)」の塩基配列を有する第14のプローブを用いてユーロチウム属及びそれに近縁のアスペルギルス属以外のカビの検出を回避することを特徴とする請求項9に記載のカビ検出方法。
【請求項11】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「aac acg ccc aat ctc tag tc(20)」の塩基配列を有する第15のプローブと、「aac act ccc aat ctc tag tc(20)」の塩基配列を有する第16のプローブとを用いてリゾプス(Rhizopus)属のカビを検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項12】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「gcc tgt cga ttc gac tag tt(20)」の塩基配列を有する第17のプローブを用いてトリコデルマ(Trichoderma)属及びヒポクレア(Hypocrea)属のカビを検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項13】
前記第17のプローブを用いてトリコデルマ属及びヒポクレア属のカビを検出し、「gcc tgt cga ttc gac cag tt(20)」の塩基配列を有する第18のプローブと、「gcc tgt cga ttc gac aag tt(20)」の塩基配列を有する第19のプローブとを用いてトリコデルマ属及びヒポクレア属以外のカビの検出を回避することを特徴とする請求項12に記載のカビ検出方法。
【請求項14】
分子生物学的手法を用いてカビを検出するカビ検出方法であって、
「ccc cct aag ccc aaa aac tt(20)」の塩基配列を有する第20プローブを用いてワレミア(Wallemia)属のカビを検出することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項15】
カビにせん断力を付加することで前記カビの色素層及び細胞壁を破損させ、その後に当該カビを蛍光染色することを特徴とするカビ検出方法。
【請求項16】
カビとともにビーズを収容器に入れ、当該収容器内を攪拌することでカビにせん断力を付加することを特徴とする請求項15に記載のカビ検出方法。
【請求項17】
カビとともにビーズを収容器に入れ、棒で前記カビ及び前記ビーズを押し付けながらかき混ぜることでカビにせん断力を付加することを特徴とする請求項15に記載のカビ検出方法。
【請求項18】
カビにせん断力を付加した後、当該カビが含まれる標本に細胞壁を分解する分解酵素を添加し、当該カビの細胞壁を分解した後に当該カビを蛍光染色することを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載のカビ検出方法。
【請求項19】
カビにせん断力を付加することを特徴とするせん断力付加装置。
【請求項20】
ピンセット形状をしており、対向する1対の挟圧片の間に配置されたカビを挟み込みながらカビに圧力を付加するとともに圧力方向に対して略垂直方向にずらすことを特徴とする請求項19に記載のせん断力付加装置。
【請求項21】
カビを所定の圧力で挟む一対の挟圧片と、圧力方向に対して略垂直方向に前記挟圧片のいずれか一方をずらす挟圧片変動部を具備することを特徴とする請求項19に記載のせん断力付加装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−125290(P2011−125290A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288234(P2009−288234)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】