説明

カプセル化物の製造方法及びカプセル化物

【課題】粒子径の設計自由度が高いカプセル化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物を、下記工程1、工程2a、工程3a及び工程4aを経て製造する。工程1:芯物質を含む水性溶媒にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合する工程。工程2a:上記工程1を経た混合液に疎水性モノマーを添加・混合する工程。工程3a:上記工程2aを経た混合液にイオン性重合性界面活性剤Bを、工程3aで最終的に得られる最終混合液中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように添加・混合する工程。工程4a:上記工程3aを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記ポリマーを形成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物質及び有機物質のカプセル化物、特にこれらの物質のナノオーダーでのカプセル化物の製造方法に関し、特に、インクや塗料等の添加剤等として有用なカプセル化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの産業・技術分野で各種物質のカプセル化が行われている。印刷、塗料、インク業界では、顔料や色素等を芯(コア)物質とするカプセル化が数多く実用化されている。また、医薬、農薬分野では、効力増強や毒性軽減、安定性付与、効果の遅延等を目的として薬物を芯物質とするカプセル化が数多く試みられている。カプセル化方法としては、一般に相分離法(コアセルベーション法)、液中乾燥法(界面沈澱法)、スプレードライイング法、パンコーティング法、液中硬化被覆法、界面重合法、界面無機反応法、In-situ重合法等が知られている。しかしながら、これらの方法では、芯物質が限定される、芯物質を被覆するシェル層(壁材)の厚みを自由に設計しにくい、芯物質一個をカプセル化することが難しい、カプセル表面の官能基を自由に設計することが難しい、均一な表面状態を有する粒子を製造することが容易でない、ナノオーダーでのカプセル化が容易でない、比較的不安定な化合物へ適用しにくい、製剤製造時に使用する溶媒が製品へ混入しやすい、あるいは得られるカプセルの性状が満足できない等の問題があり、また得られるカプセル化物自体にも用途によっては課題があった。
【0003】
また、微細なノズルヘッドからインク液滴を吐出して、文字や図形を紙などの記録媒体の表面に記録するインクジェット記録方法において、最近では、耐水性や耐光性に優れるという理由から顔料を水中に分散させた水系顔料インクが使用されてきている。このような水系顔料インクとしては、一般的には界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて顔料を水性分散媒中に分散させたものが使用されることが多い。しかし、このように顔料粒子の分散のために分散剤を用いると、インクとして好ましい特性を確保するためにはインク組成において調節すべき点が多く、例えば、高い印字濃度や定着性、耐擦性を得ようとすると、粘度が高くなる傾向があるなどの課題があった。
【0004】
さらに、分散剤で顔料粒子を分散させた水系顔料インクにおいては、分散剤が顔料粒子表面に単に吸着しているだけであり、インクがノズルヘッドの細いノズルを通って吐出される際に該インク中の顔料粒子に強い剪断力が加わるようなインクジェット記録方法では、顔料粒子表面に吸着していた分散剤が離脱してしまい、これによって、顔料粒子の分散性が低下し、吐出安定性(記録ヘッドから一定方向に安定して吐出される特性)が悪化することがある。また、分散剤で顔料粒子を分散させた水系顔料インクにおいては、これらの分散剤の脱吸着が起こりやすく、長期間保存した場合にも顔料粒子の分散が不安定となりやすい。
【0005】
一方、上記水系顔料インクの如き粒子分散系インクジェットインクにおいて、該インクに含まれる分散粒子(例えば顔料粒子)の記録媒体に対する定着性を向上させる目的で、分散粒子がポリマーで被覆されたカプセル化物を使用する技術が知られている。このようなカプセル化物として、例えば、顔料粒子をカプセル化したもの(例えば、特許文献1、2、3参照)や、顔料粒子の表面にポリマーをグラフト重合したもの(例えば、特許文献4〜7参照)が提案されている。また特許文献8には、両親媒性グラフトポリマーを用いて疎水性粉体をカプセル化する方法が提案されているが、カプセル化にあたり、予め重合したポリマーを用いるとカプセル化後の粒子径が大きくなりすぎるという問題があった。
【0006】
カプセル化物に関しては、上記の提案の他に、転相乳化法によって室温で皮膜形成可能な樹脂で被覆された顔料を用いたインク(例えば、特許文献9〜17参照)や、酸析法によってアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆された顔料を用いたインク(例えば、特許文献18〜27参照)、あるいは転相乳化法によってポリマー微粒子と色材を含浸させてなるポリマーエマルションを用いたインク(例えば、特許文献28〜33参照)が提案されている。しかしながら、転相乳化法や酸析法によって得られた色材(顔料粒子)をインクに用いた場合、インクに用いられる浸透剤等の有機溶媒の種類によっては、色材に吸着されたポリマーの脱離が起きてインク中に溶解することがあり、インクの分散安定性や吐出安定性、画像品質等が十分でないという問題があった。また、転相乳化法においては、その製造過程で使用される有機溶剤の残留によって、インクの分散安定性や吐出安定性、画像品質等に変動が生じたり、プリンタのプラスチック部材の侵食等が生じたりすることがあった。
【特許文献1】特公平7−94634号公報
【特許文献2】特開平8−59715号公報
【特許文献3】特開2003−306661号公報
【特許文献4】特開平5−339516号公報
【特許文献5】特開平8−302227号公報
【特許文献6】特開平8−302228号公報
【特許文献7】特開平8−81647号公報
【特許文献8】特開平5−320276号公報
【特許文献9】特開平8−218015号公報
【特許文献10】特開平8−295837号公報
【特許文献11】特開平9−3376号公報
【特許文献12】特開平8−183920号公報
【特許文献13】特開平10−46075号公報
【特許文献14】特開平10−292143号公報
【特許文献15】特開平11−80633号公報
【特許文献16】特開平11−349870号公報
【特許文献17】特開2000−7961号公報
【特許文献18】特開平9−31360号公報
【特許文献19】特開平9−217019号公報
【特許文献20】特開平9−316353号公報
【特許文献21】特開平9−104834号公報
【特許文献22】特開平9−151342号公報
【特許文献23】特開平10−140065号公報
【特許文献24】特開平11−152424号公報
【特許文献25】特開平11−166145号公報
【特許文献26】特開平11−199783号公報
【特許文献27】特開平11−209672号公報
【特許文献28】特開平9−286939号公報
【特許文献29】特開2000−44852号公報
【特許文献30】特開2000−53897号公報
【特許文献31】特開2000−53898号公報
【特許文献32】特開2000−53899号公報
【特許文献33】特開2000−53900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、インクジェット記録技術をはじめとする様々な産業・技術分野において有用なカプセル化物を提供することができ、該カプセル化物の粒子径の設計自由度が高いカプセル化物の製造方法及びカプセル化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、表面に電荷を有する芯物質を、該芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも含有するポリマーを主成分とする壁材によって被覆してなるカプセル化物が、インクジェット記録技術をはじめとする様々な産業・技術分野において様々な機能を高く発揮し得るものであることを知見すると共に、さらに検討した結果、このカプセル化物の製造工程において、上記イオン性重合性界面活性剤Bの添加量を、重合開始剤の添加直前の反応混合液(この反応混合液は、少なくとも上記芯物質、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、上記疎水性モノマー、上記イオン性重合性界面活性剤B並びに水を含んでなる)中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該反応混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度と等しくなるように設定することにより、重合反応に用いた疎水性モノマーの添加量に比例した粒子径を有するカプセル化物が得られることを知見した。本発明は、こうした知見に基づきなされたものであり、その技術的構成は以下の通りである。
【0009】
〔1〕表面に電荷を有する芯物質が、ポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物の製造方法であって、(1)下記工程1、工程2a、工程3a及び工程4aを有するか、又は(2)下記工程1、工程2b、工程3b及び工程4bを有するカプセル化物の製造方法。
工程1:上記芯物質を含む水性溶媒に、該芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合し、該芯物質の表面に該イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを吸着させる工程。
工程2a:上記工程1を経た混合液に疎水性モノマーを添加・混合する工程。
工程3a:上記工程2aを経た混合液に、上記芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Bを、工程3aで最終的に得られる最終混合液中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように添加・混合する工程。
工程4a:上記工程3aを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと上記疎水性モノマーと上記イオン性重合性界面活性剤Bとを重合して上記ポリマーを形成する工程。
工程2b:上記工程1を経た混合液に、上記芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Bを、下記工程3bで最終的に得られる最終混合液中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように添加・混合する工程。
工程3b:上記工程2bを経た混合液に疎水性モノマーを添加・混合する工程。
工程4b:上記工程3bを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと上記イオン性重合性界面活性剤Bと上記疎水性モノマーとを重合して上記ポリマーを形成する工程。
【0010】
〔2〕上記工程2a又は工程3bにおいて、上記混合液にさらに、炭素数6以上の高級アルコールを添加・混合する上記〔1〕記載のカプセル化物の製造方法。
〔3〕上記工程3a又は工程2bにおいて、上記混合液にさらに、非イオン性基と疎水性基と重合性基とを有する非イオン性重合性界面活性剤を、上記最終混合液中における該非イオン性重合性界面活性剤の濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該非イオン性重合性界面活性剤の臨界ミセル濃度となるように添加・混合する上記〔1〕又は〔2〕記載のカプセル化物の製造方法。
〔4〕上記工程1において、上記芯物質を含む水性溶媒に上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合した後、該水性溶媒に超音波を照射する上記〔1〕〜〔3〕の何れかに記載のカプセル化物の製造方法。
〔5〕上記芯物質が色材である上記〔1〕〜〔4〕の何れかに記載のカプセル化物の製造方法。
【0011】
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕の何れかに記載の製造方法によって製造されたカプセル化物。
即ち、表面に電荷を有する芯物質が、ポリマーを主成分とする壁材によって被覆され、該ポリマーが、該芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、該芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも含有するカプセル化物であって、(1)下記工程1、工程2a、工程3a及び工程4aを経て、又は(2)下記工程1、工程2b、工程3b及び工程4bを経て、製造されたことを特徴とするカプセル化物。
工程1:上記芯物質を含む水性溶媒に上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合し、該芯物質の表面に該イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを吸着させる工程。
工程2a:上記工程1を経た混合液に上記疎水性モノマーを添加・混合する工程。
工程3a:上記工程2aを経た混合液に上記イオン性重合性界面活性剤Bを、工程3aで最終的に得られる最終混合液中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように添加・混合する工程。
工程4a:上記工程3aを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと上記疎水性モノマーと上記イオン性重合性界面活性剤Bとを重合して上記ポリマーを形成する工程。
工程2b:上記工程1を経た混合液に上記イオン性重合性界面活性剤Bを、下記工程3bで最終的に得られる最終混合液中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように添加・混合する工程。
工程3b:上記工程2bを経た混合液に上記疎水性モノマーを添加・混合する工程。
工程4b:上記工程3bを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと上記イオン性重合性界面活性剤Bと上記疎水性モノマーとを重合して上記ポリマーを形成する工程。
【0012】
本発明によれば、インクジェット記録技術をはじめとする様々な産業・技術分野において有用なカプセル化物を提供することができ、また、該カプセル化物の粒子径の設計自由度が高いため、芯物質を被覆する壁材の厚膜化が図られた、粒子径の大きなカプセル化物を提供することができる。
【0013】
より具体的には、本発明によれば、下記(イ)〜(リ)の全てを満足するカプセル化物を提供することができる。
(イ)芯物質が限定されない。即ち、本発明では、芯物質として無機物粒子、有機物粒子、ポリマー粒子等が使用可能であり、無機物、有機物を問わない。
(ロ)壁材(芯物質の被覆層)の厚みの設計自由度が高い。
(ハ)芯物質一個をカプセル化できる。
(ニ)芯物質と壁材とでその機能を分離することができる。従って、カプセル化物の設計自由度が高く、用途に適した高機能なカプセル化物が得られる。
(ホ)均一な表面状態を有する粒子を製造することができる。
(ヘ)ナノオーダーでのカプセル化が容易である。
(ト)芯物質をコアに持たない重合副生成物の生成が抑制され、使用した疎水性モノマーの添加量に応じた粒子径を持ったカプセル化物を安定して得ることができる。
(チ)環境に対して優しい。即ち、本発明の製造方法は、生体に対して有害な有機溶剤を使用しない、水系での反応によって実施可能であるため、環境に悪影響を及ぼすおそれが少ない。
(リ)毒性などのある芯物質のカプセル化によって低毒化又は無害化が可能である。
【0014】
また、本発明のカプセル化物は、インクの添加剤として特に有用であり、下記(i)〜(v)の効果を奏する。
(i)インク用の色材として用いた場合、水性分散液中における分散安定性に優れる。
(ii)インクとしたとき、画像の堅牢性に優れた記録物を得ることができる。
(iii)インクとしたとき、画像の耐擦性に優れた記録物を得ることができる。
(iv)インクジェット記録用インクとしたとき、記録ヘッドからの吐出安定性に優れる。
(v)インクジェット記録用インクとしたとき、画像品質に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のカプセル化物及びその製造方法について詳細に説明する。
【0016】
上記〔1〕〜〔6〕に示す態様を含む本発明の特徴の一つとしては、カプセル化物の製造工程において、上記芯物質を含む水性溶媒に、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと、上記疎水性モノマーと、上記イオン性重合性界面活性剤Bとを添加・混合することにより、重合開始前(上記工程4a又は工程4bの開始前)に、これらの成分が芯物質上に極めて高度に制御された配置形態であるアドミセル(admicell)を形成する点が挙げられる。
【0017】
図1は、上記工程1、工程2a及び工程3aを経た溶媒(混合液)、又は上記工程1、工程2b及び工程3bを経た混合液中に存在する上記アドミセルの一例を示す模式図である。
【0018】
芯物質1は、その表面に負電荷を有しており、水を主成分とする溶媒(水性溶媒)中に分散している。この芯物質1に対し、カチオン性基31と疎水性基32と重合性基33とを有するカチオン性モノマー3(イオン性モノマー)が、そのカチオン性基31をアニオン性界面活性剤2のアニオン性基21に向けてイオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性モノマー3の疎水性基32及び重合性基33に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性基41と疎水性基42と重合性基43とを有するアニオン性重合性界面活性剤4(イオン性重合性界面活性剤B)の該疎水性基42及び該重合性基43が向き合い、アニオン性重合性界面活性剤4の該アニオン性基41は水性溶媒の存在する方向、即ち芯物質1から最も離れた方向に存在している。疎水性モノマー5は、カチオン性モノマー3の疎水性基32及び重合性基33と、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42及び重合性基43とが向き合って形成される疎水相に存在している。
【0019】
そして、図1に示す如きアドミセルが存在する溶媒(上記工程1、工程2a及び工程3aを経た混合液、又は上記工程1、工程2b及び工程3bを経た混合液)に、上記工程4a又は工程4bに従って重合開始剤を添加・混合し、カチオン性モノマー3とアニオン性重合性界面活性剤4と疎水性モノマーとを重合させることによってポリマーが形成され、図2に示すように、芯物質1が該ポリマーを主成分とする壁材60によって被覆された、本発明のカプセル化物100が生成される。ここで、壁材60の表面には、アニオン性基41が水相側に向かって規則正しく密に存在しているので、カプセル化物100は水性溶媒中で良好に分散する。
【0020】
図3は、上記工程1、工程2a及び工程3a、又は上記工程1、工程2b及び工程3bを経た混合液中に存在する上記アドミセルの別の例を示す模式図、図4は、図3に示す分散状態において、各種モノマーが重合した状態を示す模式図である。図3及び図4に示す形態は、芯物質1の表面にイオン性(アニオン性)基21と疎水性基22とを有するイオン性(アニオン性)界面活性剤2が吸着している点以外は、図1及び図2に示す形態と同様であり、図1及び図2に記載の符号と同じ符号のものは、上述した図1及び図2の説明が適用される。
【0021】
このように、本発明では、上記工程1、工程2a及び工程3a、又は上記工程1、工程2b及び工程3bを含む重合法を利用することにより、まず、壁材を構成する各重合成分(イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B、疎水性モノマー)が、重合する前の段階で、芯物質の周囲に極めて高度に制御され、最外殻では水相に向かってイオン性基が配向している状態のアドミセルが形成される。そして、上記工程4a又は工程4bで、該アドミセルはその形態を維持したまま、各重合成分が重合しポリマーに転化して壁材が形成される。こうして、極めて高精度に構造が制御されたカプセル化物を得ることができる。このようなカプセル化物は、上記(イ)〜(リ)及び上記(i)〜(v)の全てを満足し得るものである。
【0022】
尚、上記重合法以外のカプセル化物の製造方法、例えば転相乳化法や酸析法等では、上記(イ)〜(リ)及び上記(i)〜(v)の全てを満足し得るカプセル化物は得られない。その理由は定かではないが、転相乳化法や酸析法等では、芯物質を被覆する壁材として、予め作製されたポリマーを用いるため、芯物質に対する壁材の被覆状態が完全ではない(芯物質が壁材によって完全には被覆されていない)ためと推察される。また、転相乳化法の場合はその製造過程で有機溶剤を使用するため使用した有機溶剤の残留が起こることがあるため、塗料やインクに転相乳化法によるカプセル化物を使用する場合では性能の安定性に課題が生じることもある。特に、転相乳化法によるカプセル化物をインクジェット用顔料インクに利用した場合には、インクの分散安定性やインクの吐出安定性ならびに得られる画像品質等に変動が起きることもあり、また、プラスチック部材の劣化等を引き起こすこともある。本発明のカプセル化物は製造工程中に有機溶剤を使用しないことから安定した性能を得ることができ、プラスチック部材の劣化等を引き起こすことは無い。
【0023】
また、本発明のもう一つの特徴としては、カプセル化物の製造工程において、上記工程3a又は工程2bで混合液に添加するイオン性重合性界面活性剤Bの添加量を、工程3a又は工程3bで最終的に得られる最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が臨界ミセル濃度となるように調整する点が挙げられる。最終混合液とは、工程4a又は工程4bで重合開始剤を添加する直前の混合液、即ち、重合開始前の反応液であり、該混合液にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B並びに疎水性モノマー以外の他の成分(例えばアルコールや非イオン性重合性界面活性剤)が添加される場合は、該他の成分を含んだ状態のものである。臨界ミセル濃度(CMC)とは、周知の通り、ミセルを形成するのに必要な最低限の界面活性剤濃度であり、界面活性剤固有の数値である。このように、イオン性重合性界面活性剤Bの最終混合液中の濃度を該最終混合液中の水分量に対してのイオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度に設定して重合反応(上記工程4a又は工程4b)を行うことで、芯物質をコアに持たない重合副生成物(ポリマー粒子)の生成が効果的に抑制されるため、反応系に添加された疎水性モノマーの量に比例した壁材の厚みを得ることが可能となり、従来のカプセル化法では得られなかった、粒子径の大きなカプセル化物を安定して得ることが可能となる。尚、本発明においては、通常、疎水性モノマー以外の他の重合成分(イオン性重合性界面活性剤A及びB、イオン性モノマー)は、疎水性モノマーに比して反応系に添加される量が圧倒的に少ないため、壁材の厚みは、反応系におけるこれら他の重合成分の多少によっては実質的に影響されない。
【0024】
尚、本発明におけるイオン性重合性界面活性剤の臨界ミセル濃度は、イオン性重合性界面活性剤を溶媒(本発明のカプセル化物の製造で使用する溶媒と同種の溶媒、すなわち、水)に添加・混合して濃度の異なる複数のサンプルを作り、25℃において各濃度のサンプルの表面張力を測定した結果から得られるものである。
【0025】
このように、上記工程3a又は工程2bにおけるイオン性重合性界面活性剤Bの添加量は、上記最終混合液中の水分量に対する該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度を基準に決定されるものであり、該添加量の具体的な数値は、使用するイオン性重合性界面活性剤によって変動する。
【0026】
以下、上記各工程について更に詳しく説明する。
【0027】
先ず、上記工程1を実施する前に、その準備工程として、「表面に電荷を有する芯物質」を含む溶媒を調製する工程がある。この「表面に電荷を有する芯物質」としては、元来表面に電荷を有している物質の他、元来表面に電荷を有していないか、あるいは有していても非常に電荷が低い物質(例えば、絶縁体や有機顔料)に、化学反応や吸着等の物理的作用を利用して電荷を有する官能基や化学物質を導入した物質(表面処理物質)を用いることができる。この表面処理物質の具体例としては、例えば、本出願人の先の出願に係る特開2005−97476号公報の〔0036〕〜〔0056〕に記載の「親水性基付与剤による顔料粒子の表面処理」が挙げられる。
【0028】
例えば、図3に記載の芯物質1のような、「イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤が表面に吸着した芯物質」を製造するには、芯物質が顔料粒子等の固体である場合、該イオン性界面活性剤を溶解させたイオン交換水に該芯物質を添加・混合し、得られた混合液をボールミル、ロールミル、アイガーミル、ジェットミル等の一般的な分散機に入れて分散処理を行い、該イオン性界面活性剤を該芯物質の表面に吸着させることが好ましい。更に、分散処理済みの混合液に対し限外濾過等を行い、芯物質に未吸着の該イオン性界面活性剤を低減させることが好ましい。未吸着のイオン性界面活性剤が多量に存在していると、副生成物であるポリマー粒子の生成量が増加して芯物質のカプセル化が不充分となるおそれがある。但し、未吸着のイオン性界面活性剤を低減しすぎると、芯物質の分散が不安定になる場合があるので、限外濾過等の程度は、芯物質の分散安定性とカプセル化の状況とを鑑み、適宜決定することが好ましい。
【0029】
尚、芯物質の表面に吸着させる物質は、上記の「イオン性基と疎水性基とを有するイオン性界面活性剤」に限定されず、例えば、「イオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤」、「非イオン性基と疎水性基とを有する非イオン性界面活性剤」、「非イオン性基と疎水性基と重合性基とを有する非イオン性重合性界面活性剤」でもよく、芯物質の分散媒への分散性を考慮してこれらの中から適宜決定することができる。
【0030】
上記工程1における「表面に電荷を有する芯物質を含む水性溶媒」の水性溶媒とは、脱イオン水等の水を主成分とする溶媒である。該水性溶媒には、必要に応じて、芯物質の水中への分散を助ける各種助剤や「表面に電荷を有する芯物質」を含む水性溶媒の保存安定性を助けるために水溶性有機溶剤等を含有させることもできる。
【0031】
上記工程1において、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの「表面に電荷を有する芯物質」を含む水性溶媒への添加量は、芯物質表面のイオン性基の総モル数(即ち、用いた芯物質1gの芯物質表面に存在するイオン性基量[mol/g])に対して、0.5〜2倍モルの範囲であることが好ましく、更に0.8〜1.2倍モルの範囲であることが好ましい。0.5〜2倍モルの範囲においては、芯物質表面のイオン性基とそれとは反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーのイオン性基との間の静電相互作用が好適な状態となり、芯物質がイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーで好適に覆われることで疎水性となり、上記工程2a又は工程2b以降でのアドミセルの形成が容易となる。特に0.8〜1.2倍モルの範囲はより好適な状態が得られ、高収率でカプセル化物を得ることができる。
【0032】
上記工程1では、芯物質の表面にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを均一に吸着させることを促進させる観点から、芯物質を含む水性溶媒にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合した後、こうして得られた混合液(芯物質を含む水性溶媒)に超音波を照射することが好ましい。この時の超音波の照射条件は、芯物質の種類、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの芯物質表面への吸着の程度、芯物質の凝集の程度等を考慮して、照射周波数及び照射時間が決定される。
【0033】
尚、上記工程1以降に超音波を照射することは、形成されたアドミセルを破壊するため、ポリマー粒子を生成が増してカプセル化物の収率が下がりやすく、得られるカプセル化物は粒度分布が拡がりやすく、目的の粒子径が得にくいことから好ましくない。
【0034】
上記工程1の次は、(1)工程1を経た混合液に疎水性モノマーを添加・混合する工程(工程2a)を経てからイオン性重合性界面活性剤Bを特定量添加・混合する工程(工程3a)としてもよく、又は(2)工程1を経た混合液にイオン性重合性界面活性剤Bを特定量添加・混合する工程(工程2b)を経てから疎水性モノマーを添加・混合する工程(工程3b)としてもよい。即ち、本発明においては、疎水性モノマー及びイオン性重合性界面活性剤Bの混合液への添加順序は、どちらを先にしても構わない。
【0035】
上記工程2a又は工程3bで使用する疎水性モノマーは、カプセル化物の成膜性、壁材の強度、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性、その他の物理特性及び化学特性を制御するために必須な成分である。特に、カプセル化物をインクジェット記録用インクの色材として使用する場合においては、色材の定着性、印字部の耐擦性、耐水性及び耐溶剤性等の要求特性を満たす上で疎水性モノマーをカプセル化物の製造に利用することは非常に有効である。また、カプセル化物を電子写真用トナーとして使用する場合には、定着性や耐擦性とともにオフセット性や電気特性等も考慮して疎水性モノマーが選択される。
【0036】
上記工程2a又は工程3bにおいて、疎水性モノマーの総添加量は、求めるカプセル化物の粒子径に応じて決定する。具体的には、望むカプセル化物の粒子径と芯物質の粒子径とから求めた被覆ポリマー(壁材を構成するポリマー)量と被覆ポリマーの密度とから疎水性モノマーの必要量を求め、この値を基準にして疎水性モノマーの総添加量を決定する。
【0037】
上記工程2a又は工程3bにおいては、疎水性モノマーに加えてさらに、炭素数6以上の高級アルコールを混合液に添加・混合することができる。炭素数6以上の高級アルコールは、混合液中に添加・混合されることよって、該高級アルコールがアドミセル内に可溶化されると共にアドミセル内への疎水性モノマーの可溶化を助けるため、芯物質を覆う壁材の厚みを厚くすることを可能にする。また、炭素数6以上の高級アルコールの添加は、カプセル化物の粒度分布の幅のシャープ化にも有効である。また、炭素数6以上の高級アルコールは、カプセル化物において壁材を構成するポリマー中に存在し、該ポリマーに対して可塑剤的な働きをすることから、該高級アルコールの添加によって成膜性に優れたカプセル化物が得られるようになる。また、壁材を構成するポリマー中に存在する該高級アルコールは、カプセル化物の周囲に存在する水性媒体中に移行しにくいため、該カプセル化物は水性媒体中で長期にわたり安定な分散状態を維持することができる。
【0038】
このように、本発明においては炭素数6以上の高級アルコールを用いることによって、壁材(芯物質を被覆するポリマー被覆層)の厚膜化、カプセル化物の粒度分布の幅のシャープ化、並びにカプセル化物の成膜性及び水性媒体中における分散安定性の向上の点でより好ましい結果が得られるようになる。
【0039】
従って、炭素数6以上の高級アルコールを用いて得られた本発明のカプセル化物は、カプセル化物の水性媒体中での分散安定性や成膜性が要求される用途、例えばインクジェット記録用途において特に有効である。例えば、炭素数6以上の高級アルコールを用いて得られた本発明のカプセル化物を、インクジェット記録用インクの色材として用いた場合は、吐出安定性、印刷画像の耐擦性及び光沢性の点で良好な結果が得られる。
【0040】
本発明に用いられる炭素数6以上の高級アルコールとしては、イオン性重合性界面活性剤及び/又は非イオン性(ノニオン性)重合性界面活性剤と共に用いた場合に界面活性助剤として作用するものが好ましく、例えばイソステアリルアルコール、ヘキサノール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、キミルアルコール、コレステロール、シトステロール、パルミチルアルコール、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール(別名:ラウリルアルコール,ドデカノール)、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール(別名:ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール(別名:セチルアルコール)、ヘプタデシルアルコール、オクタデシルアルコール(別名:ステアリルアルコール)、ドコサノール、エイコサノール、ヘキサコサノール、ノナデカノール、オクタコサノール、テトラコサノール、トリコサノール、等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
上述した高級アルコールの添加量は、上記疎水性モノマーの混合液への添加重量に対して、0.5〜25重量%の範囲であることが好ましく、1〜10重量%の範囲であることが更に好ましい。高級アルコールの添加量が、疎水性モノマーに対して0.5重量%未満であると期待される効果が得られ難く、逆に疎水性モノマーに対して25重量%超であると、壁材を構成するポリマーの可塑性が高くなり過ぎるため、インクジェット記録用インクに用いた場合に吐出安定性や画質の低下が起こりやすい。
【0042】
上記工程3aでは、上記工程2aを経た混合液に、イオン性重合性界面活性剤Bを添加・混合する。同様に、上記工程2bでは、上記工程1を経た混合液に、イオン性重合性界面活性剤Bを添加・混合する。上記工程3a又は工程2bにおけるイオン性重合性界面活性剤Bの添加量は、上述したようにそれぞれ、工程3a又は工程3bで最終的に得られる上記最終混合液中でのイオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対してイオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度と等しくなる量である。
【0043】
このように、(1)上記工程1、工程2a及び工程3aを順次経るか、又は(2)上記工程1、工程2b及び工程3bを順次経ることによって、表面に電荷を有する芯物質の該表面に、該表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーが静電的に吸着し、その外側に疎水性モノマーが局在し、更にその外側にイオン性重合性界面活性剤Bがそのイオン性基を水相側に向けて配向しアドミセルを形成するものと推定される。そして最終的に、疎水性モノマーの反応系への添加量に比例した粒子径(壁材の厚み)を有するカプセル化物を得ることができる。また、芯物質をコアに持たない重合副生成物は生成され難く、したがって、高い収率でカプセル化物を得ることができる。
【0044】
尚、本発明においては、カプセル化物の製造工程において、必要に応じて発明の効果を損ねない範囲で、上記重合成分(イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーB、疎水性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B)以外の他の重合成分を用いることができる。この場合、他の重合成分を添加後、芯物質を含む水性溶媒(混合液)に超音波を照射することが好ましい。
【0045】
また、上記工程3aにおいては、イオン性重合性界面活性剤Bに加えてさらに、「非イオン性基と疎水性基と重合性基とを有する非イオン性重合性界面活性剤」を、上記工程2aを経た混合液に添加・混合することができる。同様に、上記工程2bにおいては、イオン性重合性界面活性剤Bに加えてさらに、上記非イオン性重合性界面活性剤を、上記工程1を経た混合液に添加・混合することができる。
【0046】
上記非イオン性重合性界面活性剤の使用は、カプセル化物の表面の電荷量を制御することを可能にする。例えば、水中に分散したカプセル化物のゼータ電位を非イオン性重合性界面活性剤の添加量によって変えることができる。また、芯物質に顔料等の色材粒子を用いたカプセル化物をインクジェット記録用インクの色材として用いた場合には、普通紙上での高い発色性と印刷濃度が得られると共に、インクジェット専用紙上では高い光沢性と写像性を得ることができる。
【0047】
上記工程3a又は工程2bにおいて、上記非イオン性重合性界面活性剤の添加量は、工程3a又は工程3bで最終的に得られる上記最終混合液中での非イオン性重合性界面活性剤の濃度が、該最終混合液中の水分量に対して非イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度と等しくなる量とすることが好ましい。
【0048】
上記非イオン性重合性界面活性剤を使用した場合に形成されうるアドミセルの状態を図5に示す。図5に記載の符号のうち、図1〜図4に記載の符号と同じ符号のものは、上述した図1〜図4の説明が適用される。
【0049】
図5に示すアドミセルにおいては、芯物質1の表面にアニオン性界面活性剤2を介して吸着したカチオン性モノマー3(イオン性モノマー)の疎水性基32及び重合性基33に対して、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤4(イオン性重合性界面活性剤B)の疎水性基42及び重合性基43と共に、非イオン性重合性界面活性剤8の疎水性基82及び重合性基83がそれぞれ向き合い、且つ、アニオン性重合性界面活性剤4のアニオン性基41と、非イオン性重合性界面活性剤8の非イオン性基81とが、それぞれ水性溶媒の存在する方向、即ち芯物質1から最も離れた方向に存在している。疎水性モノマー5は、カチオン性重合性界面活性剤3の疎水性基32及び重合性基33と、アニオン性重合性界面活性剤4の疎水性基42及び重合性基43と、非イオン性重合性界面活性剤8の疎水性基82及び重合性基83とが向き合って形成される疎水相に存在している。本発明のカプセル化物は、このようなアドミセルの形成を経ることによっても、好適に製造することができる。
【0050】
上記工程4aでは、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度調節器を備えた反応容器中にて上記工程3aを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、重合反応を行う。同様に、上記工程4bでは、上記と同様の設備を備えた反応容器中にて上記工程3bを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、重合反応を行う。
【0051】
重合開始剤の溶媒への添加は、重合開始剤が活性化される温度に加熱された溶媒に対して、重合開始剤を一度に若しくは分割して添加してもよく、又は連続的に添加してもよい。また、重合開始剤を添加した後に、重合開始剤が活性化される温度に溶媒を加熱してもよい。重合開始剤には、水に可溶な水溶性重合開始剤と、水に不溶又は難溶の油溶性重合開始剤とがあり、本発明では何れの重合開始剤も用いることができる。水溶性重合開始剤を用いる場合は、水溶性重合開始剤をイオン交換水に溶解させて得た水溶液を、反応容器内の溶媒に所定の滴下速度で滴下することにより、重合反応を好適に実施することができる。油溶性重合開始剤を用いる場合は、反応容器内の溶媒に直接添加するか、又は油溶性重合開始剤を疎水性モノマーに溶解させたものを溶媒に添加することにより、重合反応を好適に実施することができる。
【0052】
上記重合性開始剤の添加量は、重合成分(イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、疎水性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B、非イオン性重合性界面活性剤及びその他の重合成分)の総添加重量に対して、好ましくは1〜5重量%、更に好ましくは1〜3重量%である。該添加量が1重量%未満では、重合反応が十分に進まないおそれがあり、該添加量が5重量%を超得ると、ゲル化や凝集等が起こるおそれがある。
【0053】
重合開始剤の活性化は、重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生する温度まで、反応系を昇温することによって好適に実施できる。添加された重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生し、該開始剤ラジカルが、イオン性モノマー及びイオン性重合性界面活性剤、並びに疎水性モノマー、場合によって非イオン性重合性界面活性剤及びその他の重合成分の重合性基を攻撃することによって重合反応が起こる。重合温度及び重合反応時間は、用いる重合開始剤の種類及び重合性モノマーの種類によって変わるが、当業者であれば適宜好ましい重合条件を設定することは容易である。一般に、重合温度は40℃〜90℃の範囲とするのが好ましく、重合時間は3時間〜12時間とするのが好ましい。
【0054】
尚、上記工程4a又は工程4bで行われる重合反応では、必要に応じて公知のアニオン系、非イオン系、及びカチオン系乳化剤からなる群から選ばれる1種以上を用いることもできる。ただし、これらの乳化剤を使用する際にはイオン性重合性界面活性剤Bと同じ電荷を有するもの、または、非イオン性のものを用いなければならない。イオン性重合性界面活性剤Bと異なる電荷の乳化剤を使用するとゲル化や凝集が起こるため好ましくない。
【0055】
上記工程4a又は工程4bの終了後(重合終了後)は、得られたカプセル化物の水性分散液のpHをアニオン性重合性界面活性剤を使用した場合はpHを7.0〜9.0の範囲に調整し、カチオン性重合性界面活性剤を使用した場合はpHを4.0〜6.0の範囲に調整することが好ましい。さらに濾過を行なうことが好ましい。濾過は限外濾過が好ましい。
【0056】
(1)上記工程1、工程2a、工程3a及び工程4a、又は(2)上記工程1、工程2b、工程3b及び工程4bを経て製造されるカプセル化物の水性分散液においては、カプセル化物は水性溶媒に対して高い分散安定性を有するが、これは芯物質が、ポリマーを主成分とする壁材で完全に被覆されている(被覆されていない部分がない)とともに、壁材を構成するポリマーにおける親水性基が水性溶媒に向かって規則正しく配向しているためであると考えられる。
【0057】
尚、こうして得られたカプセル化物の水性分散液には、カプセル化物の他に、該カプセル化物の製造に使用したモノマー(イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、疎水性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B、非イオン性重合性界面活性剤等)に由来する未反応モノマー(反応に使用されなかったモノマーや重合性化合物等の副生成物)が含まれていることがあるため、上記水性分散液を精製処理し、未反応モノマーの濃度を低減することが好ましい。精製処理された上記水性分散液を特にインクジェット記録用インクに用いた場合、普通紙に対しては、彩度及び印字濃度(印刷濃度)が高く、滲みの発生も抑制されて、高画質な画像を出力することが可能となり、また、インクジェット記録用専用メディア、特にインクジェット用光沢メディアに対しては、良好な光沢性を有する画像を出力することが可能となる。
【0058】
カプセル化物を含む水性分散液を精製処理する方法としては、遠心分離法や限外濾過法等を用いることができる。
【0059】
精製処理後のカプセル化物を含む水性分散液の固形分以外の全成分中に含まれる上記未反応モノマーの量は、50,000ppm以下であることが好ましく、10,000ppm以下であることがより好ましい。未反応モノマーの量は、既知濃度の未反応モノマーを含む試料を対象として、測定試料のガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーを用いて容易に測定することができる。
【0060】
以上、芯物質を被覆する壁材(ポリマー被覆層)が単層構造であるカプセル化物の製造方法について説明したが、本発明のカプセル化物においては、ポリマー被覆層を、2層以上を積層して複層化することも可能である。この場合には、ポリマー被覆層が2層構造となっているカプセル化物を例にとると、先ず、(1)「表面に電荷を有する芯物質」を含む水性溶媒に、「芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー」を添加・混合し、上記芯物質の表面にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを吸着させ、(2)疎水性モノマーを添加・混合後、(3)「芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤B」を、該イオン性重合性界面活性剤Bの本工程(3)で最終的に得られる最終混合液中の濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように、添加・混合した後に、(4)重合開始剤を添加し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと疎水性モノマーとイオン性重合性界面活性剤Bとを水中で重合して第1のポリマー被覆層を有したカプセル化物を得る。次いで、(5)第1のポリマー被覆層を有したカプセル化物の水性分散液に、「第1のポリマー被覆層の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマー」を添加・混合後、(6)疎水性モノマーを添加・混合し、(7)「第1のポリマー被覆層の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D」を、該イオン性重合性界面活性剤Dの本工程(7)で最終的に得られる最終混合液中の濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Dの臨界ミセル濃度となるように、添加・混合した後に、(8)重合開始剤を添加して上記イオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーと疎水性モノマーとイオン性重合性界面活性剤Dとを水中で重合し、第2のポリマー被覆層を形成して、芯物質上に第一のポリマー被覆層と第二のポリマー被覆層を持ったカプセル化物を好適に製造することができる。3層以上の多層構造のポリマー被覆層を有するカプセル化物は、上記方法に準じて、芯物質上にポリマー被覆層を順次形成していくことによって好適に製造することができる。尚、上記イオン性重合性界面活性剤Cとしては、上記イオン性重合性界面活性剤Aと同様のものを用いることができ、上記イオン性重合性界面活性剤Dとしては、上記イオン性重合性界面活性剤Bと同様のものを用いることができる。
【0061】
上記の複層のポリマー被覆層(壁材)を持つ本発明のカプセル化物の製造方法においても、上述した炭素数6以上の高級アルコールの添加が有効である。該高級アルコールの添加時期は、特に限定されないが、第1の被覆層、第2の被覆層それぞれの形成工程において、重合開始剤を添加する前、すなわち重合前であることが好ましい。即ち、第1のポリマー被覆層の形成には、上記(2)の工程後で上記(3)の工程前、第2のポリマー被覆層の形成には、上記上記(6)の工程後で上記(7)の工程前に、上記高級アルコールを添加することが好ましい。上記高級アルコールをどのポリマー被覆層の形成時に添加するかにより、カプセル化物の球状性を制御できると共に、カプセル化物の成膜性をコントロールすることも可能となる。
【0062】
以下に、本発明の製造方法で用いられる各種原料について説明する。
[芯物質]
本発明に用いられる芯物質としては、特に限定されず、色材、無機物、有機物、無機有機複合粒子、無機コロイド、ポリマー粒子、金属酸化物(シリカ、チタニア等)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。有機物として、例えば危険な薬品等の使用を意図した場合でも、本発明に係るカプセル化物は、そのような危険な薬品等の取り扱い性を良くする等の効果を奏する。無機有機複合粒子は、樹脂成型体等の充填材として用いられることにより、その成型体の特性を向上させることのできるものである。無機コロイドは、透明性の高いハードコート層に使用できるものである。色材としては、所望の色を発色し得る無機顔料や有機顔料等の顔料、分散染料や油溶性染料等の水に不溶又は難溶の染料を挙げることができる。色材を芯物質としてカプセル化物を製造した場合、該カプセル化物は、塗料や顔料インク、トナー等の着色剤として使用することができる。尚、芯物質の表面に電荷を付与させる方法については上述した通りである。
【0063】
芯物質として使用可能な無機顔料(色材)としては、ファーネスブラック,ランブブラック,アセチレンブラック,チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、あるいは、酸化鉄顔料等を挙げることができる。
【0064】
また、芯物質として使用可能な有機顔料(色材)としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及びキレートアゾ顔料などを含む。)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、又はキノフラノン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート又は酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、又はアニリンブラック等を挙げることができる。
【0065】
更に詳しくは、ブラック用として使用される無機顔料として、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、又はMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、又はSpecial Black 4等を挙げることができる。
【0066】
また、ブラック用の有機顔料としては、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の黒色有機顔料を挙げることができる。
【0067】
イエロー有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ハンザイエロー)、2,3(ハンザイエロー10G)、4,5(ハンザイエロー5G)、6,7,10,11,12,13,14,16,17,24(フラバントロンイエロー),34,35,37,53,55,65,73,74,75,81,83,93,94,95,97,98,99,108(アントラピリミジンイエロー)、109,110,113,117(銅錯塩顔料)、120,124,128,129,133(キノフタロン)、138,139(イソインドリノン)、147,151,153(ニッケル錯体顔料)、154,167,172,180等を挙げることができる。
【0068】
マゼンタ有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1(パラレッド)、2,3(トルイジンレッド)、4,5(lTR Red)、6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38(ピラゾロンレッド)、40,41,42,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,88(チオインジゴ)、112(ナフトールAS系)、114(ナフトールAS系)、122(ジメチルキナクリドン)、123,144,146,149,150,166,168(アントアントロンオレンジ)、170(ナフトールAS系)、171,175,176,177,178,179(ベリレンマルーン)、184,185,187,202,209(ジクロロキナクリドン)、219,224(ベリレン系)、245(ナフトールAS糸)、又は、C.I.ピグメントバイオレット19(キナクリドン)、23(ジオキサジンバイオレット)、32,33,36,38,43,50等を挙げることができる。
【0069】
シアン有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15,15:1,15:2,15:3,15:34,15:4,16(無金属フタロシアニン)、18(アルカリブルートナー)、22,25,60(スレンブルー)、65(ビオラントロン)、66(インジゴ)、C.I.Vatブルー4,60等を挙げることができる。
【0070】
また、イエロー、マゼンタ、シアン以外の有機顔料として、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、10(グリーンゴールド)、36,37;C.I.ピグメントブラウン3,5,25,26;あるいはC.I.ピグメントオレンジ1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等を挙げることができる。
【0071】
芯物質の平均粒子径(直径)は、好ましくは150nm以下、更に好ましくは20nm〜80nmである。ここでいう平均粒子径は、レーザ光散乱法による計測値である。芯物質の平均粒子径が斯かる範囲にあるカプセル化物は、特にインクジェット記録用インクの色材として用いた場合に、分散安定性及び吐出安定性に優れ、画像の印字濃度が高い画像を出力し得る。
[イオン性重合性界面活性剤A]
イオン性重合性界面活性剤Aは、芯物質を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有する。
【0072】
上記疎水性基としては、炭素数が8〜16の直鎖アルキル基、炭素数が8〜16の分岐鎖アルキル基、及び分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有するアルキルベンゼン(アルキルフェニル基)やアルキルナフタレン(アルキルナフチル基)、並びにポリプロピレンオキサイド基からなる群から選ばれる。分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
【0073】
上記重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。これらの中でも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。
【0074】
上記イオン性基としては、カチオン性基及びアニオン性基が挙げられ、上記イオン性基としてカチオン性基を有するイオン性重合性界面活性剤は、「カチオン性重合性界面活性剤」と称され、上記イオン性基としてアニオン性基を有するイオン性重合性界面活性剤は、「アニオン性重合性界面活性剤」と称される。本発明では、芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基を持つイオン性重合性界面活性剤Aを芯物質表面に静電相互作用を利用して吸着させる。イオン性重合性界面活性剤Aは、芯物質表面が持つ電荷によってカチオン性重合性界面活性剤、アニオン性重合性界面活性剤の何れかを使用する。
【0075】
上記カチオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式R[4-(l+m+n)]1l2m3n+・X-で表される化合物を挙げることができる(上記一般式中、Rは重合性基であり、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基であり、X-はCl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C25OSO3-であり、l 、m 及びnはそれぞれ1又は0である)。ここで、重合性基としては、上述したものと同じものを挙げることができる。
【0076】
上記カチオン性重合性界面活性剤の具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルオクチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルセチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルテトラデシルクロライド塩、等を挙げることができる。
【0077】
以上例示したカチオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として本発明に用いることができる。
【0078】
上記アニオン性重合性界面活性剤の具体例としては、特公昭49−46291号公報、特公平1−24142号公報、又は特開昭62−104802号公報に記載されているようなアニオン性のアリル誘導体、特開昭62−221431号公報に記載されているようなアニオン性のプロペニル誘導体、特開昭62−34947号公報又は特開昭55−11525号公報に記載されているようなアニオン性のアクリル酸誘導体、特公昭46−34898号公報又は特開昭51−30284号公報に記載されているようなアニオン性のイタコン酸誘導体等を挙げることができる。
【0079】
本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(31):
【0080】
【化1】

[式中、R21及びR31は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Z1は、炭素−炭素単結合又は式:
−CH2−O−CH2
で表される基であり、mは2〜20の整数であり、Xは式−SO31で表される基であり、M1はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物、又は、例えば、下記一般式(32):
【0081】
【化2】

[式中、R22及びR32は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Dは、炭素−炭素単結合又は式:
−CH2−O−CH2
で表される基であり、nは2〜20の整数であり、Yは式−SO32で表される基であり、M2はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物が好ましい。
【0082】
上記一般式(31)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、特開平5−320276号公報、又は特開平10−316909号公報に記載されている化合物を挙げることができる。上記一般式(31)におけるmの値を適宜調整することによって、芯物質をカプセル化して得られるカプセル化物の表面の親水性を調整することが可能である。上記一般式(31)で表される好ましい重合性界面活性剤としては、下記一般式(310)で表される化合物を挙げることができ、さらに具体的には、下記式(31a)〜(31d)で表される化合物を挙げることができる。
【0083】
【化3】

[式中、R31、m、及びM1は一般式(31)で表される化合物と同様である。]
【0084】
【化4】

【0085】
【化5】

【0086】
【化6】

【0087】
【化7】

上記一般式(310)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。例えば、旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−10Nは、上記一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC919、m=10とされる化合物である。旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−20Nは、上記一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC919、m=20とされる化合物である。
【0088】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(33):
【0089】
【化8】

[式中、pは9又は11であり、qは2〜20の整数であり、Aは−SO33で表わされる基であり、M3はアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物が好ましい。上記一般式(33)で表される好ましいアニオン性重合性界面活性剤としては、以下の化合物を挙げることができる。
【0090】
【化9】

[式中、rは9又は11、sは5又は10である。]
上記一般式(33)、上記〔化9〕に記載の式で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンKHシリーズ(アクアロンKH−5、及びアクアロンKH−10)(以上、商品名)などを挙げることができる。アクアロンKH−5は、上記一般式(33)で表される化合物において、rが9及びsが5である化合物と、rが11及びsが5である化合物との混合物である。アクアロンKH−10は、上記〔化9〕に記載の式で表される化合物において、rが9及びsが10である化合物と、rが11及びsが10である化合物との混合物である。
【0091】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(34)で表される化合物が好ましい。
【0092】
【化10】

[式中、Rは炭素数8〜15のアルキル基であり、nは2〜20の整数であり、Xは−SO3Bで表わされる基であり、Bはアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。]
上記一般式(34)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープSRシリーズ(アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−1025)(以上、商品名)などを挙げることができる。アデカリアソープSRシリーズは、上記一般式(34)において、BがNH4で表される化合物であって、SR−10はn=10、SR−20はn=20である化合物である。
【0093】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(A)で表される化合物も使用できる。
【0094】
【化11】

[上記式(A)中、R4は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、lは2〜20の数を表し、M4はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンを表す。]
上記一般式(A)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンHSシリーズ(アクアロンHS−10、HS−20、及びHS−1025)(以上、商品名)が挙げられる。
【0095】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(35)で表されるアルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩を挙げることができる。
【0096】
【化12】

上記一般式(35)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール JS−2を挙げることができ、上記一般式(35)において、m=12で表される化合物である。
【0097】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(36)で表されるメタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム塩を挙げることができる。下記一般式(36)中、nは1〜20である。
【0098】
【化13】

上記一般式(36)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール RS−30を挙げることができ、上記一般式(36)において、n=9で表される化合物である。
【0099】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(37)で表される化合物を用いることができる。
【0100】
【化14】

[式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR4は水素原子又はアルキル基で各々同一か異なっていてもよく、R3及びR5は水素原子又はアルキル基、ベンジル基、スチレン基で各々同一か異なっていてもよく、Xはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム又はアミンカチオンを表し、mは0又は1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。]
上記一般式(37)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社のAntox MS−60を挙げることができ、上記一般式(37)において、R1がメチル基、R2、R3、R4、R5が水素原子又はアルキル基、m及びnが正の整数、Xがアンモニウムで表される化合物がこれに当たる。
【0101】
以上に例示したアニオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
[イオン性重合性界面活性剤B]
イオン性重合性界面活性剤Bは、芯物質を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有する。該イオン性基、該疎水性基、該重合性基としては、それぞれ、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したものと同じものを用いることができ、また、イオン性重合性界面活性剤Bとして、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したカチオン性重合性界面活性剤及びアニオン性重合性界面活性剤と同じものを用いることができる。
[イオン性モノマー]
イオン性モノマーは、芯物質を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有し、水溶性である。
【0102】
上記疎水性基としては、炭素数が1〜7のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
【0103】
上記重合性基としては、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したものと同じものを用いることができる。
【0104】
上記イオン性基としては、カチオン性基及びアニオン性基が挙げられ、上記イオン性基としてカチオン性基を有するイオン性モノマーは、「カチオン性水溶性モノマー」と称され、上記イオン性基としてアニオン性基を有するイオン性モノマーは、「アニオン性水溶性モノマー」と称される。本発明では、イオン性モノマーとして、カチオン性モノマー、アニオン性モノマーの何れを用いても良く、カプセル化物の用途に応じて何れかを適宜選択すれば良い。
【0105】
上記カチオン性基(イオン性基)としては、一級アンモニウムカチオン、二級アンモニウムカチオン、三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンなる群から選択されたカチオン性基が好ましい。一級アンモニウムカチオンとしてはモノアルキルアンモニウムカチオン(RNH3+)等を、二級アンモニウムカチオンとしてはジアルキルアンモニウムカチオン(R2NH2+)等を、三級アンモニウムカチオンとしてはトリアルキルアンモニウムカチオン(R3NH+)等を、第四級アンモニウムカチオンとしては(R4+)等を挙げることができる。ここで、Rは、疎水性基であり、以下に示すものを挙げることができる。また、上記カチオン性基の対アニオンとしては、Cl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C25OSO3-等を挙げることができる。
【0106】
上記アニオン性基(イオン性基)としては、スルホン酸基(−SO3-)、スルフィン酸基(−SO2-)、硫酸エステル基(−OSO3-)、カルボキシル基(―COO-)、リン酸基(=O2PO(O-),−OPO(O-2)、亜リン酸基(=O2PO-,−OP(O-2)、ホスホン酸基(−PO2(O-),−PO(O-2)、スルフィン酸エステル基(−OSO2-)、リン酸エステル基等が挙げられ、これらは下記に示す塩の形で用いられる。具体的に画、スルホン酸塩(−SO3M)、スルフィン酸塩(−SO2M)、硫酸エステル塩(−OSO3M)、カルボン酸塩(―COOM)、リン酸塩(=O2PO(OM),−OPO(OM)2)、亜リン酸塩(=O2POM,−OP(OM)2)、ホスホン酸塩(−PO2(OM),−PO(OM)2)、スルフィン酸エステル塩(−OSO2M)、リン酸エステル塩、から選択されたものを好適に例示でき、Mは、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、NH4、アミン、エタノールアミン等である。
【0107】
本発明に用いられる上記カチオン性水溶性モノマーの好ましい具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド塩、及び2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド塩、等が挙げられる。上記のカチオン性水溶性モノマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、アクリエステルDMC(三菱レイヨン(株))、アクリエステルDML60(三菱レイヨン(株))、及びC−1615(第一工業製薬(株))などを挙げることができる。以上例示したカチオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0108】
本発明に用いられる上記アニオン性水溶性モノマーの好ましい具体例としては、カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、4−スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルスルホン酸及びその塩、スルホエチルアクリレート及びその塩、スルホエチルメタクリレート及びその塩、スルホアルキルアクリレート及びその塩、スルホアルキルメタクリレート及びその塩、スルホプロピルアクリレート及びその塩、スルホプロピルメタクリレート及びその塩、スルホアリールアクリレート及びその塩、スルホアリールメタクリレート及びその塩、ブチルアクリルアミドスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。また、ホスホン基を有するモノマーとしては、ホスホエチルメタクリレート等のリン酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。以上例示したアニオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
[疎水性モノマー]
本発明に用いられる疎水性モノマーとしては、その構造中に少なくとも疎水性基と重合性基とを有するもので、該疎水性基が、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基の群から選択されたものを例示できる。該脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、及びプロピル基等を、該脂環式炭化水素基としてはシクロヘキシル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンタニル基、及びイソボルニル基等を、該芳香族炭化水素基としてはベンジル基、フェニル基、及びナフチル基等を挙げることができる。
【0109】
上記疎水性モノマーの重合性基としては、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したものと同じものを用いることができる。
【0110】
疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、t−ブチルスチレン、ブロムスチレン、p−クロルメチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、イソプロピルアクリレート、アクリル酸n−ブチル、ブトキシエチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、及びイソボルニルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアクリレート等の単官能アクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、イソプロピルメタクリレート、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソデシル、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、及びイソボルニルメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、等の単官能メタクリル酸エステル類;アリルベンゼン、アリル−3−シクロヘキサンプロピオネート、1−アリル−3,4−ジメトキシベンゼン、アリルフェノキシアセテート、アリルフェニルアセテート、アリルシクロヘキサン、及び多価カルボン酸アリル等のアリル化合物;フマル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和エステル類;N−置換マレイミド、環状オレフィンなどのラジカル重合性基を有するモノマー等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
[非イオン性重合性界面活性剤]
本発明に用いられる非イオン性重合性界面活性剤は、炭素数が8〜16の直鎖アルキル基、炭素数が8〜16の分岐鎖アルキル基、及び分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有するアルキルベンゼン(アルキルフェニル基)やアルキルナフタレン(アルキルナフチル基)、並びにポリプロピレンオキサイド基からなる群から選ばれる疎水性基と、水酸基、ポリオキシエチレン基、ポリグリセリン基等からなる非イオン性基と、重合性基から構成されたものである。該重合性基としては、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したものと同じものを用いることができる。
【0111】
本発明に用いられる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(100)で表される化合物を使用できる。
【0112】
【化15】

[上記式(100)中、R50は水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、nは5〜50の数を表す。]
上記一般式(100)で表される化合物(非イオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンRNシリーズ(アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、及びRN−2025)(以上、商品名)が挙げられる。下記式(101)はアクアロンRN−20を示す。
【0113】
【化16】

本発明に用いられる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(103)で表される化合物を使用できる。
【0114】
【化17】

[上記式(103)中、R51は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、nは5〜50の数を表す。]
上記一般式(103)で表される化合物(非イオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のノイゲンシリーズ(ノイゲンN−10、N−20、N−30、N−50)(以上、商品名)が挙げられる。下記式(104)はノイゲンN−20を示す。
【0115】
【化18】

本発明に用いられる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(105)で表される化合物を使用できる。
【0116】
【化19】

[上記式(105)中、R52は炭素数8〜15のアルキル基であり、nは5〜50の整数である。]
上記一般式(105)で表される化合物(非イオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープERシリーズ(アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40)(以上、商品名)などを挙げることができる。ER−10はn=10、ER−20はn=20、ER−30はn=30、ER−40はn=40である化合物である。
【0117】
本発明に用いられる非イオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(106)で表される化合物を使用できる。
【0118】
【化20】

[上記式(106)中、R53は水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、nは5〜50の数を表す。]
上記一般式(106)で表される化合物(非イオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープNEシリーズ(アデカリアソープNE−5、NE−10、NE−20、NE−30、NE−40)(以上、商品名)などを挙げることができる。NE−5はn=5、NE−10はn=10、NE−20はn=20、NE−30はn=30、NE−40はn=40である化合物である。下記式(107)はアデカリアソープNE−10を示す。
【0119】
【化21】

本発明に用いられる非イオン性重合性界面活性剤としては、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(商品名 ブレンマー50PEP−300 <日本油脂株式会社製> 下記式(108))、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名 ブレンマー70PEP−350B <日本油脂株式会社製> 下記式(109))、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート(商品名 ブレンマーAEPシリーズ <日本油脂株式会社製>)、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート(商品名 ブレンマーAETシリーズ <日本油脂株式会社製>)、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート(商品名 ブレンマーAPTシリーズ <日本油脂株式会社製>)、ラウロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名 ブレンマーPLE−200 <日本油脂株式会社製> 下記式(110))、ラウロキシポリエチレングリコールモノアクリレート(商品名 ブレンマーALE−200、ALE−800 <日本油脂株式会社製> 下記式(111))、ステアロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名 ブレンマーPSE−200、PSE−400、PSE−1300 <日本油脂株式会社製> 下記式(112))、ステアロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート(商品名 ブレンマーASEPシリーズ <日本油脂株式会社製> 下記式(113))、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート(商品名 ブレンマーANE−300、ANE−1300<日本油脂株式会社製> 下記式(114))、ノニルフェノキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名 ブレンマーPNEPシリーズ<日本油脂株式会社製> 下記式(115))、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名 ブレンマーPNPEシリーズ<日本油脂株式会社製> 下記式(116))、ノニルフェノキシポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノアクリレート(商品名 ブレンマー43ANEP−500、70ANEP−550、75ANEP−600<日本油脂株式会社製>)が挙げられる。
【0120】
【化22】

【0121】
【化23】

【0122】
【化24】

【0123】
【化25】

【0124】
【化26】

【0125】
【化27】

【0126】
【化28】

【0127】
【化29】

【0128】
【化30】

[その他の重合成分]
本発明に係る壁材の原料としては、上述した重合成分(イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、疎水性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B、非イオン性重合性界面活性剤)以外の他の重合成分を用いることができ、例えば、架橋性モノマーが挙げられる。
【0129】
壁材の主成分であるポリマーに、架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を含有させることにより、該ポリマー中に架橋構造が形成され、耐溶剤性(インクジェット記録用インクに含有される溶媒が芯物質を被覆するポリマー内部に侵入しにくい特性)を向上させることができる。溶剤が芯物質を被覆するポリマーの内部に浸透すると、ポリマーが膨潤や変形等を起こし、水性媒体側に向くカプセル化物のアニオン性基の配向状態が乱されるなどしてカプセル化物の分散安定性等が低下することがある。このような場合においては、芯物質を被覆するポリマーに架橋構造を形成させることによって、カプセル化物の耐溶剤性が向上し、水溶性有機溶媒が共存するインク組成物において、カプセル化物の分散安定性、インク組成物の保存安定性、インクジェットヘッドからのインク組成物の吐出安定性を一層高めることができる。また、疎水性モノマーと架橋性モノマーとが共重合することにより、壁材の主成分であるポリマーの機械的強度や耐熱性が高まり、壁材の形態維持性が向上する。
【0130】
本発明に用いられる架橋性モノマーとしては、ビニル基,アリル基,アクリロイル基,メタクリロイル基,プロペニル基,ビニリデン基,及びビニレン基から選ばれる1種以上の不飽和炭化水素基を2個以上有する化合物を有するものが挙げられる。架橋性モノマーの具体例としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、テトラブロモビスフェノールAジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリグリセーロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、及びジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0131】
また、他の重合成分として、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0132】
【化31】

[ただし、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2はt−ブチル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はヘテロ環基を表す。mは0〜3、nは0又は1の整数を表す。]
上記一般式(1)において、R2が示す脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、及びアダマンタン基等が挙げられ、ヘテロ環基としてはテトラヒドロフラン基等が挙げられる。
【0133】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0134】
【化32】

【0135】
【化33】

本発明に係るカプセル化物の壁材の主成分であるポリマー中に、上記一般式(1)で表される化合物由来の「嵩高い」基である上記R2基を入れることによって、ポリマーの分子のたわみやすさが低下する、即ち、分子の運動性が低下するため、ポリマーの機械的強度や耐熱性が向上する。このため、該ポリマーを主成分とする壁材を有する本態様のカプセル化物を含むインク組成物は、優れた耐擦性と耐久性を有する印刷物を提供することができる。また、壁材を構成するポリマー中に、"嵩高い"基である上記R2基を存在させることによって、ポリマー内部へのインク組成物中の有機溶媒の浸透を抑制できることから、カプセル化物の耐溶剤性を優れたものにすることができる。これによって、水溶性有機溶媒が共存するインクジェット記録用インク組成物において、色材粒子の分散性や、インク組成物の保存安定性、さらにインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出性をも高めることができる。
【0136】
ところで、上記の「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」を有するポリマーや、「上記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位」を有するポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が高く、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性に優れるという利点を有する。
【0137】
しかしながら、このようなポリマーを含む壁材を有するカプセル化物は、ポリマーの可塑性が不十分となって、インク組成物の成分として使用した場合には、記録媒体と密着しにくい状態となりやすく、その結果カプセル化物の記録媒体への定着性・耐擦性が低下する場合がある。
【0138】
一方、上述した疎水性モノマーのうち、長鎖アルキル基を有するモノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマーは柔軟性を有する。したがって、「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」及び/又は「上記一般式(1)で表される化合物(モノマー)から誘導された繰り返し構造単位」と、「長鎖アルキル基を有するモノマーから誘導された繰り返し構造単位」との比率を適宜調整することによって、壁材として好ましい可塑性を損なわずに、優れた機械的強度及び耐溶剤性を有する壁材用ポリマーとすることができる。このようなポリマーを含む壁材を有するカプセル化物を含有するインク組成物は、該インク組成物が水溶性有機溶媒を含むものであっても、分散安定性や長期保存性に優れ、インクジェットヘッドからの吐出性安定性にも優れている。また、本態様のカプセル化物を含むインク組成物は、紙やインクジェット記録用専用紙等の記録媒体への該カプセル化物の定着性が良好であり、耐擦性、耐久性及び耐溶剤性に優れた印刷画像を提供することができる。
[重合開始剤]
本発明に用いられる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、特にラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤は、水溶性のものでもよく、油溶性のものでもよいが、好ましくは水溶性重合開始剤であり、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、2,2−アゾビス−(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、及び4,4−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等と、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることもできる。
[その他の成分]
本発明に係るカプセル化物を構成する原料としては、上述したもの以外に、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、ワックス等を用いることができる。
【0139】
以下、上述した本発明の製造方法によって製造されるカプセル化物について説明する。
[カプセル化物の粒子径等]
本発明のカプセル化物の粒子径は、カプセル化物の用途によって適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。特に、カプセル化物をインクジェット記録用インクの色材として用いる場合は、体積平均粒子径として400nm以下であることが好ましく、10〜200nmであることが更に好ましい。カプセル化物の粒子径の制御は、上述したようにカプセル化物の製造工程においてイオン性重合性界面活性剤Bの反応系の溶媒中の濃度が臨界ミセル濃度となるように添加することと、芯物質に対する疎水性モノマーの体積比と芯物質の平均粒子径とから求めた疎水性モノマーの添加量とから行うことができる。
【0140】
また、本発明のカプセル化物は、アスペクト比(長短度)が1.0〜1.3であり、且つZingg指数が1.0〜1.3(より好ましくは1.0〜1.2)であることが好ましい。Zingg指数が1.3より大きくなると、カプセル化物がより扁平形状となって等方性が低くなる。アスペクト比及びZingg指数を上記範囲内とする方法としては特に限定されないが、上述した本発明の製造方法により得られたカプセル化物は、この条件を容易に満たし得る。カプセル化物をインクジェット記録用インクの色材として用いる場合、アスペクト比及びZingg指数がそれぞれ上記範囲にあると、カプセル化物のインク溶媒中での分散性が高く、分散安定性にも優れる。また、吐出安定性にも優れ、普通紙上での高いOD値や光沢系フィルム上での高い光沢と写像性が得られやすい。
【0141】
尚、酸析法や転相乳化法等の本発明以外のカプセル化物の製造方法では、カプセル化物のアスペクト比及びZingg指数が上記範囲内になり難い。
【0142】
これに対し、上述した本発明の製造方法によって得られるカプセル化物は、アスペクト比及びZingg指数がそれぞれ上記範囲となり、真球状となるため、インク成分として使用した場合、インクの流動特性がニュートニアンとなりやすく、吐出安定性に優れたものとなる。また、真球状であることから、紙等の記録媒体に着弾した場合にカプセル化物が記録媒体上に高密度で配置され、印刷濃度や発色を高効率で発現することができる。また、真球状であることから、分散性や分散安定性にも優れる。
【0143】
また、本発明のカプセル化物の成膜性、壁材の強度、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性、その他の物理特性及び化学特性は、壁材の主成分であるポリマーの組成、構造等を適切に制御することによって、カプセル化物の用途に適したものとすることが可能である。
【0144】
特に、カプセル化物をインクジェット記録用インクの色材として使用した場合における色材の定着性、印字部の耐擦性及び光沢性は、壁材の主成分であるポリマー(共重合体、コポリマー)のガラス転移温度(Tg)によって制御可能である。
【0145】
一般に、高分子固体、特に無定形高分子固体において、温度を低温から高温へ上げていくと、わずかな変形に非常に大きな力の要る状態(ガラス状態)から小さな力で大きな変形が起こる状態へと急変する現象が起こるが、この現象の起こる温度をガラス転移温度(又はガラス転移点)という。一般には、熱走査型熱量計(Differential scanning calorimeter)による昇温測定によって得られた示差熱曲線において、吸熱ピークの底部から吸熱の開始点に向かって接線を引いたときのベースラインとの交点の温度がガラス転移温度とされる(本明細書におけるTgは、この定義に従ったものである)。また、ガラス転移温度では弾性率、比熱、屈折率などの他の物性も急激に変化することが知られており、これらの物性を測定することによってもガラス転移温度が決定されることが知られている。さらに共重合体を合成する際に使用したモノマーの重量分率と当該モノマーを単独重合して得られるホモポリマーのガラス転移点とから下記Foxの式によりガラス転移温度を計算することができる。(本発明においては、Foxの式により得られるガラス転移温度を用いた。)
【0146】
【数1】

(上記式中、Tg[p]は得られるポリマーのガラス転移温度、iは種類の異なるモノマーごとに付した番号、Tg[hp]iは重合に用いるモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度、Xiは重合するモノマーの重量総計に対するモノマーiの重量分率を表す。)
即ち、カプセル化物の置かれた温度環境が、該カプセル化物の壁材を構成する共重合体のガラス転移温度よりも高い場合には、この共重合体は小さな力で大きな変形が起こる状態となり、さらに融点に達すると溶融する。このとき、近傍に他のカプセル化物が存在するとカプセル化物同士が融着して成膜する。また、融点まで環境温度が達しない場合であっても、カプセル化物同士が強い力によって接触するような場合は、各カプセル化物を被覆している共重合体分子同士が絡み合うことが可能となるような条件が整えば、カプセル化物を覆う共重合体(コポリマー)同士は融着することもある。
【0147】
カプセル化物を色材として用いたインクを用いて普通紙やインクジェット記録用専用紙等の記録媒体に印字した場合に、該カプセル化物が室温でより好ましく成膜し、色材定着性、印字部の耐擦性及び光沢性について良好な結果を得るためには、壁材の主成分である上記ポリマーのTgが、好ましくは30℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下である。従って、カプセル化物をインクジェット用インクに用いる場合には、壁材を構成するポリマー(共重合体、コポリマー)のガラス転移温度を30℃以下になるように設計することが好ましく、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下に設計するのが好ましい。但し、ガラス転移温度を−20℃より低くした場合は、耐溶剤性が低下する傾向となるため注意を要する。
【実施例】
【0148】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
(アニオン性基を表面に有するマゼンタ顔料P1の製造)
イソインドリノン顔料(C.I.ピグメントレッド122)20gをキノリン500gと混合し、アイガーモーターミルM250(アイガージャパン社製)でビーズ充填率70%及び回転数5000rpmの条件下で2時間分散し、分散した顔料ペーストと溶剤の混合液をエバポレーターに移し、30mmHg以下に減圧しながら120℃に加熱し、系内に含まれる水分をできるだけ留去した後、160℃に温度制御した。次いで、スルホン化ピリジン錯体20gを加えて8時間反応させ、反応終了後に過剰なキノリンで数回洗浄した後に水中に注ぎ、濾過することで、アニオン性基(スルホン酸基)を表面に有するマゼンタ顔料P1を得た。得られたマゼンタ顔料P1をフラスコ燃焼法によって硫黄含有量を求めた結果、0.36%で、これから求めた顔料表面に導入されたアニオン性基(スルホン酸基)量は1.16×10-4mol/g(顔料1gに対するアニオン性重合性界面活性剤のモル数)であった。
(アニオン性重合性界面活性剤を表面に吸着させたシアン顔料P2の製造)
銅フタロシアニン顔料(C.I.Pigment Blue 15:1)20gをアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製)10g及びイオン交換水と混合し、アイガーモーターミルM250(アイガージャパン社製)でビーズ充填率70%及び回転数5000rpmの条件下で2時間分散し、限外濾過によって未吸着のアニオン性重合性界面活性剤KH−10を除去した。この限外濾過による洗浄は分光光度計で透過水の吸収スペクトルの変化を追跡し、一定となったところを終点とした。こうして、目的のアニオン性重合性界面活性剤KH−10を表面に吸着させたシアン顔料P2を分散液の形態で得た。この得られた分散液の固形分濃度は11.0%であった。また、熱重量分析によって求めたこの分散液中のアニオン性重合性界面活性剤KH−10の含有量は顔料に対して22.3%であった。フラスコ燃焼法によって求めた硫黄含有量は0.64%で、これから求めたこの分散液中のアニオン性重合性界面活性剤KH−10(顔料に吸着したアニオン性重合性界面活性剤量とみなす。)は、2.0×10-4mol/g(顔料1gに対するアニオン性重合性界面活性剤のモル数)であった。また、リーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150で測定した体積平均粒子径は72nmであった。
(カプセル化物分散液M1〜M8及びH1〜H2の製造)
上記のようにして製造したマゼンタ顔料P1及びシアン顔料P2を芯物質として用い、下記のようにしてカプセル化物分散液M1〜M8及びH1〜H2を製造した。カプセル化物分散液M1〜M8は本発明の実施例であり、カプセル化物分散液H1〜H2の製造は比較例である。
<カプセル化物分散液M1の製造>
100gの上記マゼンタ顔料P1をイオン交換水900gに分散した。これを、リーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150で体積平均粒子径を測定したところ、95nmであった。このマゼンタ顔料P1の水性分散液に、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を2.41g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート97.5g、イソボルニルメタクリレート37.5g、ラウリルメタクリレート15.0gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.98gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水393mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム3.0gをイオン交換水600mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0149】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、目的のカプセル化物分散液M1を得た。尚、被覆ポリマーのガラス転移温度は上述のFoxの式を用いて58℃に設定した。
<カプセル化物分散液M2の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート4.57g、イソボルニルメタクリレート2.55g、ラウリルメタクリレート1.35gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.38gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水220mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.24gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0150】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮操作をして顔料濃度10重量%の目的のカプセル化物分散液M2を得た。尚、被覆ポリマーのガラス転移温度は上述のFoxの式を用いて52℃に設定した。
<カプセル化物分散液M3の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート6.86g、イソボルニルメタクリレート3.82g、ラウリルメタクリレート2.02gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.44gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水310mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.32gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0151】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮操作をして顔料濃度10重量%の目的のカプセル化物分散液M3を得た。尚、被覆ポリマーのガラス転移温度は上述のFoxの式を用いて52℃に設定した。
<カプセル化物分散液M4の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート10.29g、イソボルニルメタクリレート5.73g、ラウリルメタクリレート3.03gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.53gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水430mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.45gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0152】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮操作をして顔料濃度10重量%の目的のカプセル化物分散液M4を得た。尚、被覆ポリマーのガラス転移温度は上述のFoxの式を用いて52℃に設定した。
<カプセル化物分散液M5の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート16.01g、イソボルニルメタクリレート8.92g、ラウリルメタクリレート4.71gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.68gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水650mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.66gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0153】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮操作をして顔料濃度10重量%の目的のカプセル化物分散液M5を得た。尚、被覆ポリマーのガラス転移温度は上述のFoxの式を用いて52℃に設定した。
<カプセル化物分散液M6の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート4.57g、イソボルニルメタクリレート2.55g、ラウリルメタクリレート1.35g、セチルアルコール0.32gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.38gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水220mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.24gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0154】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、目的のカプセル化物分散液M6を得た。
<カプセル化物分散液M7の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート4.57g、イソボルニルメタクリレート2.55g、ラウリルメタクリレート1.35g、ヘキサノール5gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.38gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水220mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.24gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0155】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮操作をして顔料濃度10重量%の目的のカプセル化物分散液M7を得た。
<カプセル化物分散液M8の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート4.57g、イソボルニルメタクリレート2.55g、ラウリルメタクリレート1.35g、イソステアリルアルコール5gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)0.38gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)の添加量は、SR−10の最終混合液(重合開始剤添加直前の混合液)中の濃度が、該最終混合液中の水分量(イオン交換水の重量)に対してSR−10の臨界ミセル濃度となるように調整した。SR−10の臨界ミセル濃度は0.7g/lである。さらに、イオン交換水220mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.24gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0156】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮操作をして顔料濃度10重量%の目的のカプセル化物分散液M8を得た。
<カプセル化物分散液H1の製造>
100gの上記マゼンタ顔料粒子P1をイオン交換水900gに分散させた水性分散液に、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を2.41g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート97.5g、イソボルニルメタクリレート37.5g、ラウリルメタクリレート15.0gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)9.79gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)の添加量は、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩の添加量と等モルとなるようにした。さらに、イオン交換水393mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム3.0gをイオン交換水600mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0157】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、目的のカプセル化物分散液H1を得た。尚、被覆ポリマーのガラス転移温度は上述のFoxの式を用いて58℃に設定した。
<カプセル化物分散液H2の製造>
上記シアン顔料P2(分散液の形態)136gに、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩を0.62g添加し、30分攪拌混合し、さらに超音波を30分間照射した。ここに、ベンジルメタクリレート4.57g、イソボルニルメタクリレート2.55g、ラウリルメタクリレート1.35gを混合した混合物を加えて攪拌混合し、さらにイオン交換水100mlに溶解したアニオン性重合性界面活性剤SR−10(旭電化工業製)1.98gを上記の混合物に加えて、1時間攪拌混合した。ここで、アニオン性重合性界面活性SR−10(旭電化工業製)の添加量は、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩の添加量と等モルとなるようにした。さらに、イオン交換水430mlを加え、1時間攪拌混合した。上記の混合物を、還流管、窒素導入管、滴下管、攪拌装置、温度調節器を設置した反応容器に入れ、窒素を流しながら、温度を80℃まで40分かけて昇温し、過硫酸カリウム0.45gをイオン交換水100mlに溶解し1時間かけて滴下し、さらに4時間反応後、温度を下げて反応を止めた。
【0158】
重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、プレフィルターで粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮操作をして顔料濃度10重量%の目的のカプセル化物分散液H2を得た。尚、被覆ポリマーのガラス転移温度は上述のFoxの式を用いて52℃に設定した。
(評価1)
アニオン性基を表面に有する上記マゼンタ顔料P1をイオン交換水に分散した分散液及びアニオン性重合性界面活性剤を表面に吸着させた上記シアン顔料P2の分散液と、上記のようにして得られたカプセル化物分散液M1〜M8及びH1〜H2について、リーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて各分散液中の分散質(顔料粒子またはカプセル化物)の粒度分布を測定し、得られた粒度分布からピーク粒子径、体積平均粒子径を求めた。原料(芯物質)として上記マゼンタ顔料P1を用いたものについての体積平均粒子径を下記表1に、上記シアン顔料P2を用いたものについてのピーク粒子径を下記表2に示す。また、上記シアン顔料P2(芯物質)、カプセル化物M2、M6及びH2の粒度分布、並びに原料の仕込み量等から計算される粒度分布の計算値(予想値)を図6に示す。
【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

実施例1と比較例1とは、壁材の厚みを実質的に決定する因子である、反応系への疎水性モノマーの添加量が同じであるにもかかわらず、表1に示したように、得られたカプセル化物の体積平均粒子径は、実施例1の方が大きい。実施例1と比較例1とは、イオン性重合性界面活性剤B(上記SR−10)の添加量が異なっており、実施例1では、イオン性重合性界面活性剤Bの添加量を、上記最終混合液(重合開始剤添加直前の反応液)中の水分量に対する該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度と一致させているのに対し、比較例1では、イオン性重合性界面活性剤Bの添加量を、イオン性モノマーの添加量と等モルに調整している(このイオン性モノマーの添加量と等モルの添加量は、重合開始剤添加直前の最終混合液中の水分量に対してのイオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度とは異なる量である)。尚、イオン性重合性界面活性剤Bの添加量は、疎水性モノマーの添加量に比して圧倒的に少ないため、実施例1と比較例1との間におけるイオン性重合性界面活性剤Bの添加量の多少は、カプセル化物の粒子径に実質的に影響を及ぼすものではない。
【0161】
上述した実施例1と比較例1との関係は、実施例2と比較例2との関係にもそのまま当てはまる(表2参照)。
【0162】
以上のことから、本発明のように、反応系へのイオン性重合性界面活性剤Bの添加量を、該イオン性重合性界面活性剤Bの上記臨界ミセル濃度に一致させることは、カプセル化物の粒子径(壁材の厚み)の増大に有効であることがわかる。
【0163】
また、実施例2〜5においては、疎水性モノマーの添加量を、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5の順で多くしている(実施例5が最も疎水性モノマーの添加量が多い)ところ、表2に示したように、得られたカプセル化物のピーク粒子径もこの順で大きくなっている。従って、本発明の製造方法によれば、反応系に添加された疎水性モノマーの量に比例した粒子径を有するカプセル化物を得ることができ、粒子径の制御が容易であることがわかる。
【0164】
また、実施例2と実施例6〜8とは、炭素数6以上の高級アルコールの添加の有無のみが異なるところ、表2に示したように、該高級アルコールを反応系に添加して製造した実施例6〜8は、該高級アルコールを添加せずに製造した実施例2に比して、得られたカプセル化物のピーク粒子径が大きい。
【0165】
また、図6に示したように、実施例2(カプセル化物M2)と実施例6(カプセル化物M6)との粒度分布を比較すると、カプセル化物M6は、ほぼ計算値どおりの粒度分布を示し、また、カプセル化物M2に比して粒度分布の幅が狭くシャープである。
【0166】
以上のことから、炭素数6以上の高級アルコールの反応系への添加は、カプセル化物の粒子径の増大(壁材の厚膜化)、及びカプセル化物の粒度分布の幅のシャープ化(粒子径の均一化)に有効であることがわかる。
(評価2)
上記カプセル化物分散液M2を用いてインク1を、上記カプセル化物分散液M6を用いてインク2を、上記カプセル化物分散液M7を用いてインク3を、上記カプセル化物分散液M8を用いてインク4を、上記カプセル化物分散液H2を用いて比較インク1を、それぞれ下記の手順で調製した。そして、これらのインクについて、印刷画像の耐擦性及び光沢性をそれぞれ下記方法により評価した。これらの評価結果を下記表3に示す。
<インク1>
グリセリン15g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5g、1,2−ヘキサンジオール2g、トリメチロールプロパン5g、2−ピロリドン1g、オルフィンE1010 1g、プロキセルXL−2 0.05g、及びイオン交換水30.95gを混合し、さらに濃度10重量%の水酸化カリウム1gを加えて混合し、液状混合物を得た。この液状混合物を、40gの上記カプセル化物分散液M2に添加し、攪拌装置を用いてカプセル化物を分散させて目的のインク1を得た。
<インク2>
グリセリン15g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5g、1,2−ヘキサンジオール2g、トリメチロールプロパン5g、2−ピロリドン1g、オルフィンE1010 1g、プロキセルXL−2 0.05g、及びイオン交換水30.95gを混合し、さらに濃度10重量%の水酸化カリウム1gを加えて混合し、液状混合物を得た。この液状混合物を、40gの上記カプセル化物分散液M6に添加し、攪拌装置を用いてカプセル化物を分散させて目的のインク2を得た。
<インク3>
グリセリン15g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5g、1,2−ヘキサンジオール2g、トリメチロールプロパン5g、2−ピロリドン1g、オルフィンE1010 1g、プロキセルXL−2 0.05g、及びイオン交換水30.95gを混合し、さらに濃度10重量%の水酸化カリウム1gを加えて混合し、液状混合物を得た。この液状混合物を、40gの上記カプセル化物分散液M7に添加し、攪拌装置を用いてカプセル化物を分散させて目的のインク3を得た。
<インク4>
グリセリン15g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5g、1,2−ヘキサンジオール2g、トリメチロールプロパン5g、2−ピロリドン1g、オルフィンE1010 1g、プロキセルXL−2 0.05g、及びイオン交換水30.95gを混合し、さらに濃度10重量%の水酸化カリウム1gを加えて混合し、液状混合物を得た。この液状混合物を、40gの上記カプセル化物分散液M8に添加し、攪拌装置を用いてカプセル化物を分散させて目的のインク4を得た。
<比較インク1>
グリセリン15g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5g、1,2−ヘキサンジオール2g、トリメチロールプロパン5g、2−ピロリドン1g、オルフィンE1010 1g、プロキセルXL−2 0.05g、及びイオン交換水30.95gを混合し、さらに濃度10重量%の水酸化カリウム1gを加えて混合し、液状混合物を得た。この液状混合物を、40gの上記カプセル化物分散液H2に添加し、攪拌装置を用いてカプセル化物を分散させて目的の比較インク1を得た。
<吐出安定性>
上記のように調製したインク1〜4及び比較インク1をそれぞれインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPX−600C(製品名、セイコーエプソン株式会社製)に装填して、写真用紙<光沢>(商品名/セイコーエプソン株式会社製)に1440×720dpiでベタ画像(100%duty)を500枚印刷した結果、何れのインクも吐出不良とならず、吐出安定性に優れていた。
<印刷画像の耐擦性の評価>
上記のように調製したインク1〜4及び比較インク1をそれぞれインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPX−600C(製品名、セイコーエプソン株式会社製)に装填して、スーパーファイン専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン株式会社製)上の10mm×10mmの領域に100%dutyでベタ印刷し、25℃の温度で1時間放置した。その後、イエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(商標)(商品名、ゼブラ社製)を用い、このペン先に500g荷重をかけて速度10mm/秒で上記の印刷領域を擦り、印刷領域に汚れが発生するかどうかを観察した。観察結果を下記評価基準で評価した。評価Aが最高評価である。
〔評価基準〕
A:3回以上擦っても印刷領域に全く汚れが生じない。
B:2回擦っても印刷領域に全く汚れが生じない。
C:1回の擦りで印刷領域に汚れが発生する。
<印刷画像の光沢性の評価>
上記のように調製したインク1〜4及び比較インク1をそれぞれインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタEM-930C(商品名/セイコーエプソン株式会社製)に装填して、写真用紙<光沢>(商品名/セイコーエプソン株式会社製)に1440×720dpiでベタ画像(100%duty)を印刷した。
【0167】
測定装置として自動変角光度計GP−200(村上色彩技術研究所製)を使用し、測定条件としては12V、50W、入射光束絞り直径1mm、反射光絞り直径1.5mm、ND10フィルター使用、入射角度45度、煽り角度0度、及び標準鏡面板を42.5として、入射角45度における記録面の鏡面光沢度を測定した。その測定結果を下記評価基準で評価した。評価AAが最高評価である。
〔評価基準〕
AA:光沢度が40を超える
A:光沢度が30を超えて40以下
B:光沢度が20を超えて30以下
C:光沢度が10を超えて20以下
D:光沢度が1以上10以下
【0168】
【表3】

表3に示す結果から明らかなように、炭素数6以上の高級アルコールを使用して製造したカプセル化物を用いたインク2〜4は、該高級アルコールを用いないで製造したインク1及び比較インク1に比して耐擦性及び光沢性に優れている。また上述したように、インク2〜4は、インク1及び比較インク1と同様に、吐出安定性に優れている。一般に、印刷画像の耐擦性及び光沢性は、インク色材(カプセル化物)の記録用紙上での成膜性が良好であるほど好結果が得られ、インクの吐出安定性は、インク色材(カプセル化物)の水性媒体中における分散安定性が良好であるほど、好結果が得られる。
【0169】
以上のことから、炭素数6以上の高級アルコールの反応系への添加は、カプセル化物の成膜性の向上、及びカプセル化物の水性媒体中における分散安定性の向上に有効であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】表面に電荷を有する芯物質(芯物質自体が表面に負電荷を有する)が、水性溶媒に分散するとともに、イオン性モノマー(3)とイオン性重合性界面活性剤B(4)と疎水性モノマー(5)とに対して、共存している状態を示す模式図である。
【図2】図1に示す分散状態において、イオン性モノマー(3)とイオン性重合性界面活性剤B(4)と疎水性モノマー(5)とが重合した状態を示す模式図である。
【図3】表面にアニオン性界面活性剤(2)が吸着した芯物質(表面に電荷を有する芯物質)が、水性溶媒に分散するとともに、イオン性モノマー(3)とイオン性重合性界面活性剤B(4)と疎水性モノマー(5)とに対して、共存している状態を示す模式図である。
【図4】図3に示す分散状態において、イオン性モノマー(3)とイオン性重合性界面活性剤B(4)と疎水性モノマー(5)とが重合した状態を示す模式図である。
【図5】図3に示す分散状態において、更に、非イオン性重合性界面活性剤C(8)を用いた場合における各物質の分散状態を示す模式図である。
【図6】シアン顔料P2の粒度分布と、該シアン顔料P2を芯物質として用いて得られるカプセル化物の予想粒度分布(計算値)と、実際に該シアン顔料P2を芯物質として用いて得られたカプセル化物M2(実施例2)、M6(実施例6)及びH2(比較例2)の粒度分布との比較図である。
【符号の説明】
【0171】
1 芯物質、2 アニオン性界面活性剤、3 イオン性(カチオン性)モノマー、4 イオン性(アニオン性)重合性界面活性剤B、5 疎水性モノマー、8 非イオン性重合性界面活性剤、21, 41 アニオン性基、22, 32, 42, 82 疎水性基、31 カチオン性基、33, 43, 83 重合性基、60 壁材(ポリマー被覆層)、81 非イオン性基、100 カプセル化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電荷を有する芯物質が、ポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物の製造方法であって、(1)下記工程1、工程2a、工程3a及び工程4aを有するか、又は(2)下記工程1、工程2b、工程3b及び工程4bを有するカプセル化物の製造方法。
工程1:上記芯物質を含む水性溶媒に、該芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合し、該芯物質の表面に該イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを吸着させる工程。
工程2a:上記工程1を経た混合液に疎水性モノマーを添加・混合する工程。
工程3a:上記工程2aを経た混合液に、上記芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Bを、工程3aで最終的に得られる最終混合液中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように添加・混合する工程。
工程4a:上記工程3aを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと上記疎水性モノマーと上記イオン性重合性界面活性剤Bとを重合して上記ポリマーを形成する工程。
工程2b:上記工程1を経た混合液に、上記芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と疎水性基と重合性基とを有するイオン性重合性界面活性剤Bを、下記工程3bで最終的に得られる最終混合液中における該イオン性重合性界面活性剤Bの濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該イオン性重合性界面活性剤Bの臨界ミセル濃度となるように添加・混合する工程。
工程3b:上記工程2bを経た混合液に疎水性モノマーを添加・混合する工程。
工程4b:上記工程3bを経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと上記イオン性重合性界面活性剤Bと上記疎水性モノマーとを重合して上記ポリマーを形成する工程。
【請求項2】
上記工程2a又は工程3bにおいて、上記混合液にさらに、炭素数6以上の高級アルコールを添加・混合する請求項1記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項3】
上記工程3a又は工程2bにおいて、上記混合液にさらに、非イオン性基と疎水性基と重合性基とを有する非イオン性重合性界面活性剤を、上記最終混合液中における該非イオン性重合性界面活性剤の濃度が、該最終混合液中の水分量に対して該非イオン性重合性界面活性剤の臨界ミセル濃度となるように添加・混合する請求項1又は2記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項4】
上記工程1において、上記芯物質を含む水性溶媒に上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合した後、該水性溶媒に超音波を照射する請求項1〜3の何れかに記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項5】
上記芯物質が色材である請求項1〜4の何れかに記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のカプセル化物の製造方法によって製造されたカプセル化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−179686(P2008−179686A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13442(P2007−13442)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】