説明

カプセル製剤

【課題】 B型結晶を含有する7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸若しくはその誘導体又はその塩を、高分子皮膜中の水分量が低くても柔軟性を失わないカプセル材料で形成したカプセルに充填してなるカプセル製剤でのカプセル剤皮が硬くなり、特に輸送時に破損することがあるという問題を防ぐ手段を提供すること。
【解決手段】 B型結晶を含有する7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸若しくはその誘導体又はその塩を、高分子皮膜中の水分量が低くても柔軟性を失わないカプセル材料で形成したカプセルに充填してなるカプセル製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル製剤に関し、更に詳細には、7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸のB型結晶を、カプセルの破損のおそれなく充填したカプセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(以下、「化合物I」という)は下記の構造式で表されるセフェム系抗生物質である。
【0003】
【化1】

【0004】
この化合物Iは、β−ラクタマーゼに安定であり、広範囲な菌に対して抗菌スペクトルを示し、特にブドウ球菌属、レンサ球菌属等に対しては優れた抗菌作用を示すことが知られている。
【0005】
化合物Iには結晶性の物質(特許文献1及び2)が既に知られているが、これに加えて、最近、B型(特許文献3)の結晶型が明かとなった。このB型結晶は、水に対して優れた溶解性を示していることからも、生物学的利用能の向上や、制御の容易性を期待できる。
【0006】
ところで、化合物Iが商業化された商品として、セフゾンカプセルが知られている。しかし、セフゾンカプセルでは、ゼラチン由来のカプセル剤皮が使用されているが、このようなカプセル剤皮の使用には、問題があった。
【0007】
すなわち、ゼラチンは、動物由来の製品であり、BSE等の種々の要因から必ずしも安定的な供給が常に確保されているとは言い難い側面もあった。また、別な問題として、前記した化合物IのB型結晶を用いた場合は、カプセル剤皮が硬くなり、特に輸送時に破損することがあるという問題もあった。
【0008】
【特許文献1】特公平1−49273号公報
【特許文献2】特公平6−74276号公報
【特許文献3】国際公開第2004/85443号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のカプセル製剤が輸送時に破損するという問題が発生した場合、患者や、医薬を取り扱う者に医薬品自体の品質に疑問を抱かせることもあるので、なるべくこの問題の発生をさける必要がある。このためには、輸送時等に細心な神経を使い、製品に衝撃を与えないようにすることが必要であるが、現実には極めて困難である。従って、製剤側の工夫により、上記問題の発生を防ぐことが求められており、本発明は、このような手段の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、まず、化合物IのB型結晶を用いた場合に、ゼラチン由来のカプセル剤皮が使用されている場合には、経時的にカプセル剤皮が硬く脆くなることを知った。
【0011】
更にこの知見に基づき、種々検討を行った結果、経時的に硬くならないカプセル剤皮を用いてカプセル製剤を製造すれば、生産や輸送の途中でのカプセルの破損を防ぐことができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、B型結晶を含有する7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸若しくはその誘導体又はその塩を、高分子皮膜中の水分量が低くても柔軟性を失わないカプセル材料で形成したカプセルに充填してなるカプセル製剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカプセル製剤は、高分子皮膜中の水分量が低くても柔軟性を失わないカプセル材料で形成されたものであるので、カプセル剤皮中の水分量が、例えば、12質量%以下となった場合であっても、ゼラチン由来のカプセル剤皮を使用した場合のように、カプセル剤皮が硬く、脆くなることはない。
【0014】
従って、本発明のカプセル製剤は、生産、輸送中でのカプセルの破損を抑えることができ、より品質の高い化合物Iのカプセル製剤とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で使用する化合物Iは、B型結晶を含有するものである。この化合物I中のB型結晶の含有割合については、特に限定するものではないが、B型結晶の割合が50%以上である場合が好ましく、更には、B型結晶の割合が90%以上である。
【0016】
本特許における柔軟性とはカプセルに圧力を加えたときに変形する際の圧力がより弱ければ柔軟性が良いと解することができる。具体的には、カプセル水分が15%程度の時にロードセルでカプセルの厚みが50%に圧縮させるために必要な圧力が6N程度以下、更に好ましくは5N程度以下のカプセルが望ましい。
【0017】
一方、本発明で使用するカプセル材料は、実質的にゼラチンを含まないものであれば良い。この場合において、ゼラチンを実質的に含まないとは、化合物Iの組成物を封入する場合に、輸送におけるカプセルの割れ等が起こりがたい量添加してある状態を含む。この、実質的にゼラチンを含まない添加量とは、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下である。
【0018】
本発明に利用するカプセル材料は、これを構成する高分子皮膜中の水分量が、例えば12質量%以下と低くても柔軟性を失わないものであれば特に制約なく使用することができる。
【0019】
上記の条件を満たす基材としては、糖若しくはその誘導体のポリマー、ポリビニルアルコール若しくはその誘導体のポリマー等が挙げられる。これらの基材の具体例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、プルランをはじめとするデンプン加工品、ポリビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸メチルの1種類若しくはこれらの2種類以上組み合わせた基材を挙げることができる。
【0020】
また、カプセルの成形性を高めるために、本発明カプセル剤皮の柔軟性を損なわない範囲で、上記基材に加えて、ポリエチレングリコール、カラギーナン、塩化カルシウム、ピーナツ油、セチルアルコール、硬化ピーナツ油、セトステアリルアルコール、ひまし油、ステアリルアルコール、硬化ひまし油、ステアリン酸、ヤシ油、ミツロウ、トウモロコシ油、二酸化ケイ素、オリーブ油、ポリエチレングリコール、硬化植物油、マクロゴールグリセド、シリコーン油、ポロキサルコール、大豆油、パラフィン油、ラウリル硫酸塩、ポリソルベート等も適宜添加することもできる。また、カプセルの遮光性や識別性を高めるために酸化チタン、色素等を適宜加えることもできる。
【0021】
本発明のカプセル製剤は、カプセル剤皮として前記のものを使用する以外は、常法に従ってB型結晶を含有する化合物Iを製剤化し、カプセルに充填することにより製造される。すなわち、B型結晶を含有する化合物Iを、一般的に使用される添加剤と共に、顆粒、細粒等の組成物として製剤し、これをカプセル剤に充填、封入することにより製造される。
【0022】
上記製剤化に用いられる添加剤としては、従来公知の滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、防腐剤、溶剤、溶解補助剤、流動化剤等を挙げることができる。
【0023】
このうち賦形剤としては、例えば乳糖、精製白糖、結晶セルロース、コーンスターチ、バレイショデンプン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール、無機塩、デキストラン、デキストリン、ブドウ糖、粉糖等が挙げられる。また、崩壊剤としては例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等のデンプン類、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。更に、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ等が挙げられる。
【0024】
一方、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、コーティング剤としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアクリルメタクリレートコポリマーE、アミノアクリルメタクリレートコポリマーRS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS等が挙げられる。
【0025】
さらに、カプセル内の薬物や添加剤を充填した後に、遮蔽性を向上させるために適宜バンドシールなどを施し、内部の顆粒を取り出せなくすることも可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0027】
製 剤 例
ポリビニルピロリドン 6gを精製水270mLに溶解させた。この溶液を用いて化合物IB型結晶 300g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 24.6gおよび軽質無水ケイ酸 15gを流動層造粒機にて造粒、乾燥した。この造粒物230.4gにカルボキシメチルスターチナトリウム 8.4gを添加し、V型混合機を用いて20分間混合した。この顆粒に更に含水二酸化ケイ素を1.2g添加して更に5分間混合して、カプセル充填用顆粒を製造した。
【0028】
実 施 例 1
製剤例のカプセル充填用顆粒120mgを4号HPMCカプセル(カプセル剤皮水分量6%)に充填し、カプセル製剤1を得た。
【0029】
実 施 例 2
製剤例のカプセル充填用顆粒120mgを4号プルランカプセル(カプセル剤皮水分量12%)に充填し、カプセル製剤2を得た。
【0030】
比 較 例 1
製剤例のカプセル充填用顆粒120mgを4号ゼラチンカプセル(カプセル剤皮水分量15%)に充填し、比較カプセル製剤1を得た。
【0031】
比 較 例 2
製剤例のカプセル充填用顆粒120mgを4号ゼラチンカプセル(ポリエチレングリコール入り。カプセル剤皮水分量13%)に充填し、比較カプセル製剤2を得た。
【0032】
試 験 例
実施例1、2および比較例1、2で調製したカプセルの強度を調べるために、カプセル10個を用い、120cmの高さよりステンレス製のバケツ中に落下させ、破損カプセル数を数えた。
【0033】
なお、上記試験を行うに先立ち、各カプセルは10個づつアルミ袋に包装し、40℃、75%RHで7日間保存した。この結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1のように、ゼラチンを使用せず、水分が12%以下であるカプセル剤皮を使用したカプセル製剤は、破損が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、水溶性が良く、生体内への吸収性も良い化合物IのB型結晶を充填した、高い強度のカプセル剤が製造される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型結晶を含有する7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸若しくはその誘導体又はその塩を、高分子皮膜中の水分量が低くても柔軟性を失わないカプセル材料で形成したカプセルに充填してなるカプセル製剤。
【請求項2】
7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸若しくはその誘導体又はその塩中のB型結晶の含有割合が50質量%以上である請求項第1項記載のカプセル製剤。
【請求項3】
カプセル材料が、高分子皮膜中の水分量が12質量%以下でも柔軟性を失わないものである請求項1または2記載のカプセル製剤。
【請求項4】
カプセル材料を構成する高分子皮膜が、糖若しくはその誘導体のポリマーまたはポリビニルアルコール若しくはその誘導体のポリマーの高分子皮膜である請求項1ないし3の何れかの項記載のカプセル製剤。
【請求項5】
カプセル材料を構成する高分子皮膜が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルランまたはポリビニルアルコール・アクリル酸・メタアクリル酸メチル共重合体である請求項1ないし4のいずれかの項記載のカプセル製剤。


【公開番号】特開2006−182687(P2006−182687A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377018(P2004−377018)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】